2011年02月27日

【ほんとうの国語力が驚くほど伸びる本】福嶋隆史

子供がいると教育系の本にはついつい目が留まる。
最近は特に作文・国語力といったキーワードを意識している。
これはタイトルからして惹かれて手に取った一冊である。

最近は教師の質の劣化が危惧されているが、中にはこの本の著者のように優れた人もいるのだと知って安心する。
しかし優れ過ぎていたのか、今は学校の先生から国語塾の経営者に転身しているようである。

国語力は国語だけのものかと思っていると、実はそうではない。
読解力を通じてあらゆる教科に影響が及ぶ。
難関中学・高校に合格したという喜びの声にはまったく影響されないものの、こうしたコンセプトにはなるほどと頷くものがある。

さっそく読みはじめる。
序章や第1章は国語力の重要性を説く部分となっている。
重要性が分かっている立場からすると、あらためて確認という事になるのだがちょっともどかしい。
そしてその決め手が“3つの力”だという。

“3つの力”とは、「いいかえる力」「くらべる力」「たどる力」である。
「いいかえる力」とは、その名の通り「つまり/たとえば」の言葉で代表される通り別の言葉で表現する力である。
論理的思考能力とは、「要はどういう事か」というポイントをしっかり理解することから始る。
その時に効果を発揮するのが、「要はどういう事かと“いいかえる力”」というわけである。

「くらべる力」とは「観点を捉える力」。
優れた文章はきちんとした比較ができているもの。
正しい観点から比較ができていれば、そこから展開される議論も筋が通ってくるし、正しい観点から比較ができていないと、そもそも論理としておかしいと言う事になる。

「たどる力」は「因果関係を捉える力」。
これも重要性は説明するまでもない。
この3つをしっかりと身につけることで国語力が磨かれるのだという。
日々自身が主催する国語塾で実践しているというから説得力もある。

しかしながら問題は実戦にある。
理屈はこの本を読んでも果たしてその通りに我が子を指導できるのか。
そんな声も当然上がってきそうであるが、それについては何と問題集まで出ている。
さすが、と正直思わせられた。
問題集も買ったのは言うまでもない・・・
    
「本当の国語力」が驚くほど伸びる本―偏差値20アップは当たり前! [単行本] / 福嶋 隆史 (著); 大和出版 (刊)

ふくしま式「本当の国語力」が身につく問題集〔小学生版〕 [単行本(ソフトカバー)] / 福嶋隆史 (著); 大和出版 (刊)
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2011年02月25日

【長い長い殺人】宮部みゆき

     
ふらりと手に取った一冊。
宮部みゆきはミステリーを書きつつ、時代物も書き、冒険ものもこなすといった多才さを持っている。
でもやっぱりジャンルで言えば、ミステリーが一番好きである。

この物語はある殺人事件をテーマにしているが、ちょっと変わっている。
それは物語の語り手が「財布」というところだ。
この発想が面白い。
財布だから大概はポケットに入っているわけで、したがって直接「見る」というよりも「聞く」事によって知った事を語っていくのである。

それも一つの財布ではない。
「刑事の財布」、「強請屋の財布」、「少年の財布」、「探偵の財布」・・・と全部で11の財布が登場する。
そしてそれぞれの財布もまた個性があって、語り口もそれぞれの個性に合わせたものとなっている。

語り手が財布だからと言って、違和感は何もない。
まあ映画化でもしたら難しいのかもしれないが、読む上では気にならない。
ごくごく普通にストーリーに引きこまれていくのである。
この本の特徴はこの語り手だけかもしれない。
ストーリー自体はそれほど面白味があるとは思えないからだ。

冒頭で殺人事件が起こる。
殺された男の妻に不倫疑惑が起こる。
そして相手の男の妻もまた事故で死んでいる。
保険金目当ての交換殺人ではないか。
二人は瞬く間に疑惑の人となる。

そしてあらたに男の二番目の妻となった女性と二人に絡む女性が殺される。
4つの殺人事件の関連は?
そして疑惑の結末は?
それを財布たちが語ってくれる。

実はこの本は宮部みゆきの初期の作品だと言う。
けっこう読み逃している作品が多いのだな、とあらためて思う。
そう言えば「火車」も昔読んだが記憶が薄れてきている。
もう一度読み返してみるのも面白いかもしれない、そんな風に思わせられた一冊である・・・


    
長い長い殺人 (光文社文庫) [文庫] / 宮部 みゆき (著); 光文社 (刊)
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2011年02月24日

【野村の実践『論語』】野村克也

     
次から次へと読んでみたくなるのが野村監督の著書。
今回は、野村語録は「論語」と重なる部分が多い、と言う事で論語と関連させての野村監督の考えが述べられている。

野村監督も現役を引退後、ヤクルトの監督を引き受けるまで9年間解説者をやっている。
その間、とにかくたくさん本を読んだという。
それがヤクルトでの監督としての指導に生きたというが、それは著作にも表れているようである。
論語と対比させての一つ一つの言葉とエピソードには頷くばかりである。

野村の言葉:「経験を基礎に歳を重ねてこそ、人はより高い境地へとのぼっていける」
論語:「子曰く、吾、十有五にして学に志す。三十にして立つ。四十にして惑わず。五十にして天命を知る。六十にして耳順う。七十にして心の欲する所に従いて、矩を踰えず」
選手時代に悩んだり苦悩したりする事がなかった選手、創意工夫せず頭を使わずにプレーしてきた選手はコーチになってもロクな指導ができないという。
論語の言葉とピタリ一致というわけではないが、同じ内容であることには違いない。

以下心に残った言葉を列挙する。
「人間は他人の評価で生きている」
「何かを成し遂げようと思う人は、進むべき道を楽しむ境地に至らなければ成功もない」
「一流の人物になれるかどうかは、基本的な目的意識もっているか否かによって決まっていく」
「敵は己の中にある」
「失敗を活かせる者はそれを放置する者に勝る」

これ以外にも一つ一つが示唆に富む言葉である。
無理に論語と関わらせなくてもいいようにも思う。
「人生とは幸福への努力である」というトルストイの言葉が紹介されているが、努力の人野村監督らしい言葉が並んでいる。

そうした言葉もさることながら、具体的な選手たちのエピソードも興味深い。
楽天の山崎、田中など現役の選手から、小早川、古田ら往年の選手まで、それぞれのエピソードも野村本の重要なエッセンスである。
普段はうかがい知れない選手たちの顔も興味深い一つである。

何冊読んでも飽きないし、為になる。
これからも出るたびに読みたい著者の一人である・・・


野村の実践「論語」 [単行本] / 野村 克也 (著); 小学館 (刊)
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2011年02月17日

【お金の神様】中原圭介

著者は私がもっとも注目しているエコノミスト。
著書やブログなどを見ているが、なかなか世の中を見る見方について参考になる事が多い。
本などもついつい手にとってしまうのである。

本書は週刊誌『週刊現代』で連載されている記事を書籍化したものだという。
(週刊誌までは私も読んでいない)
週刊誌の連載を書籍化となると時間が経過しているが、著者も「考え方を知ってほしい」と述べている通り、ネタは多少色褪せていても内容にはあまり差支えはない。

全部で100のテーマに分かれている。
その一つ一つがどれも興味深い。
投資信託については、プロの運用なんて実は大したことはないと切って捨てる。
毎月利益分配型など複利効果も薄れるしやるべきではない、という意見はもともと漠然となんとなく思っていた事をすっきりとさせてくれた。

「保険は掛け捨てで十分」と言う意見には、我が身を振り返り反論しようとしたら、「家族で唯一の稼ぎ手である場合と未成年の子供がいる場合は別」と但し書きがされていた。
ここは納得。
しかし、「住宅ローンは組むべきではない」という意見には、どうしても反発してしまう。
もちろん、これからの世の中の動きとか見通しとかを考えれば、そうした意見にも一理はあると思う。
ただそこは個人の嗜好の世界だ。
年を取って賃貸住宅から追い出されるリスクも考えないといけない。

エコノミストだけに株の動きやファンドの動きに対する意見などは興味深い。
頷くところや感心するところがいろいろとある。
下手な新聞を読むよりも世の中の経済の動きがわかる。
特別なニュースソースがあるわけではない。
新聞を読んで、ちょっとした記事にも反応し、あれこれいろいろと考えるのだという。
ただ流し読みしていてもダメなのである。

普通に新聞を読んでいるだけでもこれだけの見識があるというのは、ちょっと力づけられるところだ。
メディアに騙される事のない世の中の見方を身につけたいと思うのであれば、こうした本は読んでおくべきだろう・・・

お金の神様 資産を守る、投資で儲ける! [単行本(ソフトカバー)] / 中原 圭介 (著); 講談社 (刊)
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2011年02月10日

【信じて根を張れ!楕円のボールは信じるヤツの前に落ちてくる】岩出雅之

著者は、今年の大学ラグビー選手権で名門早稲田大学を破り2年連続で日本一になった帝京大学ラグビー部監督。
近年、関東大学ラグビー対抗戦グループで早慶明と並ぶ4強の位置をすっかり固めていた同大学であるが、ついに昨年日本一に、そして今年は連覇であるから素晴らしい。
内容は帝京大学ラグビー部でやっている著者の指導が中心となっている。
ラグビーを知らなくても、指導者としての考え方やメソッドは参考になりそうな気がする。

第1章は「指導はリスペクトすることからはじまる」と名打たれている。
特に感心したのは、「去年のチームをリスペクトする」というところ。
学生スポーツは毎年メンバーが入れ替わる。
当然、前年よりも良い成績を残したいと思う。
前年のチームを肯定し、その上で追いつき追い越せを目指すわけで、理想的なあり方だ。

第2章は「指導者のエネルギーだけで突っ走るな」。
指導者となって力が入りがちだが、結局のところ動くのは選手。
指導者だけが勇み立っていても仕方がない。
自身の失敗なども踏まえての教訓。

第3章は「片腕は多い方がいい」。
帝京大学ラグビー部には栄養士、トレーナー、コーチなど20名ほどのスタッフがいるという。
(私が所属していた大学のラグビー部からすれば羨ましい限りだ)
闇雲に長時間練習する事だけがすべてではなく、休む事も大事、そして栄養補給も大事。
そうしたスタッフが縁の下でラグビー部を支えている。

第4章は「できる人間を基準にしない」。
どうしても大所帯となると、レギュラークラスの選手だけに焦点が合いがち。
トップ3割がついて来られる練習ではなく、「できていないが頑張っている」4割を加えた7割がクリアできそうな基準を作るのが秘訣だという。
1年と4年には体格的にも大きな差があり、一律には扱えない。
そして怪我の多いスポーツゆえに高い水準の選手層を厚くしないとシーズンを通しては戦えない。
7割の法則とはなかなか参考になる考え方だ。

第7章では「セルフイニシアチブ」。
ラグビーは試合中は選手個人の判断力がすべて。
監督が一々指示できない。
それゆえに自ら自主的に判断できないといけない。
そんな主体性を選手たちに持たせる重要性と方法が説かれている。
学生コーチの存在もその一つ。
普段伺い知れない一流チームの内側を覗けるのは興味深い。

かつて学生時代に試合をした事のある帝京大学ラグビー部。
今では当時よりも遥かに強くなってしまっているが、公式戦で闘った相手と言うのは親近感を覚えるもの。
今後も応援したいチームの一つである・・・


信じて根を張れ! 楕円のボールは信じるヤツの前に落ちてくる (単行本) [単行本] / 岩出 雅之 (著); 島沢 優子 (編集); 小学館 (刊)
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2011年02月09日

【女の子が幸せになる授業】漆紫穂子

著者は、品川女子学院の6代目校長。
卒業生には広末涼子などもいるが、一時危機に陥ったところを現校長の著者が立て直したのである。
代表的な「28歳で輝く女性になるための28プロジェクト」や企業とのコラボレーションなどユニークな取り組みで知られ、娘を持つ父親なら大いに関心を持つところ。
そんな事から手に取った一冊である。

タイトルにある通り、ここでは同校が取り入れている授業を紹介している。
第1章は「やさしさと美しさを引きだす授業」と称して礼法の授業。
講師は小笠原流の礼法宗家。
姿勢やお辞儀、マナーなどの礼法は女性に品格を与えるという考えから。

第2章は茶道。
これは習い事でやっている人も多いだろうが、授業で取り上げられているところがいい。
対談で語られた宗家の言葉が印象的だ。
「誰かが秋は月がきれいだと教えてあげないと、子供はその美しさに気がつかない。けれど誰かが教えてあげると、月を見てきれいだなと思う心が養われる。季節を楽しむ心や、美しいものに気付く目を育てると、大人になり、忙しい日常の中にいても、道端の花を見るだけで、一瞬、リゾートにいるようなゆったりした気持ちを味わうことができる」
実にいい。

第3章は華道。
要はいけばなである。
第4章は着付け。
浴衣を使って着付けを学び、日本古来伝統の着物の良さを学ぶというもの。
それぞれ4つの授業の紹介なのであるが、こうした伝統を学び、日本の良さを知ってもらおうという趣旨と授業はやはり魅力的だ。
「ナショナル」のない「インターナショナル」は意味がないとして、「日本を知る」ための授業であるらしいが、こうした授業を行うスタンスがいいと思う。

娘を通わせたいなと思うのだが、ちょっと我が家からは遠いのが難点なのである・・・


女の子が幸せになる授業 28プロジェクト 28歳で輝く女性になる!<和の心得レッスン> [単行本] / 漆 紫穂子 (著); 小学館 (刊)
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2011年02月07日

【知らないと恥をかく世界の大問題】池上彰

私は見ていないのだが、同名タイトルのTV番組が人気らしい。
新聞やテレビで流れるニュース。
なんとなく見てはいるものの、その背景などはわかっていないというケースは多い。
そのなところをわかりやすく解説してくれるので、なるほどと納得する人たちが多く、それが人気の理由らしい。

それではと思い、さっそく手に取る。
さらっと読めてしまう手軽な厚さである。
内容も世界の問題から日本の問題まで多岐にわたっている。
日常ニュースで多く目にしている問題ばかりである。

第1章は「新しい『世界の勢力地図』を占うキーワード」として、現在世界で起こっている事の基本的な背景説明。
「世界のお金の重心は西から東へと動いている」として、リーマン・ショック以降世界各国が景気刺激策のために量的緩和でばらまいているお金の事が触れられている。
重要なキーワードだ。

第2章は「覇権国家アメリカを転落させたもの」。
FRBは知っていても、その成り立ちなどは知りもしなかったから、こうした部分はあらためて知る事となった。
それ以外の部分はよくわかっている事が続く。
そうした既知の部分も自分の理解が正しいという事がわかっていい。

第4章では、「待ったなし!世界全体が抱える問題点」。
ここでは資源に投機資金が流れている事が指摘されている。
個人的に関心をもっていたところだ。
今でも各国政府がばら撒いているお金が原油・穀物・金などの資源に向かい、軒並み価格が上昇している。
その影響はやがて我々の生活に波及する。
もっとみんなそういう事情を知るべきだと思うから、こういう解説は好ましいと思う。

なるほど人気の理由がわかった気がする。
それほど特別な事は書いてないと思う人は、それだけよく理解しているという事の確認になる。
タイトルは少々大げさな気もするが、間違ってはいない。
もっと関心を持つべきなので、これからという人はまずこの本から始めてみるのもいいと思う・・・

知らないと恥をかく世界の大問題 (角川SSC新書) [新書] / 池上 彰 (著); 角川SSコミュニケーションズ (刊)
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2011年02月06日

【燃ゆるとき】高杉良

「金融腐蝕列島」などの経済小説で有名な高杉良。
そんな著者が東証1部上場の東洋水産を設立から描いたのが、本作である。
主人公は、東洋水産創業者の森和夫。
森は生存率4%と言われているノモンハンの生き残り。
築地魚市場の片隅に従業員4人で水産会社を興す。

水産業は戦後早い段階で規制が緩和されたが、そんな中、東洋水産はマグロの輸出で勢いに乗る。
続いてソーセージの製造に進出。
順調に事業展開をしていく。
真面目に誠実に仕事に取り組む森であるが、最初の試練は取引先でもある第一物産(三井物産のこと)との関係。

倒産間際の会社と強引に合併させたり、経営監督者と称して働かない社員を出向させてきたり、相場の2倍も高い設備を押し付けてきたり、と立場を利用してやりたい放題。
そうした様子には嫌悪感を抱く。
今だったら問題になるのであろうが、当時はそうではない。
忍耐強く付き合いを続ける森。
そんな森は従業員思いで、常に作業着と長靴姿。
「俺は魚屋のおやじ」と自称する。

やがて会社も大きくなり、株式も公開する。
冷凍庫や工場を増やし、事業も益々大きくなっていく。
アメリカにも進出し、現地に工場も建設する。
しかしアメリカ人マネージャーの経営ミスから赤字を抱え、脱却できずに苦しむ。
順風満帆とはいかない。

そして有名な日清食品(本作中では日華食品)とのアメリカにおける特許戦争。
インスタントラーメンの発明者として有名な安藤百福を強欲な人間として描いている。
たぶん、日清食品の関係者は面白くないはずだ。
小説だから、事実と創作とが混じり合っているのだと思うが、事実はどうだったのだろう。
それはさておき、たった4人の社員からスタートしたちっぽけな会社が、東証1部上場の大企業となり、アメリカでは「マルチャン」ブランドでトップとなったわけで、そのサクセスストーリーは興味深い。

ビジネス・パーソンにはいろいろとヒントになる事も多く、ビジネス書とも位置付けられるし、単なる小説として読んでも面白い一冊である。


燃ゆるとき (角川文庫) [文庫] / 高杉 良 (著); 角川書店 (刊)
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2011年02月01日

【トレード・オフ】ケビン・メイニー

 
何かが成り立てば、何かが成り立たない。
そんな関係がトレード・オフであるが、それをビジネス的に語ったのが本書。
日本語版のサブタイトルに「上質をとるか、手軽をとるか」とあるが、これが本書の内容そのものすばりである。

およそ世の中の商品やサービスは「上質」か「手軽」かに分かれている。
その両方が同時に成り立つ事はない。
例えば音楽では、コンサートは「上質」を提供する。
サウンドだけではなく、アーティストの姿・照明・盛り上がる観衆・それらをすべて包含した雰囲気。
一方サウンドだけならiTunesが簡単で「手軽」である。
「上質」を選べば「手軽」は選べない。

本と電子ブックもこの関係が当てはまる。
本は読む人の個性を反映する。
読む姿だけでなく、書棚もそうである。
アマゾンの提供する電子ブック“キンドル”は、何を読んでいるか、周りの人にはわからない。
「上質度」は経験、オーラ、個性の足し算によって決まる。

「上質」と「手軽」は別の言葉でも表現される。
「愛される」か「必要とされる」か。
「愛される」ものはハイエンド市場を占め、価格も高目でも構わない。
一方手軽であると言う事は「必要である」と同義であり、誰もが手に入れやすい価格で提供される。
どちらかを極めれば、偉大なビジネスへと広がり、二兎を追うものは破滅へと向かう。

高級ブランドのCOACHは、その市場に満足せず、低価格帯に進出。
やがてブランドのオーラと個性を失い業績は悪化した。
携帯電話メーカーとしてカメラを製造した事のなかったノキアは、カメラ付き携帯電話を製造し、その手軽さで世界最大のカメラメーカーになる。

スターバックス、アップル、ティファニーなど名だたる企業も一歩間違えれば奈落の底。
「上質」と「手軽」のさじ加減が重要。
究極につきつめれば、たったそれだけの事を一冊まるまるかけて説明しているのであるが、豊富な事例はどれもメジャー企業ばかりなのでわかりやすい。
企業だけではなく、国家戦略にもこれは当てはまる。
読み応えのあるビジネス書である。

余談であるが、日本版の表紙には「ビジョナリー・カンパニー」の著者ジム・コリンズの名前がでかでかと二つも出てくる。
著者のケビン・メイニーの名前は小さく隠れてしまっている。
最初はてっきりジム・コリンズの著書かと思ってしまった。
出版社の悪質な装丁といえる・・・


トレードオフ―上質をとるか、手軽をとるか [単行本] / ケビン・メイニー(著), ジム・コリンズ(序文), 内田和成(解説) (著); 有賀裕子 (翻訳); プレジデント社 (刊)
posted by HH at 23:05| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス/自説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする