2012年12月29日

【13歳からの道徳教科書】道徳教育をすすめる有識者の会



第1部 しっかりとした自分
第2部 人とのかかわり
第3部 かけがえのない命
第4部 「公」と「私」
第5部 誰かのために

タイトルにある通り、この本は日本人の、特に精神の発達期にある子供たちのために集められた道徳に関する話をまとめた本である。
道徳教育は、我々が「美しい」と感じるような話を子供たちに伝える事ではないか、というところがスタート地点のようである。
子供たちが、国を愛する、家を愛する、子孫を愛する、親を尊敬するといった基本的な事を身につけさせたいという思いがあるようで、それには全面的に同意するところがあり、興味を持ってページをめくった。

全体で5つのテーマに分かれており、それぞれいくつかのエピソードが掲載されている。
過去の人から現代の人まで、それは多岐にわたっている。
第1部は、「しっかりとした自分」というタイトルであるが、文字通り信念を持って物事を成し遂げた人の話である。
橋本左内、吉田松陰、中江藤樹といった江戸から明治にかけての偉人に加え、なんとイチローの小学校6年生の時の有名な作文や、伏見工業の山口元ラグビー部監督なども載っていて、親近感は抜群。

日本人ばかりでなく、カーネギーやマザー・テレサなどの外国人もあるし、O.ヘンリーの小説(「最後のひと葉」)や菊池寛の小説(「恩讐の彼方に」)もある。
偉人ばかりだとどこか遠くの話という感じがしてしまうが、日本海軍の佐久間艇長など無名の人の世界から絶賛された行いを知ると、同じ日本人として誇らしくもなるし、また自分もかくありたいと思うようにもなる。

道徳と言うと、「小学校時代のつまらない授業」というイメージしかないが、こうした人たちの話を満載した教科書だったら、もっと目を輝かせて話に聞き入ったかもしれない。
個人主義の欧米に対し、利己的になることを伝統的に戒める文化のある我が国だし、こういう部分は世界に誇る文化として残さないといけないだろう。
そうした意味では、この本の趣旨には全面的に賛同したい。

13歳を意識してだろうか、平易な文章は大人にはちょっと読みにくいところがあるが、親の立場にある人は読んでおくべき一冊だろうと思う・・・

   
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2012年12月22日

【海賊とよばれた男】百田尚樹



第1章 朱夏
第2章 青春
第3章 白秋
第4章 玄冬

個人的に、今最もお気に入りの作家の一人である百田尚樹の最新刊。
出光興産の創業者である出光佐三をモデルとした男の一代記である。
実在の人物の自伝小説という意味では、ファイティング原田を主人公とした 「リング」があったが、今度は経済界の人物。
出光佐三という人の事は、これまでまったく知らなかったが、それが非常に残念に思われる。

物語は終戦直後から始る。
すでに還暦を迎えていた国岡鐡造は、焦土となった国を今一度建てなおすという決意の下、奇跡的に空襲から焼け残った自らの会社国岡商店の本社に戻る。
そして、社員を前にして号令をかける。

「愚痴をやめよ。戦争に負けたからといって、大国民の誇りを失ってはならない。すべてを失おうとも、日本人がいるかぎり、この国は必ずや再び立ち上がる日が来る。ただちに建設にかかれ。日本は必ずや再び立ち上がる。世界は再び驚倒するであろう。しかし、その道は死に勝る苦しみと覚悟せよ」

一言で言えば信念に貫かれた男の物語。
日本に初めて内閣が設立した明治18年に生まれる。
神戸高商(現神戸大学)を卒業し、卒業生の多くが進む大企業には背を向け、小さな商店に就職する。
そしてそこで石油の存在を知る。

信念に基づく行動は、敵も作るが味方も作る。
やがて知り合った日田重太郎から出資を受け独立する。
日田は持っていた不動産を売り払ったお金を無償で鐡造に提供する。
こういう人物もそういるものではない。
その意気に感じ、鐡造は猛烈に働く。

鐡造の前には既得権者が次から次へと立ち塞がる。
商売であればライバルの存在はやむを得ないが、集団となると分が悪い。
しかし鐡造は知恵を振り絞り、歯を食いしばってこの壁を突破していく。
その様は実に痛快。

終戦直後の号令の後も、次から次へと壁が立ちふさがる。
「一人も馘首はしない」と宣言し、仕事のない中1,000人の社員を抱えてスタート。
財産を切り売りして糊口を凌ぐ。
わずかなチャンスにすがりつき、自社の事ではなく、日本のためという信念から行動する。
そんな行動は、アメリカの石油メジャーや、国内の業界団体の不興を買う事になる。

次から次へと襲いかかる危機を信念で突破していく様は実に痛快。
そして危機の都度、そんな信念の男に共感して手を差し伸べてくる者が現れる。
「社員は家族」と宣言し、それを行動で貫く。
社員もそれに応え、獅子奮迅の活躍をする。
出勤簿もなければ労働組合もないが、しかし労働争議などは起こらない。

鐡造の奮闘の歴史は、日本の石油の歴史。
物語を読み進めるうちに、日本の石油の歴史も自然と頭に入ってくる。
鐡造と国岡商店以外は概ね実名で登場してくるようであるから、そういう意味でも歴史教科書的である。
特に第二次大戦と石油の関係、そして今に至るまで石油が世界に及ぼす影響がよくわかる。

鐡造の信念の行動を読みながら、しばしば胸が熱くなる。
こういう人物ばかりだったら、日本は世界一の国になり、世界から深い尊敬を集められていただろうと思えてならない。
しかしながらこんな傑出した人物を待望しているばかりではいけない。
自分だったら、どうするべきだろうと考えてみたい。
大きな事はできなくても、信念ある行動は小さなことでもできるはず。
そんな事を考えてみた。

今もメインでガソリンを入れている出光。
これからもそうしようと改めて思った・・・
    
     
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2012年12月17日

【マスタースイッチ】ティム・ウー



第1部 帝国の台頭
第2部 すべてを見通す眼の下で
第3部 反逆、挑戦、そして滅亡
第4部 魂なき復活
第5部 すべてを敵に回すインターネット

新しいイノベーションによって新しい企業が生まれる。
革新的な産業が成長すると、いつのまにか集中化が進み、やがて活気を失い、そして気がつけばイノベーションの敵になってしまっている。
その変貌の過程を、著者は「サイクル」と名付けている。
そして、その具体例を情報産業から列挙している。

まずは電話。
アレクサンダー・グラハム・ベルが作り出した電話。
その特許を管理していた会社ベル。
その頃、電信会社として君臨していたウエスタンユニオン。
一時はその特許をまとめて10万ドルで買わないかと提案されるも、ウエスタンユニオンは断ってしまう。
大失敗だったのは歴史が示す通り。
第1部では電話とラジオと映画の歴史とが語られる。

電話はやがて長距離回線を主としたAT&Tが君臨統治するようになる。
始めはベルの子会社だったのに、下剋上で王者となっていく。
ベルの歴史は、アメリカにおける電話の歴史。
今では長距離も短距離もないが、当時はまだそういう区分けが存在していた。
このあたりは「初めて物語」の色彩が強く、読み物として面白い。

映画も初期は10分間の長さが一般的だったという。
映画の初期というと、チャップリンのトーキー映画を連想するが、その前にも映画の歴史は存在している。
映画製作の中心地もはじめはニューヨーク。
それがハリウッドになったのにもちゃんと物語はあった。
ユニバーサル、20世紀フォックス、ワーナー・ブラザーズ、パラマウントとお馴染みの名前が出てくる物語は、映画好きには興味深い。

そうした企業の盛衰の物語と共に、問題としてあげられるのが「独占」の問題。
AT&Tは1984年に分割されるまでは、電話市場の独裁者として君臨。
その権力の歴史は、電話機に取り付けるハッシュ・ア・フォンという器具を排除するところにまで遡る。
アメリカには反トラスト法という独占禁止法があるが、「独占」の問題は本書の大きなテーマである。

しかし、それは「独占は悪」と単純に論ずるものではない。
スティーブ・ジョブズとアップルのように、「正しい独裁者」と言える例もある。
「独裁=独占」がすべて悪ではなく、「正しい独裁者」を認め、それを生みだす制度は残すべきであるとする。
その主張が本書のサブタイトルにもなっている。

歴史はやがてケーブルテレビを生みだし、インターネットへと移りゆく。
ネットに関しては、2010年に「ネット中立法案」が誕生している。
「独占」の問題を考える本としても良いだろうし、メディアの誕生秘話のような歴史モノとしても楽しめるかもしれない。
お堅い中にも柔らかさをもった一冊である・・・

    
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2012年12月08日

【ジェノサイド】高野和明



書店で山積みになっているのを見かけ、気になって手に取った一冊。
フレデリック・フォーサイスもののような雰囲気が漂う作品で、最後まで一気に読んでしまった。

物語は、アメリカと日本、そしてコンゴとで展開される。
イエーガーは元米軍人で、今は民間軍事会社に勤めている。
肺胞上皮細胞硬化症という難病に侵された息子を持ち、その治療費を捻出するために、イラクで危険な警護任務についている。
民間軍事会社というのも、いかにもアメリカらしい。
元軍人たちが雇われ、危険地域で軍事サービスを展開しているのである。
そんなイエーガーに、次の任務のオファーが来る。
死の淵に喘ぐ息子の病状を妻から聞きながら、イエーガーはその破格の条件のオファーを受ける。

一方日本。
大学生の古賀研人は、父を大動脈瘤破裂で失う。
そしてその死後、科学者だった父から突然メールが送られてくる。
しばらく姿を消すが心配するなという内容。
そして「アイスキャンディで汚した本を開け」という謎めいたメッセージ。
そして大金の入った口座と、見知らぬアパートの一室に残された実験器具を発見する。

イエーガーのミッションは、他の3人のメンバーとコンゴに潜入する事であった。
ジャングルに住むピグミー達を探し当て、そしてある任務が課される。
古賀研人は、父からの「オーファン受容体のアゴニストをデザインし、合成しろ」との指示を見つける。
それは大学院に通う理系学生の研人にもよくわからないものであった。

日本の大学院生研人とアメリカの軍事会社に勤めるイエーガー。
一見なんの接点もない二人の物語が進行していく。
ブッシュを彷彿とさせるアメリカ大統領のバーンズ。
側近に言われるまま、コンゴでの作戦ネメシスにゴーサインを出す。

3つの物語が独立して進み、やがて絡み合う。
このあたりは何となく予測がつく。
鍵となるハイズマン・レポート。
一体どんな展開が待ち受けているのか。
このあたりは、なかなか惹きつけてくれる。

民間軍事会社の仕組みや製薬の過程。
人助けという美名に隠れた金儲けの世界。
人類の歴史にアフリカ情勢。
物語とは別に、今まで知らなかったそうした事実が楽しめる。
そして空想力豊かなストーリー。

人類の残虐性が進化の鍵という話はなるほどと思いつつ、複雑な気もする。
そして表向き平和国家のアメリカの持つ好戦性。
イラク戦争の真実の姿も今では多くの人が知るところとなってきている。
そうした側面の補完ストーリーの効果もあって、本体のストーリーもドラマチックに展開していく。

そして余韻の残るラスト。
盛沢山の物語は、重い余韻を残す。
「善なる側面が人間にあるのも否定しない。しかし善行というものは、ヒトとしての本性に背く行為だからこそ美徳とされるのだ。それが生物学的に当たり前の行動なら称賛される事もない。」というハイズマン教授の言葉は実に含蓄に富んでいる。
物語意外にもたっぷりと考えさせてくれる物語である・・・


posted by HH at 21:01| Comment(0) | TrackBack(3) | スリリングなストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年12月01日

【もし、日本という国がなかったら】ロジャー・パルバース



最近我が国についていろいろと思う事がある。
そうすると、外国人から見た日本の姿というものを見てみたいという気になる。
ちょうど人が我が身を鏡に映して見るように、である。
ちょうどそんな時に、目の前にこんなタイトルの本があれば、それは手に取るだろう。
そんな経緯で読んだ一冊。

著者はもう日本に40年以上にわたって暮らしているロジャー・パルバース氏。
知る人は知る人物であるようだが、もちろん、私は知らない。
ハーバード大学を出て、ロシア語を学び、その関係で訪れたポーランドではポーランド語を学び、そして来日するやまたたく間に日本語もマスターし、どうやら語学の才能は凄い人のようである。
この本は、そんな人物の自伝。

タイトルに紛らわされてしまったが、あくまでも自伝であるから、有名人ならともかく、知らない人の自伝はそれほど面白いとは思えない。
まあマンガ、アニメ、スシ、カラオケをMASK現象と名付けたりするところは、外国人から見た日本であり、それなりに満足はさせてくれる。

作家の井上ひさしなど著名人とも交流があり、宮沢賢治を絶賛。
有名な童謡「赤とんぼ」や小津安二郎の映画を解説してくれたりするところは、日本人でもなかなか知らない事でもあり、驚くところである。
著者はアメリカ人なのに日本に取りつかれ、なのにオーストラリアの国籍を取得し、日本には40年以上住んでいるというちょっと経歴は変わっている。

しかし、やっぱり個人的に惹かれたのは、日本人についての部分だ。
あらゆる人たちが礼儀正しく振舞う、正当性を主張する欧米人に対し譲り合う日本人、気配り、そしてサービス精神。
東北大震災時にみせた“自粛”。
あらゆる宗教に敬意を払えるのは日本人だけという指摘。
一つ一つのエピソードを聞いても、日本人だと違和感がなくてわからないが、外国人からみるとよその国では見られないものらしい。

また日本語の特徴についての話も面白い。
「あの〜」と言っただけで助けてもらえた外国人女性の話。
喫茶店で、「エスプレッソはありますか?」という著者の質問に、「“は”ないです」と答えた店員さん。(エスプレッソを省略しても通じてしまう)
小さい「っ」が表す多くの感情。
「むちゃくちゃだ」と「むっちゃくちゃだ」の微妙な違い。
「痛っ」「やばっ」などの表現や、「おばあちゃん」と「おばあちゃま」のニュアンスの違い。

いちいちなるほどと思ってしまう。
こうした後半部分の話は、最初にこの本を読んでみたいと思った気持ちを十分に満たしてくれる。
少々大げさに褒めているところもあるが、世界に誇っても良い部分は、日本人として大事にしていかないといけない。

そんな気持ちを改めて持たせてくれた本である・・・
    
    
posted by HH at 22:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 日本/日本人 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする