2013年05月30日

【天空の蜂】東野圭吾 読書日記338



東野圭吾のサスペンス。読み始めて思わず初出版の日時を確認してしまった。1998年11月と書いてあってちょっと驚く。この本で書かれている原発危機は、まるで福島の予言のようであったからである。

物語は、架空の企業錦重工業から新型ヘリコプターが盗み出されるところから始る。錦重工業で製造した大型ヘリコプターCH−5XEが、防衛庁関係者を前にした領収飛行の直前に勝手に倉庫から出て飛んで行ってしまう。ヘリは無人で操られており、しかも中にはいたずらで潜り込んだ子供を乗せている。

ヘリは高速増殖原型炉『新陽』の真上でホバリングに入る。そして届けられた脅迫状。
「日本にあるすべての原発を破壊しなければ、ヘリを原発に墜落させる。」
誰が、なぜ、一体どうやって。警察と自衛隊、そして錦重工のヘリ開発担当者湯原らが必死に対応に当たる。

ヘリが原発に墜落したらどうなるのか。議論が交わされる。そこで出てくるのは、原発安全神話。関係者の話を聞きながら、福島の例が脳裏を蘇る。

日本にある原発をすべて破壊しなければヘリは落ちる。何もしなくても、燃料が切れていずれヘリは落ちる。そして子供が一人乗っている。過酷な条件下、必死の捜査が続いていく。

子供を救出する条件として犯人が出してきたのは、日本にある原発すべての一時停止。政府はこれに応じ、原発すべての運転を停止する。日本の電力の30%を賄う原発を止めるに当たり、政府は各企業、家庭に節電を呼び掛ける。夏場の一番電力重要が上がる時期の節電騒動。2011年3月が脳裏に蘇る。

ストーリーもさることながら、原発事故以来にわか専門家になったものだから、至るところでの原発の解説がよくわかる。関係者の説く安全神話が白々しく聞こえる。最後には使用済み燃料棒の貯蔵プールの脆弱性まで指摘されている。ここまでわかっていたのなら、福島だってもっといろいろ“想定”できたのではないかと思えてしまう。

改めて、原発はテロに弱いという事がわかる。さらにはもっとすごい危険性まで紹介されている。つい先日も北朝鮮で原発テロを目論んでいたというニュースをやっていたが、東野圭吾作品だからと言って、ワクワクしながら読んでいていいのかという気になってしまった。原発問題を考えるなら、一度は読んでおかないといけない作品かもしれない。

「お話の世界」で終わってほしいとつくづく感じた一冊である・・・

  
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2013年05月28日

【星野リゾートの教科書】中沢康彦 読書日記337



第1章 教科書の生かし方
第2章 教科書通りの戦略
第3章 教科書通りのマーケティング
第4章 教科書通りのリーダーシップ
第5章 教科書通りに人を鍛える

 タイトルにある通り、これはリゾート再生で名を馳せている星野リゾートの本である。「教科書」とあるのは、星野リゾートの星野佳路社長が、経営にあたって経営学の教科書を利用して、その教えの通りに実践して成功しているという事を意味している。その手の本に興味がある人なら、誰でも知っている経営の本を手本に忠実に実行していると聞いてちょっと意外であった。何だか独自の経営センスを発揮しているように思っていたからである。

 星野社長は本屋に通い、その時々の状況に応じて必要な本を探すのだという。その際、書店に1冊しかないような本、さらには学問と実践を行き来した研究者の本なんかがいいのだとか。わからない部分は何度でも読み、そして100%教科書通りにやってみる。きちんとした裏付けがあるからこそ、苦しい時でもすぐに成果がでなくても耐えられるのだとか。

 島根県にある高級旅館の再生にあたっては、ポーターの「競争の戦略」を利用。市場で埋没したリゾートの再生では、「コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント」。コールセンターの設立では、「The Myth of Excellence」。エール・ビールでは「売れるもマーケ 当たるもマーケ―マーケティング22の法則」といった具合だ。

 と言っても、「なんだ、市販の本を読んでその通りやっているだけか」とは思わない。やはりその時々に何をやるべきなのか、そしてそれにはどんな本が良いのか。それを見つけ出して内容を理解し、そして現場に当てはめていくというのは、並大抵の事ではできないと思う。この本ではさらりと触れられているだけだが、そのプロセスこそが重要なのだと思う。

 紙幅の制限があったのかもしれないが、各ケースはさらりと紹介されているだけで、本当は個々のケーススタディーについて、もっと突っ込んで知りたいと強く思う。そのプロセスこそがまた一冊の教科書になるような気がするのである。何にでも学ぶことはできると思うが、本も真剣に読む必要があると改めて感じた一冊である・・・
   



    
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2013年05月25日

【ぼうず丸もうけのカラクリ】ショーエンK 読書日記336



第1章 お釈迦さまもびっくりする「この世の楽園」
第2章 「お金の極楽」はお寺にあり
第3章 お寺に隠された「秘密」
第4章 お坊さんも大変なんです・・・
第5章 お寺との「お付き合いの奥義」

著者は現役のお坊さん。知られざるお坊さんの内側を綴った本である。やっぱり聖職と言えども内幕を晒すのは憚られるのだろうか、ペンネームでの著作となっている。お互い仏様に仕える身であれば、同業から指さされる事もないだろうにとも思うところである。

個人的には「斜陽産業」的なイメージのあるお寺であるから、その内側については少なからず興味のあるところ。後継者難から廃れていくような気がしなくもない。ところが、実情は少し違うようである。

「斜陽産業」というイメージについては、「死なない人はいない」という当たり前の理屈からむしろ需要は旺盛らしい。日本では毎年100万人を越える人が亡くなるというから、その通りなのであろう。それどころか、お爺さんの次はお婆さん、そしてその子供たちとと5年、20年のスパンで“リピーター”が確保できる檀家制度もあって、どうやら安定業種のようである。

主な収入源である“お布施”。「お気持ちだけ」とは言われるものの、相場は50万円以上だとか。「おじいちゃんの時より少ないのはみっともない」という心理が働くせいか、相場は下がりにくいようである。それに死者を重んじる我が国の風土からして、「ケチるものではない」という心理が働くのも事実だろう。

お布施やお酒、結婚、税金、副業、そんな内幕は知られざる世界で単純に面白い。「ダブルお布施地獄」など知らなければ別々のお坊さんにお布施を払わないといけないという事もあるそうだし、これは知っておかないといけないという事もある。「戒名は出家した時の名前で、本来値段はない」といった知識は普通の人はもっていない。信仰の厚さを測る一つの基準がお金である事から、お金を払えば戒名が長くなるという事になるようである。

全体として軽いタッチで書かれているから、うっかりすると読み流してしまいそうであるが、知っておいて損はないお寺との付き合い方がわかる一冊となっている。そういう意味では読んでよかったと言える。暇つぶし感覚で読んで為になる一冊である・・・
   
    
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2013年05月23日

【情報調査力のプロフェッショナル】上野佳恵 読書日記335



序 章 プロフェッショナル・リサーチャーの作法
第1章 調べる仕組みとは
第2章 ビジネス情報ニーズの範囲
第3章 企業と人物について調べる
第4章 基本のリサーチ1「企業」「人物」
第5章 業界について調べる
第6章 基本のリサーチ2「業界」「消費者」
第7章 情報のプロフェッショナルへの道

著者は元マッキンゼーのリサーチャーで、現在はその道でプロとして独立している方。
「調べる」という事は、私も仕事で少なからず必要な事でもあり、プロのリサーチャーレベルとはいかなくとも、多少なりとも何か身につけられたら、という気持ちで手に取った一冊。

前半はリサーチの重要性とか、リサーチの前にはそれを求める人からどんなニーズなのか聞いておかないといけませんといった、言ってみればある程度の人ならわかっているだろうという内容。まあイントロダクションとしては良いかもしれない。

3人の若手に同じテーマで調べるように依頼したという架空のケースを取り上げ、それぞれ調べ方でこんなに差が出ますよといった話はわかりやすい。自分はこんな手抜きをしがちだと思う人もあるだろう。

最近ではすぐネット検索という事になるが、それについては「検索機能もどんどん進化しているので、唯一無二の方法はありえない」という至極当然の説明。その他情報源としては、政府統計や業界団体による統計・資料、民間調査会社の市場調査レポートなどもあるという事が紹介されている。

そんなに厚くない本であり、さらっと読めてしまうのであるが、ちょっと思っていたイメージとは違う本であった。サブタイトルに『ビジネスの質を高める「調べる力」』とあって、読めば何らかの調べる力がつくようなヒントでも得られるかと思ったが、その手の本ではなかった。

こうしたビジネス本は目的にもよるところがある。目的が違ったからつまらない本だという気はさらさらないが、プロのリサーチャーの仕事を遠巻きに眺めるようなイメージの本と言えるかもしれない。一般の人からすれば、調べるのに王道なんてないのかもしれない。
そんな感想の一冊である・・・

    
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2013年05月18日

【舟を編む】三浦しをん 読書日記334



作者の三浦しをんの作品は、 「まほろ駅前多田便利軒」以来2冊目である。もっとも「三浦しをんの本だから」という理由で選んだわけではない。今けっこうベストセラーになっているので、興味を持った次第である。

舞台は玄武書房という名の出版社の辞書編集部。長年辞書の編纂に携わってきた荒木が、後継者として営業部から引き抜いてきたのが馬締光也。その名の通り、真面目だが不器用な男。定年を迎え嘱託となった荒木と監修者の松本先生。そして編集部の馬締を中心に辞書作りが行われていく。これは、辞書編纂の物語。

玄武書房辞書編集部で作られようとしているのは、「大渡海」という名の新しい辞書。
「辞書は言葉の海を渡る舟」
「海を渡るにふさわしい舟を編む」
と辞書の名の由来と、そして同時に本書のタイトルの由来が荒木の口から語られる。

一般の人には知る由もないが、辞書の編纂というのは実に地道で膨大な作業の連続。一つ一つの言葉にこだわり、漏れを防ぐとともに、取捨選択も行わないといけない。一定ルールに従った説明と用例の列挙。松本先生などは片時も用例採集カードを手放さない。また言葉そのものだけでなく、辞書の製作には製紙会社による紙の開発も関わってきたりする。

知られざる辞書編纂の現場を舞台に、関係者たちの努力する姿が語られていく。地道な作業ほど完成した時の喜びは大きかったりする。そんな喜びを一緒に味わえるところが、この本の良い所かもしれない。小説は世の中の様々な所に陽を当てる。そんな事を実感させてくれる一冊である・・・
    
   
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2013年05月16日

【挫折と挑戦】中竹竜二 読書日記333



第1章 挫折を味わう
第2章 挑戦のストーリーを描く
第3章 挑戦に向かって
第4章 中竹スタイルの挑戦
第5章 星を知る

著者は平成18年から4年間、早稲田大学ラグビー部の監督を務めた方。おそらく、ラグビー関係者以外にはあまり知られていない方だと思う。そういう私も名前を知っていた程度で、詳しく知っているわけではなかった。それでも以前、帝京大学ラグビー部監督の本を読んでいた事もあり、手に取った次第である。ラグビーの指導者の本というのも、個人的には興味深いのである。

しかし、帝京大の岩出監督の本が、指導論的な内容だったのに対し、こちらはあくまで個人の経験をベースにした考え方の本。それはそれで良いのだが、期待していた指導者論とはちょっと違っていて残念だった。

タイトルにもある通り、著者の中竹監督は随分と挫折の味を味わったようである。現役時代は「怪我のデパート」と言われる状態で、3年間まともに試合に出られなかったようである。それが4年になって突然キャプテンに指名される。個人的にはこのあたりの実情にとても興味があったのだが、残念ながらそのあたりは本人の口から語られるようなものではないのだろう。

もちろん、本人の口から語られる事もけっこう為になる事が多い。
・挨拶は先にする
・ごみは迷わず拾う
・道具を大切にする
・手を抜かず、力を抜く
どれも含みのある内容であり、プレーにもつながるものだとわかる。

判断と決断。
判断は、過去の事象について検証する事。
決断は、未来の事象について方向性を打ち出す事。
"Judgement"と"Decision"もなかなか良い言葉だと思ったが、意識して使ってみたいと思う。

残念ながら、人となりがわからなかったが、なかなか興味深い人物であるようだ。薄い本で、簡単に読めてしまうが、背景がわかっているとより楽しめる気がする。早稲田で4年間監督をするというのもなかなか例がない様子。やっぱり本に現れている以上のものを持っている方のようである。他にも読んでみたいと個人的に思った次第である・・・

    
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2013年05月14日

【夢を売る男】百田尚樹 読書日記332



1 太宰の再来
2 チャンスを掴む男
3 賢いママ
4 トラブル・バスター
5 小説家の世界
6 ライバル出現
7 戦争
8 怒れる男
9 脚光
10 カモ

百田尚樹のまた新しい一冊。出るたびに新しいジャンルに挑戦するかのようであるが、今回の舞台は出版社。主人公はその出版社丸栄社の編集長牛河原勘治。丸栄社は出版社ながら、ちょっと変わった作家を相手に、変わった出版方法で商売している。

作家はいずれも無名の人々。新人賞に応募してきたようなそんな人々をおだてあげ、丸栄社自慢の「ジョイント・プレス方式」で出版させる。売れるのか、という心配は無用。出版費用は著者持ちであるため、丸栄社はこの費用だけでペイしている。自費出版ではないのかと思うも、自費出版と「ジョイント・プレス方式」との違いは、牛河原編集長が言葉巧みに説明してくれる。

「本を出したい」という欲望は、多かれ少なかれ誰もが抱いている。そんな欲望を巧みに絡め取り、商売に活かす。詐欺じゃないかと思うも、本を出版した人はみんな満足。痛快小説と言って良いのだろうかと、迷いつつページをめくる。

百田尚樹の本を読むと、どの本もその分野のちょっとした専門家になってしまう。この本でも、不況と言われる出版業界の状況が手に取るようにわかるようになる。新人賞の狙いや仕組み。作家と編集者の関係。楽しみながら業界事情がわかってしまうのは、この本も同じである。

「作家」をうまくあしらい、部下のコントロールをし、ライバルが出現すれば蹴落とし、時に名の売れた作家でさえ、手玉に取る。牛河原編集長は、やり手ながらとても好きになれそうにない人物である事も確か。比較的薄い本だし、最後にどんなオチを見せてくれるのかと思っていたら、さすが百田尚樹。見事なエンディング。牛河原編集長の編集長としての矜持は見事。ちょっとウルウルしてしまった。

それにしても、よくこれだけのストーリーが紡ぎ出せるものだと毎回感心させられる。こんな大作家には、ジョイント・プレス方式はもろん不要。ますます目が離せない作家である・・・

     
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2013年05月12日

【人生賭けて】金本知憲 読書日記331



序 章 引退
第1章 絶望
第2章 希望
第3章 伝説
第4章 勝負
終 章 人生

元阪神タイガースの金本選手の本である。
金本選手の本は、 「覚悟のすすめ」以来2冊目。
前回は現役4番打者としての“激白”であったが、今回は引退後のもの。
内容は、と言えば“引退の裏事情”というべきものである。

特に阪神ファンという程でもないから、金本の引退は知っていたが、詳しい事情など知る由もなかった。40歳も越えていたし、引退しても何の不思議もなかったからである。しかし、その原因は怪我であったらしい。

2010年春のオープン戦。
試合前の練習の時に、同僚と激突。
そこで肩を痛めてしまう。
「覚悟のすすめ」にもあったが、金本は怪我をしても基本的に休むという発想はない。
痛みを感じつつも試合に出続ける。

ところが実はこの怪我がとんでもない怪我で、事態は深刻な状況になっていく。
一方で連続試合フルイニング出場という記録は続いている。
これは世界記録でもある。
結局、この怪我が元でその記録は1492で終止符を打つ。
その舞台裏が語られる。

引退までの怪我で苦しんだ3年間。
それはけっして無駄ではないだろうと金本は語る。
「大事なのは野球を何年続けたかではない。
どれだけ記録や成績を残したかでもない。
自分の人生を賭け、その人生をどう生きたか。」であると。

そうした内面の告白を読んでいると、やはり一流選手の考え方というものには参考になる部分が多いと改めて感じた一冊である・・・
   
    
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2013年05月06日

【ブラック企業】今野晴貴 読書日記330



第1章 ブラック企業の実態
第2章 若者を死に至らしめるブラック企業
第3章 ブラック企業のパターンと見分け方
第4章 ブラック企業の辞めさせる「技術」
第5章 ブラック企業から身を守る
第6章 ブラック企業が日本を食い潰す
第7章 日本型雇用が生み出したブラック企業の構造
第8章 ブラック企業への社会的対策

最近よく話題となっている「ブラック企業」。やっぱりよく知っておきたくて手に取った一冊。そもそもであるが、「ブラック企業」とは何ぞやという疑問がある。『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』という映画を観たが、パワハラと長時間労働(サービス残業)が渦巻く会社というイメージがあった。

この本でもブラック企業の定義は難しいとして具体的な定義はされていないが、まあそんなイメージで間違いはなさそうである。そして冒頭で紹介されるのは、IT企業Y社の事例。「新卒=コスト」とされるこの会社。使えない社員とされると、徹底したハラスメントで退職に追い込む。研修と称したナンパやお笑いをさせられたりして、本人が「自主的に」退職するようにもっていく。大量採用し、選別の上大量退職させるという事を繰り返している。

映画『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』でもそうであったが、IT企業というのは、ブラック化しやすいのかもしれないとこのあたりでは思う。
次に紹介されているのは衣料品販売X社。「超大手」「優良企業」「グローバル企業を標榜」という紹介から、これはたぶんユニクロの事だと想像がつく。ユニクロも若手の退職率が50%近いとニュースでもやっていたが、元社員から現場の様子が語られる。

具体的な社名が挙げられているのは、「ウェザーニューズ」と大庄グループの「日本海庄や」、そして「ワタミ」、「SHOP99」。自殺や過労死という事件が起きているから実名となっているのかもしれないが、低賃金・長時間労働であり、現場はなかなかのハードワークである事が伺える。

しかしながら、ハードワークがすべて悪かと言われると、どうなんだろうという気がする。今や鬱になって休職する人の話は枚挙に暇がないし、サービス残業のない企業などないだろう。それらがすべて「ブラック企業」だと言うならば、日本の企業はすべてブラック企業と言う事になる。

ブラック企業ではないかと言われるユニクロでも、柳井社長の話を聞くと、また別の見方がある事がわかる。私が社会人になった25年前は、証券会社が仕事がハードで有名だったが、いまであれば「ブラック企業」と言われていたかもしれない。パワハラや長時間労働だけで、「ブラック企業」とする事には何となく違和感を覚える所以である。

確かに過労死や自殺にまでつながるような環境は正常とは言えず、改善を要する事は改めて言うまでもない。だが一方で、厳しい経営環境下にある企業の経営視点からの見方も必要な気がする。凪いだ海を行く船なら、料金(=労働)に見合った快適さを求めるのは当然だろうが、荒れ狂う嵐の海で沈没の危機にある船にそれを求める事はできない。飲食業界の居酒屋などは特に安さが求められるから、必然的に低賃金にならざるを得ない。あとはそこまでして生き残る企業なのかどうなのか、という判断なのではないかと思う。

ブラック企業に対する対処方法として、著者は「戦略的思考」を取るべしとしている。退職強要に対しては、「戦略的に行動し証拠をつかんで訴訟・団体交渉に備える事」というのがその内容らしい。それはもう入ってしまった後の事だが、それは辞める前に「働いた分だけもらう」という意味合いの事で、勤務を継続する前提の「戦略的思考」とは言い難いだろう。

そんな話よりも、社員を使い捨てにするつもりで雇っている企業はあるはずだし、そういう意味で真の「ブラック企業」と呼べるところもあるだろうと思う。そんな映画『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』に近いような話を期待していたから、ちょっと期待外れな本であった。もう少しブラック企業の定義を明確にした上で議論すべき事だと感じられる。

単なる労務問題的な話を「ブラック」とするのはいかがなものかという気がする。まあ、共産党系の人なら絶賛する内容なんだろう。感想は人それぞれだし、本に求める内容もまた然り。私の思い求めるものではなかったという事である・・・
 
     
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2013年05月03日

【影響力の武器】ロバート・B・チャルディーニ 読書日記329



第1章 影響力の武器
第2章 返報性−昔からある「ギブ・アンド・テーク」だが
第3章 コミットメントと一貫性−心に住む小鬼
第4章 社会的証明−真実は私たちに
第5章 好意−優しい泥棒
第6章 権威−導かれる服従
第7章 希少性−わずかなものについての法則
第8章 手っとり早い影響力−自動化された時代の原始的な承諾

著者は米国を代表する社会心理学者の一人だという。普段何気なく暮らしているなかで、我々は様々な影響を受けている。この本はよくわかっているようでいて、我々が知らないでいるそんな「影響力」を解説している本である。

なかなか売れない宝石に業を煮やしたオーナーが店員に値下げを指示。ところが店員は間違えて値上げしてしまう。途端に宝石は売れてしまう。住宅を売るのに初めにわざと魅力のない物件を見せる「コントラストの原理」。至るところで使われているように思える。

初めに親切にされると、次に頼み事をされた時に承諾してしまう「返報性のルール」。ハーレ・クリシュナ教会の勧誘者が道行く人に花をプレゼントする。プレゼントされた人は驚くものの、次に寄付を求められると応じてしまう。そう言えば昔海外旅行に行った時、突然見知らぬ女性からバッチをつけられ何やら話かけられた事があった。すぐに寄付を求めているとわかったが、「I don’t know what you are saying」とたどたどしく言ってごまかした。あれも今考えると、「返報性」のルールを無意識のうちに切り抜けていたわけだ。

「返報性のルール」は、相手の頼み事を拒否したあと次の頼み事で譲歩してしまうという「拒否したら譲歩」法にも通じる。家電量販店で3年保証を勧められた客が、次に1年保証を勧められると高い確率で応じてしまうという例が、読者から報告されている。これもよくある。

街中で助けを求めても誰にも助けてもらえない事がある。これは社会的証明の原理に関わることであるが、その場合は誰か一人を特定して助けを求めれば効果的だという。人は自分と似ているところがある人に好意を持ち、仲間意識が協力を生む。「優しい刑事と怖い刑事」の組み合わせによる取り調べが効果的な理由である。

補欠選手が食べていた時は注目されていなかったのに、マイケル・ジョーダンが食べ始めたらチームメイトみんながエナジー・ブースター・バーを食べ始めたのは、「権威の原理」。残り少ないとわかった時、買う気になる「希少性の原理」。我々は知らず知らずのうちに、随分と影響を受けているものである。

この本は「騙されないようにしよう」という趣旨ではないが、知っているのと知らないのとでは、必然的に大きな差が出てきそうな世の中の法則の話である。どうせだったら、知っていたい。一読の価値ある一冊である・・・






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