2018年02月16日

【革命のファンファーレ −現代のお金と広告−】西野 亮廣



 著者は、以前『魔法のコンパス』を読んだことのある芸人さん。この方、タダ者ではなくて、とにかく発想が面白くて、その後4年半かけて作ったという絵本『えんとつ町のプペル』も買ってしまったくらいウォッチしていたい人。そのな方の最新刊ということで、迷わず手にした一冊。

 やっぱり冒頭から面白い発想を語ってくれる。若者が「やりたいことがない」というのは健全な考え方だという。それを嘆くのは、「職業が永遠に続くという発想」に慣れてしまった人だという。やりたいことを掛け持ったり迷ったりすることは、これからの時代を生き抜く術だとまで言う。確かに、その通りかもしれない。「常識のアップデートを止めてはならない」とは、大事な考え方だと思う。

 知らなかったのだが、著者は少し前にある番組の収録中に、ディレクターの態度が気に入らなくて帰ってしまったそうである。それをあるコメンテーターが批判したのを受け、「収録中に帰る」という選択肢があるからこそできると反論する。テレビから干されると困るゆえに(収録中に帰ることなどできないくせに)「私なら残ります」なんて言ってんじゃないと手厳しい。ちょっと毒舌だが、まさにその通りだろう。

 『えんとつ町のプペル』は、5,000部売れるとヒットと言われる絵本業界で、32万部売れているという。その売り方がすごい。
 1. アマゾンは先行予約受付は3ヶ月前しかできないので、自分で1万部購入して専用サイトを作って予約の受付をした
 2. インターネットで無料公開した
 3. 著作権をフリーにした
 4. 体験+お土産で販売した
 5. 絵本の中の絵をインスタ映えする正方形にした
その発想はとにかく既存のやり方に馴染んだ人には真似できないものだろう。

 さらにあっと驚く発想は続く。キズ本(読んで印をつけた本)は、普通無価値である。だが、「孫正義が読んだキズ本は本当に無価値なのか」と問うて「しるし書店」なるものを立ち上げる。確かに、孫さんが読んでマーカーした本なら倍の値段でも買う人はいるだろう。とにかくその発想とビジネスセンスには驚かされる。

「一歩踏み出すのに必要なのは、勇気ではなく情報」という言葉にも唸らされる。
「好きなようにやらせてもらえないことを立場のせいにしていないか」という言葉に、どきりとさせられるサラリーマンは多いだろう。
「売れない原因を環境や時代のせいにしていないか」
「自分の不満を誰かが解消してくれることを待っていないか」
そう問いかけた上で、「成功者は必ず決定権を持っている。決定権は覚悟」と説く。この言葉に「そうは言っても・・・」なんて言い訳していてはいけない。
「他人に決定権を委ねると出遅れる」
「常識に屈するな、屈しないだけの裏付けを持て、それは行動力、情報力」
最後に一気に畳み掛ける迫力に胸が熱くなる。

 自分は、何となく少しだけだが出来ている気がする。それをもっと力強くやっていきたい。帰りの電車の中で、スマホゲームなんてやっている場合ではない。この本を読んで明日を目指せと若者に言いたくなる。
若者だけではなく、自分もいっそうかくありたいと思わされる一冊である・・・




posted by HH at 23:52| Comment(0) | ビジネス/自説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月15日

【凶獣】石原慎太郎



第1章 事件
第2章 公判
第3章 奇行
第4章 結婚
第5章 発端
第6章 長谷川臨床心理士取材インタビュー
第7章 心奥
第8章 戸谷弁護士取材インタビュー
第9章 不条理

 この本は、かつて世間を震撼させた附属池田小学校事件の犯人である宅間守について、扱った一冊。ただでさえ興味深いのに加え、著者が石原慎太郎ということで余計に興味を持ったところである。石原慎太郎の著書と言えば、かつて旋風を巻き起こしたのは世代的に記憶にないが、近年の『天才』は、なかなか面白かったので、同じように実在の人物を扱ったものだし、大いに期待していたところである。

 はじめに、まず事件の概要が語られる。無垢な小学生を次々に刺し殺すなんてやはり尋常ではない。ここで、著者は事件をフィクションを交えて綴る。なぜフィクションを交えたのか、後の章でわざわざフィクションと断るならそのまま事実を書いて欲しかったと思うが、大作家の意図するところは素人にはわからない。

 前半は、宅間守本人の人物像を追っていく。事件に至る前も、レイプを繰り返していたようで(被害者は世間体を恐れてかほとんど泣き寝入りだったようである)、やっぱり普通ではない。公判でも反省の姿勢などカケラさえ見せず、ふてぶてしい態度を貫き通す。弁護士は、刑事専門の人は皆尻込みし、民事専門の弁護士が国選弁護人としてついたという。その方のインタビューも後半に出て来る。

 驚くのは、そんな宅間と獄中結婚した女性がいたということ。なんでも死刑反対論者だそうで、おそらく結婚すれば家族として面会ができるからだろうが、こんな極悪人に対する死刑にも反対するという崇高な理念の持ち主であるらしく、誠に恐れ入る。ある意味、宅間守と同じ思考回路ではないかと思ってしまう。その違いは人の命を虫けらのように思うか、虫けらのような男の命を大事に思うかだけのものでしかない。

 宅間守は、そもそも幼少から一種異常な行動をとっていて、五歳の時には三輪車で国道の真ん中を走り、大渋滞を引き起こしたという。結婚回数は4度にわたり、おそらく結婚した女性は皆宅間の異常性に気づいて離れていったのであろう。暴力沙汰も頻繁で、レイプも何度もやっている。まともに口説けなかったのか、無理やりやるのが趣味だったのんかはわからないが、まさに鬼畜、「凶獣」である。

 公判は、獄中の宅間と頻繁に接していた臨床心理士と弁護士とのインタビューが出て来る。前半は物語形式だが、それでずっと流れるのではなく、後半はトーンが変わって対談形式になる。なんだかテンポが変わってしっくりとこない。大作家先生の考えるところなどわかるはずもない素人だが、その素人にはどうもしっくりこない。とりあえず、これまで知らなかった部分を知ることができて興味深かったということに尽きる。

 事実関係を知ることができるという意味では有意義だと思うが、『天才』のような小説形式だったらもっと面白かったと思う。素人感想では、実に残念な一冊である・・・




posted by HH at 00:00| Comment(0) | ドキュメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月14日

【バカ売れ法則大全】行列研究所



第1章 最新バカ売れ事情から「いまどきの売れる法則」が見えてくる!
第2章 お客限定のヒット商品は「未来のバカ売れ」のヒントになる!
第3章 今も昔も変わらず売れる「ロングセラー」の秘密を解明せよ!
第4章 商品の勝ち組と負け組「勝敗を分けるポイント」はどこにあるのか?
第5章 準備万端で販売開始「次に来るバカ売れ」はここが違う!

 著者名を見ると「行列研究所」とある。これは「ITmediaビジネスオンライン」というビジネス誌の中にあって、読者の「なぜこれが売れているのか」という疑問に答えているところだそうである。そんな研究所が、調査結果の集大成としてまとめたのが本書ということらしい。というわけで中を見て行くと、今売れている商品やサービスが5章に分かれて紹介されている。

 最初に採り上げられているのが、今まさに売れているもの。「うんこ漢字ドリル」はよく目にし耳にしているし、タバコの「アイコス」もそう。「赤い自転車」は最近街中でよく見かけるようになった。逆にクルーズトレイン「四季島」、「瑞風」や「プライドポテト」は聞いたこともない。「ニンテンドースイッチ」や「AbemaTV」はよく目にするがどんなものかはわからない。そんな売れ筋を改めて確認できるのは、こういう本のいいところかもしれない。

 第2章では、採り上げられているヒット商品はほとんど知らないものばかり。「バーミキュラライスポット」や缶酎ハイ「もぎたて」、「テクシーリュクス」、「ローソンの焼鳥」、「トゥルースリーパー」。どれもこれも、知らなかったので興味深い。手軽に買って試してみれるのは、ちょっと意識していたいと思う。「バルミューダ」のトースターは、知っていて興味を持っていたもので、改めて次の買い替え時には狙いたいと思ってしまった。

 第3章は、ロングセラー商品なので知っているものばかり。改めてそれぞれのロングセラーの分析を読めば、ふむふむなるほどという感じである。ただ、「崎陽軒のシウマイ」がなぜロングセラーなのかはよくわからない。なんども食べたことがあるだけに余計そう思うというものもある。第4章は、勝ち組と負け組の「勝敗を分けるポイント」を分析しているが、内容的には疑問に思うところが多い。なんとなく薄っぺらい分析に思えてしまう。

 第5章は、「次に来るバカ売れ」と称しているが、これはなんとも言えない。そうかもしれないし、そうでないかもしれない。ただ、個人的に「ピンホールコンタクトレンズ」というものに興味を持った。なんとなく夢のコンタクトレンズに思えてしまう。個人的にこれはかなり需要が高いのではないかと思う。近眼や老眼を違和感なくカバーしてしまうというのは魅力的だ。

 数多くの商品やサービスが並んでいて、「こんなものがあるんだ」という紹介的な意味合いでは面白いと思う。ただ、各商品とも数ページの取り扱いなので深い分析はなされていない。興味があれば個別に調べてみないと、浅い分析ではタカが知れている。まぁ、言ってみればウィンドーショッピング的な意味合いの本と言えるだろう。そういう目的意識で読むべき本である。

 それにしても、常日頃いかに問題意識を持っていないかと実感させられる。この本に載せるものを探すような意識でいると、いろいろと仕事に活かせるヒントが得られるかもしれないと思う。さらりと読めてしまうので、世の中の動きの一部を見る意味でも、一読してみたい一冊である・・・



posted by HH at 00:00| Comment(0) | ビジネス | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月13日

【母さん、ごめん。−50代独身男の介護奮闘記−】松浦 晋也



第1章 「事実を認めない」から始まった私の介護敗戦記
第2章 母は「認知症?私はなんともない!」と徹底抗戦
第3章 その名は「通販」。認知介護の予想外の敵
第4章 家事を奪われた母が、私に牙を剥く
第5章 介護のストレスで自分が壊れ始めた
第6章 「兄貴、ぜんぶ自分で抱え込んじゃダメだ!」
第7章 「イヤ、行かない」母即答、施設通所初日の闘い
第8章 家族が「ん?ひょっとして認知症?」と思ったら
第9章 父の死で知った「代替療法に意味なし」
第10章 あなたは、自分の母親の下着を知っているか?
第11章 その姿、パンツを山と抱えたシシュポスのごとし
第12章 どこまで家で介護をするか、決心が固まる
第13章 予測的中も悲し、母との満州餃子作り
第14章 体制が整ったと思うや、病状が進行
第15章 介護のための家の改装、どこまでやるべき?
第16章 病状進行でやたらと怒る母をどうしよう
第17章 介護体制また崩壊、預金残高の減少が止まらない
第18章 果てなき介護に疲れ、ついに母に手を上げた日
第19章 母、我が家を去る
第20章 「予防医学のパラドックス」が教える認知症対策
第21章 介護を支えてくれた鉄馬とシネコンの暗闇
第22章 昭和30年代に母が見た日本の会社

 老齢の両親を持つ自分にとって、「介護」という問題は他人事ではない。それは「いつかやってくる明日」である。今は「来ないでほしい」と思っているだけであるが、そんな希望だけではその時困るだけ。来たるべき時に備えておきたいと常日頃思っているが、そんな時にこういうタイトルの本を目にすれば読まないで過ごすことはできないというもの。かくして手にした一冊。

 著者はもともとライターであるというが、そんな著者がライターらしく、自分が経験した介護の経緯を綴ったのがこの本。著者は、私と同じ50代。しかも独身。弟と妹がいるものの、老いた母親と同居しているという家庭環境。結婚していても妻に両親の介護など頼めるはずもない私としては、まさに「似た境遇」と思えてしまう。

 著者の母親は、もともと活発な方だったということで、英語の能力もあって私塾を営み、国内外への旅行を楽しみ、合唱サークルだ太極拳の練習だ、フランス語やスペイン語や中国語の勉強だと忙しく活動していたという。そんな方でも認知症になってしまうという現実。我が両親とて例外にはなり得ないと自覚する。

 最初の兆候が、それまででは考えられなかったような手抜きご飯を好むようになり、同時に食べこぼしが目立つようになったことだという。やがて味付けもおかしくなり、砂糖と塩を間違え、鍋ややかんの空焚きが目立つようになる。著者はそれを年齢なりの「うっかり」だと思っていたというか、思いたかったと告白する。そして今までなんともなかった墓参り時の緩い傾斜に息を切らすようになり、著者はおかしいと感じたという。

 そこからがまさに「奮闘記」。母親本人は当然おかしいという認識などないわけで、「なんで検査なんて受けなくてはいけないのか」と抵抗する。「事実を受け入れることができず、対策に反抗し、抵抗する」という母親の態度は、その後ずっと著者を苦しめる。「介護に関する苦しみの半分は介護される母本人による拒否と抵抗」という部分は、ずしりと重く響いてくる。

 気がつけば大量の通販商品が届いており、これを1つ1つ解約していったという。これは自分の親のでもありうるので覚えておきたい。介護をしながら仕事もしてといううちに、著者も体調を崩してしまう。「介護とは本質として家族と公的制度が連携しないと完遂できない事業」という言葉は、よく覚えておきたい。

 この本は、著者が文中で「介護敗戦記」と称している通り、母親の介護は何も知らなかった著者にとって反省の記であり、打つ手打つ手が後手後手に回っていった記録でもある。それはそのまま読む人に対する警告でもあり、素直にこういう経緯を記してくれるのはありがたいと思う。「悩む前にまず地域包括支援センター」へ行くべしというアドバイスは肝に命じておきたい。

 地域包括支援センターには公的介護に関する様々な情報が集まっているという。ケアマネージャーやヘルパーさんとの付き合い、介護ベッドなどの設備。サプリメントなど、「認知症に効く」からといただくものがいかに迷惑か、そしてそれがいかに効果がないか。著者の1つ1つの体験は、実にいい勉強になる。そしてやっぱり介護は家族だけでは無理だということが実感できる。

 親には長生きしてほしいと思うが、著者の母親のような状態になってしまったらとてもそうは思えなくなるかもしれない。そういう悲しい現実も、ある介護家庭の事実を知ることで実感として伝わってくる。来ては欲しくない未来に、心積もりだけでもする意味で、こういう本を読んでおく意義は高い。両親が健在な人であれば、健在なうちに読んでおきたい一冊である・・・



posted by HH at 00:00| Comment(0) | ドキュメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月07日

【なぜか、人とお金がついてくる50の習慣】たかの友梨



第1章 優秀であるより面白くあれ〜人間関係がうまくいく10の習慣〜
第2章 「オール・イン」せよ〜お金に悩まない9の習慣〜
第3章 会社にしがみつかない働き方〜仕事で稼ぐ13の習慣〜
第4章 一生初体験≠オ続ける〜思考で現状を変える9の習慣〜
第5章 苦しい時をどう生きるかで人生は変わる〜挫折で人生を飛躍させる9の習慣〜

 著者は、たかの友梨ビューティークリニックで有名なたかの友梨氏。かねてから苦労された方と聞いていたので、著書に興味を持っていた次第。内容としては、自らの半生を綴りつつ、そこで得た考え方を紹介する内容。まさに読みたいと思うものである。

 著者はその出処をサラリと触れる。私生児として生まれ、すぐに養子に出されるも、出された家が崩壊し親戚中をタライ回しだったという。中学を卒業し、定時制の高校に通いながら理容師を目指す。心の安らぎとお金がいつも欠乏していたと言う。そこだけでもいろいろあったと思うのだが、サラリと流す理由は、「自分の恵まれない部分を嘆いているとそれが増幅していくだけ。成功するにはそんな感情はどんどん捨てていくだけ」と言う考えがある。見事である。

 ビジネスで成功するために絶対欠かせない要素を1つだけ挙げろと言われたら、それは「感謝」だと語る。「どんな仕事でも1人だけではなし得ない。あらゆる成功の根底には周囲の人々の尽力がある。」と力強く語るが、普段自分もそう思っているだけにこういう経営者が同じことを言っていると心強く思う。

 タイトルに50の習慣とある通り、著者がいいと思う事柄(習慣)が書き連ねられる。
 ・相手を喜ばせようとゴマをすることは、一種のビジネスマナー
 ・ビジネスで成功したいなら、まずは好かれる人になること
 ・わかりやすい説明ができると言うことは、仕事ができる人の証明
 ・お金が足りなければ働けばいい。稼いだ以上のお金は使わなければいい。
  そうすれば貧乏にはならない。
 ・お金は貯めるものではなく使うもの。潔く使ってこそ最大限の効果を発揮する。
 ・金が出てくるかどうかは、掘ってみなければわからない。
 ・いいと思ったことはすぐにやって走りながら考える
 ・10年先と今日の夕食を一緒に考える
 ・あなたの顔は周囲の人のためにある
 ・中途半端が勝つことはない
思わず唸ってしまう言葉の数々である。

 メモを取っているとキリがないくらいどれもこれも示唆に富んでいる。さすが、だと思う。特に「人より多くの時間を働いたから成功した」と言う言葉にシンプルに感動する。世の中こうでなくてはいけない。この人の生き方・考え方を見せられると、言い訳できる人はいないと思う。今日からでも人より働けばいいのである(もっとも最近は「働き方改革」でままならないかもしれないが・・・)。

 やはり苦労している人の言葉には重みがある。経験に裏打ちされた力強さである。すぐにできることから真似してみたいと思う。そして何より努力を惜しまないことだろう。著者のようにとは言わないけれど、いくつかは心したいと思う一冊である・・・




posted by HH at 00:00| Comment(0) | ビジネス/経営者の本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【海の見える理髪店】荻原浩



海の見える理髪店
いつかきた道
遠くから来た手紙
空は今日もスカイ
時のない時計
成人式

 以前、『あの日にドライブ』という小説を読んで馴染みのある作家の今度は短編作品集。短編は『短編工場』でも一話だけ読んでいる。短編というのは、短い中でそれなりのストーリーを紡ぎ出さなければならないので難しい気もするが、ここにある短編はどれもちょっと心に引っかかるものである。

 「海の見える理髪店」はその名の通り、海の見えるところに立つ一軒の理髪店が舞台。1人の男がやって来て髪を切ってもらう。店主が男の髪を切りながら問わず語りに自分の人生を振り返って語っていく。昔ながらのやり方で髪を切りながら、店主の語っていく内容に引き込まれていく。そしてその話が、最後に目の前の現実と結びつく。

 「いつか来た道」は、長年母とソリが合わなくて家に寄り付かなかった娘が実家に帰ってくる話。弟から「今あわないと後悔する」と言われて渋々の里帰り。ところが家で待っていた老いた母親は、どこか様子が違う。脳裏を過るのは、かつての母親の言動。それを知ると娘にも同情したくなる。だが、目の前の老いた母はもうかつての母親ではなくなっている・・・

 「遠くから来た手紙」は、夫婦喧嘩をして子供を連れて実家に帰宅した妻の話。実家は弟が結婚して所帯を持ち、出戻り娘には居心地がよくない。そんな中、夜の10時過ぎに奇妙な文面のメールが届く。初めは夫からと勘違いしていたが、仏壇から取り出した重箱から手紙の束を見つけ、そうではないとわかってくる。かつて自分も中学時代の同級生だった夫と文通していたが、そんな自分たちの昔の手紙と祖父母の間の古い手紙が物語を彩る・・・

 「空は今日もスカイ」は小学校3年生の茜の物語。茜は英語を習っていて、目につくものの名前を英語で言いながら家出の道を歩いている。道中神社で男の子と出会い、行動を共にする。海を目指して。どうやら母親はダメな夫に愛想を尽かして実家に戻ったらしいが、そこも母娘にとって居心地の良い場所ではなかったよう。そして海に出た茜と男の子は、暗くなった海岸で途方にくれる・・・

 「時のない時計」は、父の形見としてもらった腕時計を修理するために古い時計店を訪れた息子の話。他の店では部品がないからと断られてしまっていたが、偶然入った昔ながらの古い時計店の主人はいとも簡単に修理に取り掛かる。店内に飾られた時計の数々。修理の合間に店主がそれぞれの時計に込められた思い出を語っていく・・・

 「成人式」は、娘を15で無くした夫婦の話。娘が死んで5年、生きていれば成人式という年。2人とも死んだ子供の年を数えて生きている。そんな夫婦の元に、成人式の着物の案内が届く。さらに悲しみが深まる妻に、夫は娘の代わりに2人で成人式に出ようと提案する。半分冗談のつもりだったが、その気になった妻は準備を始める・・・

 どれもこれも読後にじんわりと胸に沁みるものがある。少し優しい気持ちになれる物語が並ぶ。あまり数多く読んでいるわけではないが、ここまで読んで来た中から判断すると、著者の作品にはどれもそういう味わいがあるように思える。主人公が大人の男であったり女であったり子供であったりするが、どれもそれぞれの立場からの味わいがある。ほっとしたい時に読むといいような気がする作家である。

 また次も、そんな気分になりたい時に手にしたいと思える一冊である・・・




posted by HH at 00:00| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月06日

【誰がアパレルを殺すのか】杉原 淳一/染原 睦美



第1章 崩れ去る内輪の論理
第2章 捨て去れぬ栄光、迫る崩壊
第3章 消費者はもう騙されない
第4章 僕らは未来を諦めてはいない

 いつも読んでいるちきりんの日記で紹介されていたのを読んで興味を持った一冊。ファッションには疎い自分には縁遠い世界なのであるが、「他の業界の人でも参考になる」と言われれば、読んでみねばならないと思うもの。

 アパレル不振はもう長く言われているが、この本は「例年売上高が1割ずつ減少し、純利益も急降下、売り場やブランド、働く人々が次々と姿を消している」業界を衰退に追いやった「真犯人を突き止めた」と語るが、結論としては何となくズレている気がする。第1章では、暴れる業界の現状を数字で説明してくれる。1991年と2013年を比較。国内市場規模は15.3兆円から10.5兆円へと大きく減っている。およそ1/3が消失しているというのはかなりな事態であろう。

 一方で供給量は20億点から39億点へと倍増に近い伸びを示している。単純に考えれば、単価が安くなっていると考えるのだが、ここでいう「供給量」とは「売りに出される商品≠売れた商品」だということである。つまり、「メーカーは中国で大量に生産し、スケールメリットで単価を下げ、大量の商品を供給することで何とか商売を成り立たせている」と分析する。「売れ残りを前提としたビジネス」であるという。

 業界の不振はバブル崩壊に端を発し、場当たり的な対策は商品の技術力や企画力の低下を招く。商社やOEMメーカーに「何でもいいから売れ筋商品を持ってきてくれ」と頼み続けるうちに自ら売れ筋を生み出す力を失っていったとする。もはや日本のアパレルは97%が海外製で、OEM生産は商品の同質化をもたらし、作るのではなく売れ筋を追うだけになっていると言う。何も考えずに作れば売れた時代は良かったが、バブル崩壊で消費者の財布の中身が薄くなってしまい、そんなにアパレルにお金を落とせなくなった消費者の状況に対応できていないのであろう。

 そんな既存の企業に対し、オンラインSPAと呼ばれる新興企業が登場している。出店を抑え、広告宣伝をやめて浮いた資金は商品の素材やデザイン、顧客サポートに投下、小ロット・在庫なし・マーケティングはSNSでというものらしい。店頭では8月には秋冬物が並ぶのが今の業界慣習。だが、それは「アパレルの都合」という指摘はもっとも。我々も当たり前に思わされていたが、新興企業はそういう当たり前を崩して成功している。

・セールは価格設定が誤っていることの証左
・安さではなく、価格の妥当性が重要
確かに、言われてみればもっともである。そして実際、ゾゾタウンなどはアパレル不振とは無縁に業績拡大を続けているという。ゾゾタウンは販売した自社製品の買取サービスまで始めているという。こうした取り組みを機敏に取れるか否かが、業績に現れているのは間違いない。

 さらには、エアークローゼットのように服のレンタルを始めているところもあるという。メチャカリという企業は、1ヶ月5,800円で自社グループの服を何度でも借りられるのだという。オーダーメイドのヌッテや国内生産で需要に合った商品を投入して売れ残りを防ぎ、定価で売り切ることを前提に商品を作り、余計な在庫と処分リスクを抑えて原価率50%を達成しているトウキョウベースなどが紹介される。

 昔からのやり方から脱却できずに苦しむ伝統企業と、ネットを利用し、創意工夫で消費者に合わせて商売をしていく新興企業が対照的に説明される。アパレルが不振というより、業界の変化に対応できているかいないかの違いだけの気がする。なるほど、そう考えると確かにどこの業界にも当てはまりそうである。果たして、自分の所属する業界はどうだろうか。しばし考えるヒントにはなりそうな一冊である・・・




posted by HH at 00:00| Comment(0) | ドキュメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月04日

【アナログ】ビートたけし



 ビートたけしと言えば、お笑いの世界の人という認識はもはや古びたものであり、個人的には今や役者、あるいは映画監督という感覚を強く持っている。マルチタレントと言えばその通りであり、その上に「超一流」とつけたくなるくらいである。そんなビートたけしはさらに文筆までこなしているが、最近はビジネス書(『【間抜けの構造】ビートたけし著』『【新しい道徳】北野武著』)を読んできたが、これは純粋な小説。非常に興味を持って手にした一冊である。

 物語の主人公はデザイン会社に勤務する水島悟。バリバリ仕事をこなすというよりも、目立たないながらもきっちり仕事をこなすというタイプの人物のようである。そんな水島は、仲の良い3人組の高木と山下といつものように飲みに行く約束をし、「ピアノ」という名の喫茶店で待ち合わせをする。そしてそこで偶然1人の女性と出会う。

 女性の名はみゆき。もともと悟はナンパなどするような男ではないが、それでもみゆきに一目で心惹かれ、勇気を出してまた会ったら声をかけてもいいかと尋ねる。現代ならすぐに携帯の番号を聞くか、メルアドを聞くか、Lineをフリフリするのだろうが、声をかける許可をもらうというところが、なかなかである。タイトルの「アナログ」はこんな悟の様子を指している。

 悟の問い掛けにみゆきは毎週木曜日にピアノに来ていると答える。考えてみれば、一昔前まではこんな具合だったと思い起こす。そんな悟を高木と山下はからかうが、個人的にはいきなり繋がる現代は便利なのか味気ないのかよくわからないところである。そうして悟は毎週木曜日が待ち遠しくなる。

 物語は、悟のみゆきに対する恋物語。恋をすれば、人間誰でも世の中バラ色になる。どんなに仕事があっても木曜日にはピアノに行きたい。ピアノに行くには仕事を終えなければならない。そんな中で、悟は徹夜をこなし木曜日にピアノに行く時間を確保する。考えてみれば、恋するこういう時期が一番楽しいものだと今だからこそわかる。

 そして大阪転勤を言い渡された悟は、みゆきと会えなくなるよりはとついにプロポーズをする決意をする。そして指輪をポケットに秘めてピアノに行くが、その日とうとうみゆきは現れない。ドラマの展開というのはこういうものであろう。それにしてもたけしのストーリーテリングもなかなかのものだと思う。ところどころ読みにくいところが無きにしもあらずだったが、総じてまぁ面白かったのではないかと思う。

 アラを言えばきりがないように思えるが、手軽に読める厚さであることを考えれば、たけしの小説という話題性について行く為にも読む意味はあると思える恋愛小説である・・・




posted by HH at 00:00| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月02日

【SHOE DOG −靴にすべてを。−】フィル・ナイト



原題:SHOE DOG
夜明け アスリート人生
第1部
1962 オニツカとブルーリボン
1963 会計士として
1964 レジェンド・バウワーマン
1965 巨漢ヘイズ
1966 手紙魔ジョンソン
1967 ウッデルの参加
1968 ペニーと結婚
1969 フジモト
1970 8000ドルの借金
1971 ナイキ・ブランド誕生
1972 シカゴの展示会 
1973 偶像を破壊する
1974 専属弁護士ストラッサー
1975 日商岩井
第2部
1975 ブリとの別れ
1976 バットフェイス
1977 ゴールラインは存在しない
1978 2500万ドルの請求
1979 中国進出
1980 株式公開
夜  死ぬまでにしたいこと

 著者は、ナイキの創業者。ナイキといえば、今や世界一のスポーツメーカー。そんな世界一の企業を一代で築き上げたのが著者のフィル・ナイト。その創業からの一代記を記した本として、この手の伝記物系が大好きな私としては、ウキウキしながら手にした一冊。内容は期待を裏切ることのない、実に面白い物語であった。

 物語は、1962年に始まる。24歳の著者は、オレゴン大学を卒業し、スタンフォード大学でMBAを取得し、米陸軍で1年間鍛えられた若者。その時、すでにあるアイディアを胸に秘めている。それは、著者自身、大学時代からアスリートであったこともあり、日本のランニングシューズの将来性に可能性を見出しており、それを事業化しようというもの。スタンフォードでレポートにし、確信を得て父親に説明し、その承認と出資を仰ぐ。

 実は、父の賛成は予想外だったらしいが、その承認と出資を得て、著者はまず友人とハワイへ行く。いきなり日本ではなく、「世界を見てみたい」との気持ちからだったというが、もうスケール感が違う気がする。当時の日本はオリンピックを控えていた高度成長期だったと思うが、こんな発想をし、そして何より実行できる人は(金銭的な余裕という意味で)あまりいなかったのではないだろうか。最初の訪問地ハワイで著者は仕事を見つけ、友人とともに働きながら暮らす。実に優雅である。そして友人と別れて日本へと向かう。

 当時の日本はまだ戦争の傷跡が残っていて、暗い場所が残っていたという。そして知人にアドバイスをもらったりしながら、「タイガー」というブランドに目をつける。そのブランドを作っていたのは「オニツカ」。現在のアシックスであるが、ナイキの原点がアシックスだったというのは意外な驚きである。ここで相手の無知をいいことに、自らはブルーリボンという会社の代表だと咄嗟に取り繕って、シューズ供給の約束を得る。

 そして世界各地を回って帰国。いよいよオニツカのシューズを仕入れて販売し始める。パートナーに選んだのは、大学時代のコーチ、バウワーマン。この方、陸上のコーチであるが、実に熱心でシューズにも造詣が深かったのだという。自ら改良をしたりもし、ワッフルの枠型でソールを開発するほどだったというし、スポーツドリンクも開発していたようである。

 こうして始まったオニツカのシューズ販売。次第に仲間が増え、売上も上がっていく。しかし、次から次へと難題が持ち上がる。分厚い本の大半がこの難題との格闘である。そしてこれこそが、起業にまつわる困難と、それを乗り越えた先に待つ未来なのだろうと思う。特に資金調達にまつわるエピソードは興味深いし、「上場=成功の証」ではなく、「自由の放棄」と捉えている考え方に改めて感心させられる。

 それにしてもナイキと日本企業との深い関係には改めて驚かされた。オニツカ(現アシックス)は、そもそもそのシューズを著者が売ろうと思い立って代理店契約を結んだわけである。のちにオニツカも欲が出たのか、ナイキとの契約を切ろうとして裁判にまでなるが、その窮地を救ったのが当時の日商岩井。日商岩井には先見性があったのかもしれないが、興味深いエピソードが続いて面白い。

 我々は今日の巨大企業ナイキの姿を知っている。だから著者の物語は安心して読むことができる。どんなに困難があろうとも、成功が約束されているからである。しかし、当時の渦中の当事者にとっては過酷な試練の数々だっただろうと思う。それを乗り越えられたのは、執念であり、仲間との絆であるのだろう。それにしてもナイキを切ろうとした当時のオニツカの役員キタミ氏。それがキッカケでナイキが誕生したわけであるが、今どんな気分なのだろうと思ってしまう。

 波乱万丈のナイキの物語。単純なサクセスストーリーとして読んでも面白いし、起業の参考として読んでも面白い。これだから創業社長の本を読むのはやめられないと思わされる一冊である・・・




posted by HH at 00:00| Comment(0) | 有川浩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年02月01日

【絶対肯定の子育て】北方雅人/本荘そのこ



第1章 愛情の法則
第2章 私の育てられ方〔経営者編〕
第3章 子育てと「暗示」
第4章 私の育てられ方〔著名人編〕
第5章 伸びる言葉、萎える言葉

 「子育て」は今の私にとって、仕事と並んで関心の深いテーマである。「親はなくても子は育つ」という言葉はあるが、自分という親がいる以上、自分の子供の将来には責任を持ちたいし、やがて独り立ちした後、きちんと自立して生きていって欲しいし、そのためにはできる限りの事をしたいと思う。そしてその「してあげたいこと」の中心は、やはり「考え方」の育成である。

 そんな自分にとって、この本はなかなか示唆に富んだ本であった。まず、「子育て」とあるが、対象となる子供は小さな子に限らない。ここで例示されている例は、大人になって社会人として社会の荒波に揉まれている我が子にアドバイスする親がたくさん登場する。学校を卒業したら「子育ては終わり」ではなく、人生の先輩として、できれば教え導く、あるいはヒントを与えられる存在でありたいと思う。そんな参考になるのである。

 冒頭で、サイゼリヤの創業者である正垣泰彦の例が採り上げられる。正垣は自分のレストランを持つも、客同士の喧嘩から火災となり店が全焼するという悲劇に見舞われる。正垣はそこでの再建を諦めようとしたが、その時正垣の母が、「その場所でもう一度やってみなさい。降りかかる災難はすべて自分のために起こるもの、だから火事に感謝しなければいけない。あなたならきっとできる」と諭したという。自分にはとても真似できないアドバイスである。

 また、セコムの創業者飯田亮は、子供の頃父親は何か頼みごとをすると必ず「ダメ」と言ったという。一言目はダメで、子供が粘って交渉すると父親は条件を出す。それに挑戦してクリアすれば認めてもらえたという。飯田の兄弟は皆起業したりして成功を収めており、それは父親のこういう教育の賜物であるのだろう。まさに「この親にして」と感じる。

 紹介されているのはいい例ばかりではない。ニートになった子の場合、高校時代に人付き合いが苦手で、親に何度も「学校を辞めたい」と相談したという。そしてその都度、ダメだと言われたらしい。その結果、卒業はしたものの、そこで燃え尽きて引きこもりになってしまったそうである。こういう場合、どうしたらいいのだろうか。自分も間違いなく辞めないように説得すると思うが、それが正解とは限らない。実に考えさせられる。

 タイトルに「絶対肯定」とあるように、総じて相通じる考え方は、「肯定感」であるようである。子供の考えを尊重し、選択権を与えると子供は「自分は認められている」という自己肯定感を持つという。様々な成功者の例を見れば、この自己肯定感が大事であることがわかる。ホームズを立ち上げた井上社長は、母親から
1. 世界中の人があなたの敵になっても母さんはいつも味方よ
2. あなたは大器晩成よ
3. 何事も経験よ
と励まされ続けたのだと言う。このくらいなら自分にもできそうである。

 さらに参考になったのは、「暗示の子育て」とその3つのポイント。
1. 命令ではなく、良い点を認め、褒める
2. 繰り返し言う
3. 心からそう信じて言う
親は子供に常に寄り添い続けることはできない。子供はいつかどこかの時点で自立し、1人で困難に立ち向かわなければならなくなる時が来る。そんな時、その子を支えるのは親から育まれた自己肯定感なのかもしれない。

 自分のことは自分でなんとかするが、子供は子供で自分でなんとかできるようにならないといけない。いつまでも手元に置いて大事に育てたいと思うがそうもいかない。やがて自立して行く時に、子供の心にしっかりと「生きて行くのに必要な考え方・自信」を持たせてやりたいと思う。そんな自分にとって、この本で採り上げられている親のエピソードは実に参考になる。まだまだ時間はあるので、自分もそんな親になれるように参考にしたい一冊である・・・




posted by HH at 00:00| Comment(0) | 教育 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする