2010年05月31日

【眠れぬ真珠】石田衣良 読書日記71


眠れぬ真珠 (新潮文庫)

眠れぬ真珠 (新潮文庫)

  • 作者: 石田 衣良
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/11/27
  • メディア: 文庫



         
石田衣良というとこれまで短編集ばかりを読んできたせいか、短編作家という印象が個人的にはしていた。
したがって本書が長編と知った時には、どんな小説なのだろうかと大いに興味をそそられた。

その内容であるが、これが恋愛小説。
しかも45歳、独身、バツイチの版画家である咲世子が主人公。
そして咲世子が心惹かれていく若き映画監督の卵、徳永素樹が28歳。
年齢差17歳である。

たぶん、20代の頃であれば、手にとって読んでみようとは思わなかっただろう。
今になってこそ、こうした設定の小説でも抵抗感なく読める。
40代女性の恋愛小説というと、真っ先に小池真理子を連想する。
そして読み進めるうちに、これは小池真理子の小説ではないかと錯覚を起こしてしまうくらいである。その小池真理子は、巻末の解説を担当しているから何とも言えない。

小池真理子は解説で、男性作家がこれほど細やかに女性の心理を描ける事は信じ難いと述べている。それほど違和感なく、女性の視点で小説は描かれている。
石田衣良が小池真理子を意識しているのかどうかはわからない。
二人の作家が、たまたま同じ大学出身という事も意識の中にはあるのかもしれない。
ただ結果として小説の雰囲気はよく似ている。

17歳の年齢差というものが、このストーリーの最大のポイント。
咲世子にも素樹にもベッドをともにする同世代の相手がいる。
不釣り合いだとは分かっているし、今はいいがさらに17年後の二人の年齢を考えると、その関係が長く続くものではないと、咲世子も読む方も考える。
まっすぐに進もうとする素樹と、そうしたいと思いつつもブレーキを踏む咲世子。
それでも堪えきれずに、ただ一時の事でかまわないと咲世子は決意する。

もともとの互いの恋人が絡み合い、事件もおきてストーリーは進んでいく。
そうしてちょっと予想していなかったラスト。
余韻を残しながら本を閉じた時に、読む者に自然とその先を連想させてくれる。
人によって、その先のストーリーは異なるのだろう。

同世代の人間であれば、いろいろと共感できる部分はあるかもしれない。
たまにはこうした恋愛小説を読んで、忘れかけていた感覚を呼び醒ますにはいいかもしれない。それはいつまでも忘れたくない感覚である。そんな感覚を呼び覚ましてくれる一冊である・・・


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2010年05月30日

【ちっちゃいけど世界一誇りにしたい会社】坂本光司 読書日記70


ちっちゃいけど、世界一誇りにしたい会社

ちっちゃいけど、世界一誇りにしたい会社

  • 作者: 坂本 光司
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2010/03/05
  • メディア: 単行本



プロローグ 会社は、人の幸せに貢献するためにある
第一章  小(お)ざさ(東京・吉祥寺)−なぜ、四〇年以上、早朝から行列がとぎれないのか?
第二章  ハッピーおがわ(広島・呉)−自ら末期がんになっても、本当に困っている人に「な
    くてはならないもの」を届けたい
第三章  丸吉日新堂印刷(北海道・札幌)−障がいのある人が目を輝かせて納品にくる「点字
    付きペットボトル再生名刺」で、一枚につき一円を盲導犬協会などに寄付する
    仕組みを開発
第四章  板室温泉大黒屋(栃木・那須塩原)−リピーター率七三%! 四五〇年以上続く旅館に
    現代アートを取り入れ、“人生の最期に「もう一度行きたい」と思われる宿”に
第五章  あらき(熊本・城南)−店を売る覚悟をした数年前から、世界が認めた「ワインが
    語りかけてくる」酒屋へ!
第六章  高齢社(東京・秋葉原)−持病のパーキンソン病に負けずに、「高齢者に働く場と
    生きがい」を届けたい
第七章  辻谷工業(埼玉・志木)−商店街の小さな町工場で生まれる「世界一の魔法の砲丸」
    と職人魂
第八章  キシ・エンジニアリング(島根・出雲)−「脳障がいの愛娘を救いたい」の一心で、
    世界から評価される福祉機器をつくる    

著者は法政大学大学院教授。
企業研究を行っている人で、すでに「日本で一番大切にしたい会社」シリーズを出版している。これも内容的には同じであるが、出版社が違うためであろうか、タイトルだけが変わった感じである。

取り上げられている企業は全部で8社。
いずれも小さな規模の中小企業である。
利益を追求するのが民間企業の使命であるにも関わらず、ここに登場する8社はいずれもガツガツした利益優先の企業ではない。
経営者の温かく、そして強い思いによって導かれた心打たれる企業である。

こうした企業を探し当てては取材し、紹介している著者のスタンスもまた立派。
世の中、本当にこんな企業ばっかりだったらさぞかし住みやすいであろう。
本当のユートピアとはこうした企業が増えれば増えるほど実現していくものではないだろうか。

紹介されている企業は以下の通り。
1. 小ざさ−吉祥寺で「幻のようかん」を販売する会社
2. ハッピーおがわ−身障者・高齢者向けの福祉衣料寝具製造会社
3. 丸吉日新堂印刷−エコ名刺制作
4. 板室温泉大黒屋−リピーター率73%の現代アート老舗温泉旅館
5. あらき−世界が認めた「ワインが語りかけてくる」酒屋
6. 高齢社−高齢者限定の派遣会社
7. 辻谷工業−オリンピック3大会連続金銀銅独占した砲丸製造企業
8. キシ・エンジニアリング−世界から評価される福祉機器製造

どの企業にも創業や操業にまつわるエピソードがあり、いずれも胸が熱くなるものばかり。
経営者の熱い思いにリードされているがゆえに、優良企業になったのであろう。
こういう企業が一社でも増えて良い世の中になってほしいものだと思わせてくれる一冊である・・・



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2010年05月29日

【マドンナ】奥田英朗 読書日記69


マドンナ (講談社文庫)

マドンナ (講談社文庫)

  • 作者: 奥田 英朗
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/12/15
  • メディア: 文庫



マドンナ
ダンス
総務は女房
ボス
パティオ

40代中盤のサラリーマンを主人公とした5つの短編集。
どこにでもいそうなサラリーマンたちの、どこにでもありそうな風景。
思わず共感してしまうシーンが多く、さぞかし著者はサラリーマン生活経験が豊富なのだろうと思ってしまったが、プロフィールをみるとそうでもない。
想像力の賜物なのか、それとも綿密な取材結果なのか。
いずれにせよ、小説の世界に引き込まれる事は間違いない。

タイトルにもなった第一話「マドンナ」。
人事異動で部下に配属されたのは入社4年目の倉田知美。
課長の荻野は自分の好みのタイプであったため、それから寝ても覚めても彼女の事が気になって仕方がない。
部下の同世代の山口がしきりにアプローチするのも気にかかる。

飲み会のあと山口と知美が同じタクシーで帰るともう気になって仕方がない。
妻子持ちの身分を忘れて荻野は嫉妬する。
部下でなくとも、その昔職場にいた気になる女性が男性と親しげに話しているのを見るだけで心が痛んだという経験を持つ者であるなら、そこで苦い思い出が蘇るかもしれない。
そうした一つ一つに妙に共感を覚えてしまうのである。

自分だったらどうするだろう。
たぶん、あくまで表面上は理解があって頼りがいのある良い上司を演じ続けるだろう。
けっして荻野課長のような行動にはでないと思うが、そこは自分には届かない世界と割り切ってしまえるからだろう。
そんな想像をしてみるのも楽しい。

「ダンス」は大学へ行かずにダンサーになると言いだした高校2年生の長男を持つ田中が主人公。ダンスといっても黒人がよくやるブレイクダンスだから、田中には到底理解不能。
大学へ行って普通に就職しろと言いたいが、息子が反発するのは目に見えているし、言っても逆効果だと十分に分かっている。
そして会社では権力者の上司と、出世欲なく権力になびかない同期との間で悶々とする。

長年の小さな不正を目のあたりにしたエリートの恩蔵。
女性上司に仕える事となった田島。
遠く離れて一人暮らしを送る父親を案ずる鈴木。
各章の主人公たちは、それぞれどこにでもありふれた姿で登場する。
自分がそういう立場になったら果たしてどうするのだろう。
それは空想ではなく、すぐ明日の自分の姿とでも言えそうなくらい身近なストーリーである。

息子がブレイクダンスの世界に進みたいと言い出したらどうしよう。
その時この本を思い出してもう一度手にとってみるのも悪くないかもしれないと思ってしまう一冊である・・・



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2010年05月28日

【2009年断末魔の資本主義】ラビ・バトラ 読書日記68


2009年 断末魔の資本主義―崩壊から聡明へ 光は極東の日本から

2009年 断末魔の資本主義―崩壊から聡明へ 光は極東の日本から

  • 作者: ラビ バトラ
  • 出版社/メーカー: あうん
  • 発売日: 2008/12
  • メディア: 単行本



プロローグ 的中した予測とこれからの世界
第1章 アメリカ金融・経済、全面的に壊滅
第2章 バラク・オバマはアメリカを救えるか?
第3章 グリーンスパン氏の「嘘」の崩壊
第4章 アメリカ発、世界経済大崩壊
エピローグ 日本から始まる新たな世界の黎明
     
著者はインド出身の経済学者。
これまでにも「イラン・イラク戦争の勃発」「ソ連解体」「日本のバブル崩壊」などの世界情勢に関して次々に予測を的中させてきたそうである。

そんな著者が2008年末に2009年に来る資本主義社会の崩壊を予測したのが本書。
既に時は2010年。
リーマンショックを経て、ガタガタになったとは言え、資本主義はまだ健在。
「なぁんだ、外れたではないか」というのは的外れ。

予測通りになった事、ならなかった事あるだろうが、大事な事は本質的な部分でどうかという事と、これからの未来を予測する上でヒントになる事はないかという事。
ただ当たったの外れたのという事だけで、ノストラダムスの大予言と同程度にしか考えられないのなら、いずれ大波が来た時になすすべもなくさらわれてしまうだろう。
考えるヒントを身につけたいものである。

第一章から興味深い。
「アメリカ金融・経済、全面的に壊滅」と題して、リーマン・ショック前後のアメリカの経済危機が語られる。
著者は社会は「知力」→「富力」→「武力」の順に循環するという。
そしてこれまでの「富裕者の時代」から次に「武力の時代」に入っていくという。

折しも、アメリカ経済は膨大な財政支出で支えられているが、その負担にいつまで耐えられるのかという不安がある。
戦争という「公共事業」を繰り返してきたアメリカは、次なるターゲットとしてイランに目を向けている。
まんざら笑えない予測である。

そのあとで語られる現在の世界情勢。
それは2000年になって忘れられたノストラダムスの大予言とは異なり、いまだにあちこちでくすぶり続けている諸問題。
外れたのは2009年という時期だけなのかもしれない。

日本はこの危機から逃れ、回復の先頭ランナーとして著者は期待を寄せているが、こればっかりはどうであろう。
資本主義が崩壊と言ってもそのあとに新しい体制ができるとしており、今後出口のない暗黒時代に突入するという論調でもない。
行く末がどうなるかはこれからの話であるが、こういう本を読んでおくのも個人としての備えになるのではないかと思わせられる一冊である・・・



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2010年05月26日

【珍妃の井戸】浅田次郎 読書日記67


珍妃の井戸 (講談社文庫)

珍妃の井戸 (講談社文庫)

  • 作者: 浅田 次郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2005/04/15
  • メディア: 文庫



    
珍妃とは中国清王朝の11代皇帝である光緒帝の側妃。
これはその名の通り、中国清王朝末期を舞台とした実在の事件を基にしたドラマである。

19世紀末に中国に侵略を開始した当時の先進各国。
帝国主義政策によって世界中を植民地化していた欧米列強はついに中国へ進出。
アヘン戦争によって香港を奪った英国を始めとして、列強各国が中国を蹂躙。
それに反発して沸き起こった外国人排斥運動である義和団事件。
結局は列強各国の協調介入で鎮圧されてしまうのであるが、その混乱の中で時の権力者西太后によって珍妃は殺害される。

それが通説なのであるが、ここで浅田次郎は謎の中国人美女を登場させ、英国海軍提督ソールズベリー伯爵に「死の真相を究明するように」囁かせる。
もしも他に真犯人がいるのなら、それは君主制に対する挑戦であり、看過できない。
そう考えたソールズベリー伯爵は、同じ君主制国家の代表に協力を求める。
そうしてロシア、ドイツ、日本の貴族とともに4人で事件の真相の調査を始めるのである。

それらしき人物に順番に当たり、聞き込み調査を始める4人の貴族。
ところが話を聞く人物によって、「真実」が食い違う。
芥川龍之介の「藪の中」に似た展開である。
読む者もいったい真相はどうなっているのか、見事に混乱させられていく。

背景となるのは欧米列強が、支配を進める清王朝末期の中国。
兵士による略奪も日常化しており、力なきものの悲運が漂う。
戦後日本だけが仮想敵国とされ、中国人に恨まれてきたが、どうしてどうして日本の前にこれだけ土足で踏みにじった列強諸国に対しては、中国は実に寛大である。

そこには第二次世界大戦の戦勝国に対する遠慮、中国自身も援助を受けなければ日本に対抗できなかったという事情がある。
イギリス自身、極悪非道のアヘン戦争をふっかけて香港を略奪し、1997年まで返さなかったという事実がある。
すべての責任を負わされたのが、敗戦国日本なのである。

そうした事実は別として、小説の最後にはあっと驚く結末が用意されている。
実際の歴史をうまく加工して良質のフィクションへと転換。
本当のところはどうだったのか?
真相をあれこれと想像してみるのも楽しいかもしれない一冊である・・・




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2010年05月20日

【2000社の赤字会社を黒字にした社長のノート】長谷川和廣 読書日記66


2000社の赤字会社を黒字にした社長のノート

2000社の赤字会社を黒字にした社長のノート

  • 作者: 長谷川 和廣
  • 出版社/メーカー: かんき出版
  • 発売日: 2009/07/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



1章 プロ社員にならないと生き残れない
2章 仕事でいい結果を出す人は、この行動がちょっと違うだけ
3章 「あなたしかいない!」と思わせる
4章 一流になれる人はここが違う
5章 自分も会社も生き残る
6章 会社から大切にされる人、されない人
7章 売ることを知っている人は強い
8章 自分の得意技を持ちなさい!
    
タイトルに惹かれて思わず手に取った一冊。
こういう本は著者がどんな人か、にかかっているものである。
その著者は、「外資系の企業を渡り歩いたあと潟jコンと仏エシロール社の合弁会社潟jコン・エシロールの代表取締役、50億円もの赤字を抱えていた同社を1年で黒字へ、2年で無借金会社に変貌させた」という経歴を持つ国際ビジネスコンサルタント。
2,000社というのも凄いが、現在ではさらに2,400社にまでなっているらしい。

そんな人はやっぱり若い頃から違うようで、27歳の頃から仕事で気付いた事を「OYYAT NOTE(おやっとノート)」としてまとめていたんだそうである。
そのなかから選りすぐってまとめたのが本書という事らしい。
1ページに一つの言葉と解説という形で、全部で142の言葉が紹介されている。

あちこちで似たような事を聞いたりしたものもあれば、なるほどと思うものもある。ある状況でしか当てはまらないなと思える事もあれば、普遍的な真理と言えそうなものもある。元は40年間でノート200冊くらいあるらしいのだが、やっぱりそういう習慣こそが著者を作り上げたのだろうと思う。本で表面上それらの言葉を知る事はできるかもしれないが、さらっと一読としただけではたぶん役には立たない。

・期日が1日過ぎた瞬間、「信用」は「不信」に変わる
・ビジネスマンの頭でカメがウサギに勝つ方法を考えなさい
・お金に苦労しなさい、そしてお金に執着しなさい
・主婦の金銭感覚をいますぐ見習いなさい
・悪い話は必ず解決プランを用意してから話せ
なるほどと感じたのは上記の5つ。
他にもあるが、それはいつも持ち歩いている手帳にメモした。
その人の経験やおかれた状況でも心に残る言葉は違ってくるはず。
短時間で読めるので、心に残る言葉を探してみるといいかもしれない。

肝心な事は、メモするだけでなく、実践で使うようにしないといけないだろう。
十分、心掛けたいと思わされる一冊である・・・

    



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2010年05月16日

【職業振り込め詐欺】NHKスペシャル「職業“詐欺”」取材班 読書日記65


職業”振り込め詐欺” (ディスカヴァー携書)

職業”振り込め詐欺” (ディスカヴァー携書)

  • 作者: NHKスペシャル職業”詐欺”取材班
  • 出版社/メーカー: ディスカヴァー・トゥエンティワン
  • 発売日: 2009/10/03
  • メディア: 新書



第1章 巨額をむしり取る振り込め詐欺ビジネス≠フ仕組み~格差が生み出した現代型犯罪~
第2章 「捕まるのは下っ端だけ」 ~ワーキングプア・失業者が日雇い犯罪者に~
第3章 有名大学・一流企業出身のエリート犯罪者たち ~犯罪意識の消滅~
第4章 実録:エリートたちが群がる巨大振り込め詐欺グループの裏側
第5章 「命のお金を奪われた」 ~被害で一変した暮らし~
第6章 振り込め詐欺対策の現状 ~撲滅に向けて動き出した警察~

今や空前の規模となった振り込め詐欺。
これだけ世間に騒がれていてもなおかつ騙される人が後を絶たない。
こうなってくるともはや「騙される方が悪い」という気持ちにもなるが、そんな詐欺犯罪を取材した「NHKスペシャル」を書籍化したのが本書。

詐欺の仕組みから説明し、犯人グループにもインタビューを試みる。
当然の事ながら警察も追っているわけであり、コンタクトも容易ではないであろう。
それでもコンタクトに成功した例は興味深い。
元締め、実行グループ、そして「出し子」と呼ばれる現金引き出し係と階層性になっている組織。

一番逮捕されるリスクが高い「出し子」は、実行グループも直接接する事もなく、わずかな報酬で雇われる。
リスクばかりが高いものの、不景気で仕事にありつけない人たちが誘われていく。
捕まるのは下っ端ばかり。
「そんな事やらなければいいのに」というのは普通の人の感覚。
お金もなく、漫画喫茶で寝泊まりする、将来どうなるかわからないといった人たちにすればやむをえないのかもしれない。

巨額の金を受け取っても最終的に捕まれば意味はない。
しかし捕まっているのはほんの氷山の一角で、中にはノウハウを指南し、莫大なお金を貯めて海外に資産を移転させて悠々自適の暮らしを送っている者もいる。
いつか不幸になるに違いないと思わないとやりきれない思いがする。

また、大学出の高学歴者が多く、遅刻厳禁でサラリーマンのように出勤して電話をかける様子はもはや「仕事」と化しているあたりは唖然とさせられる。
騙される人の気持ちなど考えようともしない。
そんな若者たちを育てたのは何が原因なのだろう・・・

警察の捜査にも限界があるようだし、「騙される方が悪い」と言って済ますべき問題でもない。
ただ、現状を知る限り「騙されないようにするしかない」のかもしれない。
ニュースの裏側を知るこういう企画も有意義であると思わせられる一冊である。


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2010年05月15日

【パラドックス13】東野圭吾 読書日記64


パラドックス13

パラドックス13

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞社
  • 発売日: 2009/04/15
  • メディア: ハードカバー



東野圭吾といえば、現実世界を舞台としたミステリーが主流である。
しかし、本作は非現実世界を舞台としたちょっと珍しい作品。
著者名を伏せて読むと伊坂幸太郎かなと思ってしまうかもしれない。

事業仕分で一躍有名になったJAXAから内閣総理大臣に報告が届く。
ブラックホールの影響で、「P−13」現象なるものが起きると予想される。
しかし、その「P−13」現象なるものは、時間が13秒ずれるという事以外詳しい事はわからない。
そうして、その時がやってくる。

主人公は久我誠哉と久我冬樹の二人の異母兄弟。
二人とも刑事であるが、兄は警視庁のキャリアで弟は所轄勤務と差がある。
ある重要犯罪の逮捕現場でその時を迎える。
突然まわりから人々が消えてしまうのである。

誰もいない東京の街。
それでもうろうろする間に、同じ境遇の者たちと出会う。
誠哉と冬樹の兄弟に老夫婦、男3人、女3人そして子供と赤ん坊。
やがてヤクザも合流する。
どうしてこうなったのか、誰にもわからない。
解明しようとしているとやがて起こる天変地異。
異常な状況下でのサバイバルが始まる。

誰もいない東京でのサバイバル。
自然発生的にリーダーシップを発揮するのは誠哉。
徐々に明らかになる生存者たちの素生。
協力があって反目があって恋愛感情があってと、こうしたサバイバル系にはよくあるパターンであるが、どんな結末があるのかとついついページをめくるスピードが速くなる。

自分だったらどうするだろうと思わずにはいられない。
こうした異常な状況下でこそ、その人本来の姿が現れるもの。
自分はしっかりしていたいなとやっぱり思う。
一気に読み終えてしまったが、人間の運命を分けるものってなんだろうと考えた。

沈着冷静であっても自分勝手であっても奉仕精神が高くっても、それが生き残る理由とはならない。
やっぱり運の一言につきるのだろうか。
そんな事を考えさせられた一冊である・・・




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2010年05月09日

【資本主義崩壊最終ラウンド】船井幸雄 読書日記63


資本主義崩壊最終ラウンド―2009~2013 大恐慌はまだまだこれからが本番だ!

資本主義崩壊最終ラウンド―2009~2013 大恐慌はまだまだこれからが本番だ!

  • 作者: 船井 幸雄
  • 出版社/メーカー: 徳間書店
  • 発売日: 2009/05/23
  • メディア: 単行本



序章 “二つの真実”で私たちの未来の姿が見えてきた―時流が大きく変わりはじめた
第1章 いま、私たちは歴史的転換点に立ち会っている―資本主義崩壊は何を意味するのか
第2章 資本主義崩壊の次のシナリオが見えてきた―これからいったい何が起きるのか
第3章 何が起きているか、その本質に目を向けよう―経済の大異変の次に起こること
第4章 大転換のなかで、いかに私たちは生きるべきか―新しい時代を迎える智恵と生き方

久々に手に取った船井幸雄の著書。
激動の現代経済社会。
これからどうなっていくのか、これからどうするべきなのか。
そんな事を考えるヒントとしてなんだかぴったりなタイトルだという事で手に取った一冊。
さらに著者は船井幸雄であるから尚更、である。

しかしながら冒頭から衝撃的な言葉が並ぶ。
「聖書の暗号」「日月神示」「中村天風先生の生きざま」・・・
最後はともかく、前の二つは何か。
「聖書の暗号」とは旧約聖書には隠された暗号があって、そこには人類のさまざまな事が予言されているというもの。
「日月神示」は1944年から10年にわたって岡本天明さんという人物に、うしとらの金神などの神が神憑りで書かせたものであるという。

こんなものを信じろというのか、あの船井幸雄が、と絶句してしまった。
しかし頭から否定していても進歩はない。
あの船井幸雄ゆえ、否定せずに読むことにした。

内容的には、これからさらに経済の混乱は続き、2020年までには現行の経済体制は崩壊するという。
しかしそのあとは正しい未来を切り拓き、希望あふれる時代を迎えられるとなっている。
それはそれで希望を持ちたいものである。

資本主義崩壊のシナリオとしては、
・アメリカのドル切り下げ(1ドル30円くらいになる)
・ドルを廃貨して北米共通通貨アメロを導入する
という部分はアメリカが借金(米国債)に耐えられなくなり、それを実質軽減する方法として考えられるものであり、ありうるシナリオであるかもしれない。

崩壊後の素晴らしい時代を迎えるための「人間のあり方」として次の5カ条があげられる。
・ポジティブ人間を志す
・自己責任人間になる
・自分の納得できないこと、理解できないこと、したくないことはけっしてやらない
・投機や博打はなるべくしない、できればこれらにまったく手をださないほうがいい
・自分ととくに親しい人、顧客などには損を与えることはしないし、けっしてすすめない
そう難しいことではないので、これはこれで意識したいものだ。

そのほか、波動医学・NS乳酸菌・まゆコロコロ健康法などが紹介されている。
船井幸雄の名前がなければ、読み捨ててしまうであろうような内容。
せっかくだから何かのためにメモだけしておく事にした。
今後のシナリオなどについては真面目に意識しておきたいと思うところであるが、なんとも複雑な気分にさせられる一冊である・・・



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2010年05月01日

【自由への長い道】ネルソン・マンデラ 読書日記62

 

原題:LONG WALK TO FREEDOM
第1章 田舎の少年時代
第2章 ジョハネスバーグ
第3章 自由の戦士の誕生
第4章 闘争はわが人生
第5章 反逆罪裁判
第6章 黒はこべ
第7章 リヴォニア
第8章 ロベン島・暗黒の日々
第9章 ロベン島・希望の始まり
第10章 敵との対話
第11章 自由

反アパルトヘイトの闘士であり、元南アフリカ大統領ネルソン・マンデラの自伝である。
発表後、英米でベストセラーになったらしいが、あまり記憶にはない。
今年に入って「インビクタス/負けざるものたち」という映画を観て、無性に興味が沸き、手に取った本である。
上下巻で1,000ページ近くある本書はかなり読み応えがある。

もともとネルソン・マンデラの名前は知れ渡っており、名前こそよく知っていたがどんな人物かと問われるとほとんど知らないという有り様だった。
そういう者にとって、自伝というものは本人の考え方がよくわかるという点で優れている。
「インビクタス/負けざるものたち」という映画を観てまず思ったのは、なぜあそこまで復讐心を捨てられたのか、という点だ。

27年もの長きにわたって投獄されたにもかかわらず、出所後は一貫してすべての人種の平等を説く。白人などどうでもいいという姿勢はどこにもない。私などは基本的に「目には目を」と考えてしまうからよけい不思議だったのだ。
ところがこの本を読むと、その謎は氷解する。

黒人が差別されていた南アフリカ。
幸運にも教育を受けられて学ぶうちに、マンデラは現状を何とか変えたいと思うようになる。そしてその思いとは「すべての南アフリカ人が平等に生きる社会の実現」であり、けっして黒人の解放だけではない。南アフリカには白人と黒人の他にもインド系やカラードと呼ばれる混血系もおり、それらすべての人々の平等を訴えていく。

白人自身、黒人を差別しながらも、実はあらかじめ植えつけられていた先入観が原因だったり、自分と接するうちに考えが変わっていく白人を目にし、マンデラはアパルトヘイトという制度自体の解体を目指す。
白人への復讐心はどこにも出てこない。
そうしたスタイルの一貫性を見ていくと「目には目を」とならなかった理由がよくわかる。

それにしても南アフリカという国は不思議な国だ。
マンデラ自身は当初は弁護士として活躍する。
そして至る所で弁護士として法的に筋を立てて当局に立ち向かっていく。
裁判で、刑務所で、あらゆる場面で。
そしてそれがかなり通るのである。
黒人弁護士だからと言って白いモノでも黒といって押し切られたりはしない。
しばしマンデラの正当な主張が認められる。
差別社会とは言え、そういうところは公平なのである。

そして刑務所から27年振りに解放されても社会の混乱は続く。
味方であるはずの黒人勢力からも攻撃を受けて多数の死者が出る。
マンデラが大統領になるまで信じられないような混乱と波乱が続く。
よくぞ混乱を収拾して全国民による普通選挙実施へと漕ぎつけたものである。

戦後アフリカでは多くの新興独立国が誕生した。
しかし、支配者であった白人を追い出した国はみな混乱し治安も悪化していく。
ところが融和を説いた南アフリカはずっと安定している。
それは白人勢力をうまく社会に取り込んでいったためだと言われている。
そうした状況もよくわかる。

南アフリカのために戦い続けたマンデラ。
しかしその陰で家庭は犠牲となる。
逮捕された時にまだ幼かった娘が、成人になって会いに来るシーンでは考えてしまった。
幼い子がいきなり成人だ。
その間の思い出は何もない。
自分に果たして同じ事が出来るだろうかと問われれば、「そこまでしたくない」と答えてしまう。つくづく偉大な人物である。

マンデラの自伝ではあるが、同時に南アフリカの現代政治史でもあると言える一冊である・・・
    



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