2010年03月28日

【告白】湊かなえ

立場が変われば考え方も変わる。
当然といえば当然なのであるが、それはなかなか実感しにくいところである。
なぜならば、常に人は自分の視点からものを見ているから。
自分の視点こそが善悪の判断拠点だからである。

この小説に主人公は登場しない。
ある事件を中心として、その事件に関わる人達の「告白」という形でストーリーは進んでいく。
そこにはさまざまな形の正義が存在する。

シングルマザーの教師森口悠子が学校に連れてきていた4歳の娘が、ある日プールに転落して水死する。
終業式の日、教師を辞めることを生徒に告げるが、その時「娘は事故死ではなく、このクラスの生徒に殺された」という衝撃の告白をする。
それが初めの「告白」である。

そしてクラスの女生徒が続く。
犯人と名指しされた二人の少年。
少年の母親と告白は続く。
それらの告白によって事件に携ったそれぞれの事情と事件後の展開が描かれる。

様々な角度から光を当てられたこの事件。
そして予想外のクライマックス。
こういう形式の小説もなかなか面白い。
「盗人にも三分の理」という言葉があるが、まさにそうなのである。
登場人物たちの心からの「告白」によって、事件への関与がまさに避け得ぬものとして語られていく。

誰かがどこかでちょっと違う反応をしていたら、悲劇は起こらなかったはず。
しかしあらゆる事が重なって事件は起きてしまった。
偶然なのか必然なのか。
実際の事件というものも、こうして起こるのかもしれないとついつい考えてしまう。
よくできていて、尚且つ手頃に楽しめる一冊である。



告白

告白

  • 作者: 湊 かなえ
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2008/08/05
  • メディア: 単行本



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2010年03月27日

【半ケツとゴミ拾い】荒川祐二

著者は1986年生まれの若者である。
恵まれた家庭に生まれ、何自由なく大学まで通う。
そんな彼が就活に勤しむ友人たちをみていて、何の夢も自信も希望もない事に愕然とし、偶然観た映画に感銘を受け、何かをしたい、何かをしようとして始めたのがゴミ拾い。

毎朝6時から新宿駅東口でたった一人、背中に「一緒に掃除してくれる人募集」のダンボールの看板をぶら下げて掃除を始める。
信じられないほど散乱したゴミ。
ゴミを拾う目の前でゴミを捨てられ、つばを吐きかけられ、喧嘩に巻き込まれて投げ飛ばされる・・・

何一つ為しえなかった彼が始めて本気で取り組んだゴミ拾いが、やがて周囲を変え、彼自身をも変えていく。
そんな彼の体験談を綴った本である。

はっきり言って文章は拙いし、内容も一冊の本になるほどの量もない。
大きな字でごまかしてあるだけである。
だけど中味は本物。
本当に何事かを成し遂げたものだけが持つ言葉の重みが、ここにはある。

イエローハットの会長がトイレ掃除で会社を変え、人を変えているのは有名な話であるが、やっぱり掃除にはそんなもの凄い威力が備わっているようである。
誰もができる事であるが、本気で続ける事は難しい。
わずかな期間の掃除で彼の人生、彼の考え方が変わっていく様は痛快である。

こんな若者でもできるのだから、世間の大人たちにできないはずはないのであるが、自分を含めてどこまで本気でできるかと言えば、「?」マークがいくつも浮かぶ。
ちょっとした事からでも、何か始めてみようかな、とそんな気持ちにさせられる熱い本である。



半ケツとゴミ拾い

半ケツとゴミ拾い

  • 作者: 荒川 祐二
  • 出版社/メーカー: 地湧社
  • 発売日: 2008/12
  • メディア: 単行本



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2010年03月26日

【人間の運命】五木寛之

五木寛之といえば有名な作家であるが、実は著作を読んだことがない。
これは小説ではなく、「運命」についての著者の考えを記したもの。
読み進むうちに著者の深い思考の世界に引き込まれていく。

冒頭に著者の少年時代の経験が語られる。
父親が教師として朝鮮半島に渡る。
そしてその地で終戦を迎える。
母親が死に、父親と弟と妹とで日本に戻ろうとするもソ連兵に拘束される。
飢えと寒さとで周りの人が死んでいく中、決死の逃避行。

そんな強烈な体験が著者のベースとなっている。
正しい事をすれば必ず報われるというものではない。
引き揚げの混乱の中で、生きて帰国できたのは人を押し退けられた人であり、譲った人は帰れなかった・・・

運命とは自由に操れないもの。
貧しい農村から出て行かざるを得なかった父親が朝鮮半島に渡ったのも、そんな親をもったのも著者に選択の余地はなかった。
そしてそんな運命を著者は「あきらめる」と表現する。
それは「諦め」ではなく、「明らかにして極める」事だと。

親鸞の「歎異抄」、カミュの「シューシュポスの神話」、小林多喜二の「蟹工船」といった著作が取り上げられ、人生の矛盾、不条理が語られる。
運命に身をまかせる気はないが、運命に逆らう事もできない。
そこで出来る事はありのままの自己の運命を「明らかに極める」ことだけ。

自分の過去を、運命を静かに見つめて語る著者の言葉は、長い月日を過ごしてきた厳かな経験を感じさせる。
運命とは何かを考えてみるきっかけとなる。
これから人生に対していかに向き合うか。
そんな事を考えさせられる本である。


人間の運命

人間の運命

  • 作者: 五木 寛之
  • 出版社/メーカー: 東京書籍
  • 発売日: 2009/08/29
  • メディア: 単行本



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2010年03月23日

【関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実】 工藤美代子

未曾有の大災害を引き起こした大地震のあと、「朝鮮人が放火、強姦、井戸へ毒の投げ込み等を行っている」という噂が広まり、各地で自警団による朝鮮人殺害が起こった事はよく知られている。
その「真相」という事で、この手の話が好きな私としては思わず手に取った本である。

しかしながら内容には驚いてしまった。
結論から言えば、著者の主張は「大震災というドサクサに紛れて朝鮮人が上記の行為を行ったのは事実であり、自警団の(殺害という)行動は当然の行為であり、それを『虐殺』とは言わない」というものである。
結論について言えば、そう言いたいのであればそれで構わないと思う。
しかしながらわざわざ本にするのなら、せめて根拠ぐらいはしっかりと論じて欲しいと思う。
それがあるなら結論について文句はないのである。

事実の検証として時代背景から入るところはいいのだ。
今の常識で考えるのではなく、当時の状況を考慮せねばならないからだ。
だが、その時代背景にしても「日韓併合後、半島のインフラ整備や教育などにいくら手厚い保護を加えても理解されなかった」という記述がある通り、バイアスがかかっている。
独立を奪われたらいくらインフラ整備や教育(それも日本語教育だ)をやってもらってもありがたいとは思わないだろう。
逆の立場だったら著者は感謝するのだろうか?
著者は自虐史観に反対の様であるし、それについてはまったくの同感なのだが、それにしても偏りすぎといわざるを得ない。

その延長で、「独立を目指す朝鮮人テロリストが各地でテロ行為を働いていた」という事実をもって、「だから震災に乗じてテロを起こした」と決め付けている。

さらに当時の新聞記事、警察発表をもって朝鮮人の襲撃は事実と断定する。
しかし著者も触れている通り、東京は未曾有の大混乱下にあり、新聞社も家屋が倒壊しほとんど機能していなかった。
テレビもラジオもない時代、文字通り情報が遮断されていたわけで、そんな中での取材記事がどこまで本当かはわからない。
人々の噂を記事にしただけかもしれない。
「新聞に記事が出た」事をもって事実と出来ないのは、大本営発表の例を上げるまでもない。

「何もしない気の毒な朝鮮人を『虐殺』するようなヒマは自警団にはありはしなかった」と断言してしまうところがすごい。
理性を取り戻した政府が朝鮮人に対する対応に注意した首相告諭をあげて、「どこにも暴動やテロがなかったとは書かれていない・・・暗にあったことを認めつつ・・・自重を求むると言っている」と捻じ曲げて解釈するのも驚きだ。

朝鮮人による調査結果では、虐殺された人数は2万数千名だという。
当時東京及び近県に在留していた朝鮮人が13,000人ほどであったらしいから、例によって過大発表で呆れるばかりであるが、著者の主張もそれと反対ではあるが目糞鼻糞の類である。

ちなみに著者の推測によると、警察発表の無実の朝鮮人被害者は233人で、虐殺されたテロリストは800名だという。
仮にそれが事実だとして、「殺されなかった」テロリストも当然いるだろう。
それが半分としても1,600人。
つまり当時いた朝鮮人の10人に一人がテロリストで、それが情報伝達力が乏しかった時代に突然の地震に際して一斉に行動を起こしたというらしい。
やっぱり朝鮮人の2万人説と50歩100歩だ。

それよりも著者も認める233人の無実の被害者たち。
これこそ重要なのではなかろうか。
多い少ないの問題ではなく、(200人もいれば十分多いだろう)地震のパニックの中、流言飛語のため200人も殺されたという事実をこそ重くみるべきだろう。

自虐史観を跳ね返していくためにはもっと冷静で大人の意見を主張していかないといけない。
呆れた主張にただただ茫然としてしまった駄作である・・・



関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実

関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実

  • 作者: 工藤美代子
  • 出版社/メーカー: 産経新聞出版
  • 発売日: 2009/12/02
  • メディア: 単行本



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2010年03月21日

【8つの鍵】ロイス・クルーガー

「世界76カ国の企業、日本で2000社を指導した伝説のコンサルタントが教える ゼロから700億円企業を作り上げた極意と個人の幸せを手にする秘訣!」という紹介文に惹かれて手に取った一冊である。

タイトルにある8つの鍵とは以下の事。
@ 法則を見出す
A 信念を決める
B 目標を書き出す
C 人間関係のスキルを身につける
D 計画を実行する
E 結果を計測する
F 富を分かち合う
G 改善し続ける
これだけ読んでも何だかピンとこない。
どれもこれも抽象的だ。

具体的に中味を読んでいくと、なるほどそれなりの事は書いてある。
例えば@の法則を見出すにおいて、重要なキーとして「選択の法則」があげられている。
「どのような人間=ヒーロー=になりたいか」を自分で選択し、自然法則に従って生活する。
なりたい自分をミッションステートメントで宣言する、と続くのであるが、それでもやはりどうもピンとこない。

その原因は「どうやって」というポイントが抜け落ちている事にある。
良い事が書いてあるんだろうなというのはわかるのだが、具体的なイメージがうかばない。
理論書とも言える。
まあそれは人それぞれで自分で探せという事なのだろう。

Aの信念を決めるとなると、その決め方として信念を形成する法則のリストとして16の法則があげられている。
Bの目標設定では5つの手順に9つのルールが出てくる。
一つ一つはもっともだと思うが、細分化して行くことで焦点がボケてしまう。
結局、絞れば「目標は書き出す」という事になるのだろうが、読んでいくうちにわからなくなりそうである。

たぶん著者からすればいろいろと語りたいのだろう。
そしてそれはたぶんすぐれた内容なのだと思う。
紹介文にもある通り、直接指導を受ければ目から鱗なのかもしれない。
本という見えない相手に向っての作業ゆえに漠然としてしまうのかもしれない。

一つだけ印象に残った事をあげるとすれば、「他人の視点を尊重する」という事だ。
自分自身いつも意識している事だし、「誰かがあなたに反対したとき、相手の立場を注意深く観察し耳を傾ければ、大きな学びの機会がある」という言葉は含蓄に富んでいて覚えておきたい言葉だ。

何かを探し出すつもりでいれば学びは多いかもしれない。
そんな一冊である。



8つの鍵

8つの鍵

  • 作者: ロイス・クルーガー
  • 出版社/メーカー: 中経出版
  • 発売日: 2009/09/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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2010年03月20日

【弱者の兵法】野村克也

元楽天イーグルス野村克也監督の一冊である。
もう何冊も読んでいるが、ついつい手に取ってしまう理由はといえば、大好きな野球の話がたくさん出てくる事もあるが、やっぱりつい頷いてしまう事が多いからだろう。
現役時代からいつ首になるかという不安の中から必死に努力して身につけてきた「考える」という習慣。
それが野村監督のベースになっている。

その結果、自身パリーグで何度も首位打者となり、プレイングマネージャーとして活躍し、監督としても成功している。
テレビの解説者時代も本を読み勉強を続けたがゆえに、人を唸らせる話ができる。
自慢話もけっこうあるのだが、あまりそれが嫌味に聞えない。
そんなところが監督本の魅力だろうか。

今回も「弱者の兵法」とタイトルがついているが、監督の人生はまさに弱者の兵法。
華やかな脚光を浴びるセ・リーグのONに比べ、成績は劣らないものの地味であった自身の歴史がそれを語っている。
考える事によって生まれた「無形の力」。
それがあちこちで花を咲かせる話がおもしろいのである。

メジャーリーグ華やかなりし現在であるが、今はメジャーも球団数が圧倒的に増え、以前ほどレベルは高くないという。
むしろ日本の野球は相当レベルアップしているそうである。
しかし、韓国もまた然り。
そこにはデータを重視し考える野球に取り組んでいるからだという。

指導者は、選手は一体どうしたらよいのか、どうすべきなのか。
監督が常々説く「無形の力」の活かし方が語られていく。
技術よりもまず人間形成。
野球に詳しくなくても話はわかりやすい。
あちこちで重複する話もあるが、それはそれで面白い。
これからも読み続けたい監督本である・・・
     

弱者の兵法 野村流 必勝の人材育成論・組織論

弱者の兵法 野村流 必勝の人材育成論・組織論

  • 作者: 野村 克也
  • 出版社/メーカー: アスペクト
  • 発売日: 2009/07/24
  • メディア: 単行本


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2010年03月16日

【聖夜の贈り物】百田尚樹

「永遠の0」「風の中のマリア」「BOX!」と続いた百田尚樹の著書もとりあえずこれが最後。
本書は、著者のデビュー2作目の短編集である。

タイトルにある通り、納められた5つの話はすべて「クリスマス・イブ」の出来事。
ちょっと不思議な話、ほろっとくる話、にっこりとしてしまう話・・・
どれもこれも優しいストーリーである。

第1話は7年務めた勤務先からリストラを言い渡された34歳の恵子が、不思議なホームレスと出会う話。
人が良くて突然の解雇にも関わらず、会社も大変だからと社長を気遣う有り様。
そんな彼女が3つの願い事を叶えてもらえるチャンスにめぐり合う。

普通だったら1億円欲しいとか考えてしまうだろう。
しかし恵子が望んだのはまったく違う事。
こうありたいなと思わずにはいられなくて、そしてラストは文字が滲んで読めなくなる・・・
う〜む、と思わず唸ってしまう。

5話のストーリーはすべて女性が主人公。
まあクリスマス・イブに男が主人公で何をする、というのもあるかもしれない。
しかし、男の著者が女性の事をうまく書くものだと関心する。
改めてストーリー・テラーとしての才能を感じさせられる。

とりあえずこれで全著書は読んでしまった。
まだまだこれからも書き続けてほしい作家だ。
次回作が本当に待ち遠しい・・・
    


聖夜の贈り物

聖夜の贈り物

  • 作者: 百田 尚樹
  • 出版社/メーカー: 太田出版
  • 発売日: 2007/11/22
  • メディア: ハードカバー



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2010年03月06日

【再生】石田衣良

石田衣良は近年薦められて知った作家である。
例えて言うと「サイダーのような小説を書く作家」というイメージがある。
透明なのだが、飲むと手応えがある・・・

そんな石田衣良の短編集。
「再生」というタイトルにあるように、納められている12の短編はすべて、「再生」の物語である。
幼い子を残して妻が自殺してしまった男。
二人きりの生活もそろそろ限界を感じている。
そんな彼の元に妻の友人がメッセージを持ってくる・・・

障害を持った子供を抱えた妻を残して家を飛び出してしまった男。
同棲相手に突然別れを告げられた女。
定年退職したが、手持ち無沙汰にタクシー運転手に応募した男。
派遣社員に障害児の母。
街中で会ってもみんな人混みに紛れて目立たないような人々たち。
みんなどこかに何かうまくいかない事を抱えている。

そんな人々が最後に小さな幸せを掴むストーリーの数々。
ハッピーエンドというほど大げさなものではない。
感動の涙が溢れるというほどではない。
ただほんのりと暖かい気持ちが、最後に残る。
まさに「再生」なのである。

一流企業に勤めている父と、父の期待に反して派遣社員になった息子。
最後にしっかりとした絆が生まれた「出発」が個人的には一番気に入った。
自分のお気に入りを探してみるのも面白いかもしれない一冊である・・・



再生

再生

  • 作者: 石田 衣良
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2009/04/23
  • メディア: 単行本



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2010年03月04日

【筆談ホステス】斉藤里恵

耳が不自由でありながら、筆談を駆使して銀座のホステスとして成功している事で話題となった著者の自伝的内容の一冊である。
ドラマでもやっていたので、ちょっとした話題となっていたが、こういうものにはついつい興味を抱いてしまう。

著者はわずか一歳で聴力を失ったという。
耳が聞えないなんて、なんて不自由なんだろうと我々は思うが、物心ついた頃から耳が聞えない著者にとっては、それが当たり前であり、普通なのだという意見には「なるほど、そういうものか」と頷いてしまう。
だが、やっぱりそれは大変な事である。

耳が聞えない人はみんな手話を習っていてできるのかと思っていたら、それも違うのだという。
著者はあまりできないらしい。
だからこそ、筆談なのだという。
ここらあたりはちょっとイメージが違う。

友達にいじめられたり先生に辛くあたられたり、とそれなりに苦労を重ね、地元青森で始めた洋服屋さんのアルバイトで接客の楽しさに目覚める。
耳が聞えないと接客などできないのではないか、という先入観がどうしてもあるのだが、実はそうでもないようなのである。
そして水商売の世界に入る。

ここでもやっぱり客の立場からすると、会話ができないという事は致命傷のように感じる。
だが、名だたる銀座で店を掛け持ちするほどの人気を得て成功したという事は、それ以上のものがあるに違いない。
それは笑顔であったり、さり気ない心遣いであったり、もちろん筆談でのコミュニケーションにもあるのだろう。
そうしたものは、残念ながらこの本ではわからない。

ただ、筆談でのやり取りの一例からわかる事は、とてもよく勉強しているという事だ。
映画や漫画のセリフやちょっといい言葉などがあれこれと使われているのをみると、よく本や映画などを見ているに違いない。
親子関係はギクシャクしているようだが、人間だからいろいろあるのだろう。
何にでも努力は必要だ、という事が改めて思わせられる一冊である・・・


筆談ホステス

筆談ホステス

  • 作者: 斉藤里恵
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2009/05/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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2010年03月03日

【暁のひかり】藤沢周平

藤沢周平といえば時代劇。
時代劇といえば藤沢周平。
かつては時代劇と聞くだけで避けて通っていたが、藤沢周平を読んでからはすっかり抵抗がなくなった。
これは久々に手にした藤沢周平の時代劇短編集である。

藤沢周平の時代劇の特徴としては武士から商人まで幅広い物語が楽しめるというところにある。
刀を振り回すだけが時代劇ではない。
市井に生きる人々のさり気ない日常生活も丹念に描かれていたりするのである。

ここに納められているのは6篇の短編。
壷振りの市蔵、裏店に住む馬五郎、商人の息子造酒蔵、壷振りの浅次郎、ヤクザ者の熊蔵、桔梗屋市兵衛と主人公はいずれも町人・商人である。
裏店に身を寄せ合って住む彼ら。
今と違って貧しい者たちには何の保証も無い、その日暮らしの生活。
それでも小さな幸せがあり、かと思えば無情な出来事が彼らを襲う。

今はもう姿を消した江戸の街に住む人々。
せめてこれぐらいの願いは叶えられてもいいのではないかというささやかな夢に敗れていく人々。
静かに、そして淡々と描き出される彼らの姿に、これが世の中なんだろうかと思わせられる。
いつもの通り、味わい深い時代劇である・・・



暁のひかり (文春文庫)

暁のひかり (文春文庫)

  • 作者: 藤沢 周平
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2007/02
  • メディア: 文庫



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