2012年04月30日

【いじめと戦おう!】玉聞伸啓



第1章 いじめられているあなたへ
第2章 いじめと戦う!
第3章 友だちを助ける方法
第4章 保護者の方へ

子供が学校でいじめられていると知った時、どうすればいいのだろう。
あるいは、自分が学校でいじめられている時、どうしたらいいのだろう。
こんな時どうしたらいいのか、そんなヒントが書かれている一冊。
大人向けでもあり、小学生以上の子供向けでもある本である。

現実的にいじめられたという経験のない私にとって、この本に書かれている事がいじめ防止に役に立つのかどうか、はっきり言ってわからない。
効果的でもありそうな気もするし、効果なんてないような気もする。
ただ考えるヒントにはなる、とは言えそうである。

いじめに負けない方法として、最初に5つ紹介されている。
「記録をつける」は、その最初の一つ。
いじめを受けたと言っても具体的にどんな事をされたのか、中にははっきり言えない子もいるかもしれないし、記憶は薄れたり曖昧になったりしがち。
しっかり記録するという事は、これは良い事ではないかとさっそく感心する。

その他は、
・クラスの人たちを味方に変える
・心を守る笑顔トレーニング
・いじめに反応しない
・学校の外で夢中になれることを見つける
であるが、簡単にできる事とうまくできない事があるような気がする。

「大人に相談しよう」
もしもこの本を読むのがいじめられている子供本人だったのなら、これだけでも良いと言えそうな事だ。
相談してくれれば、何とかしてあげられる。
相談してくれない場合、どうしたら気がつけるのか、親としては気になる点だ。

「自己中つぶし」に「シカトくずし」
なるほどと思わせられるが、果たしてその通りに行くのかという疑問を持つ。
「物いじめ(盗まれる・隠される・落書きされる)にあったら、考え方を変えてみる」
大人なら問題なくできるだろうが、はたして子供にできるのだろうかと思う。

書いてある事すべてが実践的・効果的かと言われれば、よくわからない。
ただ考えるヒントには十分なる。
経験者の意見も載っているので、それも参考になる。
個々には賛同できるところや疑問に思うところもあるが、何よりも「いじめられている子を助けたい」という著者の強い思いが伝わってくるところが、素直に評価できる。

あれこれ考える前に一読するのもいいと思う一冊である。

                               


ラベル:いじめ
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2012年04月28日

【逆説の日本史18】井沢元彦



第1章 幕末から維新へT 『前史』としての日米交渉史 前編
第2章 幕末から維新へU 『前史』としての日米交渉史 後編
第3章 幕末激動の15年1854年編
第4章 幕末激動の15年1855・56年編
第5章 幕末激動の15年1857年編

シリーズ第18巻。
いよいよ幕末である。
そして幕末と言えば、黒船来航。
その黒船来航がこの18巻の中心である。

「泰平の眠りを覚ます上喜撰たった四杯で夜も眠れず」と歌にも詠まれた黒船来航だが、実は突然やってきたのではなく、何年も前から予想されていたのだという。
その裏付けが、第1章で語られる。
世界史的にはアヘン戦争があり、イギリスの無法ぶりが日本にも伝わる。

ロシアそしてアメリカも日本に使節を送り、幕府と交渉を試みる。
そんな世界情勢を受けて、オランダ国王からの助言ももたらされるが、幕府は何もしない。
ペリーの前にアメリカのモリソン号が、やはり開国交渉に来ていたというのは知らなかった。
日本人も漂流などの形で外国船に拾われるケースが増えていた。
日本の位置的な関係から我が国は、アメリカにとっては是非とも交流したい国だったという背景が語られ、当時の状況がよくわかる。

黒船は突然やってきたわけではないが、日本人はみなそう思い込んでいる。
著者は何度もそう繰り返すが、それは仕方ない。
学校の歴史の教科書では黒船来航が強調されているし、各時代ごとに細かく取り上げるわけにもいかず、象徴的な出来事を強調するのは仕方ない事だ。
歴史ばかり勉強しているわけにはいかないからだ。

そして、当時の幕府の対応が批判される。
初めは正攻法で交渉に臨んできたアメリカに対し、幕府は二枚舌、嘘つき外交で応じたと著者は幕府の役人を批判する。
感じられるのは、当時の幕府の役人も今の日本の政治家も同じだという事。
先送りすれば問題が解決するとでも言いたげだし、それに何よりリーダー不在、リーダーシップの欠如が致命的。
だとすると、現代日本の行く末も案じられる。

鎖国によって世界の常識から隔離されていた日本。
そのため結果として不平等条約を締結させられ、為替問題では富の流出を招く。
当時の日本は豊富な金を有し、世界有数の金持ち国家だったという指摘には改めて驚かされる。
しかしそれも銀の交換レートによって、バカみたいな理屈で流出させてしまう。
今の日本もアメリカに富を吸い上げられているし、何ら進歩がない気がする。

やむを得ない部分もあったと思うが、当時日本で恐らく唯一英語が話せたジョン万次郎を日米交渉の通訳として利用しなかったとか、日本側は当時の社会制度がネックとなって、うまく交渉できなかった事がわかる。
著者はひたすら当時の幕府の無能さを批判するが、サラリーマンの身としては当時の幕府の役人の対応もよくわかる。
現代の大企業や役所にも同じ理論が今も流れているからだ。

初めの頃はきらりと光っていた著者の分析や推理も、この巻ではやや色褪せた感がある。
近代になると資料も増える。
著者の得意とする資料と資料の間を埋める分析も、その分トーンダウンするのかもしれない。
さりとて次はもう読まないというわけではない。
むしろこれからが楽しみと言える。

1年に1冊のこのシリーズ。
1年後をまた期待して待ちたいと思う。

「逆説の日本史17」
「逆説の日本史16」
   
      
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2012年04月27日

【さかな記者が見た大震災 石巻賛歌】高成田享



著者は元朝日新聞論説委員。
テレビ朝日の「ニュースステーション」でコメンテーターをしていた経歴もあり、現在は仙台大学教授である。
定年を機に自ら希望してシニア記者として石巻支局長を務めているが、「さかな記者」というのは、その石巻支局時代に魚関連の取材を多数手がけたところから来ている。

そんな著者は、昨年の3月11日は偶然パリに滞在していた。
そして帰国してから目にした惨状。
震災以前から取材を通して知り合った人たちも多く、他人事ではないと活動を重ねてきたが、この本はその活動記録である。

かつて地震に際し、津波警報が出た時があって、その時は堤防までわざわざ取材に行ったという。
その時は大した津波ではなくてがっかりもしたようであるが、今回もし現地にいたら取材に行っていただろうと言う事だ。
その時は奥様が運転して行っていたらしいから、もしも現地にいたらこの本はなかったという事になる。

一人の記者の目を通しているから、出てくるエピソードはすべて個人個人にフォーカスされたものだ。
身近な復興ドラマと言えよう。
中にはテレビで見た事がある話もあったが、被災地でもバイタリティある人たちは注目を集めるのだろう。

やがて同じ高校の先輩でもある菅総理(当時)から声がかかり、復興構想会議の委員に就任。
残念ながら、自分の発言以外は非公開という縛りがあるようで、他の委員の意見は採り上げられていないが、著者自身の言葉はOKらしく、いろいろと披露されている。

やっぱり、というのだろうか、役人との折衝ではお役所の論理に呆れ、腹を立てている。
役人も不真面目という事ではないのだろうが、木を見て森を見ずの仕事振りや巧妙な論理展開はさすがだ。
温和な表現で語られているが、ちゃぶ台返しの一歩手前的な雰囲気が漂ってくる。

東京にいると、どのくらい復興が進んでいるのかよくわからない。
ただみんな手をこまねいているわけではなく、それぞれの立場でできるところから始めている。
そんな様子が伝わってくる。
そうした一頁を覗いてみる事のできる、地に足のついた記録である。

     
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2012年04月24日

【この世で一番おもしろいミクロ経済学】ヨラム・バウマン



PART1 個人の最適化戦略
PART2 相互関係における最適化戦略
PART3 市場における最適化戦略

タイトルにある通り、この本はミクロ経済学を扱った一冊。
しかも豊富な漫画というかイラストで、固い内容に抵抗がありそうな人にも非常に読みやすくしている。
といっても内容はあくまでもミクロ経済学。
それはそれ、である。

はじめに個人の最適化がテーマとして取り上げられる。
最適化というのは、自分にとって得な事をする事と定義されている。
そしてその個人にとっての最適化が、多数の個人が集まった中でどうなっていくか。
それをこの本では、
「あたしが自分に得な事をして、他の人も自分に得な事をして、他のみんなも自分に得な事をする時、その結果が万人にとって得になるのはどんな場合だろう」
と噛み砕いて問題提起している。

個人の最適化では、時間価値・大数の法則・逆選択などが登場する。
それだけ聞くと何やら難しく感じてしまうが、カジノでのルーレット、保険料などを例にしてわかりやすく解説される。
やがて個人の最適化は交換の概念(つまり取引)によって飛躍する。
お互いに交換する事によって、より最適化されるのである。
それがノーベル賞に輝くコースの定理となる。

個人から市場へ。
それがゲーム理論へとつながり、有名な囚人のジレンマとなる。
それが一般化すると共有地の悲劇となる。
最近の日本でも共有地の悲劇は高速道路で起こった。
1,000円になって安くなったら、みんなが殺到して渋滞になったというあの問題だ。

身近なオークションでも戦略等価性という性質を持つ。
4種類の戦略を取り上げ、結果としてどの戦略も期待収入は同じとなる。
ヤフオクも、実は「第二価格封印入札」という種類のオークションになるとここで知ったが、そうしたところにもミクロ経済学が成り立っているのである。

市場の問題は需要曲線と供給曲線との問題でも説明される。
その他需要の価格弾力性・供給の価格弾力性などという用語も登場する。
ノーベル賞理論も一つや二つではないが、そんな難しい理屈もこの本にかかればすっと読み進められる。
なかなか面白い試みだ。

ミクロ経済学の問題はやがてマクロ経済額の問題へと通ずる。
それは次の続編に譲られるようである。
この延長であれば、難解という事もない。
次も手にとって読んでみようかという気になった・・・

  
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2012年04月15日

【下町ロケット】池井戸潤



第1章 カウントダウン
第2章 迷走スターダスト計画
第3章 下町ドリーム
第4章 揺れる心
第5章 佃プライド
第6章 品質の砦
第7章 リフト・オフ

著者の事はまったく知らなかったが、タイヤ脱輪事故の隠ぺい工作で有名になった三菱ふそうトラックの事件をモチーフとしたドラマ「空飛ぶタイヤ」の原作者であると聞くと、なるほどと思う。
小説は初めて手に取った。

物語は、ある下町の中小企業を巡るもの。
社長は元宇宙科学開発機構の研究者。
ロケットエンジンの開発主任をしていた佃航平が、あるロケット打ち上げ失敗を機に職を辞し、家業の精密機械製造業である佃製作所を継いだのである。

しかし厳しい日本経済下、主要取引先であった京浜マシナリーからは取引打ち切りを宣告され、さらに大手のナカシマ工業からはいわれなき特許侵害訴訟を起こされる。
元々は佃製作所の特許だったものを巧みに変えられていたのである。
メイン銀行への資金繰り支援を要請するも冷たくあしらわれ、顧問弁護士は技術に疎く、大手弁護士事務所を要するナカシマ工業相手の訴訟にはとても耐えられない。
さらには風評被害も広がりつつあり、佃製作所は四面楚歌となる。

そんな佃製作所だが、取得していた特許が大手の帝国重工のロケット開発プロジェクトに重要な役割を果たす事が判明する。
社内も分裂する激論を交わしながら、佃製作所の奮闘が始っていく。

ストーリーは単純ながら、実に熱いストーリーとなっている。
「空飛ぶタイヤ」のように実在の企業をモデルにしているのかどうかはわからないが、それっぽい雰囲気があり、それがストーリーの雰囲気作りに役立っているところがある。
銀行からの出向部長や技術部長、営業部長など中小企業とは言えそれぞれいて、汗をかいている。
弱いと言われる中小企業の悲哀と、技術という唯一の武器を手に世の中を渡っていく痛快さ。

「やせ蛙 負けるな一茶 ここにあり」という一句が脳裏に浮かぶ。
もともと判官贔屓の気風ある日本人だが、弱きものが強きものに向かっていくストーリーはそれだけで熱くなるものがある。
この本もまさにその代表。
技術大国の底辺を支える中小企業応援歌でもある。

読み始めると止まらない、止めたくないストーリー展開の面白さと、胸が熱くなるエピソードに時折目頭も熱くなる。
ベストセラーの理由も十分にある。
誰が読んでも面白いだろうし、間違いなく人に勧めたい小説の一つである。

     
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2012年04月14日

【出る杭も5億稼げば打たれない】平田進也




第1章 いま、あなたは何をすべきか?
第2章 売るためのコツ、売れる商品を作るコツ
第3章 お客様の心をつかむ仕事術
第4章 他人の言葉に耳を傾ける

著者は日本旅行のカリスマ添乗員。
参加してくれたツアー客を楽しませ、次々に虜にしてしまい、ファンクラブ会員が1万人を超すという。
添乗員として5億稼ぐ事がどれほど凄いのか、部外者にはピンとこないが、たぶん相当スゴイのだろう。
そんな著者が自らの仕事を振り返って記した一冊である。

正直言ってツアー旅行に参加したという記憶がまるでない。
たぶん、修学旅行の時の記憶をイメージすればいいのだろう。
修学旅行の時の添乗員をイメージしてみると、この人の添乗はかなり違う。
とにかく徹底してお客さんを楽しませる。
夜の宴会でも自ら女装していろいろとやるようである。
(どんな事をやるのかまでは、残念ながら書いていない)

感心したのは「24時間仕事頭」というところ。
仕事中はともかく、普段の日常生活でも常にアンテナを立てている。
家族と一緒にいても、ちょっとでもお客さんを楽しませるヒントになりそうな事があると、即座に反応する。
「家族が一番」と公言しているが、仕事脳は別に常に待機させている。
普通とは違う人というものは、こういうところがある。

関西人というところもあるのだろうが、とにかくお客さんのためにバカになる事を厭わない。
冷静に見ていたら、自分はこんな事できないと思ってしまう。
たぶん普通の添乗員はみなそうなのだろう。
だからこの人が際立つのだ。

お客さんを喜ばせるための熱意はアイディアを生む。
仕事はいろいろと違うが、共通している部分だろう。
そんな熱意に裏付けられたアイディアがお客さんを喜ばせ、お客さんの喜びがこの人にとっても快感になり、さらに熱意が高まる。

周りからのやっかみもあったのだろうが、やがては「出る杭も出過ぎれば叩けなくなる」。
本自体は薄い本であるし、たくさんの事が書かれているというほどでもない。
どんな仕事でも、これだけの熱意でもってやれば成功するだろう。
自分と比べてみればそう思う。
明日からもう少し頑張ってみようかな、と思わせられる本である。


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2012年04月12日

【日本の未来について話そう】マッキンゼー・アンド・カンパニー


    

第1章 日本の再生に向けて
第2章 再び変化の時代へ
第3章 再建のための現状把握
第4章 国際化への鍵
第5章 日本外交政策の選択
第6章 グローバルな視座
第7章 技術と思考のイノベーション
第8章 人材の「発見」と活用
第9章 文化の継承と発展

マッキンゼー・アンド・カンパニーが各界の著名人にインタヴューし、それぞれ各章に掲げたテーマについて語ってもらった一冊。
内容は、タイトルそのもの、「日本の未来について」である。
副題に「日本再生への提言」とある通り、現状の長引く不況や震災の影響に揺れる我が国の再生方法についての意見である。

登場する著名人も実に様々。
経営者が多いが、スポーツ選手・監督、作家・漫画家、ジャーナリスト、大学教授に研究者等々国内外の多数が登場する。
個人的には孫正義、柳井正、南波智子、ハワード・シュルツ、ジョン・チェンバース、などの経営者、藤原和博(元民間出身校長)、ボビー・バレンタイン元ロッテ監督、漫画家の弘兼憲史などに興味を惹かれた。

当然ながら日本の未来を語る時に欠かせないのが、海外との関係。
これについては様々な形で提言されている。
一言で言えば、「もっと積極的に外へ出ろ」という事だ。
自身の著書でそのものずばり 「この国を出でよ」と主張した柳井正は、同じ主張をしている。
メジャーに挑戦してその後の日本人プレーヤーのメジャー挑戦に先鞭をつけた野茂も取り上げられ、「グローバル」がキーワードとして語られる。
弘兼憲史も「社長島耕作」で「シンク グローバル」と謳う。

一方で海外礼讃ばかりでなく、日本の良さも取り上げられている。
文化的な側面、活用されていない女性、ワークライフバランス。
「ジャパン アズ ナンバーワン」の著者であるエズラ・ヴォーゲルは、「日本人はチームで行動するのが上手」と語る。
「集団行動に必要な気配りと能力がある」と。
我々自身気がつかない部分も多いような気がする。

読み進めていくと、「今後日本はどうすべきか」というテーマと、「今後自分はどうすべきか」というテーマとが頭に浮かんでくる。
そんな事をあれこれと考えてみるには、良いヒントになる本かもしれない。
かなり量はあるが、読み応えのある本。
時にはこういう本を読んで、我が国の行く末を考えてみるのもいいかもしれない・・・

     
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2012年04月07日

【あんぽん孫正義伝】佐野眞一


    


第1章 孫家三代海峡物語
第2章 久留米から西海岸への「青春疾走」
第3章 在日アンダーグラウンド
第4章 ソフトバンクの書かれざる一章
第5章 「脱原発」のルーツを追って
第6章 地の底が育てた李家の「血と骨」
第7章 この男から目が離せない

読みながら思った事は、「これは孫正義の伝記だろうか」という事。
そして読み終えて思った事は、「これは孫正義の伝記ではない」という事。
強いてタイトルをつけるならば、「孫家の人々」とでもすればよい内容だ。

伝記と言うと、つい先日 「スティーブ・ジョブズ」を読んで感銘を受けたばかりだ。
日本人ならこの人、と言えるのが孫正義。
個人的に随分期待して手に取った本であり、著者もやっぱり 「スティーブ・ジョブズ」をかなり意識しているようだ。
だが内容的には比べるべくもない、期待外れの一冊だった。

「スティーブ・ジョブズ」では、著者のアイザックソンは、ジョブズにスポットライトを当て、常に中心に置いて周辺の取材を重ね、ジョブズ本人を客観的に浮かび上がらせた。
この本でも著者は本人にインタヴューし、綿密な取材を重ねているようだ。
しかしその興味が、孫正義の「在日朝鮮人部落で、家の中で豚を飼い密造酒を作っていた家で育った」という出自に異常にこだわり続け、かなりのページ数をそこに割き、肝心の本人の物語がそっちのけになっている。

スポットライトが父の三憲を始めとする一族へ順々に移りゆく。
父の三憲はパチンコや不動産で財をなし、豪邸へと這い上がるバイタリティを持っていたようだ。
そのバイタリティをいたく気に入ったようで、ずいぶんページも割かれており、実質的に本書の主人公と言っても過言ではない。
もちろん、孫正義のルーツを探り、その中に流れる血を追って行ったのであろうが、タイトルを見てこの本を読もうと思った私はそんな事よりも、孫正義の成功ストーリーを読みたかったのだ。
「スティーブ・ジョブズ」のように・・・

おまけにやたらと目に余る著者の自己主張と自己陶酔。
伝記なら著者は控えに回らなければいけない。
なのに孫正義の「あれは良い」、「これは悪い」を大上段から断言。
大作家が高いところから孫正義を論じている。
誰もあなたの意見など聞いてはいないと言いたくなる。

孫正義について書いた他の著者を御用ライターと呼んで蔑視し、我こそは真の作家と格調高く主張する。
アイザックソンの向こうを張って、真の孫正義について書けるのは著者だけらしい。
そしてその面白さは 「スティーブ・ジョブズ」に負けないと自負している。
とんでもない勘違いである。
こうなると、もはや御用ライターの方がはるかにマシと言えるだろう。

さらに朝鮮人となるとついて回る戦前の問題。
「強制連行」の言葉の意味もよく理解しておらず、騙されて連れてこられたのを「強制連行」と呼んで一緒にしてしまっている。
モノ書きには致命的な知識不足を露呈していて見苦しい。

それでもわずかに孫正義について書かれているところは面白く、何とか最後まで辛抱して読めたのもそういう部分があったからだ。
日本に帰化する際、「孫」という名字を認めなかった役所に対して、奇策を用いて認めさせたエピソードなどは一読の価値がある。
それに随所に紹介されている孫正義の言葉やエピソードは、やはりきらりと光る“らしさ”が感じられる。
まあそうした部分と合わせる事によって、何とか「読んで損した感」を癒す事ができる。

今後この著者については、工藤美代子と並んで、「読んで人生を無駄にしたくない作家リスト」に是非とも加えたいと思う。

      
posted by HH at 11:42| Comment(0) | TrackBack(0) | ドキュメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする