2011年11月27日

【勝海舟と福沢諭吉】安藤優一郎


          
第1章 幕臣・勝海舟
第2章 中津藩士・福沢諭吉
第3章 幕臣たちの国家思想
第4章 それぞれの選択
第5章 維新を生きた二人の幕臣
第6章 文明開化と武士道
終章  『氷川清話』と『福翁自伝』の虚実

幕末から明治にかけて、多くの著名人が活躍した。
その中でも勝海舟と福沢諭吉という二人の幕臣を取り上げた本である。

勝海舟というと、幕末人で江戸城無血開城に尽力した人というイメージがある。
一方で福沢諭吉というと、「学問のすすめ」に代表される明治の人というイメージがある。
しかし、事実はそのイメージとは逆だという。
福沢諭吉は幕府絶対主義の考えに近く、将軍家中心の国家体制から離れ挙国一致体制で日本の独立を維持すべきという国家思想を抱いていた勝海舟とはまるで対照的だったと言う。
そんな二人の歩みを、本書は追っていく。

二人の出会いは、アメリカへと向かった有名な咸臨丸の船上。
それから40年。
共に歩むどころか、二人は正反対の生き方をしていく。

勝海舟は旗本の子供として生まれる。
旗本という家柄には恵まれたが、禄高は低く生活は苦しかった。
福沢諭吉は譜代大名豊前中津藩奥平家の家臣の家に生まれる。
二人に共通しているのは、ともに外国語学=オランダ語を学んだ事であろう。
それが咸臨丸へと繋がっているわけであるし、時代の最先端に出られた大きな理由であろう。
そこは大いに学びたいところだ。

オランダ語からやがてもっとメジャーな英語へと転換する諭吉。
それが元で、幕府に直接雇われる幕臣へと出世する。
すべて写本が当然の当時。
辞書もない語学を学ぶ苦労は現代の比ではなかったと思う。

時代は否応なく動いていく。
ペリーが来航し、薩長が躍進し、尊王攘夷運動の広がりと幕府が衰退していく。
そのうねりの中で、勝海舟も福沢諭吉もそれぞれの人生を歩んでいく。
幕臣となった諭吉は、幕府の存続を前提に考え活動していく。
そんな諭吉の目には、江戸城を明け渡し、明治政府が成立するとさっさと新しい地位についた勝海舟は裏切り者にしか見えない。
それが勝海舟批判へと繋がっていく。

激動の幕末期に生きた二人の著名人のイメージとは異なる実情。
この時代、テーマは豊富だろうが、この二人に焦点を合わせたところが面白い。
歴史好きにはちょっとしたトリビア感を与えてくれる一冊である。


                       
posted by HH at 01:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月23日

【モチベーション3.0】ダニエル・ピンク
Drive! The surprising truth about what motivates us



第1部新しいオペレーティング・システム
 第1章 <モチベーション2.0>の衰退
 第2章 アメとムチが(たいてい)うまくいかない7つの理由
 第3章 タイプTとタイプX
第2部 <モチベーション3.0>3つの要素
 第4章 自律性(オートノミー)
 第5章 マスタリー(熟達)
 第6章 目的
第3部 タイプIのツールキット

ダニエル・ピンクと言えばハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代が強く印象に残っている。
大前研一が翻訳をしたのだが、この本もダニエル・ピンクと大前研一のコンビなので期待した一冊であった。

内容的にはタイトルそのままモチベーションの話。
原題は『Drive』であり、つまり我々を駆り立てるものという事だ。
それを『3.0』と表現しているところがうまいと思う。
「モチベーション1.0」は「生存を目的とする人類最初のOS」と定義される。
「モチベーション2.0」はアメとムチ、信賞必罰に基づく与えられた動機づけによるOS
そして「モチベーション3.0」は、自分の内面から湧き出る「Drive=やる気」に基づくOSとなっている。

こうした定義を行い、「モチベーション3.0」の優位性が説かれる。
しかしながら現実的には多くの企業で「モチベーション2.0」のやり方、(いわゆるアメとムチのやり方)が浸透している。
アメとムチのやり方は効果的に思える半面、思いがけない反動があったりする。

イスラエルの幼稚園で、子供の引き取り時間に遅れた親に対して、罰金制を導入したところ、逆に導入前より遅刻が増えてしまったという。
「罰金を払えば遅れてもいいのだろう」という解釈を生んだそうだ。
子供にお小遣いをあげるにも、家事の手伝いの報酬としてあげると、「報酬が与えられない限り、お手伝いを進んでやらなくてよい」という誤ったメッセージを送る事になるというが、これにはドキッとさせられる。
子供には、努力や取り組み方を褒めるのが良いそうである。

「モチベーション3.0」には、「自律性」「マスタリー(熟達)」「目的」という3つの要素が必要となる。
仕事時間のうち20%を自分のやりたいプロジェクトに充てて良いという20%ルールを採用した企業、出社時間などの仕事スタイルを自由に決められるルールを採用した企業、そうした社員の自律性を重視した企業の例が紹介される。

「マスタリー」とは、何か価値のある事を上達させたいという欲求のこと。
遊びでもスポーツでも、一心不乱に取り組んでいる状態=フローの状態=にある時、その成し遂げる事は最高の成果を生む。
そして、「目的」がやはり不可欠となる。

「人はパンのみにて生きるにあらず」と昔から言われているが、こうしたパン=金銭だけを動機としない生き方、働き方は形を変えて説かれてきた。
それを体系的に「モチベーション3.0」とわかりやすくまとめたのが本書と言える。
そういう意味では特段難しい事が書いてあるわけではない。
子供とこずかいの例など、身近で役立つ例もあって、すんなりと受け入れやすい。
こうした事も頭のどこかに置いておくと、役に立つかもしれないと思わせられる一冊である・・・



           
posted by HH at 22:43| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス/自説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月16日

【悪の経典】貴志祐介



主人公は高校教師の蓮見聖司。
アメリカの大学を卒業し、MBAを取得した後、投資銀行に勤めるもなぜか退職し、帰国後まったく畑違いの高校の英語教師になったという変わった経歴を持つ。
本場仕込みの英語と、巧みな話術で生徒の評判も高く、教頭にも信頼されている。
一見、非の打ちどころのない教師なのであるが、その外面に隠された内面には恐ろしい顔を持つ。

第1章では、同僚の教師から弱みを握られてセクハラを受けていた生徒を助ける。
評判の良い教師として蓮見は描かれる。
しかしながら、庭にちょくちょく現れるカラスを電気ショックで殺すところから、その悪の片鱗を見せ始める。

素行の悪い生徒蓼沼を巧みな罠にはめて退学に追い込む。
生徒と同性愛の関係にあった同僚教師の弱みを握る。
生徒たちの携帯電話を使ったカンニングを未然に防ぐ。
それも学校全体に電波妨害を施してという手法を使って。
これが後々の伏線にもなる。

そして、次第次第にその本性を現していく。
担任している女生徒と関係を持ち、厄介なモンスターペアレンツを放火の末焼死させる。
邪魔な同僚を退職に追い込む。
次第に過去が明らかとなり、その恐ろしい本性が現れる。
そしてそれは、とうとうとんでもない事態へと発展していく。

「悪の経典」というタイトルにふさわしいモンスター蓮見の姿。
次第にエスカレートしていく様は何とも言えない。
ある意味、初めの期待を裏切る展開。
そしてそれはラストまで続く。
一見悪の行く末にありがちなラストであるが、この小説ではさらに行く末に暗雲を垂れこませるところが念入りと言える。

あまり気分の良い展開とは言えないものの、気がつけば一気に読み切ってしまっていた。
そこのところは作者の術中にハマったのかもしれない。
つくづく小説で良かったと思わせられる内容の物語である・・・



posted by HH at 22:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月11日

【スティーブ・ジョブス驚異のイノベーション】カーマイン・ガロ



はじめに 世界は多くのジョブズ−スティーブ・ジョブズを必要としている
法則1 大好きなことをする
Have the courage to follow your heart and intuition.They somehow already know what you truly want to become. -Steve Jobs
法則2 宇宙に衝撃を与える
We’re gambling on our vision,and we would rather do that than make “me-too” products. For us it’s always the next dream. -Steve Jobs
法則3 頭に活を入れる
Creativity is just connecting things. -Steve Jobs
法則4 製品を売るな。夢を売れ。
We,too,are going to think different and serve the people who have been buying our products since the beginning. Because a lot of times people think they’re craziness we see genius. -Steve Jobs
法則5 1000ものことにノーと言う
I’m as proud of what we don’t do as I am proud of what we do. -Steve Jobs
法則6 めちゃくちゃすごい体験をつくる
People don’t want to just buy personal computers anymore.They want to know what they can do with them, and we’re going to show people exactly that. -Steve Jobs
法則7 メッセージの名人になる
You’ve baked a really lovely cake,but then you’ve used dog shit for frosting.-Steve Jobs

先日惜しくも亡くなったスティーブ・ジョブズ。
彼が生み出したイノーベーションの数々を、さまざまなところに応用できるヒントにして、「人生・仕事・世界を変える7つの法則」としてまとめた本である。

スティーブ・ジョブズはパーソナルコンピューターを作り、一連のマックの製品を世に出した。
その過程は「Think Different」という言葉に代表される。
「スティーブ・ジョブスはパーソナルコンピューターの発明者でもなければ、MP3プレーヤーの発明者でもない。スマートフォンの発明者でもなければタブレットの発明者でもない。しかし、マックやiPodを発売し、iPhoneやiPadを発売して世界を大きく変えた」
この事実がそれを物語る。

「情熱を傾けられるのはこれしかない−そういうものを勇気を持ってみつけること」
これが大事だと言う。
確かに、それはあちこちで誰もが言う。
そして実際、大好きなことに情熱を傾けて成功した人たちの例が語られる。
その中には、映画 「幸せの力」にもなったルイス・ガードナーも登場する。

2001年にはビル・ゲイツはタブレットコンピューター時代の到来を予言し、実際マイクロソフト社でタブレットコンピューターの開発が行われていたという。
ところが、社内の争いで日の目を見ることなくプロジェクトはとん挫してしまう。
アップルがマックを開発した頃、IBMはアップルの1,000倍の開発費を使っていたという。
お金があっても、それだけで何かを生み出せるというものではない。

そしてビジョン。
10年後に月に人を送り込んで無事生還させると宣言したケネディ大統領。
コールド・ストーン・クリーマリーの店舗網を張り巡らせたダグ・デューシー。
荒れた公立高校をモデル校に変えた主婦のジャクリーヌ・エーデルバーグ。
ジョブズが示したビジョンと対比させて彼らの成功を紹介する。

アップルの成功を語るには、ジョブズが進めた「Thik Different」と「シンプル」という事にとにかく尽きる。
「簡素化というのは、不要なものを削り、不要なものを取り除き、必要なものの声が聞こえるようにする」という事のようである。
事実、アップルのパソコンは4種類であり、iPhoneもiPodもiPadもとにかくシンプルだ。
あれもこれもではなく、何をやめるかが重要だという事である。

世界を変える製品を生み出し続けてきたアップル。
それを導いたスティーブ・ジョブズ。
その成功のカギがたくさん網羅された本。
次にパソコンを買う時には、マックにしようと決意させられた本である・・・


                             
posted by HH at 23:24| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス/自説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月01日

【終わらざる夏】浅田次郎



浅田次郎の新刊を手に取った。
タイトルにある「夏」とは、昭和20年の「夏」のこと。
昭和20年の夏とは、「終戦の夏」。
必然的に戦時中の話となるが、これはそんな終戦の年の夏の物語である。

様々な人物たちが登場する。
英語の翻訳を仕事としていた片桐直哉。
妻の久子と一人息子の譲。
いつかアメリカで暮らす事を夢見、息子にも外国人が発音しやすい名前をつけた。
45歳という招集年限ギリギリの片岡に赤紙が届く。

岩手に住む鬼熊こと富永熊男にも4度目の召集令状が届く。
鬼熊は、過去に戦闘で右手の指3本を失っているが、地元の英雄として知られている。
同じ岩手出身の医学生菊池も少尉として召集される。
満州に駐屯していた戦車第11連隊の大屋准尉は、満ソ国境の街に再婚した妻を置いたまま、部隊と共に千島列島の占守島に移動する。
アメリカの侵攻に備えての、最強戦車部隊の配備であったが、アメリカは南から北上してきており、船を失った陸軍は北の孤島に取り残されている。

英語が堪能な片桐は、アメリカとの折衝に備える目的で招集され、鬼熊軍曹と菊池少尉とともに北の孤島占守島に配属される。
残された妻久子と信州に疎開する譲。
そして彼らを取り巻く人々の物語が続く。

実際のところは知らないが、赤紙は各村役場で選び出された人に渡されるとか、夜中でもとにかく急いで配達されるとか、招集年限とか、空襲下の暮らしぶりなど実に活き活きとリアルに描かれている様はちょっと新鮮。
街で千人針を頼んだりするシーンなども含めて、戦時下の生活の有り様はストーリーとは関係のないところではあるが、興味深い。

原爆が投下され、ソ連が参戦し、敗色が濃厚となる日本。
玉音放送が流れ、ようやく平和が訪れたところで、突然北の孤島で異変が起こる。
登場人物たちの身に起こる運命に、言葉もなくなる。
戦争とは無情なものと、今さらながら陳腐な言葉が脳裏を過る。
フィクションではあるのだろうが、何とも言えない気持ちになるラスト。
つくづく平和の有難味を思わずにはいられない。

上下巻でたっぷりと読み応えのある重厚な物語である・・・


                   
posted by HH at 22:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 浅田次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする