2012年03月31日

【私が野球から学んだ人生で最も大切な101のこと】野村克也


    
もうずいぶんたくさん読んだが、まだまだ出る野村監督の本。
形式はいろいろだが、そのエッセンスはみな同じだ。
この本ではそのエッセンスを全部で101のテーマにまとめている。

「進むときは上を向いて進め。
暮らすときは下を向いて暮らせ。
過去を思い出して笑え。」
野村監督も好きな言葉だと言うが、なるほどと思う。

「そつのない平均点選手になるよりも、自分にしかないものに磨きをかけろ」
平均点選手な自分としては、胸に痛い言葉だ。
でも平均点しか取れない人だっているのだ。

「短所が長所を食いつぶす だから短所を鍛え、克服せよ」
逆に短所には目をつぶってひたすら長所を伸ばせという人もいるし、このあたりは難しい。
「相手の性格や人柄を見て、その人間に最もふさわしい言葉をかけなければ、人は変わらないし、動かない」
これは十分に思い当たる。
だがなかなか難しい。

「ここぞというときに褒めれば、その相手に深い感動ややりがいを与えられる」
「結果論で叱ってはいけない。結果に至るプロセスこそ見るべきである」
「よい結果はよいプロセスから生まれる」
「人間的成長がなければ、技術的進歩もない」
野球ばかりではなく、誰にでも普遍的にあてはまりそうな事がたくさん書かれていて、この本も重みがある。

もう何冊も本を書いているからだろう、あちこちで重複する話も多い。
自慢話に受取れる話も多いし、もしも野村監督の本を読んで心良く感じない人がいるとしたら、こうした自慢の部分だろうと思う。
人の自慢に眉をひそめるのは、謙譲を重んじる我々日本人的な精神なのかもしれないが、自慢してもらわないとその凄さがわからないし、したがって勉強にならない。
そこは素直に受取りたいところだ。

この本で知ったエピソードとして、個人的に感銘を受けたのは「一日3試合」だ。
野村監督は現役時代、試合前にシミュレーションで一試合、実際の試合と、試合後の振り返りでもう一試合と一日3試合をこなしていたという。
プロだからと言ってしまえばそれまでだが、自分は自分の仕事でそれだけの事をしているだろうか、と自問してみれば、学ぶところは多い。

セイバーメトリクス理論など関係なく、何度も選手を再生させてきた野村監督。
やっぱりそれだけのものは持っているのである。
何冊読んでも必ず得るモノはある。
これからも読み続けていきたい監督本である。


  
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2012年03月28日

【マネー・ボール】マイケル・ルイス



第1章  才能という名の呪い
第2章  メジャーリーガーはどこにいる
第3章  悟り
第4章  フィールド・オブ・ナンセンス
第5章  ジェレミー・ブラウン狂騒曲
第6章  不公平に打ち克つ科学
第7章  ジオンビーの穴
第8章  ゴロさばきマシン
第9章  トレードのからくり
第10章  サブマリナー誕生
第11章  人をあやつる糸
第12章 ひらめきを乗せた船

映画「マネー・ボール」を観て、内容をもう少し知りたくなって手に取った原作本。
こちらは映画よりも史実に忠実である。

同じようでいて、資金力に雲泥の違いのあるメジャーリーグ。
ヤンキースやメッツ、ドジャースなどといった金持ち球団に対し、資金力の乏しいオークランド・アスレチックス。
2000年から2002年で平均すると、ボルティモア・オリオールズやテキサス・レンジャーズなどの金持ち球団は、勝ち星一つ増やすのに300万ドル近くを費やしている。
しかし、アスレチックスは50万ドル。

低い総年俸にも関わらず、2000年から3年連続でプレーオフに進出し、ヤンキースをあわやというところまで追いつめた。
その原動力はゼネラルマネージャーのビリー・ビーンにあり、彼を描いたのがこの本であり、映画である。

映画はかなり脚色がされているようで、それを嫌ったビリーの右腕ポール・デポテスタは映画で自分の名前を使う事を許さなかったようであるが、この本では実名で登場する。
映画でも触れられたビリーの不遇なメジャー時代の話や、ゼネラルマネージャーとなったあとの活躍も当然扱われるが、もう一つの主役とも言える“セイバーメトリックス”理論もきちんとその成り立ちが解説されていて興味深い。
実はかなり以前から原型がかたどられて行ったのがわかる。

打者であれば、打率やホームラン数などには目もくれず、出塁率を重視する。
バントなどの犠打はやらず、初球から積極的に打つのを戒め、フォアボールで出塁する事を奨励する。
体型も関係ない。
そんなわけで、アスレチックスの選び出す選手たちは、他球団とはかなり異なる。
そんな選手たちを安い年俸で雇い、出塁重視で働かせる。
それが、快進撃の原動力。

そんな快進撃の様子は実に痛快。
高給の4番打者ばかりを集めても優勝できないのは、我が国のプロ野球でどこかの球団で実証済みだが、アスレチックスはその真逆と言える。
そして活躍した選手たちは高給取りになって、他球団に去っていく・・・

そんな理論だけで勝てるほど現実はあまくはないし、この理論にも短期決戦には弱いという弱点がある。
確率論だけに、長いシーズンでは確立通りに収斂していく事も、短期決戦では当てはならないのである。

野球は確率ではないと考える球界人たちばかりだから、尚更アスレチックスは成功する。
そんな球界人を笑うのは勇気がいる。
自分自身もそんな思い込みはないだろうか、と自問しないといけないだろう。

すべてが理屈通りに行くというわけでは、当然ない。
しかし、従来の基準ではへんてこな投球フォームで見向きもされなかったアンダースローのチャド・ブラッドフォードの活躍を導いたり、怪我で捕手としては再起不能となったハッテバーグを1塁で使い、結果として史上初の20連勝がかかった試合でサヨナラホームランを打つ事になるなんて事はなかっただろう。
太り過ぎでダメ烙印を押されたジェレミーが、エピローグでホームラン打つシーンには、笑いながら涙がにじむ。

読みモノとしても面白いし、自分の偏見を諌める教訓としても使える。
何かが発見できそうな一冊である・・・


     
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2012年03月24日

【スティーブ・ジョブズ驚異のプレゼン】カーマイン・ガロ



第1幕 ストーリーを作る
第2幕 体験を提供する
第3幕 仕上げと練習を行う

ここのところ好きでスティーブ・ジョブズ関連本に手を出している。
今回は、 「スティーブ・ジョブス驚異のイノベーション」と同じ著者によるもの。
タイトルの通り、今回は卓越していると評判のスティーブ・ジョブズのプレゼンテーションを取り上げたものである。

普通の人はたぶん知らないと思うのだが、スティーブ・ジョブズは毎年新製品の発表を独特のプレゼンテーションで行っていたらしい。
それを細かく分析し、一般の人でもうまくプレゼンができるようになるヒントが提示されているのがこの本の特徴。

プレゼンと言えばパワーポイントによるものがイメージとして浮かぶ。
しかしまず大事なのは、ストーリーであってスライドではないという。
いきなりパソコンを立ち上げ、箇条書きで書き出すというのは最悪なパターンらしい。
ジョブズは「どのように(使う)」ではなく、「なぜ」を説明する。
製品ではなく、夢を売ろうというわけである。

内容に入ると、ヘッドラインを作る、3点ルールを意識する、プレーン・イングリッシュを使うなどの方法が紹介される。
ヘッドラインとは見出しの事であり、短い言葉で端的にそれを表すのである。
「今日、アップルが電話を再発明する」(iPnone)
「1000曲をポケットに」(iPod)
「iPhone3G、速度は2倍、価格は半分」(iPhone3G)
こうしたヘッドラインは、他社の例なども引用されていてわかりやすい。

3点ルールとは、言いたい事を3つに絞り、それを冒頭でロードマップとして使うというもの。
そうすると、そのテーマの流れが聞き手にも理解できる。
「今日は革命的な製品を3つ、紹介する」(iPhone)
この3つに絞るというやり方は、いろいろなところで紹介されている。
ジョブズもそれを効果的に利用している。
有名なスタンフォード大学でのスピーチも3つだ。

「シンプル」はジョブズのキーワードでもある。
それは使う言葉にも現れる。
@ It’s the world thinnest notebook.
A With Time Capsule,plug it in, click a few buttons, and voila-all the Macs in your house are backed up automatically.
B Mac OSX is the most technically advanced personal computer operating system ever.
ビル・ゲイツが講演で使った言葉と対比されているからよくわかるが、実にわかりやすい。

その他
写真を使ったスライド
数字をドレスアップ
シンプルであり、具体的であり、心に訴える力が強い
などの特徴が説明される。

その素晴らしさは散々言葉で説明されるわけであり、それでも雰囲気は掴めるのであるが、やはり実物を見るに限る。
幸い今はYoutubeで見る事ができる。
この本でも平行して見る事を勧められている。
なるほどだ。

普段プレゼンの機会などないが、ある人なら一度目を通しておくのも良いのではないだろうか。
それでもジョブズのようなスキルを身につけるには、才能ではなく練習と努力のようだ。
プレゼン以外にも学ぶべき点の多い本である・・・



    
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2012年03月22日

【おじいちゃん戦争のこと教えて】中條高コ


   
舞い込んだ分厚い手紙
おじいちゃんと戦争
T 生い立ちと陸軍士官学校
U 終戦、そしてルネッサンス
V 戦争の本質について
W 失われしもの
X 日本人の心
おじいちゃんのレポートを読んで

著者はアサヒビール名誉顧問。
アメリカに住む著者の孫娘が、高校で「おじいちゃんの戦争体験を聞く」という宿題を出され、日本にいるおじいちゃんに手紙をよこす。
感じるところのあったおじいちゃん(=著者)が、自らの体験談とともに、同封されていた孫娘からの質問に答えたのが本書という構成である。

まずはじめにアメリカに住む孫娘からの手紙が紹介される。
歴史の授業で20世紀の2つの大戦が取り上げられ、それぞれの国によって体験談は異なるはずだからそれを聞こうという宿題が出される。
こういう授業はつくづく羨ましい。

日本の場合、歴史の授業は大抵縄文時代から始り、江戸時代かせいぜいが明治維新くらいでタイムオーバー。
肝心の昭和近代史は取り上げられない。
取り上げられたとしても、軍国主義日本の悪行がさらりと紹介されて終わりというパターンだ。
聖人ぶって当時の日本の良し悪しを公平に考えるという事はない。
アメリカは戦勝国という余裕もあるのだろうが、こうした歴史スタンスは彼我の差を大きく際立たせる。

回答者のおじいちゃんは、終戦を陸軍士官学校で迎える。
つまり戦場には行っていない。
されど当時の雰囲気などは、当事者の言葉というのはとても参考になる。
国のために尽くすには軍人になるのが一番であり、それは立派な事とされ、学費も無料。
今なら東大から一流企業を目指すのに似ていたという。
先生も両親もみんなが望み、そして本人も意気揚々と入学していったという。

しかし、終戦により価値観の大変換を経験する。
自らの経験に加え、当時の世界情勢が語られる。
日本も大陸に進出していくのには、それなりの理由があったわけであり、ただ単に「侵略」と決めつけて終わりにはできないものがある。

憲法の問題、東京裁判、そして天皇制。
日本が失った戦前の良きもの。
そんな考えが余すところなく語られていく。
国を愛するという世界では当たり前の事が普通にできない国というのは、あらためて考えても異常だ。
読みながら、卒業式シーズンになると恒例の活動をするけしからん教師の事を思い浮かべ、あらためて嘆かわしく思う。

激動の時代を経験した人の貴重な体験談。
こういうものに目を通す事も必要だと改めて思うのである・・・

                      

  
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2012年03月17日

【幸福な生活】百田尚樹



「永遠の0」ですっかりハマってしまった百田尚樹の短編集である。
表題作を含めて全18作品で構成されている。

面白いのはすべての作品が同じパターンで構成されているという事。
最後のページをめくるとそこに1行だけ1文が書かれている。
それが物語のオチなのであるが、「幸福な生活」(最後のストーリーでもある)というタイトルとは裏腹に、出てくる話はすべてブラックユーモアで包まれている。

傍で読んでいる分にはもちろん面白い。
だがもしも自分の事だったら、と考えると背筋が寒くなる。
どれもこれも、みんなそんな話である。
(1作だけ例外があって、これは途中暗くさせておいて逆に最後に明るく笑わせてくれる)

短編だから短い話の中で、うまく起承転結をつけて、最後にオチをつけている。
うまいなぁとこの構成には感心してしまう。
ストーリーも前半にさり気なく触れた話題を、最後にオチと絡めている。

例えば最初の話である「母の記憶」。
痴呆症の母を尋ねる息子。
女手一つで育ててくれた母。
その象徴的なエピソードが庭に作った池。
父親が家を出て行くきっかけとなった事が、その池を作ってくれと息子がねだった事だった。
昔のエピソードを思い出しながら、痴呆症の母が最後に語った一言。
それまでのエピソードがすべてつながり、その池に絡んで背筋の冷たくなる事実が浮かび上がるのである。

百田尚樹の描きだす小説は実に変化に富んでいる。
これまで長編が多かったが、今回は短編という形式。
内容の面白さは変わりない。
そんな変化球の数々は本当に楽しませてくれる。
次回作も是非期待したいと思う・・・


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2012年03月12日

【スティーブ・ジョブズU】ウォルター・アイザックソン



第22章 再臨 野獣、ついに時機めぐり来る
第23章 王政復古 今日の敗者も明日は勝者に転じるだろう
第24章 シンク・ディファレント iCEOのジョブズ
第25章 デザイン原理 ジョブズとアイブのスタジオ
第26章 iMAC hello(again)
第27章 CEO 経験を積んでもなおクレージー
第28章 アップルストア ジーニアスバーとイタリアの砂岩
第29章 デジタルハブ iTunesからiPod
第30章 iTunesストア ハーメルンの笛吹き
第31章 ミュージックマン 人生のサウンドトラック
第32章 ピクサーの友人・・・そして敵
第33章 21世紀のマック アップルを際立たせる
第34章 第1ラウンド メメント・モリ−死を忘れるなかれ
第35章 iPhone 三位一体の革命的製品
第36章 第2ラウンド がん再発
第37章 iPad ポストPCの時代に向けて
第38章 新たな戦い 昔の戦いの余韻
第39章 無限の彼方へ さあ行くぞ! クラウド、宇宙、そのまた先へ
第40章 第3ラウンド たそがれの苦闘
第41章 受け継がれてゆくもの 輝く創造の天空

アップルの創業者の自伝 「スティーブ・ジョブズ1」の続編。
スティーブ・ジョブズ追放後、低迷するアップル。
そしてピクサーCEOとして、ピクサーの上場も成功させたジョブズ。
やがてアップルにジョブズが復帰する。
アップルの問題点は、「商品がボロボロだ」とジョブズは断言する。

ピクサーとアップルを股にかけるジョブズ。
多彩な天才というイメージを持つが、ピクサー社内ではジョブズがアップルに関心を持ち、ピクサーへの関与が減る事をみんなが喜んでいる。
こんなあたりは、第三者による自伝ならではの記述だ。

復帰して「シンク・ディファレント」広告とiMacを世に売り出し、大成功。
三宅一生につくってもらったハイネックを愛用し、のちにそれがトレードマークになる。
気に入らなければ周りに当たり散らす性格はそのまま。
取締役会とも衝突する。

利益を度外視し、良いものだけを作ろうとあくまで拘るジョブズ。
それは顧客体験をすべてコントロールしようという動きにつながる。
「店でアップルを買う」という体験をコントロールするためには、それを売る店もと考えアップルストアを作る。
それも拘り抜いた店舗で。

デジタルハブを標榜し、iTunes、iPodと製品を生み出す。
これは海賊版が横行していた音楽デジタル世界に、「ポケットに1000曲を」と革命をもたらす。
音楽会社にもアーティストにも消費者にも、すべてに恩恵をもたらす製品となる。
さらにiPhone、iPadとマイクロソフトには作る事の出来ない製品を続々と生み出す。

一方でがんが見つかり、ジョブズの健康問題が大きな問題となってくる。
ここでも手術を拒否し、自分のやり方で治そうと変人振りを発揮する。
されどそれで良くなるはずもなく、膵臓を手術し、さらには再発し臓器移植手術もするが、金にモノを言わせた世界最先端の治療も病魔には効果が現れない。

この本にはしばしマイクロソフトのビル・ゲイツが登場する。
ビジネス的にはウィンドウズが圧勝し、ビル・ゲイツは世界一の金持ちになった。
しかし、製品に拘り続けたジョブズとアップルは、パーソナルコンピューター市場で7%の売上しかないものの、営業利益では35%を占める。
両者のアプローチはどちらが正解なのか、それはまだ答えが出ていない。

スティーブ・ジョブズが生み出したモノはすべてが革命的。
アップルU、マッキントッシュ、「トイ・ストーリー」、アップルストア、iPod、iTunesストア、iPhone、アップルストア、iPad、iCloud、そしてアップル。
すべて独自に発明したものではないが、組み合わせだけでこれだけのものを生み出すのは凄い事だ。
必要な資源も蓄積もすべて持っていたソニーが、最後まで実現できなかった形でiPodを作り上げたのが象徴的だろう。

自伝はアップルのCEOを辞任するところまでで終わる。
昨年のそのニュースを覚えているが、かなりショックだった。
もちろん、そのあと亡くなった衝撃はそれ以上だった。
本書は本人も「10年は読みたくないだろう」と言うくらい、ジョブズ本人を赤裸々に描いているようだ。
本人が書いていたら、こんな姿は知る事ができなかっただろう。
初めに本人が書いていないという事で、少々この自伝の価値を低くみたのは事実だが、スティーブ・ジョブズに限れば、この形が正解だったのだろう。

読みながら胸の熱くなる一人の男の物語。
読むべき価値ある一冊だ。


「スティーブ・ジョブズ1」

     
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2012年03月09日

【経営者平清盛の失敗】山田真哉


     
第1章 教科書にはない日宋貿易の真相
第2章 日本経済史最大のミステリー、「宋銭」普及の謎
第3章 平家滅亡の真犯人、そして清盛の「失敗」
第4章 経営者・平清盛

著者は公認会計士・税理士で「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」の著作もある人。
「さおだけ屋はなぜ潰れないのか?」はかつて読んだ事もあるが、なかなか人が目をつけないようなところに目をつけ、会計士らしい着眼点での説明を面白く読んだ記憶がある。
そんな著者が今度は平清盛だという。

平清盛と言えば、今NHKの大河ドラマでやっていて、世の中ではちょっとしたブームになっている。
大河ドラマに取り上げられると、こぞってブームにあやかろうとあちこちで取り上げられる。
天の邪鬼な私はそういうものにはそっぽを向きたくなる。
この本もそんな「ブームあやかり本」かと思っていたが、なかなかどうして、中味はかなりしっかりした歴史検証本である。

冒頭で平清盛を「海と船が好き」で、「旧弊に囚われない合理性、いち早く海外に目を向ける先進性、抜群の行動力」を持っていた人物で、歴史上の人物では坂本龍馬に最も近いと断言する。
何やらイメージが違うが、これは「歴史は勝者によって書かれる」という事から来ているという。
歴史は源平合戦の勝者、源氏によって書かれている。
頷けるところである。
こういう主張は 「逆説の日本史」シリーズに相通じるところがある。
歴史好きなら一気に引き込まれるところだろう。

当時の時代背景として、抜きにできなのが、日宋貿易。
中国は宋の時代。
そして清盛の父忠盛はこの日宋貿易で巨万の富を得る。
清盛はさらに日本初の人工島を作り、瀬戸内海ルートを整備して貿易革命をもたらす。
そんな話は初めて知るところであり、興味深い。

国内の通貨が普及しなかったのに、なぜ外国の通貨である宋銭が貨幣として爆発的に流通したのか。
それも一文銭に限ってのもので、本場中国で普及していた2文、10文といった大銭は普及しなかったのはなぜか。
著者は学説を紹介しながらも、自説を展開する。

「宋銭は仏具をつくるための鋼材として既に国内に広まっており、銅自体の価値が高かった事から、宋銭がスムーズに貨幣として信認された」と言うのがその説であるが、さまざまな検証を経ての結論は納得性が高い。
この人、本当に会計士なのだろうかと疑ってしまう。

宋銭の普及と「銭の病」と称される混乱。
世界的な寒冷期による飢饉の発生。
その結果としてのハイパーインフレが、宋銭に財を頼っていた平家の財務基盤を直撃。
常備軍を持たなかった当時、財務の脆弱化は兵士を雇えないという事態につながる。
こうした背景の下、源平合戦が始る。

当時の社会常識からするとかなり異端だった平清盛。
歴史に「もしも」はないのだが、その治世が続いていたら、と考えてしまう。
「逆説の日本史」でも語られなかった空白を、この本が見事に埋めてくれている。
これからこの著者は、「歴史学者」と名刺に加えても良いと思う。
歴史好きなら、読んでおきたい一冊である・・・



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2012年03月08日

【45歳からの会社人生に不安を感じたら読む本】植田統



序章  45歳がキャリアのターニング・ポイント
第1章 45歳になる前に知っておきたいこと
第2章 45歳からでも成功する転職の心得
第3章 45歳からでも間に合う勉強法
第4章 45歳になったら肝に銘じておくこと

本のタイトルというのは、実に重要だと思う。
タイトルを見ただけで、思わず手に取ってしまうという事はよくある事だ。
この本はまさにそんな一冊と言える。
ちょうど年齢的にも47歳と言う事もあって、別段「会社人生に不安を感じ」ているわけではないが、なんとなく内容に興味を持ったというわけである。

著者は国際経営コンサルタント。
東大卒業し、アメリカでMBAを取得し、東京銀行を皮切りに外資系企業を渡り歩き、46歳の時に一念発起して法科学院に進学し、弁護士資格も取ってしまったというスゴイ経歴。
そのためか、外資系企業の話が多くなるのはしかたないのかもしれない。

第1章では45歳になるまでに身につけておきたいとされるスキルが紹介される。
「給料はもらい過ぎるな、早い出世は命取り」「スペシャリストを目指すな」などはどちらかと言えば外資系企業で当てはまる話。
されど「ビジネススキルより人格を磨け」など、大いに腹落ちする話もある。
実例なども豊富に取り入れているので、著者が言いたい事はよく理解できる。

ただやっぱり外資系の企業の話が中心となるせいか、予備知識的には面白いという程度にとどまるのも事実。
ここらは読む人の立場によって感じ方は違うのかもしれない。
ただ転職の時に、「思い込みで一つのキャリアだけを追いかけたり、自分の考える強みにこだわってはいけない。いつもフレキシブルであるべきだ」などという部分は、外資系に限らず当てはまる事だし、そういう部分をうまくすくい取るのもいいと思う。

先にも伸べた通り、この人のスゴイところは46歳から勉強して弁護士の資格を取ってしまうところだ。
もともと大学院で素養があったようではあるが、それでもやはり大した事だ。
英語は1に度胸、2に度胸、3に度胸などという実践から得たものも、なるほどと思わせられるものもある。

全体的に主として転職市場の話であるが、そこではみんな「商品」だと言う。
人は誰でも自分を特別視したがるが、そうした市場では年齢による「賞味期限」もあり、あまり奢り高ぶっていてもいけないようである。
そんな自分のあまり知らないフィールドの話でも、何かの参考にはなりそうである。
将来的にはどうなるかわからないが、読んでおいて損はない本だと思う・・・

     
   
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2012年03月05日

【1Q84/BOOK2】村上春樹



「1Q84 BOOK1」の続編。
前作では二人の主人公天吾と青豆が登場。
それぞれの人物像と物語のイントロが語られた。
天吾は不思議な少女と出会い、その少女が作り上げた物語「空気さなぎ」を加筆補正して文学作品に仕上げる。
それがベストセラーとなる中で、少しずつ事件が進行する。

青豆は仕事の依頼人である老婆から、これが最後だろうという仕事を依頼される。
それは極めて危険な仕事。
空にはなぜか二つの月。
幾度となく蘇る10歳の頃のある少年との思い出。
その少年になぜか今も心惹かれる。

天吾の章と青豆の章が、ここでも交互に繰り返される。
独立平行していた章が徐々に近づき始める。
天吾と青豆の間に共通の過去。
そして現在までの、それが唯一の接点。
二人の物理的な距離が、一瞬限りなく近づく。

二つの月と「空気さなぎ」の物語と、不思議な少女ふかえりとリトル・ピープル。
それらがこれからどう絡み合うのか、天吾と青豆は出会うのか。
1984年と1Q84年は交差するのか。
すべては「Book3」へと続く。

今のところこれが大ベストセラーになった理由もわからない。
果たして村上春樹は、どのような結末を用意してくれているのだろうか。
面白かったら続きを読んでみようと思ってBook1を手に取ったが、どうやらシリーズの最後まで読む事になりそうだ。
続きをじっくりと楽しんでみたいと思う・・・


「1Q84 BOOK1」


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2012年03月04日

【蜩ノ記】葉室麟



第146回直木賞受賞作品。
豊後・羽根藩の奥祐筆・檀野庄三郎は、城内で些細な事から親友と口論になり、その場の勢いで刃傷沙汰に及ぶ。
事は切腹にあたる事態。
しかしながら家老の配慮でからくも切腹を免れ、代わりに向山村に幽閉中の元郡奉行・戸田秋谷の元へ遣わされる事になる。
秋谷は七年前、前藩主の側室と不義密通を犯した廉で、家譜編纂と十年後の切腹を命じられていた・・・

時代劇モノは藤澤周平ですっかり抵抗感がなくなっている。
新しい作家の時代劇という事でちょっと期待して手に取った。
武士の世界は名誉を重んじる世界。
現代ではありえないような話も、時代劇では可能となる。
十年後の切腹とそれまでの間に家譜編纂を命じられた元郡奉行戸田秋谷。
そしてその切腹までの監視と家譜の中味の報告を命じられた庄三郎の物語。

戸田秋谷は、前藩主の側室と不義密通を犯したと言うが、まずはその事情に自然と興味が湧く。
読み手は庄三郎の立場から、秋谷の人となりを見て、そして向山村での生活を体験していく。
そして少しずついろいろな事がわかってくる。

こうしたストーリー展開は実に巧妙。
いつのまにか、秋谷とその過去に興味をそそられていく。
秋谷の家族とともに暮らし、次第に情も移ってくる。
筋を通した秋谷の生き方、それを受けた息子もまた父同様背筋を伸ばして生きている。
武士道の世界と言ってもよいのだろうが、俗世間的な他の登場人物と比較すると、武士道ばかりでは説明がつかない。
やはりどの時代でも筋の通った生き方をする人間とそうでない人間はいる。

自分としては、武士ではないが、筋の通った生き方をしたい、と漠然と思う。
切腹の時は近づき、不義密通の真相も明らかになってくる。
派手な斬り合いがあるわけでもないが、深い人間ドラマは安易なチャンバラに遥かに勝るものがある。

この作家、今後も時代劇を書いていくのだろうか。
もしもそうであるとしたら、是非次回作以降もマークしたいと素直に思った・・・

    
    
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