2017年06月19日

【幻庵(上) (下)】百田尚樹



第1章 鬼因徹
第2章 仙人の碁
第3章 天才少年
第4章 桶狭間
第5章 両国小町
第6章 天保の内訌
第7章 吐血の局
第8章 黒船来航

久しぶりの百田尚樹の小説。いつもいろいろな分野で小説を書かれているが、今度は囲碁の世界。囲碁はもともと中国発祥のものであるが、江戸時代の日本では中国のレベルを凌駕する発展を見せたという。その発展の舞台となった江戸時代後期が物語の舞台。それを担ったのは、「本因坊家」「井上家」「安井家」「林家」の4つの家元。当時の囲碁事情が語られる背景の話が興味深く、例によって小説を読み進むうちに囲碁に詳しくなっていく。

主人公の幻庵は、幼名は吉之助。服部家の当主で、後に「鬼因徹」と異名を取った服部因淑にその才能を見出され、弟子入りする。しかし、この小説の変わったところは、主人公を中心に追って行くのではないところ。前半は、吉之助が弟子入りすると、あとは当時の囲碁界の状況説明が続く。本因坊家では、碁界中興の祖と言われた名人察元が出て、その後烈元、元丈と続く。元丈には安井家の知得というライバルがいる。この2人はそれぞれ名人となるべき腕前を有していたが、名人になれるのは1人だけであったため、2人とも名人になれずに終わる。

本因坊家は元丈の跡目候補として智策という名手がいたが、病に倒れその地位を丈和に譲る。丈和は典型的な大器晩成型。智策亡き後の本因坊家で、跡目候補がいなくなったにもかかわらず、当主の元丈は丈和に対する不安感からなかなか跡目に指名しない。そして丈和は、後に幻庵となる因徹との数々の勝負を経て、ようやく跡目に指名される。しかし、そこから実力を発揮し、囲碁界最高峰の名人位を目指す因徹の前に大きな壁として立ちはだかる。この2人の対決が、物語の主軸となる。

囲碁の歴史を学びつつ、当時の実力者たちの対決が語られて行く。当時の棋譜はかなり残されているようで、その戦いぶりは現代でも「観戦」できる。それが碁の面白いところなのかもしれない。そしてそれに現代の囲碁界のプロの解説が加わったりするので、素人にもなんとなくの雰囲気はわかる。盤面の戦いは、「ハネる」「ツケる」「ノビる」「スベリ」など専門用語がならび、素人には何が何だかわからない。実際の碁面も載せられているが、もちろんそれを見ても何が何だかわからない。ただ、その迫力だけは伝わってくる。

当時の実力者たちの腕前は、現代でもすごいそうである。本因坊道策などは、今でも「史上最強の棋士」と現代の実力No.1の方も語るほどである。しかし、現代と当時とでは、「時間制限」という違いがあるという。現代は持ち時間が決まっていて、その制限内で打たないといけないが、当時は無制限。長考となれば1日では終わらず、「打ち掛け」が宣言されると翌日以降に持ち越されたらしい。この小説でも、何日にもわたる対局が描かれている。

当時の名人は、比類なき実力を持っているとみんなが認めてなれたという。したがって、四家のうち、1つでも反対があれば名人にはなれない。しかし、そういう異議に対し、実力で認めさせるという「争碁」の制度もあり、それがこの物語でも出てきて、ストーリーを盛り上げる。時代は外国船が来航する騒乱期、名人の座を目指す幻庵の戦い。実在の人物なだけに、ググれば物語の結末もわかる。ついついそういう誘惑に耐えながら読み進めて行く。

それにしても、著者がなぜ幻庵を主人公にしたのかはとても興味深い。他にも主人公になりそうな人物がゴロゴロいるのである。幻庵では不満というわけではないし、この小説も面白かったのではあるが、是非とも聞いてみたいところである。
小説以外の政治的なところで注目を浴びる著者であるが、小説はやっぱり面白い。これはこれで書き続けて行って欲しいと心から思う。

早く次が読みたい。またもそう思わせてくれる一冊である・・・




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2017年06月15日

【一言力】川上徹也



第1章 要約力
第2章 断言力
第3章 発問力
第4章 短答力
第5章 命名力
第6章 比喩力
第7章 旗印力

著者はコピーライター。タイトルの「一言力」について、著者は「短く本質をえぐる言葉で表現する能力」と定義する。一言主という「良いことも悪いこともすべて『一言』で言い表す神様」の話など紹介し、いかにもコピーライターらしい話なのだと思わせてくれる。そんな一言で本質を言い表すのに必要な能力を著者は7つ提示する。それが各章になっている。

最初の『要約力』は、文字通り短くまとめる能力。「言葉メタボ」「言葉のダイエット」などの言葉は早速ながら面白いと思う。このうち「具体的要約」について、ヤフートピックを紹介してくれる。ニュースを13字で要約しているヤフーのトップページでおなじみのやつである。例えば桃太郎の物語を13字で要約する。
「桃太郎、仲間と鬼退治に成功」
なかなか見事である。

これを「抽象的要約」にすると、
「少年が仲間と旅立ち何かを得る」
とする。そしてこれは商品企画などに応用できるとする。なるほど、である。この要約力を鍛えると得られるものは、
・仕事において何が重要かわかる
・上司や得意先の求めているポイントが何かわかる
・仕事をどのように進めて行くのが効率的かわかる
とする。話し言葉を15秒で要約する習慣をつけるというのも参考になる。

『断言力』は、
「会議を始めたいと思います」→「会議を始めます」のようにすること。「断言はサービス」という考え方が新鮮である。断言することはリスクを負うこと、リスクを負って断言するからこそアドバイスする意味があるというのは、納得である。
『発問力』は問い掛け。意見が対立した時や思いが伝わらない時、一言で視点やその場の空気を変えることができるとしているが、これは自分の経験からもよくわかる。スピーチの冒頭を質問で始めるのもツカミとしては有効だという。

『短答力』は、受けの妙。その面白さは、「視点が面白い」「表見が面白い」に分けられる。これが身につくと、かなり強力だ。ネーミングでは、3つのS(ショート、シンプル、ストレート)が大事だとする。
『比喩力』は、「距離が遠いものの中に共有点を見つけることが、第一歩。
『旗印力』で問われる「刺さるスローガン」は、「短く」「優しく」「覚えやすい言葉で」が基本だとする。

さすが普段から考え、鍛えているだけにためになる。読んだだけではすぐに身につくものではないが、やはり普段からの心がけが大事だろう。こういう本を手に取ったということは、すなわちこういうことに興味があること。「余計な一言」は得意だが、「相手を唸らせる一言」をこれからはぜひ身につけたい。そのためにも、ここに書かれている基本は意識してみたいと思う。そんな興味深い一冊である・・・


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2017年06月14日

【なぜあなたの仕事は終わらないのか】中島聡



1. なぜ、あなたの仕事は終わらないのか
2. 時間を制する者は、世界を制す
3. 「ロケットスタート時間術」はこうして生み出された
4. 今すぐ実践 ロケットスタート時間術
5. ロケットスタート時間術を自分のものにする
6. 時間を制する者は、人生を制す

著者は、もともとプログラマーとしてマイクロソフトでWindows95の開発に携わり、ドラッグ&ドロップ、右クリックの概念を現在の形にした人物であるという。現在は、起業した会社の経営をしつつ、『Life is beautiful』というブログをやっているブロガーでもあるらしい。マイクロソフトを退社する時には、CEOのスティーブ・バルマーが慰留に来たというし、ベンチャー・キャピタルが150万ドル出資してくれるほどであったというから、相当な方のようである。

そんな著者が語る時間術。まずはダメな例として、「ラストスパート志向」の人が紹介される。著者の部下にいたらしいが、これは文字通り締め切り間際になって徹夜をしたりしてラストスパートで仕事を終わらせようとするタイプで、著者の部下以外にも一般的なような気がする。原因は、最初の見積もりで、テストで言えば後半の難しい応用問題を甘く見て、最初の簡単な問題をのんびりやるからだと言う。この例えはわかりやすい。試験対策としては、最初に全体を見ての時間配分であることは経験上わかっているから、なお分かりやすい。

上司の指示も問題になると言う。「なるはや病」なるものが紹介される。これは「なるべく早くやってくれ」と言う時間の期限が曖昧な指示。著者は「なんの根拠もないただの形式的なもの」と言うが、ここは疑問に思う。「なるはや」の指示を出す立場としては、部下の手元の仕事量を慮るからだ。「早くやってほしいけど、急ぎの仕事があるならそれを優先して良い」と言う意味で、これはこれで立派な根拠がある。

一方、ミズーリ州の病院の例が印象に残る。手術の予定が常に狂うのが日常で、これを改善するには@医師の残業を増やすA手術室を増やすかと考えられるところだが、この病院は「手術室を常に1つ開けておく」という解決策をとってうまくいったという。スラックと呼ばれるたるみ、つまりバッファーであるが、それを持つことによって改善したということは、個人的に感じた大きなヒントである。

仕事が終わらない理由は、@安請け合いしてしまうAギリギリまでやらないB計画の見積もりをしないであるとする。そして、著者は自身の経験をもとに、プロトタイプを作る効果を再三強調する。多少のバグを無視してとりあえず大枠を作る。Windows95は、発売当時3,500のバグがあったという。待ち合わせの30分前にスタバでコーヒーを飲むという著者のスタンスも大事だろう。

著者はさらにこの本で、「ロケットスタート時間術」なるものを提唱する。
・まずは時間は絶対に守るものと考える
・最初の2日間でほぼ完成まで持っていく
というのがその考え方で、余裕がある(最初に)全力疾走し、締め切りが近づいたら流すという。早く仕上げても次の仕事を振られるので、忙しくなるだけという説明には苦笑してしまう。ちょっと心が軽くなる。

時間術もさることながら、著者の考え方も参考になる。
・仕事は頼まれなくても自分から喜んで残業するほど楽しいかどうかで選ぶべき
・やりたい仕事があったら上司に頼む前にまずやってみる
・今やっている仕事の中で、本当にやりたい仕事につながる共通点を見つけ出す
・「無理だ」という人の多くが、実はそのことについて実際にはほとんど何も調べていないし、考えてもいない
・自分がやりたいことが何なのかわからない人は先人に聞く

「好きなことをやる」ということは、あちこちでいろいろな人が主張している。それを否定するつもりはないが、なかなか難しいと思う。それよりも今やっていることを好きになる方が早い気もする。自分に当てはめてみると、そう思うのである。
「時間術」というよりも、仕事のやり方全般についての著者なりの経験に基づく話と理解したい一冊。昼寝は18分が良いというところも参考になる。
それなりの実績のある人の話はやはり為になると改めて思う一冊である・・・




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2017年06月09日

【むだ死にしない技術】堀江貴文



序 章 あなたは、むだ死にするかもしれない。
第1章 むだ死にしたくなければ、ピロリ菌に気をつけろ。
第2章 むだ死にしたくなければ、リスクを恐れるな。
第3章 むだ死にしたくなければ、「忙しい」を言い訳にするな。
第4章 むだ死にしたくなければ、歯医者に行け。
第5章 むだ死にしたくなければ、QOLを意識しろ。
終 章 これからの生存戦略と医療

 ホリエモンの本は読んでもハズレがないのだが、この本のタイトルを見た時は、正直読むかどうしようかと迷った。これまでの著書と毛色が違うように見えたからである。いろいろとやっている人だから、それでも何か得るものがあるかもしれないと手にした次第。

 「むだ死に」とは刺激的なタイトルであるが、「予防できる手段があるにもかかわらず何の手も打たずに病気にかかって命を落としてしまうこと」だとする。そして、「むだ死にしない技術」とは、最新の予防医療に基づいた知見だとする。これまで情報、働き方、時間、ライフスタイルとあらゆる面でむだを省き「最適化」してきた著者が、今度は医療・健康を最適化しようというらしい。そして、すでに「予防医療普及委員会」なるものを立ち上げているという。

 日本は、平均寿命が長くなる一方で、病気を事前に予防するという意識が諸外国に比べ極端に薄いという。そんな中で、ホリエモンがまず取り上げるのが「胃がん撲滅」。胃がんはその99%がピロリ菌による感染症が原因だという。よってピロリ菌の有無を検査して早めに対策をとれば胃がんで死ぬ人は格段に減るとする。確かに、それほど明確ならやらない手はない。

 日本人は、健康志向なのに予防には無頓着だというが、我が身を振り返ってみてもそれは事実だと思う。これは国策で矯正しないとダメだと著者は語る。アメリカでは、民間の保険会社が大腸がんの抑制のために内視鏡検査を受けた人と受けない人とで保険料に差をつけたところ、(みんなが検査を受けて)あっという間に大腸がんの死亡率が激減し、今や日本人よりも患者数が少なくなったのだとか。これは重要な事実である。

 そうした事実を受け、ホリエモンは保険組合の民営化を主張する。市場原理が働くことによって効果があるとする。共産党あたりは反対しそうだが、理屈的には正しいと思う。胃がんで毎年5万人が死ぬのに、ピロリ菌の検査をする人は10%だという。本人が発症しなくとも子や孫に感染させることもあるというから、これは何もしないのは罪である。除菌に健康保険がきくのは世界で日本だけだというし、やらない手はない。「ABCリスク検診」というのがあるらしい。

 もう1つ強調されているのが、歯周病。大人の80%が放置しているという。いろいろな病気の元になるらしく、歯磨きだけで予防は無理らしい。パーフェクトペリオという機能水でのうがいがいいらしいが、これも意識したいところである。ホリエモンとしては、視力矯正もレーシックをやったという。見えないストレスから解放されたかったらしい。こちらもICLという視力矯正が紹介される。米軍兵は国の予算で手術を受けられるらしい。50代で老眼が始まると多焦点レンズというのがあるらしい。

 興味を持って目を向ければ、いろいろと見えてくるのだと思う。「健康は大事」と頭ではわかってはいるものの、ではそれに対して何をしているのかと問われれば何もしていない。それではいけないのだと改めて思う。もう中年のいい歳だし、これからは少しずつ具体的なアクションを起こしていこうと思う。まずは今度の健康診断でピロリ菌検診だ。
 いいきっかけにしたいと思える一冊である・・・



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2017年06月08日

【えんぴつの約束 一流コンサルタントだったぼくが、世界に200の学校を建てたわけ】アダム・ブラウン



THE PROMISE OF A PENCIL
1 ひとと違う道を歩む
2 居心地のいい場所を出る
3 生かされている意味を知る
4 一本の鉛筆で変わる人生もある
5 名刺ひとつで大きなことができる
6 ツーリストは見物し、トラベラーは模索する
7 許可を求めない
8 ひらめきをつかみとる
9 大きな夢も、理由のない小さな行動からはじまる
10 信用は日々作られる
11 夢を口に出してみる
12 目的を持って歩く
13 幸せとは、だれかを祝うこと
14 不可能に発奮する仲間を見つける
15 ひとりだけに語りかける
16 啓示を読み取る
17 つながるために離れてみる
18 最終決定者からイエスを引き出す
19 モノよりも志に従う
20 本物になる
21 第一印象は取り消せない
22 失敗と向き合う
23 フォローアップを忘れない
24 言葉を変えれば評価も変わる
25 明確な目標だけが現実になる
26 自分を向上させてくれる人の側にいる
27 弱さをさらけ出す
28 反響を増幅させる
29 怖くなるほど大きな目標を掲げる
エピローグ 語る価値のある人生を送ろう

著者は、世界の貧困地帯に学校を建てるという活動をしている「ペンシル・オブ・プロミス(POP)」という団体のCEOを務める社会起業家である。この本は、ベイン&カンパニーという有名なコンサルティング会社に勤務していた著者が、その安定した職を捨て、POPを設立して活動していく経緯を語った一冊。

著者がそうした活動に興味を持つのは、ホロコーストの生き残りである祖母の影響があるのかもしれない。学生時代には、騙されてアフリカから連れてこられた学生2人を両親が法的後見人になって世話をする。そんな経験もあるのかもしれない。そしてきわめつけは、「セメスター・アット・シー」という活動。これは各国から集まった学生が、客船で寝食を共にしながら世界を航海するというもの。著者はそこに参加する。

一行がインドに到着した際、著者は物乞いをしていた少年に質問をする。
「もしなんでも好きなものが手に入るとしたら何が欲しい?」
著者は、行く先々で子供達にこの質問をしていたそうである。そしてインドでの少年の答えに衝撃を受ける。少年の答えは、「えんぴつ」。
「ぼくにとっては書くための道具でしかない鉛筆は、その子にとって扉を開く鍵だった」と気づく。これがPOPへと繋がって行く。

大学を卒業した著者は、ベイン&カンパニーという有名なコンサルティング会社に就職する。そのまま行けば、大金を稼げていたに違いない。しかし、発展途上国で目にした子供達への抑えきれない思いから、POPの活動を始める。なんでもエクスターンシップという社外活動が認められており、最初はそれを利用する。しかし、やがて岐路に立たされる。両立できなくなったところで著者は、安定した職を投げ打ってしまう。

「できるだけたくさん稼いで、40代、50代で世の中を良くすることに使えばいい」と「まともな」アドバイスをしてくれる人もいたようであるが、著者は動いて行く。その後も破格のオファーを蹴ってしまったりする。フルタイムのスタッフも大口の寄付者のいない活動は、その筋から見ても足りてなかったようであるが、著者にはそれを上回る情熱がある。やはりこの情熱こそがすべてなのだと思う。

実兄が見出したジャスティン・ビーバーとデビュー前から交流があり、売れてからはそのネームバリューも利用できるという幸運もあったが、本人の活動ぶりはそれだけではないものがある。そしてラオスに建てた最初の学校は、ホロコーストの生き残りである祖母に捧げる。その後の活動で、現在は400以上の学校を建てているようである。様々な人との出会い、そしてその人々たちを活動に巻き込んで行く。たった1人の情熱が、大きなうねりとなって行く。

何より人を惹きつけたのは、理念だと思う。恵まれた環境を蹴って、苦難の道を行く姿は、アントレプレナーの鏡といえよう。自分も社会起業をしたいとは思わないが、何か少しでも社会の役に立つようなことはしたいし、ビジネスでは著者の情熱をこそ真似したいと思う。
学び多き一冊である・・・


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2017年06月02日

【99%の会社はいらない】堀江貴文



第1章 日本の会社はおかしいと思わないか?
第2章 仕事のない時代がやってくる
第3章 だから「遊び」を仕事にすればいい
第4章 会社ではない新しい組織のカタチ
第5章 会社に属しているあなたへ

 個人的には、ライブドア時代以上に今の方が活躍している感のある著者。その著作を読むことはいい刺激になっている。今回もそんな刺激を求めて手にした一冊。

 「99%の会社いらない」という意味であるが、これからの時代は「自分の時間をいかに生きるか」で幸せが決まるという。会社勤めをしながら自分の時間を生きている人は100人に1人くらいであり、残り99%の会社はいらない存在であるということらしい。この本では、「他人の時間に縛られる」会社を否定し、自分の時間で生きよと説く。忙しくても楽しければなんの苦痛もないわけであり、そういう意味ではよく理解できる。

 日本の社会は差別化を知らないと著者は語る。小学生の頃から「協調性の有無」を評価され、「世界で最も成功した社会主義国家」と揶揄される。そんな社会では、「相手と意見が違う」と「相手が嫌い」がごっちゃになっている。どんなに偉い人が相手でも、ホリエモンは「それは違う」とはっきり言うから、その場の空気が凍りつくこともしばしばのようで、だからそう言うことを感じるのだろう。自分もそれはよくわかる。

 日本の会社には異端の技術者や経営者が能力を発揮できる環境がないとし、「会社の中で出世するのは、新しいことに挑戦する人間ではなく無難な選択をする人間」と言う指摘もその通りだろう。そんな社会で、「自分の時間」を生きるには好きなことをしてマイナー&高収入を目指すのがよいとする。

 お金は時間を効率化させるツールであるという考えも著者は過去に読んだ著作でも語っていた。この本もライターに依頼して書いているという。言って見ればミケランジェロが工房で創作していたのと同じだと言うが、なるほど言われてみればその通り。ファッションすら得意な人に外注して選んでもらっていると言う。家すらなくホテル住まいというところまで行くと、そのライフスタイルを真似するのも難しい。

 好きなことを武器にするというが、それは例えばドローンで遊んでいた人が、いつのまにかドローンパイロットとして引っ張りだこになるとか、YouTubeにネタを投稿してブレイクした芸人さんとかの例が語られる。ブロガーとして収入を得られるようになった人もいるし、今はいろいろな可能性があると思わされる。

・失敗は当たり前、失敗したらすぐ忘れる
・毎日続けること、真似すること
・修行する時間があったら情報収集を
・とことんハマっていくと新しい展開が拓ける
著者ならではの気づきが、示唆に富んでいる。

 今は「堀江貴文イノベーション大学」というのを主催しているという。なかなか面白そうである。イノベーションを自ら起こすのは難しくとも、ムーブメントには2人目が大事というので、ここを狙う手もある。大事なのは、「ギブアンドギブの精神」だという。「相手の心を読む前に自分をさらけ出せ」と語る。一つ一つ響いてくる。

 毎日同じような日々を過ごしていると刺激が少なくなる。自ら刺激を求めていきたいと思うが、著者の本はそのいいキッカケとなる。これまでの本もそうであったし、この本もまたしかり。これからもウォッチしていきたい人物であると改めて思わされる一冊である・・・


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2017年06月01日

【ノモンハンの夏】半藤一利



第1章 参謀本部作戦課
第2章 関東軍作戦課
第3章 五月
第4章 六月
第5章 七月
第6章 八月
第7章 万骨枯る

 個人的には歴史好きである私は、「ノモンハン事件」にはもともと興味を持っていた。戦争に負けた日本であるが、この時点でそれまでの方向変換をすれば悲劇は避けられたのではないかと言われていたからである。そんな興味を持っていたゆえに、『昭和史』の著者の手による本書を見つけて迷わず手にした次第である。

 本書が始まるのは、1939年(昭和14年)である。この年、ヨーロッパではドイツがポーランドに侵入し、第二次世界大戦が勃発する。その前夜、日本は中国と泥沼の日中戦争を展開している。すでに防共協定を結んでいたドイツから急速な接近があり、「持たざる国(日独伊)が持てる国(英米仏)とのアンバランスを解消して世界秩序を打ち立てる」との考えで、日独伊三国同盟締結の機運が流れている。中国の天津では、イギリス租界に逃げ込んだテロ犯の引き渡しをイギリスが拒み、反英のムードが漂っている。

 ノモンハン事件といっても、その背景事情も重要だということが、本書を読んでいてよくわかる。特に日独伊三国同盟締結に関する動きは、本書の記述の多くを占めている。ヒトラーは犬猿の仲であるはずのスターリンに接近し、ソ連と英仏との連携をけん制する。この時期、英仏対独伊、独対ソ、ソ対日、日対中英ソという対立模様が各所に存在している。そして国内では、三国同盟を強固に主張する陸軍と、それに反対する天皇と海軍との対立構造がある。

 街角には「三国同盟即時締結せよ」などのビラが貼られ、世論は後押しムード。反対する海軍の先頭に立つ山本五十六次官には、暗殺の噂さえ流れる。当初はすぐ終わるとタカをくくっていた支那事変が、泥沼の長期戦になったのは、それを支援するソ連とイギリスの動きがあり、ヨーロッパにおいてそれをけん制するという理由で、三国同盟推進派は突き進む。

 ソ連とは朝鮮の朝鼓峰で衝突し、日本軍は手酷い損害を被っているが、根拠のないソ連軽視が支配する。そんな中で、関東軍が事件の中心になる。陸軍も一枚岩ではなく、統帥部は天皇の意向もあり、ソ連との衝突には積極的ではない。しかし、もともとくすぶっていた満蒙国境で紛争が発生すると、関東軍は積極的に排除に動く。そして本来、天皇の統帥命令が必要なはずの越境爆撃を進言し、参謀本部は「自発的中止勧告」という曖昧な指示に終始し、これを「明確な中止命令がないからやってしまいましょう」と関東軍は実施してしまう。

 その関東軍で中心的な役割を果たすのが、司令部第一課の辻政信少佐。強硬派の少佐に率いられた関東軍は、ノモンハンに第23師団を中心とした軍を派遣する。しかし、その装備は日露戦争から進化しておらず、歩兵が持つのはシングルボルトアクションの三八式歩兵銃であり、戦車は軽戦車。以前からなんで日本軍はおもちゃのような軽戦車しかなかったのか不思議だったが、そもそも戦車は「歩兵支援」という考えに立っていたのだと解説される。戦車対戦車の戦闘という概念はなかったようである。

 実際の戦闘は、ソ連の戦車に日本兵は火炎瓶を投げつけるという肉弾戦。しかし、これで日本軍は健闘する。のちにソ連のジューコフが日本軍についてスターリンに「下士官は頑強で勇敢、青年将校は狂信的な頑強さで戦うが高級将校は無能」と報告するが、まさにその通りである。第23師団の戦死傷病率は76%に及び、これは太平洋戦争でもっとも激戦だったガダルカナルの34%を大きく上回るという結果にもよく表れている。事件後には、捕虜になった将校には自決させるなどの事後処理もショッキングである。

 本来、大元帥である天皇が反対している以上、ノモンハンでの衝突はありえなかったはず。なのに「大御心が間違っている場合だってある」という雰囲気さえ出てきてしまう恐ろしさ。大敗の後すら、関東軍は「戦場掃除」の名目でさらなる攻撃を進言し、さすがに参謀本部に阻止されるが、最後の最後まで「やれる」という暴走機運がみなぎっている。そして事件を主導した人物たちは、ほとんどお咎めなく陸軍の中枢部へと進んでいく。読めば読むほど滅入ってくるし、著者の抑えた怒りも伝わってくる。こんな時代に生まれなくて良かったとつくづく思う。

 「天皇の戦争責任」を問う声をよく聞く。しかし、こうした歴史の経緯を学べば自然とそういう考えは出なくなるだろう。そういう意味で、歴史を学ぶ意義は大きい。戦争に限らず国家の崩壊を防ぐためにも、特にこの時代の流れはよく学びたいところである。
単にノモンハン事件だけではなく、現代にも生かせる教訓として、学び多き一冊である・・・



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2017年05月31日

【経済がわかる論点50 2017】みずほ総合研究所



I チーフエコノミスト高田創の視点
II 2017年の経済がわかる50の論点
第1章 日本経済がわかる10の論点
第2章 海外経済がわかる10の論点
第3章 金融・マーケティングがわかる10の論点
第4章 制度・政策がわかる10の論点
第5章 ビジネス・社会がわかる10の論点

 この本は、どうやらみずほ総合研究所が毎年出しているシリーズらしい。しかし、過去に読んだことはなく、店頭で見かけたこともない(たぶん・・・)。「過去の常識にとらわれず、これまでの教科書にない世界を50の項目で読み解こうとする野心的な試み」なのだそうである。今日の世界経済を象徴するキーワードは「3つのL」(低成長、低インフレ、低金利)だと言う。こう言うポイントを終えたまとめはわかりやすくていい。

 まずは、「逆風にさらされるアベノミクス」。もうあちこちで主張されていることである。世界で繰り広げられる通貨戦争では、最大の敗者は日本だという。こういう指摘は、なかなか新聞等ではお目にかかれない。
「日本経済がわかる10の論点」としては、国内景気、企業収益、設備投資、雇用・賃金、個人消費、住宅、公共事業、輸出、物価、生産性がテーマに取り上げられる。中でも「雇用者報酬がリーマンショック以前を超える水準まで回復した一方で、直接税・社会保険料の負担が増え、可処分所得が伸び悩み、個人消費の抑制要因になった」という説明が印象的。なんとなく皮膚感覚で感じていたことを的確に説明されるのは心地よい気がする。

 それ以外にも、
・長期的には空き家問題が深刻化する可能性大
・インバウンド消費の持続的拡大にはサービス消費の取り込みが必要
・生産性向上は日本経済再生の道
・労働生産性の低迷には、相対的に生産性の低いサービス業(医療・福祉・宿泊・飲食)を中心に雇用が拡大しているため
等々の解説が興味を引く。

 「制度・政策がわかる10の論点」では、一億総活躍社会、少子化対策、ローカルアベノミクス、PPP/PFI、消費税先送りと財政健全化、ポートフォリオ・リバランス、メガFTA、外国人労働者と移民政策、気候変動政策、農政新時代がテーマとなる。新聞等で目にしてはいるものの、では何かと説明を求められると答えに窮するようなものである。それが簡単に解説されているので、改めて理解するのに役にたつ。特にパリ協定については、「発行されれば歴史的な転換点になる」と評されているが、これによって先日トランプ大統領が離脱を表明した重みが伝わってくる。

 50の項目は、それぞれなるほどと思うものであるが、深く解説されているわけではない。それぞれがダイジェスト的ではあるが、それゆえにコンパクトにまとまっているとも言える。世の中のニュースを広く浅く理解するのに役立つものと言える。こういう簡易版的な経済書もこれはこれでいいものだと思う。来年2018年版が出るなら、また読むことにしたい。
現代の経済の問題をコンパクトに知るには、実に適切な一冊である・・・


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2017年05月22日

【ニュースで学べない日本経済】大前研一



序 章 今求められる教養は「本質を見抜く力」
第1章 世界と日本経済の「3大リスク」
第2章 校長経済国家・地域に注目せよ
第3章 染色体が異なる21世紀の企業たち
第4章 日本経済「低欲望社会」をどう生きるか?
第5章 迫りくる危機にどう立ち向かうか?

 定期的に読んでいる大前研一本である。今回は、まさにタイトルにある通り、ニュースを見ているだけではわからない物事の裏側を大前研一が語った一冊。
まずは、「過去の経済原理が通用しなくなった今、どうすべきか」と問われる。アベノミクスのアドバイスをしている人たちが根拠としている経済原理はすでに過去のもの。「低欲望社会」の日本には当てはまらない。金利がつかなくてもひたすら貯金をする我々日本人の姿は、世界の7不思議の一つと言い切る。中原圭介氏も同じようなことを言っているが、そんなことはニュースを読んでいてもわからないとする。確かにその通り。

 なぜかと言えば、ニュース記者も物の見方が非常に局所的で、問題がどこにあるのかを理解していないからだとする。
ならどうすればいいのであろう?
著者は、「疑問を持ち、調べ、質問する能力を身につけよ」と答える。
「自分で世界を見て、自分で解決策を考える。」
言うほど簡単ではないが、意識はしたいと思う。

 今、世界経済が抱えるリスクは3つ。
1. 中国経済の減速
2. アメリカの利上げ
3. 地政学リスク
中国の第13次五カ年計画はすべて絵に描いた餅という。こういうことは、なかなか素人的には難しい。話題となったAIIBであるが、日本は参加すべきではないとする。それは、「儲からない」「リスクが高い」「国内事情が優先する」と言った理由らしい。

 こうした経済ニュースが、著者によって諸々語られる。
1. 還流マネーが世界の金融市場を荒しまわる
2. 独裁的指導者の時代
3. オリンピックは景気回復に結びつかない
4. グローバル企業のM&Aと節税の実態
このあたりは、なんとなくわかっていることも多い。

 「法人税は90%にすべき」という考えには仰天する。だが、その理由として、法人税率を下げて投資と賃金に回った国はないと聞くと、そうなのかと思う。90%にすれば、「国に持っていかれるくらいなら」と設備と人件費に回すと言う。理屈から言えばその通りかもしれない。
「日経を読むと世界が見えなくなる」という指摘もドキリとさせられる。日本のトップ企業と言っても、世界市場では「その他」のレベルであるというのがその理由。なるほどである。

 ただし、すべて同意というわけではない。「日本の持ち家率は世界でも類を見ない」と言うが、「持ち家派」の自分としては、それが悪いとも思えない。「日本人の染色体に宿る病魔」と言うのはいかがかと思う。
新卒一括採用の日本企業では、例えばIIT(インド工科大学)の優秀な生徒は取れないと言う。みんな40,000〜160,000ドルくらい取るらしいからで、難しい問題だが、このあたりは考えないといけないのかもしれない気がする。

 地方創生の3つのモデルは、
1. 自給自足経済=「地産地消」
2. 道州制
3. 都市国家モデル
とする。特に「イタリアには大企業がない」と言う指摘に驚かされるとともに、中小企業でも卑屈になる必要はないのだと思わされる。

 最後は著者らしく、「若者よ、好きな場所で好きな仕事をしろ!」と檄を飛ばす。著者らしいと言えば、著者らしい。
相変わらず、読めば刺激が得られる。こう言う刺激は受け続けないといけないと思う。考える力を養い続けるためにも、著者の言動にはこれからも注目していきたいと思わされる一冊である・・・



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2017年05月18日

【怪談】小池真理子



岬へ
座敷
幸福の家
同居人
カーディガン
ぬばたまの
還る

好きな作家の作品は、見落とさずに網羅しているつもりであったが、不覚ながらこの一冊は漏らしてしまっていた。恋愛小説家である小池真理子の、ちょっと珍しい、タイトルにある通りの「怪談」話の短編集である。

「岬へ」はある地方にあるおそらく自殺の名所と思われる岬に女が向かう話。女ひとりが岬に向かうとあって、タクシーの運転手が戸惑う。「自殺では」と疑っている様子が伝わって来て、このあたりの描写はうまいなぁと思う。実は女の行き先は、岬近くにあるペンション。そこはかつて、女が振った男が岬から身を投げる前に最後に泊まったところ。その夜、女は別の宿泊客である男と夜中にキッチンで会う・・・

「座敷」は久しぶりに友人を訪ねた女性の話。豪邸に暮らしているも、事故で夫と子を同時に失うと言う悲劇を経験している。その後、夫の弟と再婚したその友人は、家の中に亡き夫がいるのだと語る・・・
「幸福の家」は、医者の娘である少女が公園で老人に会う話。寂しげな老人と話をするようになり、連日その公園に通う。話を聞いてくれる老人に、自分と家族がいかに幸せかを語って聞かせるのだが、ある時家に招待すると、老人に断られてしまう・・・

「同居人」は、長野県と山梨県の県境の別荘地に暮らす老婆の話。夫に先立たれて一人暮らしをしている。生前、夫は「家に座敷わらしがいる」と語り妻を混乱させたが、その妻は今は「ひろくん」と呼ぶその子との生活を楽しんでいる・・・
「カーディガン」は、飲み会で誰かが忘れていったカーディガンを届けようとした女性の話。一緒に参加した仲間に心当たりのある者はなく、店に確認したところ、当日貸切だったはずのその飲み会にもう1人の参加者がいたことがわかる・・・

「ぬばたまの」は、病死した妻がそばに現れる大学教授の話。きっかけは、世話になった恩師の葬儀の帰りに寄った飲食店であった・・・
「還る」は、病院で同室になった老女が語る1人語り。息子の結婚式である男を見かけたが、その後なぜかその男と何度も遭遇するのだという。そして話は幼い頃に死んだ弟に及ぶ・・・

恋愛小説を読み慣れた小池真理子だが、この短編集はちょっと異色。ただし、「怪談」といってもどれも恐怖におののくというものではない。例えば幽霊に遭遇したとして、それが身内の親しい者だとしたら、果たして人は恐怖を感じるだろうかと考えてみる。個人的にはNOである。喩えて言えば、そんな雰囲気なのである。もちろん、そうでないのもある。

個人的には、「幸福の家」が良かった。オチ的には、二コール・キッドマンの映画『アザーズ』を連想してしまったが、なんとも物悲しいお話である。
一言で言えば、「怖くない怪談」。
小池真理子らしいと言えばらしい「怪談」である・・・



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