2016年01月30日

【ネガティブな感情が成功を呼ぶ】トッド・カシュダン/ロバート・ビスワス=ディーナー



原題 : The UPSIDE of your DARK SIDE
第1章 幸福を求めるほど不安になるのはなぜ?
第2章 快適な生活がもたらしたもの
第3章 嫌な気分にはメリットがある
第4章 ポジティブな感情には落とし穴がある
第5章 マインドフルネスにとらわれるな
第6章 ネガティブな感情を反転する
第7章 ありのままの自分とつきあう

「物は考えよう」という言葉があるが、ものの考え方というのは大事なことで、人の行動を大きく左右するものだと思っている。
そういう意味で、この手の本は気になってしまう方である。

ポジティブシンキングという言葉があるが、「ポジティブ」というのは良い意味で使われていて、「ネガティブ」という言葉はその反対に否定的に使われている。
しかし、ここでは「どんな感情にも意味がある」という考え方が根底に流れている。
この本でキーワードとなるのが、「ホールネス(全体性)」という言葉である。

「ホールネス」とは、「人間に与えられた自然な感情をすべて活かせる人、つまりポジティブ感情もネガティブ感情も受け入れて幅広く活用できる人が最も健全であり、人生において成功する可能性が高い」とする。
ネガティブだからダメというのではないというのであろう。
さらに「憂うつな気分になりやすい人は細かい点に気がつく傾向にある」といった具合に、むしろネガティブ面が持つメリットもあるとする。

「相手が信頼できる人間かどうかをより正しく見極められる」
「危機的状況にある時、詳細に注意を集中できる」
「相手の意見を変えようとする時、効果的な主張ができる」
などネガティブマインドの特性も列挙される。

こうしたネガティブマインド以外にも「マインドフル」「マインドレス」という言葉が使われる。
これは「今ここにいる」という心の状態で、別の言葉では「意識的思考」「無意識的思考」として説明されている。
それを総合して、「最良の決断」のプロセスが示される。

すなわち、
1 短い時間状況をマインドフルに熟孝する
2 考えることをやめる
3 思考を温める間、何かまったく無関係の活動をする
4 決断する
というものであるが、よく風呂に入っている時、ずっと考えていたことのアイディアが思いついたりする経験からもよくわかる事である。

よく本を読んでいる時に、別のことに気を取られ、本の内容が頭に入らないことがあるが、これも「マインドワンダリング」として好意的に説明されている。
結局のところ、この本の主張するところもポジティブシンキングの一種ではないかという気がしないでもない。
いずれにせよ、「何事も前向きに」と言えるのだろう。

そういうスタンスでいたいと改めて思わせられる一冊である・・・

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2016年01月23日

【人は、誰もが「多重人格」】田坂 広志



序文 なぜ、このような本が生まれたのか?
第一話 人は、誰もが「多重人格」
第二話 「表の人格」が妨げる才能の開花
第三話 「隠れた人格と才能」を開花させる技法
第四話 「豊かな人間像と人間性」を開花させる技法

著者は、様々な肩書きを持つ一方、著作活動も盛んな方のようである。
そんな著者が講演の中で語ったことを基にして、この本が生まれたようである。
人には様々な顔があるのが普通だが、それをこの本では「人格」と称している。
例えば普通のサラリーマンでも、「会社での仕事中の顔」、「仕事が終わった後(アフター5)の顔」、「家庭での顔」とあるが、それらを「人格」としているのである。

一例としてイチローのインタビューが紹介される。
10年連続200本安打に挑戦中に、「大変なプレッシャーですよ・・・一方で、そのプレッシャーを楽しんでいる自分もいるのです」と語ったのをして、二つの人格がバランス良く存在しているとする。

また、一流の経営者ともなれば、
・全社員の前で会社の将来ビジョンを語る「ロマンと情熱を持った人格」
・経営会議で経営陣を前にした時の「数字の鬼」とでも呼ばれる人格
・若手社員に対しては「優しい親父」と言った人格
・幹部やマネージャーに対しては「強いリーダー」
という人格を使い分けていたりるするものだという。

そうした人格を自覚しているのであれば、自分の中にある「複数の人格」を自覚し、置かれた状況や立場によって「異なった人格で対処する」ということを意識的に行えれば、自然に「様々な才能」が開花するという。
これを「多重人格のマネジメント」としている。

また、実際に人と会っている時だけでなく、ビジネスメールの中でも「冒頭」「本文」「末尾」と人格を使い分けられるという。
こうした「使い分け」には「精神的な基礎体力」が必要なのだそうである。
そして、「人格」は、誰の中にも「すべての人格」が潜んでいるとのことで、これらの「人格」は、「後天的に形成」されるため意識的に育てていけるものだという。

人にはいろいろな考え方があって、何が正しいということはない。
著者のこの「人格説」も、要は考え方であって、それを否定すべきものではない。
ただ、個人的にすんなり腹に落ちるか否かと問われれば、「どうもピンとこない」というのが正直な感想である。

わざわざ「人格」などと定義されなくても、人は誰でも相手によって態度を変えたり、かしこまってみたり、硬い表現や柔らかい表現を織り交ぜたりすることはある。
それを「人格を使い分ける」と言われても、しっくりとこない。
こういう感覚は個人的なもので、もちろん、しっくりくる人もいるだろう。
そこは、個人の感覚で判断するしかない。

これはこれで一つの考え方として理解するのであれば、それもいいという話である。
残念ながら、私には合わなかったと言える一冊である・・・


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2016年01月21日

【コーチングとは「信じること」−ラグビー日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズとの対話−】生島淳



Try 1 コーチングはアートである
Try 2 アイデアをいかに生かすか
Try 3 数字を使いこなす
Try 4 勝つための組織作り
Try 5 革命の起こし方
Try 6 教育の価値を考える
Try 7 コーチング最前線
Try 8 ラグビーの世界地図-南半球編-
Try 9 ラグビーの世界地図-北半球編-

この本は、前ラグビー日本代表ヘッドコーチのエディ・ジョーンズを取材して、その考えをまとめた本である。
ラグビー日本代表といえば、昨年のワールドカップで、世界3位の強豪国南アフリカを破ったのをはじめとして、史上初の3勝を上げる活躍をしたことが記憶に新しい。

何せそれまでの7回のワールドカップで、日本代表は1勝しかできていなかったのであるから、まさに奇跡のような結果である。
その原動力と言われているのが、ヘッドコーチのエディ・ジョーンズであり、その秘密を少しでも知りたいとこの本を手に取った次第である。

そのエディさん、「コーチングはアート」だと語る。
具体的には、一つには「選手一人ひとりにとって何が必要なのか、それを見極める」のだという。
さらにグラウンドでは、下位10%の選手を中位に引き上げるのが大事らしい。
具体的に知りたいところだが、それは本だけだと難しいだろう。

エディ氏は、なぜ「監督」ではなく「ヘッドコーチ」なのかというと、「監督」は「ディレクター」であり、「チームをマネジメントによって運営する者」ということらしい。
したがって、ヘッドコーチこそがグラウンドでの総責任者ということになる。
言われてみれば、なるほどである。

語られる言葉は、ラグビーの技術的なことは参考になる。
例えば、「パスとキックの比率は11対1(他のチームの平均は4対1)」というようなことであるが、技術論以外にも組織そのものに参考になることも多い。
・コーチに必要なのは最終的な到達点のイメージ
・今日やるべきことに集中しなければならないのは当然であるが、リーダーというものは常に明日何をするか
を視野に入れておく
などである。

また、日本人は「自分が向上できる部分を探す」傾向が強いという。
「否定的な部分を探すのに慣れてしまっている」
「考えない習慣、頼り切ってしまう自主性のなさ」
など日本人ならではの欠点の指摘には、なるほどと頷かされる。
そんな選手たちには、「自分の強み・長所を意識しろ」と指導したらしい。
日本は軋轢を嫌う社会であり、とことんディスカッションするエディ氏の母国オーストニーラリアのチームとの違いが語られる。

ラグビーの好きな人はもちろん、組織論的な部分でも参考になるところは多い。
エディ氏は他競技にも多く学んでいるらしい。
グラウンドだけでなく、読書もかなりしているようである。
「ジャパンウェイ」と名付けたエディ・ジャパンの躍進には、それなりの理由があったわけである。
ちなみにこの本が出版されたのは、ワールドカップの前。

最後に紹介されているエディ氏の言葉が印象的。
「驚かせるんだ、歴史を変えるんだ。
日本代表が世界の舞台で結果を残せば、日本の文化は変わる」
まさにその言葉が現実となったわけで、改めてすごいと思わせられる。

エディ氏はヘッドコーチの座を去ったが、日本代表にはそのエッセンスが残っているだろうか。
日本代表の一層の飛躍を期待したくなる一冊である・・・
   
   
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2016年01月16日

【ストックビジネスの教科書−毎月継続的に収益をあげるビジネスのつくりかた−】大竹啓裕



第1章 ストックビジネスとは何か?
第2章 ストックビジネスへの道
第3章 ストックビジネスの収益構造を理解する
第4章 ストックビジネスを極める

不動産業に携わっている私としては、「ストックビジネス」という言葉にもろに反応してしまった。
なぜなら、不動産業こそ「ストックビジネス」の代表のようなものだからである。
日頃から、どうしたらもっと利益を上げられるのかと考えている身からすると、何かヒントが得られるような気がして手に取った一冊である。

著者は自らレンタルオフィスの運営などの「ストックビジネス」を幾つか手掛けている方のようである。
その「ストック」とは、「継続的に利益をもたらすもの」と著者は冒頭で定義する。
その定義に従い、「ストック性が高い」「ストック性が低い」という表現を使い、様々なストックビジネスを見ていく。

ストックビジネスの定義とは、
1. 継続性が高い
2. (事業を)売ることができる
ことだとする。
一見ストックビジネスに見えても、特定のカリスマに頼っていたりするとこの定義に当てはまらず、ストックビジネスとは言えないとなる。

著者は、ストックビジネスを行うのは、何も不動産業などのストックビジネスそのものをしようと主張しているわけではない。
一見、フロービジネスであるかのようでも、「ストック思考」を持つことによってストックビジネス化することを提唱している。
そのために、「8つの課金モデルと17のビジネスモデル」を紹介している。

このあたり、ストックビジネスとしての不動産業でのヒントを求めていた自分の思惑とズレが生じる。
もっともそれは著者には関係のないところではあるが・・・
それでも様々なストックビジネス化がありうる中、ソフトバンクのペッパー事業のビジネスモデルや、女子大生がスマホの使い方をお年寄りに教えるというアイディアの例などは、考え方を理解する上では有益であった。

こうしたストック思考はいろいろと応用ができそうであり、安定した利益を得ていこうとしたら、ぜひとも意識したいところである。
当初の思惑とは違ってしまったが、これはこれで参考になったということができる。
学ぼうと思うなら、いろいろとヒントが得られる一冊である・・・

posted by HH at 23:12| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス/自説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月14日

【感情的にならない本】和田秀樹



プロローグ 感情の「シンプルな法則」
第1章 人には「感情的になるパターン」がある
第2章 「感情コンディション」を整える
第3章 「曖昧さに耐える」思考法
第4章 「パニックに陥らない」技術
第5章 「いつでも気軽に動く」技術
第6章 「小さなことでクヨクヨしない」技術
エピローグ あなたが笑うとホッとする人

いつも読む本を選ぶ時、その時々で意識しているキーワードで選ぶことが多い。
「感情的にならない」というのは、近年常に私が意識していることである。
著者は精神科医。
それゆえに期待できそうだと思って手に取った一冊である。

プロローグでは、「感情は放っておけばだんだんおさまってくる」という法則が紹介される。
これは確かにその通りで、私も常日頃実感していることである。
この「感情を放っておく」というのは、言い換えれば「気にしない」ということ。
また、「感情的になる人は自分の思い込みにこだわる人」ともいう。
これも我が身に当てはめてみれば、実にその通りだと思う。

そうしてなるほどと思いつつ、読み進む。
自分で感情的になるのは、議論での意見対立がある。
そうした時には、「それもそうだね」と一呼吸置いてみようという。
これは日々自分でも実践できている。
自分の意見は意見として主張しても、相手も相手の意見に自信を持っていると考えれば、一旦受け入れて考え直してみるということは日頃心掛けていることである。
それはそれで正解だったようである。

・人の言葉を深読みすると感情が悪化する
・悪意を感じた時は聞き流す
これは他人との接し方のコツであるが、聞き流すというのは重要なテクニックであるような気がする。
私も特に妻のトゲトゲしい言葉は聞き流すようにして感情をコントロールしている。
本能的な行動であるが、これも正解のようである。

心理学の言葉に「曖昧さ耐性」という言葉があるという。
文字どおり曖昧さにどれだけ耐えられるかということらしいが、白黒常にはっきりさせるべきではなく、グレーゾーンを認めるということであるらしい。
他人を「好き」「嫌い」で分けないということでもあり、これも一つのテクニックであろう。

「こんな時彼(彼女)ならどうするか」と考えることも効果的だという。
実はこれも自分は実践している。
若い頃から「いい男」でありたいと考えていて、「この場合、ジェームズ・ボンドだったらどうするだろう」とよく考えていた。
(ただ、実践できなかったことも多々ある)

「(やった方が)まし」という考え方も重要だとする。
完璧な結果になるならないではなく、少しでも良ければやってみるという考え方である。
総じてこの本で説かれていることは、「リラックス」という言葉が根底にある気がする。
力を抜くということが大事なようである。
知らず知らずのうちに実践できていたこともあり、これで良かったんだと自信を持ったことも多かった。
個人的には新たな学びというより、良き確認になったと言える。

感情的にならないようにしたいと考えている人は、一読してみると良いと思われる一冊である・・・

    
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2016年01月10日

【銀翼のイカロス】池井戸潤



序章  ラストチャンス  
第1章 霞ヶ関の刺客
第2章 女帝の流儀
第3章 金融庁の嫌われ者
第4章 策士たちの誤算
第5章 検査部と不可解な融資
第6章 隠蔽ゲーム
終章 信用の砦

テレビドラマ化され、一躍人気となった「半沢直樹」シリーズの最新刊である。
と言っても、個人的には「半沢直樹」シリーズは、『ロスジェネの逆襲』しか読んでいない。
いずれ全部読んでみたいと思っているが、とりあえずそれぞれ独立しているので、シリーズを読んでいなくともそれほど影響はなさそうである。

『ロスジェネの逆襲』では、東京セントラル証券に出向していた半沢であるが、今回は本体の東京中央銀行に戻っていて、その営業第2部の次長として登場する。
冒頭で部長から呼び出された半沢は、そこで審査部が担当している帝国航空の担当替えを伝えられる。
審査部は、業績の悪化した取引先を直接担当する部署で、このあたりは銀行の内部事情を知っていると理解が早まる。

余談ではあるが、著者の池井戸潤氏は元銀行員ということで、銀行内の描写が妙に生々しい。
クレジットファイルと呼ばれる取引先の資料をまとめたファイルとか、帝国航空のように大企業の問題先に対する対応とか、検査部の存在やその役割、働く行員の実態など「元行員」ならではの描写が、実にリアルである。
今回は特に、東京中央銀行が旧産業中央銀行と旧東京第一銀行とが合併してできた銀行であるとされ、行内では「旧T」と「旧S」という名称でそれぞれの出身行を呼び合うことが説明されているが、これはそのまま著者の勤めていた銀行の姿そのままである。

時に憲民党政権が倒れ、進政党政権が誕生する。
新たに国土交通大臣に就任したのは、元人気女子アナの白井亜希子。
白井大臣は、所信表明の場で前政権時に策定された帝国航空の再建プランを否定し、自らが立ち上げた私設タスクフォースによる再建プランをぶち上げる。
そしてタスクフォースの中心メンバーとなるのは、企業再生弁護士の乃原。
乃原は、帝国航空の担当である半沢を呼び出すと、7割の債権放棄を要請する。

読んでいけば、嫌でも日本航空が脳裏に浮かぶ。
実際、民主党政権誕生からJAL再生タスクフォースの立ち上げ、債権放棄をめぐる銀行団との対立など、事実がこの小説のベースになっていることは間違いない。
中身はフィクションであろうが、実際にもこれに近いようなことがあったのかもしれないし、そんな想像をしてみるとまた面白い。

権力を笠に銀行に強力に債権放棄を迫るタスクフォース。
そして「自力再建が可能なのに放棄はできない」と正論で反発する半沢。
銀行内も一枚岩でなく、過去の不正融資が重くのしかかる。
銀行といえば、世間では「貸し渋り」「貸しはがし」でイメージが良くない部分がある。
小説の世界でも悪者になる傾向が強いと思うが、この本は別。
実態を知ってもらえれば世間のイメージも少しは変わると思うが、守秘義務もあってそれもし難い。
そんな銀行に、半沢直樹は救世主かもしれない。

銀行の事情を良くわかっていれば、非常に面白い本であるが、そうでない一般の人にはどれほど伝わるだろう。
あるいはそんな心配は杞憂なのかもしれない。
テレビドラマで話題になった「倍返し」のセリフも登場し、著者の得意な企業ドラマとしては文句なく面白い。
他の半沢直樹シリーズも是非読んでみたいと改めて思わせられる。

半沢直樹シリーズとしても、企業小説としても、単なるエンターテイメントとしても、どんな見方で読んでも面白いと言える一冊である・・・



posted by HH at 12:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 池井戸潤 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年01月09日

【帳簿の世界史】



序章  ルイ16世はなぜ断頭台へ送られたのか  
第1章 帳簿はいかにして生まれたのか
第2章 イタリア商人の「富と罰」
第3章 新プラトン主義に敗れたメディチ家
第4章 「太陽の沈まぬ国」が沈むとき
第5章 オランダ黄金時代を作った複式簿記
第6章 ブルボン朝最盛期を築いた冷酷な会計顧問
第7章 英国首相ウォルポールの裏金工作
第8章 名門ウェッジウッドを生んだ帳簿分析
第9章 フランス絶対王政を丸裸にした財務長官
第10章 会計の力を駆使したアメリカ建国の父たち
第11章 鉄道が生んだ公認会計士
第12章 『クリスマス・キャロル』に描かれた会計の二面性
第13章 大恐慌とリーマン・ショックはなぜ防げなかったのか
終章  経済破綻は世界の金融システムに組み込まれている

もともと歴史好きであり、しかもかつて銀行員をしていた関係で会計分野に興味がある。
となると、その二つがミックスされたようなこの本を手に取ってみようと思ったのも、必然かもしれない。
ここでいう帳簿とは、会計システムと言い換えることもでき、世界史を会計システムから見てみようという試みは面白いと思う。

この本では、「会計の歴史は人間と政治の物語」と言い切っており、一方で「会計は財政と政治の安定に欠かせない要素だが、信じがたいほど困難で脆くやり方によっては危険にもなる」と主張する。
さらに、「企業と政府の会計責任は民主主義においても未だ確立されない」と述べているが、我が国においても昨年東芝の不正会計事件が起きていることを取っても、まさにその通りである。

そんな会計であるが、歴史はローマ帝国時代にまでさかのぼれる。
皇帝アウグストゥスはすでに帳簿を利用しており、ハンムラビ法典にも会計原則が定められている。
古代アテネ、ローマ帝国の会計システムは、帳簿はつけられ監査もされていたが、不正の余地は大きく、しかも組織的に不正が容認されていたという。

現代につながる複式簿記は、中世イタリアで発明されたが、これは当時のイタリアではアラビア数字が使われており、貿易が発展し多くの資本が必要になって共同出資方式が考案され、出資者への利益配分が必要になっていたという事情が背景にある。
まさに「必要は発明の母」であったのである。

15世紀には、世界初の複式簿記の教科書『スムマ』が誕生し、以後五百年にわたり会計の基本は変わっていない。
16世紀オランダは貿易で大繁栄し、アムステルダムは会計の中心地となる。
世界初の株式取引所が作られ、外国為替の決済が大幅に円滑化され、その様子はオランダの富の秘密は複式簿記にあるという詩が創られるほどであった。

フランス・ブルボン朝では、コルベールがルイ14世を支え、会計の技術は会社から国家へと広がる。
ルイ14世は、常に小型の帳簿を持ち歩いていたという。
陶磁器で名高いイギリスのウェッジウッドは意外にも会計の歴史では大きな影響を持ち、緻密な原価計算がその後に影響を与えたという。

18世紀、革命直前のフランスでは、ネッケルが「国王への会計報告」を発表。
実はこれは初めて国民に対し、国家財政を詳しく説明したものだという。
それまで不満が高まっていた国民は、公開されないがゆえに誤った憶測を生んでおり、それを回避する目的であったようである。
贅の限りを尽くした王家に国民の不満が爆発したフランス革命にも、会計は切っても切り離せないつながりがある。

新大陸で建国されたアメリカでは、フランクリンが国家の会計に大きな役割を果たし、発展する鉄道において、財務会計は複雑化し、やがて公認会計士が生まれる。
ディケンズは、「会計はすばらしく輝かしく、途方もなく大変で、圧倒的な力を持ち、しかし実行不能」と述べる。

長い歴史を振り返り、ますます複雑化する財務会計は、現代においても政府やプロフェッショナルでさえ正確な数字を入手できないほどであるというが、その実態に携わってみればそれは真実だというほかない。
歴史をこうした角度から眺めてみるというのも、興味のある人にとっては非常に面白いだろう。
考えてみれば、お金というのはいつの時代も人間の生活、そして欲望の的であり、したがって争いも生じやすい。
そこから歴史が生まれるのも必然とも言える。

興味のある人には興味深い、そうでない人には退屈かもしれない。
ちょっとした教養を深めるにはいい一冊かもしれない・・・


posted by HH at 21:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 歴史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする