2010年10月27日

【魔王】伊坂幸太郎 読書日記113


魔王 (講談社文庫)

魔王 (講談社文庫)

  • 作者: 伊坂 幸太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/09/12
  • メディア: 文庫



   
「魔王」と聞くと、今でも小学校の音楽の時間に聞いたシューベルトの歌曲を思い出す。
夜道を行く馬車に乗っている親子の会話がその内容である。
クラスのみんなが面白がって、毎回先生にねだって聞かせてもらったのである。
しかし、実は魔王に子供の命が奪われるという恐ろしい曲なのである。

この本を手に取った時、そんなシューベルトの魔王と関係があるとは夢にも思わなかった。
しかし、実は大ありだったのだ。
ストーリーの背景に、実はそのシューベルトの「魔王」が息衝いているのである。
これは 「ゴールデン・スランバー」でも経験した事だが、伊坂幸太郎の音楽系譜と自分のそれとが、なんとなく重なっている気がする。

主人公は安藤兄弟。
兄が主役の「魔王」と弟が主役の「呼吸」と2部に分かれている。
兄は他人に自分の思ってる事を言わせる、「腹話術」と呼ぶ特殊能力がある。
弟は勝負事に負けないという能力がある。
その能力を使って何かするかというと、するのは他愛もない事。
ストーリーにも大きく影響しない。

兄弟の生きる時代背景は興味深い。
犬養という政治リーダーが現れ、日本人の強いアイデンティティーを訴えていく。
アメリカに追随するのではなく、中国との領土問題に怯むことなく、己を強く主張すべきと主張する。
それはあまりにも今の時代に似過ぎているが、本が書かれたのは2004年だ。

後半の「呼吸」では、首相になった犬養が、国民投票によって憲法改正を行おうとしている。犬養の主張はいちいち耳に心地よく響く。こんなリーダーが今の日本に現れたら、とついつい本気で願ってしまう。おそらくこれは伊坂幸太郎の秘めたる思いなのかもしれない、と読みながら思う。小説という名を借りて、自分の持論を展開しているのだ。

残念ながら国民投票の結果が出る前にストーリーは終わる。
途中であれこれと投げかけられた疑問は、すべて読者の想像に委ねられた。
続きは自分で考えるしかない。
大きく動こうとしている世間と、それに反して生きる安藤兄弟。
伊坂幸太郎らしい、不思議なワールドの中での物語。

安藤兄の言葉がなぜか読後に残る。
「考えろ考えろマクガイバー」
それが大事だと強く思う一冊である・・・






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2010年10月24日

【アベンジャー】フレデリック・フォーサイス 読書日記112

  

原題:Avenger
「ジャッカルの日」を初めて読んで衝撃を受けたフレデリック・フォーサイス。
それ以降も「オデッサ・ファイル」「戦争の犬たち」「悪魔の選択」・・・と読み続けてきている。最新作の 「アフガンの男」はすでに読んでしまっているが、これはその一つ前の作品。遅まきながら読んだ次第である。

フォーサイス自身がイギリス人ということもあり、これまでも大概の登場人物はイギリス人であったが、ここに登場するアヴェンジャーはアメリカ人である。
ちょっと珍しいなというのが第一印象。
しかし、だからといって面白さが減るなどと言う事は、当然ない。

アヴェンジャーとはコードネーム。
本名はキャル・デクスターという表向きは弁護士をしている男。
そして弁護士稼業の傍ら、裏で「人狩り」を請け負っている。
「人狩り」とは、犯罪者を捕えて当局に引き渡し、裁判にかけることである。

フォーサイスの特徴として、緻密な描写が挙げられる。
ストーリーはアヴェンジャーが、ボスニアでアメリカ人ボランティアを殺害したマフィアの大物ゾラン・ジリチのマンハントが中心となるのであるが、ストーリーの本筋は上下巻の下巻からである。上巻はアヴェンジャーの経歴、事件の発端・経緯、登場人物たちの描写がびっちりと描かれる。そしてそれゆえに、各人物たちが織り成す下巻の本ストーリーが生きてくる。

労働者の息子として生まれたアヴェンジャーことキャル・デクスター。
進学できる機会がもらえるのが魅力で入隊し、ベトナムへ行く。
そこで持てる能力をフルに発揮し、泥にまみれ、勲章を何個ももらう。
除隊後は予定通り大学に進学し、弁護士となって貧しい労働者階級から抜け出し、幸せな結婚生活をスタートさせる。
そんな彼がある事件を経緯に、幸せな家庭生活を終えアヴェンジャーになる。
そうしたサイドストーリーはそれだけでも面白い。

ユーゴスラビアで暗躍した大物マフィア・ジリチの「人狩り」に出掛けたアヴェンジャーの活躍が下巻。姿をくらましたジリチの捜索からラストまで緻密な描写はさすがフォーサイス。
息もつかせぬ展開は、「ジャッカルの日」以来ずっと変わらぬまま。
そしてあちこちにちりばめられたサイドストーリーが、代わる代わる本ストーリーに活かされている。

そして物語の中ではもう一つのストーリーが存在する。
アラブのテロの動きを察知し、これを阻止しようとする計画である。
そこでは正義の前に小さな悪に目をつぶろうとしている。
まさに先日読んだ 「これからの正義の話をしよう」のような話である。
あくまでサイドストーリーなのであるが、ちょっと考えさせられる。

読み終えて心地良い溜息をつく。
このアヴェンジャーの活躍によって9.11テロが起こった事になるのだが、それも何だか面白いフィクションである。
これぞフォーサイス。
大満足の一冊。

さらにまだ読み逃しているものがあったようだ。
それに海外では最新刊 『コブラ』も発売になっているようだ。
また再びフォーサイスの世界に浸れる幸せを味わえそうに思える一冊である・・・



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2010年10月23日

【渡邉美樹のシゴト進化論 】渡邉美樹 読書日記111


渡邉美樹のシゴト進化論

渡邉美樹のシゴト進化論

  • 作者: 渡邉 美樹
  • 出版社/メーカー: 日経BP社
  • 発売日: 2008/04/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



≪目次≫
ビジネスから仕事を学ぶ
 その1 リーダーの条件
 その2 株主資本主義社会での生き抜き方
 その3 ワタミの経営から学ぶ
 その4 より上を目指すための仕事術
社会起業から仕事を学ぶ
 その1 学校教育
 その2 ボランティアとNPO
 その3 農業と地球環境
 その4 病院と介護・福祉
 その5 政治と社会
ニュースから仕事を学ぶ

著者はワタミグループの総帥渡邉美樹。
ワタミグループはメインの居食屋『和民』を中心に学校、介護福祉、農業、病院等幅広く事業を展開している。
そして渡邉氏自身もよくメディアに登場しているビジネス有名人である。
そんな著者が、仕事について様々に語った一冊である。

全体は大きく3部に分かれる。
それぞれが、
『ビジネスからから仕事を学ぶ』
『社会起業から仕事を学ぶ』
『ニュースから仕事を学ぶ』
と題されている。

『ビジネスから学ぶ』では、日々起こる様々な事柄から実例をあげて、その都度どのような考えで、どのような対応をしてきたのかが語られる。
仕事の褒め方、叱り方、部下の育て方(部下は勝手に育つものだそうである)、株主総会のあり方、ピンチの時のあり方、チャレンジする事。
実例だけにまさに人柄、考え方が出ていて興味深い。

そして『社会起業から仕事を学ぶ』の章が実は一番参考になった。
起業のための資金を貯めるため佐川急便で一日20時間働いて、お金を貯めたそうであるが、つぼ八を経てワタミ創業まで、筋の通った著者の生き方が随所に表れている。
信念を持って生きる姿勢こそが、さすが一流のリーダーだ。
決して成功物語ばかりではないが、こうした信念で仕事に取り組んでいれば、いずれは成功を呼び寄せるものだと思えてくる。

そして成功したあとは社会貢献。
介護福祉事業や病院、そして中高一貫の学校を手掛け、さらにカンボジアでボランティア活動まで行う。
特に介護、病院、学校などは役人との衝突が頻繁に起こる。
これらの分野では、やっぱり硬直的な規制から閉塞感に覆われているようであるが、著者のような正論が通るようになると、我が国も希望が持てるようになるのかもしれない。

ただ会社と自宅の往復だけに終わっていないか。
仕事に意義と喜びを見出しているか。
全力を尽くしているか。
著者の姿を見ると己の姿がみすぼらしく見えてしまう。
明日から少し世の中のためにも働こうかという気になる一冊である。

  



2010年10月16日

【十歳のきみへ】日野原重明 読書日記110


十歳のきみへ―九十五歳のわたしから

十歳のきみへ―九十五歳のわたしから

  • 作者: 日野原 重明
  • 出版社/メーカー: 冨山房インターナショナル
  • 発売日: 2006/04
  • メディア: 単行本



   
今やすっかりあちこちで有名になっているご長寿の現役医師日野原重明先生による、タイトル通り「10歳」の子供たちに向けて書かれた一冊。
10歳の子供を持つ親としては、ちょっと興味を持って手にとってみたわけである。
我が子に読ませる前にまず自ら読んでみようと思った次第である。

根底に流れるのは命のお話。
著者は乞われてあちこちの小学校でよく命の話をするらしいが、そんな話をわかりやすく説明する。
「寿命とはわたしたちにあたえられた時間のこと」
「生きるとはからっぽの器の中に命を注ぐこと」
「ほかの人のために命の時間を使おう」
そんな言葉が語られる。

子供の頃、主治医の先生のおかげで母親の命が助かり、医者になりたいと思ったという。
そして学生時代は、当時死の病と言われていた結核にかかり1年近く寝たきりの生活を送る。
そんな絶望の日々は、しかし医者になって非常に役に立つことになる。
患者の気持ちがよくわかったからである。
人生に無駄な事があると思うから無駄な事が起こり、無駄な事はないと思えば無駄な事はおこらない、そんな言葉が脳裏を過る。

10歳の頃にも病気になり、外に遊びにいけない著者に母親はピアノを習わせる。
当時はピアノは女の子のするものという感覚があったから、友達からはからかわれたという。しかし、その経験が音楽療法への取り組みに生きている。
家族から受け継いだ遺伝子、習慣。
家族のありがたさ。
平和のために必要な事は許し。

命から始り、最後は平和に関する話でまとめられている。
子供には是非聞かせたい大事な事がたくさん語られている。
とは思うものの、我が子を顧みて「果たして理解できるだろうか」というのが、第一印象だ。個人差はあるだろうが、小学校の高学年向きといえるかもしれない。

いつ読ませるか、の問題はあるが、是非読ませてみたいと思う一冊である・・・




2010年10月13日

【経済予測脳で人生が変わる】中原圭介 読書日記109


経済予測脳で人生が変わる!―仕事も投資も成功できる「起こりえる未来」の読み方

経済予測脳で人生が変わる!―仕事も投資も成功できる「起こりえる未来」の読み方

  • 作者: 中原 圭介
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2010/04/16
  • メディア: 単行本



プロローグ
第1章 経済学だけでは経済予測はできない
第2章 わたしが「経済予測脳」を身につけるまで
第3章 歴史学編 歴史から学んで未来を予測する
第4章 心理学編 人間の欲望を理解して正しい判断を下す
第5章 哲学編 哲学を使って物事の本質を見抜く
第6章 新聞を「経済予測」に活用する技術
第7章 世界経済を変えるふたつの潮流を予測する
エピローグ これからの厳しい時代を、軽快に生きていくために
   
 著者の本は、これまでにも 「サブプライム後の新資産運用」 「株の勝ち方はすべて外国人投資家が教えてくれる」を読んでいる。エコノミストであり、金融コンサルティング会社の代表者でもある。これまでに最も予測が当たるエコノミストとして高い評価を得ており、今回も興味を持ってその著書を手に取った次第である。

 今回は、著者の「良く当たる」経済予測の秘密を語ったものである。
それをタイトルのように「経済予測脳」とネーミングしているのは、わかりやすくてよい。
未来がわかれば、誰でも億万長者になれるわけであるが、それは神のみぞ知る世界。
だからこそ、多少なりとも予測がつくようになれば、その恩恵は計り知れない。
密かな期待とともにページをめくる。

 始めは前提条件。
第1章「経済予測と言っても経済学だけでは予測はできない」
まあそうだろうなと納得。
第2章では著者が「経済予測を身につけるまで」の経緯を語る。
これは参考になる。
必要なのは幅広い見識だと。

 第3章〜第5章では何といっても「歴史から学ぶ」事が必要であり、その他にも「心理学」「哲学」が必要だという持論が展開される。
そこもまたそうなのだろう。
幅広い知識と見識が必要だという主張はそんなに特別な事ではない。

 そして第6章で「新聞を経済予測に活用する技術」と実践形式になる。
ここからが重要だ。
ただ「トヨタの派遣切り」と「プリウスの値下げ」から予測した未来の例を引用していて、それはそれで参考になるのだが、それだけだとまだまだだ。安易に経済予測脳など身につくものではない。
最後にこれからの流れとして「世界経済システムの構造転換」「金融から環境へ」とが挙げられている。

 それはそれで参考になるのだが、結局は普段からの勉強意識が大事だ。本一冊読んだからと言ってすぐに身につくようなものではない。毎朝読み流しているニュースに、ふと立ち止まって考える思考訓練が普段から求められるだろう。
ローマは一日にして成らずである。
 まあせっかく読んだんだし、これを機に少し意識してみよう、そんなヒントになった一冊である・・・
 






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2010年10月09日

【Sex】石田衣良 読書日記108


sex

sex

  • 作者: 石田 衣良
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2010/03/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



◆夜あるく
◆文字に溺れて
◆絹婚式
◆ダガーナイフ
◆純花   

石田衣良という著者名だけで手に取った一冊。
石田衣良の作品はわりと自分の感性にあっているので、まず外れはないように思うのである。
何やら大胆なタイトル。
どんな内容なのか興味をそそられる。

ページを開くと12の短編集である事がわかる。
そしてそのすべてがSEXの話。
いきなり大胆な表現が飛び込んでくる。
最初の短編「夜あるく」は、夜外を歩きながら互いに刺激し合うカップルの話。
どうやら外の方が興奮するらしい。
周囲に人がいないのを確認すると、大胆にも男は女の体に触り、女は甘い吐息をもらす・・・

タイトル通りの濃密な男と女のSEXが描かれる。
一言で言えば官能小説。
しかし、ネットでいくらでも拾える官能小説とは、当然ながらまったく異なる。
「品格が違う」とでも言えるだろう。

大人のSEXのオンパレードかと思えば、「文字に溺れて」はまだそんなSEXの経験もない中学生が登場する。
彼は文学小説の中の性描写に興奮する。
「痴人の愛」「南回帰線」「ボートノイの不満」・・・
誰にでも覚えがあるかもしれない。
そしてそんな彼に同じ趣味の同級生の女の子が声をかける。
SEXまではいかなくとも、やがて二人は実技に向かう・・・

死を間際にした壮年の男、子供の頃からのトラウマで不能の男、異国の地で意気投合した男女、夫のベッドに現れたこの世を去ったはずの妻。
様々な男女が激しく、そして静かに絡み合う。
どれもこれも下品ないやらしさはなく、けれど様々に繰り広げられるSEXに心までも温かく、熱くなる。

ここまで徹底して大胆に表現されるとあっぱれという感じがする。
「文字に溺れて」に登場する中学生ならきっとこの本を「愛読書」にするだろう。
いや、図書館で堂々と借りられるこの本は、中学生あたりには絶好の「入門書」になるかもしれない。
どうやらいずれまた続編が出るようだ。
それもまた読みたいと思う一冊である・・・




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2010年10月07日

【野球へのラブレター】長嶋茂雄 読書日記107


野球へのラブレター (文春新書)

野球へのラブレター (文春新書)

  • 作者: 長嶋 茂雄
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/08
  • メディア: 新書



1stイニング 松井とイチローの個性
2ndイニング あきらめないこと、信頼されること
3rdイニング 巨人の誇り
4thイニング 打者と投手の領土争い
5thイニング 五輪とWBC
6thイニング ああ監督
7thイニング 伝統の一戦
8thイニング グローバル・ワールドシリーズ
9thイニング 特別対談・長嶋茂雄×加藤良三(日本プロ野球コミッショナー)―「天覧試合」あの四打席を語ろう
   
ミスタージャイアンツ、長嶋茂雄読売ジャイアンツ終身名誉監督が、リハビリ生活を送る中で、つれづれなるままに語った「月刊ジャイアンツ」のコラムを一冊にまとめたもの。
やっぱり長嶋ファンとしては読まずにおく事はできない。
というわけで、手に取った一冊である。

全体を9つの章に分け、それぞれ野球人らしくイニングと称しているところは洒落ている。
長嶋さんは現代の二人の天才、松井とイチローについて語る。
そこから始り、自らメジャーリーグの選手、監督らについて語っていく。

実は長嶋さんは守備が一番好きだったというのは意外だ。
守る位置を考え、打球の方向を予測し、様々な条件に合わせて捕って投げる。
さらに加えて派手なアクション。
派手に捕って派手に送球する。
当たり前のプレーを誰もができないようにやるのが“長嶋流”だと語る。
あれはすべて考えられたプレーだったのだ。
堅実な守備を説く人からは顔をしかめられたそうだが、ファンを意識したプロ魂はさすがだと思う。野村監督は絶対やりそうもない。

野球のストッキングに見るファッション、長嶋さんは伝統的なストッキングを見せる履き方がいいと言う。
今の選手は足首までずぼんが下りている。
そう言えばテレビで目にした事があるが、そんなところも長嶋さんはしっかり見ている。

野球はどちらが攻めているかわからない面白いスポーツだという指摘も新鮮だ。
確かに守備側に立つピッチャーは打者に対してボールを投げ、それは守っているというよりも攻めだ。
迎え撃つ打者も攻めだ。
攻めと攻めがストライクゾーンでぶつかり合う。
こんな視点も面白い。

現役時代は特に練習したという。
9イニングの対談では、長嶋監督は自ら「王さんより練習した」と語ったが、その原稿を読んだ編集者の一人が、このまま載せていいか迷ったらしい。
王さんの猛練習は伝説だったからだ。
しかし、聞かれた人は即座に「問題ない」と返事をしたという。
答えたのは元記者。
「あれで選手寿命を縮めた」とその元記者が証言する。

人知れず猛練習して、グラウンドで派手なプレーでファンを喜ばす。
堅実で頭脳的なプレーの野村監督とは好対照。
本までも華やかだ。
野村監督の本も理論的で面白いが、やはり二人の違いは出す本にも表れている。
ポジティブで明るい長嶋さんは読み手にもその雰囲気を伝えてくれる。
長嶋ファン必見の一冊である・・・



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2010年10月03日

【新参者】東野圭吾 読書日記106


新参者

新参者

  • 作者: 東野 圭吾
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/09/18
  • メディア: 単行本



    
東野圭吾のシリーズによく登場する刑事加賀恭一郎。
その加賀刑事を主人公とした一冊である。

「新参者」というタイトルはちょっと不思議な気がした。
これは練馬署から日本橋署に転勤してきた加賀刑事が、この物語の舞台となっている人形町界隈において、自分は新参者であると語っているところからきている。

その物語はまたちょっと変わった形式を取っている。
全部で9つの章に分かれているのだが、出てくる事件は一つだけ。
小伝馬町で一人暮らしの女性三井峯子が殺される。
捜査にあたるのは警視庁。
そして地元の日本橋署がそれをサポートする。

加賀刑事は地元日本橋署の所轄刑事。
事件の捜査は地味な確認作業が大半を占める。
その“足による捜査”を加賀刑事がこなしていく。
事件の舞台となった小伝馬町のマンションを中心に、近くの聞き込みが行われる。

人形町駅に近い甘酒横丁。
(本当にあるのかどうかは知らない)
煎餅屋、料亭、瀬戸物屋、時計屋、洋菓子屋・・・
読んでいても直接事件に関わる事ではないようなエピソードが続いて行く。
しかし、それらのエピソードはちょっとほろりとさせられるものが多く、事件と何の関わり合いがあるのか疑問に思いつつ読み進めることになる。

捜査の補助方役とも言える所轄の加賀刑事ではあるが、捜査を通じた地元住民との交流は心温まるものである。
殺人事件を追う刑事ドラマという感じはまったくしない。
しかしながら個々のエピソードがすべてブレンドされて、最後に事件の真相が浮かび上がる。そのストーリー展開は見事と言える。

ガリレオシリーズとはまた違った味わいのある加賀刑事のシリーズが、こんな形で今後も続いて行くとしたらこれは見逃せない。
東野圭吾、ますます目を離せない。改めてそう思わせてくれる一冊である・・・





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2010年10月01日

【これからの『正義』の話をしよう】マイケル・サンデル 読書日記105


これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

  • 作者: マイケル・サンデル
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/05/22
  • メディア: 単行本



≪目次 ≫
第1章 正しいことをする
第2章 最大幸福原理──功利主義
第3章 私は私のものか?──リバタリアニズム(自由至上主義)
第4章 雇われ助っ人──市場と倫理
第5章 重要なのは動機──イマヌエル・カント
第6章 平等をめぐる議論――ジョン・ロールズ
第7章 アファーマティブ・アクションをめぐる論争
第8章 誰が何に値するか?──アリストテレス
第9章 たがいに負うものは何か?――忠誠のジレンマ
第10章 正義と共通善
  
『ハーバード大学史上空前の履修者数を記録しつづける、超人気講座「Justice」を元にした全米ベストセラー』、といううたい文句に惹かれて手に取った一冊。
確かに面白い。

「一人を殺せば五人が助かる状況があったとしたら、あなたはその一人を殺すべきか?」いきなりそんな問いかけがなされる。
そして、それこそが「正義」をめぐる哲学の問題だという。
哲学とは机上の空論では断じてない、という主張には強く頷きたい。

掴みは素人にもわかりやすい事例から入っている。
第1章「正しい事をする」では、ハリケーンの被災地で日常品を高値で売る“便乗値上げ”をめぐる賛否を取り上げる。
戦傷軍人に贈与されるパープルハート勲章は、心に傷を負った軍人にも適用されるべきか、そして冒頭の5人を助けるために1人を犠牲にする是非。

もっとも面白かったのは、アフガニスタンで作戦に従事していた米軍特殊部隊の偵察隊が、羊飼いの親子に遭遇した事例だ。
アルカイダに密告される事を恐れた部下が、隊長に親子を殺害するよう進言。
隊長も心の中ではその判断は正しいと思いながら、キリスト教徒として親子を解放する。
その結果、親子の密告によって押し寄せたアルカイダの勢力に、3名の部下全員と救出にきたヘリに乗っていた16人が戦死する事態になった。
隊長の判断は正しかったのか、誤っていたのか。

こうした事例を挙げながら、一方で哲学者の考えも紹介。
ベンサム、ミル、カント、ジョン・ロールズ、アリストテリス。
ベンサムは「最大多数の最大幸福」を主張した哲学者だ。
大西洋で遭難し、24日後に救助された乗組員が、生き残るために一人を殺して食べた。
その一人を殺して得られた利益(3人の生存)は、全体としてそのコスト(殺害)を上回るか、という議論だ。
哲学が机上の空論ではないわけである。
ちなみに「最小不幸社会」が哲学かは、あまり考えたくない問題だ。

「満足した豚であるより不満足な人間であるほうがよく、満足した愚か者であるより不満足なソクラテスであるほうがよい」(ジェームズ・スチュアート・ミル)
「汝の意志の格律がつねに同時に普遍的法則となるように行為せよ」
「汝の人格においても、あらゆる他者の人格においても、人間性を単なる手段としてではなく、つねに同時に目的として扱うように行為せよ」(イマヌエル・カント)
昔読んだ懐かしい、そしてわかったようなわからないような有名なフレーズも、具体例に即してみればわかりやすい。
これは確かに哲学の教科書でもある。

取りあげられる事例はこれでもか、というくらいどちらにも言い分のある問題だ。
大学入学におけるアファーマティブ・アクションで、マイノリティに入学枠が与えられたため、入学したマイノリティの学生よりも優秀な白人学生が不合格となる。
車椅子のチアリーダーが、健全な子なら求められる開脚と宙返りをしなくていいのは不公平だ、という父母からのクレームでチームからはずされる。
それは公平か不公平か。

考えてみればこんな問題は世の中にゴロゴロしている。
そんなことをあれこれ考えさせてくれる。
世の中を生きていく上で、遭遇するさまざまな問題。
そうしたものに対処していくには、やはり何らかの哲学が必要となってくるだろう。
過去の哲学者の考えを学び、現代のさまざまな問題に触れるのはいいトレーニングだ。
史上空前の履修者を誇るといううたい文句は、けっして誇張ではない。
実際の授業を受けてみたくなった一冊である・・・




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