2017年11月06日

【わがセブン秘録】鈴木敏文



第1章 懸命に「行き当たりばったり」に生きてきた
第2章 「無」から「有」を生むには「跳ぶ発想」を鍛える
第3章 「できない理由」をあげるより「実現する方法」を考えよう
第4章 「仕事の分母」には「売り手」ではなく常に「お客様」を置くと真実が見える
第5章 「判断の尺度」を「お客様」に合わせれば迷わず一秒で決断できる
第6章 ものごとの「本質」を見抜ければ仕事はうまくいく

昨年、ブチ切れ会見と言われた記者会見で井坂社長を批判してセブン&アイ・ホールディングスを退任した鈴木敏文名誉顧問であるが、その引き際については晩節を汚した感を強く感じていた。しかし、それまでの実績は疑う余地はなく、興味を持って手にした一冊。

冒頭で簡単に実績を振り返る。
1. 日本初の本格的なコンビニエンスストア「セブンイレブン」を創業
2. コンビニでお弁当やおにぎりの販売
3. 経営危機に瀕した本家本元の米サウスランド社の再建
4. セブン銀行の設立
まだまだあるのだろうが、これだけでもすごいと改めて思う。

そんな実績を振り返り、それを成し得た理由は、「無から有を生む発想力」だとする。大型スーパー全盛の時代に日本へのコンビニ導入をやろうとしたところ、学界や業界や社内からも反対の大合唱だったという。そんな中、導入を推し進められたのは、「中小の小売店の経営が苦しくなったのは大型店が原因ではなく、市場の変化に対応できなかったことにある」という考えと、過去の延長線上ではなく、未来を起点にした発想=跳ぶ発想だとする。これは示唆に富む言葉である。

著者は、60年間にわたり仕事をしてこられた理由を3つ挙げている。
1. 発想力
2. 会社と仕事は別と考える(「会社にしがみつく」という意識を持たない)
3. 判断の尺度を「お客様」に合わせる
いずれも個人的には常に自分自身で考えていることと合致していて嬉しくなる。
「未来に向かって敷かれたレールはない」という言葉が心に響く。

その人生を振り返ると、「懸命に行き当たりばったりに生きてきた」と語る。それでもいいのだと心が楽になる。セブンイレブンの導入にあたり、喉から手が出るほど見たかったマニュアルを見せてもらったら、その内容の粗末さに愕然としたというエピソードはもう何度も耳にしている。イトーヨーカ堂に転職したら話が違ったという話は初めて知ったが、失敗したと感じてもそこから逃げなかったことがすべての成功につながっているとする。「最大の失敗は最大のチャンスを掴むきっかけ」という言葉が重い。

1. 過去の経験というフィルターが未来を見えなくする
2. 実現する方法がなければ自分たちで考えれば良い
3. 「できない」という前に「できる方法」を考える
4. 売り手の好都合は買い手の不都合
5. 伝え方も聞き手の立場で考える
いい言葉が続くなぁと心底思う。

特にしばしば強調される「未来を起点にした発想」という考え方に強く惹かれる。これは本質を見抜く力に必要な発想であり、本質を見抜くためには、「本当にそうだろうかと常に問い直す」ことが大事だという。これには激しく同意してしまう。概ね、語られる言葉に自分の考えと同じものを感じる。大経営者と同じというのもおこがましいが、こっそり自負したいところである。晩節を汚した感はあるが、発想力はまだまだ現役という意識なのだろうし、それはそうなのだろうと思う。シンプルな言葉に、大経営者の言葉の重みを感じる。

サラリーマンなら是非とも身につけておきたい考え方の数々。これは特に若いサラリーマンには必読の書と言える一冊である・・・



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2017年11月02日

【HIGH OUTPUT MANAGEMENT−人を育て、成果を最大にするマネジメント−】アンドリュー・S.グローブ



原題:HIGH OUTPUT MANAGEMENT
第1部  朝食工場−生産管理の基本原理
 第1章 生産の基本
 第2章 朝食工場を動かす
第2部 経営管理はチームゲームである
 第3章 経営管理者のテコ作用
 第4章 ミーティング−マネジャーにとっての大事な手段
 第5章 決断、決断、また決断
 第6章 計画化−明日のアウトプットへの今日の行動
第3部 チームの中のチーム
 第7章 朝食工場の全国展開へ
 第8章 ハイブリッド組織 
 第9章 二重所属制度
 第10章 コントロール方式
第4部 選手たち
 第11章 スポーツとの対比 
 第12章 タスク習熟度
 第13章 人事考課−裁判官兼陪審員としてのマネジャー
 第14章 2つのむずかしい仕事
 第15章 タスク関連フィードバックとしての報酬
 第16章 なぜ教育訓練が上司の仕事なのか

著者は元インテルのCEO。ご本人は既に故人となっている。この本は新しく出版されたものだが、もともとは1983年に書かれたものらしい。内容が良いと言うことで、装い新たに出版されたと言うことのようである。

内容はと言うと、マネジャーかくあるべしという一言に尽きる。こういうことは、内容が良いとそれが拡散され、似たようなことを言う人も出てきて、時代を経ていつのまにか当たり前の原理みたいになっていることがある。そんな既視感を感じるところも随所にある。また、インテルは製造メーカーということもあり、生産管理などメーカー的な考えの部分もある。まぁ、リーダーは業種に関わらず、それほど変わらないので、おかしなところがあるわけではない。

冒頭に出てくるのは、朝食工場の例。トーストとコーヒーとゆで卵というメニュー構成の店で、それをどのように効率よく提供するかがわかりやすく説明される。一番時間がかかるのはゆで卵であり、ここが最も重要なステップであるとしてここを中心に流れを計画する。別にメーカーでなくてもこの考え方はいろいろと応用できる。

「マネジャーはチームのパフォーマンスとアウトプットのみによって評価される」という考え方はもっともである。ここでいう「アウトプット」とは、「自分の組織のアウトプット+自分の影響が及ぶ隣接組織のアウトプット」だとする。「自分の組織のアウトプット」はもちろんだが、「自分の影響の及ぶ隣接組織のアウトプット」という考え方は、なるほどである。これは意識したいと思う。

そしてマネジャーのやるべきことは部下の教育とモチベーションの向上だとするが、やっぱりそうなのだろうと思う。「仕事はチームでやるべきもの」という考えは言われるまでもないが、マネジャーは自分が最高のプレーヤーである必要はなく、いかにチームのアウトプットが高くなるかを考えれば、部下が最高のプレーをしてくれればそれで良いわけである。「自分の部門のアウトプットを最高にあげると思われる活動に自分のエネルギーを注ぐ」のである。

それを「経営活動のテコ作用」という別の表現でも説明している。中にはネガティブなものもあって注意しないといけないが、マネジャーはやはり部下に影響力を及ぼすことができるわけで、それによって部下の大きな力を引き出すわけである。その方法の一つに「権限移譲」をあげている。それはそうだと改めて思うが、ただ任せっきりにするのは良くなく、仕事のモニタリングは必要で、その完了には当然責任があるのである。

また、ミーティングに関しては、著者は好意的に捉えている。ミーティングは最近では効率が悪く、長時間労働の一因とされることもあるが、著者は「マネジャーの仕事はミーティングを通じてのみ遂行できる」とする。また、五月雨式に部下の相談を受けていると、常に自分の仕事が中断され非効率となりがちなので、相談を受ける時間を決めておくと良いとする。

ミーティングのやり方も組織のあり方もいろいろと書かれていて、なるほど冒頭でこの本に影響を受けたというベンチャーキャピタリストが賛辞を送っているのがよくわかる。いろいろとヒントを求めている人には、得るところは大きいかもしれない。
マネジャーのあるべき原則論として、参考になる一冊である・・・



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2017年10月31日

【きみが来た場所 Where are you from? Where are you going?】喜多川泰



昭和五十一年夏
序章 平成二十三年夏
Candy
大波にのまれる小舟 昭和二十年七月
振り子
覚悟 昭和二十年九月
受け入れよう
愛するものがいればこそ 昭和二十年七月
鏡に映る自分
出会い 昭和二十五年
集中
確率 昭和四十四年
原因と結果
希望の塊 昭和四十五年
大切にするから
二つの使命
再会
Another story別の物語の始まり 平成二十九年一月

これまでも何冊か読んでいて、そのテイストが気に入っている喜多川泰の本をまた一冊。ちょっと不思議系の入る物語である。冒頭に家系図が載っていて、最初は意味がよくわからなかったが、読み終えてから改めて見るとその意味もよくわかって感慨もある。最後に乗せてくれていてもよかった気もする。

主人公は、塾を経営している松本秀平。大手自動車メーカーを退職して、自らの理想を体現する塾を開業するも、なかなか生徒が増えずに苦戦している。妻の涼子は、塾の運営を手伝おうとしていたが、2人目の子供を身ごもって断念。秀平の負担を減らすべく、秀平の実家で産む決意をして一時的に家を出て行く。

1人残された秀平は、ある日いつものホームで入ったコンビニで違和感を覚える。普通のコンビニとも異なる雰囲気で、和服姿の女性が応対し、そこで「ルーツキャンディ」という商品名の飴を買う。電車に乗り込むとその飴を口に入れる。すると昭和20年7月の朝鮮半島でのある家族の物語を体験することとなる。敗戦濃厚となる中で、一家の大黒柱である義雄は、家族を連れて清津へと向かっている。しかし、内地への船には乗れず、諦めて平壌に戻るも身重の妻は移動が負担となったのか母子ともに亡くなってしまう・・・

目が覚めた秀平は、あまりにもリアルな夢に驚き、そしてそれが自分の祖父の体験したことだと気がつく。さらにもう一度同じ体験をし、秀平はどうやら不思議な飴を舐めると祖父や父らの過去を疑似体験できることがわかってくる。塾の経営は困難で、家族を抱えて不安に押しつぶされそうな日々を送る秀平は、こうして飴を舐めては父や祖父たちの過去を体験する。それは困難に満ちた日々であった。

一種のタイムトラベルものだが、飴を舐めることによって父親や祖父の経験を夢で見ることができるという発想が面白い。特に祖父は激動の戦中を生き、家族とも死に別れ、そしてギリギリのところで生き別れるところを回避したりして生き延びている。父もそういう貧しい環境で育ち、高度成長期の日本で母と知り合い苦労をしながら秀平を育てていた。そういう親たちの姿から、秀平は何かを学んで行く・・・

人は誰もが自分の苦労は世界で一番大変なような気になるというもの。理想に燃えて大企業の安定した職を捨てて塾を開業した秀平もまた然り。困難の連続に心が折れそうになっている。しかし、当然ながら世の中にはもっと大変な思いをしている人もいるわけで、それが自分の身近な家族であればなおさら言い訳はできなくなる。そんなメッセージが心に響いてくる物語である。

考えてみれば自分の父親も田舎から中学を卒業してすぐに上京して住み込みで働き始めているし、その苦労は今の自分の比ではないと思う。「もっと大変な思いをしてきた人たちがいる」という事実は、何より自分が頑張ろうというモチベーションになる。本を読みながら自分もいつの間にか父親の話を思い出していた。

例によって時折胸が熱くなることしばしば。電車の中で読む時は要注意である。そして物語の根底に流れるエールに力づけられる。
この人の本は、本当に読む価値があると思う。読んで元気になることができる。できることなら子供にも読ませたいが、そういう気持ちが伝わるだろうかと思ってみる。生きるのが大変だと感じている若者なら、読んで見るべき一冊だと言える。

また他の著書も読んでみたいと思わされる一冊である・・・



posted by HH at 23:43| Comment(0) | 良い話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月26日

【仮面の告白】三島由紀夫



昔読んだ三島由紀夫をまた本棚から取り出して読んでみる。これを読んだのは、多分30代の頃だから、20年ほど前ということになると思うが、もう内容も忘れてしまっている。そういう意味では、二度目ながら初めて読む感覚である。

主人公となるのは、「私」。これは三島由紀夫自身と思われる「私」の告白録的なものと言える。最初に5歳の頃の記憶として登場するのは、道端で行き違った「汚穢屋=糞尿汲取人」。現代では絶滅職種であるが、よりによって「私」はその汚穢屋になりたいとなぜか思う。と言っても職業に憧れたというよりもその格好である。続いての記憶は、女中に読んでもらったジャンヌ・ダルクの話。女なのに男の格好で戦争に行ったという話に「私」は興味を持つ。

そして幼き日の「私」は、母の着物を着て、当時流行っていた女流奇術師の真似をする。すでに後の姿の兆しは現れているが、それを決定づけたのは、物語を読んでも王女より王子に興味を惹かれたというところ。そして13歳になると最初の射精を迎える。この頃、倒錯的な衝動とサディスティックな衝動とが「私」の中に芽生える。

中学生ともなれば、女性への興味も湧いてくる。そんな同級生達を尻目に、「私」は体育の時間、上半身裸で懸垂をする友人の筋肉と脇毛に目が釘付けになる。また別の機会では、幾何の若い男性教師に目がいく。つまり、「私」は同性愛者なのである。時は、日中戦争の最中の時代。この時代に同性愛者であることがバレると世間的にはまずかったであろう。「私」も無理に女性への関心を持とうとするがうまくいかない。

なぜ、本のタイトルが、「仮面の告白」なのか。よくできたタイトルだと思う。三島由紀夫が同性愛者だったのかどうかわからないが、ちゃんと結婚もしているようだからあくまでもフィクションなのかもしれない。それよりも、自然に湧き上がる自らの嗜好と世間的な常識との間に苦悩する様が妙に迫ってくる。

世間同様、女性への興味を示そうと友人の妹と親密になり、相手もその気(結婚を意識する)のであるが、キス(表現は「接吻」である)まではするもののどうしてもそこから先へ進めない。そんなことをしていて、結婚してしまったその女性と再び逢い引きをするようになるが、それでもまだ手が出ない。そんな葛藤が妙に迫力を持って迫ってくる。

この作品は、当時(昭和24年)高い評価を得たらしいが、それは当時としては衝撃的な内容だったこともあるのかもしれない。もちろん、同性愛がLGBTと称されて受容されている現代でも伝わるものはある。時代を感じさせる描写が雰囲気を盛り上げているところもある。ラストの友人の妹とのギリギリの逢い引きシーンは、それまでのすべてを濃縮していて、素人目にもうまいなぁと感じさせる。

こういう作品は、多分何度でも読めるのだと思う。
また、別の三島作品の再読もしてみたいと思わされる一冊である・・・



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2017年10月25日

【経済は地理から学べ!UNDERSTANDING ECONOMICS:A GEOGRAPHICAL APPROACH】宮路秀作



序 章 経済をつかむ「地理の視点」
第1章 立地 地の利で読み解く経済戦略
第2章 資源 資源大国は声が大きい
第3章 貿易 世界中で行われている「駆け引き」とは?
第4章 人口 未来予測の最強タスクファクター
第5章 文化 衣食住の地域性はなぜ成り立つのか?

冒頭で、「地理とは地球上の理(ことわり)である」と説明される。地理がわかれば経済ニュースがわかり、経済とは土地と資源の奪い合いであるとされるが、中身を読んで行くとまさにその通りだなと感じられる。アイスランドは火山が多く、そのため地熱発電が可能で、さらにU字谷が多く存在するため水力発電が盛んなのだという。それらの状況から電力が非常に安価に手に入り、それが故に生産に大量の電気を必要とするアルミニウムの輸出が盛んで国の基幹産業になっているという。なるほど、これが著者の言いたいことかと納得させられる。

日本は誰もが知る資源小国。それ故にどこから資源を調達し、その輸送にどこを利用するのかという国家の政策を、地理から考える「地政学」を重要視する必要性がある理由なのだとする。原油、天然ガス、石炭、鉄鉱石などが代表的な資源で、したがってアジアとオーストラリアが日本の生命線だとする。よくよく考えれば、実にわかりやすい。

インドでなぜIT産業が盛んになったのか。それはまずアメリカ合衆国とほぼ12時間の時差があり(夜の間に活動できる)、IT産業は新しい産業であるが故に職業を縛るカースト制度の影響を受けず、超難関と言われるインド工科大学があって卒業生を多数輩出していることなどによるのだという。やはり、ちゃんと理由はあるわけである。

水道の水が飲める世界で15カ国しかない国の一つが日本であること。南アフリカでアパルトヘイトが長く存続したのは、冷戦時代に西側諸国がレアメタルを手に入れられるのは南アフリカだけだったこと、従って冷戦が終わって旧東側諸国からレアメタルが手に入るようになると、批判できるようになったなど、資源面の見方も面白い。

人口面では、日本が経済大国になったのは、人口要因が大きいという。そう言えば、『デービッド・アトキンソン新・所得倍増論 潜在能力を活かせない「日本病」の正体と処方箋』にも同じことが書かれていた。学校では日本は貿易立国と教わったが、実は内需依存型なのだという。狭いと言われているが、実は国土も世界197カ国中61位と上位1/3に入っており、内需の強さが国の経済力に直結するという。

ドイツでビールとソーセージ文化が生まれたのは、寒冷地でも育つ大麦・ジャガイモなどの穀物の存在、そしてジャガイモは皮を豚の餌として利用できるので養豚文化が育ち、保存食開発の必要性などがミックスされた結果なのだとか。言われてみれば、そういう諸条件があって今の文化があるわけだから、当然と言えば当然。むしろ忘れられていた事実と言えるのかもしれない。

最後に、ニュージーランドの酪農のあり方が印象に残った。この国では、酪農家が高齢化すると若者に土地を貸すのだと言う。そこで若者は借地農として酪農デビューし、やがて土地を譲り受けるのだとか。我が国の農業のヒントになりうるような気がする。
小・中学生の頃はあまり好きではなく、高校の時は選択すらしなかった地理であるが、こういう視点から学べば苦もなく覚えられると実感する。あの頃、この本に出会っていたら、選択科目も違っていたかもしれないと思う。これから世界の経済ニュースを見る目も変わりそうな気がする一冊である・・・


著者のブログ
『やっぱり地理が好き』



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2017年10月20日

【損する結婚儲かる離婚】藤沢数希



第1章 金融商品の取引としての結婚
第2章 離婚裁判の実際
第3章 有名人の結婚と離婚に関するケーススタディ
第4章 結婚相手の選び方は株式投資と同じ
第5章 時代遅れの法律と社会規範
第6章 古くて新しい家族のあり方を考える


最近は日本でも離婚件数が増加しつつあるようで、かく言う自分も考えるようになってきているわけである。そんなところにこんなタイトルの本が目につけば、自然と手が出ると言うものである。著者は理論物理学研究者だと言うが、肩書きと本の内容はマッチしない。しかし、何はともあれ、この本は、「実際の結婚と離婚とでどうやって金が動くのか」の正確な情報を提供するために書いたのだと言う。

まず離婚となると、初めに出て来るのが「婚姻費用=コンピ」と呼ばれる費用。要は、奥さんの生活維持費である。これは夫婦双方の収入、子供の数と年齢から家裁でほぼ機械的に決まり、正式に離婚が認められるまで支払いを続ける必要があるもの。夫の収入が多額であれば、その金額も膨大となる。しかも決まるまでエンドレス。実はこのコンピが重要な役割を持つと言う。

「結婚とは所得連動型の債権」と著者は語る。金額面だけを見ればそのように定義できる。そして離婚に際し話題となる慰謝料は、実は「広義の」慰謝料で、その内訳は
離婚成立までの婚姻費用総額+離婚時の財産分与+「狭義の」慰謝料
なのだとする。「狭義の」慰謝料は実はそんなに大きな金額にはならないのだとか。

裁判所では、奥さん以外の関係者がなんとかみんなで和解にしようとするインセンティブが働く。このあたりの内幕は面白い。そして有名人の離婚にまつわる金銭面での説明も、考え方として参考になる。こうやってお金が動くのかとわかるのである。フェイスブックのザッカーバーグが株式上場の翌日に籍を入れた狙いなども大変興味深い。

結婚はゼロサムゲームと言うが、確かにそれも見方。離婚の面から考えると、ストックよりもフローがある方が有利だとする。親が億万長者だが無職のボンボンと結婚した年収300万円のOLは、離婚となると下手をするとOLの方が財産分与とコンピを取られることになりかねないと言う。大企業の正社員か医者か弁護士が「優良銘柄」で、起業家はハイリスクハイリターンだとか。

離婚という観点からは、結婚届に判を押すのは「借金の連帯保証人になるより怖い」とする。ここまで読んでくればそれも納得。そして話はそこから少子化の話へと飛び、一夫一婦制にまで及ぶ。本の最初の趣旨から外れていくが、これはこれで興味深い。現代の自由恋愛市場では、男の上位3割が勝ち組であり、一夫一婦制とはそれ以外のモテない男性6〜7割のための制度だという。

理論的には母系社会の方が幸福であり、女性の社会進出が進み男女平等が進むと婚外子は増えていくとする。結婚制度については規制緩和し、子供の養育については規制強化することが、少子化対策にもなるとする。このあたりの意見はユニークで面白い。
ともあれ、興味深いのはやはり前半の本論部分。結婚の時にお金のことなど男は意識しないものだろう。だが、離婚にまつわるお金のことを知れば、そして薔薇色に見えた結婚生活も色褪せることを知った今となっては、とても大事な内容が書かれている。
一読の価値ある一冊である・・・




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2017年10月19日

【ハリネズミの願い】トーン・テレヘン



原題:Het verlangen van de egel

なんとなくタイトルに惹かれて手にした一冊。動物を主人公にした物語は、大人向けであっても別に珍しくはない。むしろ大人向けとなるとその背後にメッセージがあったりするから、そこから読み取れるものを見るのも面白いと言える。最近の例では、『カエルの楽園』が記憶に新しい。

物語の主人公は、当然ハリネズミ。ハリネズミは一人ぼっちで住んでいる。訪ねてくるものは誰もいないし、仮にいたとしても、ドアを叩いてもハリネズミは寝ているかあまりにも長くためらってからドアを開けるものだから、ドアを叩いた者はもういなくなっていると言う有様。そこでハリネズミはみんなを招待しようと思って手紙を書く・・・

でもその手紙にも、招待しながら「でも、誰も来なくてもだいじょうぶです」なんて書いてしまう。さらには、書いた文面を見直してあれこれ考えているうちに、手紙を戸棚の引き出しにしまってしまう。「今はまだ」送るのをやめておこうと考えるのである。こういう決断力のない行動って結構ありがちなのではないだろうか。

ハリネズミは戸棚から手紙を取り出して読み直す。そしてそれを出した場合のみんなの反応をあれこれ想像する。ハリネズミのハリが怖いのではないだろうかと想像し、手紙に「僕のハリなんて、どうってことないものです」なんて書いてみたりする。そうしている間、森のみんなは互いに招待しあい、訪問しあっているのではと想像してみたり、あるいは訪問が禁止されてしまったと想像してみたりする。手紙は当然出されることはない。

しまった手紙を思い出しては首を振り、そのあとに意見を変え、うなずき、また首を振る。そうしてあれこれと妄想を繰り広げる。カミキリムシが手紙を書いてきたり、カタツムリとカメが遊びに来ようと家を出たところだったり、ヒキガエルが遊びに来たり、そしてまた手紙の文言を書き足すことを考えたり・・・とにかくハリネズミはあれこれと妄想する。

クマが来たり、ゾウが来たり、キリンが来てダチョウが来る。その間にもカタツムリとカメは言い合いをしながらのんびりと道中をハリネズミの家へと向けて歩んでくる。サバクネズミなど見たこともない動物たちが来たりするかと思えば、はたまた手紙を出すのなどやめてしまおうと思う。そして外へ散歩に行くことを想像し、また誰かが訪ねてくることを夢想する。そのうち、だんだんと読む方もダラダラした展開に飽きが来てしまう。ハリネズミの優柔不断な様子にも。

「案ずるより産むが易し」と言う言葉があるが、ハリネズミに必要なのは誰が見ても「行動」である。あれこれと悩むより、書いた手紙をさっさとポストへ投函してしまえばいい。それからのことは、起こってから考えてもいいはず。ハリネズミのことならそう思えるが、いざ自分が何か同じような立場に立たされると行動できないのかもしれない。

読み物として面白いかと問われれば、正直言ってあまり面白くない。優柔不断の人の行動を見ているとよくイライラしたりするが、まさにそんな感じである。この本は読んで面白いと言うよりも、読んでそこから何かを感じ取るべきものなのかもしれない。そんな何かを感じたい一冊である・・・



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2017年10月17日

【ありえないレベルで人を大切にしたら23年連続黒字になった仕組み】近藤宣之



プロローグ どんな会社でも必ず再建できる!
第1章 23年連続黒字は社員のモチベーションが10割!
第2章 10年以上離職率ほぼゼロ!人が辞めない仕組みはこうつくる
第3章 なぜ、女性を大切にすると利益が上がるのか?
第4章 どん底から運をたぐり寄せるコツ

著者は、日本レーザーという会社の代表取締役社長。タイトルに惹かれて何気なく手にしたのだが、意外と引き込まれてしまった一冊である。
日本レーザーは、もともと日本電子という会社の100%子会社であったそうで、著者も元々は日本電子の役員で、日本レーザーには会社立て直しのために送り込まれてきたようである。それが経営改善を経て、MEBOという社長以下全員が出資して親会社から株を買い取り独立したとのことである。

著者が日本レーザーに送り込まれてきたときは、5年間で3回の赤字を出し、在庫・設備・債権・人材という4つの不良を抱え、さらに社長就任直後に役員が部下と商権を持って独立するという惨憺たる有様だったようである。そんなどん底からの経営立て直しは、それだけで面白そうだし興味をそそられる。

再建2年目に著者は親会社の役員を退任し、退路を絶ったそうである。社長の本気が社員を本気にすると著者は語る。そんな著者の経営改善の秘訣は、とにかく社員のやる気を引き出すということに尽きるようである。
・トラブルなどの悪い情報ほど笑顔で聞く
・社長の何気ない声かけ、コミュニケーション自体が社員教育
・トップダウンでは組織は成長しない
・社員ひとりひとりに裁量権

社員をやる気にさせ、さらには辞めないようにするには3つの条件が必要だとする。
1. 言いたいことがなんでも言える明るい風土
2. 社員が会社から大事にされているという実感
3. 会社は自分のものだという当事者意識
このあたりは理屈ではよくわかる。我が社もかくあるべしと思う。

となると、気になるのは人事評価であるが、日本レーザーでは「能力主義」「業績主義」「理念主義」の3つをベースにしているという。「業績主義」は粗利の3%を当事者同士で分配する制度をとっているようで、「理念主義」は全役員が全社員の全項目について評価する仕組みを取っているそうである。具体的な評価項目も掲載されていて参考になる。

経営危機が起きる原因を著者は5つ上げている。その中でも「不振の原因を外部環境のせいにする」というところに目が止まった。「赤字になるかどうかは社長の意識の問題」と語るが、銀行員時代に多くの不振企業の社長さんと話をしてきたが、外部環境のせいにする人は実に多いのである。「経営トップに求められているのは自責の思考法」とするが、まったくその通りだと思う。「苦難・試練・逆風・困難という砥石で自分を磨く」という言葉は、自責の考え方の最たるものだろう。

「損か得かだけで判断しない」とは、著者もそう考えているらしい。「遠回りこそ人生の最短ルート」と言うが、これもあちこちでよく耳にする。人生の真理とは同じものに集約されて行くのだろう。そして著者も「運の良さ」を語る。成功を引き寄せる4条件は、「体力、能力、ハードワーク、そして運」だとする。これも名経営者たちが口を揃えて語っている。

その運を良くするためには5つの心掛けが必要だとするが、そのうちの2つが目に止まる。
1. 絶対に人のせいにしない
2. 身の回りに起こることは必然と考え、すべてを受け入れる
こうした心掛けの積み重ねが、結局経営に結果となって現れてくるのだと思う。このあたり自分でも大いに意識したいところである。

我が社も経営改善途上にあり、そう言う意味で参考になるところ大であった。経営の真理はシンプルでかつ共通しているものだと、改めて思うところである。
経営者であれば、是非とも一読しておきたい一冊である・・・



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2017年10月14日

【仇敵】池井戸潤



庶務工員
貸さぬ親切
仇敵
漏洩
密計
逆転
裏金
キャッシュ・スパイラル

すっかり「お気に入り作家」と化した池井戸潤であるが、まだまだ読んでいない作品はある。少しずつ読破していきたいと思っているが、これは比較的初期の作品。文庫本化したようなので手にした次第。

物語の舞台は銀行。元銀行員ゆえに、「銀行モノ」はお得意なのだろうから必然的に銀行モノが多くなるのも理解できる。そしてこの本の主人公は、半沢直樹のような出世街道を歩いている行員ではなく、「庶務行員」。言い方は銀行によっていろいろだと思うが、要は銀行の雑務を一手に引き受ける雑用係的な存在である。どこの銀行でも行けば制服を着てロビーにいる年配の人である。

主人公は、東都南銀行武蔵小杉支店でそんな庶務行員をしている恋窪商太郎。恋窪は、同行で庶務行員として、駐車場 での子顧客誘導やロビーでのサポートなどを日々行なっている。といっても恋窪はまだ年齢も40台と若い。実はもともと大手の東京首都銀行のエリート行員だったのだが、行内で不正に私腹を肥やす役員との対立に破れ、銀行を追われたという経歴を持っている。

そんな経歴を知る東都南銀行武蔵小杉支店の若手松木は、担当の融資先で困ったことがあると「クレジットファイル」を持って、恋窪に相談に行くということをしている。「クレジットファイル」とは銀行の融資先顧客ファイルのことで、これもいろいろと言い方はあるが、この名称は池井戸潤の出身行の呼び方である。

最初に松木が恋窪のところに持ち込んできたのは、取引先の手形割引の明細についての相談。ある融資先の手形割引の残高が増えていて、しかもその銘柄がその融資先にとっての「仕入先」からだという。通常手形割引の銘柄は「販売先」のものになるはずで、これはおかしなこと。銀行員からすると、「イロハのイ」に当たる常識であるが、融通手形の可能性もあり注意を要することである。松木とともにこの疑問を調べて行く恋窪。そして意外な事実に行き当たる。

恋窪は元は優秀な銀行員だったとは言え、今は銀行内では地位の低い庶務行員。上司の課長から細かい仕事を言いつけられ、嫌味を言われ、黙々と雑用をこなす。しかし、いざ松木に頼られると、明晰な頭脳と今だ東京首都銀行に在籍していて恋窪を慕う元部下の協力を得ながら問題を解決して行く。なんとなく「必殺仕事人」の中村主水を彷彿とさせられる。

そして、日々の小さな問題を解決しつつ、背景では恋窪が東京首都銀行を追われる原因となった役員が相変わらず力を持ち、彼と癒着する白山総業の中島容山が暗躍する。途中、死者が出たりして池井戸作品ぽくないところもあるが、そこはまぁ良しとしておきたい。庶務行員というところに視点を当てて、面白いストーリーを紡ぎ出すものだなと思う。

半沢直樹シリーズと比べるとインパクトは劣るものの、銀行モノとしては程よく楽しめる。これはこれで単発ものとして楽しみたい一冊である・・・



posted by HH at 14:12| Comment(0) | 池井戸潤 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年10月13日

【「歴史×経済」で読み解く世界と日本の未来】中原圭介/井沢元彦



第1章 歴史×経済で「世界激変」を読み解く
第2章 アベノミクスを歴史×経済で検証する
第3章 中国は限界に近づいている
第4章 朱子学と経済不況が韓国を苦しめる
第5章 揺れるヨーロッパ、日本に接近するロシア
第6章 エネルギーが常に紛争の種になる
第7章 日本が発展するにはどうしたらいいのか


著者はそれぞれ私が日頃から愛読している経済と歴史の専門家。この2人をコラボさせたところに、出版社のセンスを感じてしまう。やはり日頃から「アンテナを立てている」人はいるのだと改めて思わされる。

とはいえ、前半部分はそれぞれ自著で主張していることが改めて語られていて、目新しさと言うものは感じられない。
・2000年に中国がWTOに加盟し、世界は真のグローバル化を迎えた
・デフレが不況を呼ぶと言う考えは誤り
・権威の意見を鵜呑みにする愚
・小さな政府にするほど格差は拡大する
・中間層が疲弊する国は衰退する

それでも随所に目が止まる言葉が出てくる。
・人が言っていることを鵜呑みにしてはいけない。必ず自分の目で確かめ、真実かどうか裏を取る必要がある
・ある事象の背景には、当時の文化、人々の価値観、生活スタイルなど様々な要素が絡んでいる。それを考慮しないと本当のことはわからない。
これらは普遍的な真理でもある。

なぜ日本の企業は膨大なおカネを貯めこむのか。今、共産党や希望の党がこれに税金をかけて取ろうとしているが、それは日本の銀行がいざという時アテにならず、かと言って従業員をクビにもできないからだと言う。非正規雇用が拡大し、それゆえに企業が儲かっても給料が上がりにくいと言う要因もある。みんなのためにおカネを貯めておこうと言う意識も働くとしている。言われてみればその通りなのかもしれないが、そういうことを考えてみようという発想が自分の中ではなかったところである。

・世界が1つのオープンマーケットになれば日本の良さはもっと強みになる
・アラブの春や天安門事件や明治維新すら含む多くの暴動・革命の原因はインフレ
・規制緩和は、観光・医療・農業をセットで(病院の外国人対応、民間企業による農業経営)
・すべてアラーの思うままと考えるイスラム教は、契約を重視する資本主義とは相容れない
・シベリア開発の日露協力は双方に利益がある
・国際紛争の原因は石油
タイトルにある通り、歴史と経済の観点からの意見は自分自身の新たなと知識となる。

・日本人は生涯働いた方が幸せ
・江戸時代より前は女性は自由奔放だった
・学校教育に足りないのは、歴史・宗教・語学
特に「性善説の教育ではダメ」「知識がなければ思考もできない。知識を詰め込むことはある意味大事」「日本の大学をトップレベルに引き上げる必要がある」という指摘は、個人的にもなるほどと思うところがある。

知は力なりとはよく言われるが、まさにその通りだと思うが、その中でもやはり歴史と経済の観点からの知識は大事だと改めて思う。日本が、だけではなく、大事なのは「自分がこれからどうするのか」。それを考えていく上でも、いろいろな知見に触れていきたいと思う。
そのためには、2人の著者にはこれからも注目していこうと改めて思わされた一冊である・・・



posted by HH at 00:00| Comment(0) | 社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする