2010年07月31日

【二度目のノーサイド】堂場瞬一

     
「ラグビーは少年を最も早く男にし、男に永遠の少年の魂を抱かせる」
冒頭に元ラグビーフランス代表の名フランカー、ジャン=ピエール・リーブの名言が掲げられている。
同じポジションだったため、昔憧れていた選手だ。
それゆえに、冒頭から大いに期待を抱かせられたこの本は、タイトルの通りラグビー小説である。

武蔵野電産というかつては実業団の強豪チームもリストラ、予算縮小の流れを受けてチームは解散した。
最後の試合は引き分け。
そして決勝へ進むチームを決める抽選で負けてしまう。
ラグビーでは抽選で決めるという制度があり、それで敗れた事からドラマは繋がっていく。

あの時のメンバーでもう一度あの試合のリベンジを。
主人公の桐生はそうして仲間を集め、試合に向けて動いていく。
ラグビーというスポーツは激しいスポーツで、普段のトレーニングは欠かせない。
練習もせず、すぐ明日試合をやろうというものではない。
メンバー集めとともに、体も鍛えないといけない。
そうした困難さが描かれて行く。

この本の特徴は、単なるスポーツドラマに留まらないところだ。
著者はラグビー経験があるらしいが、そうした経験が随所に描かれている。
スクラムで首の後ろが擦りむけるとか、スクラムを押している時の腿の緊張感とか、記憶の中では常に自分は世界最高のプレーヤーになっているといったところは、経験した者でないとわからない。
「ポイントが固いコンクリートの床を打つ固い音が控室に響く」
こんな表現はラグビー経験者でないと絶対にできない。
そんなところにラグビー経験者に相通じるものを感じる。

ドラマ自体はさすがに演出されていて、それはちょっと作られ過ぎという感がある。
まるで韓流ドラマのようにくさいストーリーが続く。
そうした部分にせっかくの盛り上がりを殺されそうになりながら、そうして最後の試合が始まる。

最後の試合は熱い緊張感が伝わってくる。
まるで自分の過去の試合を振り返っているかのようだ。
そうそう、こんなシーンは自分も経験したな、と。
思わず手に力が入る。
くさい演出も最後の試合の描写で帳消しになった。

ラグビー経験者でなくても面白い一冊だと思う・・・



二度目のノーサイド[文庫] (小学館文庫)

二度目のノーサイド[文庫] (小学館文庫)

  • 作者: 堂場 瞬一
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2009/07/07
  • メディア: 文庫



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2010年07月21日

【子殺し】金沢克彦

     
著者は元週刊ゴングの名物編集長。
その名物編集長が、編集長に就任した1998年から辞任するまでの激動のマット界の裏事情を綴った一冊である。
マニアには垂涎の一冊と言える。

金沢編集長と言えば新日本プロレス。
プロレス界の事情に多少明るければ「子殺し」というタイトルの意味はすぐわかる。
ここで言う「子」とは新日本プロレスのこと。
そして誰からみた「子」かといえば、生みの親であるアントニオ猪木。
引退後も大株主として権力を振るった猪木。
その結果としての新日本プロレスの衰退。
それは時代の流れとも言えるのだが、猪木による強権発動がなければ、ひょっとしたら新日本プロレスは、こんなに衰退する事もなかったのではないか、とついつい考えてしまうのである。

内容的にはどの章も興味深い。
最初に来るのは大仁田厚。
ストロングスタイルの新日本プロレスとは対極に位置していた電流爆破デスマッチの大仁田。
それがついに融合したのであるが、水面下で何と金沢編集長が新日本プロレスと大仁田の橋渡しをしていたのだと言う。
テレビで観ていた大仁田のデモンストレーションの裏側でのやり取りは実に面白い。

そして極めつけは、あの「橋本vs小川」の壮絶な一騎打ちの裏側だ。
99年1月4日の東京ドーム。
形の上では小川が橋本をKOし、そのあとリング上は大混乱となった。
試合前のルール確認をすっぽかした小川。
ガチンコで行けという猪木の指令が土壇場で変わるが、小川には届かない。
そのまま喧嘩ファイトで橋本を倒してしまう。
橋本も事態を収拾するため敢えて倒れていたという話や、試合後に小川が橋本に謝罪の電話を入れていたなどという事実は、試合そのものより面白い。
結局、この試合がその後の新日本を襲う激震の第一波となったのである。

そして折からの総合格闘技ブーム。
新日本プロレスも当然ながらその影響を受ける。
永田・藤田・石澤と実力者が揃って総合格闘技のリングに上がり、そして敗れる。
そこには猪木による仕掛けがあり、猪木がいなければ果たして彼らは総合のリングに上がったかどうかはわからない。
おなじプロレス団体のノアがまったく動かなかったのとは対照的である。

これまでも道なき道を歩んできた猪木。
「この道を行かば」の精神で大成功を果たした。
常人にはできない発想と実行力があってこそ、全日本プロレスに比べて圧倒的に不利な状況から旗揚げをし、発展してきた。
その神通力が衰えたのか、それとも周りがついてこれないだけの事なのか。

結果論からすると新日本プロレスは失速し、今ではテレビ放送も深夜30分だけに縮小された。
週刊ゴングも廃刊となった。
猪木も株を手放し、新日本プロレスオーナーの立場を離れた。
つわものどもが夢のあと、なのであろうか。
あの熱い時代が懐かしくなる一冊である・・・



子殺し 猪木と新日本プロレスの10年戦争

子殺し 猪木と新日本プロレスの10年戦争

  • 作者: 金沢 克彦
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2009/07/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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2010年07月20日

【ぼんくら】宮部みゆき

    
良質のミステリーを生み出すかと思えば、一転して時代劇の世界にも踏み出してしまう宮部みゆき。
その一方の世界である時代劇の、これは一冊である。

「ぼんくら」とは主人公である同心平四郎の事。
名前の通り家業を継ぐ必要のない四男坊であったのが、兄の死などによってお鉢が回ってきてしまい、同心になったという生い立ち。
めんどうはなるべく避け、日々つつがなく暮らしたいと考えている。
そんな彼だからこそ「ぼんくら」なのである。

さて、舞台となるのは鉄瓶長屋と呼ばれる長屋。
江戸の長屋と言えば庶民の代表的な住居。
建物自体はあちこちで目にした事があるが、人々の暮らしぶりというとそうもいかない。
ストーリーはともかく、そんな長屋の暮らしぶりが事細かく描かれていて、江戸風物詩ともいうべき部分にも興味がいってしまった。

例えば各長屋には、ここでは重要な役割を持つ差配人という役職の人がいて、担当長屋の細々とした事を大屋になり代わって担っていた。
差配人は人生経験豊富で、すなわちそれなりの年齢の人がなるのが慣例で、店子が出ていく、入ってくるとなると忙しくその手配をしたり、店子にもめ事があれば相談に乗り、などの役割を果たしていたらしい。
さらに便所の肥は農家に売るのだが、その代金は差配人のものになる、などといった風俗習慣の数々はなかなか興味深い。

宮部みゆきの時代劇ものはこれが初めてではないが、以前読んだ「幻色江戸ごよみ」も「初ものがたり」も派手な剣劇は登場しない。
庶民の日常の中での出来事が中心となっている。
ここでも平四郎が刀を抜く事はないし、ちょっとした捕り物シーンが申し訳程度に出てくるだけである。
それが宮部流時代劇の味わいなのかもしれない。
ちなみに、「初ものがたり」に出てくる岡っ引きの茂七親分は、この物語でも名前が出てくる。
こうした人物相関もまた面白い。

舞台となる鉄瓶長屋で起こった殺人事件。
ところがそれが身内によるものと判明。
責任を感じた差配人が姿を消し、そこから物語はさまよい始める。
いったい何が起こっているのか、それがわからない。
読み手も平四郎とともに謎解きに付き合わないといけない。
しかし、謎解きといってもミステリーと呼べるようなものでもなさそう。

いったいこれは事件なのか、なんなのか。
真相はどうなっているのか。
大事件が起こっているわけでもなさそうなのだが、真相だけは気になる。
そしてエンディング。
江戸庶民の暮らしに触れてみながらちょっとした謎探しができる、そんな小説は藤澤周平とはまた違った魅力を感じるのである。
これからも楽しみに味わっていきたいものである・・・



ぼんくら(上) (講談社文庫)

ぼんくら(上) (講談社文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/04/15
  • メディア: 文庫




ぼんくら(下) (講談社文庫)

ぼんくら(下) (講談社文庫)

  • 作者: 宮部 みゆき
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/04/15
  • メディア: 文庫



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2010年07月19日

【心に響く小さな5つの物語】藤尾秀昭

     
タイトルにある通り、5つのちょっといい話が収められている。
よく意味はわからないが、片岡鶴太郎が挿絵を描いていたりする。
それはともかく、5つの話は心にぐっとくるものがある。
冒頭に出てくるのはメジャーリーグで活躍するイチロー選手の小学校時代の作文。
もうあまりにも有名だからあちこちで目にしている。

作家西村滋さんの亡き母親の子を思う感動的なエピソード。
父親の残した言葉を実践する事で周りの人たちから優しくされて、孤独を感じることなく生きられた女性のエピソード。
重度脳性マヒの子が母に残したたった一遍の詩。
たった一年間の担任ながら、その子に一生残る教育をした先生の話。

どれもこれも心に響くエピソードである。
タイトルに偽りはない。
ただもう一つタイトルに偽りがない事もある。
どれも小さな物語は読むのに時間がかからない。
10分もあれば一冊読めてしまう。
それだけがなんとも言えない一冊である・・・


心に響く小さな5つの物語

心に響く小さな5つの物語

  • 作者: 藤尾 秀昭
  • 出版社/メーカー: 致知出版社
  • 発売日: 2010/01
  • メディア: 単行本



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2010年07月18日

【本当の学力は作文で劇的に伸びる】芦永奈雄

     
著者は国語専門の小平村塾という塾を開業して、通信教育で作文・小論文を教えている人物である。
作文はすべての学習の基本であり、作文をしっかりやる事により、国語だけでなく英・数・理・社の文章問題もすべてできるようになると主張する。
そんな主張と学習方法をまとめたのがこの一冊である。

確かに読解力が備われば、英文和訳もしっかりできるし(英語の意味がわかれば、だが)、算数も理科も社会も、問題を読んでわからないという事がなくなるからよくできそうである。
ただ、だからはいそうですかと言って身につくものでもなさそうである。
ところが、わずか数カ月で身につくのだと言う。

紹介されている作文は小学校3年生くらいから中学生くらいまでだが、どれもがそれとは思えぬ出来栄え。
本当に小学生でこんな作文が書けるのか、と思わず疑惑の眼差し。
とはいっても本まで出しているのだから事実なのだろう。

そんな作文が書けるようになる秘訣は、「とにかく書く」事が一番だそうである。
そして書くにしても大事なのは、「自分が経験している事は自分でないと書けない」という当たり前の事実。
そして「ストーリー性を持たせて書く」という事らしい。
ストーリー性と言っても難しいものではなく、事実を起こった順に書いていくというものだと。
たとえば物事を「結果から書かない」。
なぜなら物事は結果は最後に起こっているから、というがなるほどと大人でも思う。

また現在形と過去形を交互に書く
書き出しをセリフで始める
状態や様子をわかりやすく書く描写が重要
そして最後に自分の気持ちを表す描写を加える
などというポイントが説明される。

中でも描写がやっぱり難しそうである。
コツは視線の動きに合わせて描写するという事らしい。
家庭でも本に書いてある方法を実践して子供たちに教えてほしいとなっている。
ただ、これはどうも正直難しそうである。
親もそんなに慣れていないし・・・

我が子には通信教育でもやらせてみようかな。
そんな気にさせられた一冊である・・・



「本当の学力」は作文で劇的に伸びる

「本当の学力」は作文で劇的に伸びる

  • 作者: 芦永 奈雄
  • 出版社/メーカー: 大和出版
  • 発売日: 2004/02/27
  • メディア: 単行本



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2010年07月17日

【日本の復元力】中谷巌

     
バブル崩壊以降、長い低迷を続ける日本経済。
自信を失いつつあるかのような我が国に対して、歴史的な独自性から日本の強みを訴える一冊。
タイトルの如く、「復元力」を主張する本である。

うつ病が増えたり、自殺者が急増している現状、その原因は日本人が自らのルーツを見失っている事ではないかと提言。
日本はこれまでなぜ成功したのか。
明治維新から瞬く間に世界の列強の仲間入りし、敗戦で廃墟となった中から世界第2位の経済大国に上り詰めた原動力は何なのか。

そして昨今のグローバル化と西洋的価値観の蔓延。
アメリカの大学のMBAで教える事が第一と盲信し、日本的価値観を軽視する。
国際会議で発言力が弱いとされる日本人についての批判はこれまでもよく目にし、耳にしてきた。
でも著者は「それでもいいじゃないか」と主張する。
それはそれで目新しい意見だ。

声高に主張しないのが日本であり、そこにこそ21世紀世界に対して貢献できる可能性があるのではないか、という意見には新たな発見をしたような思いがある。
日本人は華やかなパフォーマンスは得意ではなく、不言実行、正しいと思う事を地道にやり抜き、その結果を世界から評価してもらえればよいと考える民族だからだという。
「日本流の説得術」を真摯に模索すべきだと。

それも一つの考え方だ。
自動車作りにおいて、日本人はバンパーの裏側まで磨くという。
それを無駄な事と考えるのも合理的な一つの考え方だし、それが西洋合理主義だ。
しかしそうした非合理的な美意識こそが日本の強さだとも言える。
できない事を克服するよりも出来る事を磨く方がよいと言う。
日本人として、あるいは自分個人として、いろいろと考えのヒントになる本である。
それにしても、つくづく歴史は大事だと、こういう本を読むと思うのである。

    

日本の「復元力」―歴史を学ぶことは未来をつくること (MURC BUSINESS SERIES 特別版)

日本の「復元力」―歴史を学ぶことは未来をつくること (MURC BUSINESS SERIES 特別版)

  • 作者: 中谷 巌
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2010/05/07
  • メディア: 単行本



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2010年07月10日

【史上最強の人生戦略マニュアル】フィリップ・マグロー

あの勝間和代さんが9年前に手に取り、大いに影響されたという自己啓発書である。
著者は訴訟コンサルタントのフィリップ・マグロー。
アメリカらしい職業と言えるが、そんな人物の手による一冊。
原題は「Life strategies: Doing What Works,Doing What Matters」。

第1章ではいきなり「問題がひとりでに解決することは、絶対にない」というタイトル。
要は何かしなければならないと言う事だ。
多くの人が陥りがちな罠をずばりと言い切っているところがいい。

第2章からは人生の法則が語られる。
「本当に生きるということ=ものがわかっているか、いないか」
「自分の選択と態度に焦点をあてる=人生の責任は自分にある」
「“見返り”が行動を支配している=人はうまくいくことをする」
「問題はあなたが認めるまで悪化していく=自分が認めていないことは変えられない」
「違うことを“する”=人生は行動に報いる」
「過去の出来事を言い訳にしない=事実なんてない、あるのは認識だけ」
「今すぐに人生計画を立てる=人生は管理するもの、癒すものではない」
「見返りを断つ=私たちは自分の扱い方を人に教えている」
「憎しみはあなたの心を変えてしまう=許しには力がある」
「あなたのゴールラインはどこか?=自分が求めているものを知り、要求する」
タイトルだけ読んで行ってもいいくらいである。

読み進むとハッとするような言葉に出あう。
「ものがわかっているか、いないか」のところでは、なぜ離婚が多いのかについて、「誰も結婚生活の送り方を教えられていないから」とある。
確かに、それは言えている。
「人を動かすには相手の自尊心を傷つけない」とは、まさに自分自身に戒めたい言葉だ。

他人を責めるのが人間の本質
人は人生の中で得ている見返りによって自分の行動を形成する、見返りを見つけてコントロールしよう
問題が何かわかれば半分解決したも同然、そしてその問題は自分が作り出したもの
自分には変化を起こすという選択肢がある
問題を我慢するのではなく、解決する事に全力を注ぐ
人生を変えるためには自分を変える
人生で手に入れられるものは、最高でも自分の望むものが限度

チェックしているときりがないくらい重要な言葉が続いていく。
人間を観察してきた人ならではの言葉だ。
最後に目標設定の7つのステップが紹介されている。
なるほど、教科書としては勝間氏が絶賛するだけのことはある。
タイトルにも偽りはない。

読んでも実践しなければ意味はない。
これから少しは意識して実践していきたい、そんな気分にさせられたのであった・・・




史上最強の人生戦略マニュアル

史上最強の人生戦略マニュアル

  • 作者: フィリップ・マグロー
  • 出版社/メーカー: きこ書房
  • 発売日: 2008/09/27
  • メディア: 単行本



posted by HH at 23:57| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス/戦略 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする