2017年09月20日

【謙虚なコンサルティング クライアントにとって「本当の支援」とは何か】エドガー・H.シャイン



原題:Humble Consultibg How to Provide Real Help Faster

1. コンサルタントなのに、どうしたらいいのかわからない
2. 謙虚なコンサルティングはどのように新しいのか
3. 互いを信頼し、率直に話しのできるレベル2の関係の必要性
4. 謙虚なコンサルティングは最初の会話から始まる
5. パーソナライゼーション-レベル2の関係を深める
6. 謙虚なコンサルティングはプロセスに集中する
7. 新しいタイプのアダプティブ・ムーブ

もともとコンサルティング系の仕事には興味を持っているのだが、それは読む本を選ぶ時にも自然と現れてくる。この本もそんな傾向の中で手にした一冊。
「謙虚なコンサルティング」とは一体何なのか。それは「クライアント自身が納得感のある解を自ら探っていけるよう支援する」ものだという。コンサルタントというと、どうしても教え導く「先生」というイメージがあるから、言わんとしているところはよくわかる。

謙虚なコンサルティングで重視するのは、「プロセス・コンサルテーション」。結論だけを教えるというのではなく、結論に自ら至れるようにするということであろう。「クライアントが主語」という言葉にそれはよく現れている。そうしたコンサルティングが求められるようになった背景として、「かつてない複雑な問題」、「かつてない種類のクライアント組織」、そして「クライアントが感じているかつてない切迫感」を挙げている。

「謙虚なコンサルティング」の特徴は、「クライアントとの間のこれまでにない個人的な関係が必要」な点だとする。それには「謙虚な姿勢」、「支援したいという積極的な気持ち」、そして「好奇心」が必要となる。さらに新しいタイプの聴くスキルと対応するスキルが必要とする。聴くスキルの具体的内容は下記の通り。

1. 自己中心的に聴く:自分が最初に何に注意を引かれたか
2. 内容に共感しながら聴く:クライアントが伝えたい問題の要素は何か
3. 人に共感しながら聴く:クライアントが実際にどのように経験し、感じているか

こうした理論だけだと何となくわかったような気になってしまうが、著者が例示する具体的事案がその理解を助けてくれる。特にあるプロジェクトで、タスクフォースのメンバーとどのようにスタートを切るかが問題になった事例で、著者はパーソナライズ(打ち解けた)された関係を築くために「チェックイン」と呼ばれる手法を導入した例が印象的であった。これは要は自己紹介なのであるが、そのプロジェクトに対する思い入れを語ってもらうことで、メンバーの共感を集めたというもの。特に同じ会社でも話をしたことがないメンバーなどでは効果的に思う。

クライアントとは師弟の関係に立つのではなく、あくまでも寄り添うことを目指す。クライアントと支援者が信頼し合い、率直に話ができることが大切であり、「レベル2の関係」と呼ぶパーソナライズされた関係を重視する。これはコンサルタントのみならず、上司と部下でも親子でもできそうである。よくよく考えてみれば、これこそコンサルタントが必要とするスキルのような気がするが、こうした本が出されるということは、そうでなかったということかと改めて思わされる。

本を読んだだけでどの程度身につくかはわからないが、自分自身の対人関係のスキルとして、意識してみたいと思わされるものである・・・


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2017年09月15日

【欲望】小池真理子



ここのところ、小池真理子の作品を読んでいないという渇望感から過去の作品を検索し、選んだ一冊。小池真理子の作品はすべて読んでいた気がしていたが、まだ漏れていたものがあったということでちょっと驚いた次第である。

物語の主人公は、図書館司書をしている女性青田類子。類子には、中学時代から仲のいい安藤阿佐緒と秋葉正巳という友人がいる。阿佐緒は美人でかつ早熟で、中学の頃からその年齢とアンバランスな肢体で、男子生徒や教師の視線を引きつけていた。正巳は読書が好きな2枚目の好青年。正巳と阿佐緒は付き合っていて、そんな2人と類子は気があって仲良くしていた。

そうした過去の日々は過ぎ去り、今やさる女子大の図書館で働く類子は、ある日偶然入った写真展でかつて阿佐緒が嫁いだ家の写真を見つける。それは三島由紀夫邸を寸分違わず模倣したという館。そこから類子の回想が始まり、この物語が語られて行く。

阿佐緒と付き合っていた正巳は、ある日事故にあって大怪我を負う。やがて回復したものの、事故の影響で性的不能となってしまう。これがこの物語の大きなキーワード。そして読書好きな正巳と類子の共通の話題でよく出てくるのが、三島由紀夫。これがこの物語のもう一つのキーワードとなる。

類子は、学園の高等部教師能勢と付き合っている。と言っても能勢は妻子持ちで、いわゆる不倫である。類子と能勢の関係は完全な「体だけの関係」。類子は能勢に対し、離婚など求める気はなく、純粋に肉体関係だけの繋がりを淡々と続けている。

卒業以来、途切れていた阿佐緒と正巳との関係が、偶然の再会により復活する。阿佐緒は著名な学者と結婚し、三島由紀夫邸を模した館で暮らしている。夫婦関係に不満を持つ阿佐緒は、しばし類子と正巳を読んで時を過ごすが、やがて悲劇が起きる。

3人の物語が類子の回想という形で描かれて行く。まだ時代は昭和の時代。三島由紀夫の作品「仮面の告白」や「豊饒の海」シリーズがしばしば引用される。個人的に三島由紀夫は好きでかなり読んでいるから、ここのところは共感度大である。

正巳の苦悩は、若くしての性的不能。男であれば、想像もしたくない事態である。女性である著者だが、その描き方は違和感がない。類子は、能勢とは肉体的繋がりを持ち、正巳とは精神的な繋がりを持つ。そんな類子の姿には、共感しうるものがある。自分自身、似たような経験があるからかもしれない。

美しい文章は、全作品に共通している。ここでもそれは健在。特に何かを描写するシーンは、うっとりと読み惚れてしまう。そんな著者だが、ここで描かれる三島由紀夫を見ていると、どうやらご本人も相当読み込んでいるなと思わされる。読んでいるうちに、本棚から引っ張り出してきて、埃を払って読みたくなってしまった。

様々な形の女性の恋愛を描く著者。他にも読み漏れているのがないかチェックしてみることにした。漏れているのがあったら、それはそれで嬉しい気もする。私にとって小池真理子は、三島由紀夫と合わせて何度でも読んでみたい作家なのである・・・



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2017年09月13日

【マンションは日本人を幸せにするか】榊淳司



プロローグ マンションが日本人にもたらした「正と負」
第1章  マンションは日本人を幸せに導いてきたか?
第2章  マンションの黎明期
第3章  管理組合と民主主義
第4章  儲けるためのマンション
第5章  繰り返される不動産バブル
第6章  マンション、この不完全な住まい
第7章  マンションは日本人の健康を損なうか?
第8章  マンションの未来を拓くために
エピローグ 二つのマンションの奇跡

仕事柄マンションに携わる機会には事欠かないのであるが、そんなこともあってこういうタイトルの本にはついつい手が出る。著者は、長年マンションの広告・販売戦略立案に携わった経験がある住宅ジャーナリストだそうであるが、そんな方だからこその思いがいろいろと盛り込まれた本である。

中身はマンションの歴史から始まる。住宅不足解消のため「団地」が大量供給され、日本人の核家族化、少子化に一役も二役も買っているという(個人的にはどうかなと思う考えである)。以来約60年。そこには正と負の両面があるという部分には同意である。

負の部分として、「理事長による管理組合の私物化」が挙げられる。これも耳にしたことがあるが、管理組合は得てして「無責任集合体」となる危険性があり、悪意を持った人が理事長になるとなんでもできてしまう。その他、「建て替えハードルが高い」「強力な財産権の保護が裏目」といった問題を指摘する。

管理組合をきちんと機能させるには、
1. 区分所有者は管理組合の総会で懸命な判断をする
2. 理事長及び理事はマンション全体の利益を図る
3. 区分所有者は理事長及び管理会社を適切な監視下に置く
ことが必要だとする。当たり前のことだが、選挙と同様に仕組みがあっても参加者の意識が伴わないと機能しないのは言うまでもない。

その他、著者が問題として提示しているのが以下の通り。
1. 「お仕着せ4点セット(管理会社、管理規約、管理費・修繕積立金、長期修繕計画)」
2. 外国人との共存
3. 予告広告をはじめとした販売方法
4. 囲い込み、両手仲介
5. レインズを解放すべし
6. 中間省略
すべてよくわかっている立場から言えば、問題部分もあるがやむを得ないものもあり、一概に賛成しにくいところはある。

「マンションは日本人を幸せにするか」というのは大胆なタイトルだと思うが、幸せになれるかどうかはその人次第。マンションにはいい点も悪い点もあって、どちらとも言えないものである。それはそうと、マンションに関わる問題点を知るにはいい本だと思う。マンションに住んでいる、あるいは住もうとしている人には一読をお勧めしたい一冊である・・・



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2017年09月09日

【陸王】池井戸潤



第1章 百年ののれん
第2章 タラウマラ族の教え
第3章 後発ランナー
第4章 決別の夏
第5章 ソールを巡る旅
第6章 敗者の事情
第7章 シルクレイ
第8章 試行錯誤
第9章 ニュー「陸王」
第10章 コペルニクス的展開
第11章 ピンチヒッター大地
第12章 公式戦デビュー
第13章 ニューイヤー決戦
第14章 アトランティスの一撃
第15章 こはぜ屋の危機
第16章 ハリケーンの名は
第17章 こはぜ屋会議
最終章 ロードレースの熱狂

新刊が出れば欠かさず読んでいる池井戸潤の作品。元銀行員の池井戸潤らしく、その小説はビジネスものが多く、読みながら物語の楽しさを味わうとともに、仕事でのヒントになることもある。そんなところが池井戸潤の小説の面白いところだろう。

物語の舞台となるのは、代々にわたって足袋を製造してきたメーカーこはぜ屋。社長の宮沢は、足袋と言う斜陽産業に限界を感じていて、経理を担当する富島と資金繰りに頭を悩ませる日々。メイン銀行も当然厳しい対応。支店長もいい顔をしないが、しかし担当の坂本だけは何とか支援をしたいと考え、宮沢社長には新事業を考えるようにと提案する。

坂本の紹介でシューズインストラクターの有村を紹介された宮沢は、足袋は実は人間本来の走り方に適しているという話を聞く。そして宮沢は、ランニングシューズの製造を決意する。こうしてこはぜ屋の新事業を縦糸として物語は進んでいく。こはぜ屋を取り巻く人々の人間模様が物語の横糸となる。

宮沢社長の息子大地は就職に失敗し、就活をしながらこはぜ屋で働いている。大学駅伝で脚光を浴びたものの、怪我で低迷している茂木裕人。外資系シューズメーカー大手のアトランティスでは、ランナー想いでランナーの信頼が厚いが冷遇されているベテラン村野尊彦。その上司で数字しか頭にない営業部長小原。新素材の特許を持っているが、会社を潰してしまった飯山。それぞれの人生のドラマが描かれる。

池井戸潤のビジネス小説には一つのパターンがある。中小企業が、大企業の不当な圧力に抗して奮闘していくと言うものである。『下町ロケット』は、大手のナカシマ工業から特許訴訟を起こされ、主要取引先から取引を打ち切られた佃製作所が、ロケット開発に関する特許と技術力を武器に戦っていく物語。『ルーズベルト・ゲーム』も大手のミツワ電気による合併工作を跳ね返していく物語。いずれも弱いものが強いものに立ち向かっていく姿に心打たれる物語である。このドラマもそれを踏襲している。

足袋の製造メーカーが、ランニングシューズに挑戦なんて現実的に考えても難しそうである。ところがこのドラマの中では、それが自然な形で展開される。リアリティを伴っているわけで、それが故に面白いとも言える。大手シューズメーカーアトランティスの妨害はドラマを盛り立てる演出としても、シューズ開発のプロセスや経理部長の反対や、儲かっていない会社に対する偏狭な支店長の態度は、現実に普通にありうるものである。

開発を続けるこはぜ屋がアッパー素材を開発しているベンチャーを見つけ、うまく提携する。ところがそこにアトランティスが横槍を入れる。アトランティスが、その素材を大量に買い取るが条件となるのが独占取引(こはぜ屋排除)をそのベンチャーに申し入れる。ベンチャーとしては、願ってもないオファー。しかし、こはぜ屋に対する義理がある。経済メリットと義理との間で社長は悩むが、こう言うビジネスジャッジも自分だったらどうするだろうと考えてみるのも面白い。

就活をしている大地は、面接に落ち続ける。大地の仕事に対する態度などからすれば、その理由も何となくわかってくる。そして飯山とともに新事業に打ち込んでいくうちに、大地自身も仕事に対する考え方が変わってくる。その結果、面接でもいい感触を得られるようになるが、それも当然だろう。こうしたビジネスシーンの数々は、現実のビジネスでいいヒントになる。ストーリーの面白さだけが魅力ではない。

途中ウルウルすることが多々あり、何かを目指す人たちの熱い姿には心打たれるものがある。感じ取れることはストーリーの面白さだけではない。読む前の期待を全く裏切られない内容。これからも目が離せない作家の一冊である・・・

 


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2017年09月08日

【逆説のスタートアップ思考】馬田隆明



前 章 スタートアップとは
第1章 アイデア
第2章 戦略
第3章 プロダクト
第4章 運 それはコントロールできる
終 章 逆説のキャリア思考

スタートアップとは、これまでなんとなく「起業したての会社」というイメージでいたが、厳密にいうとそうではないらしい。スタートアップとは、「短期間で急成長を目指す一時的な組織体」ということらしい。起業したてでも着実な成長を目指すものは、「スモールビジネス」であり、スタートアップとは異なるとしている。著者はそんなスタートアップ支援を長年手がけている方のようである。

スタートアップの世界では、普通のビジネスの考え方や起業の方法論がうまく当てはまらないことが多々あり、この本はそんなスタートアップに関するノウハウについて、特に「アイデア」「戦略」「プロダクト」について集中的に解説したものである。この本を手に取ったのは、別にこれからスタートアップを手がけようというつもりではなく、新規事業についてのヒントを求めたつもりである。

まずは「アイデア」。成功するアイデアについては4つ挙げられている。
1. 不合理な方が合理的
2. 難しい課題ほど簡単になる
3. 本当に良いアイデアは説明しにくい
4. スタートアップはべき乗則に従う

ここで参考になったのは、「一見悪いように見えて実は良いアイデア」という考え方。と言っても悪く見えるアイデアがいいというわけではなく、むしろ悪く見えるアイデアのほとんどは単に悪いアイデアとするから難しい。むしろ大事なのは「実践」なのかもしれない。「起業家の重要な資質は粘り強く臨機応変であること」は真実なのだろう。

「戦略」についての考え方は、「やはりね」と思わされることが並ぶ。
・スタートアップが目指すのは「勝つことではなく競争を避けて独占すること
・競争に勝つにはどうやって競争から抜け出すかを考えること
・素早く独占するために必要なのは何よりも素早さ
・小さな市場を選ぶ
・先行者利益より終盤を制する
・戦略の本質は「何をしないか」を選択すること
・戦略は実践から生まれる

「プロダクト」で大事なことは、
・人の欲しがるものを作る
・それをすべての人々に届ける
・シンプルなものを高くローンチ
・多数より少人数に愛される製品を作る
ことだとする。

最後に大事なのは、「運」だと語られる。そんな話を聞くと、先日読んだ『成功する人は偶然を味方にする−運と成功の経済学−』を思い出す。真実というのは、そうそう変わるものではないのだろう。言っていることは同じである。

いろいろと人によって考え方はあるだろう。スタートアップを目指す人ばかりではないだろうし、何か新しいことを考えなければならない人なら、なんらかのヒントは得られるだろう。そんな意味合いがある一冊である・・・


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2017年09月04日

【キャスターという仕事】国谷裕子



第1章 ハルバースタムの警告
第2章 自分へのリベンジ
第3章 クローズアップ現代
第4章 キャスターの役割
第5章 試写という戦場
第6章 前説とゲストトーク
第7章 インタビューの仕事
第8章 問い続けること
第9章 失った信頼
第10章 変わりゆく時代の中で
終 章 クローズアップ現代の23年を終えて

著者は元NHKの「クローズアップ現代」のキャスター。実はこの番組があるのは知っていたが、ほとんど見たことがない。著者のことも顔を見たことがある程度である。番組自体23年も続いていたということで、ずっとキャスターを務めていたという事実には、やはり興味を惹かれて手にした次第。一つのことを続けてきた経験からは、傾聴に値するものもあると思うのである。

もともと帰国子女で英語ができたという著者。NHKの海外向け英語ニュースを読む仕事を頼まれる。その後、ニュースの翻訳などを手伝ううちに、デレビに出る仕事に誘われる。それを「(日本時間では)深夜の時間帯で誰も見ていないから」という理由で引き受け、やがてそれが高じてキャスターとなる。

クローズアップ現代は、番組としてはスタジオを重視しているという。そして著者が重視するのは、「言葉の持つ力」。キャスターとして、「想像力」「常に全体から俯瞰する力」「ものごとの後ろに隠れている事実を洞察する力」だという。テレビの報道に対しては、個人的に否定的にしか見れていないので、考えている人は考えているのだと思わされる。

テレビ報道には3つの危うさがあるという。
1. 事実の豊かさをそぎ落としてしまう
2. 視聴者に感情の共有化、一体化を促してしまう
3. 視聴者の情緒や人々の風向きにテレビの側が寄り添ってしまう
1については、分かりやすいメッセージだけを探ろうとし物事を単純化することだとするが、これはよくわかる。「偏向報道」などその最たるものだろう。

やはり話の中心になるのは、クローズアップ現代。番組に携わることになった経緯から、その時々の経験。特に著名人とのインタビューの経験談などは興味深い。PLOのアラファト議長や高倉健との部分は、実に印象的である。また、直接のインタビューは例外的なようで、大半はいろいろなテーマについて、取材に基づいて報じるというスタイル。そのため、「キャスターの役割は視聴者と取材者の橋渡し」とする。

取材してきたものを関係者全員で試写し、議論する。そしてその結果を編集し、全体試写を前日と当日行い放映というパターンだったそうである。それが月曜から木曜日まで。なかなか大変であっただろうと思う。著者は初めこそ当日の全体試写のみの参加であったが、やがて前日試写から参加することにしたという。そこには、「最終的に視聴者と向き合うのはキャスター」という思いが著者にあったからだろう。

税金の無駄遣いを問題視していたら、それが公共サービスの民間委託による経費削減へと繋がり、それが労働者の非正規化を招き、次に格差、貧困といった問題が生じる。ものごとは一面だけでは捉えられないわけで、伝える方も難しいと思う。その中にあって、「自分の言葉で語る」というスタンスをとる著者の姿勢から、仕事に対する真剣さが伝わってくる。

もっと早くこれを読んでいたら、クローズアップ現代ももう少し見ていたかもしれない。なんであれ、その道を極めた人の話からは、得るものがあるものだと改めて思わされた一冊である・・・



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2017年08月30日

【見上げれば、星は天に満ちて】浅田次郎



百物語 森鴎外
秘密  谷崎潤一郎
疑惑  芥川龍之介
死体紹介人 川端康成
山月記 中島敦
狐憑  中島敦
ひとごろし 山本周五郎
青梅雨 永井龍男
補陀落渡海記 井上靖
西郷札 松本清張
赤い駱駝 梅崎春生
手   立原正秋
耳なし芳一のはなし 小泉八雲

実家を訪れた時、本棚に浅田次郎の名前があるのを見つけて借りてきた一冊。てっきり浅田次郎のまだ読んでいない本かと思ったら、なんと「浅田次郎が選んだ短編小説」というものであった。なかなかややこしい。作家の名前を見て行くと、そこには日本の文壇を代表するような作家の名前が並ぶ。中には名前は知っていても、まだ作品を読んだことがないという作家も入っている。それはそれで興味を惹かれる。

森鴎外は、「舞姫」に何度かチャレンジしたが、読みにくくてその都度ギブアップしている。タイトルから怪談めいたものを想像していたが、ちょっと肩透かしを食ったところがある。谷崎潤一郎は、やっぱり独特の雰囲気がある。「秘密」は、目の前を悠然と通り過ぎて行くようなイメージの作品である。

芥川龍之介は、「藪の中」をはじめとして、この中では一番多くの作品を読んでいる。この「疑惑」は、関東大震災で崩れた家屋の下敷きになった妻を火災が迫る中、殺してしまった男の話。自らの疑念に潰されて行く男の心情がなんとも言えない。

川端康成は実は一冊も読んだことがない。もちろん、有名作品のタイトルくらいは知っているが、読んだことがないという事実には改めて愕然とする。収録されている中では一番長い「死体紹介人」は、バスの中で見かけた女車掌と部屋を交代で使うことになった男の奇妙な話。なんとも言えない後味の作品である。

1人だけ2作品掲載されているのは、中島敦。正直言って知らなかった作家。中国の虎になった男の話と、奇妙な異国の話はこの人の作風なのかと思わなくもない。井上靖は、映画化された『天平の甍』『敦煌』などの名前だけを知っているだけであるが、この「補陀落渡海記」はそんなテイストを残したある僧侶の話である。

変わっていたのは、松本清張だろうか。ミステリー作家というイメージでいたのだが、「西郷札」はそんな雰囲気が微塵もない。西南の役の際に発行された西郷札をめぐる話。『砂の器』『ゼロの焦点』といった作品とはまるで趣が変わっていて、意外であった。

全ての作家の作品を読むのはなかなか難しい。されどこういう形で、浅田次郎が心に深く残った作品をまとめてくれているのは、やはりいい機会になる。正直に言って、「これらの作品のどういう点が心に残ったのか」は、大いに興味のあるところである。これはこれで、やっぱり「浅田次郎の作品」なのだろうと改めて思わされる一冊である・・・



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2017年08月29日

【マジ文章書けないんだけど−朝日新聞ベテラン校閲記者が教える一生モノの文章術−】前田安正



1st.STEP 基本中の基本!主語と述語について考える
2nd.STEP 文章を書く基本!文と文章の構造を考える
3rd.STEP めさせ!伝わる文章 人の思考を意識する
Final STEP 秘策!文章マスターへの道 「WHY」を意識する

日頃、ブログを書いていると、否が応でも文章の書き方を意識する。そんなところら持ってきて、「朝日新聞ベテラン校閲記者が教える一生モノの文章術」というサブタイトルを見たら、読まずにはおけないということになるだろう。内容的には、「大学3〜4年生から社会人になって文章を書くことに戸惑いを感じている方に焦点を絞った」とされているが、50歳を過ぎて読んでもいいではないかと思い、手にした次第である。

文章の書き方指導と言っても、内容はストーリー形式で、まさに就活を控えた女子大生が、エントリーシートの書き方を不思議なおじさんに学ぶというものになっている。形はともかく、興味があるのはその中身である。「文章術」と言っても、ページをめくっていくと難しいことが書いてあるわけではないとわかる。例文も豊富でわかりやすい。

「このバッグはブランドものなので、値段と人気が高く、品質とデザインが美しいブランドだ」という文章は一見何となくギクシャク感があるが、ではどこをどう直すとなると考えてしまう。
それを問題点を解説しながら、
「このバッグはブランドものなので値段が高い。しかし品質がよくデザインが美しいので、若い女性に人気がある」と直されるのを見ると、なるほどと思う。実にわかりやすい。

「文とは一つのまとまった内容を表す基本単位」、「文章とは一つ以上の文が連なったもの」という基本は、何となくわかったつもりでいること。「主語と述語をしっかりと対応させ、一つの文は一つの要素で書く」ということは、改めて教わると今までできているかどうか心もとない。

松田聖子の赤いスイートピーの歌詞を使った解説が面白い。
「なぜあなたが時計をチラッと見るたび、泣きそうな気分になるの?」において、「が」と「は」を入れ替えると文章の意味がガラリと変わる。日本人であれば自然と理解できるが、日本語を学ぶ外国人からしたら、この違いを理解するのは難しいのではないだろうかと思ってしまう。

そのほか、参考になったところは数多い。
・同じような表現を繰り返すと文章が平板になる
・できるだけコンパクトにまとめる
・強調したい部分はその対極と対比させる
・同じ言葉、似たような表現を繰り返さない
ここで、「違和感を感じる(正しくは「違和感を持つ、覚える」)」など普段普通に使っているような気がして焦ってしまう。改めてしっかり確認したいところである。

・「状況」「行動」「変化」で文章を考える
・箇条書きのようにシンプルに書く
・5W1Hで一番大事な「W」は「WHY」、読む人が「なぜ」「どうして」と思うところをきちんと書く
こうした基本は、意識するだけでだいぶ違うと思う。

早速、明日からというかこの文章から意識したいと思う数々。自分には必要ないとバカにしないで読んでよかったと思う。書くことに興味を持っている人は、是非とも一読すべき一冊である・・・



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2017年08月25日

【日本経済入門】野口悠紀雄



第1章 経済活動をどんな指標でとらえるか
第2章 製造業の縮小は不可避
第3章 製造業就業者は全体の6分の1まで減少
第4章 ピケティの仮説では日本の格差問題は説明できない
第5章 物価の下落は望ましい
第6章 異次元金融緩和策は失敗に終わった
第7章 深刻な労働力不足が日本経済を直撃する
第8章 膨張を続ける医療・介護費
第9章 公的年金が人口高齢化で維持不可能になる
第10章 日銀異次元金融緩和は事実上の財政ファイナンス
第11章 新しい技術で生産性を高める

著名な大学教授の日本経済に関する著書となれば、迷いもなく手が出るというもの。自分もよくわかっているようでいてわかっていないところもあり、折に触れてこういう本を読んでおく必要があると感じている。

まず初めに、この本は「日本経済についての入門解説書」であり、目的は「日本経済の現状について説明すること」とされている。従来の日本経済入門書との違いは、「強い問題意識を持って重要なことを重点的に説明」している点だとする。読んでいけばその通りであるし、それゆえに現状の日本経済の問題点に関する認識も確かにしてくれるものだとわかる。

問題は、日本経済は1990年代の中頃をピークに賃金をはじめとする日本経済の様々な指標が減少・低下傾向を示していること。その背景としては、新興国の工業化や情報技術の進展と行った世界経済の大きな構造変化に日本の産業構造が対応できていないことにあるとする。さらに人口構造が高齢化しつつあるにもかかわらず社会保障制度をはじめとする公的な制度が対応していないこともある。確かにその通りなのだろう。

こうしたことが日本経済不調の基本的な原因であり、経済停滞はデフレのためではないとする。中原圭介氏も再三「デフレは悪ではない」「いいデフレと悪いデフレがある」と主張しているが、同じことだろう。有効求人倍率の改善は雇用情勢の好転ではなく、「人手不足」だという。政府が春闘に介入しても、春闘の対象者は労働者の一部であり、賃金は上がらないとする。円安で企業の利益は増加したが、ドル建ての売上高はほとんど変化しておらず、生産量も増えていないので下請けへの発注も増えない。したがって円安は日本の労働者を貧しくするとする。これらの主張も同様である。

入門書だけあって、基本的な理解にも役立つ。
・GDP統計の優れているところは、世界各国で共通の基準に従って作られているので国際比較できる
・日本と中国の産業構造は基本的に同一であり、「日本の中国化」を回避するには産業構造を変えるしかない
・アメリカでは、「経営」「管理」などの高度サービスが統計で別掲されているが、日本にはない

一方、
・日本の消費税は欠陥品
・法人税率引き下げが企業の競争力を向上させることはない
・金融緩和ではなく、技術開発が必要
との指摘は、考えるヒントともなる。例えば、「法人税は利益に課税されコストではないので、法人税を変更しても企業活動には影響しない」とするが、「税引後利益」は減ると思うし、海外との競争を考えるなら、海外企業の進出を促したりする際には税率の安い国との競争に勝てないだろう。この部分は著者の見解を聞いてみたいところである。

キャピタルゲインに対する課税は不十分で、「資産に課税せよ」という意見は、大前研一氏も唱えていたと思う。重なるところはその意見の正しさの裏付けとも言えそうである。「入門書」とあるが、内容はわかりやすく、そして考えるヒント、考え方の参考になるものである。社会人としての教養として、身につけておきたい知識ではないかと思う。
そういう位置付けで、読んでおきたい一冊である・・・


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2017年08月23日

【眠れなくなるほど面白い物理の話】長澤光晴



第1章 生活と物理
第2章 自然と物理
第3章 スポーツと物理
第4章 乗り物と物理
第5章 光と音と物理

高校時代、物理と化学が苦手で迷わず文系を選んだ私だが、最近やたらと数学や物理を学びたいという気持ちが起きている。苦手意識が消えたわけではないのであるが、抑えきれない好奇心とでもいうべきものかもしれない。そしてそんな時に目に留まったのがこの本。難しい数式ではなく、身近なところのものを物理的に考えてみようというものである。

第1章は生活の中での物理の話。最初に出てくるのは、「コップの水はなぜせり上がっているのか?」であり、「味噌汁のお椀がテーブルの上を滑るのはナゼ?」である。正直、これまで物理の話として考えて見たことなどなかったことである。しかし、それをしっかり「物理的」に説明してくれる。

個人的に興味深かったのは、
1. 水洗トイレが流れるのはどんなしくみ?
2. マホービンが熱を逃さないワケは?
3. 電磁調理器(IH調理器)が過熱するしくみは?
4. コピー機はどうしてコピーできるのか?
5. リモコンでチャンネルが切り替わるしくみ、自動ドアの仕組みは?
であった。どれも物理の話として考えたことのないものである。

個々の説明の中では、例えば「トリチェリの定理」だとか「ペルティエ効果」、「コロナ放電」などという言葉も出てくるし、難しい数式も出てくる。まともに理解しようとすると、かなり勉強しないといけないが、自然に流してもなんとなく理解できる。別に試験を受けるわけではないので、それで十分だろうと思うのである。そうすると、気軽に物理の難しい話を聞くことができる。

短距離走者がクラウチングスタートなワケは、それが効果的だと長年の経験で身につけてきたことだろうが、それは「摩擦力」という考え方から理にかなっている。
野球の変化球も、それを発見したのは偶然か創意工夫なのだろうが、マグヌス力という揚力、ベルヌーイの定理という空気の圧力から説明できる。そういう「理屈」も面白いと思う。

この本を読んでも難しい物理の理論はやっぱりわからないが、物理の話として説明できるということは興味深いところである。読み終えて少しだけ物理アレルギーが解消された気がする。
文系人間にも気軽に楽しめる物理の本である・・・


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