2017年03月31日

【デービッド・アトキンソン新・所得倍増論 潜在能力を活かせない「日本病」の正体と処方箋】デービッド・アトキンソン



第1章 日本はほとんど「潜在能力」を発揮できていない
第2章 「追いつき追い越せ幻想」にとらわれてしまった日本経済
第3章 「失われた20年」の恐ろしさ
第4章 戦後の成長要因は「生産性」か「人口」か
第5章 日本人の生産性が低いのはなぜか
第6章 日本人は「自信」をなくしたのか
第7章 日本型資本主義は人口激増時代の「副産物」
第8章 日本型資本主義の大転換期
第9章 日本の「潜在能力」をフルに活用するには

著者は、国宝・重要文化財の補修を手がける創立300年余りの小西美術工藝社社長。しかし、元はと言えばイギリス生まれのオックスフォード大学出身、ゴールドマン・サックス証券でエコノミストをしていた変わり種で、以前カンブリア宮殿でも取り上げられていた方である。私も知らなかったのであるが、これまでにも日本経済に対する提言として何冊か上梓しているようである。この本もその一冊である。

日本は、GDP世界3位、製造業生産高同3位、輸出額同4位、ノーベル賞受賞者数同6位等々の堂々たる経済大国である、と我々は認識している。しかし、著者によるとそれは決してそうではないという。というのも、「一人当たり」で見ると、例えばGDPは世界27位、輸出額44位、ノーベル賞受賞者数39位とランクが大幅にダウンする。これは、「人口ボーナス」のなせる技であり、日本のランクが高いのはただ単に「人口が多いから」だという。

日本の人口は、イギリスの2倍、ドイツの1.6倍であり、技術力や国民の教育などベースの部分ではほぼ変わらないので、日本がイギリスやドイツよりランクが上なのは、単に人口が多いからだとする。それが証拠に、GDPでは中国に抜かれたが、それは中国が人口が日本の10倍もあるからだとする。なるほど、わかっていたつもりでも、改めてそう指摘されればその通りである。そしてこれが日本人の認識を曇らせているとする。

日本に必要なのは、とにかく「生産性を上げること」。そうでなければ、今後2050年までに日本はベスト10から転がり落ちるという。そして生産性を上げるのは、経営者の仕事と著者は語る。日本とアメリカの生産格差の45%は日本人女性の年収の低さというのは頷ける。さらに日本政府に対し、経営者にプレッシャーをかけることが必要だと主張する。

日本の生産性が低いのは、「経営者の経営ミス」と著者は手厳しい。農業に至っては一人当たりの総生産が異常に低く、これは行き過ぎた保護政策にもよるのだろうが、改善の余地は大きすぎるくらいありそうである。「移民政策はやるべきことから目を背けるための言い訳」という主張は、別の理由で移民に反対な私も大いに溜飲を下げる部分である。

人口激増時代に誤った意識を持ったことが、現在の問題につながっているという。それは下記の通り。
1. 責任を曖昧にする文化
2. 新発売キャンペーン癖
3. 計画性のなさ
4. 検証しない文化
5. マニュアル化
6. 融通がきかない
7. 縦割り行政

ここの是非はともかくとして、個人的に一番納得したのが、「現状維持が至上命題になっている」とまで著者が言う「改革アレルギー」。「制度を変えたくないと言う意識がまずあって、それを正当化するために様々な屁理屈を出しているようにしか思えない」とまで言う。一例として、コンビニでバーコード1つでできる公共料金の支払いが、銀行では名前と金額を書かされると言う例。その銀行が3時に閉まるのも前近代の名残とする。言われてみれば、であるが普段当たり前だと思っていて気にもしなかったが、確かにその通りである。

「アベノミクスの足を引っ張っているのは経営者であり、政策目標は企業の時価評価を上げること」と著者は主張する。株式市場を通じたプレッシャーにより経営者の意識を変えることが大切とする。外国人ゆえに、客観的に見られる部分もあるのだろうが、大いに考えさせられる提言である。良い悪いは別として、己の考えを熟成するのに、実に示唆に富む一冊である・・・



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2017年03月28日

【危険なビーナス】東野圭吾



東野圭吾の作品をまた一つ。今回の主人公は、獣医の手島伯朗。町の医院の雇われ先生で、助手の蔭山元美と二人で細々と診療を行なっている。そこへある日突然、若い女性から連絡がある。女性は矢神楓と名乗り、弟の明人と結婚したと告げる。そこから、伯朗と明人は異父兄弟であること、伯朗の父一清は画家であったが病死し、母禎子が明人の父矢神康治と結婚し明人が生まれたという事情が語られる。

さらに伯朗は、楓から明人が失踪したと告げられる。そしてその失踪には矢神家の人間が関与している可能性があり、まだ結婚の事実も告げていない楓の身では探ることも難しく、したがって伯朗に協力してほしいと求めてくる。実際に会った楓は、カーリーヘアの魅力的な女性で、伯朗は疎遠だったとはいえ弟の妻という身を忘れて惹かれていく。

こうして、伯朗は楓とともにかつて関わりを絶ったつもりでいた矢神家の人々と再び交わるようになる。矢神康治は病床にあって明日をも知れぬ身。医師であった康治は、かつて伯朗の父一清の治療をしていたこともあり、最後に描いていた不思議な絵が物語のキーとなってくる。

康治が研究していたのは、サヴァン症候群と呼ばれる精神疾患。映画『レインマン』でダスティン・ホフマンが演じて有名になったが、患者は時として不思議な能力を発揮する。『レインマン』では、ダスティン・ホフマン演じる男が床に落ちたマッチの数を瞬時に言い当ててみせたが、ここではフラクタルと呼ばれる全体の形と細部が相似となった不思議な絵として取り上げられる。こういう雑学も身について面白い。

物語は、伯朗の過去に触れつつ、それがもたらす謎に興味をもたせつつ、楓という若い女性のこれもまたどこか謎めいていて、読みながら作者の隠された意図を探り出してやろうと思わされるキャラクターに惹かれつつ、進んでいく。東野圭吾の作品はどれもこれも物語に引き込まれていく。電車の中で読めば、最低一度は乗り越してしまうこと確実である。

ラストに至る急展開は、さすがに素人に先読みさせるほど甘くはない。謎もすっかり解きほぐしてくれて、なるほどと唸らせてくれる。何を読んでもきっちり満足させてくれるところは、さすがだと思う。文句はないのだが、そろそろガリレオ先生か加賀恭一郎に登場してほしいと思うのは、私だけであろうか。

次をまた期待したいと思うのである・・・



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2017年03月27日

【投資家の父より息子への13の遺言】高橋三千綱



第1章 千載一遇のチャンス
第2章 投資家の父より息子へ、投資の極意とは
第3章 投資の法則
第4章 証券マンを体験する
第5章 投資家はバフェットを真似る
第6章 ファンドマネージャーの道へ
第7章 相場には4つの局面がある
第8章 業績相場への転換期
第9章 中間反騰から逆業績相場
第10章 個人投資家として生きる
第11章 100年に一度の大相場
第12章 効率のいい投資法
第13章 バブルを楽しめ

もともと私自身株をやっている(と言っても今は休養中)こともあって、この手のタイトルには敏感に反応してしまうところがある。一読してよくわからないのは、この本の内容がどこまで実在の話かということである。一応、フィクションと断ってあるが、内容はとてもフィクションではない。実在の話をうまく組み立ててあるのだと思うが、中身の濃い内容であることは間違いない。

主人公である「私」は、投資家Mとなっている。1971年に大学を卒業し、あまり優秀できなかったため、銀行などには見向きもされずW証券に就職する。その後、香港赴任時にフランスの投資会社に転職し、さらに知人の設立した投資会社で50歳まで勤務し独立というキャリアを歩む。投資家として財をなし、そのノウハウを遺言として息子に残すというのが、この本の趣旨である。

まずは投資家として守っている4つのルールが説明される。
1. 10%損切りルールを守る
2. ピラミッティング、いわゆる買い乗せをする
3. 買い下がり、売り上がりはしない、つまりナンピンはしない
4. トレンドに逆らわない
実に簡単であるが、1,3,4は当たり前のように言われていること。これだけの投資家でも基本は大事ということだろう。特に1は、わかっていてもなかなか守るのが難しいのである。

主人公はファンダメンタル分析は苦手で、基本はチャート分析らしい。チャート分析は、当然過去の流れであり、100%あてにはならない。よって否定する専門家もいるが、著者はその欠点を熟知しつつも否定しない。このスタンスも参考になる。そんな主人公は、証券会社に入社して黒板書きをし、チャートを書いた経験が後々役立ったと語っている。このころの経験談はなかなか面白い。

投資の神様ともいうべきウォーレン・バフェットのことは主人公も崇めている。
「政治的、経済的不安がピークに達した時に買った株が最高の買い物になったことが多い」
「知らないもの、理解できないものを扱っている会社の株は買わない」
バフェットのそんな言葉を紹介しつつ、「辛苦を重ねた天才の前では、凡才の努力家は謙虚でいなくてはならない」と語る。

相場には4つの局面があるとする。「金融相場」「業績相場」「逆金融相場」「逆業績相場」であるが、しかし実際に今がどの局面なのか、この本を読んだだけではわからないと思う。そして投資家として大事にしているのは、「積極性」だとする。90%の投資家が損をする世界。ミシガン大学消費者信頼感指数をウォッチし、黄金分割比率(61.8%)を参考とし、「生半可な情報を頼りに株式投資などするな」と戒める。「投資家にとって一番大事なのは、情報を求めることではなく、成長株をタイミングを捉えて売買を繰り返すこと」と語る部分は、自分の考えを補強してくれる。

「日銀が金利を下げたところでいきなり景気が良くなるわけではない。ただそれは金融相場の前触れ。金利が挙げられるのは景気がいいからであり、その後株価は下落する」という株価の基本公式はわかりやすい。日銀短観は外国人投資家にとって何より信頼感が高いという話はなるほど。投資家にとって、下落を予測することは成長株を見つけるより難しいという説明も得るところは大きい。

売りシグナルを読み取ることは、主人公のような専門家でもほとんど不可能だそうである。いわんや私などであろうことは、それなりに参考になる。CDSの急騰は株価下落のシグナルなどは、頭の片隅に置いておきたい。そして最後の言葉が印象的。
「株はむつかしいと言う前に難しさを克服する努力を続ける。40年前も今も私はそうやって投資家を生き抜いている」

大いに参考にしつつ、そろそろ私も投資を復活させようかと言う気にさせてくれた一冊である・・・



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2017年03月23日

【雪煙チェイス】東野圭吾



東野圭吾の新作であるが、タイトルをみれば「スキー(スノボー)関係」だとわかる。そういえば、過去にも『カッコウの卵は誰のもの』『白銀ジャック』があったなと思っていたら、読み進むうちにこれは『白銀ジャック』の続編なのかと思うようになる。というのも、登場人物の名前が同じだからである。

冒頭、新月高原スキー場(『白銀ジャック』で舞台となったスキー場である)で主人公の脇坂竜実がスノーボードを楽しんでいる。そして一人の女性ボーダーの写真を撮ってあげる。これがのちに竜実のアリバイになるための重要な出来事になる。もちろん、この時点では本人も知る由も無い。ただ、その美人ボーダーを誘い損なったことを後悔するだけである。

東京に戻った竜実。しかしその頃、かつて犬の散歩のアルバイトをしていた家の主人が殺されているのが発見される。実はその前日、現地を訪ねていた竜実は近所の人に目撃されており、しかも隠し鍵に指紋が残っていたことから、重要参考人としてマークされる。友人からその事実を知らされた竜実は、法学部の友人波川のアドバイスで警察に出頭するよりアリバイを証明してくれる女性を探すことを選ぶ。

わずかな手掛かりから、里沢温泉スキー場へと向かう二人。一方、所轄署の刑事小杉は、同僚の白井とともに竜実ら二人のあとを追う。事件は殺人事件であり、警視庁捜査一課が捜査本部を設置して捜査をすることになるが、捜査一課の同期課長を出し抜きたいと考えた所轄の刑事課長が密かに小杉たちを動かす。警視庁と所轄の手柄の奪い合いが水面下で進行する。

そして舞台は、里沢温泉スキー場へと移動するが、ここでは町をあげてスキー場ウエディングの準備が進んでいる。そこでパトロール隊の隊長をしているのが、根津昇平。『白銀ジャック』に出てきた根津と同一人物なのだろうと思うが、長岡慎太、成宮莉央、成宮葉月、瀬利千晶と言った面々が絡んでくる。

迫り来る警察の捜査網、アリバイを証明してくれる「女神」を探し求める竜実と波川。その展開がスリリングである。例によって電車の中で読んでいたら乗り過ごしてしまった。後半では、自らを駒と諦めて命じられるままに動いていた小杉刑事が、刑事としての本来の職務に目覚める。後味の良さもある物語。最後まで一気に読んでしまった。

相変わらず、ハズレのない東野圭吾作品。読まないのは損失だと言い切れる作家らしい作品である・・・



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2017年03月22日

【「言葉にできる」は武器になる。】梅田悟司



「内なる言葉」と向き合う
正しく考えを深める「思考サイクル」
プロが行う「言葉にするプロセス」

著者は電通のコピーライターとのこと。著者の作品である「世界は誰かの仕事で出来ている(ジョージア)」、「この国を、支えるひとを支えたい(同)」、「その経験は味方だ(タウンワーク)」などは、私も目にしたことがある。そんな言葉のプロが言葉について語った一冊。私もブログをやったりしており、興味をそそられたところである・・・

まずちょっとした衝撃だったのが、
「言葉が意見を伝える道具なら、まず意見を育てる必要がある」
という言葉。考えてみれば当然ではあるが、どうしても「うまく喋ろう」「うまく書こう」とすると、表面的な言葉のみにとらわれてしまうところがある。伝わる言葉を生み出すためには、自分の意見を育てるプロセスこそ重要であり、その役割を言葉が担っているという説明は説得力が高い。

さらに「言葉は思考の上澄みに過ぎない」と著者は語る。言葉には、「外に向かう言葉」と「内なる言葉」の2種類があって、自分の頭の中に生まれている「内なる言葉」に「幅や奥行きを持たせる」=「よく考える」ことが必要だとする。確かに、言われてみれば「うまく喋ろう」「うまく書こう」とする時は、どうしても「外に向かう言葉」をあれこれ駆使するイメージを持ちがちだが、中身がなければそれもむなしい努力だろうと思う。

さらに「伝わる」と(人を)「動かす」とを考えると、その間には「志」があるという。志を共有していれば人は「動きたくなる」。それを著者はサン・テグジュペリの言葉を使って説明する。
「船を造りたいのなら男どもを森に集めたり、仕事を割り振って命令したりする必要はない。代わりに広大で無限な海の存在を説けばいい」
要は「内なる言葉」に意識を向け続ける習慣こそが重要なのである。

「幅と奥行きを広げる」と言っても簡単ではない。それに必要なのは下記の7つ。
1. 頭にあることを書き出す:とにかく書く、頭が空になると考える余裕が生まれる
2. T字型思考法で考えを進める:「なぜ」「それで」「本当に」を繰り返す
3. 同じ仲間(言葉)を分類する
4. 足りない箇所に気付き、埋める:MECE
5. 時間を置いてきちんと寝かせる
6. 真逆を考える
7. 違う視点から考える:複眼思考

後半は具体的なトレーニング方法となる。思いを言葉にする手法として2つの戦略があって、「言葉の方を知る」ことと「言葉を生み出す心構え」をすることだとする。言葉の型は下記の通り。
1. たった一人に伝われば良い:ターゲッティング、「あなたに」「伝えたい」「ことがある」
2. 常套句を排除する:相手と二人の間での言葉にする
3. 一文字でも減らす:削ることで言いたいことを際立たせる
4. きちんと書いて口にする:リズム
5. 動詞にこだわる:躍動感
6. 新しい文脈をつくる:意味の発明
7. 似て非なる言葉を区別する:意味の解像度を上げる

「時間を置いてきちんと寝かせる」とか「一文字でも減らす」などは、先日読んだ『書く力』にも同様の記載があった。やはり真実なのだろうと実感を持って思うところである。自分の興味を持っているところでもあるし、一読してすぐに身につくというものでもないが、これから心掛けていきたいというヒントになった。

確かに「言葉にできる」は武器になると思う一冊である・・・



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2017年03月16日

【コシノ洋装店ものがたり】小篠綾子



プロローグ 父と私、私と娘-コシノ家の生き様とは
第1章 女にしか出来ないこと
第2章 父と娘の二人三脚
第3章 男と女-夫婦というもの
第4章 別れと出会い
第5章 恋という名のあだ花
第6章 我が子との戦い
エピローグ 私の道はまだ続く-三姉妹から四姉妹へ

著者は、国際的なファションデザイナーであるコシノヒロコ、ジュンコ、ミチコ姉妹の実母。国際的なファッションデザイナーを3人も育てた方ということで、興味をもって手にした一冊。そろそろ将来のことも考え始める我が娘に、何か参考になることはないだろうかという思いがあったこともある。読んでみれば、なかなかユニークな人生を歩んだ方のようである。

著者が生まれたのは、大正2年。場所はだんじりで有名な大阪、岸和田。子供の頃は男の子と一緒になって遊んでいたという。それどころか、男の子と取っ組み合いの喧嘩をしたりもしたらしい。「男女七歳にして・・・」の時代にこれはかなり異例のこと。その日、学校に呼び出された後、家に帰り父親にぶん殴られたという。それ以後、男の子とは遊ばなくなったというが、この時好き勝手ができる男の立場を理不尽に感じたらしい。

そしてある日、ミシンの噂を聞きつけ、わざわざ置いてある店に見に行ったという。そしてそれに興味を惹かれ、毎日店に日参する。外から毎日眺められたら店の方もたまったものではなく、中に入れて見せてくれたらしい。そこからさらに店の手伝いを始めてしまう。他人の店で男に混じって女の子が働くことが正常ではない世の中、随分軋轢があったようである。父と対立し、女学校を辞めてその店に通い出す。

こうして著者は洋裁の道へと踏み出す。最初は奉公人としての立場であり、ミシンなど触らせてもらえない。ところが店の主人の計らいで、夜中に使わせてもらえるようになる。なんとも時代を感じさせるエピソードである。やがて独立し、コシノ洋装店を開店する。当時は男社会。女は家で家事をするものという世の中。相当珍しい存在だったのであろう。ただ、扱っているものが流行り始めていた(男が手を出しにくい)女性の洋服だったからよかったのかもしれない。

店も軌道に乗ってくると、著者は多忙な日々を送る。しかし、世の常識として結婚という問題が生じる。著者を見初めたという人が婿養子になる形で結婚するが、親の決めた相手との結婚で、しかも式の当日まで仕事をしていて、新郎を待たせたというから、ホントに何から何まで異例づくしであったのだろう。そして3人の娘たちが生まれる。

この結婚は、しかし夫が戦死するという形で終わりを告げる。さらに父親も死に、著者はコシノ家を一人で背負う立場となる。女手一つと言っても、著者の腕はかなり太い。商売も大きくなるが、ここである人物と不倫関係になる。今でも多少はそうだが、当時不倫となると世間の目は冷たい。子供も3人もいる中で、しかし著者は初めての恋に浮かれる。実に人間臭い方である。

年頃になった娘たちが、ファッションの道を歩むのも、著者が仕向けたわけではない。それでも多分、子供の頃から見ていた母親の後ろ姿が影響したことは間違いないだろうと思う。まるでドラマのような人生が描かれる。つくづく、人は考え方だと思う。時代の中で、多くの女性たちは普通に結婚して専業主婦となって夫を支え子供を育てるという人生を送っていただろう。著者はそれに反して、無人の荒野を誰の目を憚ることなく駆け抜けたのである。できない言い訳を次々に考え出す人には到底送れない人生である。

世の中に対するチャレンジという意味では、十分先駆者と言えると思う。そんな先駆者の人生を時代背景とともに読んでみるのも面白い一冊である・・・



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2017年03月15日

【経営者になるためのノート】柳井正



序 章 経営者とは
本編 経営者に必要な四つの力
第1章 変革する力
第2章 設ける力
第3章 チームを作る力
第4章 理想を追求する力

著者はユニクロの柳井氏。大経営者の本を読むのも、直接薫陶を得ることのできない身としては勉強になるというものである。手にとってまず驚く。その名の通り、「ノート」なのである。真ん中に普通の本のように文章が印刷してあり、その周りに広く余白がとってある。ここに気づいたことをどんどん書き込めということのようである。「自分だったらどう考えるのか」「自分の組織だったらどのようなことが当てはまるのか」自分でノートを完成させろという。なかなか面白い。

経営者とは、一言で言えば「成果をあげる人」だとする。「成果」とは「約束したこと」。経営者が、顧客、社会、株式市場、従業員に対して約束したことを実行して実現することである。そしてそれを考えるにあたって一番大切なことは、社会における自分たちの存在意義、つまり使命を考えることだと続く。会社の使命と成果が結びついていることが経営の原則だとする。自分たちの会社はどうであろうかと考えてみる。良い問いかけだと思う。

以下、経営者に必要な四つの力というテーマに沿って話が進む。心に刺さった言葉をメモしているとあっという間にリストが長くなる。
1. 非常識と思えるほどの目標を掲げよ
2. 終わりから始める。ゴールを設定すれば「すべきこと」が明らかになる
3. 常識を疑い、常識にとらわれない
4. 危機感に基づいて経営をやるべきであって、不安に基づいてやってはいけない
5. 仕事の基準を高く持ち、妥協と諦めをしないで追求する
6. 自分なりの基準ではなく、お客様が本当に喜ぶ基準
7. リスクがあるところに利益がある
8. リスクを取った限りは中途半端にせず、結果が出るまでやりきる
9. 要求、質問をしないと現場の仕事は「作業」になる
10. 厳しい要求をする。要求してやらせる以上は最終的な責任は上司が全部取るということを覚悟しておく
11. 自分はできていると思わないようにする
12. 自分に力をつけて本物の情報が入るようにする
13. お客様の声は重要だが、その一枚上手を行こうとする
14. 提供者である自分たちが本当にいいものと思うもの、本当にいいお店だと思うものを作る
15. 当たり前のことを徹底して積み重ねる。能力よりも習慣
本当にキリがない・・・

リーダーシップについても、個人的に大いに勉強になる。
1. 信頼こそすべて
2. 首尾一貫
3. 部下の立場に立って話を聞く
4. 目標はしつこく繰り返してはじめて共有できるもの
5. 仕事を本人に考えさせることが責任感の根源となる
6. 自由に考えさせて権限を与えた方が結果もよくなる
7. 本人が自分の仕事だと思ってやるから責任も追及できる
8. 自分の仕事だと思った時、人は頑張る。箸の上げ下ろしまで指図しない
9. 仕事の成果=能力×モチベーション
言われてみればその通り。自分自身が部下の立場に立てば、こういうリーダーの下で働きたいと思うだろう。自分もかくありたいと思う。

「経営者になるためのノート」というタイトルは、まさにその通り。薄いが中身は非常に濃い。意識を高く持ちたいと思う人なら、読んでおきたい一冊である・・・




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2017年03月13日

【確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力】森岡毅/今西聖貴



序 章 ビジネスの神様はシンプルな顔をしている
第1章 市場構造の本質
第2章 戦略の本質とは何か?
第3章 戦略はどう作るのか?
第4章 数字に熱を込めろ!
第5章 市場調査の本質と役割-プレファランスを知る
第6章 需要予測の理論と実際-プレファランスの採算性
第7章 消費者データの危険性
第8章 マーケティングを機能させる組織
巻末解説1 確率理論の導入とプレファランスの数学的説明
巻末解説2 市場理解と予測に役立つ数学ツール
巻末解説3 2015年10月にUSJがTDLを超えた数学的論拠


 著者はUSJのCMO。これまでにUSJシリーズ(と勝手に呼んでいる『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?-V字回復をもたらしたヒットの法則』『USJを劇的に変えた、たった一つの考え方』)を読んでいる方。過去2冊にいずれも学ぶべき点が多く、また出版を予告されていたこともあって、迷わず手にした一冊。ここはまた違う切り口で書かれているようである。

 まずこの本における重要概念であるのが、「プレファランス」。聞きなれない言葉であるが、これは、「消費者のブランドに対する相対的な好感度のことで、主に『ブランドエクイティー』『価格』『製品パフォーマンス』の3つによって決定されている」ものらしい。そして市場構造を決定づけているDNAは、消費者のこのプレファランスだという。

 著者は、自らを「数学マーケター」と称している。仮説を数式で表現し、予測数値を導き、実際の数値と検証するというアプローチ利用である。消費者は同じ法則に基づいて消費行動を行っており、それゆえ「数学的アプローチ」が有効なのだという。ブランドもまた同じであり、市場競争とは一人一人の購入意思決定の奪い合いであり、その核心がプレファランスということらしい。

 この消費者のプレファランスこそが市場競争のDNAであり、どの企業も消費者視点を最重視してプレファランスの向上に経営資源を集中させなければならないとする。その経営資源の配分先は3つ。すなわち、「プレファランス」「認知」「配荷」である。ここでいう「認知」の本質はエボークト・セットと呼ばれる消費者の一種の選択肢に入っているか否かであり、実はメディア内認知率を高めるために、著者は『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?-V字回復をもたらしたヒットの法則』を書いたのだという。

 ここから、専門的な解説に入っていき、正直言って苦手な私には苦痛となる。USJを劇的に改善させたのも、様々なツールはあるのかもしれないが、それらを利用しなくとも「映画だけのテーマパーク」から「世界最高のエンターテイメントを集めたセレクトショップ」への転換は導き出せたのではないかと思うところである。また、日本の購買力から考えたら、本来テーマパークのチケットは1万円以上であるべしと考え、TDLが動かないならUSJから動くと値上げに向かった決断は、なかなかできるものではないと思う。

 著者の語る「数学的なアプローチ」は正直言って難解で理解できない。しかし、組織を巻き込んでいくという観点からすれば、「戦略はゴールから考える」「結局どうしたいのか」という点から、「3年以内に1,000万人の集客を達成したい」と目的に掲げ、「諸条件の組み合わせを想像力で描き出して需要予測などのビジネス結果を予測するモデルなどを使ってサイエンスで妥当性を検証していく」という方法は最適であったのだろう。

 巻末には諸々のツールの解説があるが、それは個人的にまったく理解できず、むしろそれ以外の著者の熱い言葉の方がより心に刺さった。
1. 登りたい壁があるならば、まず足場を作る技術が必要
2. 船全体を沈ませないためには「正しくて厳しい道」を選んで進まなくてはならない
3. 戦略を統率するリーダーの最も大切な仕事は戦術で槍を振り回すことではない
4. 「人に良い仕事をさせる」のが私の仕事
5. 人をどこかに連れて行きたい人は誰よりも「熱」を持っていなければならない
6. 合理的に準備して精神的に戦う
やっぱり数学よりも熱の方が個人の好みにはあう。

 とはいえ、組織を動かすにはこの本で書かれている市場調査などを踏まえた提案力・説得力が必要だろうと思う。苦手意識のない人なら、勉強してみる価値はある。専門的に深く入る前に、導入論的に読んでみる価値はあると思う。「ガンマポアソン・リーセンシー・モデル」という言葉に頭がクラクラする人でも、読んで学びが得られる一冊である・・・



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2017年03月09日

【キリンビール高知支店の奇跡−勝利の法則は現場で拾え!−】田村潤



第1章 高知の闘いで「勝ち方」を学んだ
第2章 舞台が大きくなっても勝つための基本は変わらない
第3章 まとめ:勝つための「心の置き場」

 著者は元キリンビール代表取締役副社長。この本は、高知支店での成功体験を基にした経験談である。キリンビールといえば、戦後長らくラガービールで国内市場で圧倒的な地位を占め、「ビールといえばキリン」と言われていたが、「スーパードライ」を提げたアサヒビールが大逆転をしたのが有名である。そんなビール戦争を敗者の側から見るという意味で興味を持った一冊である。

 著者は、それまで社内で一般的であった価格営業に反対で、「安売りしろ」という声に反発していたそうである。そんな姿勢が問題になったのか、全国でも苦戦地域の一つであり、負け続けている高知支店へ配属される。全国でも最下位ランクであり、四国本部のお荷物とまで言われた支店への配属であり、それは「左遷」であり社内でも「田村は終わった」と言われていたらしい。

 当時の高知支店は、営業マンは皆本社から四国地区本部を通して下りてきた指示を販売店に伝えに行っている状態で、取引先に行くたびにこちらの言うことが(本部の施策に合わせて)違っていたという。それでいて「現場は一生懸命やっている」という言い訳をしてばかりで、「悪いのはできもしない目標をどんどんおろしてくる本社」という様子であったという。

 そんな中、著者はどうして良いか分からず、まずは聞くことから始めたという。年間270回に及ぶ宴会に出席していたらしいが、それで糖尿病、高血圧、痛風になってしまう。しかしそんな聞き込みから、戦略を「料飲店の攻略」という一点に絞る。戦略を絞ると、当然次々に下りてくる本部の施策をどうするとなるが、著者はそれを無視させたという。社外に加え、社内の戦いもあったのである。

 営業課長と一緒に推進したのは、「結果のコミュニケーション」。結果のクロージングにこだわるというもので、「やったつもりが許されない」「見てないことは罪」「やっていないことは悪」で、営業マンを逃げられない環境にしたという。そこには4ヶ月の法則というものがあり、結果が出ずとも我慢して4ヶ月目に入ると体が慣れてくる。やがてそうした動きが団結を呼び、営業サポートの女性も土日に出勤するようになる。「仕事が楽しくてしょうがない」とまで言われるようになったらしい。

 やがて高知支店にチームワークが生まれる。一番のきっかけになったのは、「高知がいちばん」のキャッチコピーを使ったセールス。一人あたりのラガー大瓶の消費量が全国1位だったことを利用したものだが、これが高知人の琴線に触れ、販売量が伸びていったという。著者は、本社や四国本部に高知支店の事情を丁寧に説明して社内調整をして行く。3年前には30〜40店しか回っていなかった営業マンが、400店以上回るようになったというからすごいことである。

 そうして高知支店で目覚ましい実績を上げた著者は、四国地区本部長に昇進し、ここでは四国四県それぞれの実情に合わせた戦略を取らせる。会社の方針とその意味を理解した上で、顧客からの支持を最大にするためにどの施策に絞り込むかを決め、効率的なやり方を議論し、現場ならではの工夫をし実行するという手法でまた成果をあげる。

 さらに東海地区本部長に昇進した際は、理論優先の組織の弊害を見抜き、大胆にも「会議廃止」を宣言する。これによって、社員間に工夫が生まれ、何より水と油だった営業と企画との関係が良くなったという。そして東京本社の営業本部長に昇進し、2009年にはアサヒビールからシェアNo.1を奪い返す(その翌年から現在に至るまでアサヒがNo. 1)。

 著者が特に強調しているのが、主体性を持つということ。指示待ちスタイルの変革であり、何より自分の頭で考え行動して主体的に議論をさせるものである。結果を出すことにこだわり、基本を徹底する。現場を熟知し、正しい決定を下し、覚悟と責任感を持ったリーダーを強化する。なるほど、書いてあることは難しいことではなく、「凡事徹底」に尽きるのだとわかる。

 強い組織でリーダーシップを発揮するのも簡単ではないだろうが、著者のように弱小中の弱小組織で成果をあげるのには、やはり考えて考えて考えることが必要だと良くわかる。どんな組織であれ、環境の責任にする前にやることがあるだろうと思えてくる。
実に学ぶところの大きい一冊である・・・



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2017年03月07日

【赤めだか】立川談春



「これはやめとくか」と談志は云った。
新聞配達少年と修業のカタチ
談志の初稽古、師弟の思い
青天の霹靂、築地魚河岸修業
己の嫉妬と一門の元旦
弟子の意欲とハワイの夜
高田文夫と深夜の牛丼
生涯一度の寿限無と五万円の大勝負
揺らぐ談志と弟子の罪-立川流後輩達に告ぐ
誰も知らない小さんと談志-小さん、米朝、ふたりの人間国宝

著者は立川談志の弟子である落語家。俳優としても活躍していて、私も顔を見ればあの人かとわかる方である。そんな著者が、自らの半生を綴った自伝。

もともと著者は競艇に興味を持っていて、競艇の選手になろうと思っていたようである。ところが身長制限に引っかかってアウト。競艇選手は小さくないとダメらしい。時に世の中は大漫才ブーム。ところが著者は図書室で見つけた落語全集に興味を持つ。そして寄席に行き、出会った談志の追っかけを始める。そして弟子になるなら志ん朝か談志かと悩んでいた時、談志の「芝浜」を聞く。これに衝撃を受けて談志に弟子入りすることを決意する。

すぐに高校を辞めて談志に弟子入りする。この行動力は、正直言ってすごいと思う。この方は自分とほぼ同世代。あの頃、そんな思い切った行動はとてもではないが自分にはできなかった。弟子といっても談志は内弟子は取らず、住み込みで新聞配達をしながらの弟子生活のスタートである。実は談志は落語協会から飛び出していて、普通の落語家の弟子とはかなり不利な状況だったらしい。

落語協会は運命共同体。弟子たちは自由な時間はないものの、寄席に入っていれば飲み食いには困らないらしいが、その代わり序列が大事で変革は望まれない。一方立川流は仕事は少なく自由な時間はあるが、自分で腕を磨く必要があり徹底した実力主義の世界。なんとなく立川談志という人の性格が見えてくる。

著者には、兄弟弟子がいる。志の輔、関西、談々、談秋。弟子同士の交流、修業生活の日々。そこには普通の人は知りようもない立川流の修業の世界がある。理不尽な部分もかなりあるが、相手の進歩に合わせて教えるというのも談志の弟子育成の特徴だったらしい。それでも思い通りにいかず、辞めて行く人たちがいる。

修業の途中でクビの危機に陥る。それも風邪で師匠の稽古を断ったことが発端。理不尽にも落語とは関係のない築地魚河岸での修業に出され、戻ってからも食べるものを確保するのに苦戦する日々。そんな生活の中でも感動がある。そして二ツ目と呼ばれる、相撲で言えば幕内に昇進する。昇進試験はまるでそれ自体が落語のようである。さらに二ツ目の後は真打ちであるが、ここで著者は後輩に抜かれる。これは次の日から先輩後輩の関係が逆転するものらしく、なかなかシビアな世界である。そんな一般には知られざる世界の話が興味深い。

それなりに名を成した人の人生には学びが多いと思う。この方の人生にしてもしかり。理不尽さには理不尽さの理由と長所がある。今風に言えば、完全に「ブラック」な世界だが、それを否定するのは難しい。著者が成功し得たのも、こうした理不尽な修業があったからと言えるに違いない。

今度寄席に行ってみようか。そんな気持ちになった一冊である・・・



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