2018年03月09日

【食いつめものブルース −3億人の中国農民工−】山田 泰司 読書日記900



プロローグ 食いつめもの
第1章 希望(五輪・万博)
第2章 爆買いとPM2.5
第3章 異変
第4章 夢の国と夢の死(ディズニー)
第5章 彷徨
第6章 初めての海
エピローグ 農民工たちはどこへ行くのか

 近年、経済発展でついに世界第2位の経済大国となった中国。日本でも観光客がやってきて、「爆買い」が話題になるなどしているが、その一方で13億の国民の中には貧しい人々も大勢いる。そんな爆買いとは無縁の貧しき人々の姿を追ったドキュメンタリー。何となくネットで見つけた記事に興味を持って手にした一冊である。

 著者は、現在地上海に暮らすライターのようである。1988〜1990年に北京大学に留学して以降、香港で記者をされていたりという経歴を見ると、ほぼ私と同年代のようである。しかし、あまり裕福ではないようで、自ら「食いつめもの」と自虐的に語り、しかしそれゆえにこそ同じ「食いつめもの」である中国人たちと仲良くなり、その実態を伝えられるのかもしれない。

 ここで登場するのは、上海に暮らす農民工の人たち。農民工とは、もともと地方に戸籍があるものの、地元を離れ都会である上海に職を求めてやってきた人々のこと。ここでは特に上海で暮らす安徽省出身の人たちが採り上げられる。安徽省と言っても、我々日本人にはピンとこないが、上海に隣接する省のようである。

 安徽省の人たちがなぜ都会(上海)に出てくるかと言うと、地元では農業をしているから食うことはできるが、「それだけだから」だと登場人物は語る。「農民の年収より上海人の毎月の年金の方が多い」となると、「やってられない」と思うのは当然かもしれない。そして男たちは出稼ぎに行き、安徽省の農村には「留守児童」と呼ばれる子供達が溢れる。

 そんな出稼ぎの農民工たちだが、受け入れる上海人たちは安徽省人に対しては罵詈雑言を浴びせるほどバカにしている。その背景には、上海に住む人たちのおよそ3人に1人は安徽人と言われる状況があるようである。上海の人口は1,900万人(2009年末)というから東京よりも多い。その三分の一が農村出身で、出稼ぎの肉体労働者というのもすごい気がする。

 そうした総論的な話もいいが、著者が紹介するのは具体的な名前を持った人々。それもゴミ拾いをしたり、家政婦や食堂で働いたりする人々。ほとんどが高い家賃を払えなくて、取り壊しが決まった廃墟などに住んでいる。驚いたことに、そんな廃墟でも安いながら「家賃を払って借りている」という事実。中には部屋の中に間仕切りのない状態で便器が置いてあったりするところもあって、そんな部屋でも家族が暮らしているという事実。

 単に貧しいということだけでなく、社会にある不平等にも驚く。中国の一人っ子政策はよく知られているが、実は2人目以降になると、罰金を取られるのだという。それだけではなく、シングルマザーも子供が1人でも罰金対象になるのだとか。そしてその罰金は決まった金額ではなく、役人が値踏みして決めるのだという。なので「コネ」がないとかなりの大金を取られてしまうらしい。

 また、ここで描かれる中国人の考え方も興味深い。稼いだ金は自分のためには使わず子供のために使う。登場してくる廃品回収をしている人物は、身につけているものはすべて拾ったもので廃墟に暮らしながら、子供の勤め先には大金を出資したりしている。気持ちはわからなくもないが、微妙な気持ちである。

 普段知ることもない中国の片隅の様子は、どれもこれも興味深い。日本はまだまだはるかに恵まれているのかもしれない。こういう中で暮らしているからこそ、中国人は逞しいのかもしれない。ここに登場する中国人はほんの一部でしかないが、これもまた中国の現在の一面でもあり、興味深い。知られざる中国を垣間見ることができ、興味のある人には実に面白いドキュメンタリーである・・・


posted by HH at 00:00| Comment(0) | ドキュメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする