2010年11月20日

【裸でも生きる 25歳女性起業家の号泣戦記】山口絵里子

 
バングラデシュで特産のジュートからハンドバックを作り、それを日本で売るというビジネスで貧困問題の解決を目指す女性起業家の自伝ストーリーである。
「号泣戦記」とある通り、とにかくよく泣く。
されど決して心が折れることなく、信念を持って突き進んで行く様は痛快である。

この女性、とにかく変わっている。
小学校で不登校、中学で非行に走ったかと思うと、柔道に目覚め、埼玉県の強豪高校(しかも工業高校)の男子柔道部に入部する。
そこで孤軍奮闘し、日本でトップクラスの実力を身につける。
さらに卒業生が誰も行かない慶応大学に猛勉強をして入学してしまう。

国際機関で働きたいと進んだ開発銀行では、途上国へ一度も行った事のない人たちがプランを考える事に疑問を抱き、ならばと単身バングラデシュに乗り込む。
現地の大学院に入学しと、とても女性にはありえないような行動力。
(渡航注意もなんのそので出掛けて行ってしまうのである)

貧しさゆえの国民性。
純粋な心で出掛けていけば、たちまち泥水を浴びせかけられるが如き現実。
ようやく作ったバッグが売れて喜ぶのもつかの間、買っていった人たちはバッグそのものに惹かれたというよりも、「可哀そう」という気持ちから買ってくれる事に気がつく。
そしてまた一からスタートする。

たぶん、若さゆえの行動力なのだろう。
40代の自分にはとてもこんな行動力はない。
読んでいくうちにこちらまでパワーが溢れてくる。
自分ではできないが、エネルギーをもらえる本である。


裸でも生きる――25歳女性起業家の号泣戦記 (講談社BIZ) [単行本] / 山口 絵理子 (著); 講談社 (刊)
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2010年11月17日

【スギハラ・ダラー】手嶋龍一


元NHK特派員手嶋龍一のスケールの大きな国際ドラマ。
物語は二つの大きな流れに分けられる。
現代のイギリス秘密情報部員スティーブン・ブラッドレーと米商品先物取引捜査官マイケル・コリンズの物語と第二次大戦前夜、神戸で巡り合った二人のユダヤ人と日本人の少年の物語である。

タイトルの「スギハラ・ダラー」であるが、スギハラとは杉原 千畝のこと。
言わずと知れた「命のビザ」で有名な日本の外交官である。
二人のユダヤ人アンドレイとソフィーは時を前後して、この命のビザで救われドイツとソ連に分断されたポーランドから日本へと逃れる。
神戸で地元の悪ガキ松山雷児と運命的な出会いをし、やがて3人は散り散りとなる。
アンドレイはアメリカに渡り、卵・バターの取引所であったシカゴ先物取引所でドルの先物取引を導入する。
これがS&P500であり、「スギハラ・ダラー」と言われる。

一方、大物相場師へと成長した松山雷児。
ユダヤの情報機関で働くソフィー。
ブラック・マンデー、9.11同時多発テロ、リーマン・ショックの陰で多額の資金が動く。
テロリストたちは先物市場で大々的に空売りを行い、事件を起こして相場が暴落した時にその先物を買い戻し膨大な利益を得る。
その利益はテロ資金になる。

相場が大きく動くたびに暗躍する勢力。
スティーブンとマイケルはそうした勢力を追う。
彼らの前に現れるのが、アンドレイ、雷児、そしてソフィー。
二つの物語が交叉する。

読みながらどこまでがフィクションなのかわからなくなってくる。
アンドレイがナチスの手を逃れ、神戸経由でアメリカに渡り、やがてシカゴ先物市場でドルの先物取引を導入するくだりはノンフィクションのようである。
ある大物エコノミストとのやり取りなども興味深いワンシーンだ。

ただ難を言えば謎解きに終始し、事件らしい事件が起こらない点だろう。
大きな盛り上がりもなく物語は終わる。
全体的に解説記事のような感じだ。
ただダイナミックなストーリーは読みごたえたっぷりだ。
国際経済の舞台裏ってこんな感じなのだろうかと思うのである・・・


スギハラ・ダラー [単行本] / 手嶋 龍一 (著); 新潮社 (刊)
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2010年11月13日

【ヨコミネ式子供が天才になる4つのスイッチ】横峯吉文

 
小学校入学までに幼稚園児が2,000冊の本を読む。
その前提として3歳までにひらがな、カタカナを覚えてしまう。
逆立ち歩きをし、跳び箱を10段以上飛び、絶対音感を身につける。
信じ難いような幼稚園児たちは、特別な子供たちではなく、ごく普通の子供たち。
そんな園児たちをいわゆる「ヨコミネ式」で教育しているのが、この本の著者。
なんとプロゴルファー横峯さくらの伯父だそうである。

天才園児たちを育てる秘訣はひたすら楽しませる事だと言う。
子供は遊びだと熱心に取り組む。
「やらされる」と意欲はなくなる。
それをうまく利用して子供たちの成長に結びつけている。

子供たちがこうした成長をみせるためには、子供たちの心のスイッチを入れないといけないという。
そのスイッチとはタイトルにある通り4つ。
@ 子供は競争したがる
A 子供は真似したがる
B 子供はちょっとだけ難しいことをしたがる
C 子供は認められたがる
この4つのスイッチによって奇跡的な天才児たちが育つのだという。

あくまでも上から押し付けるのではなく、子供たちがみずから興味を持って遊びながら成長していくスタイル。
そうした子供たちの姿を知ると、この幼稚園に子供を通わせたいと思ってしまう。
しかし鹿児島となるとそうもいかないのが残念である。

親という字は木の上に立つと書く。
だから親は20年先、30年先のことを予測しないといけないという。
「この子が成人する時には、世の中はどんなふうになっているだろうか。
その時にこの子が幸せに生きていくには、どんな能力をつけておいてあげたらいいのか。
この子が社会に出てから数十年間、きちんと生きていけるようにするには、どんなことをできるようにしておいてあげたらいいのだろうか。」
このようなことに思いをめぐらしながら、子育てをしていくのが親の役割だという。
なかなかはっとさせられる言葉である。

大事だと思っていてもどうしていいかわからない、というのが子育ての現実でもある。
4つのスイッチとその例はなかなかの参考になる。
これからのヒントにしたい一冊である。


ヨコミネ式 子供が天才になる4つのスイッチ [単行本] / 横峯吉文 (著); 日本文芸社 (刊) 
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2010年11月12日

【ハッピー・リタイアメント 】浅田次郎


浅田次郎も多才な作家だ。
ハートウォーミングなストーリーを綴ったかと思うと、中国の歴史ものを手掛けてみたり、武士たちを描いてみたり、と。
この「ハッピー・リタイアメント」はそのどれにも属さない。

主人公は財務省と自衛隊という典型的なお役所の第一線を引退し、いわゆる天下りをして第二の職場におさまった樋口慎太郎と大友勉。
天下り先は全国中小企業振興会(通称JAMS)。
金融機関から単独でお金を借りられない中小企業の保証人となる組織であるらしい。
そして、借り手が返済不能となると、このJAMSが金融機関に対して代わりに返済するという組織である。

二人が配属されたのは、神田分室。
ここは過去の時効を過ぎた債権が眠るところ。
時効が過ぎているから取り立てに行くこともない。
はっきり言って仕事はない。
遊んでいて給料がもらえるという誠に羨ましい組織。
何だか本当にありそうな組織である。

何もしなくてもいいはずだった二人が、ベテラン女性社員の立花葵と本当に仕事をし始めてしまう。
つまり時効の過ぎた債権の取り立てに回るのである。
そして、意外な結果が彼らの行く末に待ち受ける・・・

職場でも家庭でも不器用に生きてきた3人の仕事振りを、浅田次郎は軽快なテンポで描いていく。
何もしないで給料がもらえると言う事は、一見羨ましい限りである。
そういう境遇に素直に溶け込める人もいるだろう。
だが、それに満足できない人たちもいる。

主人公二人の、時にユーモラスな第二の人生。
何もしないでも給料がもらえる境遇を、自分もそんなに羨ましいとも思えない。
二人の気持ちもよくわかる。
そしてラストの3人の行動。
浅田次郎らしいエンディング。

ちょっとした軽い読み物が欲しい時には最適かもしれない・・・

ハッピー・リタイアメント [単行本] / 浅田 次郎 (著); 幻冬舎 (刊)

   
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2010年11月03日

【サービスの達人たち】野地秩嘉

  
「人が求めるサービスがあれば、そこには必ずプロフェッショナルがいる」という事で、そうしたプロフェッショナルを取材した一冊である。
プロフェッショナルといっても、みな無名である。
知る人ぞ知るプロフェッショナル、である。

登場するのは9名。
ロールスロイスを売り続ける男
天丼を作り続ける男
昔銭湯にいた三助、背中流しのプロ
サントリーのチーフブレンダー
伝説のゲイバーのゲイ
電報を届けるプロ
新宿のナンバーワンホステス
怪物と呼ばれた興行師
ヘップバーンも虜にした靴磨き

この本自体が10年以上前のものであるため、ちょっと時間の経過を感じてしまうところはある。
だが、それはそれとして、十分に堪能できる。
とはいえ、さすがに三助という職業は噂に聞くのみであったから、興味深いものであった。

三助とは銭湯でお客さんの背中を流す人たちの事である。
昭和30年代まではあちこちの風呂屋に多数いたそうである。
当時はお金を払って(20円だったらしい)背中を流してもらっていたそうであるが、今の感覚だと「お金をはらってまで」とちょっと考えてしまう。
女性からも声がかかったというから、興味深い存在である。

夜中に「電報で〜す」と届けるシーンは、昔はテレビドラマで観たような記憶があるが、それも今は昔、だ。
ほとんどの世帯に電話が普及し、個人には携帯が行きわたる現代では、急ぎの連絡で電報を使う事はほとんどなく、冠婚葬祭が大半だという。
それもそうだろう。
ただ、阪神大震災の時はその電話網が不通となり、電報が大活躍したらしい。
という事は、なくなってはならないサービスと言える。

プロとしての存在も確かにすごいと思うが、上記は仕事振りというよりも、懐かしい過去を振り返る良さの方が際立ってしまう。
靴磨きもまだ残っているとはいえ、道路が舗装され、靴の性質自体も良くなって靴磨きの需要が減ったそうである。

ただ普通の人が5分くらいで仕事を済ませていたところ、ここに登場する靴磨きのプロは15分かけていたという。
腕を磨くため、自腹で高級靴を買い求めて研究したという。
おかげで他の人が客を待つスタイルだったのが、全国から靴が送られてくるため、その対応でいつも忙しかったという。
そうしたプロ魂には頭が下がる。

果たして自分は今の仕事でプロたり得ているだろうか。
ふとそんな問いかけを己自身にしてみずにはいられない。
そんな刺激を与えてくれる本である。
どうやら同類の本があるらしいから、探して読んでみようと思う・・・



サービスの達人たち (新潮文庫)

サービスの達人たち (新潮文庫)

  • 作者: 野地 秩嘉
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/10/28
  • メディア: 文庫



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2010年11月02日

【存在の美しい哀しみ】小池真理子

   
小池真理子といえば恋愛小説と当たり前のように思うが、この本はちょっと違う。
登場人物は母親の違う兄妹とその母親、そしてその周辺の人々。
全体は7つの章に分かれているが、各々の登場人物たちが、それぞれの章の主人公となっている。
「告白」も同じような形式であったが、視点が変われば読む方の見方も変わり、これはこれで面白いスタイルだと思う。

後藤奈緒子は芹沢聡と後藤榛名の母親。
事情があって聡を産んですぐに離縁され、子供と引き離される。
そして再婚し榛名を生む。
第1章は、奈緒子が死の直前に語ってくれた異父兄に会うために、榛名が聡が暮らすプラハを訪れるところが描かれる。
事実を告げるべきかどうすべき迷う榛名の心の動きが中心だ。

そして奈緒子、奈緒子の同僚、聡の養母、榛名の父の同僚、聡の異母妹と主人公が移りゆく。
人の数だけ人生がある。
それぞれの登場人物たちには、それぞれが主人公の人生がある。

そして最後の章では、聡の視点になる。
プラハからウィーンに移動した榛名を、聡は追いかけて行く。
同じ兄妹のストーリーでも視点が変われば、物語も変わる。
聡の心の動きに引き寄せられていく。

例によって小池真理子の風景描写が二人の姿を際立たせていく。
 『眩しさのない光りだった。
 やわらかく静謐な、すべてを包み込み、溶かし、眠らせてしまうような光だった。
 じっと眺めていると、光はまもなくうすれ、雲の影に隠れ、消えていった。
 あとには滲んだようになった残照だけが残された。』
  (第7章『ウィーン残照』)
こうした景色が小池真理子の小説の特色でもあると思う。

読み終えるとあとに小さな感動が残る。
遠い異国の街で、堰を切ったように語り合う二人の兄妹の姿が残像として心に残る。
たまには心の栄養補給になる一冊である。



存在の美しい哀しみ

存在の美しい哀しみ

  • 作者: 小池 真理子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/04
  • メディア: 単行本



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2010年11月01日

【逆境の中にこそ夢がある】蒲島郁夫


著者は東大法学部教授。
何かの紹介で面白そうだと思って読む事にしたのだが、何の紹介だったか忘れてしまった。
有名人の自伝であれば、どんな内容でもそれなりに面白いとは思う。
だが、著者はそれほど有名人ではないと思うのだが、そんな人の自伝でもこれは面白い。

とにかく波瀾万丈なのである。
満州からの引き上げで、とにかく貧しかった少年時代。
高校の成績も下の下。
卒業して最初に勤めた会社は1週間で辞めてしまう。

それが次に勤めた農協で、アメリカ派遣研修のチャンスを掴んだところから風向きが変わる。
農業研修生としてネブラスカの農場で酷使され、やがて勉学に目覚めて大学進学を狙う。
ところが高校時代の不勉強が祟って不合格。
熱意で頼み込んで仮入学を認めてもらうあり様。
ところが死に物狂いの勉強で、成績が悪ければ退学という瀬戸際でなんとオールAの成績。
(アメリカ流に言うとストレートA)

結果重視のアメリカ社会ゆえ、400人中で10人しかいなかったというストレートAで周りの対応がガラリと変わる。
奨学金を得て結婚し、そしてハーバード大学へ行くことになる。
タイトルにもある通り、逆境ばかりの中、必死にチャンスを掴み取っていく人生は波乱に富んでいて面白い。

高校時代の友人たちと再会し、東大教授になると言ったら誰も信じてくれなかったというエピソードは微笑ましい。
そんな著書が自らの人生を振り返って言うのは、「夢を持つ事」。
そして親たちには子供の教育に介入しない方がいいと諭す。
心配であれば、チャンスの芽を見つける手立てをそっと近くに置くべきだと。
我が意を得たり、である。

逆境であっても、それは考えようによってはチャンスだ。
下にいればいるほど、飛び出す距離は大きくなると。
世の教育ママたちには絶対に受け入れられない考え方だと思うが、自立した逞しい人間に育って欲しくば、我が子を千尋の谷に落とさねばならないのかもしれない。
読み物としても面白いし、こういう本に出会えたのは幸運だと思わせられた。



逆境の中にこそ夢がある

逆境の中にこそ夢がある

  • 作者: 蒲島 郁夫
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/02/28
  • メディア: 単行本



posted by HH at 22:54| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス/自伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする