2015年08月02日

【億男】川村元気 読書日記570



男の世界
十九の金
和子の愛
瀬の賭
住の罪
佐子の欲
男の未来

著者は、どうやら『電車男』や『告白』、『悪人』などを手掛けた映画製作者らしい。そんな方による小説。ちょっと評判が良かったので、手に取った一冊である。

主人公は、一男というごく普通の男。
妻万佐子と一人娘のまどかがいる。
しかし弟の借金を肩代わりしたことから、夫婦関係に亀裂が入り、今は別居中。
図書館とパンの製造工場と二つの仕事を掛け持ちし、早く借金を返して再び家族一緒に暮らすことを夢見ている。

そんなある日、幸運なことに景品としてもらった宝クジがなんと当選。3億円のお金を手にする。3,000万円の借金を返済し、これで元の生活に戻れると喜ぶ一男。
しかし、宝クジの当選後、不幸に落ちる人々の例を知り、一男は「お金と幸せの答え」を求めて学生時代の親友九十九を訪ねていく。

九十九は一男の学生時代の親友。
ともに落語研究会に属し、大学時代は毎日一緒にいた仲。
そして卒業旅行の時、「お金と幸せの答えを探してくる」という言葉を残し、九十九は一男と袂を分かっていた。しかし、あろうことか、九十九は一男の3億円を持ったまま姿を消してしまう・・・

こうして一男は、消えた九十九と3億円を求め、九十九の友人十和子、百瀬、千住を訪ねていく。そしてお金と幸せの答えを同時に探していくというのが、ストーリー。
「お金で幸せは買えない」とはよく言われるが、さりとてなければ一男のように不幸な境遇に陥ることにもなる。安易な一言では片付けられない問題である。

物語ゆえに多少の強調はやむなきこと。
一男は九十九を探しつつ、お金持ちたちの姿を通して何かを学んでいく。
しかし読み手が一男とともにそれを学べたかと言えば、どうだろう。
学べた人もいるかもしれないが、私的にはイマイチだったというのが、正直なところ。
よく言うなら、既にそれだけ十分学んでいると言えるのかもしれないが、結末的にはちょっと期待外れであった。

落語で使われる「芝浜」。
話は知っていたが、この本で読むと改めて聞きたくなってしまった。
お金の重要性、わかってはいるけど、あまりにも想定内で終わってしまった感がある。
前評判の割には、ちょっと期待レベルに届かなかった一冊である・・・

    


posted by HH at 15:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年08月01日

【ぼくの命は言葉とともにある】福島智 読書日記569



プロローグ 「盲ろう」の世界を生きるということ
第1章 静かなる戦場で
第2章 人間は自分たちが思っているほど強い存在ではない
第3章 今この一瞬も戦闘状態、私の人生を支える命ある言葉
第4章 生きる力と勇気の多くを、読書が与えてくれた
第5章 再生を支えてくれた家族と友と、永遠なるものと
第6章 盲ろうの視点で考える幸福の姿

著者は、9歳で失明、18歳で聴力を失うという「盲ろう」の方。
それでも大学を卒業し、今は東大の教授だというから、その努力たるや並大抵ではないのだろうと思わされる。

視力と聴力が失われた著者にとって、外界との意思疎通の接点となるのは「言葉」。
ヘレン・ケラーは、生まれつきの「盲ろう」だったから「言葉」すらなく、だから「三重苦」と言われたが、著者の場合は18歳まで言葉によるコミュニケーションができていたわけで、だからこそ、よけい「言葉」というものに対する重みを感じているのかもしれない。

暗く静かなるところにいる著者にとって、我々がさりげなく使う言葉に対する感性も違うのかもしれない。ホロコーストを生き抜いたフランクルからは、「絶望=苦悩−意味」という言葉を学ぶ。
「絶望とは意味なき苦悩」
よくよく考えてみれば、なるほどと思うも、言われなければスルーしてしまいそうだ。
そんな言葉をつかみ取るのも、著者の感性のレーダーが発達しているからに他ならない。

この本は、著者の思うままが綴られているが、「いかに生きるべきか」というところが強く出てくる。自分の生きる意味を見出すことが救いになると語るのである。
前向きに生きていければそれが良いが、時として横向きや斜めを向いてしまう時もある。
さらに後ろ向きにさえなることもあるかもしれないが、そうなったら「後ろ向きに後ずさればいい」と語る。この発想は、私にとっても参考になる。

著者は、他者とのコミュニケーションには従来の点字に加え、指と指とで行う「指点字」なるものも利用しているという。そうした他者とのコミュニケーションこそが自己を認識できる機会であり、著者からすれば、「コミュニケーションは命」ということになる。
「ぼくの命はいつも言葉とともにある」と語る理由がそこにある。

盲ろう者になって、著者が学んだことの一つが「挑戦」。
「どんな困難な状況にあっても、可能性がゼロになるわけではない」という。
「挑戦とは相手を打ち負かして競争に勝つことを意味するのではなく、その本質は自分自身に対する挑戦」
「挑戦とは他者の立場を想像する力と、他者と協力しながら新しいものを生みだしていく営み」
考えてみれば、著者は他者の協力がなければ生きてはいけないわけであり、それゆえに紡ぎ出された考え方なのだろうと思う。

著者に比べれば、健常者はそれだけで恵まれているわけである。
それを当り前とせず、切磋琢磨しつづけないといけない。
前向きに、常に挑戦者たらんと思わされる一冊である・・・