2016年10月30日

【空気を読んではいけない】青木真也



第1章 人間関係を始末する
第2章 欲望を整理する
第3章 怒り、妬み、苦しみ、恐れ。負の感情をコントロールする
第4章 一人で生きていくためのサバイバル能力の養い方
第5章 他人の「幸せ」に乗らない

著者は、総合格闘技のファイター。最近はほとんど観ることもないので知らなかったが、シンガポールに拠点を置く団体ONE FCのチャンピオンだそうである。もともと柔道からスタートし、大学生の時に修斗という団体に参加してチャンピオンになる。卒業して一旦は警察官になるが、すぐに退職してPRIDEに参加。以後、DREAM、ONE FCと所属を変え現在に至っているという。

そんな著者は、子供の頃から「右を向けと言われれば左を向く」ような子供だったという。それだけではないが、とにかく変わっていた様子。それは徹底していて、「大人になった今でも友達はいない」と語るところに現れている。「友達に合わせることで自分の個性がなくなってしまうのであれば誰とも仲良くしないのが一番」という言葉は、なかなかである。

早稲田大学では柔道部に所属する。強くなろうとクラブチームにも参加して練習していたというから徹底している。そして周りと合わせない妥協のなさで、柔道部をクビになる。柔道のスタイルも異質で、指導者から批判されていたらしい。だが、いくら難癖をつけられても「勝てなくなったら自分の価値はなくなる」と意に介さない。このスタイルも徹底している。

そのほかの拘りも独特だ。
・勝つならば負ける覚悟、刺すならば刺される覚悟、折るならば折られる覚悟、両極の覚悟をもたない選手は怖くない
・接待されることによって足元を見られてしまうのなら、その場に行かない
・借りを作らず、貸しを作ることを意識する
・利害が一致すればまた交わるのだから違和感を覚えたら躊躇なく縁を切ってしまえばいい
とかくこの世は人間関係であると思うが、それを極力排除しようとするスタンスは、格闘技という世界に生きるからこそ必要であり、通用するのかもしれない。

・ビックマッチに勝利しても、桁外れのファイトマネーが流れ込んできても、自分の生活を変えることはまったくない
・勝ってちやほやされても、負けてこき下ろされても、やるべきことを淡々とこなす自分でありたい
・格闘技界は恵まれていないが、食えない業界ではない。大勢の何も考えていないファイターが食えていないだけ
・もしも本当に強くなって格闘技一本で食べていきたいならばエネルギーを投下すべきところは格闘技だけ
ストイックなまでのスタンスは、どの業界であろうと必要なスタンスなのかもしれない。

大きな組織に所属していることが安定ではなく、「組織にぶら下がることなく、安定を捨ててこそ本物の強さが得られる」という著者の立場は、フリーランス。しかし、フリーランスであっても、「価格交渉はしない」というスタンスを維持しているとのこと。自分の価値を自分で作るという意識でいるそうである。こうしたスタンスは、サラリーマン根性にどっぷり浸っている人にはわからないかもしれない。

Youtubeで何試合か観てみたが、やはり強さは本物のようである。そして人気を集めるファイターというよりは、嫌うファンも多いのではないかと感じさせるところがある。それがたぶん本を読んで感じる「付き合いにくい人物」というイメージであろう。それを苦とせず、ひたすら己の信じるところを追求するのが、著者の強さの本質なのかもしれない。

それにしても、こういう人物によく本を書かせたものだと思う。さすがは『たった一人の熱狂』の社長さんだと改めて思う。自分とは異質で触れ合うことはない世界の人だと思うが、本を通じて知ることができるというのも、喜ばしいと思う一冊である・・・


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2016年10月29日

【下町ロケット2】池井戸潤



第1章 ナゾの依頼
第2章 ガウディ計画
第3章 ライバルの流儀
第4章 権力の構造
第5章 錯綜
第6章 事故か事件か
第7章 誰のために
第8章 臨戦態勢
第9章 完璧なデータ
第10章 スキャンダル
第11章 夢と挫折

池井戸潤を初めて読んだのは、何を隠そうこの本の前作『下町ロケット』であった。その続編ともあって、早く読みたかったが、ここに至って読むことができた次第である。

物語の舞台は前作と同じ佃製作所。ある日、大手メーカー日本クラインから開発依頼を受ける。しかし、図面のみに基づく開発依頼で、なんの部品かは伏せられている。しかも予算も割に合わない。別ルートからの情報で、どうやらそれは人工心臓の部品らしいと判明する。佃製作所は、完成後の量産を受注できるという口約束で赤字の開発を引き受ける。佃社長は、社内の開発担当として中里を指名する。

その人工心臓の開発は、心臓外科分野では日本でトップクラスのアジア医科大学の貴船外科部長が中心となっており、日本クラインが共同開発に当たっている。しかし、人工心臓「コアハート」の開発を進める日本クラインは、佃製作所に開発依頼したバルブの量産をサヤマ製作所に発注してしまう。

一方、かつて貴船に師事していたものの、手柄を横取りされた上、北陸医科大学に赴任させられた医師一村は、地元企業のサクラダと人工心臓弁の開発を進めている。技術的な壁に当たった両者は、その開発を佃製作所に依頼する。帝国重工とのロケットエンジン部品の発注を巡りサヤマ製作所と競う佃製作所に心臓弁の開発依頼は困難であったが、一村とサクラダの開発にかける思いに動かされた佃製作所は、その開発プロジェクト「ガウディ計画」に参加することにする・・・

こうして中小企業ながら技術力を売りにする佃製作所は、今度は医療分野に挑戦する。とは言え、前作もそうであったが、中小企業の佃製作所は大企業の論理に煮え湯を飲まされ、また有利な立場を利用しての嫌がらせやパワーゲームが展開される。力のない佃製作所は、唯一の武器である技術力と熱い思いでこれに立ち向かう。判官贔屓も手伝って、自然と佃製作所を応援する気持ちが湧いてくる。熱い思いに目頭が熱くなることしばしばなのも前作同様である。

佃製作所の技術者であった中堅社員の中里は、それまでの不満もあり、日本クラインからの開発案件について、量産の受注に失敗すると、ライバルであるサヤマ製作所の引き抜きに応じて転職する。会社もさることながら、サラリーマンとしてどう身を処すべきか。今回はそれについても考えるヒントをくれる。小説だから「正義は勝つ」的なところはあるが、現実に置き換えると判断は難しいと思わなくもない。

それにしても、小説というのは思わぬ副次的な効果を持つものだと思わなくもない。この本のメインテーマは医療機器。その認可の仕組みだとか、それにまつわる問題点だとか、知らず知らずのうちに知識を得ている。最終的な認可は厚労省であるが、実施的な審査を行うのはPMDAという組織。医療機器の審査は当然ながら命を扱うものだけに慎重を期すべきであるが、度が過ぎればいつまでも実用化はできない。それが世界との格差=「デバイスラグ」という問題にもなるのである。

かくして佃製作所のチャレンジは、試練の大嵐の中続いていく。黙っていても物語に引き込まれていく。いつも電車の中で本を読む人は、読まない方が賢明だと三日のうち二日も乗り過ごした経験者として保証したい。期待は裏切られることなく大いに満たされる。周りにも勧めたい一冊である・・・

  
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2016年10月28日

【2020年マンション大崩壊】牧野知弘



第1章 「地方」の問題ではなくなった空き家問題
第2章 都心部で進む「マンション空き家問題」
第3章 老朽化マンションが抱える「スラム化」の恐怖
第4章 問題解決を阻む管理組合という存在
第5章 タワーマンションの将来
第6章 マンションの資産価値を考える
第7章 解決のための処方箋
第8章 不動産価値の大変革を迎えて

 著者は不動産業界に長く身を置いている方のようで、以前にも『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』という本を読んでおり、それなりに参考になっている。今回は「マンション」にスポットライトを当てた本であり、今の仕事柄興味を持った一冊である。

冒頭で、湯沢のリゾートマンションの現状が説明される。バブル期にもてはやされた豪華なリゾートマンションであるが、今はブームも去り、なんと1戸あたり10万円で売られていて、それでも売れないのだという。管理費滞納もあり、将来的にはエレベーターの保守管理も費用を賄えなくなり、「スラム化」する危険性があるとする。こういう「水面下の危機」は、業界関係者としても無関心ではいられない。

そして説明される「空き家問題」。地方の高齢化と人口減少による空き家急増が第一段階だとしたら、首都圏郊外の住民の高齢化と人口減少による空き家問題は第二段階だとする。首都圏郊外の空き家問題は、「非正規雇用の増加による所得減」、「未婚率の上昇」、「女性の社会進出による子育てのための職住近接化」により急速に進展してきているという。「2020年の東京オリンピックのフイナーレが空き家問題暴発の号砲」という指摘は、なかなか恐ろしい気がする。

人口の都心回帰で、都心部では空き家問題も少ないのかと思いきや、実は都心部では相当数にのぼるマンションの空き住戸が存在しているという。それは一足早くマンションの供給が始まった都心部では、その分老朽化したマンションが多いためでもあるという。特に古いワンルームマンションは、設備面でも魅力に乏しく、競争上不利なのだという。その点はよく理解できるところである。

現在は、オリンピックも控え、建設資材を含めて建設費が上昇しており、そのため分譲価格も高騰している。ただし、建設費の上昇による価格上昇はマンションの資産価値の増加を意味するものではなく、将来的には値下がりリスクも大きいとする。実際、現在はマンション価格が高騰していて、冷静に採算面を考えると、新規投資は事実上困難である。

老朽化したマンションは「スラム化」の恐怖があるという。まずマンション内は空き住戸の発見が困難であり、世帯主の高齢化や孤独死、管理費修繕積立金の滞納等がある。高齢者が認知症になるケースもあり、亡くなっても相続人不在というケースもある。利害関係もそれぞれであり、建て替えは当然として、大規模修繕ですら合意形成が困難だとする。

さらに脚光を浴びるタワーマンションも、豪華共用部分の維持管理に高額費用がかかり、また販売時には「売りやすさ」優先で修繕積立金がわざと低水準に抑えられているケースは当たり前のようにどこでも行われている。また、高層階は富裕層、低層階は「普通の」住人という形で別れているのも合意形成が難しい一因だとする。

こうした問題点は、改めて整理するには一冊の本という形は良いかもしれない。将来に向けた提案としては、マンションは本来「賃貸に適している」とする。利便性が高く、住戸の管理しやすく、オートロックなどのセキュリティなどの状況からであるが、それもまた一つの考え方である。

興味がない人からすると、興味のない問題であると思う。しかし、私のような業界関係者であれば、関心もあるだろう。そういう者にとって、問題点を整理できるという点で、大変参考になる本である。これから家を(特にマンションを)買おうと考えている人にも、一読の価値ある一冊である・・・



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2016年10月23日

【みんなが知らない超優良企業−新しいニッポンの業界地図−】田宮寛之



第1章 世界の人口爆発に勝つ企業
第2章 世界が驚くニッポンオリジナルの企業
第3章 世界が注視する高齢化対応の企業
第4章 お家芸の「おもてなし」で伸びる企業
第5章 急成長!技術力が高く買われる企業
第6章 新たなインフラ需要で収益を伸ばす企業

なんとなくタイトルに興味を惹かれて手にとった一冊。タイトルからイメージするのは、当然企業紹介の本なのであろうが、例えば『ビジョナリー・カンパニー』シリーズとか、『グレート・カンパニー』あるるいは、『日本で一番大切にしたい会社』のようなものをイメージしていたら、まったく違っていて、単なる企業紹介本であった。

成功する企業や超優良企業の超優良たる所以でも紹介してくれていたら良さそうなものだったが、最近の就活学生が企業研究をしていないという声を紹介し、どうやらその一助とならんことを意図したようである。それが故に、なんの変哲も無い企業紹介本に終始してしまっているのが本書。はっきり言って、事前に分かっていたら読まなかったところだが、選んだのは自分であるので致し方ない。

例えば第1章では、「人口爆発に勝つ企業」が紹介される。それは海水を濾過する装置を作る企業であり、その代表として千代田化工建設、日揮、東洋エンジニアリングが紹介される。さらに濾過幕では日東電工、東レ、東洋紡、海水ポンプでは荏原製作所、酉島製作所、プラント設備にはもってこいの金属チタンを扱うのは大阪チタニウムテクノロジーズという感じである。就活学生ならふむふむと頷いて参考にするところだが、ベテランビジネスマンからすると、「それで?」となる。

それでもエネファームが、ガスを水素に変えて酸素と結合させることで熱を生じさせるものだというのは、知らなかったことであり、このあたり雑学的にはタメになる。原発ビジネスは世界的には成長産業で、技術力の高い日本の企業にとってはビジネスチャンスが大きいというところは、原発反対の立場としては微妙だ。反対する立場としては、知っておかなければならない事実の一つだと思う。

食糧ビジネスにおいては、実は世界第2位の農作物輸出国は日本より面積の狭いオランダという事実が紹介される。それ自体は『フェルドマン博士の日本経済最新講義』で知っていたが、さらにアラブ首長国連邦も日本より上位だという事実は知らなかった。日本の関連企業も多数あり、改めて農業ビジネスは有望事業なのだと認識させられる。

そうして読んでいくと、実に様々な分野で日本には有望企業がたくさんあるのだとわかる。都市鉱山をもっと有効活用しないといけないとか、学習塾は日本では頭打ちだが、アジアマーケットはこれからとか、ロボット化、医療ビジネス、カレーや倉庫など、世界で勝負できる企業が多々紹介されている。そうした観点からすると、個別の企業紹介というよりも、日本経済の現状的な捉え方で読むと結構面白いとわかる。

本の読み方は人それぞれであるが、読み方によっては就活学生からベテランビジネスマンまで面白く読める要素はあると思う。就活学生にアドバイスするという観点からの読み方もあるかもしれない。日本経済を鳥瞰的に見てみるのも一つの見方であり、自分にあった読み方を選んでみるのもいいかもしれない。そんな感想を抱いた一冊である・・・


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2016年10月22日

【中卒の組立工NYの億万長者になる】大根田勝美



第1章 ビジネスのタネは道端にあり
第2章 チャンスの神様の前髪をつかめ
第3章 群れの中のエリートより一匹狼になれ
第4章 会社を「売る」ことこそ最大のビジネス

タイトルにある通り、著者は一代で巨万の富を築いた成功者。その名を聞くのは初めてであるが、それも大企業を育て上げたというわけもなく腕一本で渡り歩いたという経歴ゆえなのかもしれない。しかしながらその生き様は、ビジネスマンにとってとても参考になるものである。

その著者が生まれたのは、昭和12年。父は東京で理髪業を営んでいたが、太平洋戦争の戦火が激しくなると、一家で長野県へ疎開する。しかし、親戚等身寄りもなく、仕事もない田舎で、一軒家に5世帯がひしめく貧乏生活であったという。著者は常に腹を減らし、同級生にはからかわれバカにされる中、なんとか食べるものを手に入れようと奮闘する。

まずはガラスや鉄くず拾い。次に銅線。さらに農家のために落ちた大豆を広い、やがて田んぼで鰌を取る。この鰌であるが、取ってすぐ売るのではなく、魚屋の店頭の売れ行きに応じて「出荷」するという商才を見せる。在庫管理と市場原理を習わずとも実践するところは、のちの成功の礎であろう。さらにガマの油売りを見て、デモンストレーションを自然と学んだという。

そんな底辺の生活を抜け出たのは、勉強のできた姉が、当時地元の優良企業であったオリンパスに入社し、その勤務ぶりが良かったため、著者も組立工として採用されたからのようである。まともに働き始めるが、胃を壊して2/3を切除する手術を受ける。ところがこれが手術不要の誤診であったことがわかり、著者は胃腸に関する資料を読み漁って勉強する。これが後々活きてくる。

失恋を機に素行不良となり、厄介払いの意味もあって東京転勤となる。ここで英語を駆使する「輸出部」に反発を抱き、自ら英語のマスターを誓う。そして24時間365日英語漬けの日々を過ごし、1年後会社の英会話教室でそれを披露しみんなの度肝を抜く。そこには人事部の目を意識した計算もあり、会社も海外進出の動きが本格化する中、海外勤務の栄冠を勝ち取る。元組立工で機械に強く、当時は営業部に在籍しており、さらに英語ができれば海外派遣の候補となれると読んでの努力は見習うべきところがある。

こうしてアメリカに渡り、オリンパスのガストロカメラ(胃カメラ)の販売を行うことになる。当時は、アメリカ人の営業も不親切なものだったらしく、著者の営業スタイルは顧客の支持を受け成功していく。自らには以下のルールを果たしたという。
1. 相手との約束を守る
2. 相手にメリットのない取引はしない
3. 親身になって対応する
4. 自分ならではのセールスポイントを作る
5. 自分の存在をアピールする
こうして築き上げた信頼は、営業成績もさることながら、グリーンカード申請の時、有名な医師3名からの推薦状をもらうことにも繋がっていく。

会社とも時に腹をくくって交渉し、最後は2度にわたって袂を別つことになるが、その後、日本人医師との出会いや、アメリカ人のパートナーとの出会いによって、莫大な富を築いていく。才能というよりも、その努力にひたすら頭の下がる思いがする。ここまでやっているだろうかと自分に問うてみても、到底及ばない。されどそのエッセンスくらいは試みたいと思うところである。

ありきたりな仕事に危機感を持っている人は、読むと刺激を受けることであろう。少しだけでも何か努力してみようと思わされる一冊である・・・


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2016年10月21日

【天才】石原慎太郎



最近、田中角栄がブームである。関連書籍やテレビ番組等よく目にする。そのきっかけとなったのが何かは知らないが、ベストセラーとなってブームの「象徴的」でもあるのがこの本であると言える。そんなわけで手に取った一冊。

 角栄さん関連の本といえば、これまで元秘書だった早坂茂三氏の著書や、先月は『冤罪 田中角栄とロッキード事件の真相』を読んだが、そのほかにも実にたくさんの本が書かれているのだという。戦後の政治家で角栄さんほど多くの本が書かれている者はないのだそうである。これはそんな角栄さんの本であるが、内容はすべて一人称で書かれており、一瞬、角栄さんが自ら書いたのかと錯覚させられる。

 子供の頃はジフテリアの後遺症でドモリだったらしいが、ある時それが理由でイジメられ、思わず大声でわめき散らしたことがヒントとなり、学芸会で先生に頼み込んで弁慶役をやらせてもらう。その舞台をこなすことで見事ドモリを克服したのだという。その時の経験から、何事も事前の仕掛け=根回しが必要だと学んだという。子供の頃からやはり違いをみせている。

 高等小学校を卒業し、土方となってトロッコを押して暮らしていたが、嫌になって辞める。そして、柏崎の県の土木派遣所に応募して採用され、現場監督としてトロッコを押していた現場に戻り驚かれる。このあたりからもうその才能を発揮している。そして東京に出て土建会社の小僧となるも、兵役に従事。第二次大戦は病気で本国送還となり、命を拾う。

 その後事業で成功するが、政治家へ立候補することになり、二度目の挑戦で政治家となる。同期にはのちの中曽根首相がいたそうである。30歳で吉田内閣の法務長官となり、すでにこの頃、この世は互いの利益の軋轢で、これを解決するのは結局互いの利益の確保=金次第と考えるようになる。造船疑獄に際しては、大事な頼みごとをするのに200万円ほど持参するのは、菓子折りを持っていのと同じと言い切る。

 やがて大蔵大臣、通産大臣を務める。当時は、アメリカに「何から何まで言いなり」の状態だったが、角栄さんは日米協議で堂々と日本の立場を主張する。ニクソンとはすぐに昵懇となり、後継は福田赳夫と考えていた佐藤首相の思惑とは裏腹に、ゴルフや会見の場で福田を押しのけてニクソンと田中は親密さをPRする。そして角福戦争を経て、角栄さんは総理大臣に就任する。

 あくまでも小説の形をとっているのではあるが、選挙で空前の一人3,000万円もの金を配ったなど金権政治と言われた部分は、そのまま出てくる。ロッキード事件が起こり、世間は騒然とするが、問題となった5億円は、選挙で集めた300億円の一部に紛れ込んでいたと主張。ロッキード裁判の異様さも語られる。

 そんな華やかな活躍の一方で、青年時代の淡い恋から、結婚後も愛人(それも二人)がいたことが語られる。まさに「英雄色を好む」を地で行っている。
著者の石原慎太郎も、自らの金権政治を批判する先方として登場する。著者は、角栄さんの金権政治を真っ先に批判したらしいが、そんな著書が角栄さんの本を描くというのも面白いものである。

 ロッキード事件の当時は批判一色だったように記憶しているが、ここにきて事件はアメリカの陰謀だったという説が濃厚に語られる。歴史の評価というものが正しいのだとしたら、まさにその見直しが行われているのかもしれない。何はともあれ、当時の「田中総理」を知る者にとっては、興味深い一冊である・・・


  
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2016年10月20日

【影響力の心理−THE POWER GAMES−】ヘンリック・フェキセウス



原題:THE POWER GAMES
第1章 影響力の仕組み
第2章 言葉の魔術
第3章 権力のカラクリ
第4章 嫉妬と妬みの構造

もともと個人的に心理学に興味を持っていたというベースがある。そんな自分にとって、こうしたタイトルは実に食指を動かされるところがある。そういう次第で手にした一冊。
著者はこの本を、「人間関係におけるストレスをなくし、その場の流れを自分の望む方向に導くことのできる『影響力』について書いた本」とする。

そんな影響力には、二つの原則があるとする。
・日々のコミュニケーションにおいて、相手の思考や行動に影響を与える方法をしっかりと理解すること
・どのように影響するものであれ、影響力とは他社へ敬意を持ち、他者を自分と同じくらい大切に考えている時こそ、より効果が上がる
なんとなく「テクニックで相手をコントロールする」のではないもののようである。

 人が何かを信じるにあたり、「信じやすい情報」には4つの特徴があるという。すなわち、
・覚えやすい名前
・耳に心地好い音
・無用な飾り立てがなく、読みやすい
・相手自身に考えさせない
であるが、それにより、
・何度も繰り返すことで親しみやすくする
・選択肢を少なくして真実に思わせる
ということが効果があるとする。

以後、人の特徴としてさまざなことが説明される。
・気が散る環境にいると、人の意見に流されやすくなる
・人は集団になると簡単に操られる
・暗示の方が人は動く
・語彙の豊富な人は知的に見える
・賛同されると「受け入れられた」と感じる
・逆説(「しかしながら」)ではなく、順接(「だからこそ」)だと説得しやすい
・ネガティブな情報は先に
どれもなるほどと思う。先に「テクニックでコントロールするものではない」と示されていなければ、「小手先テクニック系」の話と勘違いするかもしれない。

個人的に参考になったのは、他人からの攻撃に対しての態度である。
・相手に言われた内容を「笑い飛ばす」
・笑顔、微笑み、前向きなコメントで対応する
というものであるが、「反撃したり言い返したりすると、批判に信ぴょう性を与える」という部分は参考にしたいところである。
また、相手の話を遮る時は、「待って、あなたの話をちゃんと理解できているか確かめても良いですか」とするのだそうである。これは試してみたいところである。

さらに相手の攻撃を無力化する方法として2つ紹介される。
・相手にこちらの視点で問題を考えてもらう
・黙り込む
前者は個人的にも経験があるが、なかなか「使える方法」だと思う。ただし、後者の効果はどうだろう。試してみたい気もする。

本を読んだからといって、すぐに影響力を行使できるというわけではないが、考えてみてもいいことではないかと思う。ビジネスの現場でも議論を交わす時に、ほんのちょっとした心掛けで自分の意見をスムーズに受け入れてもらえるなら、それはそれで重要なことだと思う。ほんのちょっとしたことから、試みてみたいと思う。

こうした話が好きな人、興味のある人には面白いかもしれない一冊である・・・



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2016年10月18日

【本音で生きる−一秒も後悔しない強い生き方−】堀江貴文



序 章 なぜ、本音で生きられないのか
第1章 言い訳をやめる
第2章 バランスをとるな!
第3章 本音で生きられない理由は「自意識」と「プライド」である
第4章 すべてを最適化せよ
第5章 本音で生きるために必要なこと

ホリエモンの著書は近年比較的集中して読んでいる。人によっては好き嫌いがある人だと思うが、個人的には好きな方に入る。その主張するところは、確かに「チクリ」とするところはあるが、その通りだと納得できる部分が多いからである。個人的に自分が議論好き、理屈好き人間であるためか、「なんとなく」よりもはっきり理屈で説かれる方が心地良いせいもある。

そんなホリエモンは、本のタイトルに対し、「なぜ本音を言えないのか」と「素直に」疑問を呈す。「なぜ本音で生きられないかのほうが僕にはわからない」とする。そうだろうと思う。「なんで?言っちゃえばいいのに」という子供が聞いたらその通りだとしか思わないであろうことをさらりと言う。「それが言えれば苦労しない」と言う声が聞こえてきそうである。「ホリエモンだから」言えるのか、「言えるから」ホリエモンなのか。
おそらく後者であろう。

どうしたら本音で生きられるようになるのか。それは以下の3つだとする。
@ 言い訳しない
A バランスを取ろうとしない
B 「自意識」と「プライド」を捨てる

本音を言えないところの最たるところは、「職場」かもしれない。その職場の人間関係は、「セミドライ」がいいとする。つまり、「仕事としては相手に尽くすけれど互いに寄りかからない距離が一番いい」と言うものである。ここで、「相手に尽くす」とは、馴れ合うために与えるのではなく、「目的を持った者同士が目的を達成するために与え合う」ことだとする。なんとなくわからなくもない。

他人のことは、放っておく。「議論は平行線のままでいい」と言う意見は、妙に心にフィットした。それは個人的にも議論好きと言うこともあるし、一方で「議論疲れ」にも辟易しているからでもある。しかし、議論は大事だが、「お互いの価値観が異なっていることがわかる」ので良いとする。意外な気もするが、おそらく常に他人と意見が異なることが多いであろうホリエモンだからこそ、なのかもしれない。“We agree to disagree”でいいのだとする。それよりも、「自分の意見は言わず、周りの空気を読んでみんなと合わせようとする」ことを批判する。それは納得である。

「言い訳をやめる」ことは、誰もが言うことでもある。「お金がないから」「時間がないから」「凡人だから」と言った時点で、もうそれは「今のままでいい」と言っているのと同じだと喝破する。「やり方なんてものはなく、すべてトライアンドエラー」と言う意見には、すべて同意である。「お金がないから」と言っている人は、お金があってもうまくいかないだろう。猫ひろしにカンボジアならオリンピックに出られるとアドバイスしたのは、ホリエモンだと言うエピソードは面白かった。それを実行に移す猫ひろしもすごいと思う。

「プライド」とは「世間体」であり「人の目が気になること」だとする。「実際には存在しない『世間』などと言うものを気にする必要はないと言う意見にも至極同意である。「ノリの良さ」が大事だし、「バーディを取りたいのなら強めに打たないとダメ」と言う喩えはわかりやすい。それから続く格言とでも言うべき主張も参考になる。

・情報は覚えるのではなく、浴びる
・情報の量が質を作る
・アイデアではなく、実行力にこそ価値がある
・大量にアウトプットし、「自分で考えること」を繰り返す
・やりたいことは、“今”やれ!
・大事なのは、GIVE! GIVE! GIVE!

しかしながら、「すべての時間を最適化せよ」と言う部分だけは同意しかねるものがあった。ホリエモンは、超多忙な中、いろいろなことをやっているようである。多分普通の人の何倍もの量だと思う。それを可能ならしめているのが、この時間の「最適化」であるようだが、無駄が心地良いと感じる我が身には、とてもホリエモンのような濃密な活動はできないしやりたくない。まぁ、性格な部分は仕方ないであろう。

 それはそれなのであるが、こう言う「成功者のリズム」とでも言うべき主張は大変参考になることは確かである。すべて真似しようとは思わないし、できないだろうが、大いに参考にしたいと思う。普段気を使いすぎて疲れている人、空気を読むことに疲れている人には、新鮮かもしれない。そんな人には、ちょっとしたヒントになりそうな一冊である・・・



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2016年10月17日

【「考える」は技術】グル・マドハヴァン



原題:Applied Minds How Engineers Think
第1章 「モジュラーシステム思考」で分解して考える
第2章 モデル化で問題を「最適化」する
第3章 「逆算思考」で信頼性と効率性を両立する
第4章 組み換え発想で解決策を「標準化」する
第5章 「制約」を逆手にとってトレードオフを乗り越える
第6章 「適応思考」で共感と理性の均衡点を探る
第7章 「プロトタイプ思考」で創造力を最大化する
第8章 「人類学思考」でアイデアの中心に人を置く

著者はインド出身のエンジニア。アメリカ政府の上級政策顧問を務めるバイオメディカルエンジニアなのだという。正直言って「バイオメディカルエンジニア」がどんなことをするのかよくわからないが、この本は原題にもある通り、「エンジニア思考」とでも呼ぶべきエンジニア流の考え方を紹介した本である。

冒頭で、ボストンマラソンで行われた不正事件を紹介。何でも途中をすっ飛ばしてゴールだけした女性が優勝したという事件らしいが、そうした不正をどう防ぐべきか。また、鉄道で膨大な量の貨物車の位置をどう把握するか、同じく在庫管理をどうするのかといった問題が紹介され、それをエンジニアたちがどう解決したかが語られる。在庫管理の問題に取り組んだIBMでは、上司の指示を無視したあるエンジニアが、結果としてバーコードを開発した例が紹介される。

エンジニアとは、問題解決に対して緻密に、そして体系的に向き合う能力があり、それが問題解決につながるのだとか。そして続けて紹介されるフランスの大砲の例が面白い。グリボーバルという大尉が、当時利用されていたヴァリエールの大砲について問題点を考え、やがて兵器の組立工程や製造企画を導入し、それまで手間と時間のかかっていた修理を素早く簡単に行う手順を明確にする。これによって短時間修理が可能となり、実戦での有効利用につながる。

しかし、このグリボーバルの考えはヴァリエールによって否定され、そのためグリボーバルは当時優秀な軍事技術者が不足していた同盟国のオーストリアに招かれ、その実力を発揮する。個人的にこのエピソードを興味深く思う。グリボーバルの技術でオーストリア軍は、優勢なプロイセン軍に対して善戦し、グリボーバルはプロイセンからも評価されたという。わが国でも国内で相手にされず、製品の良し悪しだけで判断されるアメリカで成功する例が多くあるが、何処も同じなのかもしれない。

エンジニア思考の特徴は、
@ 存在しない「構造」を見る力
A 「制約」のもとで物事をデザインする能力
B 「トレードオフ」
だとする。このキーワードが全編を通して語られる。「制約条件」など無い方がいいように素人的には思うが、そうではないようである。

そして、各章では、具体例が紹介されていく。渋滞が問題となっていたストックホルムでは、渋滞する時間帯に課金するという方法で、橋も道路も作らずに渋滞を解消し、さらに課金収入をもたらす。わずか五桁のZIPコードが郵便を効率化し、スーパーのセルフサービスやATMの開発、ペニシリンの発見、シートベルトの発明、そしてトヨタの生産方式にも及んでいく。「標準時」がなかった不便さは、今では想像しにくいがこれもエンジニア思考の賜物だという。

そうしたエンジニア思考の数々は、読み物としては面白い。だが、では実際にこの本を読んで身につくかと言われれば、エンジニアでもない我が身には困難なこと。「なるほどなぁ」で終わるのがせいぜいである。しかし、そこは硬く考えず、「何かのヒントにはなる」くらいで捉えたいと思うところでもある。
そういう意味で気軽に読みたい一冊である・・・

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2016年10月16日

【逆説の日本史22】井沢元彦



第1章 明治維新編-近代国家へと踏み出す「廃藩置県」の断行
第2章 明治政府のグランドデザイン編-日本の骨格作りと留守政府の奮闘
第3章 明治六年の政変編-「征韓論」とは何だったのか?
第4章 サムライたちの反抗編I-陰謀に散った不運の男・江藤新平
第5章 サムライたちの反抗編II-“最強”の西郷軍はなぜ敗れたのか?
第6章 補遺編

 シリーズ第22弾、とうとう時代は明治を迎える。毎回楽しみにしているシリーズの最新刊。今回は、先日読破した『大西郷という虚像』に違和感を抱いたこともあり、また内容的に重なることもあって、読み比べをしてみたいと楽しみにしていた経緯があった。結果的には、「重みが違う」という内容で、『大西郷という虚像』の浅薄さが際立つ結果となった。

 中国古典『易経』から取られ、元号は「明治」と改められる。当初は首都を大阪にする案もあったようであるが、日本郵便の父前島密から大久保利通へ手紙で献策がなされ、東京が首都になったという。まだ函館では榎本武揚率いる幕府軍が最後の抵抗を続けており、その様子が解説される。幕府軍は、当時世界最大級の戦艦「開陽」を擁し、せっかくの城五稜郭も設計は良かったが施工が悪く、防御には役立たなかったなどという説明が興味深い。

 その一方で、中央では版籍奉還、廃藩置県と近代国家への歩みが進む。そんな近代化と朱子学に毒された薩摩藩の島津久光の反対との間で、西郷隆盛は苦労する。また、太政官布告によって個人の名前に関する制度が統一される。それまで日本ではいくつもの名前を持つのが当たり前だったのが、これによって今の姓名の制度になったという。西郷隆盛は、本当は「隆永」が諱であったらしいが、なかなか手続きをしないことに業を煮やした知人が手続きをしたところ、間違えて父の諱である「隆盛」にしてしまったいうエピソードが面白い。

 通貨制度改革、地租改正、秩禄処分と、そういえば学校で習ったことが続く。鉄道建設をめぐる米英の思惑と、国力としては分不相応ながら、富国強兵を目指して敷設を進めた伊藤博文と大隈重信。その陰では尾去沢銅山事件や山城屋和助事件などの汚職事件も起こる。『大西郷という虚像』でも徹底的に批判されていたが、この本では、「汚職まみれだったが実務的には極めて有能」と評価している。こうしたバランスの良さも公平感が強く、読んでいて心地よい。

 明治六年の政変では、「征韓論」が詳しく語られる。西郷隆盛が主張した征韓論の内容。特に征韓論=悪というイメージは、第二次大戦後の反省に基づくもので、明治の常識では征韓論=善とされていたことが解説される。西郷隆盛は公平な態度で改革を進め、その結果留守政府で土肥勢が増え、欧米視察団のメンバー出会った大久保らが「留守政府潰し」にかかったとする。西郷隆盛の征韓論はこの過程で否決されたという。

 『大西郷という虚像』では、感情的に新政府を批判し、大西郷は虚像だとし、批判を重ねるがこの本と比べるとその説明は稚拙。西郷隆盛の行動をその時代背景とともに追うこの本の方がはるかにわかりやすい。西南戦争の経緯も実に詳細で、なぜ西郷軍は堅固な熊本城の攻略という無謀に走り、そして敗北したのかが詳述される。これこそ歴史的な態度であろう。

 そして連載から25年を経て、歴史界による発見などにより補足・修正が必要になったこととして補遺編が付属する。ケガレ忌避の思想は現代の護憲思想につながるという説明は、一概に頷きにくいが、「言霊思想」や「話し合い絶対主義」などの説明は、なるほどである。元寇における神風勝利説が実はそうではなかったという説明は、著者の発見ではないが、ちょっと衝撃的な事実である。

 これから激動の時代へとシリーズは続いていくが、どんな内容となるのであろうか。ますます続きが楽しみなシリーズである・・・

   
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