2018年06月27日

【ハーバード日本史教室】佐藤智恵 読書日記934



序  ハーバード大学と日本人
第1講義 教養としての『源氏物語』と城山三郎 アンドルー・ゴードン
第2講義 『忠臣蔵』に共感する学生たち デビッド・ハウエル
第3講義 龍馬、西郷は「脇役」、木戸、大久保こそ「主役」 アルバート・クレイグ
第4講義 ハーバードの教授が涙する被災地の物語 イアン・ジャレッド・ミラー
第5講義 格差を広げないサムライ資本主義 エズラ・ヴォーゲル
第6講義 渋沢栄一ならトランプにこう忠告する ジェフリー・ジョーンズ
第7講義 昭和天皇のモラルリーダーシップ サンドラ・サッチャー
第8講義 築地市場から見えてくる日本の強みと弱み テオドル・ベスター
第9講義 日本は核武装すべきか ジョセフ・ナイ
第10講義 世界に日本という国があってよかった アマルティア・セン

著者は作家兼コンサルタント。似たようなタイトルの本が多い昨今、気がつけば『ハーバードでいちばん人気の国・日本−なぜ世界最高の知性はこの国に魅了されるのか−』と同じ作者によるものであった。今回、興味をそそられたのは、「日本史」というキーワードなのであったが、なんとなくそれは予想していたのとは趣が異なるものであった。

内容としては、ハーバードで日本について教えている教授を中心に10人を採り上げ、インタヴューをしたものである。その中には、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』のエズラ・ヴォーゲルも含まれているのが、ちょっとした読みどころかもしれない。

著者はこの本の目的を、「世界から見た日本史の一端を垣間見る機会となり、日本史の新たな魅力を発見することにつながれば望外の喜び」と語るが、それにしては内容が「日本史」とはズレているのではないかと思わされてしまう。内容に問題があるというのではなく、内容と著者の意図があっていないと感じるのである。

初めこそ、日本史らしきものが出てくる。「サムライが人気」とか、「源氏物語は不評」とか。戦時中の日本のプロパガンダ映画である「チョコレートと兵隊」などという映画を見て研究しているというから、さすがハーバードと思ってしまう。各教授が行なっている授業の様子を紹介してもらい、「日本は品格ある国家を目指すべき」などというコメントをもらうような構成になっている。

・幕府が直接領土を統治する仕組みではなかったからこそ、システムの中に他国にはない柔軟性があった
・農民は年貢さえ納めていれば副業も自由で、税金もかからなかった
などという事実は、なかなか興味深い。幻の貿易都市十三湊や漆器技術が世界から絶賛を浴びたことなど、こんなことを採り上げるんだと感心する内容もある。
渋沢栄一は、セオドア・ルーズベルトの日本観に影響を与えたとか、モラル・リーダーシップでは昭和天皇も採り上げられている。トランプ大統領に批判的な意見が多いのも特徴かもしれない。

『リーダー・パワー』のジョセフ・ナイ教授は、日本とアメリカが戦後これほど長く友好関係を続けてこられた理由を3点挙げている。
1. 軍事戦略上の必要性
2. 日本が戦後、民主主義国家を作り上げることに成功し、アメリカの同盟国にふさわしい国になった
3. 経済的相互依存
こういう分析は、個人的に興味がある。さらに核武装より日米同盟に勝る抑止力はないとしているが、これはひょっとしたら「日本に核武装させたくないから」ではないかと思えてしまう。

気になる日本の課題であるが、
1. 移民の受け入れ
2. テクノロジーの活用
3. 人的資源の活用
としている。こういう外からの見方も面白い。

後半になると、日本史は何処へやらという雰囲気になる。日本は知識によって国を発展させてきたとし、それは知識を重視する仏教文化に由来するものだという意見もあるが、どうも「日本史」からは離れてしまう。「日本史」をテーマに企画したものの、終わってみればズレてしまったということなのかもしれない。

著者は、ハーバードで日本が学ばれているということに対し、誇りのようなものを持っているのかもしれない。それはそれで悪くはないが、個人的には日本を学びの対象に入れているハーバードの奥深さを感じる。それと同時に、日本以外の国はどこまで学ばれているのだろうかと気になる。例えば中国などは、なんとなく日本より講座が多そうな気もする。「日本が取り上げられていて嬉しい!」のもわかるが、そうした全体像もあったらなお良かったと思う。

日本人ももっともっと幅広く学ばなければならない、内にこもっていてはいけないと感じさせられる。タイトルとは異なる内容で残念ではあったが、感じる所のある一冊である・・・




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2018年06月23日

【琥珀の夢 小説鳥井信治郎】伊集院静 読書日記933



上巻
第1章 鳥井家の次男坊
第2章 丁稚奉公
第3章 ハイカラ修行
下巻
第4章 寿屋洋酒店
第5章 赤玉ポートワイン
第6章 山崎蒸溜所
第7章 ジャパニーズ・ウィスキー
第8章 琥珀の夢

タイトルの「琥珀」とは、ウィスキーの色のことを指すのだろう。これは日本で初めて国産ウィスキーを発売したサントリーの創業者鳥井信治郎の物語。うまいタイトルをつけるものだと思わず唸ってしまう。

冒頭に描かれるのは、明治40年(1907年)の大阪。ここで丁稚時代の松下幸之助が、当時まだ珍しかった自転車を納品に行き、店主の鳥井信治郎と出会う姿が描かれる。鳥井信治郎没後の銅像の除幕式に、その時既に高齢で公の場から退いていた松下幸之助がわざわざ参列したというが、2人のつながりを表す心温まるエピソードである。

その鳥井信治郎は、明治11年(1878年)に大阪の船場の薬問屋で次男として誕生する。母のこまに小さい頃から付き添っていたことから、信心と陰徳を学ぶ。大阪商業学校で2年学んだ後、次男の宿命として丁稚奉公に出ることになる。出た先は同じ薬問屋の小西儀助商店。これがのちに信治郎の運命を決める。主人の小西儀助は、商売のかたわらワインやウィスキー、ビールに興味を持ち、自ら手掛けようとしていたのである。

朝早くから起き出して仕事をする丁稚生活。特に丁稚仲間で敬遠されていたのは、主人が夜な夜な行う薬の調合に付き合わされること。睡魔との戦いであり、丁稚にはきつい。しかし、信治郎は研究熱心な主人の姿に感化され積極的に付き合う。それがゆえに主人も信治郎を指名することが増える。薬の調合の他にも葡萄酒の調合(当時の日本人に本場のワインは飲みにくかったようである)も行なっており、のちに信治郎はこれを発展させることになる。

信治郎はとにかく仕事熱心で好奇心が旺盛。現代でも自ら積極的に雑用をこなす人と、言われてやむなくやる人がいるが、そのスタンスは後々に大きな差となってくる。信治郎のスタンスもまさにそれで、丁稚仲間にも信治郎と同様なチャンスはあったわけであるが、すべては日頃の仕事に対するスタンスが、かたや日本を代表する企業の創業者とその他無名の存在とに分けていくのであろう。

こうした信治郎の成長に加え、当時の日本の事情も描かれていて興味深い。日清戦争が勃発し、その勝利で多額の賠償金を獲得。日本は活況に沸いていく。主人に付き添い、初めて上京した信治郎は、当時売れていた蜂印香鼠葡萄酒の存在を知るが、売り出していたのは神谷傳兵衛。はっきりとは書かれていないが、今に残る日本最初のバーである浅草の「神谷バー」の創業者である。こうした時代背景も興味深いところである。

やがて信治郎は独立し、三方良しの精神と熱心な働きぶりで事業を拡大する。自らを「大将」と呼ばせ、社員を家族のように扱う。やはりことを成す人物というのは、大勢の人の支持を受けていくものであるが、それはこういうところに表れているのだろうと思う。赤玉、トリスなどは今にも残る商品名であり、トリスの名前の由来は、「サントリー」のそれとともにユニークである。(「トリス」は“トリイ’s”から来ており、「サントリー」は「とりい SUN(太陽)」から)

最愛の奥さんを早くに失い、事業を託すはずだった長男も亡くなってしまう。跡を継いだのは、次男で養子に出た佐治敬三。だから苗字が違うのだと読んでいて頷く。まっさんこと竹鶴政孝氏と二人三脚で日本オリジナルのウィスキーを山崎の地で創り上げる経緯は胸踊るものがある。サントリーオールドが出荷量世界一を達成したなんて知らなかったし、物語の楽しみと戦後のウィスキー事情がわかって読むのをやめられなくなる。

サントリーといえば、「ウィスキー」。ビールではキリンとアサヒの後塵を拝していたが、最近「プレミアムモルツ」が登場し、私の中ではNo. 1になっているが、ビール事業への挑戦は信治郎が息子に託した夢だったのだという。そういう背景を知ると、ビールの味もまた一味違ってくる。この本を読んでしまうと、サントリーがますます好きになってしまう(個人的にはそれでもウィスキーよりバーボンなのだが・・・)

1人の偉大な経営者とサントリーの歴史と背景での日本の歴史がミックスされて、実に面白い一冊である・・・






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2018年06月22日

【女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと】西原理恵子 読書日記932



第1章 母と娘のガチバトル
第2章 スタート地点に立つために、できること。
第3章 夢見る娘とお金のハナシ
第4章 かあさんの子育て卒業宣言
第5章 巣立ちのとき
第6章 女の子が生きていくときに、覚えていてほしい5つのこと。
終 章 女の子たちの《エクソダス》

著者は漫画家。ほとんど読んだことはないものの、「毎日かあさん」シリーズはその存在を知っている。そんな著者が、漫画論とは関係なく、タイトルの通り人生論を語ったもの。読めばわかるが、これは自分の娘に対するメッセージにもなっているようである。

著者は、高知県出身。19歳で公務員の彼氏を振りほどいて美大に入学するために上京。しかし、才能の差に美術の道を諦め、とにかく必死にエロ本の漫画を描いたりしてなりふり構わず生きてきたようである。地元にいたら、ちょっといけてる男は「やんちゃ自慢の不良」、言い換えれば「無職のバカ」という状況が嫌だったらしいが、とにかく苦労した方のようである。それが行間と、時折ずしりと響く言葉にあふれている。

1. 若さや美貌はあっという間に資産価値ゼロ。仕事のスキルや人としての優しさ、正しい経済観念などゼロになる前にやっておくべきことはたくさんある。
2. 結婚はゴールではない。相手が病気になることもリストラされることもある。つぶれない会社、病気にならない夫はこの世に存在しない。
3. 王子様を待たないで。社長の奥様になるより社長になろう。
すべての若い女性に聞かせたい言葉である。

そんな言葉は、思春期の娘や実の母親との日々のバトルから、そして自分の経験などから生まれている様子。反抗期の娘とはガチでバトルをしていると言うが、その眼差しは暖かい。血が上ったら、「5分間ルール」として、5分間別の部屋に行って冷静になるというのは自分も心がけていることである(自分は議論が加熱すると一晩おくことにしている)。

美術の道を断念した経験から、「道は1つじゃない。人生にも抜け道、けもの道がある。自分が進むべき道を曲げるプライドのない切り替えが大事」と説く。自立するために営業千本ノックと称し、イラストレーターからエロ本に転じた著者の強い生きる力が伝わってくる。「一人暮らしの家賃とそれに見合う収入が自立のバロメーター」であり、家賃を男とシェアするべからずとする。

「好きなことで生きて生きたいなら、それでちゃんとお金が稼げるようにならなくてはダメ」とお金については特にしっかり説く。「そこを具体的に考えた時に、ふわふわした夢が現実味を帯びる」とする。「(そうして得られる)自由は有料」という言葉が心に響く。さらに「(子育ての)責任も有料」と続く。

続く言葉はどれも重みがある。
1. 天下取るなら自分で取れ、糟糠の妻にはならない
2. 彼の夢を支える人ではなくて、自分の夢を叶える
3. 人に頭を下げるくらいなんだ! プライドで飯が食えるか!
4. いい子にならなくていい、いい子は幸せを人に譲っちゃうから。いい嫁になんかになっちゃダメ、いい嫁っていい女中
5. あなたが笑うとあなたの大切な人が笑う
6. 結婚か仕事かだったらどっちも取る
7. 子供の熱が出たら会社を休む、休める会社に勤めている人がいたらそれは素晴らしい白馬の王子様
8. ダイヤモンドをくれる男より、一緒にリヤカー引いてくれる男
9. しょぼい1日を2人で笑い話にできるなら怖いもんなし
10. 転んだ時の受け身の上手い人ならもう言うことなし
11. どんな時でも次の一手は自分で考えて自分が選ぶ。王子様は待たない。幸せは自分で取りに行く。

我が家にも高校生の娘がいる。常日頃、結婚がゴールという生き方はしないでほしいと考えているが、まさに我が娘に聞かせたい言葉の数々。多分、厳しい経験を積んできたのであろう。そんな経験に裏打ちされた言葉が重みを持って伝わってくる。薄い本ではあるものの、ずしりと重い一冊である・・・




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2018年06月20日

【5年後に笑う不動産−マンションは足立区に買いなさい!−】長嶋 修 読書日記931



第1章 2020年以降、不動産のあり方が激変する
第2章 これから住宅を購入して本当にいいのか?
第3章 「不動産価値」3極化の傾向とエリア別事例
第4章 住まいで人生を棒に振らないために

著者は不動産コンサルタントなのだという。果たしてどんなことをしているのか、それで食べていけているのか、実に興味深いところである。それはともかくとして、その不動産コンサルタントである著者が、「人生100年時代の不動産戦略」と称して記したのが本書である。

不動産の常識は、時代とともに変わると著者は語る。戦前の日本はほとんどが借家で、今の持ち家信仰は、戦後の政府の政策によるとする。それはそうだが、戦前の日本には住宅ローンという庶民がお金を気軽に借りられるシステムがなかっただけではないかと思う。著者の意見とは微妙に齟齬を感じるところがあちこちに出てくる。

不動産は金融商品であり、価格は株価と連動するとする。これもその通りだが、「金融商品」と考えるのは主として投資家であり、この本は終始投資家目線で語られる。その上で、気になるのはやはり過度な価格の上昇、すなわちバブルであるが、著者はバブルの兆候を4つ挙げる。
1. 不動産価格の上昇過程でメディアが「バブル」と言わなくなったら
2. 不動産業界現地を見ずに不動産を買い始めたら
3. 不動産業界がこぞってラスベガスに旅行に行き出したら
4. 不動産業者がお客に「売ってやる」みたいな態度にで始めたら
1つの見方としては面白いと思う。

向こう数十年で不動産市場は大幅に縮小するという意見はもっともだと思う。少子高齢化社会に伴う変化としては、想像しやすい。その中で、資産価値を決めるのは「立地」だとするが、これもその通りだろう。日本以外の主要先進国は住宅の供給量をコントロールしているという。これは知らなかった。木造住宅は30年で建て替えという常識は間違いという意見は、違和感を感じるところ。それは常識ではなく、「新築に住みたい」という願望だろう。

今後日本の不動産は三極化が進むとする。すなわち、
1. 価値を維持する、もしくは上がる不動産
2. なだらかに下落し続ける不動産
3. 限りなく無価値、あるいはマイナスになる不動産
であるが、確かにその通りである気がする。各自治体が定める「立地適正化計画」のことは知らなかったが、都心部ではあまり関係ないのかもしれないと思う。

タワマン節税は封じられた感があるが、それでもまだ相対的に有効であるとか、資産価値を維持するなら「割高でも駅近」とか、常に投資家目線で語られる。それはそれで投資家にとってはいいであろう。生産緑地における2022年問題は、実際どうなのか半信半疑のところがあるが、情報としては一考に値する。日本全国各地の注目エリアは、その理由とともになるほどと思わされる。

不動産投資家には、一読の価値があると思う。いろいろと微妙な意見はあるものの、テニスでいうなら壁打ちの壁としての価値はある本だと思う。「自ら考える」投資家には、参考になる一冊である・・・





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2018年06月15日

【神になりたかった男 徳田虎雄−医療革命の軌跡を追う−】山岡 淳一郎 読書日記930



第1章 アメリカ帰り
第2章 けものみち
第3章 エデンの東
第4章 政界漂流
第5章 王国崩壊、生き残ったものは・・・

医療法人で徳洲会グループというものがあることは、いわゆる「徳洲会事件」で知っていたが、では果たしてそれがどんなグループなのか、あるいはそもそも「徳洲会事件」てどんな事件なのか、改めて問われると答えられない。そんな徳洲会について、設立者である徳田虎雄の人生を踏まえつつ語った一冊である。

徳田虎雄は、昭和13年の生まれ。もともと生まれは兵庫県だが、2歳の時に徳之島に移住。貧しく医者のいない中で、小学校3年の時に3歳の弟が病死する。夜中に叩き起こされて医者を呼びに行かされたというが、この時の原体験から医者になったあと、「患者を断らない」主義を掲げる。38歳の時には当直の時にはあらゆる患者を入院させたという。

高度経済成長下の1971年当時、大都市圏でも休日・夜間の救急患者を受け入れる病院は極めて少なく、「医療砂漠」と呼ばれる医療空白地帯が広がっていたという。そんな中であらゆる患者を受け入れたため、徳田が当直と聞くと、救急隊員が遠くからわざわざ患者を運び込んだという。その数、一晩で救急車20台以上にも達したという。しかも徳田はこの当直を他の病院も含めて週4日こなしていたという。

やがて、「年中無休、24時間誰でも診る」と宣言してそれを実践する病院づくりに取り掛かる。まさに医者の鏡のような人物である。そして奥さんとともに土地を探し、銀行回りをし、あちこちで融資を断られながら最後に第一勧銀の融資を受けて最初の病院を建てる。ストーリーは徳田本人ばかりでなく、関係者の視点からも迫っていく。当時の看護婦は、徳田に誘われてこの病院に移り、28時間勤務に突入していく。理想はいいが、現場は「野戦病院」のようだったという。

なんでもそうだが、こうしたストーリーは上り坂を駆け上がっていく時期が面白い。ヤマト運輸が宅急便を全国展開させようとした時に運輸省が立ちはだかったのは有名な話であるが、徳田が次々と徳洲会の病院を作る過程で立ちはだかったのは医師会。
「患者からの付け届けは受けない」
「健康保険の3割負担も困っている人には猶予する」
「生活資金の立替・供与をする」
こんな方針を掲げる徳田に「理想の医療」をやられては堪らないという考えがあったのだろう。世論は当然徳田の肩を持ち、徳洲会はこの逆風にもめげずに成長していく。

しかし、医師会との対立から「政治」の重要性を痛感した徳田が、選挙に走るあたりから歯車がきしみ始める。選挙資金を捻出するために、医療制度の裏で裏金を作る。カネまみれの選挙に病院建設のための資金調達が膨らみ、外資系銀行団と死闘が始まる。莫大な金が動く中、ファミリーと病院との衝突も起こり、次々と「戦友」も戦線を離脱していく。さらに徳田本人もALSを発症してしまう・・・

徳田氏本人は、今もALSで身動きできない中、完全看護にあると言う。一読してものすごいエネルギーを持っていた人物であることがわかる。本人が書いた自伝でない分、清濁併せて書かれており、物語としても面白い。救急難民の話を最近は効かなくなったが、おそらく徳洲会の果たした役割が大きいのだろう。例え汚い部分があったとしても、スタートに掲げていた理想は本物だと思う。診てもらう立場としては、全ての医者に徳田のようであって欲しいと思う。

その意義を讃えたい一冊である・・・




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2018年06月09日

【フライト・ゲーム―高校生が自分と向き合うための18の方法】松葉 健司 読書日記929



フライトI 優先順位をつけて整理
フライトII 夢の見つけ方
フライトIII 仮の意思決定
フライトIV 変えられるもの、変えられないもの
フライトV 裏百点
フライトVI 習慣
フライトVII テーマと写真
フライトVIII 発信と受信
ファイナルフライト 「ありがとう」の反対の言葉
第1ゲーム 天秤の法則
第2ゲーム 今に集中
第3ゲーム センスとがんばり
第4ゲーム 儀式と名前
第5ゲーム 二重否定の禁止
第6ゲーム 買い物となりたい人生
第7ゲーム 火事場の馬鹿力の計算式
第8ゲーム 賢い脳をつくるには
第9ゲーム 空気中に情報は満載
ファイナルゲーム 「ありがとう」の反対の言葉

サブタイトルに「高校生が自分と向き合うための18の方法」とあるように、これは物語形式で若者に教えを授ける内容となっている。ちょうど我が家には高校生の娘がおり、何かの参考になるかもしれないと手にした一冊。

主人公は双子の姉弟実紗と颯人。ともに高校生だが、それぞれ別々の高校に通っている。実紗は美術部に入り、颯人は野球部に入部する。2人とも高校生らしく、将来に対する漠然とした不安や、現状に対するちょっとした悩みを抱えている。そんな2人にある日、メールが届く。それは10年後の未来の自分から。何でも未来では過去の自分にメールを送る技術が確立されたらしい。

細かいところは敢えて問うことなく、そのままの前提を受け入れて読み進める。実紗は10年後の自分自身(ミサ)から、そして颯人も10年後の自分自身(ハヤト)からメールを受け取り、それぞれがミサとハヤトからメールで人生指南を受けることになる。自分にも未来からのメールが来たらいいのにとつい想像してしまう。そしたら上がる株を教えてもらうのにと欲にまみれて考えてしまうが、過去へのメールでは未来の結果を教えてはいけないというルールになっていると釘を刺される。

さて、そんな未来の自分に対し、実紗は「ミサお姉ちゃん」と呼び、さっそく何を相談して良いかわからないと打ち明ける。それに対し、ミサは「優先順位をつける」方法を伝授する。悩んでいるものをとにかく片っ端からリストアップしていき問題ないものには×をつけ、悩ましいものに○をつける。これは大人でもいいかもしれない。

実紗については「フライト」と称する章になっていて、颯人のそれは「ゲーム」とされている。どうやら10年後の実紗はCAになっているらしく、颯人は野球部であるがゆえにそのように命名されているようである。そして2人に対するそれぞれの未来の自分からのアドバイスが物語に沿ってなされて行く。

将来の「夢」について、ミサは実紗に「探すものではない」と語る。小さい頃の夢は、「考えたものではなく、自然に発生したもの」として、「まずは興味・関心を持つこと」とする。「好きなことと出会い、感動を大切にする。そうすれば夢は勝手に湧いてくる」と。なるほど、これは若者に対してはいいアドバイスだと思う。若者でなくても、かもしれない。

「仮の意思決定」というのも面白い試みだと思う。仮に決めてみる。そしてその通りに動いてみる。あくまでも「仮」なので、途中で何かあれば柔軟に変更したっていい。そうすることが行動につながる。これもその通りだろう。まず登ってみる。そうすれば、今いるところでは見えない景色が見え、その次の道を見つけられるかもしれない。

最後の「ありがとうの反対言葉」もなかなか考えさせられた。内容は、やっぱり高校生向けであるが、自分だったら高校生にこんなアドバイスができるだろうかと思って読むと得るものは多い。我が家の娘にも是非読ませてみようと思う(読むかどうかわからないけど・・・)。

「過去」と「他人」は変えられない。変えられるのは「未来」と「自分」。娘にも是非知ってほしい言葉であり、是非とも読ませたい一冊である・・・





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2018年06月08日

【トヨタ物語−強さとは「自分で考え、動く現場」を育てることだ−】野地 秩嘉 読書日記928



プロローグ ケンタッキーの名物
第1章 自動車会社ができるまで
第2章 戦争中のトヨタ
第3章 敗戦からのスタート
第4章 改革の始まり
第5章 倒産寸前
第6章 かんばん
第7章 意識の改革
第8章 クラウン発売
第9章 7つのムダ
第10章 カローラの年
第11章 規制とショック
第12章 誤解と評価と
第13章 アメリカ進出
第14章 現地生産
第15章 リアリストたち
第16章 トラックに乗り込んだ男
第17章 21世紀のトヨタ生産方式
第18章 未来
エピローグ 誇り

トヨタ自動車は、誰もが知る日本を代表する自動車会社であり、「かんばん方式」「ジャスト・イン・タイム」などのトヨタ生産方式とともに数多くの本も書かれている。今更感もある中、それでも面白そうな予感を得て手に取った一冊である。

冒頭、トヨタのケンタッキー工場の様子が紹介される。アメリカは、フォード・システムを生んだ国。両者の違いがアメリカ人労働者ポールの説明に現れている。アメリカ人の担当者は、初めてトヨタに転職してきて、不具合が生じてラインを止めるよう指示された時、クビを覚悟したという。アメリカの生産方式では、ラインを止めることは害悪で、止めた者はクビになる。ところがトヨタでは、原因を究明するためには、一作業者であってもラインを止めることが許される(というか推奨される)。アメリカ人担当者の感動がそのまま伝わってくる。

そして、トヨタの歴史を遡る。トヨタ自動車の創業者は豊田喜一郎。自動織機を発明した豊田佐吉の息子である。豊田佐吉は自動織機を発明したが、その真髄は織機のスピードを上げたことではなく、不具合が起こった瞬間に機会を止める装置をつけたことだという。不良品を出さないために機械が止まる重要性を佐吉の機械から受け継いだのが、トヨタの生産システムの肝となる。「自働化とは機械に人間の知恵を付与すること」という考え方が、根底に流れる。

挙母工場が建設され、トヨタの歴史が語られる。それはそのまま日本の自動車産業の歴史。まだアメリカには足元にも及ばない。戦争で中断し、戦後しばらくまで主にトラックの生産が中心。まだ乗用車を作る技術も、またそれを買う消費者も揃っていない。初めて生産されたクラウンは、普通のサラリーマンが10年働いて買える価格だったという。

戦後、飛行機のエンジニアが流入したことが自動車産業にとっては良かったという。飛行機は、鉄道や船などと同様、「プロに向けて設計すればいい」もので、これに対し自動車は「素人が運転する」ものという部分はなるほどと思わされる。そして飛行機を作った経験がある国(欧米各国や日本)と、作ったことのない国(中国、韓国)の自動車は設計思想が違うという意見も考えてもみなかった意見である。

さらにアメリカと日本の労働者の違いも興味深い。アメリカの「ワーカー」は時間給で、考えずに作業し、時間が来れば仕事をやめる。時間を売っているからタダで残業はしない。仕事中も目が合えば「やぁ」と手を上げたりタバコを吸ったりするが、日本の労働者は何かやっている仕草をする。手を止めるのが害悪と考える日本人らしい。ただし、アメリカの労働者もエンジニアはキャリアアップのため、空いている時間に勉強したりしている。こうした描写が個人的には面白く感じた。

そしてやはり興味深いのは、大野耐一を中心とした「トヨタ生産方式」についての話。本のタイトルにもある通り、それは「考える人間を育てる」ことが中心にある。「トヨタ生産方式の本質とは、かんばんを使うことでもなく、アンドンを整備することでもない。常識とされていたことを疑い新しい方法を考えること」という説明が心に響く。これは何にでも当てはまることだろう。

トヨタ生産方式はトヨタにとどまらず、提携先にも及ぶが、その指導は上から目線で講義することではなく、人間と人間の間に信頼感を醸成することとする。トヨタ生産方式とは「意識改革」であり、以前からやっている仕事のやり方を見直すことだとする。その歴史から長々と語られるトヨタ生産方式は、まさに世界企業となったトヨタの原動力であり、力の源なのであろう。それは生産にとどまらず、流通にも適用されるが、考え方は何にでも応用できるものである。

働く人々の話も、アメリカでのリコール事件と公聴会の様子も、実に感動的な話が次々に出てくる。読み物としても、わが国を代表する企業の話としても興味深く面白い。厚い本であるが、実に読み応えのある一冊である・・・



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2018年06月06日

【幸運な男 伊藤智仁 悲運のエースの幸福な人生】長谷川晶一 読書日記927



序 章 偽りの引退
第1章 萌芽 − 1993年・ユマキャンプ
第2章 覚醒 − 強心臓ルーキーデビュー
第3章 脱皮 − 高速スライダーができるまで
第4章 飛躍 − バルセロナ五輪出場
第5章 酷使 − 6月の全694球
第6章 暗闘 − 長引くリハビリ
第7章 復活 − カムバック賞獲得
第8章 異変 − 再びの手術
第9章 岐路 − 1年間の執行猶予
第10章 転身 − 第二の人生の始まり 
第11章 奮闘 − それぞれの、それから
第12章 幸運 − 彼は本当に「悲運」なのか?
終 章 最後の一日

その昔、「野球小僧」だった頃は、プロ野球の情報は隅々まで目を通していたと思う。贔屓のジャイアンツや阪急ブレーブス以外の球団でも、ある程度の選手名は把握していたと思う。それがラグビーの世界に転じてから、たまに新聞に目を通す程度になってしまい、以来ジャイアンツを含めて、野球選手については疎くなってしまった。この本の主人公である伊藤智仁についても、この本を手にするまで知らない有様だった。

その伊藤智仁の物語は、いきなり現役引退の日から始まる。引退イベントに向かうも、実は心の中で復活の夢を描いていたという。彼は一体、どんな投手だったのか。1993年のユマキャンプからそれは始まる。その年、社会人野球からドラフト1位で入団した伊藤は、野村監督の度胆を抜く。野村監督は、今でも先発ピッチャーの歴代No. 1に伊藤智仁をあげているという。このキャンプで野村監督は、伊藤を絶賛する。

そしてシーズンが開幕。伊藤は初登板で見事勝利投手となる。伊藤の武器は、「高速スライダー」。その切れ味は、名捕手古田も「No. 1」と絶賛し、名選手立浪をして「打てない」と語らしめるもの。その高速スライダーは、甲子園の夢破れて高卒で入社した三菱自動車京都製作所で、同僚にたまたま習ったという。もともと肩関節の可動域の広い体質に長い腕といった特徴が、うまくはまったようである。

高速スライダーという大きな武器を手に、伊藤はバルセロナ五輪に選出され、それがスカウトの目に止まってドラフト1位でヤクルトの指名につながる。デビュー以来、順調に活躍していたが、7月の登板時、肘に異変が生じる。それが暗転のきっかけ。それから長いリハビリ生活が始まる。活躍したのはわずか2ヶ月半だったにも関わらず、松井秀喜を抑えてこの年の新人賞を取ったのだからやはりすごいと言える。

一旦、カムバックしたものの、活躍は長く続かず、再び怪我の再発。結局、伊藤のプロ野球人生は怪我との戦いだったようである。投手成績としては、37勝27敗25Sであるから、大したものではない。しかしながらこうして本に書かれるということは、俗にいう「記録より記憶に残る」ピッチャーだったからに他ならない。

その勇姿は、今でもYouTubeで見ることができる。篠塚との対戦など、本で書かれているシーンを映像で確かめられる現代は、実にありがたい。人間の真価は、苦境にあるときにこそ出るのかもしれない。実力世界のプロにあって、ボールを投げられないと言うもどかしさはさぞかしだったであろう。その中で、「異常の正常」と言う考え方は、似たような状況にある人には参考になるかもしれない。

著者は、スポーツライター。たまたま伊藤のデビュー戦をスタジアムで観戦し、引退試合もその場にいたと言う。ぜひ、自分の手で伊藤智仁の物語を書きたいと言う気持ちがあったのだろう。それが全編にわたって行間に溢れている。つくづく、現役時代に見てみたかったと思う。知らなかった名投手の野球人生。ファンでなくともじっくりと味わえる一冊である・・・




posted by HH at 00:00| 東京 ☁| Comment(0) | スポーツ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする