2017年04月04日

【日輪の遺産】浅田次郎



 かつて映画版を観ており、なんとなく原作も読まねばと思っていた作品。ここに来てようやく手にした次第。やっぱり原作を読んでみると、映画版とは差異があるようである。

 物語は昭和二十年八月にさかのぼる。冒頭、ある女学生たちの姿が描かれる。担任の野口先生は生徒たちに慕われているが、その平和主義的思想から憲兵に連行されてしまう。まもなく野口先生は戻ってくるが、1クラス35名は、軍から重要任務に就くことを命ぜられ、トラックに乗せられてある場所へと向かう・・・

 翻って現代、不動産会社社長の丹羽明人は、商売も傾き半ばどうでもよくなって競馬で一攫千金を狙う。そしてそこで真柴と名乗る老人と出会う。ひょんなことから真柴老人に付き合い飲みに行く丹羽。そこで老人に一冊の手帳を手渡されるが、老人はそこで急に亡くなってしまう。成り行きで病院に付き添った丹羽は、霊安室で真柴老人から預かった手帳を読み始める。そこには、終戦間際に真柴老人が関わった指令のことが書かれていた・・・

 終戦間際、陸軍少佐の真柴司郎は、突如師団長から呼び出される。降伏か徹底抗戦かで不穏な空気が自らが属する近衛師団内に漂う中、真柴少佐は同時に呼び出された小泉主計中尉とともに大臣室へと案内され戸惑う。阿南陸軍大臣、杉山元帥、梅津参謀総長、森師団長、田中軍司令官と並み居る面々から直々に密命を受ける。それはマツカーサーから摂取した900億円分の財宝。敗戦後の祖国復興資金とすべく、国内に秘匿せよというのがその内容。

 物語は、現代と終戦直前とを往復しながら進んでいく。小泉中尉とともに財宝秘匿の任務に就いた真柴少佐は、指令に従ってそれを多摩の火工廠へと運ぶ。それを洞窟に運び込むのに使役されたのが野口先生の引率する女学生35名。何も知らない女学生は、黙々と指示に従って作業にあたる・・・

 過去と現在を往復する物語。終戦間際に隠された日本の復興資金。現代に生きる丹羽は、ボランティアの海老沢と地元の有力者である金原と隠された財宝を密かに手に入れようと考える。しかし、果たして財宝は今だ火工廠跡にあるのか。手帳を読む丹羽も、この本を読む立場からもそれは大いに気になるところ。そして終戦間際の真柴少佐には最後に過酷な命令が下される。

 様々な登場人物たちが、過去と現在とで登場するが、過去と現在は意外な形で結びつく。その結末は、深い味わいとともに円団を迎える。ある程度は読む者も結末を予想すると思うが、この結末はなかなか予想はできないのではないかと思う。そこが浅田次郎らしいところかもしれない。映画版は正直言ってあまり心に響かなかったが、原作小説はさすが浅田次郎と思わされる。この物語は、映画ではなく原作で味わうべきだろう。

 解説によれば、デビュー以来の路線を変更する一作だったとのこと。映画は観たが、原作はまだという作品はまだある。それもぜひ読んでみたいと改めて思う。急がず、折を見てと思わされる一作である・・・



posted by HH at 20:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 浅田次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする