2009年10月31日

【熱い風】 小池真理子 読書日記17



小池真理子の新作である。
小池真理子の描く恋愛小説はみな中高年が主人公だ。
若い男女の烈しい恋愛よりも大人の静かな恋愛ものが多い。
この小説の主人公の美樹も38歳。
相手の遼平も40歳だ。

この作品がちょっと変わっているのが、相手の男遼平が最初に死んでしまう事だ。
よく愛し合った相手が最後に死んでしまうというお涙頂戴ものがあるが、これは最初に死んでしまう。
ストーリーとしてはもうそれ以上発展性のないものであるだけに、いったいどういう展開になるのかという興味も湧く。

冒頭でシャルル・ド・ゴール空港に降り立った美樹。
なぜフランスなのか、なにがどうなるのか。
次第次第に語られていくストーリー展開もうまいものだと感心する。
そして相変わらず優雅に綴られる言葉の数々。
主人公のさり気ないしぐさをどうしてこんなにも優雅に言葉を操って表現できるのだろう。
たくさん本を読めばいいというものではなく、言葉に対する感性なのではないかと思う。
指先の一本一本にまで神経が行き届いている優雅な舞いを見せられているようである。

興味深いストーリー展開といっても過去しかない恋愛物語。
思い出と、もはや知る事の出来ない相手の本心。
錯綜する想い。
そうしたものを巧みに語り紡ぐ。

「自分は本当に愛されていたのだろうか?
自分が愛したほどに相手は自分を愛していたのだろうか?」
自問自答する美樹の姿が、まるで映画を観ているように蘇ってくる。
そうした心の葛藤を豊かな表現力で描き出して終わるのかと予想していた。
だが、最後にそれは静かな感動とともに裏切られる。

本を閉じたあとに思わず溜息が漏れてしまった一冊である・・・




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2009年10月29日

【東京裁判を読む】 半藤一利/保阪正康/井上亮 読書日記16


   
東京裁判に関する資料は現在、国立公文書館に納められているが、それがマイクロ化されて2007年から公開されているらしい。
この本はそれを機に3人の著者が膨大な公開資料と格闘し、それをもとに検証・討論した事がまとめられたものである。
およそ1年かけて内容を検証したらしいが、1年ではとてもではないが足りないらしい。

資料は順を追って検証されていく。
その過程で大きな特徴として「文書不在証明」「焼却証明」という文字が目に付くという。なんと終戦時に陸海軍とも一切の重要書類の焼却を命じた結果だという。同じ敗戦国でもドイツでは重要書類はほぼ完全に残されていたらしいので、そうした意識がすでに違うようである。
そしてそれは時として自分たちの弁護にも不利に働いたという事である。

東京裁判自体については特に重要な新発見があったというものではないようである。
ただ、被告人たちの日記なども公開されているため、そうしたものは目新しく興味深いようである。嶋田元海相の日記などは毎日の3食がきっちりと記録されていて、当時食糧難の時代に豪華な食事だと揶揄されている。ただ、それ以外には見るべきものがないとも・・・

「リメンバー・パールハーバー」の真珠湾攻撃は「卑怯な日本人」の象徴として有名であるが、アメリカはこの裁判でその日本の不意打ちを立証しようとしたらしい。
ところが次々と「アメリカは事前にわかっていた」という資料が出てきて、ついに断念したというのは興味深いところである。

弁護側の弁論は原稿用紙3千枚もあって、トルストイの『戦争と平和』並みだとか。
パール判事の日本に同情的な意見。
といっても日本を擁護するのではなく、「この裁き方はおかしい」という批判。
自国に死刑制度のないソ連の判事はA級戦犯全員に死刑投票していない。
そんな事実が興味深い。

ソ連に死刑制度がない事については、「スターリンはいつでも粛清できるから関係ないんだ」という著者の意見には笑ってしまう。
また、「A級戦犯、B・C級戦犯」という呼び名は罪の軽重ではなく、「平和に対する罪」「戦争犯罪」「人道に対する罪」という罪名による違いだという説明も知らなかった事実だ。A級だから重罪というわけではないのだ。

なにせ分厚い本であるから、好きでないと眠くなるのがおちかもしれない。
逆にたまにはこういった硬い本も歴史好きな人にはいいかもしれない一冊である・・・




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2009年10月21日

【なぜ隣の奥さんはラブホテルファンドでバーキンを買えたのか?】嶋野宏見 読書日記15



仕事柄「ファンド」という文字にはすぐに反応してしまう。
「ファンド」とは投資家から資金を集め、それを様々なものに投資し、その運用益を配当として投資家に還元するシステムである。
不動産に投資するものは「不動産ファンド」と呼ばれるし、最近は不良債権に投資したりするものもあり、その投資先は多岐にわたる。

ここで取り上げられているのは「ラブホテルファンド」。
文字通り「ラブホテル」に投資し、その収益をもって運用益とするファンドである。
ラブホテルという業態は実はとても収益性が高い。
日銭商売であるから、現金はすぐ手元に集まるし、不況には左右されないし、人間の三大欲(食欲・性欲・睡眠欲)に根差しているので需要は絶えない。
この本は、いかにラブホテルファンドの収益性が高いかを解説した本である。

とはいえ、ラブホテルの収益性が高い事はよくわかっていて、「今更」と思う人には物足りない内容である。
こちらとしては、投資する物件の選定の様子だとか、収益性の具体的改善の様子だとかに興味を持っていたのであるが、それらはあまり深堀りされていなかった。

それはたぶんこの本が、投資家向けだからだろう。
不動産ファンドなどに投資している人に対して「もっといい投資先がありますよ」という案内書の役割なのだ。
それはそれでいいと思う。

それにしてもラブホテルという業種は風営法の対象にもされ、徹底した規制にあっている。
利用するのは一般の人なわけだし、もっとゆるやかにしてもいいのではないかと思う。
その結果、過当競争となってラブホテル側には不利益になるが、その分ユーザーには有利になるのではないかと感じる。
それはそれとして、「こんなのもありますよ」という手軽に読める投資の本といった一冊である・・・




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2009年10月16日

【夜のピクニック】 恩田陸 読書日記14



「夜のピクニック」とはなんとものどかなタイトルだ。
初めてこの本を紹介された時そう思った。

高校生活の最後を飾る北高のイベント「歩行祭」。
夜を徹して全行程80キロを歩き通すという伝統行事。
物語はこの行事の最初から最後までを通して語られる高校生のささやかなドラマ。
とてもではないが「ピクニック」というのどかな行事ではない。
だが、「ピクニック」と言いたかった気持ちも読み終わると何となく理解できる。

主人公は西脇融と甲田貴子という二人のクラスメート。
二人には人には言えない秘密がある。
甲田貴子はある思いを秘めて「歩行祭」に望む。
歩行際は特別な意味合いのあるイベント。
一晩歩くだけの行事をどうしてそう重要視するのか。
それは当事者だけにしかわからない世界。
そんなイベントが、たぶんどこの高校にだってあるだろう。
それは運動会かもしれないし、文化祭かもしれない。
そしてそんな経験がある者であれば、たぶん体験した事がないイベントだって共感が持てるものだと思う。

そんな大イベントが始まる。
融も貴子もそれぞれ仲のいいクラスメートとともに歩いて行く。
80キロは大行程だ。
朝からスタートして夜も歩き続ける。
みんな足にマメをつくったり、疲労で全身がガタガタになってくる。
「誰と誰が付き合っている」だとか「誰が好きだ」とか、そんな他愛もない会話を交わしながら歩き続ける。

読んでいくうちに知らず知らずのうちに高校生に帰って一緒に歩いているような気になってくる。もう高校時代は遠い過去となってしまったが、物語を読み進めていくと彼らは「今時の高校生」というよりも、「自分たちの高校時代」という感じがしてくる。
歩行祭なんてなかったけど、何だか同じような経験をしてきたような、そんな錯覚に襲われるのである。
調子のいい者がいて、マイペースな奴がいて、心を許せる奴がいる。
そういえば高校時代ってそうだった気がする。

そしてまぶしい朝の光の中にゴールが見えてくる。
主人公二人とその友人たちの姿も眩しく見える。
人生の間違いなく一つのいい時代を生きる彼ら。
自分自身の思い出もそれに重なる。
歩き通した達成感と安堵感、楽しみにしていたイベントが終わってしまう寂寥感、早く帰ってシャワーを浴びて寝たいという気持ちを読む方も感じる事ができる。

読み終わって本を閉じた時、見ていた懐かしい夢から醒めてしまったような感覚が後に残った一冊である・・・



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2009年10月15日

【覚悟のすすめ】 金本知憲 読書日記13



阪神タイガースの4番打者金本選手の本である。
野球選手の本はけっこう読む方である。
最近では野村監督の本を何冊も読んでいたが、張本勲や落合博光といった大物の本も読んでいる。

野球選手の本の何がいいかと言われれば、やっぱりテレビで見る外面とは違った人物像に触れられる事であるし、そして何よりも野球に打ち込む(打ち込んできた)スタンスである。
やっぱり一流の域に達した選手というものは何かしらキラリと光るものを持っている。
そういうものに触れられる事はまことに意義深い。

それは特に苦労して這い上がった選手であれば尚更である。
野村監督しかり、張本しかり、落合しかりである。
金本選手もまたそんな一人である。

ドラフトで広島に指名されたものの、いわゆる「外れ4位」(本来4位で指名する予定だった選手が他のチームに指名されてしまったため代わりに指名された)。
入団したはいいが、ドラフト上位の「有望新人」が次々と特別練習に呼ばれて行く中、「好き勝手にやっていなさい」と放置される。
プロの凄さと冷たさに自信を失いかけながら、「やるしかない」と「覚悟を決め」自分なりにトレーニングに励む。

自分に足りないものは何かを必死で考え、当時は一般的でなかった筋力トレーニングを始め、徐々に頭角を現していく。
怪我をして休むと言うと次からお呼びがかからなくなるから、我慢して出る。
そうしていつの間にかフルイニング連続出場の世界記録を打ち立てるまでになる。
FA宣言をして阪神に移籍し、40歳を越えた今でも4番を任されている。
「覚悟を決める事」だと金本は語るが、とてもではないが「覚悟」だけでできるものではない。

金本と一緒にドラフトに指名された選手はみな消えて行った。
一人長く続けられるのはそれだけの努力に裏打ちされているからに他ならない。
かつての江川や清原・桑田・松坂のようにドラフトで1位指名され、すぐに1軍で目の覚めるような活躍をする選手もいる。
そうした選手に比べると、「這い上がった」選手の言葉は重い。
こういう本に触れると勇気付けられる事は確かである。

心の栄養ドリンクに読んでみるのもいいと思う・・・

    

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2009年10月11日

【生き方】 稲盛 和夫 読書日記12



ご存知京セラ名誉会長の稲盛和夫氏の人生論を説いた一冊。
あまりにもあちこちで取り上げられ、紹介されているので手に取ってみた。
稲盛和夫氏と言えば京セラの創業者であり、また第二電電(現KDDI)の設立者でもある。いずれも日本を代表する企業であり、氏自身も成功者の見本のような人である。そんな「頂点に達した」人物の人生論というと、「成功したからこそ語れる」とも言えるかもしれない。

ただ、読んでみればむしろ、「そういう考え方だったから成功した」と言えそうである。
・人生の真理は懸命に働くことで体得できる
・「考え方」を変えれば人生は180度変わる
・求めたものだけが手に入る
・あきらめずにやり通せば成功しかありえない
・努力を積み重ねれば平凡は非凡に変わる
・どんなときも「ありがとう」と言える準備をしておく
・利他に徹すれば物事を見る視野も広がる・・・

タイトルだけ眺めていてもいいような気がする。
目標を持つのは構わないが、そこに至る過程で己のことばかり考えていてはだめ、それが正しいあり方か、社会に役立つものであるか、そうした視点がないとだめだという。
不況下ともなると偽装事件が後を絶たない現状、まさにその通りだと実感する。

企業経営に留まらず、日々の暮らしでもまたそれは当てはまる。
あるべき生き方をめざせば、個人であれ、企業であれ、国であれ、必ずそこに明るい未来はある、と説く。
「一生懸命働くこと、感謝の心を忘れないこと、善き思い、正しい行いに努めること、素直な反省心でいつも自分を律すること」
ここで説かれている事は小学生でもわかること。
親の立場になれば、常に子供に教え諭すような事である。
つまり一つ一つは「わかりきった」事である。

「そのような当たり前のことを一生懸命行っていくことに、まさに生きる意義があるし、それ以外に、人間としての『生き方』はないように思う」と著者は最後に結論付ける。
本当にそうなのであろう。
そんな簡単なことだが、実行に移すことが難しいからこそ、真理なのであろう。

成功者になるためではなく、よりよい人生を送るために、一つでもいいから実践してみたい。
そんな思いにさせられる一冊である・・・


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2009年10月10日

【ブラック・スワン】 ナシーム・ニコラス・タレブ 読書日記11



原題:The Black Swan
プロローグ
第1部 ウンベルト・エーコの反蔵書、あるいは認められたい私たちのやり口
 第1章 実証的懐疑主義者への道
 第2章 イェフゲニアの黒い白鳥
 第3章 投機家と売春婦
 第4章 千と一日、あるいはだまされないために
 第5章 追認、ああ追認
 第6章 講釈の誤り
 第7章 希望の控えの間で暮らす
 第8章 ジャコモ・カサノヴァの尽きない運――物言わぬ証拠の問題
 第9章 お遊びの誤り、またの名をオタクの不確実性
第2部 私たちには先が見えない
 第10章 予測のスキャンダル
 第11章 鳥のフンを探して
 第12章 夢の認識主義社会
 第13章 画家のアペレス、あるいは予測が無理ならどうする?
第3部 果ての国に棲む灰色の白鳥
 第14章 月並みの国から果ての国、また月並みの国へ
 第15章 ベル・カーブ、この壮大な知的サギ
 第16章 まぐれの美
 第17章 ロックの狂える人、あるいはいけない所にベル型カーブ
 第18章 まやかしの不確実性
第4部 おしまい
 第19章 半分ずつ、あるいは黒い白鳥に立ち向かうには
エピローグ

謝辞
「ブラック・スワン」とは、まず「人々が予測もしないようなありえない事、しかし起こらないとは言えず、一旦起こるとかなりの衝撃を与えるもの」とされている。
「9.11」などがここではその例として挙げられている。

我々は様々な方法で物事を予測する。
その代表例として上げられるのが「ベル型カーブ」と言われる曲線である。
これは真ん中が盛り上がった、いわゆる「標準偏差」を表した曲線で、受験の偏差値などで見た記憶がある。
しかし、「ブラック・スワン」はそんな予測をあざ笑うかのように起こるのである。

一つの例として挙げられているのが七面鳥の例である。
ある七面鳥が毎日餌をもらって暮らしていた。
そんな日々が千日も続き、七面鳥自身もそんな日々があと千日も続くと思っていた。
そして千と一日目のクリスマスの朝、七面鳥に思ってもいなかった運命が降りかかる。
過去千日をいくら観察したところで、七面鳥にクリスマスの悲劇を予測する事はできない。

また1982年の夏、過去営々と利益を積み重ねてきたアメリカの銀行が中南米国のデフォルトにより、積み上げた利益をすべて失った。
彼らの日常の業務をずっと観察し続けたところで、この悲劇は予想できない。
「ネットワークでつながれた現代では危機は起こりにくくなったが、ひとたび起こればその危機は果てしない」という指摘は、最近の金融危機に通じるものである。

著者が語るブラック・スワンは、統計や予測手法をあざ笑うがごとき存在である。
一見すると著者はひねくれ者のようにも思える。
そんな考えを持つに至ったのは、著者がレバノン出身という事とも関係があるかもしれない。内戦で荒れ果てたかの地では、明日の事などどうなるか不確実な事この上ないからである。

ではどうすればよいのか。
究極的にはどうしようもないが、ブラック・スワンが存在するという事を常に意識しておくほかはないのかもしれない。そういう意識を持つ必要に気付かされたという意味で、意味あると考えたい一冊である・・・




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2009年10月03日

【裏ビジネス 闇の錬金術】鈴木晃 読書日記10


   

人の世はさまざまなもの。
社会で働く人々の職業もまたしかり。
とは言うものの、世に言う「まっとうな職業」に対して、そうではない職業もまたある。
それら「職業」と呼んで良いかどうかは議論のあるところだろう。
これは、表に出ることのない、そうした「職業」を紹介した本である。

バブルが崩壊して大打撃を受けた証券業界と不動産業界。
債権者たちからの追求を逃れるための「恐縮屋」、投資家を巧みに騙す「二八屋」、仕手筋が仕入れた株を高値で売りつける「解体屋」など初めて聞く内容が冒頭から続く。
そして「身分証偽造」「軽油密造」「車両窃盗」などわかりやすいものはその実態を描いていく。

そういうものがある、と知る事は知識としてはいいかもしれない。
だが、被害に会うのはかなわない。
こうした詐欺・犯罪の類は人間行き詰まれば手を染めるのもやむを得ないものなのか。
被害者にだけはなりたくないものである。

2003年と少し前の本である。
と言ってもそんなに前の事ではない。
しかし中にはもう時代が違うのでありえないというものもある。
それだけ変化の早い時代であるという事だろうか。

大して為になるというものでもない。
こんな事もあるのだ、と参考になる程度の本である・・・


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