2012年05月20日

【偶然の科学】ダンカン・ワッツ




1 常識という神話
2 考えるということを考える
3 群衆の知恵(と狂気)
4 特別な人々
5 気まぐれな教師としての歴史
6 予測という夢
7 よく練られた計画
8 万物の尺度
9 公正と正義
10 人間の正しい研究課題

最近は「○○の科学」と題する本が目につく。
「選択の科学」しかり、 「錯覚の科学」しかり、である。
まだ読んでいないが、「お金の科学」という本もある。
それなりに肩書きをもった人が書いていて、面白い内容が多い。
この本の著者もコロンビア大学の社会学部教授である。

本の謳い文句に、「この世界は私たちの直感や常識が示すようには回っていない。人間の思考プロセスにとって最大の盲点である『偶然』の仕組みを知れば、より賢い意思決定が可能になる」とある。
ここに邦題の理由がある。

「人間に未来予測はできない。リアルタイムで偶然に対処せよ」ともあるが、ここではいかに偶然が物事を左右するか、が説明される。
「モナリザ」は世界一の名画とされるが、レオナルド・ダ・ヴィンチによって描かれた当初からそう評価されてきたわけではない。
むしろそれ以外にも有名な絵はあり、それどころか「モナリザ」が有名になったのは20世紀に入ってから、一件の盗難事件をきっかけにしたものだという。

「モナリザ」は他の絵画にはない何か特別な要因を持っているわけでもなく、それは爆発的に人気を博した「ハリー・ポッター」シリーズやフェイスブックにも当てはまる。
大きな事故が起これば、その原因追究が徹底してなされるが、その同じ原因が同じように起こったとしても、同じような事故が起こるとは限らない。
過去と未来とはまったくの別物で、過去に有効であった常識を未来に当てはめようと思っても無理がある。

まさに 「ブラック・スワン」の世界であるが、結局のところ未来予測などサイコロを振る確立と大して違わない。
そんな理屈をきっちりと検証して解説してくれるところは、さすが教授なのだろう。
しっかり読みこんでついていかないと、何が言いたいのかわからなくなるところがあるが、しっかり頭を働かせて読みたい人には面白い本かもしれない。

まあたまにはこういう本と正面から格闘してみるのも、いい頭の体操になると思う。

     
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2012年05月17日

【采配】落合博満



第1章 「自分で育つ人」になる
第2章 勝つと言うこと
第3章 どうやって才能を育て、伸ばすのか
第4章 本物のリーダーとは
第5章 常勝チームの作り方
第6章 次世代リーダーの見つけ方、育て方

昨年まで中日ドラゴンズの監督を8年務め、その間4回の優勝を成し遂げた落合監督の本である。
現役時代から個性的であったし、監督になってからも実績は凄いし、川上元巨人軍監督が「監督として日本一の人材」と評する人物なだけに、その著作はやっぱり読んでみたくなる。
その昔、「勝負の方程式」を読み、最近 「コーチング」を読んだが、これが3冊目である。

第1章はタイトルにある通り、個人としての心得。
「孤独に勝たなければ、勝負に勝てない」
孤独とは単に一人でいる事とは違う。
己しか頼るもののない中で、頑張らねばならぬ事。
野球だけに当てはまるものではなく、一般向けにも語ってくれている。

「嫌われている」「相性が合わない」は逃げ道
「不安もなく生きていたり、絶対的な自身を持っている人間などいない」
「自分、相手、数字」3つの敵との戦い
「達成不可能に思える目標」こそ数字に勝つ唯一の方法
「一流には自力でなれるが、超一流には協力者が必要」
やはり個人としても一流の成績を残しているだけに、それぞれ説得力のある言葉だ。

監督としての考え方が現れているのが、「負けない努力が勝ちにつながる」という部分。
長距離バッターとして活躍したにも関わらず、試合は「1点を守り抜くか、相手を0点にすれば負けない」という考え方。
ドラゴンズは投手力を中心とした守りの安定感で勝利を目指す戦い方をしてきたと言うが、なるほど説得力のある説明。
「負けない努力が勝ちにつながる」
野球以外にも広く当てはまると思う。
「ただひたすら勝利を目指すプロセスが人生」

監督としての言葉も見逃せない。
ミスは叱らない、だが手抜きは叱る。
欠点は直すより武器にする。
重要なのは自信をつけさせ、それを確信に変えてやること。
自由と好き勝手は違う。
契約はドライに、引き際はきれいに。

野村監督の本と比べても、書かれている数々の考え方は勝るとも劣らない。
さすがと感心、納得する。
物足りないのは、実際の経験談かもしれない。
話題となった2007年の日本シリーズで、8回までパーフェクトピッチングをしていた山井投手を最終回に代えた采配。
非情の采配と言われたが、その時の舞台裏のエピソードは面白かったが、それ以外にはあまり本人の裏話は登場しない。
中日の選手については次々と書かれているが、あまり自慢気のないところがこの人の良さであり、物足りなさなのかもしれない。

まだまだこれで終わる人ではないと思うが、野村監督のようにたくさん本を書いて欲しいし、またどこかのチームに監督として復帰してほしいと思わずにはいられない人である・・・


   
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2012年05月12日

【われ日本海の橋とならん】加藤嘉一




第1章 中国をめぐる7つの疑問
第2章 僕が中国を選んだ理由
第3章 日中関係をよくするために知ってほしいこと
第4章 中国の民意はクラウドと公園にある
第5章 ポスト「2011」時代の日本人へ

著者は現在中国で北京大学研究員や英フィナンシャルタイムズ中国語版コラムニスト、香港フェニックステレビコメンテーターなどの肩書きで活躍している若者。
日中の間で、自分がどういう存在でありたいのか、タイトルによく表されている本である。

この本の見所は大きく分けて二つ。
著者自身の魅力と知られざる中国の素顔である。

著者は、もともと人と変わったところがあったらしいが、窮屈な日本よりも国連で働きたいと決意。
それには英語と考えて勉強を始める。
語学に金をかけない主義だとかで、語学学校などへは行かず、辞書を隅々まで読み、図書館で英字新聞を読み、自転車通学の途上での一人英会話を毎日続ける。
それだけて翻訳アルバイトで月10万円稼げるようになったと言う。

さらに中国への国費留学のチャンスをつかみ、中国に渡ったあとは売店のおばちゃんや警備員相手に世間話を8時間。
そして人民日報全ページを音読しながら読破する事を毎日続け、半年で中国人と間違われるレベルに達したという。
このすさまじさは半端ではない。

そうした語学力を背景に北京でのキャンパスライフをスタート。
生で接した中国の素顔は、なかなか新聞などのイメージとは異なるもの。
中国は共産党の一党独裁で自由がないと言われるが、実際には天安門事件のようなタブーに触れなければかなり自由だという。
むしろ出る杭は打たれ、KYなどと言われる我が国の方が、よほど自由ではないと言えるらしい。

中国共産党も7,800万人というイギリスやフランスの人口を越える党員を有し、様々な主張があるのだという。
その中で主張を通していくには、世論を背景とした正当性が求められ、みんなが右向け右で一つの方向だけに行くわけではないのだと言う。
言ってみれば、党の中で民主化の仕組みが出来ていると言えるのかもしれない。

さらには中国人独自の面子の考え方。
それは外交から道行く人たちまでに浸透している考え方だという。
面子経済学という言葉があるらしいが、こうした「面子を立てそれを返す」という文化は、中国を理解する上では欠かせないだろう。
また著者が独自に観察し、「暇人」と名付けた人たちの存在も面白い。

マスコミの報道だけでは、いつまでも中国を誤解したままで終わってしまいそうである。
真の相互理解には相手を知る事が必要であるが、この本はその役に立つ。
胡錦濤国家主席とも個人的に交流を持つという著者。
まだ若いが大した人物だ。
この本を読めば努力に裏打ちされたその理由もよくわかる。
自分の成長のために刺激を受けたい人、知られざる中国人について知りたい人には必読と言える一冊である。
    
     
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2012年05月10日

【自分で奇跡を起こす方法】井上裕之




第1章 人生を変えた瞬間
第2章 奇跡の瞬間
第3章 引き寄せる瞬間
第4章 成長する瞬間

著者は北海道在住の歯科医。
医師としてもかなり有名な方のようであるが、それとあわせて経営学博士、セラピストとしてもご活躍のようである。
そんな著者が自身の体験をベースに、メッセージを綴った一冊である。

初めに語られる経験が何とも言えない。
自動車事故で、同乗していた奥様が大怪我。
良くても植物状態と医者に宣言される。
医院を経営しながら往復8時間かかる遠方の病院に通う生活。

もともと勉強熱心な方のようで、それまでにも東京へ勉強に行っていたらしいが、病院への往復の時間を使っての勉強もしたという。
そうした部分は素直に見習わないといけない。
やがて、奥様は奇跡的な回復を遂げていく。

そうした奇跡はただやってきたのではないと言う。
本気には自分が望んでいるものを引き寄せる力があると言う。
奥様の回復は、医師や看護師などの病院スタッフの力だが、それらの人たちが本気で動いてくれたのは、家族が本気で治ると信じていたからだという。
自分の患者でも、本気の人に対しては、どんな事でもしてあげたくなるのだと。
確かにそうなのかもしれない。

大切な人と会う時は、服装も含めてコンディションを整える。
相手に自分のエネルギーを伝える事によって運を引き寄せる。
運を掴むには自分のエネルギーがすごく大切。
運を引き寄せる事については、いろいろな本にも書かれていたり、人生は心のあり方が大切などという事も同様。

真理というものはそう沢山あるものではなく、同じような事になっていくのは仕方ない事かもしれない。
実際の講演などは感動的だったりするらしいのだが、この本だけだとちょっと力不足。
この本が役に立たないというわけではなく、それなりに自分もいろいろ学んでいるのだと解釈いたしたい。

薄い本だし、若い人がさらっと考え方を学ぶには良いかもしれない本である・・・
   
   
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2012年05月07日

【謎解きはディナーのあとで】東川篤哉



第1話 殺人現場では靴をお脱ぎ下さい
第2話 殺しのワインはいかがでしょう
第3話 綺麗な薔薇には殺意がございます
第4話 花嫁は密室の中でございます
第5話 二股にはお気をつけください
第6話 死者からの伝言をどうぞ

小学校6年の娘が面白いと夢中になって読んでいたのを、ちょっと借りて読んでみた本。
最近ドラマ化もされている。
本屋の店頭では山積みになっているのをよく見かけたし、地元の図書館では予約数1を誇っている。
そういう本は取りあえず読んでみる主義である。

登場人物は、国立署の警察官である宝生麗子と、彼の上司風祭警部。
風祭警部は中堅自動車メーカーである風祭モータースの御曹司で、事件現場には愛車のシルバーメタリックのジャガーで駆けつける。
一応エリートなのだが、とんちんかんな言動で、部下の宝生麗子を煩わせている。
その宝生麗子は知る人ぞ知る宝生グループの令嬢で、なぜか刑事などをやっている。
言ってみれば、「こち亀」の中川圭一と秋本麗子のようなものであると言えるかもしれないが、お金持ちと御曹司とご令嬢というコンビはネタにしやすいもかもしれない。

さて、ご令嬢には執事兼運転手がついている。
この男影山が、実は物語の重要なプレーヤー。
仕事で家に帰った宝生麗子が、その日の事件について影山に語って聞かせる。
するとそれだけで、影山はスラスラと事件の真相を推理していく。
事件はそれで解決する、というのがこの物語の大筋のストーリーである。

毎回の影山と宝生麗子のやり取り。
雇い主のご令嬢を小バカにした言動が、子供たちにウケル要素かもしれない。
そして、それ以上にとんちんかんな風祭警部の存在が、コメディタッチで加わっていく。
推理自体は至極単純で、とても東野圭吾あたりのミステリーには太刀打ちできるものではない。
しかしながら、読んでいくうちに、これはこれで心地良さのようなものを感じてくる。

各章のタイトルの語調は、執事兼運転手の影山を意識しているものだろう。
影山の推理にも突っ込み所はあるのだが、それで良いのだという有無を言わせぬ雰囲気は、この語調にあるとも言える。
娘はすでに2巻に手をつけている。
付き合って読んでみるのも悪くないかと、思わせられる一冊である。

     
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2012年05月03日

【頭のいい人が儲からない理由】坂本桂一



第1章 動きを止めたら死ぬだけだ
第2章 常識はビジネスの敵だ
第3章 正しい戦略のみが勝つ
第4章 儲けのメカニズムを見つけよ
第5章 勉強ができる人は企業できない
第6章 トップとリーダーは資質が違う

著者はもともと経営者。
その実績を買われていろいろと役員を歴任し、現在は経営者でもあり山形大学の客員教授でもある人物。
そんな人物が、成功する考え方を語った一冊。

「頭がいい人が儲からない」と何とも逆説的・挑戦的な言葉が使われているが、言い得て妙でよく内容を表している。
頭の良い人間は、常識人だ。
よく常識に秀でている。
しかし成功するにはその常識が時として邪魔になる。
大雑把に言ってそんな内容だ。

冒頭で、起業して成功するには「焼き鳥屋がいいかラーメン屋がいいか」という話となる。
実はどちらがいいかは問題ではなく、どうやるかが問題だと著者は説く。
しかし、大抵の人はどちらがいいかで悩む。
なるほどと唸らせてくれるし、冒頭の掴みとしてはいい感じだ。

そこから過去の体験談、成功談が語られる。
どれもなるほどと膝を打ちたくなるストーリーだ。
この方タダモノではないと思わせられる。
確かにそうすれば成功するだろうし、簡単なのだがなかなか思いつかない。

優れたアイディアばかりでなく、売りたかったら百日毎日顧客のところに行って顔を出せ、なんて根性論的な話もある。
「閾値を越えるまで続けよ」という話なのであるが、物事を徹底してやるというのはそういう事なのだろう。
頭のいい人にはできない事だろう。

「常識はビジネスの敵だ」とはっきり言い切る。
「まじめで勤勉だと成功が遠ざかる」
「人脈なんか必要ない」
「新聞を読むのはムダ」
なるほど、常識に反旗を翻している。

何よりも自分自身の体験談が面白い。
頭を使えばここまで面白くビジネスできるのだなと思わせられる。
それは何も経営している会社だけでなく、アルバイトの仕事ですら、である。
そんな体験談も踏まえてだからこそ、書かれている事にも説得力がある。
考える事ってやはり大事なのである。

若い頃にこういう本を読んでおくのもいいかもしれない。
自分の仕事に一工夫してみたくなる本である。
    
   
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2012年04月30日

【いじめと戦おう!】玉聞伸啓



第1章 いじめられているあなたへ
第2章 いじめと戦う!
第3章 友だちを助ける方法
第4章 保護者の方へ

子供が学校でいじめられていると知った時、どうすればいいのだろう。
あるいは、自分が学校でいじめられている時、どうしたらいいのだろう。
こんな時どうしたらいいのか、そんなヒントが書かれている一冊。
大人向けでもあり、小学生以上の子供向けでもある本である。

現実的にいじめられたという経験のない私にとって、この本に書かれている事がいじめ防止に役に立つのかどうか、はっきり言ってわからない。
効果的でもありそうな気もするし、効果なんてないような気もする。
ただ考えるヒントにはなる、とは言えそうである。

いじめに負けない方法として、最初に5つ紹介されている。
「記録をつける」は、その最初の一つ。
いじめを受けたと言っても具体的にどんな事をされたのか、中にははっきり言えない子もいるかもしれないし、記憶は薄れたり曖昧になったりしがち。
しっかり記録するという事は、これは良い事ではないかとさっそく感心する。

その他は、
・クラスの人たちを味方に変える
・心を守る笑顔トレーニング
・いじめに反応しない
・学校の外で夢中になれることを見つける
であるが、簡単にできる事とうまくできない事があるような気がする。

「大人に相談しよう」
もしもこの本を読むのがいじめられている子供本人だったのなら、これだけでも良いと言えそうな事だ。
相談してくれれば、何とかしてあげられる。
相談してくれない場合、どうしたら気がつけるのか、親としては気になる点だ。

「自己中つぶし」に「シカトくずし」
なるほどと思わせられるが、果たしてその通りに行くのかという疑問を持つ。
「物いじめ(盗まれる・隠される・落書きされる)にあったら、考え方を変えてみる」
大人なら問題なくできるだろうが、はたして子供にできるのだろうかと思う。

書いてある事すべてが実践的・効果的かと言われれば、よくわからない。
ただ考えるヒントには十分なる。
経験者の意見も載っているので、それも参考になる。
個々には賛同できるところや疑問に思うところもあるが、何よりも「いじめられている子を助けたい」という著者の強い思いが伝わってくるところが、素直に評価できる。

あれこれ考える前に一読するのもいいと思う一冊である。

                               


タグ:いじめ
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2012年04月28日

【逆説の日本史】井沢元彦



第1章 幕末から維新へT 『前史』としての日米交渉史 前編
第2章 幕末から維新へU 『前史』としての日米交渉史 後編
第3章 幕末激動の15年1854年編
第4章 幕末激動の15年1855・56年編
第5章 幕末激動の15年1857年編

シリーズ第18巻。
いよいよ幕末である。
そして幕末と言えば、黒船来航。
その黒船来航がこの18巻の中心である。

「泰平の眠りを覚ます上喜撰たった四杯で夜も眠れず」と歌にも詠まれた黒船来航だが、実は突然やってきたのではなく、何年も前から予想されていたのだという。
その裏付けが、第1章で語られる。
世界史的にはアヘン戦争があり、イギリスの無法ぶりが日本にも伝わる。

ロシアそしてアメリカも日本に使節を送り、幕府と交渉を試みる。
そんな世界情勢を受けて、オランダ国王からの助言ももたらされるが、幕府は何もしない。
ペリーの前にアメリカのモスソン号が、やはり開国交渉に来ていたというのは知らなかった。
日本人も漂流などの形で外国船に拾われるケースが増えていた。
日本の位置的な関係から我が国は、アメリカにとっては是非とも交流したい国だったという背景が語られ、当時の状況がよくわかる。

黒船は突然やってきたわけではないが、日本人はみなそう思い込んでいる。
著者は何度もそう繰り返すが、それは仕方ない。
学校の歴史の教科書では黒船来航が強調されているし、各時代ごとに細かく取り上げるわけにもいかず、象徴的な出来事を強調するのは仕方ない事だ。
歴史ばかり勉強しているわけにはいかないからだ。

そして、当時の幕府の対応が批判される。
初めは正攻法で交渉に臨んできたアメリカに対し、幕府は二枚舌、嘘つき外交で応じたと著者は幕府の役人を批判する。
感じられるのは、当時の幕府の役人も今の日本の政治家も同じだという事。
先送りすれば問題が解決するとでも言いたげだし、それに何よりリーダー不在、リーダーシップの欠如が致命的。
だとすると、現代日本の行く末も案じられる。

鎖国によって世界の常識から隔離されていた日本。
そのため結果として不平等条約を締結させられ、為替問題では富の流出を招く。
当時の日本は豊富な金を有し、世界有数の金持ち国家だったという指摘には改めて驚かされる。
しかしそれも銀の交換レートによって、バカみたいな理屈で流出させてしまう。
今の日本もアメリカに富を吸い上げられているし、何ら進歩がない気がする。

やむを得ない部分もあったと思うが、当時日本で恐らく唯一英語が話せたジョン万次郎を日米交渉の通訳として利用しなかったとか、日本側は当時の社会制度がネックとなって、うまく交渉できなかった事がわかる。
著者はひたすら当時の幕府の無能さを批判するが、サラリーマンの身としては当時の幕府の役人の対応もよくわかる。
現代の大企業や役所にも同じ理論が今も流れているからだ。

初めの頃はきらりと光っていた著者の分析や推理も、この巻ではやや色褪せた感がある。
近代になると資料も増える。
著者の得意とする資料と資料の間を埋める分析も、その分トーンダウンするのかもしれない。
さりとて次はもう読まないというわけではない。
むしろこれからが楽しみと言える。

1年に1冊のこのシリーズ。
1年後をまた期待して待ちたいと思う。

「逆説の日本史17」
「逆説の日本史16」
   
      
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2012年04月27日

【さかな記者が見た大震災 石巻賛歌】高成田享



著者は元朝日新聞論説委員。
テレビ朝日の「ニュースステーション」でコメンテーターをしていた経歴もあり、現在は仙台大学教授である。
定年を機に自ら希望してシニア記者として石巻支局長務めているが、「さかな記者」というのは、その石巻支局時代に魚関連の取材を多数手がけたところから来ている。

そんな著者は、昨年の3月11日は偶然パリに滞在していた。
そして帰国してから目にした惨状。
震災以前から取材を通して知り合った人たちも多く、他人事ではないと活動を重ねてきたが、この本はその活動記録である。

かつて地震に際し、津波警報が出た時があって、その時は堤防までわざわざ取材に行ったという。
その時は大した津波ではなくてがっかりもしたようであるが、今回ももし現地にいたら取材に行っていただろうと言う事だ。
その時は奥様が運転して行っていたらしいから、もしも現地にいたらこの本はなかったという事になる。

一人の記者の目を通しているから、出てくるエピソードはすべて個人個人にフォーカスされたものだ。
身近な復興ドラマと言えよう。
中にはテレビで見た事がある話もあったが、被災地でもバイタリティある人たちは注目を集めるのだろう。

やがて同じ高校の先輩でもある菅総理(当時)から声がかかり、復興構想会議の委員に就任。
残念ながら、自分の発言意外は非公開という縛りがあるようで、他の委員の意見は取り上げられていないが、著者自身の言葉はOKらしく、いろいろと披露されている。

やっぱり、というのだろうか、役人との折衝ではお役所の論理に呆れ、腹を立てている。
役人も不真面目という事ではないのだろうが、木を見て森を見ずの仕事振りや巧妙な論理展開はさすがだ。
温和な表現で語られているが、ちゃぶ台返しの一歩手前的な雰囲気が漂ってくる。

東京にいると、どのくらい復興が進んでいるのかよくわからない。
ただみんな手をこまねいているわけではなく、それぞれの立場でできるところから始めている。
そんな様子が伝わってくる。
そうした一頁を覗いてみる事のできる、地に足のついた記録である。

     
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2012年04月24日

【この世で一番おもしろいミクロ経済学】ヨラム・バウマン



PART1 個人の最適化戦略
PART2 相互関係における最適化戦略
PART3 市場における最適化戦略

タイトルにある通り、この本はミクロ経済学を扱った一冊。
しかも豊富な漫画というかイラストで、固い内容に抵抗がありそうな人にも非常に読みやすくしている。
といっても内容はあくまでもミクロ経済学。
それはそれ、である。

はじめに個人の最適化がテーマとして取り上げられる。
最適化というのは、自分にとって得な事をする事と定義されている。
そしてその個人にとっての最適化が、多数の個人が集まった中でどうなっていくか。
それをこの本では、
「あたしが自分に得な事をして、他の人も自分に得な事をして、他のみんなも自分に得な事をする時、その結果が万人にとって得になるのはどんな場合だろう」
と噛み砕いて問題提起している。

個人の最適化では、時間価値・大数の法則・逆選択などが登場する。
それだけ聞くと何やら難しく感じてしまうが、カジノでのルーレット、保険料などを例にしてわかりやすく解説される。
やがて個人の最適化は交換の概念(つまり取引)によって飛躍する。
お互いに交換する事によって、より最適化されるのである。
それがノーベル賞に輝くコースの定理となる。

個人から市場へ。
それがゲーム理論へとつながり、有名な囚人のジレンマとなる。
それが一般化すると共有地の悲劇となる。
最近の日本でも共有地の悲劇は高速道路で起こった。
1,000円になって安くなったら、みんなが殺到して渋滞になったというあの問題だ。

身近なオークションでも戦略等価性という性質を持つ。
4種類の戦略を取り上げ、結果としてどの戦略も期待収入は同じとなる。
ヤフオクも、実は「第二価格封印入札」という種類のオークションになるとここで知ったが、そうしたところにもミクロ経済学が成り立っているのである。

市場の問題は需要曲線と供給曲線との問題でも説明される。
その他需要の価格弾力性・供給の価格弾力性などという用語も登場する。
ノーベル賞理論も一つや二つではないが、そんな難しい理屈もこの本にかかればすっと読み進められる。
なかなか面白い試みだ。

ミクロ経済学の問題はやがてマクロ経済額の問題へと通ずる。
それは次の続編に譲られるようである。
この延長であれば、難解という事もない。
次も手にとって読んでみようかという気になった・・・

  
posted by HH at 22:39| Comment(0) | TrackBack(0) | (は)行の作者の本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする