2015年05月30日

【ペテロの葬列】宮部みゆき



宮部みゆきは、『火車』『レベル7』といった初期の頃から贔屓にしている作家である。
その作風も、ミステリーから時代劇と幅広く、面白い作家だと思う。

そんな宮部みゆきの最新作は、『誰か―Somebody』『名もなき毒』に続くシリーズモノである。
と言っても、前作から8年も経つと、ストーリーもだいぶ忘れてしまっている。

主人公は杉村三郎という今多コンツェルングループ広報室に努めるサラリーマン。
といっても、ただのサラリーマンではない。
グループ会長の娘婿という表には出ない肩書きを持って社内に通じている人物。
いわゆる「逆玉の輿」を実現した男である。

そんな杉村は、広報の仕事で上司とともに千葉に隠居する元取締役を訪ねていく。
インタヴューが終わり、帰路に就くが、帰りの田舎のバスで何とバスジャックに遭遇する。
犯人は、驚くことに老人。
だが銃を所持しており、老人と言えども侮れない。
老人の要求通り、廃工場に止められたバスで人質になる杉村他の乗員乗客。

老人はある3人の人物を名指しし、連れてくるように要求する。
老人の弁舌に引き込まれていく杉村ら人質のメンバー。
やがて事件は警察の突入と老人の自死とによって幕を閉じる。
一見落着かと思われていた矢先、杉村ら人質たちに、いずこらか「慰謝料」が送られてくる。
それは老人がバスの中で人質たちに約束していたものであった・・・

バスジャック事件とその余波を物語の主軸として、さまざまな枝軸を加えてストーリーは進む。
バスジャック事件人質たちのストーリー、『名もなき毒』で登場した私立探偵北見の家族を巡る事件、杉村が調査で出会う人たちの物語。
そういう幾重にもわたる物語を加えながら、主軸のドラマが進んでいくから、この本も分厚いものとなる。
もっとも最後のドラマだけは、なくても良かった気もする。

気がつけば、物語の世界に引き込まれていた。
今回は「詐欺」が一つのキーワードとなっている。
豊田商事事件とは、もう随分前の事件だが、いまだにオレオレ詐欺に代表される詐欺事件は後を絶たない。
やや強引とも感じる最後の方の物語の展開。
詐欺事件との関連から、結論めいたものを導くためだったかもしれないが、不自然さを感じたところがあった。

仔細なところはともかく、全体としては十分面白い。
やはり宮部みゆきは、このシリーズや『模倣犯』などのようにややダークな事件が絡んできた方が面白いと思う。
このシリーズ、さらなる続編はあるのだろうか。
あるとしたら、もう少し短い間隔でないと、登場人物たちの繋がりを覚えておけない。
それだけをこっそりお願いしたい、と思わずにはいられない作品である・・・

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2015年05月29日

【田舎のパン屋が見つけた『腐る経済』】渡邉格



第T部 腐らない経済
第1章 何かがおかしい(サラリーマン時代の話・祖父から受け継いだもの)
第2章 マルクスとの出会い(父から受け継いだもの)
第3章 マルクスと労働力の話(修業時代の話1)
第4章 菌と技術革新の話(修業時代の話2)
第5章 腐らないパンと腐らないおカネ(修業時代の話3)
第U部 腐る経済
第1章 ようこそ、「田舎のパン屋」へ
第2章 菌の声を聴け(発酵)
第3章 「田舎」への道のり(循環)
第4章 搾取なき経営のかたち(「利潤」を生まない)
第5章 次なる挑戦(パンと人を育てる)

著者は、岡山県でパン屋を営む方。
現役のパン屋さんである。
そのパン屋さんは、自ら「不思議なパン屋」さんと称する。
看板メニューは、古民家に棲みつく天然の菌でつくる「酒種」を使って発酵させる「和食パン」
値段は350円と高価格。
週に3日休みで、毎年1カ月の長期休暇を取っている。
そして、店の経営理念は「利潤を出さないこと」。

なかなか面白そうだと思って読み進む。
高校を卒業して7年フリーターをしてから大学へ行ったという変わり種。
従って、卒業後就職した時は30歳。
その会社で奥さんと知り合うも、会社の営業方針に耐えられず退職し、二人でパン屋を始める。

タイトルにある「腐る経済」とは、文字通りパンなど放っておいたら自然に腐るものの経済を指しており、それと金融などの経済が「腐らない経済」として対比されている。
現在は、「食の安全」ということが、世の中かなり意識されているようであるが、この方も「夢枕?」に立った祖父から「パン屋をやれ」と言われて、経験のないパンの業界に飛び込み、作り方を習ううちに、「天然」というキーワードを極めていくことになる。

そして、天然の菌が喜ぶ環境を求めて岡山に辿りつき、そして古民家を借りうける。
なぜ古民家なのかというと、古民家には現代の建築資材が使われておらず、天然の菌が「育ちやすい」のだという。
空気中にふわふわ浮いているのだろう。

もともと変わった方だというのは、その経歴を読んでいてもよくわかる。
素直に社会に溶け込めていたら、真面目なサラリーマンをやっていたのだろう。
だからこそ、こういうお店も生まれて、世の中は面白いのだと思う。
そして、欠かせないのが奥様。
時に叱咤激励し、右手左手となってご主人を時に支え時に導いている。
そんな夫婦の姿が羨ましく映る。

どういう経緯でこの方が編集者の目に留り、出版へと至ったのかは個人的に興味深く思う。
『奇跡のリンゴ』ほどの感動はないが、それでも信念に基づいて真摯にパンを作る姿勢が伝わってくる。
とても興味深いし、是非食べてみたいのだが、いかんせん遠い。
いつか機会を見つけてと思うだけである。

パン作りの基本と菌との関係がよくわかり、人の生き方にはいろいろあるのだということを改めて実感し、そしておいしいパンを食べてみたくなる一冊である・・・

posted by HH at 21:20| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス/自伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年05月27日

【黄金の拘束衣を着た首相】三橋貴明



1 黄金の拘束衣を着た男
2 政府を誤らせる「経済のドグマ」
3 安倍政権の根本的な誤解
4 株価に縛られた政治家
5 今すぐできる「国民を豊かにする」政策転換
6 黄金の拘束衣の「黄金律」をこえて

著者は最近ネットでよく目にする経済評論家。
政治経済に興味を持って、日頃からニュースを見たりしているが、どうもよくわからないところが多い。
経済政策などはその一つで、アベノミクスと言われる安倍政権の経済政策が果たして正しいのか危険をはらんでいるのか。
そんなところに興味を持って、手に取った一冊。

タイトルにある「黄金の拘束衣」であるが、これは「世界中で進められている自国民貧困化政策」であるらしい。
と言っても、わざと貧困化させようとしているわけではない。
「インフレ率を低く抑え物価を安定させる」
「可能な限り健全財政に近い状態を維持する」
という二つの黄金律に沿って展開される政策で、一見正しそうだが、結果的に国民の貧困化につながる政策というらしい。

著者によれば、「財政健全化」は間違った政策で、日本経済の浮上を目指すなら、「公共投資による総需要拡大策と労働規制強化を同時に行い、日本国民の実質賃金をもっとも短期間に引き上げるべし」ということである。
そのためには、財政健全化など目指すべきではないとする。

一瞬、「え〜っ!」とおののいてしまう意見である。
GDP比200%を軽く超える借金を減らすどころか、増えるのも厭うなというのであるから当然である。
著者はそもそもGDPとは、から初めて経済の基礎を丁寧に解説してくれる。
そうは言っても、「潜在GDP=完全雇用下で達成される名目GDP」などと言われても、ちょっとピンとこない。
されど解説は丁寧なゆえに、ポイントは理解できる。

世界各国がグローバル化しているが、それは外国資本と外国人労働者への依存度を高め、やがて法人税減税要求などの要求に政府がさらされ、世界各国が発展途上国化していくのだという。
そういう現象はよくニュースで目にするところであり、こうした要求こそが「黄金の拘束衣」の具体例のようである。

しかし、「公共投資を行って借金を積み重ねてどうするのだ」との疑問は真っ先に出てくる。
それに対しては、日銀が国債を買うということは、「日銀=日本国の子会社」と考えれば、「自分が自分にお金を貸した」という事だから問題ないのだと言う。
自分の借金をお札を刷って返すというわけだが、これは禁じ手とされている事なのではないかと思う。
だが、デフレ下だからこそ使える妙手なのだと著者は主張する。

果たして、この説が正しいのかどうか。
残念ながら私にはわからない。
ただ何となく問題があるような気がする。
そこに至る説明は丁寧だし、理論的に筋が通っているとは思う。
「どこが」、とは言えないが、「何となく」おかしい気がするだけである。
公共投資だって過去やってダメだったからこそ、減らせとなったのではないかと思うし、借金を自ら棒引きにすることに感覚的に違和感を覚えるのである。

著者は最後に「常識に基づく考え方に戻れ」と主張する。
それに従うなら、著者の主張する政策にはNOというしかない。
ただ、意見は面白いし、いい思考のトレーニングになる。
こういう本は、素直に読んで自分なりに考えてみるのに有効だと思う。
そういう意味で、いい本だと言いたい一冊である・・・


posted by HH at 20:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 金融・経済・株式 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年05月23日

【ほぉ・・・ここがちきゅうのほいくえんか】てぃ先生



著者は現役の男性保育士。
要は「ようちえんの先生」であるが、男女雇用機会均等法の時代だし、かつては「女の職場」であった保育士に男がなっても不思議ではない。
この本は、そんな“イマドキ”の男性保育士が、ツイッターでつぶやいていた日常の出来事が「面白い」と評判になって、書籍化されたもののようである。

内容は、ツイッターでつぶやいていた園児たちの微笑ましい行動なのであるが、やっぱり面白い。
タイトルはある園児が病気明けで久しぶりに登園して来た時に、つぶやいた一言である。
久しぶりの照れ隠しなのか、何かのテレビの影響なのだろう。
大人からは絶対に出てこない発言であり、そこは園児らしい微笑ましい発言である。

若い先生はやはり園児たちの人気も高いようで、特に「独身」ということが、たぶん周りからもいろいろと言われているのだろう、子供たちからの発言もそれにからむものが多い。
女の子はやはりませていて、「先生と結婚する」といった類のものが多い。
「カノジョがいない」というのも、園児たちがその意味をわかっているかどうかはともかく、よくネタにされているようである。

個人的にどんな仕事であれ、「本を書ける」くらいのプロにならないとダメだと考えているが、保育士であっても例外ではない。
保育士は少子化の時代とはいえ、数多いるだろうが、ツィッターでこのように人気が出て本になってしまうというのも、この人が初めてなわけで、そこにはやはりそれだけのものがあると言える。

もともと子供好きなようであるが、周りは女性ばかりだろうし、抵抗はなかったんだろうかと、オジさん世代は思ってしまう。
我が家の子供たちも幼稚園児時代は本当に可愛かった。
自分の子供たちは成長してしまうが(成長しないと困るのだが)、幼稚園児は毎年新しい子が入ってくる。
そういう意味では、子供好きならやりがいもあるのだろう。

「ツイッターでつぶやいただけ」と言いながら、毎日の生活の中で、園児たちのユーモラスな様子を観察していた賜物であろうし、それだけ仕事を一生懸命やっているということである。
そういう部分は見習うところがある。
同じことをすべしとは思わないが、熱心に仕事に取り組んでいれば、どんな意味でも「気付き」はあるはずで、そうしたものを積み上げていけば、立派なプロになれると思う。

そんな部分を見習いたいと思わせられる一冊である。
     
   
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2015年05月20日

【なぜ関西のローカル大学『近大』が、志願者数日本一になったのか】山下柚実



はじめに 近大の「なぜ」には「理由」がある
第1章 志願者数トップの理由
第2章 近大マグロを誕生させた大学力
第3章 教育と経営が共存する秘訣
第4章 若者の心をつかむ情報発信力
第5章 近大が日本一へと躍進した原点

近大と言えば、最近は「マグロ」ですっかり有名である。
世界で初めて完全養殖に成功したという話題は、あちこちで取り上げられているし、昨年はグランフロント大阪にレストランを出店して大盛況とニュースになっていた。
そんな近大が、なんと入学志願者数で日本一になったという。
そんな近大を採り上げたのがこの本。
何事にも興味を持つという信念から手に取った一冊である。

それまでの入学志願者数日本一は明治大学だとのこと。
それを2014年度の入試で近大が抜いたという。
まさか「マグロ」効果で、みんなマグロの養殖に惹かれたわけではないだろうとは思ったが、それはさすがにその通り。
そこには学生確保に対する取り組みがある。

女子の確保を狙った総合社会学部・建築学部の新設。
女子トイレは男子トイレの倍の広さ、近代的なキャンパスを作り、斬新なデザインの「英語村E3」を設置する。
東京にいるとわからないが、近大と言えば男くさいバンカライメージだったらしいが、これで女子比率が上がったという。
また紙の願書を廃止し、すべてネット経由とした「エコ出願」。
こうした取り組みが紹介される。

過去22年間の志願者推移を見ると、1999〜2000年を底に見事にV字回復している。
「近大マグロ」は、大学の名前を上げる一役になったのは確かだが、それだけではないことがわかる。
アメリカのURAPという大学ランキングにおいては、関西の大学の中で、いわゆる「関関同立」を抑えてトップに立つ。
近大マグロだけでない養殖技術に、関西の私大ではトップとなる知的財産販売が加わる。

広報戦略も、従来の慣習にとらわれず効果を見極めて実施し、広告宣伝費を下げながらもインパクトのある広告を展開。
やがて借金も完済して、財務内容も健全化する。
そこには、大学ではありながらも、立派な「経営」が存在する。

こうした一連の近大の取り組みは、私企業においても大いにヒントになると思う。
自分達の会社では、どんなことができるだろうか。
そう考えながら読み進めていたら、いろいろとヒントが浮かび上がった。
単なる読み物としてではなく、そうしたヒントが得られる本として捉えたい一冊である・・・
   
     
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2015年05月16日

【五郎治殿御始末 】浅田次郎



椿寺まで
函館証文
西を向く侍
遠い砲音
柘榴坂の仇討
五郎治殿御始末

浅田次郎の時代劇短編集である。
浅田次郎も幅の広い作家だと思う。
現代ものから中国のものや、はたまた時代劇まで。
そしてそのどれもが温かみをもって描かれている気がする。
そんなことから、期待して手に取った一冊である。

6編のストーリーはどれも独立したものだが、ただ一つ、時代が江戸の終わりから明治にかけてという点で共通している。
長く続いた侍の時代と新しき時代が交差する時代。
そこに戸惑いながら生きる人々が登場する。

「椿寺まで」は商家の旦那小兵衛とそのお供の新太の旅道中の話。
商人といいながら、夜道で追い剥ぎを返り討ちにする腕前を持つ旦那。
なぜ自分が共に指名されたのか疑問に思いながら、新太は初めての旅を楽しむ。
湯船に入り、偶然見てしまった旦那の背中の古い傷跡。
そしてやがて旦那に連れられてある寺へ行く。
そこで新太は、自分の出生の秘密を知ることになる・・・

「函館証文」は、明治政府の工部少輔として努める大河内敦が主人公。
ある時、自宅に名前に聞き覚えのない男が訪ねてくる。
会ってみれば、その男はかつて大河内と函館で敵味方に分かれて斬り合い、組伏せられた大河内が己の命と引き換えに千両の証文を書いた相手であったことがわかる。
約束の千両の支払いを迫る相手に、そんな大金があるはずもない大河内は1週間の猶予を願い出る・・・

「西を向く侍」は、幕府で暦法の専門家であった成瀬勘十郎の物語。
成瀬は、明治政府に仕官の可能性があるが、今は旧碌の1/10をもらい待命の身。
いつ新政府からお呼びがかかるともわからぬ中、日々を暮らしている。
そんなある日、新政府は新暦の施行を発表する。
それは成瀬が専門とする旧暦を否定するもの。
そしてそれはすなわち成瀬自身の仕官の道が閉ざされたことを意味するもの。
それを知った成瀬は、文部省へと出掛けていく・・・

「遠い砲音」は、毛利の支藩である旧長門清浦藩の土江彦蔵の物語。
新政府の近衛砲兵隊に将校として努めるも、家では旧藩主の世話を息子の長三郎とともにしながら暮らしている。
隊からは懐中時計を支給されているが、いまだに西洋式の時間に馴染めず、苦労を重ねている・・・

「柘榴坂の仇討」は、桜田門外の変で、井伊直弼の御籠回りの近習であった志村金吾が主人公。
護衛の失敗で両親は責任を取って自害し、以来13年、逃げた水戸藩士を追って仇討狙いの日々を過ごしている。
生活は困窮し、しかも既に幕府も藩もなくなり、仇討の意味はなくなってしまっている。
それでもある手掛かりを得た金吾は、目指す相手を訪ねていく・・・

タイトルになっている「五郎治御始末」は、回想録。
主人公の曾祖父から聞いた5代前の祖先岩井五郎治の話。
曾祖父は寡黙な人であったが、ある時、「自分は子供の頃死にそこなった」と語る。
そうして話されたのは、かつて桑名藩に仕えていた岩井五郎治の晩年の物語。

どの主人公も時代の端境期で苦悩する。
慣れない暦、慣れない時間。
今でこそ当たり前であるが、改めて当時は大変な変革期、混乱期だったのだろうと思わせられる。
そんな時代の主人公たちの物語は、どの物語も心に沁み入ってくる。

時代劇といっても、派手な剣劇はない。
どの物語も根底に切なさが漂う。
時代の波に戸惑いながら、それでも侍として生きる主人公たち。
よくこういう物語が書けるなぁと今さらながら感心してしまう。
これだから、浅田次郎はやめられない。
早く次を、と思わずにはいられない一冊である・・・

posted by HH at 14:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 浅田次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年05月14日

【人生の極意】佐藤優



第1章 生活
第2章 社会
第3章 事件
第4章 恋愛
第5章 人生

著者は元外務省の主任分析官。
かつて鈴木宗男議員の疑惑に連座して逮捕された経歴を持ち、過去には『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて』を読んだこともある。
その後、作家に転身しているが、そんな著者の本を久しぶりに手に取った。

そして内容はといえば、この本は著者が、「週刊SPA!」で連載している『インテリジェンス人生相談』というコーナーの人生相談を書籍化したものである。
人生相談、すなわち読者からの相談に対し、著者が回答するというもの。
それも読書家の著者らしく、すべての相談に対し、それに相応しい一冊の本を挙げて回答に添えている。
その数たるや、凄いものである。

各相談は、その内容によって、目次の通りのテーマごとに分けられている。
第1章は生活。
そこでは、「無職の息子に毎月17万円せびられる」といった母の相談や、「酒を飲んだ父が暴れる」といった娘の相談などが紹介されている。
「息子を“安定雇用”の公務員にしたい」などというアホな親の相談なんかもある。

正直言って、私だったら「アホか!」と言いたくなるような相談が多いが、著者は丁寧に回答していく。
もっとも、「10浪している弟がいる」という相談に対しては、「合格する可能性はゼロです」なんて一見冷たいがまともな回答をバシッとしているところもある。
回答よりも、相談内容が呆れて面白いという気がする。

読んでいて、いろいろな人が口には出せない悩みを抱えているものだと改めて思う。
第3章の恋愛編は特にそうである。
「酔って男性とラブホテルに行ってしまいました」
「性欲のない私は男として大丈夫ですか?」
「僕は白人女性が好きです!」
「彼氏がニューハーフとセックスしてました・・・」
著者の答えも時として、真面目に答えているのかと思える回答もあったりする。

一番気に入った回答は、ホームレスになるのも自由じゃないかという意見に対する著者の回答だ。
「おおいにけっこうだ。君たちには貧しくなる自由がある。おおいに貧しくなれ。でも、貧しくなって後から文句を言うな」

回答という形で示される著者の意見には、時として教えられるところもあり、そこは参考になる。
毎回の回答に参考として示されていた本の何冊かは、個人的な「いつか読みたいリスト」に入れておいた。
いずれ読んでみたいと思う。

それにしても、逮捕拘留され、有罪判決を受けて社会からはじき出された著者が、作家として世の中に復活しているのは大したものだと思う。
外交官としても有能だったのだろうが、そんな生きるスタンスの一部を、この本の中に垣間見れる気がする。
これからもその著作を注目していきたいと思わせられる著者である・・・


posted by HH at 22:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 人生・哲学 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年05月11日

【弁護士ドットコム 困っている人を救う僕たちの挑戦】元榮太一郎/上阪徹



第1章 どうせなら、ブルーオーシャンを生きたい
第2章 幅広い経験が人間をつくる
第3章 創業したのに収入ゼロ
第4章 読んで、仕掛けて、待つ
第5章 「掛け算」こそが人生だ
第6章 人の縁が会社を成長させる
第7章 弁護士の未来を一緒に考える

著者は、弁護士を紹介するサイトを運営する弁護士ドットコム株式会社の創業者とライター。
共著ということになっているが、弁護士ドットコムの起業ストーリーといってよい。
この手の創業者の本は得る所が多く、意識して手に取るようにしている。

著者は自ら弁護士であり、かつては大手の弁護士事務所に勤め、20代で高額の報酬を得ていたという。
自ら弁護士になろうと思ったのは、学生時代に起こした事故で、弁護士のお陰で100%の弁償をしなくて済んだからだという。
そんな思いが根底にあり、「もっと弁護士を身近に」という思いから、安定した職を辞し、弁護士ドットコムを立ち上げる。

実は、「報酬を得て弁護士を紹介する」ことは、弁護士法によって禁止されているのだという。
ゆえに、弁護士ドットコムは弁護士とそれを求める人の橋渡しをするが、報酬は取れない。
つまり創業をしたのはいいが、収入の当てがない。
そんな状態がずっと続いたのだという。

もちろん、大手の事務所を辞めたとはいえ、そこは著者も弁護士。
自らの事務所を設立し、弁護士活動をやって資金面を支えたという。
しかしそんな片手間な雰囲気ながら、所属弁護士16名、総勢150名ものスタッフを抱えるまでになったというから、実は相当のやり手に思える。
その事務所も何か方向感の違いから事務所分割をして弁護士3名とスタッフ10名だけを連れて出たらしい。
このあたりの話は、さらりとしか触れられていないが、何やら個人的には興味津々であるが、書かれていないのでわからないのが残念。

著者が創業期の苦労を乗り切った考え方として、「僕の人生がもし自伝になったら、それは面白いものにしたい」と説明されている。
これはかなり共感を覚える。
安定だけの人生はつまらないと思うし、やっぱり何かにチャレンジしたいものである。

また、次の孫正義の言葉を参考にしたという。
「時代は追ってはならない。時代を読んで、仕掛けて、待たねばならない。」
レッドオーシャンでの血みどろの戦いを回避するには、ブルーオーシャンを探し求めなければならない。
さすが孫さんらしい言葉であるが、その言葉を拾ってきた著者もさすがだと思う。

売上を上げる方法がないという中で、事業を続けたのは、資金源としての弁護士事務所があったとはいえ、大変だったと思う。
そんな中で、携帯電話の公式サイトになったことから、「モバイル会員から閲覧課金を取る」ということができるようになる。
試行錯誤の末であるが、パソコンなら無料で見られる情報をお金を払って携帯で見る人がいるという事には、やってみなければ気が付かなかったことなのだろう。
「人に言えない悩みだから、人に見られない携帯で見る」というニーズがあったのである。

もともと人と違ったことをしたいという考えが強かったらしいが、だからこそ「超安定高収入」を捨てて、海のものとも山のものともわからないものにチャレンジできたのだろう。
自分もかくありたいと思う。
自分を鼓舞するのにも、また冷静にビジネスの立ち上げ・運用についても、参考になるところは多い。

そういう意味で、刺激の得られる一冊である・・・

posted by HH at 22:57| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス/経営者の本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする