2010年01月30日

【ゴールドラッシュの超ビジネスモデル】野口悠紀雄


「ゴールドラッシュ」といえば1849年にカリフォルニアで起こった現象。
金が採掘され、人々は一攫千金を夢見て西海岸へと殺到した。
しかし、その多くは夢破れたという。
そんなゴールドラッシュから時を経て現代のIT時代まで、脈々と流れ続けるもの。
そしてそれこそがゴールドラッシュの意味するもの、と語る本である。

全体的に3部に分かれる。
最初はゴールドラッシュそのものの状況。
次にそこで成功した成功者リーランド・スタンフォードの功績。
そして最後がスタンフォード大学とIT長者たちである。

いまでも49’s(フォーティナイナーズ)という言葉が残っている。
1849年にカリフォルニアに金を求めて殺到した人々である。
当時は東海岸から西海岸までは陸路と海路の3ルートがあり、いずれも半年かかる大変な旅だったという。
それでも金の魅力が勝ったわけであるが、本当に儲かったのはスコップやジーンズ(リーバイス)などの必需品を供給した人々であり、移動手段(馬車便=ウェルズ・ファーゴ)を提供した人々であったという。

のちに大陸横断鉄道でビッグ4と言われる4人が莫大な財産を築く。
しかし、その中で名前を残したのは何もない土地に大学を設立したリーランド・スタンフォードのみ。
映画の誕生にも一役買っていたというエピソードは面白い。
「東海岸にない大学を作る」といって、当時は異例だった工学部を作り、大学では自由な気風が育まれる。

そして、現代。
スタンフォード大学の学生らが、グーグル、ヤフー、シスコシステムズ、サンマイクロシステムズを設立し、ストックオプションで掃除のおばさんまでもが金持ちになる。
それは現代のゴールドラッシュといえるもの。

そうした「挑戦者」の雰囲気が日本にも欲しいと筆者は語る。
この本は2005年出版なので、その後のリーマン・ショックの影響は語られていない。
しかし、衰えたりといえどもシリコンバレーのこれらの企業の力にはいまでも変わらぬ力がある。
旧態依然とした日本企業が果たして生き残っていける変化ができるのか。
そんな事を考えるのに良い本である。


ゴールドラッシュの「超」ビジネスモデル

ゴールドラッシュの「超」ビジネスモデル

  • 作者: 野口 悠紀雄
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2005/09/21
  • メディア: 単行本



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2010年01月26日

【永遠の0】百田尚樹

     
0とは太平洋戦争で名を馳せた旧帝国海軍の戦闘機零戦(正式名零式艦上戦闘機)、通称ゼロ戦の事である。
一人の零戦パイロットの足跡を辿る事で、一人の男とそして戦争を振り返る物語である。

二人の姉弟、慶子と健太郎はフリーライターの姉の企画で、太平洋戦争で戦死した祖父を調べる事になる。
その祖父は妻子を残して戦場へ行き、特攻で戦死したのである。
戦後再婚した祖母は、その祖父の事をほとんど語らぬまま亡くなったため、二人は手さぐりで名前しかわからない祖父の調査を始める。

旧海軍人会から紹介された祖父のかつての戦友たちを訪ね歩く二人。
そして戦友たちの口を通して太平洋戦史が語られていく。
真珠湾、ミッドウェー、ガタルカナル、ラバウル、そして沖縄。
それは馴染みのある戦史であるが、一人の男の背後に流れるそれは実にリアルな感がある。

開戦当初は世界最高の戦闘機として無敵を誇った零戦。
ところが次第に米軍も物量にモノを言わせて反攻に移る。
そして差があるのは物量だけではなく、兵士に対する思想。
防弾板に守られた米軍機は撃墜されても兵士の生還率が高く、再び空へと復帰し、やがて熟練パイロットへと育っていく。
かたや防弾装備を削り徹底して攻撃力に重きを置いた零戦は、一度撃墜されればそれまで。
物量と共にパイロットの熟練度でも差がついていく・・・

ガダルカナル、インパール、硫黄島とすべて実際の戦闘による死者よりも自害・餓死などの死者が上回っているという事実。
「生きて虜囚の辱めを受けず」という戦陣訓に縛られ、死ぬ事のみ求められた兵士たち。
試験の優等生がそのまま出世していく軍のシステムが、マニュアルにない状況に脆く、自分の考えが絶対だと妄信するエリート軍人を育てていく。

戦争末期には志願という名の命令で次々と未熟なパイロットが特攻で命を落としていく。
その頃には米軍も圧倒的な防空戦闘機と正確な対空砲火で特攻もほとんど効果なく途中で撃墜されてしまう。
最後まで残っていた戦艦大和も無謀な特攻作戦へと向わせられる。
ただ死ぬ事だけを目的とした作戦の数々を、「素人の賭け事」に例える。
「勝ってる時はちびちび小出しして大勝ちできるチャンスを逃し、それで今度はジリ貧になって、負け出すと頭に来て一気に勝負」
言い得て妙である。

戦史というノンフィクションと一人の祖父の物語としてのフィクションとが織りなすストーリーは、時折目頭が熱くなるほど秀逸。
26歳で死んだ祖父と同じ年齢の健太郎の心の変化も見逃せない。
そして感動的なラスト。
涙なくしては読めない。

作者はこれがデビューだという。
他の本も読んでみたくなった・・・


永遠の0 (講談社文庫)

永遠の0 (講談社文庫)

  • 作者: 百田 尚樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/07/15
  • メディア: 文庫



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2010年01月20日

【奇跡のリンゴ】石川拓治

NHK番組「プロフェッショナル仕事の流儀」で取り上げられ、話題となった無農薬リンゴ農家の木村秋則氏を紹介した本である。
番組を基にしてライターの著者が補足したものである。

そもそもであるが、現在広く流通しているリンゴはもともとの野生のリンゴとはかけ離れた、人為的に改良されて現在に至る種類のものらしい。
それゆえに農薬を利用しないと木はすぐに病害虫にやられて駄目になるという。

ふと目にした無農薬栽培。
他の作物ではうまくいったため、木村氏はリンゴでやろうと決意する。
ところがこれがうまくいかない。
たちまち病害虫で実が成らない。
ここから木村氏の闘いが始まる。

そうして見事に無農薬リンゴが完成するまでのストーリーが描かれる。
これがまた普通の人にはできたものではない。
何年にもわたって収入はなくなり、家族は極貧生活を送る羽目になる。
普通はこんな生活は耐えられないと思う。
自分だけならともかく家族も巻き込むのである。

9年あまりもそんな生活を送り、やがて現在では美味しいばかりか、木は何年か前の台風による災害にも唯一無事に過ごし、高級レストランからも引き合いがくるほどまでになる。
自殺しようとした時に、ようやくヒントを掴むところは下手な小説よりも面白い。
それほどまでして頑張ったその努力も凄いが、それを支えた家族もまた凄い。
妻もそうだが、娘たちも妻の両親ですらそれをサポートした事が凄い。
子供が学校の鉛筆にも事欠くような状況になったら普通は家族はついていかないだろう。
そうした家族の存在も木村氏の成功とは無関係ではありえない。

切ったリンゴが2年たっても腐らないでただしぼんでいるだけ。
言葉には表せないほどの美味だという。
この本を読んで尚更そのリンゴが食べたくなった・・・


奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録

奇跡のリンゴ―「絶対不可能」を覆した農家・木村秋則の記録

  • 作者: 石川 拓治
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2008/07
  • メディア: 単行本



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2010年01月17日

【逆説の日本史16】 井沢 元彦



シリーズ16巻目となる本作。
時代は江戸時代。
サブタイトルに「水戸黄門と朱子学の謎」とある通り、徳川光圀・保科正之・上杉鷹山・池田光政とその時代の各地の君主を取り上げ、後半は江戸の町人文化を取り上げている。

このシリーズは単なる日本史の解説本ではない。
「逆説」とあるが、通説にとらわれずに歴史を概観していく。
当然の事ながら、「事実は一つ」。
しかし、その事実を知る者はない。
頼るべきは残された資料であるが、資料がなければ事実はわからない。
そんな限界を著者は想像力を働かせながら推定していく。
それがこのシリーズの面白いところである。

「黄門」様の知られざる実像。
「水戸家はもしも徳川と天皇家が対立した場合は天皇側につけ、そうすればどちらが勝っても徳川の血が残る」という家康の密命があったという説にはちょっと驚きを感じる。
そして朱子学(アレンジした水戸学)を取り入れていく。
内容的にはお堅いものが続く。

全編を通じて従来の日本史には「資料絶対主義(資料がなければ断定できない)」「呪術的側面の軽視(日本独自の怨霊信仰の存在軽視)」「権威主義」の弊害があるという主張は変わっていない。
そういう制約から離れてこそ見えて来るモノがあるとする。
そしてそれゆえにこのシリーズは面白いのである。

今回感心したのは日本人の識字率の高さに関する推測だ。
日本人の識字率は当時おそらく世界一だったと言われている。
それは一般的には「寺子屋」の存在がその理由として上げられている。
だが、それ以前にすでに日本人の識字率を高める素地が出来上がっていた、との説が展開される。
そしてそれはなんと「平家物語」だというのである。

その主張を読んでいくと「なるほどそれはそうかもしれない」と思えてしまう。
それが可能となったのは「当時の人々の気持ちになって考えてみる」という単純な作業である。
当然歴史学界からは反発されるのかもしれないが、著者の素人ながらの歴史探求姿勢には見習うべきものがある。

まだまだ続くこのシリーズ。
ほぼ年一回のペースであるが、続きがまた楽しみでもある・・・

    
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2010年01月16日

【バフェットの教訓】メアリー・バフェット&デビッド・クラーク


ウォーレン・バフェットといえば世界で最も成功した投資家であり、世界第2位の大金持ちでもある。
そんなウォーレン・バフェットの名言を集めた本である。

ウォーレン・バフェットの投資方法といえば「優良銘柄を長期にわたって保有する」というものである事はあまりにも有名である。
コカ・コーラ、アメリカン・エキスプレス、ワシントン・ポストなどの有名銘柄を多く保有している。
(昨今の金融危機ではゴールドマン・サックスに投資し、すでに1兆円以上の利益をあげている)

ここで語られるのはそんな投資哲学に通じるものもあれば、人生一般に当てはまるものもある。
言い得て妙というのもある。
しかし奥が深くて理解しきれないものもある。
たとえば最初に出てくる、
「ルールその1、絶対に金を損しないこと
 ルールその2、絶対にルールその1を忘れないこと」
などはその例だ。
言うのは簡単だが、「どうしたらできるか」は果てしなく困難だ。

「価格とはあなたが払うものであり、価値とはあなたが受け取るものである」という言葉は投資をする上で大いに役立つ。
「株式市場はあなたにサービスを提供するために存在しているのであり、あなたを教育するために存在しているのではない」
などは思わず唸ってしまう。

「市場が効率的なら、私は今街頭で物乞いをしているだろう」
「今日の投資家に利益をもたらすのは、昨日の成長ではない」
投資をする際には心の隅に留めて置きたい言葉だ。

投資に限らず人生訓になりそうなものもある。
短い時間で手軽に読める事もあり、さっと目を通してみても面白い。
読んでもそれを生かせるかどうか。
それが難しそうだ・・・


史上最強の投資家バフェットの教訓―逆風の時でもお金を増やす125の知恵

史上最強の投資家バフェットの教訓―逆風の時でもお金を増やす125の知恵

  • 作者: メアリー バフェット
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2008/01
  • メディア: 単行本



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2010年01月10日

【家族の言い訳】 森浩美

著者は作詞家の森浩美。
名前は知らなくてもSMAPの「青いイナズマ」などの曲は知っている。
そんな作詞家が「いつかは小説」との思いを実現させたのがこの本らしい。
言葉を操るという意味では小説も作詞も変わらないのかもしれない。
しかし、ストーリーを紡ぎ出していくという作業が小説にはある。
作詞にもストーリーはあるのかもしれないが、表現する長さが違う。

というのは素人考えで、実はそう大きな差もないのかもしれないと読後に考えた。
実に隅々にまで目の行き届いたストーリーが続くからである。
内容は、といえば8本のショートストーリー。
すべてが「家族」をテーマにしている。
主人公は生活に疲れた母親だったり、ビジネスマンだったりと性別も年齢もバラバラ。
一体著者は男なのか女なのか、名前も微妙だしわからなかった。
それだけそれぞれに成りきって書き上げられている。
それは歌の世界にも繋がるものなのかもしれない。

作詞に通じるのか、直接的に表現しなくても登場人物たちの姿が浮かび上がってくる。
第1話の「ホタルの熱」にしてもそうだ。
主人公の母親は生活に疲れ果て、子供と心中しようと旅に出る。
しかし、そんな表現はどこにも出てこない。
ただ、二人の様子を見ているとそう思うのである。
母と子の短い会話と情景が切なく心に響いてくる。

家族をテーマにしているだけにどの話も温かい。
そして一見暗い話に思えても、最後はほっとさせられる。
どれもこれも著者の温かい眼差しが感じられる。
一話一話も短めで簡単に読める。
「車いすのパティシエ」よりも心が温かくなる事は間違いない。
一読の価値ある一冊である・・・



家族の言い訳 (双葉文庫)

家族の言い訳 (双葉文庫)

  • 作者: 森 浩美
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2008/12/10
  • メディア: 文庫



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2010年01月08日

【車いすのパティシエ】 ニッポン放送「うえやなぎまさひこのサプライズ」編


サブタイトルに「涙があふれて心が温かくなる話」とあるが、これはラジオ番組に集められたリスナーの方からのお頼りをまとめた本である。
たくさんの話の中から厳選された話が掲載されている。
世の中いろいろな人がいて、それぞれにいろいろな物語があるものである。
どれもが実話であるだけに、まさに「事実は小説よりも奇なり」という感がある。

しかし、どれもが良い話だとは思うものの、サブタイトルにある如く、「涙があふれて」となるまでには至らない。
「確かに良い話だね」で終わってしまう。
その原因を考えてみるに、どうやら文章にありそうである。

ライトタッチでさらりと語られる、その語り口がいかにも軽い。
ポップコーンを頬張る如くである。
それゆえによくよく情景を想像してみるともっと心が洗われそうな話も、さらりと目の前を流れていってしまう。
ダイジェスト番組を観ているようである。
これではちょっと「心が温かくなる」とは言い難い。

たぶん当の本人たちはそれなりに感動したものをたくさんの中から選んでいるのだろう。
だが、初めて読む者にそれは伝わらない。
せっかくの良いお話がちょっともったいない。
もう一工夫欲しかった、と言っていいだろう・・・



車いすのパティシエ―涙があふれて心が温かくなる話

車いすのパティシエ―涙があふれて心が温かくなる話

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: ニッポン放送
  • 発売日: 2006/11
  • メディア: 単行本



posted by HH at 22:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 良い話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする