2016年06月29日

【ハーバードでいちばん人気の国・日本−なぜ世界最高の知性はこの国に魅了されるのか−】佐藤智恵



序 章 なぜハーバードはいま日本に学ぶのか 
第1章 オペレーション-世界が絶賛した奇跡のマネジメント
第2章 歴史-最古の国に金融と企業の本質を学ぶ
第3章 政治・経済-「東洋の奇跡」はなぜ起きたのか
第4章 戦略・マーケティング-日本を代表する製造業からIT企業まで
第5章 リーダーシップ-日本人リーダーのすごさに世界が驚いた
終 章  日本人が気づかない「日本の強み」を自覚せよ

著者は、元NHKのディレクターで、現在は作家兼コンサルタントで、テレビのコメンテーターもされている方のようである。そんな著者が、ハーバード大学の経営大学院で、日本に関連したテーマが多数採り上げられていることを紹介した一冊である。近年、「世界から見たら日本はこんなに素晴らしい」といった類の本がたくさん出ているが、ちょっと匂いの違いを感じて手に取った次第である。

著者は、ハーバードで取材をしていて、日本が世界に大きな影響を与えてきた国であることを実感したという。世界初の先物取引は日本で発生し、戦後の経済成長は新興国の希望となっている。日本のオペレーションシステムは、世界の人々の道徳規範となっている。そしてハーバードでは、毎年研修旅行があり、その行く先としてインド、イスラエル、イタリアなど10カ国の中で、一番人気なのだという。わずか数分で定員の100名が埋まってしまうというから、まんざら大げさでもないようである。

では、どんなケースが教えられているかというと、
トヨタ自動車(テクノロジーとオペレーションマネジメント)、楽天(リーダーシップと組織行動)、全日空(マーケティング)、本田技研工業(経営戦略)、日本航空(ファイナンス)などである。変わったところでは、アベノミクスも対象となっているらしい。著者が強調するには、「重要なのはいま教えられているか」だという。講座の数ではどうやら他の国でももっと多いところがありそうなのであるが、学生にとって「忘れられない事例」、「私の人生に影響を与えた事例」とされる「質」の部分で特徴的だという。(「量より質」ということらしい)

最初に「新幹線お掃除劇場」としてテッセイが紹介されているが、個人的にも『新幹線お掃除の天使たち』を読んでいるから、すぐに様子が頭に浮かぶ。日本企業で最も売れた教材は、本田技研工業で、アメリカでバイクを売っていった様子が評価されている。また、ANAはグローバル戦略が評価されている。これらは、企業の知名度ではなく、どんな課題に直面しているかに注目されてのことだという。さすがにMBAである。

日本企業の最近のヒットは楽天の社内英語公用語化だというが、何より講座のテーマが多岐にわたっていることに驚かされる。企業以外でも「トルーマンと原爆投下の是非」「福島第二原発の危機を救ったチーム増田」などが採り上げられている。福島第二原発が、実は爆発した第一原発と同様かなり危険な状態だったらしいとは、改めて知ったが、何でもテーマにしてしまうところがやはり素晴らしいと感じる。

そんな中で、日本のテーマは、
1. グローバル化
2. イノベーションの創出
3. 若者と女性の活用
だとするが、なるほどと思わせられる。

何年も同じノートを使う大学の授業の例の話をよく耳にするが、さすが世界の最先端は、何にでも学ぼうとしていて、しかもそのテーマが常時アップデートされている。こういうところで日々切磋琢磨するから、素晴らしい人材を輩出するのであろう。そこで学ぶ学生たちがつくづく羨ましいと思う。

「日本が採り上げられている」のも誇らしい気がするが、かの地の学問のスタンスこそが素晴らしいと感じさせてくれる。今からハーバードで学ぶことは叶わないが、テーマとして採り上げられるようにはなれるかもしれない。そんな夢を見ながら、仕事に邁進したいと思わせられる一冊である・・・

   
   
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2016年06月28日

【獅子吼】浅田次郎



獅子吼
帰り道
九泉閣へようこそ
うきよご
流離人
ブルー・ブルー・スカイ

浅田次郎の本は、出ればまず読むことにしている。そう決めている作家の一人である。
ちょっと変わったタイトルのこの本、タイトルの表題作を含む六つの短編集である。

「獅子吼」は、戦時中の動物園の話。文字通り檻の中のライオンの独白で物語は始まる。そして人間の登場人物である草野二等兵。とても兵隊向きとは思えない人物で、入隊前は動物園の飼育係をしていた。そして部隊の残飯を動物たちの餌にすべく、持ち出そうとして見つかり鉄拳制裁を受ける。そして草野には、ある命令が下される。

「帰り道」は、ある若者たちのスキー旅行の帰り道が描かれる。時に昭和40年。まだ週休二日制など夢の世界の時代。会社の同僚たちで示し合わせた日帰り旅行のバス。妙子は密かに憧れる光岡の隣の席に座る。
「九泉閣へようこそ」は、ある男女の旅行が描かれる。真知子は付き合っている春夫と二人で旅行に来ている。そしてかつては団体旅行で賑わったものの、今やすっかり寂れてしまった伊豆の老舗旅館に宿泊する。

「うきよご」は、ある腹違いの姉弟の物語。京都から東大受験の名目で東京に出てきた弟を、「厄介払いされた」と気の毒に思う姉が迎える。そして弟は紹介された寮で浪人生活を始める。
「流離人」は、ある列車で正面に座った老人が、ポツポツと語る若かりし頃の思い出。それは昭和20年、終戦間際に応召し、中国大陸に向かった時の話。車中で出会った不思議な中佐との思い出話。

「ブルー・ブルー・スカイ」はアメリカのラスベガスが舞台。アメリカを訪れた納豆製造会社の社員戸倉幸一は、一晩で5,000ドル負けた翌朝、一軒のグロサリーストアでなけなしの100ドルをポーカーマシンに入れる。するとそれが大当たりし、なんと2万ドルが当たる。小さな店にそんな大金があるわけでもなく、店主は幸一を残したまま金を受け取りに行く・・・

どれもこれもが短いながら、味わい深いものがある。一つの特徴として共通するのは、すべて時代が少し前の時代ということ。戦後しばらく経ってからの高度成長期時代である。「帰り道」では、まだ週に6日働いていた時代の話。たった1日の休みである日曜日に、職場の若者たちがスキー旅行に行く。次の日は仕事だから日帰りである。今なら土曜日に行って日曜日に休むか、土日の一泊だろう。つくづく、我々の親世代は大変だったと思う。そんな時代の香りを背景に漂わせる。

週に1日しか休みもなく、新幹線も東海道のみ。今から考えると、あまり戻りたくない時代だが、そんな時代の雰囲気が、物語に彩りを添えている。そしてどの物語も、結末は余韻を残して終わる。続きは、読者が想像力を働かせないといけない。しかしながら、そうした続きを想像してみる心地よさがある。この心地よさが、浅田次郎ならではだと感じる。

長編も短編も、それぞれ趣がある浅田次郎の小説。目をつぶって手にしてもまずハズレがない。この本は、そういう安心して読める一冊である・・・


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2016年06月26日

【中原圭介の経済はこう動く 2016年版】中原圭介



プロローグ 2016年、大転換する世界経済
第1章 【米国経済編】米国利上げで世界経済に何が起こるのか
第2章 【欧州経済編】チャイナ・ショックに怯える欧州経済
第3章 【中国経済編】中国経済の減速はこれから本格化する
第4章 【日本経済編】円安トレンドが終わり、日本株は低迷する

いつも定期的にチェックしている著者の本をまた一冊。読むのがちょっと遅くなってしまい、2016年ももう半ばである。その2016年の世界経済を予測した内容であるが、年半ばにしてもまだまだ刺激的である。

リーマン・ショック以降、金融緩和が浸透した世界。その金融緩和に過度に依存することにより、株式市場や不動産市場などでバブルの下地が醸成されつつあるという。そして経済成長が思うように伸びない先進国を中心に、経済統計の算出方法を変更することによって、GDP、GDP成長率をかさ上げしようとする動きが広まりつつあるとする。由々しき事態であるが、我が国も例外ではなく、いかに惑わされないようにするか、個人的には関心度大である。

波乱要因の一番に挙げられるのが、米国の利上げ。米国が利上げすれば、ローン金利が上がり、するとローンの支払いが増えることから、ローンで物を買う動きが減速し、米国の消費が鈍るとする。今は、原油安という神風が吹いており、これによって米国民の実質賃金の下落傾向が止まっているが、利上げはその効果を消失させ、米国への輸出が減ることで各国の経済も減速するのだという。相変わらず、説得力のある話である。

EUは2014年から、GDP算出に際し、麻薬取引やタバコ密売、売春などの「ブラック・エコノミー」をGDPに加えているという。驚きの事実であるが、こういうのこそ、マスコミが批判すべきであり、その役割を果たせているのかとも思う。期待する方が無理かもしれないが・・・
ECBは量的緩和によって域内景気を浮揚させようとしているが、到底不可能と著者はにべもない。なぜなら、企業は需要が見込めない限りは資金調達して投資などしようと思わないからと、当たり前の理由を説明する。こういうところも著者の意見が受け入れやすいところである。

中国経済の減速はこれから本格化するというが、いつまでも高成長が続くわけもなく、それも十分説得力がある。自動車の生産能力にしても、2,500万台の需要に対し、既に5,000万台の供給能力があるというから、実際のGDP成長率は、政府が発表している7%を大きく下回っているはずという指摘も頷けるものがある。

アベノミクスについては、著者は一貫してその効果を疑問視している。もっともゼロではなく、全体の2割程度だとする。御用マスコミははっきり調べないが、各紙の世論調査が奇しくもだいたい2割で一致しているところから、まんざら当たらずとも遠からずだと言えるという。実質賃金の下落要因は、巷言われるように消費増税などではなく、「行きすぎた円安」だという。著者は従来から、「良いデフレ」容認論を唱えており、それがここでも繰り返される。

安倍総理を始めとして、日本の景気低迷の原因はデフレというのが公式見解であるが、著者はそれを否定する。エネルギー価格の下落によるデフレは、生産設備の供給過剰によるデフレと違い、物価の下落率が実質賃金のそれを上回るため、かえって生活に余剰が生まれるとする。確かに理屈はその通りである。原油安によってデフレになるのは、国民経済においては好ましいのだという。「デフレ元凶論」がまかり通っている中、著者の意見は納得性が高いだけに面白い。

そして、2016年は米国の利上げによって円高トレンドへの転換があると予測する。それは過剰な円安への反動相場となり、円相場は1ドル100〜105円になると予測する。それは購買力平価でも裏打ちされる数字らしい。そうなると、当然株も下落トレンドに入ることになる。
著者は、政治経済の安定のためにはインフレ目標や金融緩和競争をやめるべきと主張する。それはずっと一貫した主張であるが、理由もわかりやすく、素人でも金融政策について意見が持てるようになる。それが著者の本を読むメリットであろう。

さて、ここにきて英国がEU脱退という大きなインパクトあるニュースが世界に流れた。著者もさすがにそんな予測はできなかったであろうが、FRBは利上げを当分見送りそうである。円相場はすでに102円をつけている。世の中がどう動いていくかなど、神のみぞ知る世界であるが、変動要因がわかるだけでも経済を理解する一助となるのは間違いがない。そういう意味で、著者の本を「定点観測」する意義は高い。

これからもずっと注目していきたいエコノミストである・・・

   

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2016年06月25日

【オレたち花のバブル組】池井戸潤



第1章 銀行入れ子構造
第2章 精神のコールタールな部分
第3章 金融庁検査対策
第4章 金融庁の嫌な奴
第5章 カレンダーと柱の釘
第6章 モアイの見た花
第7章 検査官と秘密の部屋
第8章 ディープスロートの憂鬱

『オレたちバブル入行組』に続く半沢直樹シリーズの続編。
前回、自己中の支店長に「倍返し」して営業第二部の次長になった半沢直樹。ある時、上司から呼び出され、本来は法人部が担当するはずの伊勢島ホテルの担当を言い渡される。伊勢島ホテルは、東京中央銀行から200億円の融資を得た直後、120億円の運用損を発表して問題となっていた先である。頭取直々の担当指名ということで、半沢は渋々担当を引き受ける。

時に東京中央銀行には、金融庁検査が予定されており、大口融資先である伊勢島ホテルはその検査の目玉とされている。検査で伊勢島ホテル向けの貸し出しが「分類」されてしまうと、銀行は多額の引当金を積まなければならなくなり、決算へのインパクトから頭取の首さえ危ういという重大な事態。

金融庁から送り込まれてくるのは、エースとされる黒崎という検査官。時にAFJ銀行の検査では辣腕を振るい、同行を破綻に追い込んでいた。検査での「分類」を阻止すべく、早速動き出す半沢だが、肝心の伊勢島ホテルからは十分な協力が得られず、取引店の担当もなぜか非協力的。例によって、「前門の狼後門の虎」状態の半沢は、その困難の中、「分類」絶対阻止というインポッシブルなミッションに向かう・・・

今回、それと並行して半沢の同期である近藤の姿が描かれる。近藤も優秀だったものの、かつて猛烈支店長の下で精神が疲弊し、今は京橋支店の取引先であるタミヤ電機に出向している。しかし、総務部長とは名のみで、悪化する業績下、事業計画すら作ろうとしない社長と非協力的な年上の部下、そして借入の申し出にいい顔をしない支社の担当者との間で、苦悩している。

二つの物語が微妙に絡み合い、今回も勧善懲悪スタイルで痛快な物語が進んでいく。個人的に面白いのは、やはり銀行の内幕を知り尽くした元銀行員の著者ならではの描写だろう。AFJ銀行が金融庁検査でやり込められる一幕は、UFJ銀行の実話そのままであるし、金融庁検査に際して、銀行は不都合な資料を隠す「疎開」行為を行うし、「旧T」と「旧S」という旧行意識のぶつかり合いは、今の三菱東京UFJ銀行の合併当初の行内の実話であるし、そうした伏線がまた物語を盛り上げる。

実際の銀行を知っていると、「そんなことはありえないな」と思わせるエピソードや説明に出くわすことがあるものの、池井戸潤の小説にはさすがにそんな部分はない。そこが読んでいてリアリティがあって面白いところだろう。半沢直樹の活躍も、時として自分より上の役員に歯向かったりして、実際のサラリーマンの立場としてはなかなかできるものではない。しかも勝敗はいつも当落選上で、薄氷の勝利といったもの。負ければ二度と浮かばれない理不尽な人事が待っているわけであり、実際には難しいだろう。だからこそ、読んでいて面白いのかもしれない。

テレビシリーズで大人気となった半沢直樹シリーズであるが、テレビの方はどうもイマイチであった。しかし原作の方は傑作であると思う。改めて、読んでいない人には一読の価値あるシリーズである・・・

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2016年06月24日

【シンプルに考える】森川亮



第1章  ビジネスは「戦い」ではない
第2章 自分の「感性」で生きる
第3章 「成功」は捨て続ける
第4章 「偉い人」はいらない
第5章 余計なことは全部やめる
第6章 イノベーションは目指さない

著者は、8年にわたってLINE株式会社の代表取締役社長を務めた人物。LINEと聞くと、「韓国の会社」というイメージがあったため、最初は?となったが、合併などをしているようであり、詳しい経緯は分からない。それに今はもうLINEを離れて別の会社を経営しているようであり、大ヒットしたLINEとの関係がなんとなく気になるところ。それはそれであるが、タイトルに惹かれて手に取ったとも言える一冊。

冒頭、会社にとっていちばん大切なことは、「ヒット商品をつくり続けること」と語る。事業によって、一番大切なことは異なるであろう。概ね、「商品」か「サービス」かになるだろうから、「LINEという会社にとって」ということとして理解したい。
こうしたシンプルな定義があちこちに出てくる。

・ビジネスは「戦い」ではない。
→ビジネスはライバルとの戦いではなく、いかにユーザーに良い商品を提供するかということだという意見には、素直に賛成できる。
・経営は管理ではない
→「自由こそイノベーションの源」ということであり、確かに細く管理されていたら自由な発想も出てこないかもしれない。風呂に入っている時に、よくアイディアを思いつく我が身を鑑みれば、よく理解できる。

「会社は何のためにあるのか」という問い掛けに、「世の中に価値を提供するためにある」とする。間違ってはいないと思うが、「働く者の幸せのためにある」と考える私とはちょっと異なる。ただし、私もその実現のためには「世の中に価値を提供しなければならない」と考えるので、まぁ同じなのかもしれない。

挿入されているエピソードも興味深い。
あるパソコンメーカーは、最初自社ですべての工程を行っていたが、コストカットになるからと、アウトソーシングを始めたところ、やがてすべての工程をアウトソーシングしてしまい、社内でやることがなくなったという。「会社は何のためにあるのか」を考えさせてくれる。

また、著者がソニー時代、テレビにネットを接続しようとしたところ、社内で反対にあったという。「何でテレビをネットに繋げなければならないのか」と。しかし、著者は、テレビを「遠く離れた場所に映像を届ける技術」と定義しており、その定義からすれば不思議ではないとする。こういう本質を問う議論はどの会社でもありそうである。

武器となるものが何もないから必死に考え、結果として鍛えられる。
正しい目的を達成するために必要なことであれば、自分がどう思われようと素直に相手に伝える。
守りに回ると責められなくなる。
ユーザーが求めていることの本質を知る。
なるほど、「シンプルに考える」という著者の思考が、そこかしこに表れている。

難しく考えても、物事の本質はシンプルであることは得てしてあること。著者の考えは、それを実感させてくれる。この本は、「シンプル思考」を鍛えるいいトレーニングになるかもしれない。
私自身、改めてそれを心掛けたいと思うのである・・・


  
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2016年06月23日

【フェルドマン博士の日本経済最新講義】ロバート・アラン・フェルドマン



第1章 世界経済と日本
第2章 アベノミクスの評価と今後
第3章 エネルギー政策を考える
第4章 働きやすい労働市場にするために
第5章 少子高齢化社会の煉獄
第6章 地方再生と教育改革の進め方


著者は、モルガン・スタンレーMUFG証券の日本担当チーフエコノミストであるが、一方でテレビ東京の『ワールド・ビジネス・サテライト』のコメンテーターも務めているということで、それなりに著名な方である。そんなエコノミストが語る日本経済ということで、興味を持って手に取った次第。

まずは世界経済から見た日本の強みと弱みが語られる。
強みは「豊かな水と農地」そして「技術」だという。日本の今後の成長産業は農業という。何となくわかるような気がするが、はっきりそうだろうかという確信もない。しかし、日本の1/4しかない農地面積のオランダが、農産物の輸出においてアメリカに次いで世界第2位と聞くと、俄然可能性を信じられる。「技術」は言わずもがな、である。

一方、弱みは「人材育成」。税金について高齢者のために使っているお金と若者のために使っているお金との比重を挙げている。ある程度は仕方ない気もするが、「義務教育のうちからグローバル化を意識して人を育てていく必要がある」という指摘は頷けるし、まぁ一つの意見として正しいと思う。

何となくよくわからない問題については、誰かの意見を聞いてみたくなるものだが、TPPに関する意見はその代表のようなもの。著者はそのメリットを4つ挙げる。
1. 農業分野におけるビジネスチャンス
2. 色々な商品の検査を国際基準で行うことが資源や手間の節約になる
3. アジアの貿易環境の整備
4. 日米関係の新たな象徴
それなりになるほどと思えるが、今度はデメリットについても知りたいところである。

アベノミクスについての評価は興味深いところ。それについては、
1. 第1の矢・・・非常にうまくいっている
2. 第2の矢・・・ある程度成功しているが、まだまだ宿題が多い
3. 第3の矢・・・分野によって分かれており、「農業・企業統治4」、「教育3.3」、「行政3」、「税制3」、「医療2.2」、「雇用2」、「エネルギー1.3」、「移民1」、「選挙制度改革0.6」
としている。
総じて、アベノミクスが成功したかどうかについては、「まだわからない」とするが、こうした分析はとても参考になる。

なぜ財政改革ができないかといえば、「政治は既得権益に弱いから」との意見には、なるほどと思う。
各選挙区の議決権を選挙区の人口比例で与えるというアイディアは、なかなかである。
日本のエネルギー政策は、原発再稼働に重点を置いてきたため技術を広げようというペースが遅いという意見は、やっぱりなと思う。
「核廃棄物の処分方法が決まらない以上、処分にかかる費用も計算できない」という意見には、多いに共感させられる。「限られた研究開発のお金は、原発よりも将来性が有望な太陽光や風力などの再生可能エネルギーに向けられるべき」という意見は、我が意を得たりの感がある。

その他にも、喫煙者やメタボの人は保険料を高くするという意見は、斬新だ。これは実にいいアイディアだと思う。こうした考えに触れることは、自分の思考の刺激にもなり、自らの発想も広げさせてくれる。この本に書かれていることは、みんなで大いに議論すべきことではないかと思うところである。

どうしたらこの国がより良い国になっていくのか。そうした思いを持つ人にとって、そのヒントに溢れた一冊である・・・
   
    
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2016年06月16日

【銀行総務特命】池井戸潤



漏洩
煉瓦のよう
官能銀行
灰の数だけ
ストーカー
特命対特命
遅延稟議
ペイオフの罠

池井戸潤の小説をいろいろ読んでみようと思っている。そして選んだのがこの本。元銀行員だけに「銀行モノ」にはちょっと期待してしまうが、これは半沢直樹シリーズとはまた別物であり、その点でも興味深い。

主人公は、銀行内の不祥事処理を専門とする総務部の指宿修平。銀行=信用というイメージとは裏腹に、やはり事件を起こす人達はいる。そうした「陰」の部分はただでさえ興味深いところであるが、それにスポットライトを当てたわけで、それだけでも興味をそそられる。

内容は、指宿修平を主人公としつつ、指宿がいろいろと起こる不祥事を処理していくという短編形式になっている。
銀行の顧客情報が漏れた疑いのある「漏洩」。
煉瓦のような顔をした執行役員が携わった闇を扱う「煉瓦のよう」。
女子行員がアダルトビデオに出演したという「官能銀行」。
行員の家族が誘拐される「灰の数だけ」。
女子行員がストーカーに狙われる「ストーカー」。
総務部特命の指宿の首を取ろうと人事部特命の男が狙う「特命対特命」。
支社長が何者かに刺される「遅延稟議」。
経営破綻した銀行員と老婆の預金を扱った「ペイオフの罠」。

銀行に起こりがちな事件などを扱って、どれもそれなりに面白い。「クレジット・ファイル」と呼ばれる顧客の融資資料をまとめたファイルは、名前もそのままに取り上げられる。流出した顧客情報には、企業の「行内格付」情報まで記載されている。普通の人ならあまりピンとこないかもしれないが、銀行員であれば、その重大性がわかるというもの。「オブリゲーションを負う」などという銀行内の専門用語も飛び出す。ただ、各章とも最後はいずれも結末はあっさりしている。何があったのか、どう言う展開になったのかは読者に想像させるスタイルである。それのせいではないかもしれないが、何となくシャープさに欠ける気がする。

事件を調べると言っても、警察ではないので、そこには当然限界がある。例えば自分の銀行の口座情報は入手できても、他行のそれは入手できない。しかし、そこは他行の「特命仲間」に頼んだりして、うまく情報を手に入れたりする。口座の入出金履歴を丹念に調べ、振込で流出している場合は、流出先の銀行を調べたりするのはよくやることであり、そうした「手口」は一般の人には面白いのかもしれない。

半沢直樹シリーズと何となく「切れ味」が違う気がするのは、この作品がデビューから4作目と初期の頃のものだからかもしれないし、短編集だからかもしれない。いずれにせよ、半沢直樹シリーズとはちょっと切れ味が劣るところは残念な気がする。まぁ全てが痛快というわけにもいくまい。全くつまらないというわけではなく、それは「半沢直樹シリーズと比べれば」という但し書き付である。
これはこれとして、また別の本を試してみようと思うところである・・・


    
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2016年06月15日

【大前語録】大前研一



第1章 ビジネスマンを奮い立たせるための42か条
第2章 最強のリーダーになるための24か条
第3章 人生を強く生きるための22か条

大前研一の本は、やはり出るたびに要チェックであるが、それだけの価値はやっぱりある。一読したところ、どうやら過去あちこちで語った言葉を整理してまとめたという内容で、物によっては記憶に残っているものもある。しかしながら、それでもこういう形でまとめてもらうのは、それはそれで価値があると思う。

・日本には「大器晩成」という言葉があるが、実際にはそういう人はあまりいないと思う。私に言わせれば、それは最初にサボっているだけだ。
はじめにまずグサリとくる。私自身、「最初にサボっていた」意識はないが、「のんびりスタートした」認識はある。

・当たり前のことを当たり前にやっていたら、当たり前の結果にしかならない。どこかに当たり前でないエキセントリックなところがないと、他より抜きん出ることはできない。
・悪魔の主張をする-反対を表明する勇気を持つことが、ビジネスマンにとっていかに必要かを痛感している。
この2つは今の職場で主張し、実践できている。それに強い自信を与えてくれる。

・腐った鯛は単なる腐った魚。
このシンプルな言い切りがいい。これに続けて「倒れる大樹の陰にいたら潰される」とあるが、いつも「無難」を選ぶ人に突きつけたくなる。

・宵越しのメールは持つな。メールの返事はすぐに出す。
・与えられた仕事を与えられた通りにやっているだけの人には名札≠ェつかない。名札≠ェつかなければ値札≠烽ツけられない。
・上司が「A」と言ったら、「A+B」の仕事をこなさなければならない。
こうした仕事におけるスタンスは、改めて意識したいところである。忘れかけた頃に思い出させてくれるという意味でもありがたい。

・仕事には面白い仕事のやり方と、面白くない仕事のやり方がある。
・成功する人はどんな仕事でも厭わずやるが、成功しない人は仕事を選ぶ。
改めて自分の仕事ぶりはどうだろうかと、自問してみたくなる。

・企画力のない人間は、どうにかひねり出した1つのアイデアにいつまでも固執し、別の発想をしてみたり、同じ発想を別のモノやコトに当てはめてみる柔軟な発想ができない。
これは自分でもドキリとさせられるところがある。改めて柔軟な発想を心がけてみたい。

・参謀は3年先を読み、3年後の成功をみなに約束する力を持たなければいけない。
・参謀たる者は「イフ」という言葉に対する本能的な恐れを捨てなさい。
「企業参謀」で紹介されていた考え方だが、常に意識したいところである。

・考えるべきは、「ライバルに勝つ」ことではなく、「顧客ニーズ」である。
・会社というものは「顧客に奉仕すること」以外の目的を持ってはいけない。
・戦略とは、自社(Company)の相対的な強みを、顧客(Custmer)のニーズを満たしうるように用いて、競争相手(Competitor)よりも優位な差別化を達成しようとするための努力の結晶である。
これは今の仕事で大いに役立つ考え方である。

・人間というのは我慢している間に頭が、フリーズ≠オてダメになる。
いろいろ「我慢」してきただけに、フリーズ≠オてないか確認しないといけない。

・社会や企業環境が激変すると、今までとは違う処世術や人生観の類を求めがちだが、本当に必要なのはむしろどんな状況でも変わることのない生きる姿勢だ。
言ってみれば、「信念」であるが、これは常に気持ちの中にあるから大丈夫である。

・家庭内の唯一の安全装置は対話だ。禁止するよりも、それを前提に子供との対話を活発にしたほうがいい。
これはその通りだと強く思う。

全体として、すぐに読み終えてしまうが、中身は本の厚さに反比例して重い。こう言うタイミングで出版され、こう言うタイミングで読めたことは大きいと思う。読んで頷くだけではなく、すぐにでも実行したいところである。

改めて大前研一は、自分にとって影響力の大きな人だと思わせられる一冊である・・・



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2016年06月13日

【あの日にドライブ】荻原浩



主人公は、タクシードライバーの牧村伸郎、43歳。もともとはなぎさ銀行に勤める銀行員であったが、ある時、部下を庇って支店長に逆らい退職したという。それぐらいで、とも思うが、本人は転職先などすぐ見つかると考えていたようで、あちこちの誘いはプライドが邪魔をして断り、望む先からは採用されず、それではと受けた公認会計士の試験には失敗。当面の生活費を稼ぐためにタクシードライバーになっていたとあると、まぁそんなケースもあるだろうと思う。

そんな牧村は、慣れないタクシードライバー生活が思いがけない激務で、公認会計士の勉強どころではなくなっている。そして日々、たまたま乗り合わせた会社社長から思いがけないスカウトを受けるという夢を見ている。元銀行員からすれば、この主人公の気持ちはよくわかる。自分はなんとなく世間一般のサラリーマンから比べれば、「優秀」だという意識があり、だからこそ、在職時の仕事ぶりを認めてくれて誘ってくれた「格下の」中小企業に行くのは、なんとなく勿体無い気がしてしまう。そうしてズルズルと日が経ってしまうのである。

タクシードライバーも、いわば仮の姿で、客との何気ない会話から元銀行員だという素性が分かり、スカウトされるという「夢」を見ている。そしてそんな「夢」はまず実現しない。同僚のドライバーは、みんな一癖も二癖もあり、ギャンブル三昧で、銀行員が日頃接する人たちとは「人種」が違う。家庭でも伸郎は浮いた存在で、どこにも己の居場所が感じられない。

そんなある時、客を降ろした場所がたまたま昔下宿をしていた近くであったことから、懐かしいその下宿を訪ね、空き家となっていたかつての「我が家」を訪れる。そして思い出すのは、一時期付き合っていた恋人の恵美。風の噂で離婚して実家へ戻っていると聞くと、今度はかつて行ったことがある恵美の実家の近くに行き、密かに家を眺める。かつての恋人と、別れなければ歩んでいたはずの「もう一つの人生」を思い浮かべながら・・・

物語は、そんな伸郎の姿を追っていく。「もしもあの時、○○していたら・・・」という妄想は、誰もが抱くかもしれない。かく言う私もそんな妄想をいつも抱いている。だからだろうか、妄想ばかり抱いて現実から顔を背けているような主人公の姿に、心が傷む。しかし、そんな中、伸郎は月に7日にやってくる大ベテランのドライバーが、不思議とノルマをこなしていることに気づき、やがてその秘訣をつかんで営業成績を上げ始める。

それにしても、毎回5万円のノルマだとか、ほぼ24時間勤務の実態とか、ドライバーの生活ぶりなど綿密に取材したのか実にリアルである。そしていろいろなコツをつかんで実績を上げていく様子は、ビジネス小説のようで、サラリーマンにはヒントになる。自分だったらできるだろうかと「妄想」してみたりするのである・・・
著者の本は初めて読んだが、等身大の主人公の姿が身近に感じられて面白かったと言える。

そしてどうしようもない袋地に迷い込んだような主人公が、やがて大事なことに気づいていく姿も安心させられるものがある。フィクションではあるものの、いろいろと示唆に富んだ小説である。機会があれば、著者の他の本も読んでみようと思わせられる一冊である・・・

   
   
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2016年06月12日

【成功するイノベーションは何が違うのか?】ネイサン・ファー/ジェフリー・ダイアー



原題:The Inovator’s Method:Bringin the Lean Start-up into Your Organization

序 章 はじめに 
第1章 イノベーション実現メソッド
第2章 不確実な時代のリーダーシップ
第3章 インサイト-サプライズを味わう
第4章 課題-片付けるべき用事の発見
第5章 ソリューション-最小限の素晴らしい製品のプロトタイピング
第6章 ビジネスモデル-市場投入戦略の検証
第7章 ピボットのマスター
第8章 拡大
第9章 イノベーション実現メソッドを機能させる
まとめ  不確実性を機会に変える
付録 イノベーション実現メソッド概要

著者は、イノベーションを専門とする大学教授2人であり、何と言ってもタイトルに惹かれて手に取った一冊である。しかしながら、タイトルと中身には、少々ニュアンスの違いがある。中で説かれているのは、「イノベーション実現メソッド」と呼ばれるもので、「イノベーションを実現させようと思うなら、このようにすれば効果的」といったものである。まぁ細かいニュアンスは気にしないことである。

現代は、「これまでにない不確実性の時代」だという。顧客の好みは、ただ単に変化しているだけではなく、「加速度的な速さで変化している」という。それはズバリ、「個人レベルでのパソコンの利用」と「インターネット」が理由だとする。不確実性も「需要」と「技術」の二面があり、この本で説かれる「イノベーション実現メソッド」は、「需要の不確実性」に大きな効果を発揮するようである。

そのイノベーション実現メソッドは、
1. インサイト
2. 課題
3. ソリューション
4. ビジネスモデル
のプロセスから成り立っている。

「インサイト」は、著者は「サプライズを味わう」と表現しているが、言ってみれば「気づき」であり、「質問力」、「観察力」、「ネットワーク力」、「実験力」から関連付け思考を経て得られるものとする。そして、「課題」とは「片付けるべき用事」であり、これによって目指す目標を明確にするわけである。イノベーション・リーダーがやることは、「大きな課題」を設定することで、スティーブ・ジョブズが掲げた「世界で最も使いやすいパーソナルコンビュータを開発する」、「ポケットに1000曲を」という課題を例示する。

こうした課題に対し、「ソリューション」で解決を図る。ただし、不確実性に直面している際に課題を予見することは難しく、できることは推測することであり、それが正しいか間違っているかどうかは、市場で実験するしかない。その時、役立つのが「ピボット=大きな変更」という考え方。ピボットとは、バスケット用語で片足を固定したまま、チャンスを求めて動くことであり、具体的には、最小限の素晴らしい製品のプロトタイプを作ってみることだとする。

こういう本は、当然ながら「実例先行」となる。ある成功事例があって、それを研究して同じように成功するにはどうしたら良いのかを探ろうとするのである。そうして導き出されたエッセンスが、「イノベーション実現メソッド」なのであるが、正直言ってなんとなくしっくりこない。私の読解力に問題があるのかもしれないが、あまり理論的な話はイメージがしにくいところがある。

一方、解説には個別具体的な企業の例が取り上げられている。インテュイットは、インサイトを生み出すために、勤務時間の10%を自由に使えるようにし、数多くの新製品を生み出したという。世界最初のラップトップを開発した東芝は、当初経営陣の反対を受けたものの、本社から遠く離れた青梅工場で密かに開発を続け、ヨーロッパでの販売実績を積み上げてようやく承認を得、最終的には国内で46%のシェアを獲得した等々である。

成功の方程式とかエッセンスとか、もちろん大事ではあるが、ここで説かれている「イノベーション実現メソッド」はイマイチ心に響いてこないというのが正直なところ。やはり企業の具体例に勝るものはないのかもしれない。とはいえ、この本が全く無意味というわけではもちろんなく、そのエッセンスは大いに参考にはしたいと思う。

「イノベーション」は、これからの大事なキーワードの一つでもあると思うし、今後とも意識していきたいと思うのである・・・

   
posted by HH at 23:18| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス/自説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする