2019年01月30日

【4歳の僕はこうしてアウシュヴィッツから生還した】マイケル・ボーンスタイン 読書日記995



原題:SURVIVORS CLUB THE TRUE STORY OF A VERY YOUNG PRISONER OF AUSCHWITZ

 ナチスのアウシュビッツ収容所については、本や映画やドキュメンタリーなどで語り尽くされている感があるが、個人個人に限れば人の数だけその物語は違うわけであり、語り尽くされるということはない。これはそんな一個人の、それも当時4歳だった人の物語である。
 
 著者は、これまで自身の経験をあまり人に語るということがなかったそうである。それは辛い経験を思い出したくないという理由と、鮮明に覚えていないという理由があったそうである。それはそうだろうと思う。自分自身の4歳以前の記憶を辿ってみても、それはそんなに多くないし、断片的であったりする。それでも著者は自分自身がソ連軍によって解放された時の写真が悪用されているのを見てショックを受け、語ることにしたという。娘さんの手伝いを得て、取材によって曖昧な記憶を補い、完成させたという。その物語は、やはりショッキングである。
 
 著者が生まれたのは、1940年5月のポーランド。当時ポーランドは前年9月にドイツ軍の侵攻を受けてその占領下にあり、著者の家族が住んでいたジャルキという街もドイツ軍がすでに過酷な支配をしていたという。なんの理由もなく、大人も子供も射殺するナチスの蛮行はその様子を読むだけでも酷いものである。

 著者が結果的に生き残ったのは、運以外にないのかもしれない。その運の1つとして、著者の父がユダヤ人評議会というナチスが任命したユダヤ人支配のための組織の長だったことがあるだろう。父はナチスの将校を買収するという危険を犯し、可能な限り仲間と家族の延命に奔走したようである。どの家庭も庭に穴を掘ったりして財産を隠したというが、こうした逞しさが随所に溢れる。

 最後の最後に著者と家族は収容所に送られるのであるが、著者の父はギリギリまでそれを遅らせる。自分の家族だけ守るという行為は、一見利己的で許されざるようなことかもしれないが、同じ状況になったら誰でもそうするだろうし、そういう選択に追い込んだ方が悪いわけだし、「自分が同じ立場だったらどうするだろう」と考えさせられることしばしである。

 噂は千里を走るというが、既に強制収容所と虐殺の噂は届いていたようで、アウシュビッツに着いて最初にシャワーを浴びさせられた時、本当の水が出て来て安堵したという記述がある。そういうものかもしれない。わずか4歳の著者が収容所の子供棟に入れられるが、みんな腹をすかせているから体の大きな子が著者の食べ物をとってしまう。そんな中で著者が生き残れたのは、母が密かに食べ物を運んだからという。さらに女性棟に連れ込んで隠したというから、そういう深い愛情に守られたところがある。

 家族の無償の愛と窮地にあっても助け合う人たち。同じことができるだろうかと思わざるを得ない。それにしてもやりきれないのは、解放後に故郷に戻って来た時のポーランド人の差別意識。せっかくの我が家に帰って来たのに、そこは既にポーランド人に取られてしまっていて、著者と祖母は鶏小屋を見つけて雨風を防ぐ所とする。子供達は「石鹸にされていれば」と心ない言葉を投げつける。ナチスだけが悪者なのではないのだと感じる。

 遠い国の出来事ではあるが、人間の残酷さが随所ににじみ出ている。自分たちがいかに恵まれた時代と環境に暮らしているかが、改めて実感させられる。「知っておく」という意味でも、一読の価値ある一冊である・・・



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2019年01月29日

【マンガーの投資術−バークシャー・ハザウェイ副会長チャーリー・マンガーの珠玉の言葉-富の追求、ビジネス、処世について−】デビッド・クラーク 読書日記994



原題: THE TAO OF CHARLIE MUNGER
《目次》
PART I 投資で成功する考え方
PART II 企業、銀行、経済
PART III 事業と投資に関する哲学
PART IV 人生、教育、幸福の追求についての助言

 バークシャー・ハサウェイと言えば、何と言っても投資の神様とも言えるウォーレン・バフェットがあまりにも有名であるが、本書で採り上げるチャーリー・マンガーはその副会長。正直言って知らなかったが、実はウォーレン・バフェットよりも7歳年上であり、同氏の「右腕以上」と言われるほどの人物だと言う。解説によれば、これまでバフェットの言葉として伝わっているものも、どの考えがバフェットのもので、どのアイデアがマンガーのものか第三者には判別がつかないらしい。そんな人物の言葉を集めたのが本書である。
 
1.手っ取り早く金持ちになりたいと言う欲望は非常に危険である
2.自分が何を知らないかを知っていることは、優秀であること以上に価値がある(わからないものには投資しない)
3.人生はある意味でポーカーゲームのようなものである。お気に入りの手札を持っていても、時には降りることを生ばなければならない
株式投資をやったことがある者であれば、思わずドキッとさせられるかもしれない。非常に深い言葉が最初から並ぶ。個人資産が20億ドルを超えるという人の言葉ゆえに、非常に重く響く。

 一方で、「分散投資をありがたがるとは、気が違っているとしか思えない」と語る。一般的に分散投資はリスク回避の重要な手法と思われているが、そうではないらしい。また、幾度となく強調されるのは、「待つ」こと。
 1. 投資では座して待つことが重要
 2. 待つことは投資家にとって大きな助けになる。多くの人は待つことができない
 3. 投資で成功するためには度胸と忍耐
 4. バイ・アンド・ホールド
何度も繰り返されるがゆえに、これがマンガーの投資の考え方の核心だと思われる。

 そして同じく繰り返されるのが、金融機関に対する不信感。ウェルズ・ファーゴ銀行は別であるようだが、銀行、ウォール街批判は一貫している。銀行は「ヘロイン常習者と同じ」とまで言い切っている。さらには、レバレッジ(借金)に対しても否定的。現金を持ち、千載一遇のチャンスに一気に投資すると言うのが秘訣らしい。さらに投資以外についても耳を傾けたい言葉が続く。

 1. 毎日少しでもいいから前に進もうと努力しなさい
 2. 良い伴侶を見つける最善の方法は良い伴侶にふさわしい存在になること
 3. 過ちを犯すことで次から対処できるようになる
 4. いつも考え続け、本を読み続けていれば働く必要はない
 5. 分不相応な暮らしをしない
 6. 友人を得るための秘訣は友人になろうとすること
読書と学ぶことも何度も強調される。

キャリアについての助言も心に残る。
 1. 自分自身が買おうと思わないものを売らないこと
 2. 尊敬しない人のために働かないこと
 3. いっしょに仕事をして楽しい人々とだけ働くこと
これは今の自分自身の仕事について考えると、その通りだと思わされる。今、その通りに働けているのは幸せなことらしい。
 
 御年90歳を超えていると言うが、もはや人生の達人とも言うべき人で、そんな人の言葉はやはり重く響く。1つ1つの言葉は実にシンプルであるが、濃縮されている。簡単なようでいて簡単ではないかもしれない。まだこれから自分も投資をしたいと考えているし、それだけではなくとも、いくつかの言葉は胸に秘めておきたいと思う。
 
 軽くて深い一冊である・・・



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2019年01月24日

【おもかげ】浅田次郎 読書日記993



 浅田次郎の本は、「不思議系」と「感動系」がミックスされた作品が多い。浅田次郎の初めて読んだ作品である『鉄道員(ぽっぽや)』『地下鉄に乗って』『椿山課長の七日間』、そして『降霊会の夜』などである。これはそんな「不思議感動系」に属する一冊。

 主人公は、商社マンの竹脇正一。定年退職の送別会で倒れ、病院に担ぎ込まれる。脳出血で意識不明のまま集中治療室に入れられる。医師の診断は、出血がひどく、脳圧も高いため手術はできないというもの。つまり手の施しようがないというものである。知らせを聞いて駆けつけたのは、同期で社長まで出世した堀田、娘婿の武志、幼馴染でたけしの親方でもある永山徹。それぞれに竹脇に対して思いを抱いている。

 竹脇はもともと孤児であり、施設で育っている。努力して大学を出て、商社に就職。結婚して娘の茜がいて、今は孫にも恵まれている。定年退職して、これからという矢先の出来事。医療機器に繋がれ、物も言えぬまま寝ている竹脇を担当する看護師は、20年間同じ地下鉄で言葉を交わすこともなく乗り合わせていた児島。

 そんな竹脇の枕元に妙齢の女性がやってくる。気が付いた竹脇は、「マダム・ネージュ」と名乗るその女性に誘われて病室を抜け出し、食事に行く。もっとも竹脇の体はまだ意識不明のままベッドに寝ているのである。となると、マダム・ネージュはいわゆる「お迎え」かと思うが(竹脇本人もそう疑う)、さにあらず。不思議な食事会を終えるとまた病室に戻っている。そして次に竹脇は家族と夏の日の入江に来ていて、そして今度は静という女性と会う。

 夢なのか幽体離脱なのか、竹脇がそんな経験をしていくうちに、我々は竹脇の人生を振り返ることになる。長男を亡くしたり、妻節子との結婚のエピソードに触れる。そして要所要所で出てくるのが地下鉄。倒れたのも丸ノ内線の中だし、看護師の児島と乗り合わせたのも丸ノ内線。それも荻窪、新中野といった駅名が出てくる。そう言えば、『地下鉄に乗って』も丸ノ内線であったなと思い返してみる。

 さらに竹脇は、隣のベッドでやはり意識不明のカッちゃんと外出し、次に3人目の謎の女性が現れる。地下鉄とともに、竹脇の人生を振り返る。そして最後に全てのピースが完成するかのように、1つの絵が出来上がる。謎の3人の女性の正体は意外な人物。そこには苦しい時代を生き抜いた切ない人生が浮かび上がる。読み終えて深い読後感を味わえる。

 結局、ラストはどうなったのだろう。その先を幸せに想像してみたくなる一冊である・・・



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2019年01月23日

【リンカーンのように立ち、チャーチルのように語れ 聞く者の魂を揺さぶるスピーチテクニック21】ジェームズ・ヒュームズ 読書日記992



原題:Speak Like Churchill,Stand Like Lincoln 21Powerful Secrets of History’s Greatest Speakers

《目次》
「クモ」が「ライオン」になる日
テクニック1 まずは「沈黙」
テクニック2 強烈な「第一声」
テクニック3 正しい「外見」
テクニック4 先に「結論」
テクニック5 思い切って「短く」
テクニック6 差がつく「引用」
テクニック7 信頼を勝ちとる「数字」
テクニック8 スパイスとしての「視覚資料」
テクニック9 本物の「ウィット」
テクニック10 うならせる「たとえ話」
テクニック11 魅せる「ジェスチャー」
テクニック12 失敗知らずの「原稿の読み方」
テクニック13「詩」を語る
テクニック14 胸に刺さる「決め台詞」
テクニック15 流れを変える「質問」
テクニック16 絶妙な「強調」
テクニック17 威厳が増す「能動態」
テクニック18「資金調達」のための語り
テクニック19「スイッチ」を入れる
テクニック20 万雷の拍手を呼ぶ「締めくくり」
テクニック21 堂々とわが道を

 もともと人前で話すのは嫌いではない。というよりも、機会があれば積極的に話したいと思うほどである。結婚式などでスピーチを頼まれようものなら、躍り上がって喜びたくなるクチである。とは言え、一方で「気の利いたこと」を言えるかというプレッシャーがあるのも事実である。そんな自分にとって、「スピーチの本」となれば、興味が湧くというものである。そんなことから手にした一冊。
 
 著者は、アメリカの歴代の大統領4人のスピーチライターを務め、フォーチュン500社のCEOのスピーチアドバイザーを務めたという方。もうスピーチの専門家である。そんな著者がこの本で「存在感が増し、身のこなしが変わり、力強さが身につき、しびれるようなスピーチができるようになる」21のテクニックを披露してくれる。
 
 まず最初のテクニックとして紹介されるのは、「沈黙」。これはなんとなくよくわかる。スピーチをする際に一番嫌なのは、ざわついた会場である。「みんな聞けよ」と怒りたくなる。そんな時、効果があるのは「沈黙」だったりする。ナポレオンもヒトラーも著者が「パワーポーズ」と呼ぶ「沈黙」の名手だったらしい。

 そして一番重要なのは、「第一声」。「沈黙」の後の強烈な「第一声」は、聞き手の眠気を覚ますのだという。もしも結婚式のスピーチのように事前に準備をすることができるのなら、第一声で何を喋るのか熟考するのも良さそうである。これは内容がうまく考えられるかという不安があるが、「結論を先にする」ということについては、日頃から心がけていることもあって容易い。

 相手に話を印象付けるということになると、「ストーリー」が大事だとする。ストーリーは人間がその情景を頭に描いて記憶するものであり、その通りだと思う。また数字を使うというのも参考になる。数字を利用する場合の秘訣は、
 1. 引用する数字を減らす-聞き手の大多数は1つしか数字を覚えていない
 2. 大まかにする-10人に6人など
 3. ストーリーに結びつける
というもの。これも意識してみたいと思う。
 
 ウィットに富んだ話、ユーモアを交えた話をするのは理想である。ウィットでお勧めなのは著名人の笑える逸話だとするが、これは知っていないとなかなか難しい。ユーモアを取り入れる秘訣は、自分自身の経験の一部を織り込むことだとする。これも普段からの意識が大事な気がする。例え話は実話を活用すべしというのもなるほどである。

 話の内容もさることながら、それ以外の要素についても語られる。外見やジェスチャーといったことがその例。下を向いている時は絶対に話さないというのも参考になる。「見て」「停止して」「話す」というテンポは心したい。話し方も「受動態」より「能動態」にすべしという話は、スピーチに限らずビジネスの現場でのプレゼンなどに有効かもしれない。こうしたことも意識したいものである。

 本を読んですぐスピーチが上手くなるというものでもないだろう。何かいい例を見つけてパクっても迫力がないに違いない。ここに示されているテクニックを参考にして、日頃から意識していることが大事だろう。やっぱり人前で話のは好きだし、そんな時には気の利いたことの1つも言いたいし、ここに紹介されているテクニックを参考にしてみたいと思わされる一冊である・・・



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2019年01月17日

【一等兵戦死】松村 益二 読書日記991



《目次》
戦線の序章
僕の参戦手帖から(1)
僕の参戦手帖から(2)
一等兵戦死
戦場の点
詩集戦線
上海戦線の余韻
戦線の土、故国の土

本書は、昭和13年に刊行された同年上期の直木賞候補″品だという。「戦後GHQによって没収、廃棄された幻の名作」というキャッチフレーズは、どうにも好奇心をそそるものがある。著者は当然故人であるが、自らの従軍体験談を語った1冊とあって内容も興味深い。

著者は、昭和12年夏に支那事変に際し応召され、11月には負傷し、そのまま病院を転々とした後、翌年3月に応召解除となったようである。その期間の短さを「はずかしいくらいである」と語るのは、当時の男の一般的な感覚なのだろうか。その後再び応召されるも、体が悪いという理由で返されてしまうが、それも「残念千万」とする。自分なら、「ラッキー!」と思ってしまうが、それはおそらく「今の感覚」なのだろう。

話は上海から始まる。上陸した著者は上海の街を興味深く観察する。「皇軍将士歓迎」「美人日本女性多数あり」などという謳い文句の酒場があり、そんな雰囲気が当時の魔都を想像させる。その夜、密かに酒場に繰り出し、応対したホステスは京城(ソウル)出身と語る。多くは語られていないが、背景事情をいろいろと想像してみると面白い部分である。

そして翌日から前線へ向けての行軍が始まる。当時は日中戦争の最中。日本軍は次々と中国軍を撃破して、後退する中国軍を追って戦線を拡大していた頃である。そんな背景を頭に思い浮かべながら読み進める。「まだころがっている支那兵の死体。陸戦隊員がとりかたづけにいそがしい」という表現に焦げ臭さをも感じるようである。

最初の頃は、当然前進する味方を追いかける感じである。次第に支那兵の死体の数が増えていく。破壊された建物や荒れた農地を見て現地の農民を気の毒に思う。時折吸うタバコのチェリーがなんともうまそうな雰囲気である。やがて小銃弾が目の前に音を立てるようになる。そして目の前で味方が銃弾に倒れ絶命する。

勇ましい戦闘の記録というよりも、生々しい従軍レポートといった趣のある本書。個人的には、途中の廃墟で紅茶を見つけ氷砂糖で飲んだとか、現地のクリークの水で炊いた米が臭くててたまらないとか、時に現地調達した野菜等を食べたりするという描写に興味を惹かれる。そしてやはり何と言っても戦闘シーンが興味深い。

と言っても、勇敢に敵を倒すというのではなく、次々と味方が銃弾に倒れて死んでいく描写が中心。撃たれた者が水を求めたり、「天皇陛下万歳」と言ったかと思うと、「お母さん」と言ったり。全体としては勝っていたのかもしれないが、戦死者も当然出ているわけで、特に親しい仲間が倒れれば、嘆き悲しむ者がいたりもするわけである。

そんな描写が続いていく。戦死は実に一瞬の出来事。倒れた味方を抱き起こすともう息絶えている。胸からは家族に当てた遺書が出てくる。突撃命令にしたがって飛び出すと、銃弾が頰をかすめ、「天皇陛下万歳」という声が聞こえる。子供から「おとうさん、どうか名誉の戦死を遂げて下さい」という手紙をもらったという戦友の話には深く心に響くものがある。

国がギリギリのところにあったのは十分に理解できるが、前線の名もなき兵士たちの営みに、今の自分たちの幸せを対比させる。つくづく、いい時代に生きているのだと思う。ありのままに書かれていることに、善悪は別として当時の最前線の兵士の様子がうかがえる。貴重な体験談だと思う。よくぞ現代に復刻してくれたものである。

直木賞候補も頷ける、一読の価値ある一冊である・・・


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2019年01月16日

【ふじようちえんのひみつ 世界が注目する幼稚園の園長先生がしていること】加藤積一 読書日記990



《目次》
1章 園舎自体が育ちの道具
2章 ふじようちえん式モンテッソーリ・メソッド
3章 幼稚園での子どもたち
4章 子育てに「正解」はない
5章 働く先生が幸せになること

 個人的に子供の教育についてはかなり関心を持っている。そのため、教育関係の本は手に取る確率が高い。とは言え、この本は幼稚園の本。子供も既に中学生になっていて、我が子の教育の参考にはならない。それでも何となく興味を持って手にした一冊。

 興味を持ったその第一の要因は、園舎。ふじようちえんの園舎は独特で、何と円形のドーナッツ型。現園長が各地で地震が続いている状況と園舎の老朽化を懸念して建て替えを決意。そうしてある建築士となんども打ち合わせをし、想いを伝えたものの、出来上がった設計に違和感を覚えて見送ったのだという。そうして佐藤可士和の存在を知り、自らアプローチしたのだとか。

 佐藤可士和と言えば、今や様々な分野で活躍しているデザイナー。建築士ではないが、この園長先生のセンスは凄いなと思う。そしてそれに応えた佐藤可士和の奇抜な園舎(最も実際の設計は知り合いの建築士が佐藤可士和と二人三脚で仕上げたそうである)。この園舎は日本建築学会賞を受賞したそうであるが、それで今では教育や建築、デザイン、メディア、行政等々様々に注目を浴び、世界から見学に訪れるようちえんになったようである。

 それだけ、という気もしなくもないが、しかし考えてみると、もともとこの園長先生には強い教育理念があって、それゆえに普通の設計では満足できなかったのだとわかる。その理念とは、モンテッソーリ教育を中心としたもので、その考え方はこの本で様々に紹介されている。園舎に影響したのは、「子供の本文は遊ぶこと」という考え方。ゆえに「毎日行きたくて仕方ない」幼稚園にしたかったとのことで、これが建物のコンセプトになっている。

 それをもとに、園舎全体が巨大な遊具となるように作られ、しかし元からあったケヤキの木は残されて木登りができたり、室内も壁をなくしてパーテーションで区切るものにしている。隣の教室の音が聞こえてしまうだろうと思うが、「雑音こそ日常」と考えて採用したようである。その他最後まできちんと締めないと閉まらない扉、流し台をあえて設けないことによって流しっぱなしを防ぐ水道などなど、そこかしこに園長の考え方が溢れている。


 こうした取り組みにより、「毎日行きたくて仕方ない」幼稚園が実現され多様である。ある園児は、土曜日の長時間保育が楽しくてせっせと幼稚園に通い、暇を持て余したお母さんが仕方なく働きに出ることになったという。そんなエピソードが微笑ましい。また、園長の考えは園児以外にも及ぶ。「お母さんに寄り添う」というのもそれで、子供に「早くしなさい!」と怒鳴ってしまったりすることに対するアドバイスとして、遅刻を治すには本人が遅刻して困る経験をさせるべしというのには大いに共感させられる(我が家の妻はいまだに理解できない)。また職員の採用基準を「熱意あるふつうの人」とし、担任クラスを持てるにも条件を設けている取り組みもなるほどである。

 著名なデザイナーに頼んで変わった園舎を建てれば、世界各国から見学に来る幼稚園が作れるというものではないだろう。その根底には園長のしっかりした考え方が流れているわけで、それを汲み取れるデザイナーがいたことでこの園舎ができたと言える。
 何事も突き詰めるということが大切なのだと思わされる一冊である・・・



ふじようちえん.jpg







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2019年01月11日

【おカネの教室−僕らがおかしなクラブで学んだ秘密−】高井 浩章 読書日記989



《目次》
<4月>
 1時間目 そろばん勘定クラブへようこそ
 2時間目 お金を手に入れる6つの方法
 3時間目 役に立つ仕事 立たない仕事
<5月>
 4時間目 リーマンショックはなぜ起きた
 放課後 図書室で会いましょう
 5時間目 もうけは銀行家、損は国民に
 放課後 先生とお父さんは同級生?
 6時間目 いる?いらない?最古の職業
 7時間目 戦争と軍人
<6月>
 放課後 似たもの親子 似てない親子
 8時間目 「フツー」が世界を豊かにする
 放課後 GDPとフツーの微妙な関係
 9時間目 キーワードは「持ち場を守る」
 放課後 健康で文化的な最低限度の家族団らん
 10時間目 資本主義・社会主義・民主主義
<7月>
 11時間目 働くということ
 12時間目 「タマゴ」がわかれば世界がみえる
 放課後 たかが500円、されど500円
 13時間目 お金の借り方、教えます
 放課後 宿題は借金100万円
 14時間目 貸すも親切 貸さぬも親切
 放課後 お金を「ふやす」は無理難題?
<8月>
 15時間目 低金利の真犯人は「市場の力学」
 16時間目 株式投資と「神の見えざる手」
 17時間目 貧富の格差が広がる理由
 放課後 福島家のいちばん長い日
 放課後 アイスクリームのお返し
 18時間目 6番目の方法
<9月>
 課外授業

 元銀行員である自分だからかもしれないが、「お金」というタイトルにはついつい目が行ってしまう。さらにタイトルと漫画絵の描かれた表紙から、どうやら子供向けの本だろうと見当がつく。実際、この本は新聞記者である著者が、自分の3人の娘に経済やお金の仕組みを教えたくて書いたものだという。最初はそんな楽しい読み物を探したらしいが、ないので自分で書いたというところがすごい。私も自分の子供に金融教育をしたいと考えているので、まずは自分で読んでみた次第である。

 内容は物語形式となっている。中学2年の木戸隼人と福島乙女が、学校のクラブ活動で「そろばん勘定クラブ」に入る(隼人はサッカーがやりたかったようだが、選に漏れてしまったとのこと)。そこで顧問の江守先生と、お金について学んで行くというストーリー。まず最初にお金を手に入れる方法として6つあると江守は説明する。ただし、最初に出てくるのは5つのみ。すなわち、「かせぐ」「ぬすむ」「もらう」「かりる」「ふやす」である。後の1つはなんだろうと考えてみるも、この時点では思い浮かばない。

 先生と生徒3人のクラブ活動が始まる。まずは職業が出てくる。「先生」「昆虫学者」「パン屋」「サラリーマン」「銀行家」「売春婦」。中学生で「売春婦」はいかがかと思うが、特に木戸くん(あだ名はサッチョウさん)も福島さん(あだ名はビャッコさん)も抵抗もなく進んで行く。江守先生(あだ名はカイシュウさん)はもともと投資銀行に勤めていたということで、リーマンショックを引き起こしたかつての自分たちをダニ軍団と蔑む。まぁ、確かにそう言われても仕方ない。

 さらに「生活保護」「障害者」という話も登場する。3人はカイシュウさんの伝手で、障害者雇用率の高い工場見学に行ったりする。福祉の充実とその悪用という問題が提起されるが、カイシュウさんの意見は、悪用を防ごうとすればかえって本当に困っている人をはじいてしまうことになると説明する。ひとまず受け入れてから目を光らせるべきとの意見を2人に話して聞かせる。こういう考えさせる問題は、中学生くらいには大いに必要だろうと思う。

 お金の話は経済の話へと必然的に広がる。ピケティが『21世紀の資本』で主張した「r>g」の公式の説明(経済全体の成長より投資で儲かるペースの方が早い)も出てくる。「中学生には・・・」と思う気持ちと、「そんな考えこそ改めるべき」という考えが相交差する。銀行の「信用創造機能」の説明もあるが、「早すぎる」なんて考えは不要なのかもしれない。

 親が地主で、高利貸しとパチンコを経営しているビャッコさんは、親の職業を嫌っている。こういう問題も考えてみるのはいいかもしれない。日本の相続税の高さにも言及したりしていて、中学生が主人公でなければ、ちょっとした大人向けでもいいかもしれない。自分にとっては、特に新たに学ぶ内容はないが、自分だったら子供達にどう説明するかと考えながら読んでいると、いろいろと思考が巡ることになる。

 自分自身の結論としては、中学生の息子にも読ませてみたいと思う一冊である・・・




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2019年01月10日

【死ぬこと以外かすり傷】箕輪 厚介 読書日記988



【目次】
はじめに こっちの世界に来て革命を起こそう
第1章【考え方】予定調和を破壊せよ
第2章【商売のやり方】自分の手で稼げ
第3章【個人の立たせ方】名前を売れ
第4章【仕事のやり方】手を動かせ
第5章【人間関係のつくり方】
第6章【生き方】熱狂せよ
おわりに バカになって飛べ!

 著者は編集者。1985年生まれとまだ若いが、双葉社から幻冬舎へと移り、今は幻冬舎とNews Picksが設立したNews Picks Booksの編集長だという。編集者になって4年しか経っていないというから大したものである。しかも創刊1年で累計百万部というのは、出版不況の中ではあり得ない数字だという。

 その作品をいくつか見てみたら何冊も読んだことがあるものがあった。
『人生の勝算』前田 裕二『多動力』堀江貴文『日本再興戦略』落合陽一『空気を読んではいけない』青木真也であるが、普段出版社など意識したことはないが、こう挙げてみるとなるほどと頷ける。

 大学時代は1秒も勉強していないというが、今は編集者を楽しんでいるようである。編集者は最強だと語るが、その理由は、
 1. 才能カクテルが飲み放題
 2. ストーリーを作れる
 3. 人の感情に対する嗅覚を磨ける
というものだとする。確かに、先に挙げた書籍の著者と付き合えるというのは、職業的特権であろう。

 そんな著者は会社の枠に収まらない。個人でオンラインサロンをやったりプロデュース、コンサルティング等で月収は給与以外に700万円以上あるという。凄いの一言であるが、そのきっかけも凄い。埼玉の郊外に住んでいて不規則な仕事に不便だからと、一念発起して月収の2/3の家賃の都内のマンションに引っ越したという。預金で食いつなげるのは半年。この間にWEBメディアに実績を売り込んで記事を書かせてもらうところから始めて給与以外の収入を作ったという。「休みの日に牛丼屋でバイトするなど本末転倒」と語るが、その実績を見ればそう言うのもよくわかる。
 
 そんな著者のエピソードも大物の雰囲気。スペインに旅行してパスポートを噴出して空港ホームレスになったり、インドで怪しげな土産物屋に監禁されても動じず、逆にこんな面白い体験をしたと喜んでしまう。次々に出てくる言葉には迫力がある。
・トラブルに身を投げろ!
・バカなことにフルスイングせよ
・安全安心を破壊せよ
・言ってはいけないことを言ってしまえ
・意識くらい高く持て
・誰も行かない未開を行け
・恥をかけ、血を流せ
・今やれよ!
・スピードスピードスピード!
・量量量!
・熱狂に出会うための自然消滅のススメ
・ただ熱狂せよ
・識者や業界人の評価などいらない
・努力は夢中に勝てない

 幻冬舎の社長も「熱狂」というキーワードを使っている(『たった一人の熱狂』)。「情熱(Passion)」という言葉を使う人もいるが、要は同じことだと思うが、大事なことはそんなに変わらないと思う。「与えられた仕事を段取り通りにこなしていれば失敗しても大きな傷は負わないが、そんな予定調和からは何も生まれない」という言葉はその通りである。だが、そこから外れられる人は少ない。
 
 こういう若者が、日本の未来を切り開いて行くのかもしれない。他人事ではなく、自分も斯くありたいと思う。そのエッセンスだけでも汲み取りたい一冊である・・・



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2019年01月09日

【狂王の庭】小池真理子 読書日記987



小池真理子の小説は、定期的に読みたくなるもの。これといった新作が出ないと、過去の作品を物色してみる。よく探せばまだ読んでいない作品もある。というわけで、探してきたのがこの作品。昭和27年を舞台にしたという意味で、ちょっと珍しい作品である。

冒頭、鎌倉のとある料亭で、久我杳子の三回忌の法要が行われる。その場に娘である翔子を訪ねて工務店の社長がやってくる。なんでも杳子の住んでいた家を解体したところ、「開封厳禁」と書かれた封筒が出てきたのだとか。訝しみながら翔子が封筒を開くと、中から古びた写真とびっしりと文章が書かれたスケッチブックが出てくる。それは母杳子が書き残したある思い出。翔子がそれを読み始めるとともに、我々も物語の世界へと誘われる。

昭和27年、まだ戦争の爪跡もそこかしこに残っていたと思うが、杳子は戦前の旧公爵家である久我家に嫁いでおり、恵まれた暮らしを送っている。そんなある日の夜会で、杳子は1人の男を紹介される。男は夫の従弟の陣内青爾である。青爾は陣内紡績の三代目であり、国分寺の広大な屋敷に住んでいた。その青爾が杳子を見初めてしまったことから、この物語が生まれるのである。

その始まりは夜会であり、そして陣内家で開かれた宴に杳子夫婦と杳子の妹美夜が招かれることからそれが加速して行く。まだ独身の青爾と美夜は、それだけで周りの期待を集めてしまう。今と違って不倫は許されざる所業であった時代、杳子もその動きを歓迎する。しかし、青爾から思いがけない告白を受け、杳子の胸に動揺が走る。

陣内家の広大な屋敷には、青爾がデザインした自慢の庭がある。それはルネッサンス・バロック式の庭園で、惜しみなく金を注ぎ込んで作った贅沢なもの。それがタイトルの所以になっているのは、この庭でしばし青爾と杳子が貴重な時を過ごすから。場所も国分寺と馴染みのある場所であり、当時の描写に(自分はその時代には生きていなかったが)何か懐かしさのようなものを感じる。

恋愛などとは無縁で旧公爵家に嫁いだからなのであろうか、青爾の求愛に杳子の心は揺れ、やがて密かに青爾に会いに行くようになる。と言っても、陣内家のロールスロイスが迎えに来て、陣内家の屋敷に出向くというもの。当然、周りには使用人がいるわけで、人目を憚るなどというのとは無縁。それでも使用人を空気のようなものとしか考えない青爾の貴族的感覚が、古き良き時代の香りを漂わせている。

やがて周りの後押しもあって、青爾と美夜の婚約がまとまる。その裏で密かに密会を重ねる青爾と杳子。現代であっても不倫は簡単には許容されるものではないが、当時はもっと厳格な時代。不義密通が重罪であった名残の時代である。そんな時代背景の時代がかった恋愛模様が目新しく感じる。キスも接吻なのである。

しかし、時代は異なれど、男と女の恋愛風景は根本として同じもの。背景の景色は異なれど、本質は変わらない。それにしても、当然のことながら、恋愛風景もいろいろとあるものである。小池真理子の描く様々な風景が洗練された文章に乗せられていて心地よい。

「手を握り合いながら、時に頰に接吻をし合いながら、互いの髪の毛に触れ合いながら、寄り添っている姉と婚約者。姉は沈鬱な表情をしているというのに、その顔は上気して薔薇色に輝いている。二人の間には抗いがたい感情の絆があって、どうしようもない事態に追い込まれていることですら、ひとつの悦楽と考えて楽しみ、味わっているようにも見える。」

物語とともに、優雅な文章をまたもや味わうことのできる一冊である・・・


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2019年01月08日

【社会は変えられる 世界が憧れる日本へ】江崎禎英 読書日記986



《目次》
第一章 問題の本質を問い直す
 1 私たちは何を間違えているのか――高齢化は対策すべき課題なのか
 2 何を守り、何を変えるべきか――日本の国民皆保険は奇跡の制度
 3 私たちは何に対応しなければならないのか――疾患の性質変化を踏まえて
 4 何を実現すべきなのか――役割と生きがいを持ち続けられる社会へ
第二章 時代に合わなくなった社会保障制度
 1 社会保障制度見直しの視点
 2 糖尿病――不摂生は得? 生活習慣病を容認する制度
 3 がん――誰のための、何のための治療なのか?
 4 認知症――お年寄りの役割と自由を奪うことで作られる
 5 処方箋――患者をもっと幸せにするために
第三章 社会は変えられる! ――時代に合わない「制度」、業界の「常識」への挑戦
 1 社会の変化に対応できるか
 2 おかしいことはおかしい!
 3 流されてはならない
 4 誰かがやらなければ
 5 そこに課題があるなら
 6 交渉とは闘うことではない
第四章 世界が憧れる日本へ
 1 お年寄りはもっと幸せになれる
 2 民間保険で人生を豊かに楽しく
 3 健康を楽しくおいしくするヘルスケア産業――健康は我慢することではない
 4 企業文化の転換――真の働き方改革に向けて
 5 地域包括ケアがめざすべきもの――お年寄りの笑顔が溢れる街づくり
 6 生きがいの場としての農業――大規模化・効率化は本当に必要か?
 7 「サ高住」から「シ高住」へ――誰もが役割と生きがいを持てる暮らしを
 8 人生の完成に向けて――ドラマの最終章はハッピーエンドで

 著者は、経産省勤務のお役人。本書は、そんな著者が自らの経験と知見を踏まえ、今後の日本について目指すべき姿を語った一冊。

 第1章は、今我が国で問題とされている「高齢化」は、実は対策すべき問題ではないとする。問題は年金よりも遥かに深刻な国民皆保険制度であるという。著者は、日本の医療制度は「人類の理想」とまで言い切っているが、すでに社会保障関連予算は国家予算の3割を超えていることを問題視している。というのも、1つの予算が国家予算の3割を超えると社会は破綻に向かうと言われていて、それは太平洋戦争開戦前の軍事費がそうだったのだという。そういう見方を知ったのは初めてである。

 「重厚な組織ほど行き着くところまで行かないと方向転換できない」という意見は、確かに敗戦に至る日本をみれば明らかである。「1人の頭で考えればすぐに出せる当たり前の結論が、大きな組織で時間をかけて議論すると逆の結論になる」というのは、大企業にいた身にはよく理解できる。ではどうするか。1人の部外者の視点から社会保障制度に対する課題の整理と取り組むべき方向性について、著者は論じていく。

 この問題については、我々多くの国民が、「なんとなく大変らしい」という程度にしか理解していないのかもしれない。支出増大の原因は、医療費の高度化によるコスト増。これを回避するには、やはり医療サービスの提供方法に加えて健康管理に取り組むことを挙げる。いわゆる健康寿命を延ばそうということは、今結構言われているが、やはり「生涯現役社会への再構築」が必要だとする。それはその通りだろうと思う。

 ちょっとショッキングだったのは、がんに対する事実。実は、がんは遺伝子の異常であり、これは誰でも日常的に体の中で起こっているのだという。それを免疫システムですべて抑えているのだとか。「この薬は3割の患者に効く」と言っても、実はそれは「がん組織が30%縮小した状態が4週間以上続いた」ことを意味するのだという。やっぱりがんに対しては、本来持っている免疫力を高めることが重要なようである。こうした事実は、しっかりと認識しておきたい。

 後半は一転して著者の経験談。それも壁を壊すというイメージ。硬直的な官僚組織において、それは稀有ではないかと思う。店頭市場改革、外為法改正、地球温暖化の取り組みに対する問題、ブラジル人労働者の帰国支援とその活躍は読んでいて爽快であるが、本当は官僚の人には誰でもこういう行動を取って欲しいと思わざるを得ない。

 健康寿命を延ばすという提言については、民間保険の商品を充実(健康になると得をするサービスを付帯したもの)させ、その資金をヘルスケア産業に流れるようにするというのは、面白いアイディアだと思う。その他、「生きがいとしての農業」、「シ高住(仕事付き高齢者住宅)」、「徘徊できる街づくり」なども面白い。「行政の仕事は、時代や社会の変化に伴う政策課題をいち早く見つけ出して適切に対応すること」という言葉は力強い。「おかしいことはおかしいと言える感性を持ち続けること」というのは、誰であってもそうでないといけないだろう。

 こうした人が官僚にいるというのも心強いと思う。それだけで人任せにしないで、自分たちでも必要なことはしていきたい。そんな気持ちにさせてくれる一冊である・・・



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