2016年01月10日

【銀翼のイカロス】池井戸潤 読書日記619



序章  ラストチャンス  
第1章 霞ヶ関の刺客
第2章 女帝の流儀
第3章 金融庁の嫌われ者
第4章 策士たちの誤算
第5章 検査部と不可解な融資
第6章 隠蔽ゲーム
終章 信用の砦

テレビドラマ化され、一躍人気となった「半沢直樹」シリーズの最新刊である。
と言っても、個人的には「半沢直樹」シリーズは、『ロスジェネの逆襲』しか読んでいない。
いずれ全部読んでみたいと思っているが、とりあえずそれぞれ独立しているので、シリーズを読んでいなくともそれほど影響はなさそうである。

『ロスジェネの逆襲』では、東京セントラル証券に出向していた半沢であるが、今回は本体の東京中央銀行に戻っていて、その営業第2部の次長として登場する。
冒頭で部長から呼び出された半沢は、そこで審査部が担当している帝国航空の担当替えを伝えられる。
審査部は、業績の悪化した取引先を直接担当する部署で、このあたりは銀行の内部事情を知っていると理解が早まる。

余談ではあるが、著者の池井戸潤氏は元銀行員ということで、銀行内の描写が妙に生々しい。
クレジットファイルと呼ばれる取引先の資料をまとめたファイルとか、帝国航空のように大企業の問題先に対する対応とか、検査部の存在やその役割、働く行員の実態など「元行員」ならではの描写が、実にリアルである。
今回は特に、東京中央銀行が旧産業中央銀行と旧東京第一銀行とが合併してできた銀行であるとされ、行内では「旧T」と「旧S」という名称でそれぞれの出身行を呼び合うことが説明されているが、これは著者の勤めていた銀行の姿そのままである。

時に憲民党政権が倒れ、進政党政権が誕生する。
新たに国土交通大臣に就任したのは、元人気女子アナの白井亜希子。
白井大臣は、所信表明の場で前政権時に策定された帝国航空の再建プランを否定し、自らが立ち上げた私設タスクフォースによる再建プランをぶち上げる。
そしてタスクフォースの中心メンバーとなるのは、企業再生弁護士の乃原。
乃原は、帝国航空の担当である半沢を呼び出すと、7割の債権放棄を要請する。

読んでいけば、嫌でも日本航空が脳裏に浮かぶ。
実際、民主党政権誕生からJAL再生タスクフォースの立ち上げ、債権放棄をめぐる銀行団との対立など、事実がこの小説のベースになっていることは間違いない。
中身はフィクションであろうが、実際にもこれに近いようなことがあったのかもしれないし、そんな想像をしてみるとまた面白い。

権力を笠に銀行に強力に債権放棄を迫るタスクフォース。
そして「自力再建が可能なのに放棄はできない」と正論で反発する半沢。
銀行内も一枚岩でなく、過去の不正融資が重くのしかかる。
銀行といえば、世間では「貸し渋り」「貸しはがし」でイメージが良くない部分がある。
小説の世界でも悪者になる傾向が強いと思うが、この本は別。
実態を知ってもらえれば世間のイメージも少しは変わると思うが、守秘義務もあってそれもし難い。
そんな銀行に、半沢直樹は救世主かもしれない。

銀行の事情を良くわかっていれば、非常に面白い本であるが、そうでない一般の人にはどれほど伝わるだろう。
あるいはそんな心配は杞憂なのかもしれない。
テレビドラマで話題になった「倍返し」のセリフも登場し、著者の得意な企業ドラマとしては文句なく面白い。
他の半沢直樹シリーズも是非読んでみたいと改めて思わせられる。

半沢直樹シリーズとしても、企業小説としても、単なるエンターテイメントとしても、どんな見方で読んでも面白いと言える一冊である・・・



posted by HH at 12:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 池井戸潤 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする