2012年02月28日

【ストーリーとしての競争戦略】楠木建



第1章 戦略はストーリー
第2章 競争戦略の基本理論
第3章 静止画から動画へ
第4章 始りはコンセプト
第5章 「キラーパス」を組み込む
第6章 戦略ストーリーを読解する
第7章 戦略ストーリーの「骨法十カ条」

「優れた戦略の条件とは何か」
著者なりに出した結論は、「戦略がストーリーになっているか」だという。
「優れた戦略とは思わず人に話したくなるような面白いストーリーだ」と著者は述べる。
この本は、そんな著者の主張を展開した本である。

戦略をストーリーとして語るという事は、「なぜその事業が競争の中で他社が達成できない価値を生み出すのか」を説明する事だという。
そして具体例が語られていく。
最初の例はマブチモーター。

技術的に成熟した小型モーターを専門に作っている会社であるが、当初は各メーカーの下請けであったモーター製造会社群の一社であった。
繁忙期と閑散期の差が激しい多品種少量生産だったが、「モーターの標準化」に挑戦。
当時は様々な抵抗にあったが、次第にメーカーの評価を得、さらに海外生産によるコストダウンにより低価格化も実現し、メーカーの支持を確たるものにしていく。
そんなマブチの戦略ストーリーが具体的に説明される。

こうしたストーリーは、「会社は誰のものか」という議論にも答えを与えるという。
すなわちそれはそもそも議論の立て方が間違っていて、経営は株主、顧客、従業員、社会すべてを満足させるべきもので、どういう順番で考えればそれが可能になるかが大事。
そしてそれを可能にするのがストーリーだという。
大手アパレルのワールドがその例として挙げられている。

ストーリーにとって大切なのは、まずコンセプト。
スターバックスは自らを、コーヒーの香りの中でリラックスできる「第三の場所」と位置付けた。
それゆえに、当時は異例だった店内禁煙を打ち出す。
注文を受けてから手間をかけてコーヒーを入れるのも、すべてこのコンセプトが根底にある。

こうしたコンセプトを活かすのはクリティカル・コアと言われる「それだけを見ると一見して非合理なのだが、ストーリー全体の中では強力な合理性を持つ」部分。
他社が追随しにくい、一見非合理的な取り組みが、あとで強力な武器になる。
当初はEコマースとは正反対にあった巨大な物流センターに巨額な投資を行ったアマゾン。
投資家には不評だったこの投資が、あとから振り返ればアマゾンの成功を支える要因となる。

コンセプトが決まれば、あらゆる打ち手はコンセプトと明確な因果関係でつながっていなくてはいけない。
つながりを説明できない構成要素はストーリーから排除しなければいけない。
こうした理屈は、企業戦略にとどまらず、身の回りの至るところに応用できそうな気がする。

500ページの厚い本ではあるものの、サウスウェスト航空、アスクル、アマゾン、デルなど身近な企業を例に取り上げ、わかりやすく解説しているため読んでいて苦にならない。
読み終えて、一皮むけた気分になれる一冊である・・・


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2012年02月25日

【麒麟の翼】東野圭吾


     
東野圭吾の作品の代表的人物である加賀恭一郎シリーズの最新作である。
前作 「新参者」で、練馬署から日本橋署に異動になった加賀。
事件はその日本橋署管内の、まさに日本橋の橋そのものの上で起こる。

一人の男が、日本橋の中程にある二体の麒麟像が置かれた装飾柱の前で胸を刺されて倒れていた。
男はそのまま息絶え、殺人事件として捜査が行われる事になる。
事件を担当することなったのは警視庁捜査一課。
そのメンバーである松宮が、上司の指示で組む事になったのは、所轄の加賀刑事。

実はこの二人は従兄弟同士であり、 「赤い指」でもコンビを組んでいる。
加賀刑事モノはそれぞれ独立していて、どれから読んでも良さそうであるが、この流れからすると、 「赤い指」 「新参者」→本書という流れで読むと背景が一致して面白いだろう。

そして間もなく容疑者と思われる男が発見されるが、事故で意識不明の重体となる。
当事者に事情聴取ができないという状況下、刑事達の捜査は始る。
そして被害者と容疑者の家族。
それぞれの事情。

「新参者」でみせた加賀の地道な捜査が、同じ日本橋を舞台にしてここでも展開される。
地元を知り尽くした、まさに所轄のデカの仕事振りと見事な推理。
やがて浮かび上がる真実。
単なる推理モノに終わらず、登場人物たちの心情も細かく描き、人間ドラマとしても深みがある。

「顔をそむけたくなるような事件モノでないから、読んでいて面白い」とは今年75歳になる母の感想だ。
老若男女が気楽に楽しめる刑事モノと言える。
映画化もされているが、それはそれ。
加賀刑事モノは活字で楽しみたいと、個人的には思うのである・・・

     
      
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2012年02月11日

【苦役列車】西村賢太




芥川賞受賞作品という事で、たまにはそういう本を読んでみるのもいいかと手に取った一冊。
主人公は中卒で社会に出て、19歳になった現在も変わらぬ日雇い暮らしを送る北町寛多。
10歳までは普通の生活だったのに、父親が性犯罪を犯して逮捕された時から人生が一変。
もともとの勉強嫌いも相俟って、社会の底辺をその日暮らしで彷徨う。
若さあふれる年齢にも関わらず、彼女どころか友達もいない。
計画性もまるでなく、日雇いも金がなくなれば仕方なく行くという有り様。

まるで、 「怒りを上げよ」の作田又三を彷彿とさせるような主人公。
だが破天荒な又三に比べると、喧嘩も弱くただ単に意志薄弱な寛多はスケールの点でずっと劣る。
そんな生活をしていて、将来どうするつもりだ、とまともな社会人なら説教を垂れたくなるだろう。

ある日寛多は、“職場”で偶然知り合った専門学校に通う同じ年の日下部と意気投合。
彼と会うがために連日“出勤”するようになる。
そうすると、少しずつ懐も豊かになり、仕事帰りには日下部と一杯やって帰るという人間らしい生活に、少しずつ変わっていく。
そのままいけば、あるいは少しはまともな社会人らしくなっていたかもしれない。
その生活振りに不満があるとしても、傍から見ていると自業自得としか言いようがない。

ストーリーは別として、特徴的なのが文章だ。
やたら難しい漢字や固い表現がちりばめられている。
冒頭は『曩時北町寛多の一日は・・・』で始るが、「曩時」って何だと突然戸惑う。
『しかしそんな埒もないことを思っていても、無論詮ない次第であった』などという表現のオンパレードである。
調べてみると私よりも若い1967年生まれであるし、もともとのスタイルなのか意図したものなのかは判然としないが、それは別の作品を読んでみればわかるのかもしれない。

ストーリーとしては面白いとは言いにくいところがある。
文章を味わうというほどでもない。
捕まえどころが見当たらないという感想を持った。
芥川賞を受賞したといっても、素人にはその理由も良さもわかるわけがない。
ただ、社会の底辺を覗いたような気持ちになれる小説である事は確かである・・・
    
    
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2012年02月04日

【スティーブ・ジョブズ1】ウォルター・アイザックソン



第1章 子供時代
第2章 おかしなふたり
第3章 ドロップアウト
第4章 アタリとインド
第5章 アップルT
第6章 アップルU
第7章 クリスアンとリサ
第8章 ゼロックスとリサ
第9章 株式公開
第10章 マック誕生
第11章 現実歪曲フィールド
第12章 デザイン
第13章 マックの開発力
第14章 スカリー登場
第15章 発売
第16章 ゲイツとジョブズ
第17章 イカロス
第18章 ネクスト
第19章 ピクサー
第20章 レギュラー・ガイ
第21章 『トイ・ストーリー』

アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズの自伝が出るらしいと聞いて楽しみにしていた。
ところが、なんとその前に本人が亡くなってしまう。
かなりのショックだった。
予定前倒しで発売された自伝をようやく手にした。

著者はジャーナリストで伝記作家でもある人。
スティーブ・ジョブズ本人から直々に頼まれて執筆したという。
本人が自ら自分の思いを語る自伝と比べてどうなんだろう、というのが最初の疑問。
されど読み進めるうちにこれはこれで良いのだろうと思うに至る。

スティーブ・ジョブズはかなりの変人であったらしい。
感情の起伏が激しく、人を怒鳴り飛ばし、時として泣いたりもする。
自分の子供の認知は拒否するし、人の気持ちを考えず、実はとても付き合いにくい人物だったようである。
もしも自分で自伝を書いていたら、当然そんな事は書かないわけで、第三者ゆえに書けるということもある。
これは著者が周りの人にもインタヴューするなどして、スティーブ・ジョブズ本人を立体的に浮かび上がらせている。
それによって第三者が書くことのメリットが出ているように思える。
本人も家族も、批判的な内容も許可したという事なのだが、ジョブズ本人については、こうした第三者の手による自伝の方が結果的には成功なのだろう。

嫌な性格といっても、それは見方の問題かもしれない。
人と違う見方ができるから、それが“Think different”に繋がっていくのだろうし、パーソナルコンピューターに革命を起こした“マッキントッシュ”を生み出す原動力にもなっているわけである。
事実、マックを開発していく時の細部に至るまでの拘りと、利益を後回しにして徹底的に製品の質に拘った姿勢に、そんなところが感じられる。

この1巻ではジョブズの生い立ちから始って、スティーブ・ウォズニアックとの出会い、アップルの誕生、そしてアップル追放からピクサー時代までが描かれる。
天才的な技術者であったウォズニアック。
技術力はなくてもアイディアのあったジョブズ。
ジョブズがいなければ、いまだにパソコンはマニア相手に細々と売られていただろうというくだりは、やはりジョブズの偉大さを感じる。

ビル・ゲイツとは比較的早い段階で付き合いがあったのは意外だった。
まだ狭い世界の同じ住人だったわけである。
大金持ちになっても、ベジタリアンで質素な家に住み、拘りが強すぎて家具が選べず、家具のないがらんとした家に住む。
現実歪曲フィールドで周りの人々を自分の世界に巻き込んでいく。
正と負の強烈なエネルギー。
それはマックを生みだす原動力となり、アップルを追い出される原因となる。
これを読んだらアップルを追い出されたのも仕方ないと思える。

アップルからNeXT、そしてピクサーへ。
ジョブズの自伝はアップルやピクサーの物語でもある。
まだまだ続く物語。
早く2巻を読みたいと思う・・・


                           
posted by HH at 10:52| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス/自伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする