2015年11月29日

【世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠】ジョセフ・E・スティグリッツ



原題 : The Great Divide

第1章 アメリカの“偽りの資本主義”
第2章 成長の黄金期をふり返る
第3章 巨大格差社会の深い闇
第4章 アメリカを最悪の不平等国にしたもの
第5章 信頼の失われた社会
第6章 繁栄を共有するための経済政策
第7章 世界は変えられる
第8章 成長のための構造変革

著者は、ノーベル経済学賞を受賞しているエコノミストであり現コロンビア大学教授。
その名前は、よく目にしている。
そんな著名人が、アメリカ社会の問題について語った一冊。
中心となっているのが、著者の過去に発表した論文。
それが解説と共に各章を構成している形をとっている。

原題にある通り、この本で扱われているテーマは「不平等(巨大格差)」である。
経済学者は、「パイの増やし方」を扱うのが仕事であるとし、「パイの分配」は政治の仕事としてきたが、そのスタンスを批判=反省している。
そんな反省に基づいて、ここで扱われているのは、「不平等の経済学」である。

あらゆるセクターの中でも金融セクターについては、その破綻が経済全体に及ぶことから、最も重視すべきとしているが、リーマン・ショック時には、数千億ドルが銀行業界に流れ込む一方、差し押さえにあった多くの人が家を失うがままにしたと批判。
銀行に対する著者の批判は厳しい。

アメリカでは1%の人々が国民所得のおよそ1/4以上を懐に入れ、総資産の40%を支配している。
この状況を著者は、「1%の1%による1%のための政治」と呼ぶ。
「独占利益(独占状態を管理するだけで転がり込んでくる収入)」または「所有権から生じる利得」を「レント(地代)」と称し、それを求める活動を「レントシーキング」と名付け、これがアメリカの元凶であるとする。

こうした状況の改善のためには、
・キャピタルゲイン税と相続税の引き上げ
・教育を受ける権利を拡大するための巨額投資
・独占禁止法の厳格な運用
・企業幹部の報酬を制限するための企業統治改革
・銀行の搾取能力を制限するための金融規制
などを行う必要があると主張する。

また、税制改革案としては、
・良いもの(労働や貯蓄)ではなく、悪いもの(公害や投機)に課税
・課税しても消えないもの(土地・石油・天然資源)に課税
・恩恵が広く行き渡るような活動を推奨し、社会に犠牲を強いるような活動を抑制する
などを挙げている。

アメリカの不平等は決して必然のものではなく、それは「政治と政策の結果」として、世界各国の事例をその証拠に挙げる。
日本についても、「手本にすべし」と主張しているが、「貧困児童の割合」、「平均余命」、「人口に占める大卒者の割合」、「定失業率」などは確かにアメリカよりも良いが、鵜呑みにして良いのかどうかは不安に思うところである。
また、東欧三カ国やモーリシャスなど、アメリカよりも経済力のない国々が実現できていることが、「お金がない」という理由でアメリカではできていないことも挙げられる。

読めば読むほど、アメリカの深い問題が明らかになる。
「アメリカの問題だから関係ない」というのは、あまりよろしくないだろう。
もしかしたら我が国も同じ轍を踏むかもしれない。
アメリカの問題ではあるが、我が国も陥るかもしれないとして、著者が提言する解決法を頭に置いておきたいと思う。

こうした本も、考える良い材料になる。
そういう意味で、読んでおいて損はない一冊である・・・
    
    
posted by HH at 18:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 金融・経済・株式 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月28日

【民王】池井戸潤



第1章 御名御璽
第2章 親子漫才
第3章 極秘捜査
第4章 キャンパスライフ
第5章 スキャンダル
第6章 我らが民王

お気に入りの作家の一人である池井戸潤。
最近、ドラマ化されてテレビでやっているのを観て、手に取った一冊。

主人公は内閣総理大臣の武藤泰山親子。
お得意のビジネス小説ではなく、今度は政治ものである。
内閣支持率が低迷する中、与党民政党の首相田辺は、突然辞意を表明する。
就任からわずか1年あまりで、前首相から続けて任期半ばでの政権放棄である。
なんだか、既視感溢れるイントロである。

流れから首相に就任した武藤泰山であったが、政局運営は逆風下である。
そんなある日、国会出席中に突然意識がかすみ、気がつくと息子の翔と意識が入れ替わってしまう。
かつて東野圭吾の『秘密』という本があった。
バスの事故で死んだ妻と娘の意識が入れ替わってしまう物語であったが、ここでは父子の入れ替わりである。
しかもそれぞれが生きているから、様々な混乱を巻き起こす。

何せ息子の翔は、遊び盛りの大学生。
それが内閣総理大臣として、国会の審議の場に立つわけである。
案の定、秘書の用意した演説原稿の漢字が読めず、「未曾有」を「ミゾユー」、「踏襲」を「フシュー」などとやってしまう。
これもなんだか既視感溢れる出来事である。

一方、親子の入れ替わりは、同じ民政党の鶴田経産大臣にも起こり、こちらは酩酊会見でマスコミに大バッシングを受ける。
また、野党党首蔵本も同様で、こちらは娘と入れ替わってしまう。
武藤泰山は、官房長官の狩屋と秘書の貝原のサポートを受けつつ、原因究明を指示する。
そしてある組織の陰謀が浮かび上がってくる。

中身が入れ替わるというナンセンス展開であるが、コメディタッチでもあり、気軽にその世界に溶け込んでいける。
コメディであれば、あれこれと重箱をつつくのは野暮というもの。
そしてドタバタで終始するのかと思いきや、武藤親子はそれぞれの姿を通し、政治家のあるべき姿、そして自分自身の目指す道に気がついていく。
そのストーリー展開に、随所で目頭が熱くなる。

今ではすっかり冷え切ってしまった武藤泰山夫婦であるが、かつて若かりし頃は、泰山は日本の未来を担うことの理想に燃えており、そんな泰山に妻の綾は惹かれていたのである。
翔の姿になり、いい加減ではありながら若者らしい感性で周りの人たちと接していた様子を知り、また、泰山の姿となった翔の思うままの行動を見て、泰山は忘れていた感覚を取り戻していく。
そんな姿は、コメディタッチであった展開を忘れさせていく。

ラストの展開は、誰もが政治家にはこうあってほしいと思うであろうもの。
油断していると、涙腺が緩んでしまう。
政治家でなくても、周りに流されるということはよくあること。
「理想は理想、現実はそうではない」というセリフは、世の中に満ち溢れている。

政治家のスキャンダルに鬼の首を取ったように群がるマスコミ。
「スキャンダルより実績に注目すべき」という言葉は、かき消されてしまう。
政治家批判だけではなく、マスコミのあり方、企業のあり方、何気なく描かれているが、よくよく考えれば奥深いことも多い。
さすが池井戸潤と思わざるをえない。

これだからやめられない。
他にもまだまだ沢山ある池井戸潤作品を読み漁ってみたいと思わせられる作品である・・・

posted by HH at 13:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 池井戸潤 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月22日

【運は創るもの】似鳥昭雄



第1章 勉強嫌いの落ちこぼれ
第2章 歌手になろうとした青年時代
第3章 何をやってもうまくいかない
第4章 日本に「豊かな生活」を実現したい
第5章 師匠の教えを指針に
第6章 試練は終わらない
第7章 ロマンとビジョン、愛嬌と度胸

著者は、ニトリ創業者。
日経新聞の「私の履歴書」に採り上げられ、「面白い」と評判になっていたのが加筆されて書籍化されたものである。
こういう創業者の自伝は大好きであり、迷わず手に取った。

戦争中に北海道は樺太で生まれ、終戦後に札幌に移る。
一家はヤミ米の売買で生計を立て、著者も「家業」を手伝う。
学校ではいじめに遭い、物覚えが悪くて小学校4年まで漢字で名前が書けなかったという。
高校入試はことごとく失敗し、工業高校の校長先生にヤミ米を届けて補欠合格したというエピソードはなかなかすごい。

大学へ行ったのも、その狙いは「親の仕事から逃げるため」。
要はモラトリアムであるが、勉強は全くしない。
女性の先生にはお世辞を言い、ある先生にはワインを届けたり、先生を尾行して弱みを握ろうとしたりという行動は、これはこれで凄いと思う。

家出して広告会社へ勤めるが、これも上手くいかない。
もっとも実績が上がらなければ半年でクビになる広告代理店で、上手く取り入って実績ゼロでも居座る世渡り上手は、これはこれで一つの才能である。
そして「周囲にないから」という理由で家具屋を始める。

店の名前は、「似鳥家具卸センター北支店」。
センターは「大きい」というイメージ、卸は「安い」、「北支店」は他に本店があると思わせるためであったという説明は、とても自慢できたものではない。
せっかく開店したのに、もともとのあがり症で店頭に立っても上手くセールスできない。
しかし、お見合い結婚した奥様が店頭に立ち、一気に家具が売れていく。

家具を配達に行き、行ったお宅では奥様を車に待たせたままビールをご馳走になったり、飲んだりパチンコに行ったりと配達をサボっていたらしい。
別れた彼女への慰謝料としてトラック一台分の家具を渡す。
多分奥様には一生頭が上がらなさそうである。

そんなめちゃくちゃばかりでは、当然ない。
交渉ごとは断られてからがスタートだという。
ただし、しつこいだけではダメで、愛嬌と執念が大事だとする。
これで融資を断られた銀行に、融資を認めさせてしまう。
今でも通用するかどうかは別として、前へ進むファイトはすごいと思う。

経営コンサルタントの渥美俊一氏と知り合い、師事するようになる。
これで独自経営が修正される。
「同じことをやったら先行者に勝てない」ということは、今でも至言である。
物語として面白いことは確かであるが、それだけではない。
やっぱり成功者の言葉には学ぶべきところが多い。
最後に掲げられている「プロの150訓」は、説明はなかったが、メモしておこうと思った。

サラリーマンでも経営者でも、何かを得たいと思う人には、いろいろなヒントが得られると思う。
ただの読み物として読んでも面白いだろう。
すぐに読めてしまうし、読んで損のない一冊である。

posted by HH at 19:08| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス/経営者の本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月18日

【贖い】五十嵐貴久



Part 1 熱帯夜
Part 2 猛暑
Part 3 沛雨
Part 4 焦暑
Part 5 色なき風
Part 6 晩秋

初めて目にする著者であるが、面白そうなので手に取った一冊。
これがなかなか良い選択であった。

何気なく始まる物語。
井の頭線の久米山に住む吉岡慎二は、同僚と飲みに行く直前、妻からの電話で息子が帰らないと知らされる。
違和感を抱いて帰宅するも、息子は帰宅せず。
そして翌朝、小学校の門前に置かれた息子の切断された頭部が発見される。
なにやら以前あった酒鬼薔薇事件を彷彿とさせるイントロである。

そして埼玉県志木市にある春馬山の雑木林で、中学生の少女浅川順子が他殺体で発見される。
さらに愛知県警の坪川は、市内のスーパーで1歳児が行方不明になったという通報に駆り出される。
まもなく、子供はコインロッカーで他殺体で発見される。

なんの関連もなさそうな3つの事件。
それぞれ警視庁の星野と鶴田里奈、埼玉県警の神崎と中江由紀、愛知県警の坪川が事件の捜査に当たる。
それぞれ「事情」を抱えた刑事で、捜査本部では傍流の立場である。

そんな事件とは一見無関係に、三友商事に勤務する稲葉秋雄が登場する。
定年を控えた独身で、スポーツクラブに通い、健康維持に努める。
社内では出世とは程遠いものの、部下の人望も厚く、定年延長の利用を請われているが、本人は退職を決意している。
そんな老企業戦士は、最初の事件のあった久米山に住んでいる。

バラバラの3つの事件がどう絡んでいくのか、読みながら興味心を刺激する。
キーを握るのは捜査一課の警部星野。
過去の事件の余韻があり、捜査一課内では“浮いた”存在。
そのため、取り扱いに困る女刑事の鶴田里奈と組まされている。
そんな星野が、何を考えてか、不思議な行動を取っていく。
理由もわからないまま、里奈はそれについていく。

こうして次第に事件の全貌が明らかになっていくのであるが、これが何と面白い。
先の予想できない展開ほど面白いものはない。
先が知りたくて、なかなか読むのをやめにくくなる。
直接のストーリーとは関係ないものの、警察内部の「助け合いかばい合い」の文化や縦割り組織の弊害が描かれる。
このあたりは、フィクションなのかそれとも実情を描いているのか、どちらにしても興味深い。

警察の事件ものは数多創られているが、まだまだこれだけ面白いストーリーが紡ぎ出される。
いろいろな登場人物の立場に身を置いて読むと、また味わいも変わる。
この作家の他の作品も読んでみたくなった。
面白いものに飢えている人には、オススメの刑事ドラマである・・・

posted by HH at 15:33| Comment(0) | TrackBack(0) | スリリングなストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月15日

【競争しない競争戦略-消耗戦から脱出する3つの選択-】山田英夫



第1章 競争しない競争戦略 
第2章 ニッチ戦略
第3章 不協和戦略
第4章 強調戦略
終 章 薄利の奪い合いからの脱却

自らの会社の存続を考えると、自ずから「戦略」というキーワードに反応するようになる。
それも血みどろのレッドオーシャンにいる場合は、どうしてもブルーオーシャンへ移動したくなる。
そんな時、この本のようなタイトルを見れば、手が出るというものだろう。

「競争しない」とは、実に甘美な囁きであるが、そのためには、リーダー企業と「棲み分ける」か「共生する」かであるとする。
そしてその具体的な方法として、「ニッチ戦略」、「不協和(ジレンマ)戦略」、「協調戦略」の3つがあるとする。
なんだか教科書みたいだと思ったら、本当にその通り。
著者は、早稲田大学ビジネススクールの教授であり、これは教科書的な位置付けの本であった。

「競争しない」と言っても、まったく競争がなくなるということはありえず、この本では「競争しない」ことを「既存の業界リーダー企業と争わないこと」と定義している。
はじめに紹介されるのは、「ニッチ戦略」。
ニッチとは、単に売り上げが小さいことを意味するのではなく、「リーダー企業と争わない」という点で、「差別化」とも異なる。

ニッチにも種類があり、「量」と「質」の軸から「技術」「チャネル」「特殊ニーズ」「空間」「時間」「ボリューム」など10種類が挙げられている。
そしてそのそれぞれに具体的企業が紹介されていて、理解しやすくなっている。
例えば、手術用の縫合針のマニー、経営者死亡保障に特化した大同生命保険、北海道に特化したコンビニのセイコーマートなどは、テレビや身近な例として知っているので、イメージしやすい。

不協和戦略には、@企業資産の負債化A市場資産の負債化B論理の自縛化C事業の共食化の4類型がある。
@は、文字通り企業の資産が価値を持たなくなるようにするもので、営業職員を多数抱えた既存の生命保険に対し、ライフネット生命保険が仕掛けた「ネット専業保険」が例示される。
Aは、POSレジの大手企業東芝テックに対し、スマホ決済で対抗したスクエアやペイパルなどである。
Bは、リーダー企業が顧客に説明してきたことを覆せず、有効な対抗策が取れないもので、それまでの「掲載課金型」のリクルートに対し、「成果報酬型」で成功したアルバイト求人のリブセンスが例示される。
Cは、リーダー企業が事業の共食を招くことになるため参入できないもので、従来のスポーツクラブに対して、プールや風呂を持たないフィットネスクラブを展開するカーブスのような例である。

不協和戦略は、リーダー企業が圧倒的な力を持っている業界こそ効果があるというところが特徴である。
これはなかなか心強い。
「自分の業界は大手にかなわないから」と思っているなら、知恵を振り絞ってみる価値はありそうである。
我が不動産業界はどうだろうか。

協調戦略は、「バリューチェーンへの組み込み方(自社のVCか他社のVCか)」及び「機能の代替か追加か」によって4つに類型化できる。
「自社による航空機エンジンの製造」から「他社をも含むエンジンの予防保全・補修・スペアパーツ管理」へ転換を図ったGE。
他行の引き出し手数料で収益を上げるセブン銀行。
他社製品も含めて配達するオフィス・グリコ等々。
改めて説明されるといろいろあるものである。

内容的には、はっきり言って「教科書」である。
理屈を理解するには優しくまとめられていて、若手向きであろう。
ある程度のレベルの人なら、自社の事業と見比べてみて、あれこれと事業展開を考えてみるようにしないとダメであろう。
その際の良い指針となりうるものである。

ゆっくりと自社の事業モデルを考えてみたいと思うのである・・・

posted by HH at 22:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 教科書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月10日

【書斎の鍵-父が遺した「人生の奇跡」】喜多川泰



遺言状
聖域
右手の秘密
乗り越えるべき試練
心の鍵
書斎のすすめ
 序章 なぜ心もお風呂に入らないの?
 第1の扉 書斎では「心の汚れ」を洗い流す 
 第2の扉 「人生の方針」は書斎で見つかる
 第3の扉 書斎で裸の自分と語り合う  
 第4の扉 読書で「運命の人」と出会える 
 第5の扉 書斎で「生きる力」が磨かれる  
 第6の扉 ブックルネッサンスで世の中が変わる 
エピローグ 最初の涙

著者は、すでに 『賢者の書』及び 『「また、必ず会おう」と誰もが言った。』を読んでいる喜多川泰。
シンプルなストーリーながら、心に温かいメッセージが残って、個人的にとても気に入っている作家である。
タイトルからして、また期待して手に取った次第である。

物語の舞台は、2055年。
なんと40年後の未来。
されど、それはあまり物語には関係がない。
若干、今と違う社会であり、今よりちょっと進んだデバイスを使っているという程度。
あくまでも人間ドラマが(それも設定が現代でも全く違和感のない)主軸である。

主人公はある会社の営業課長の前田公平。
父が亡くなり、休暇をとって実家に帰省するところから物語は始まる。
公平は、生前父とはソリが合わず反発するばかりで、それがゆえに、「本を読め」という父の教えに反抗し、本を読まない人生を送っていた。
就職早々事故で研究職を断念し、営業職に就いていた公平は、いつもどこか引け目を感じ、営業の成績も今ひとつ。
そしてそれを事故の後遺症で動かなくなった右手を理由にしていた。

実家に帰れば、父は公平に遺言を残していた。
それによると、「離れ」にある書斎の鍵をしかるべき人に預けたので、その人物を探せというもの。
読書家だった父の書斎に興味は沸かなかったものの、行きがかり上探し始める公平。
手がかりは離れに置いてあった本。
こうして公平の探索が始まる。

例によって、興味深いストーリーが始まる。
そして随所に散りばめられた言葉。
「公平、心配するな。人生で手に入るものは才能で決まっているわけじゃない」
「他人の考え方を否定することなんてできるはずもない。自分の意見と他人の意見が違っているからといって、どちらかが絶対的に正しいなんてことはありえない」
「人間の行動は心に左右される以上、この『心の習慣』をよくしない限り、より良い人生になることはない。」

物語の中に、「書斎のすすめ」という一冊の本が登場する。
そしてこの本の内容になると、その部分のページの紙質が変わる。
そのメッセージは様々で、皆なるほどと思うものばかり。
(読書)習慣が人を磨く。
志があればどんなことでも楽しい。
感じ方次第で、何事もない1日も夢のような1日に変わる。
心を磨けばその人の周りにある全てが輝き出す。
あなたが幸せであることが誰かを幸せにしている。

時に目頭が熱くなり、電車の中で読むのは注意が必要。
シンプルだが、心に響く物語が展開され、そしていつの間にか読書がもたらす人生の恩恵が伝えられる。
この方の作品は、やはり読まない手はないと思わずにはいられない。
まだ他にも読んでいない作品がある。
また次の本も読んでみたいと、素直に思わせられる作家である・・・

posted by HH at 23:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 良い話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年11月09日

【あと20年で無くなる50の仕事】水野操



第1章 大きく変わろうとしている「職業」の概念
第2章 コンピューターは人を駆逐するのか
第3章 今後20年、コンピューターが徐々に仕事を奪っていく
第4章 中途半端な知的労働者は容赦なく排除される
第5章 時代に合わせて変化しながら生き残る職業
第6章 これから生まれる未知の職業とは-生き残るために必要なこと

来年の話をすれば鬼が笑うというし、将来のことは神のみぞ知ることだが、そうかと言って目をつぶっていていいとも思わない。
わからないなりに、「予測」というものをしてもいいと思う。
そして、そんなところに、目に付いたのがこの本である。

時代とともに変化する職業に対する考え方。
今から45年前の男の子のなりたい職業は、1位がエンジニアだったそうである。
それが2013年には、サッカー選手・監督になっている。
子供達に人気のパイロットも、テクノロジーの進歩により、一人で大型機を操縦する時代が来るかもしれないとする。

そうした変化に、大きな役割を果たすと思われるのが、コンピューターである。
人工知能は、あらゆる分野で人に取って替わるかもしれない。
アシスタントや単純作業者はIT化でなくなり、介護現場でロボットが求められるように、人間の仕事が置き換えられていく。

AIとロボットは、ブラック企業を一層するかもしれないが、これは歓迎すべき傾向と言っていいのだろう。
居酒屋に行くと、ロボットが応対し、ロボットに席に案内され、タッチパネルでオーダーするとロボットが運んできて、タッチパネルで会計を頼んで、クレジットカードで決済するという例が語られているが、人手不足に悩む飲食業界においては、非常に実現可能性の高い未来かもしれない。

すでに自動運転が脚光を浴びているが、タクシーや電車もロボットによる自動運転が一般的になる可能性は非常に高い。
新聞も電子化で減っていくだろうと思われるが、一方で航空機には監視役としてのパイロットが残ることが考えられ、看護師や作業療法士など対人スキルが必要な部分は、人間の仕事として残るかもしれない。

「中途半端な知的労働者は容赦なく排除される」とする章では、翻訳者やエンジニア、歯科技工士や弁護士までもが、工夫をしなければ淘汰されるとする。
弁護士も、裁判の方針を立てたりする者は良いが、単に資料収集などをやるだけの弁護士は生き残っていけないとする。
要は、「使われる」のはダメだということである。

どんなにテクノロジーが進化しても、「ビジネスを生み出す人・所有する人、自分の意志でビジネスを進められる人」は生き残っていける。
テクノロジーを利用する立場に立たないとダメだというのは、その通りだと思う。
というよりも、それは今現在でも当てはまるように思える。
自分の仕事が、簡単に置き換えられるかどうか、考えてみるのもいいと思う。

こうしたことは、あくまでも予測にしか過ぎない。
この通りになるかもしれないし、ならないかもしれない。
ただ、一つの思考訓練としては良いと思う。
自分の仕事が、人間でなければできないかどうか。
今働いている人は、今一度考え、そして仕事のやり方を見直すいいきっかけかもしれないと思う。

これから働く人たちは、人気就職ランキングなどに左右されることなく、いろいろ考えてみるといいかもしれない。
己の思考訓練に、一読するといいかもしれない一冊である。
    
  
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2015年11月06日

【逆説の日本史21】井沢元彦



第1章 1865年編-“犬猿の仲”薩長を接近させた坂本龍馬の秘策
第2章 1866年編-天才・高杉晋作とミニエー銃が帰趨を決した「四境戦争」
第3章 1867年編-孝明帝の死と「倒幕の密勅」の衝撃
第4章 1868年編-江戸百万の人々を救った慶喜の「大功績」

シリーズ21巻。
時代は1865年に入る。
明治維新まであと2年。
高杉晋作、西郷隆盛、岩倉具視といった“歴史の教科書の面々”が惜しげもなく登場する。
攘夷への過激なエネルギーに燃える長州藩の中で、世界の現実を知り、密かに攘夷を捨てた高杉晋作は、功山寺で決起する。
わずか84人の決起であったが、時代の波は高杉晋作の背中を押す。

完全攘夷の考え方が支配する長州藩内で、「開国」を口にすれば斬られると分かっている高杉晋作の言動は、歴史学者のように「公式発言」だけに注目していてはわからないと著者は説く。
この辺りは「逆説シリーズ」の真骨頂である。
蟄居していた岩倉具視が動き出す。
坂本龍馬は、日本初の貿易商社「亀山社中」を設立し、長州藩のため薩摩名義で武器を購入し、まさに歴史的な薩長同盟の動きへとつなげる。

1866年。
ついに薩長同盟が成立する。
しかしそれは内容的には「同盟」と呼べるようなものではなく、せいぜい「合意」または「盟約」とでも呼ぶべきものであった。
さらにその盟約に坂本龍馬が、「保証人」となる。

幕府は、第二次長州征伐に乗り出すも、朝廷とのやり取りで時間を空費し、さらにその間に14代将軍家茂が亡くなる。
そしてついに、幕府軍は長州への攻撃を開始し、四境戦争となる。
だが、最新鋭のミニエー銃で武装した長州藩は攻撃力も士気も高く、旧装備の幕府軍を敗走させる。
さらに絶対的に優位だった海軍も、高杉晋作の奮闘により、撤退することとなる。

そして1867年。
家茂の死後、5か月経過し、ようやく慶喜が15代将軍に就任する。
「二心殿」と言われたおよそ信念あるとは言えない将軍慶喜。
坂本龍馬は「船中八策」を発表し、大政奉還のアイディアを土佐藩の山内容堂へ伝える。

徹底して攘夷派だった孝明天皇が、天然痘で死去するが、これが開国への道を開く。
この頃、すでに種痘が一般的に行われていたのだが、ケガレを嫌う皇族はこれを行わず、天然痘で死んでしまうというのは、なかなか興味深い事実である。
こんな細部も、歴史の事実としては面白い。

ついに迎えた1868年。
鳥羽伏見の戦いで幕を開け、「王政復古の大号令」へと続く。
有名な錦の御旗や江戸城無血開城をめぐる慶喜の言動も、これまでのイメージとは異なる。自らの保身に躍起となるが、実はものすごい強運の持ち主とも言える。
およそ武士とは言えぬ保身こそが、逆に江戸庶民を戦火から救ったという皮肉。
武士の一分を通して、領民を奈落の苦しみに落とした会津藩主松平容保との違いがなんとも言えない。

大きな歴史の流れに加え、明治天皇がすぐに即位しなかったエピソードなど、細かい事実も興味深い。
歴史好きにはたまらないシリーズ。
まだまだ続くようだし、次もまた多いに期待して待ちたいと思うところである・・・

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2015年11月04日

【ヴァージン・ウェイ】リチャード・ブランソン



THE VIRGIN WAY
How to Listen,Learn,Laugh and Lead By Richard Branson

パート1 聴くListen
パート 2 学ぶ Learn
パート 3 笑うLaugh 
パート 4 率いるLead

著者のリチャード・ブランソンは、イギリスの実業家。
何かと話題になることもあって、いつかはその著書を読んでみたいと思いつつ、今日に至っていると言う経緯がある。
そんなこともあって、目にして迷わず読むことにした一冊。

内容は、原題にもある通り、リチャード・ブランソンが自らの経験を基に、「聴く」「学ぶ」「笑う」「率いる」をテーマに語ったもの。
すでにブランソンは16歳で「スチューデント」という雑誌を創刊したという。
冒頭の言葉がいい。

「実に多くの人たちが、バックミラーを見るように過去を振り返ったり、これからもっとよくなるさと未来のことを語ったりして暮らしている。・・・でも今日この日はどうなるのだ?あすへ向かって急ぐあまり、「いま」が見失われることがあまりにも多い・・・それを手にしているあいだに是が非でも楽しもうではないか」
多分、ずっとこのような考え方で、生きてきた人なのだろう。

最初の章の「聴く」は、よく言われていること。
「聞き上手は話上手」という言葉とともに、聴くことに関する様々な考えが披露される。
ついでに話すことにも及ぶ。
何事もシンプルに、チャーチルの言葉「優れた演説は女性のスカートのようでなければならない。演題をカバーするだけの長さと、興味をそそるだけの短さが必要である」が紹介される。
ヴァージン・グループのミッションステートメント「まぁいいさ。やってみよう」が、心に響く。

ブランソン氏も、成功の連続というわけでもない。
日本でも名が知られていたヴァージン・メガストアも、スティーブ・ジョブスのiPodに象徴されるダウンロード化で衰退した。
しかし、氏は「バックミラーばかり見ているリーダーは会社を前へ進めるのが得意でない」と語り、その失敗には素直に目を向け、反省している。
そのスティーブ・ジョブスについては、優れたリーダーとしてしばしば本の中で触れている。

ブランソンを「運のいい人物」と語る人がいるようだが、氏は「一生懸命練習すればするほど。運が向いてくる」というゴルフの選手の言葉を引き合いに出し、「正しいタイミングで正しい場所にいる」ことの重要性を語る。
「幸運は準備する者の上に降り立つ」という言葉は、自分も肝に銘じたい。

ブランソンが人を雇う時、大事なのは「性格が合う」かどうかだという。
その人の過去の実績も重要だが、その人の生き方、ユーモアのセンス、立ち居振る舞いがあなたの会社のカルチャーにぴったりとはまりやすいかどうかなのだと。
そして雇った後は、リーダーが部下たちの関心事や目標に対して心から関心を寄せ、彼らの忌憚のない意見を吸い上げることができれば、高いエンゲージメントにつながるとする。
このあたりは個人的にもよく覚えておきたいところである。

総じて、この本を通じて伝わって来るリチャード・ブランソンという人物は、やはり大物の風格が漂っていると思う。
16歳で学業からドロップアウトし事業をスタートさせた生き方は、学力という点では誇るべきものはないが、リーダーシップとエネルギッシュなその後の生き方は、是非とも見習いたいところである。

氏には、破天荒なリーダーというイメージがあるが、この本を読む限りその考え方に特別なところはない。
それは、実は誰でも出来うるのだと感じさせるところがある。
ただし、それは決して、日本で厳しい社内競争を勝ち抜いて大企業のトップに立ったような人物からは感じられないものだとも思う。

自分自身へ活力を注入したいと思ったら、やっぱりこんな人物の話を聞くのが一番だろう。
サラリーマンであれば、是非一読しておきたい一冊である・・・

posted by HH at 21:02| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス/経営者の本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする