2013年06月30日

【マスカレード・ホテル】東野圭吾



東野圭吾の推理小説である。
最近では ガリレオ・シリーズや刑事 加賀恭一郎シリーズに目が行ってしまうが、これはまた別の刑事モノ。

タイトルとは異なるが、舞台となるのは高級ホテル・コルテシア東京。
都内で連続して起こった3つの殺人事件。
そこに残された謎の数字。
警視庁ではその数字に隠された暗号を解読し、次の殺人事件の現場がホテル・コルテシア東京だと推測する。

事件を未然に防ぐべく、警視庁の刑事がホテルマンに扮してホテルに潜入する。
潜入するのは捜査一課の捜査員新田。
ホテルクラークに扮した彼をサポートするのは、ベテランのフロントクラーク山岸尚美。
そして外から新田に協力する品川警察の刑事能勢。

例によって、誰が、なぜ、どんな目的で、と言った読者の興味にお預けをしつつ、物語は進む。
慣れないフロント業務に戸惑いつつ、捜査の駒でしかない事に不満を隠せない新田。
警察に対する協力の必要性はわかるものの、およそホテルのサービスとは程遠い武骨な刑事たちが客の前に立つ事に不安といら立ちを感じつつ、対応する山岸。
そしてなぜか新田に好意的に協力する能勢。

一日に様々な客が訪れるホテル。
時に理不尽な客の振舞いに、見事に対応してみせるホテルマンの仕事振りを紹介しながら、物語は興味深い展開で進む。
いつもの事だが、ページをめくるのがもどかしく思う事、しばしばである。

単純に進むかと思われたストーリーは、途中で二転三転とする。
単なる場つなぎのエピソードだと思っていた事が、あとで犯人に繋がっていく。
こうした鮮やかな展開は相変わらずである。
湯川博士や加賀刑事がでなくとも、これはこれで改めて面白いと思う。

ハズレのない作家として、これからも東野圭吾は読み続けようと思うところである・・・
   
   
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2013年06月29日

【人生と財産】本多静六



私の財産告白
私の体験社会学
人生設計の秘訣

著者は「日本の公園の父」とも呼ばれる林学博士であり、造園家。
何でも「造園」という言葉を作った方でもあるらしい。
幕末の生まれで、ほぼ明治・大正とともに生き、戦後85歳でお亡くなりになっている。
そんな方の残した人生訓の詰まった一冊である。

もともと三冊の本だったものを一冊にしたらしいが、最初は「財産告白」。
この方は一代で巨富を築いたらしいが、その手法を説明した部分である。
その特徴は「本多式四分の一貯蓄法」と自ら呼ぶ方法。
給料の四分の一を始めに無理やり貯蓄に回し、残ったお金でやりくりするというもの。
別に本多式買物法という、「買ったつもりになる」という買物と合わせると効果的だ。

それでやっていけるのかとすぐに思ってしまうが、「毎日胡麻塩ばかりですませたことさえある」というから、そこまでやる覚悟があるならできそうであるが、凄い事だと思う。
子供が泣き顔で訴えたらしいが、それをやり遂げる奥さんも立派だし、こういう徹底ぶりだからこそ、後の財産に繋がるのだろう。
もちろん、それだけではなく、後にこの資金を利用して投資をしていくのであるが、この精神が何よりも大きいのだと思う。

若い頃初めて天丼を食べ、いつかたくさん食べられるようになろうと決意した著者。
ところがいざその時になって2杯注文したが、とても食べられるものではなかったと後悔。
そこから生まれた天丼哲学(1杯の天丼を1杯だけ注文して舌鼓を打つ所に、本当の味わいがあり、食楽の快楽がある)を披露してくれるが、なかなか重みのある哲学である。

その他心に留まったところをざっとメモ。

「親戚知友に対する金銭上の融通はできる限り避けた方がよろしい」
(金銭の貸し借りは、そのお金ばかりでなく、大切な友人や親類をも失うもととなる)
「失敗なきを誇るなかれ、必ず前途に危険あり。失敗を悲しむなかれ、失敗は成功の母なり」
凡人の天才に対する必勝戦術=「仕事に追われないで、仕事を追う」(天才が1時間かかってやるところを2時間やって追いつき、3時間やって追い越す。明日の仕事を今日に、明後日の仕事を明日に、さらにすすんで今日にも引きつける)
「上位は常に空席である」

「毎朝目覚めると、まず今日も生きていたことを何よりもありがたく思い、忙しければ忙しいほど仕事が沢山できると喜び、日々健康に、日々愉快に働ける自分自身に感謝する。そうしてもし病気でもするようなことがあれば、久しぶりで休息の時間を与えられたと感謝しつつ、十分休養をとり、全快後の活動に対する準備計画などをもくろんだりする。」

「専心その業に励み、仕事を趣味化し、道楽化する」
「善事は少しでも早く、これを行う方がいい。人生は今日を除いては不確かなもので、一生の一キレが今日踏む一歩の中にある事を忘れてはならない」
「いかに子孫が可愛いからとて、それに財産を残して与えようといった古い考えはサラリと捨てて、むしろ子供自身が必要な財産を自ら作り得るよう教育訓練を施し、親のこしらえた財産などは、一切当てにしない人間にすることが、はるかに重要問題」

80歳を過ぎてから英語の勉強を始めたという著者は、120歳までの人生計画を立てていた。
残念ながらその通りにはいかなかったが、満足な人生を歩まれたようである。
恋愛感については昔ながらのもので、ずれは感じるものの、それすらどこか真理であるような気がする。

昔の老人の何とかと言うなかれ。
なかなか為になる人生訓である。
遅いかもしれないが、大いに参考にしたいと思う一冊である・・・
    
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2013年06月23日

【逆説の日本史19 】井沢元彦



第1章 1858年編−戊午の密勅と安政の大獄
第2章 1859年編−正論の開国vs実行不可能な攘夷
第3章 1860・61年編−桜田門外の変 大老暗殺が歴史を変えた!
第4章 特別編

読み続けたシリーズもこれが19巻目。
時代は激動の幕末。
わずか4年間の出来事で1冊となっている事からも、その激動ぶりがわかるというもの。
それでも幕末となるとお馴染みの坂本竜馬も新撰組もここには登場しない。
歴史の大きな流れの中にある安政の時代の話である。

黒船来航によって開国への舵を切らざるを得なくなった幕府。
しかし朝廷(孝明天皇)は開国反対。
開幕時はお飾りであった天皇が、この時代は日本の真の権力者として地位が向上してくる。
幕府だけの判断で開国できず、朝廷にお伺いを立てるようになる。
幕府の権力が落ちてきている事の、それが証左となる。

その幕府を動かす中心人物が、井伊直弼。
第14代将軍を巡る一橋派との対立。
地方では薩摩藩の藩主島津斉彬の動きと死の真相についての推測。
例によって「『資料がない』から事実とは言えない」という歴史学者を向こうに回し、著者は大胆に暗殺説を展開する。
それがこのシリーズの魅力でもある。

安政の大獄では、吉田松陰などの著名人物も処刑される。
歴史は見方によって姿を変える。
井伊直弼もある意味筋の通った判断をしていたと思われる。
開国に続いて起こった安政の3大地震。
コレラの流行。
そして金銀の交換価値の内外差から生じたインフレによる国内の混乱。
すべて、祖法である鎖国を破りケガレた異人を国内に入れた事が原因と考え、開国に反対する孝明天皇。
歴史の流れは本当に面白いと実感する。

桜田門外の変と幕府の権威をさらに失墜させる対応策。
大老は病気療養と発表した幕府の顛末は、教科書には載らない些事かもしれないが、明治維新の遠因とも言える事がわかる。
西郷隆盛、岩倉具視、大久保利通といった維新の立役者たちも登場してくる。

著者が資料で確認できない歴史の断片を推理で補うというのが、このシリーズの魅力ではあるが、それに対してすべて賛成とも言い難く、中には違うのではないかと思える部分もある。
ただ、それはそれで読む側の意見だし、そういう議論提起の意味でもこの本の持つ役割は大きいと思う。

ここまでいくと、このシリーズはどこまで続くのだろうという興味も出てくる。
本棚もだいぶスペースがなくなってきたが、最後までとことんお付き合いしたいと思うシリーズである・・・
   
    
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2013年06月18日

【社会派ちきりんの世界を歩いて考えよう!】きちりん



第1章 お金から見える世界
第2章 異国で働く人々
第3章 人生観が変わる場所
第4章 共産主義国への旅
第5章 ビーチリゾートの旅
第6章 世界の美術館
第7章 古代遺跡の旅
第8章 恵まれすぎの南欧諸国
第9章 変貌するアジア
第10章 豊かであるという実感
さいごに 旅をより楽しむために

著者は、 「自分のアタマで考えよう」のちきりん。
ブログの方もちょくちょく拝見しているが、著書を見つけたので手にとってみた。

実はきちりんさん、旅行好きらしい。
すでに約50か国を訪問しているというから凄い。
そして旅をしていても、見るもの聞くものからやっぱり自分のアタマでいろいろと考えている。
そんなあれこれを記した一冊。

初めにセブ島のレストランで紅茶を頼んだ時のエピソードが語られている。
お湯の入ったカップにリプトンのティーバッグが添えられて出されてびっくりしたと言う。
日本のレストランではあり得ないが、その背景を知れば日本の常識との違いがわかる。
我々はやはり一面からしか見ていない。
なかなか期待できそうな出足。

お金から見える世界では、自国通貨が強いという事がいかにありがたい事かがわかる。
デノミに遭遇した例や、自国通貨ではなく米ドルや金価格表示の例など、日本にいるとわからない世界がある。
輸出に有利というだけで、円安を好む理由がわからないという指摘はまったく同感である。
千円札から伊東博文が消えた理由はなかなか面白いとともに、少々腹立たしい気分もする。

さすがに50か国ともなると、様々である。
ウイグル、イースター島、サファリでは人生観が変わったといい、共産圏への旅はかつてのソビエトなど興味深い。
現地文化から切り離される地上の楽園モルジブなど、このあたりは旅行記としても面白い。

世界の美術館では、先進国の美術館には世界各地の文化遺産が本国を離れて展示されていたりする。
何となく帝国主義時代の略奪感があって、批判的になりがちであるが、現地にあったら財政難で十分保護されていなかったかもしれないとなると、また違った印象を受ける。

第10章では豊かさについてのエピソードが紹介される。
ビルマで現地の大金持ちに会い、そこでの会話が紹介される。
植民地時代に建てられた家に住み、ポンコツながら車を持ち、鞄いっぱいに詰め込まれた現金があるが、いずれも持たない著者は自分の方が何一つないけど豊かだと感じる。
日本にいたら到底気がつかない感覚だろう。

旅先でトラブルにあった時、
@笑顔で、はっきりと、リクエストする
A問題の解決方法は自分で考える
のが良いのだと言う。
なぜなら相手は日本と違って、「問題を解決しよう」という気がないからだと言う。
数多く旅していると、そうしたノウハウも身につくのだろう。

例によって「自分のアタマで考える」参考にしても良いし、また旅行記としても楽しめる。
なかなか旅行に行けない家族持ちにとっては、旅行気分で楽しむのもいいかもしれない一冊である。


    
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2013年06月16日

【東京プリズン】赤坂真理



基本的に手に取った本は読了する事にしている。
面白いか面白くないか、読んでから判断する事にしているのである。
なぜなら、途中面白くなくても意外な結末に驚いて大評価すると言う事もあるからだ。
だから今でも駄作だと思っている 『関東大震災「朝鮮人虐殺」の真実』工藤美代子とか 『あんぽん孫正義伝』佐野眞一なども一応最後まで読んだ。
その上で批判するならしたいと思うからだ。

さてそんなわけで、読了するつもりで読み始めたのだが、どうもなんだか勝手が違う。
物語は主人公の私の15歳の時のアメリカ留学の話と、45歳となった30年後の話。
二つの物語が平行して進む。
「東京プリズン」というタイトルからは、何となく「巣鴨プリズン」という言葉を連想する。
その連想通り、「東京裁判」という言葉が出てきて、そのあたりは大いに期待する。

されどなかなか物語の中に入っていけない。
その理由はと言えば、主人公の心象風景の描写が多すぎる事が挙げられる。
夢うつつの世界をさ迷っているかのようで、どこからが現実でどこまでが夢なのか判然としないかのような感じとでも言えるだろうか。
著者にはよくわかっているのだろうが、読み手にはわかりにくい。
「それで?」「結局何が言いたいの?」そんな疑問符が、たくさん湧いてくる。

短いストーリーならともかく、440ページの長いストーリーとなると、読みながら次第に苦痛が襲ってくる。
このまま読み進めるべきか、それとも断念するか。
途中で断念するのは心苦しいし、最後まで読まないと本当の良し悪しは論じられない。
そんな葛藤が渦巻く中、最後に140ページで断念という結論を下した。

人生の中で読書に割ける時間は有限だが、読みたい本は無限とも言える。
我慢して読み続けるより、もっとストレートに楽しめる本を一冊でも多く楽しみたいと考えたのである。
何をどう感じるかは人それぞれ。
この本が駄作だとは思わないが、相性が悪かった事だけは確かである。

次の本に期待したいと思うのである・・・
   
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2013年06月15日

【フィッシュ】L.S.マシューズ



自分が本好きでもあり、本を読む事は大事だと実感している事もあり、さらにそれは小さい頃から自然に習慣にしてあげたいと思い、子供には極力本を読ませている。
自ら積極的に図書館で推薦図書を借りてきては、読ませるという事もしている。
そして、時に自ら読んでもみる。
子供とともに感想を話し合いたいからである。
この本は、そういう経緯で手に取った本である。

物語の舞台は、内戦に荒れる某国。
村で救援活動に従事する両親とタイガーという名のその子供が主人公。
内戦は両親の働く村にも近づき、やむなく一家も避難する事に決める。
久しぶりに降った雨が池を作り、タイガーはそこに偶然一匹の魚を見つける。
放っておけば、やがて水が干上がり魚は死んでしまう。
タイガーは魚を捕まえ、一緒に連れていく事にする。

年老いたガイドと荷物を背負うロバとともに、一家は国境へと向かう。
それは徒歩での長い道のり。
タイトルは、タイガーが捕まえた一匹の魚の事。
一家の苦難の道のりは、魚にとっても同様。
読み進むうちに、魚が無事であれば、一家も無事というような感覚になってくる。

児童文学ではあるが、それなりの読みものである事は間違いない。
大人が読んでもそんなに違和感はない。
ただ、子供が読んだらどうなんだろうと正直思う。
大人であれば、それまでの知識をつなぎ合わせて物語の背景を勝手に補う。
私であれば、いまだに内戦の荒れ狂うアフリカのどこかの国という具合だ。

そこでは、子供が連れ去られて兵士にさせられたり、意味もなく住民が殺されたりしている。
そういうニュースで得た知識を物語に組み込んで読んでいく。
だが、まだ知識の乏しい子供の目には、どのように映るのだろう。
中学1年の我が娘に父としてこの本を勧めるか否か、ちょっと迷ってしまう。

だが、案ずるより産むが易し。
読ませてみてから判断すれば良いのかもしれない。
そう考える事にした・・・
   
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2013年06月11日

【真夏の方程式】東野圭吾



最近映画化も決定し、話題になっているガリレオシリーズ第6弾。
物語は小学生の恭平が親戚の家に一人遊びに来るところから始る。
舞台となるのは玻璃ヶ浦。
何もない、きれいな海だけが名物の田舎の村。
緑岩荘という旅館を経営するおじ夫婦とその娘の成美が、恭平を迎えてくれる。

折しも海洋資源開発の話が持ち上がり、玻璃ヶ浦で説明会が開催される。
地元の海を愛する成美は、反対派の中に混じって説明会に参加。
開発側の参加者として招かれた湯川は、列車の中で恭平と知り合った事がきっかけで、緑岩荘に宿泊する。
寂しい旅館に客は湯川ともう一人。

やはり説明会に参加していたその客が、海岸の岩場で死体となって発見された事から事件は始る。
自殺か事故かと思われていたが、被害者が定年退職した元捜査一課の刑事とわかって、警察の調べが本格化する。

一見、地味な事件。
初めは事件か事故か自殺かもわからない。
しかし、例によってガリレオ湯川の注意が少しずつ引きつけられていく。
シリーズモノというのは、安心感がある。
湯川の性格もよくわかっているし、お馴染み草薙と内海のコンビもきちんと登場する。
そして期待に違わず、見事な推理を重ねていく湯川。

事件は警察の地道な捜査によって次第に全貌が表れてくる。
そしてそれにともなって明らかになっていく登場人物たちの素顔。
それぞれに歴史があり、思いがある。
そんな登場人物たちのドラマが、この本がミステリーであるという事を忘れさせてしまう。

湯川の推理も見事なのだが、そうした人間ドラマの深い味わいが読後に残る。
本を閉じた時、あとに残るのは湯川の推理よりも登場人物たちへの思い。
「容疑者Xの献身」も 「聖女の救済」もそうであったが、根底に流れる人間ドラマもこのシリーズの魅力と言えよう。
まだまだ続くこのシリーズ、楽しみは当分尽きそうもない・・・

    
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2013年06月08日

【日本経済大消失】中原圭介



第1章 日本家電メーカー、大敗北の理由
第2章 自動車敗戦という悲劇は起こるのか?
第3章 日本はデフレを克服できるのか?
第4章 成長産業で日本経済大復活

いつも注目しているアナリスト中原圭介氏の一冊。
冒頭で自ら語っている通り、これは著者が初めて書いた「日本経済の分析に特化した本」。
センセーショナルなタイトルは誰がなぜつけたのかはわからないが、本の内容はサブタイトルにある「生き残りと復活の新戦略」である。

家電の敗北は痛々しいほど。
韓国のサムスン一社の世界シェアに、ソニー、パナソニック、シャープが束になっても届かない。
その理由として6重苦(円高・高い法人税・過剰な雇用規制・厳しい温室効果ガス規制・自由貿易協定の遅れ・電力供給不安)が挙げられるが、著者は3つの誤り(設備投資・生産方式・マーケティング)が原因と主張する。
その是非はともかく、考え方、モノの見方は素人にはとても勉強になる。

日本の基幹産業である自動車も家電のようになるのかについては、著者は楽観的。
もてはやされている電気自動車には限界があり、方向性はハイブリッドだと述べる。
そしてこの分野でのトヨタの技術革新は優れており、当面優位は動かないと。
日本の「擦り合わせ」技術と、今後起きるシェールガス革命、そして標準化の動きがその理由として説明される。
余談としてシェールガスによるガス価格定価により、ガス発電は原子力より安価になるため、原発賛成反対自体が無意味になるというから、これは期待したいところだ。

そして現在日本を苦しめているデフレスパイラル。
これを克服するには「所得向上」しかないと説く。
そもそもデフレスパイラルは、「所得の減少」→「消費の減少」→「物価の下落」が正しい順番で、これ以外にはないという。
だから「所得の向上」こそが正しい処方箋だと。
アベノミクスによる金融緩和は、悪性のインフレ(所得が上がらず物価だけが上がる)をもたらすリスクがあるらしい。
個人の感覚的にはしっくりくる説明だ。

最後に日本経済復活の鍵を握る3つの成長分野。
それは、「農業」「医療」「観光」。
いずれも規制でがんじがらめとなっているが、例えばオランダが農業で大成功している例を聞くと、日本にも十分可能性があると思う。
ネックになるのはやはり農協だろうか。

世界の最先端を行く日本の医療。
世界に誇れる観光資源。
日本人でありながら、知らない日本の底力に誇らしい気もしてくる。
まずはこうした事実を知るだけでも、意味は大きい。

こういう本は多くの人が読むべきだろう。
誰かが何とかしてくれるだけではなく、こういう本を読んで、正しい処方箋を示せる人を支持できるようにならないといけないだろう。
中原圭介氏の著書の中でも、読む価値の高い一冊であると思う・・・
    
   
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2013年06月01日

【これから世界で起こること】中原圭介



はじめに マネー経済が再び膨張し始めた
第1章  米国経済はこれから5年が正念場
第2章  欧州経済は「大停滞の時代」に突入する
第3章  なぜわたしたちはお金に縛られるのか
第4章  お金の奴隷にならず豊かに生きる方法とは?
第5章  これから20年、お金に困らない生き方と考え方

目につけば手に取るようにしているエコノミスト中原圭介氏の一冊。
サブタイトルに「正しく時代を読むためのヒント」とある部分に興味を引かれる。
先々の事は「神のみぞ知る」世界であるが、それでもある程度は予測ができるかもしれない。
少なくとも考える事は無駄にはならない。
そんな事を考えて手に取った本である。

書かれたのは2012年7月。
日本も安倍政権誕生前で、多少の古さはあるが、それでもその後の展開とあわせて読むと著者の予測力がわかるというもの。
モノの見方という部分でも参考になる。

前半は世界経済の現状。
ニューヨークは株高に沸く。
これは今も史上最高値を更新して続いている。
QE3の実施が最後の金融相場を作り出すという指摘は、その通りに動いている。
財政の壁、家計のバランスシート不況、そしてシェールガス革命。

欧州については、その脆い仕組みがわかりやすい。
解決策として提示されている「ユーロ共同債」とその理由。
それでも統合が必要な理由。
中国経済の現状。

日本についても当然語られるが、一番興味をそそられたのが消費税増税の影響である。
よく消費税増税が過去経済の停滞を招いたと指摘されているが、著者はこれを否定する。
さまざまな経済指標を見る限り、増税そのものより海外の経済状況の影響の方が大きいと言う。
欧米の情勢が良ければ、増税の影響は軽微になるだろうし、悪ければさらなる景気悪化要因になると。
そして今の情勢からすると、「失われた30年」になる可能性が高いのだと。

第3章からは少し嗜好が変わる。
資本主義の中で、我々はいかにして生きるかが説かれる。
「なぜ経済成長が求められるのか」という問いに対し、その最大の理由は、「国や企業が銀行から借り入れた借金の利子を返済しなければならないから」だという。
理由の説明を読むとなるほどと思うが、やはりGDPの2倍を超える借金の意味を考えざるを得ない。

「足るを知る」という考え方。
生産拠点を安い地域を求めて移って行っても、いずれ残るはアフリカのみとなる。
帝国の版図が限界に達して崩壊したローマ帝国の例を上げ、今のような成長を続けるのは限界があると指摘。
投資に頼る危うさ。
若者ならば、自分自身に投資すべしと説く。

新聞を読み、読書をし、生命保険は熟慮を重ねるべし、住宅は買うより借りろ、と著者の意見が続く。
何だか何の本だったのかと思えてくるが、現在の世界経済を見て考えていくと、必然的に「個人防衛」というところに行きつくのかもしれない。

やっぱり著者の本は一読の価値ありと思うのである・・・
   
    
posted by HH at 23:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 金融・経済・株式 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする