2010年12月30日

【影法師】百田尚樹

   
百田尚樹は、今年最大のヒットだった。
「永遠の0」から始った読書もこれで7冊目である。
そしてそのジャンルも広い。
第二次大戦のパイロット、高校生のアマチュアボクサー、そして何とオオスズメバチ。
実在のボクサーもあれば、とうとう武士の登場だ。
本当に多才だと思う。

時代は定かではないが、世もだいぶ落ち着いた江戸時代。
架空の茅島藩が舞台となる。
主人公は戸田勘一。
下士の家に生まれた長男である。
士農工商の身分の他に、武士の中にも上士、中士、下士とそれぞれ越えられない身分差がある。

上士とすれ違う時には、下士は土下座しないといけない。
ある時、晴れ着を着ていたため、ぬかるみで土下座をためらった娘と上士の態度に反抗した勘一を無礼打ちにしようとした上士に刀を抜き、父は切り殺される。
泣く勘一をいさめた少年が磯貝彦四郎。
運命的に出会った二人・・・

磯貝彦四郎は中士の子。
学問にも剣技にも天賦の才を発揮し、他を寄せ付けない。
やがて、広く人材を求めるという藩の方針に従い、それまで通えなかった藩校に勘一は通えるようになる。
再会を果たした彦四郎と勘一は刎頸の契りを交わす。

天才少年と努力型少年との交流となると、 「BOX!」の天才鏑矢義平と木樽優紀のコンビが脳裏を過る。
二人のそれぞれ異なるタイプが物語を盛り上げていく。
時代劇ならではの剣戟を合間に挟み、実力よりも家柄がモノを言う武家社会、家柄が良くても次男以下は他家の婿にならなければ日蔭者として生きなければならない時代の苦悩などが描かれていく。

様々にばら撒かれた伏線が、最後に見事に終息していくストーリー。
「影法師」というタイトルは、はじめは理解できなかったが最後に大きな意味を持つ事がわかってくる。
ラストでは涙腺がうるうると緩む。
見事という他はない。
感動の一冊である・・・


影法師 [単行本] / 百田 尚樹 (著); 講談社 (刊)
     
  
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2010年12月18日

【逝きし世の面影】渡辺京二


長い鎖国を経て開国した日本。
当時来日した多くの外国人の目に映った日本はどんな国だったのか。
彼ら外国人たちの文献から当時の日本社会の姿を紹介した一冊である。
こうした試みも面白い。

かつては「黄金の国ジパング」と紹介された日本だが、開国当初は貧しい国と外国人たちの目には映ったようである。
支配階級である武士も庶民も、生活にそれほど大きな格差があるわけではないとの記述にはちょっと意外な気もした。
どうにも「水飲み百姓」のイメージが強くあるからだ。

下田を訪れた外国人が、
「下田の貧しい住民がみなこざっぱりした衣服をまとい、清潔な日当たりのよい家に住み、子供たちはまるまる肥えている」
と表現しているのが意外な気がする。
だが、1840年代英国の工業都市の惨状からすると、異彩を放っていたのかもしれないという著者の指摘にはそうなのかもしれない、と何だか誇らしい気もする。

面白いのは裸に関するエピソードの数々だ。
当時はどうも女性も人目を気にせずに肌をさらしていたようである。
というか銭湯は混浴、庭先で行水も当たり前。
外国人珍しさに男も女も素っ裸で銭湯から見学に出てきたというくだりはちょっと驚きである。
もちろん、そんな具合だから、子供に乳を飲ませるのに人前でポロリなんてのも普通だったようである。

馬で旅する外国人たちには、別当という馬丁がついたという。
馬に先駆けて走り、道をあけさせたり諸々したらしい。
給料を受け取ると彼らは2〜3日ふらりといなくなる。
そして酒場を徘徊し、金がなくなると戻ってきたという。
そんな具合に最低限の賃金でブラブラ暮らしている人が多かったようである。
まさに「宵越しの銭は持たない」感覚なのだろうが、勤勉なジャパニーズとは似ても似つかないご先祖様である。

武士が威張っていたイメージも強いが、街中の喧嘩に奉行所は関与せず、村には武士がおらず、日常的な武士の支配からは自由であったらしい。
そしてその農村の人々の境遇は、大部分のヨーロッパ諸国よりも幅広い独立性を享受していたようである。

また「老いては子に従え」と徹底的な男尊女卑のイメージもまた異なる。
確かに表面上女性の地位は低かったが、家庭においては夫婦対等であった様子。
これは何となく想像できる。
子供たちは大事にされ、一方で子供が子供を背負うなどという姿もざらに見られた。
家畜を殺す習慣はなく、一旦売った鳥を外国人たちが絞め殺して食べるのだとわかるとお金を返して買い戻したりもしたようである。
膨大な数の鳥が至る所に溢れ、もちろんそれは将軍くらいしか狩猟しないからだったそうである。

今とはだいぶ異なる社会とそこに暮らすご先祖様。
今の我々の姿を見たら、互いにびっくりするに違いない。
失われてしまった良きものも随分あるようだ。
人々が親切だという記載が至る所にあったが、そうした部分は今も残っているのだろうか。
遠い過去に思いを馳せる事しばしばの一冊である・・・



   
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2010年12月15日

【それでも日本人は「戦争」を選んだ】加藤陽子

かねてから日本の歴史教育には不満を持っていた。
ネアンデルタールだの縄文式土器だのを一生懸命やっていて、それがゆえに肝心な昭和近代史がきちんと講義されない。
だからおかしな歴史教育がまかり通り、国歌や国旗を愛さないというまったく信じ難い人種を作り出してしまう。
この本はそうした歴史教育の不備を補う一冊である。

著者は東大文学部で日本近現代史を教えている教授。
この本は著者が東京都の栄光学園で行った5日間の日本近現代史講義を書籍化したものである。
高校生向けの講義であるだけに、内容もわかりやすくなっている。

5日間の講義の内容は以下の通り。
1章 日清戦争
2章 日露戦争
3章 第一次世界大戦
4章 満州事変と日中戦争
5章 太平洋戦争

戦争を中心として、歴史の流れを追う形になっている。
開国から不平等条約を負わされた日本が、西洋先進諸国を追いかけそして5つの戦争とどのように関わったのか。
それぞれは当然の事ながら独立した出来事ではなく、一連の出来事である。
一連の流れがあって、それが最終的に太平洋戦争へと繋がっていく。

第一次世界大戦までは、日本も英米と歩調を合わせ、ロシアの脅威に対抗しながら大陸で基盤を作り上げていく。
絹製品しか輸出するモノのなかった資源のない国日本が、「満州は日本の生命線」と懸命に権益確保に臨んでいく。
そして中国との対立が激しくなっていく。

満州事変の調査に乗り出してきたリットン調査団の報告書も、本当はかなり対日融和的なものだったらしい。
戦争反対の動きもあったが、軍部の動きを抑えられなかった。
その軍部は、兵士の供給源となっていた農村に都合のよいスローガンを抱えて国民の支持を集め、政党は選挙を意識して目先の動きに終始する。

中国も国民党と共産党の対立を内部に抱えている。
驚いたのはそんな日本に対抗しようとして胡適という人物が唱えた戦略。
2〜3年は負け続けても徹底的に耐え、アメリカとソビエトを巻き込んで日本に対抗すべき。
まさにその通りの展開になっていくのだが、そんな主張をしていた人物がいたとは驚きである。

向かうべくして向かう結末。
昔の時代とバカにするなかれ。
選挙対策に身動きとれない政治家の姿などは、現代にも十分通じる。
「戦争は二度と起こしてはいけません」などとしたり顔で言う人たちも、ではなぜ戦争が起こったのか十分に分かっているとは言い難い。
原因がわかってこそ、有効な対策も取れる。
歴史の勉強は非常に重要である。
こうした講義が、高校生あたりを対象として行われるようになる事を望みたいと思う・・・


それでも、日本人は「戦争」を選んだ [単行本(ソフトカバー)] / 加藤陽子 (著); 朝日出版社 (刊)
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2010年12月10日

【ケチャップの謎】マルコム・グラッドウェル


著者は日本でもベストセラーがあるコラムニスト。
現在は雑誌「ニューヨーカー」のスタッフライターとして活躍中だそうであるが、これはその中のコラム集のようである。

全体は5つの章に分かれていて、それぞれ、
第1章 TVショッピングの王様
第2章 ケチャップの謎
第3章 ブローイング・アップの経済学
第4章 本当の髪の色
第5章 ジョン・ロックの誤解
第6章 犬は何を見たのか?
とタイトルがついている。

それぞれの章には主人公が登場する。
第1章はキッチン製品をTVショッピングで販売するロン・ポピールの物語。
第2章は新しいトマトケチャップを作りだそうとした男たちの物語。
第3章は「ブラック・スワン」の作者ナシーム・タレブの物語。
第4章はヘア・カラーの話。
第5章はピルを開発したジョン・ロックの物語。
第6章は犬のカリスマ調教師シーザー・ミランの神業について。

一つ一つに独立した物語としての面白さがある。
邦題のサブタイトルに「世界を変えた“ちょっとした発想”」とついているように、各物語はちょっとした発想の物語だ。
個人的に面白かったのは、第5章だ。

熱心なカトリック教徒であったジョン・ロックはピルの共同開発者であるが、宗教とピルとの両立に苦心した。
カトリックでは自然に反するような避妊行為は禁止されている。
それによるとピルは違反しそうである。
しかし、ピルは月経困難や子宮の病気などの治療にも使われ、正しい服用によって不規則な月経周期を規則的に変えられるものであり、それによってカトリック教会の認める周期避妊法が可能となる。
そうなれば違反とは言えなさそう。

さらにそれに加えて、アフリカの太古の祖先と同じ生活をしている原住民の女性を調査した結果を紹介する。
それによると、そもそも人類は生理が年間4回程度しかなかったとの事で、毎月一回という周期こそが自然なものと言えるのかと疑問を呈す。
こうしたストーリーが集まった一冊である。

本の原題には「PART ONE」とあるように、このあとも同じような形式で出版されるようである。
ちょっとした雑学読み物辞典として単純に面白い本である。

マルコム・グラッドウェル THE NEW YORKER 傑作選1 ケチャップの謎 世界を変えた“ちょっとした発想” (マルコム・グラッドウェルTHE NEW YORKER傑作選) [ハードカバー] / マルコム・グラッドウェル (著); 勝間 和代 (翻訳); 講談社 (刊)
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2010年12月04日

【一夢庵風流記】 隆慶一郎


 戦国時代の実在の武将前田慶次郎を主人公とした軽快な時代劇である。
前田慶次郎は、戦国大名として有名な前田利家の甥にあたる人物である。
破天荒で型破り。
「異風の姿形を好み、異様な振舞いで人を驚かすのを愛すること」を【傾く(かぶく)】と言ったらしいが、前田慶次郎はその【傾奇者(かぶきもの)】として描かれる。

前田家を出た慶次郎は、魔物のように扱い難かった野生馬と出会い、これを手なずけ松風と名付ける。
運命の名馬松風と出会った慶次郎は、その松風を盗みにきた加賀の忍び8人を切って捨てる。
その時、弟を殺された忍びの一人捨丸は、仇打ちに来るが、逆に慶次郎にほれ込み行動を共にするようになる。

天下人秀吉の前でも、異様ないでたちで登場し、重臣たちの度肝を抜く。
前田利家の妻おまつとも関係を持ち、自由気ままに生きる。
がっしりとした体格で武芸に秀でる。
なぞの忍び「骨」ら命を狙ってきたものも味方にしてしまう魅力を合わせ持つ。

国内だけに留まらず、朝鮮半島にも渡り、傾奇者としての本分を発揮する。
直江兼継とも厚い友情で結ばれ、茶の湯や和歌にも才能を発揮する。
やがて時代の寵児秀吉が死に、世は徳川の天下へと移りゆく。
そうした時代の変化にも、慶次郎は変わらず己を通す。
その活躍は痛快の一言である。

実在の人物と言いながら、資料も少ないようなのでかなりの創作は入っているのだろう。
それでもその生き様は魅力的でもある。
男ならかくあるべしと言えるだろう。
藤澤周平とはまた違った時代劇。
こういう作品もいいと思う。


 一夢庵風流記 (新潮文庫) [文庫] / 隆 慶一郎 (著); 新潮社 (刊)
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2010年12月01日

【一流たちの修業時代】野地秩嘉


「サービスの達人たち」を読んで、続けて同じ著者の本を手にとってみた。
タイトルにある通り、15人の「成功者」を取り上げ、彼らにインタヴューし、修業時代について語ってもらうという内容になっている。

その15人とは以下の通り。
柳井正(ファーストリテイリング会長兼社長)
塚越寛(伊那食品工業会長)
宗次徳二(壱番屋創業者)
溝畑宏(観光庁長官)
千住博(日本画家)
横山剣(クレイジーケンバンド)
古田貴之(千葉工大未来ロボット技術研究センター所長)
嶋宮勤(すし善)
山崎美香(御料理 山さき)
佐藤正樹(佐藤繊維社長)
大久保政彦(ビジネスコンサルタント)
森正文(一休社長)
橋本雅治(イデアインターナショナル社長)
齋藤峰明(エルメス本社役員)
高野登(ザ・リッツ・カールトンホテル元日本支社長)

有名な人もいれば、初めて知る人もいる。
だが、やっぱりユニクロの柳井社長のような有名人だとそれだけで興味をそそられる。
そして、若き日の経験談は、その興味を十分満たしてくれる。
しかし、紙面の関係だろう、それはあまりにも短い。
柳井さんなどは、それこそたぶん一冊の本になるくらいのものはあると思う。
せっかくなのにダイジェスト版といった紙数なのが残念である。

それはその他の人すべてに当てはまる。
狙いはいいと思うのだが、ダイジェスト版という感じがするのは否めない。
ただ、だからダメだというものでもない。
それなりに成功している人たちは、やはり「一流の修業時代」というものを過ごしてきている。
特に若い時代にこうした本を読んでおくといいのかもしれない。

登場する15人に共通するものとしては、やはり「情熱」と言えるのではないだろうか。
不安を抱えながらも目指すモノに向かっていく。
それを支えるのは「情熱」。
そんな「情熱」を自分も持っていたいと思う・・・


一流たちの修業時代 (光文社新書) [新書] / 野地 秩嘉 (著); 光文社 (刊)
posted by HH at 22:41| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス/自伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする