2019年02月28日

【When 完璧なタイミングを科学する】ダニエル・ピンク 読書日記1002



原題: The Scientific Secrets of Perfect Timing
《目次》
第1章 日常生活―朝・昼・晩と完璧なタイミング
第2章 休む力ー休憩・ランチ・昼寝とパフォーマンスの関係
第3章 開始ー正しいスタート・再スタート・同時スタートの科学
第4章 中間地点ー中だるみと中年の危機の科学
第5章 終了ーラストスパートとハッピーエンドの科学
第6章 ファスト&スローー息の合ったグループの秘密
第7章 時制で考えることについて

 著者のダニエル・ピンクといえば、『ハイ・コンセプト「新しいこと」を考え出す人の時代』『モチベーション3.0』の両著が記憶に新しい。どちらも印象深い内容だったが、そんな著者の新しい本は、「タイミング」に関する本。これもまた興味深く思われて手にした次第。

 物事は実はタイミングが重要だと誰もが知っている。しかし、そのタイミングについて誰もよく知らないのが問題だとまず提起される。言われてみればその通りだろう。しかし、そのタイミングを指南してくれるものはなく、一種の「アート」だと思われているとする。これはそんな状況に対し、タイミングについて根拠を持って語る“How to”本ならぬ“When to”本だとする。

 まずは1日について。ポジティブな気分は午前中に高まり、午後に落ち込み、夕方に再び高まるという。ゆえに四半期ごとの収支報告などは午前中にするべしとする。論理的判断はランチタイムまでに、逆に集中力が落ちる午後はひらめきの時間だという。また、睡眠のタイプによって、「ひばり型(朝型)」「フクロウ型(夜型)」「第三の鳥型(それ以外)」があるという。若者は「フクロウ型」に属するとされ、これに基づき学校の始業時間を遅らせた(AM7:35→AM8:55)ことによって遅刻が減少しテストの成績が向上した例が紹介される。なかなか面白い。

 また、1日のうちでは休憩も有効で、デスクランチは仕事の質を下げるとする。特に昼寝の効用を歌っており、こうしたリフレッシュ休憩の効果は、例えば判事がある人物の仮釈放について判断するのにおいて、その可否にまで影響されるとあれば無視できないだろう。効果的な昼寝の条件も挙げられているが、その時間は25分のようである。タイマーをセットし、コーヒーを一杯飲んで昼寝すると、ちょうど目覚めた時にカフェインが効き始めるらしい。自分の生活に当てはめてみると、25分はちょっと難しいかもしれないが、15分くらいなら実践できている。

 ちょっと深刻なのは、不況時に就職すると生涯賃金が大幅に下がるという話。それはキャリアの初期に高収入を得るルートは頻繁に転職することであるが、それが難しくなるかららしい。これはアメリカの話。中だるみもよくある現象で、これをライフタイムに当てはめると幸福感は50代で最低になるという。言われてみれば我が身もそうかもしれない。元旦や月初や月曜日といった「キリがいい」スタートを切りたがるのも心理であり、40歳より39歳の方が何かをやる傾向が強いとする。

 何となく日頃から感じていることを体系的にうまくまとめている感じがする。面白かったのは、プロジェクトの最初にそのプロジェクトが失敗に終わったと仮定し、その原因を振り返るというもの。この「事前の検討」が失敗を防ぐという。これは面白い試みであり、どこかで試してみたいと感じる。最後の一粒だと知って食べた場合、一番好感度が高いというのも頷ける。

 「完璧なタイミングを科学する」というタイトルにふさわしい一冊。今後、何かを始めたり、あるいは中だるみ感を感じたりした時には、思い出してみたい。そして職場での昼寝については、自信を持って続けようと思わされた一冊である・・・


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2019年02月27日

【日本国紀】百田 尚樹 読書日記1001



第1章 古代〜大和政権誕生
第2章 飛鳥時代〜平城京
第3章 平安時代
第4章 鎌倉幕府〜応仁の乱
第5章 戦国時代
第6章 江戸時代
第7章 幕末〜明治維新
第8章 明治の夜明け
第9章 世界に打って出る日本
第10章 大正から昭和へ
第11章 大東亜戦争
第12章 敗戦と占領
第13章 日本の復興
終 章 平成

 百田直樹と言えば、今や純粋小説分野と政治的分野とに著書は分かれている。この本は、後者に分類されうる一冊である。純粋に歴史の本なのではと思わなくもないが、江戸時代までで全体の半分であり、幕末から現代までの150年ほどが後半半分の分量を占めていることから、その「言わんとしているところ」は明らかである。背後に一貫して流れているのは、祖先から受け継いだ我が国の良さを中国・韓国の歴史の歪曲に惑わされずしっかり認識しようというところだろう。

 日本ほど素晴らしい歴史を持っている国は他にないと著者は語る。神話とともに成立し、以来2,000年近く1つの国が続いた例は世界のどこにもないとする。このあたりは地理的な要因も大きいと思うが、その通りかもしれない。歴史としては何か大きな発見があるわけでもないが、随所にこれまで意識しなかった、あるいは知らなかった事項があって興味深い。

 1. 平安時代に『源氏物語』など女性によって書物が記されたが、日本以外では女性が書物を記すのは近代になってから(イスラム圏では今もできないところがある)
 2. フランシスコ・ザビエルは、当時の日本人について「これまで会った国民の中でもっとも盗みを嫌う」と記している
 3. キリスト教宣教師たちは、布教にあたり禅宗の僧たちの鋭い知性(質問)に戸惑った
 4. 江戸時代の治安は良く、京都から江戸まで女性が1人で旅行できた
等、学校の教科書にはここまでは書かれていない。

また技術面においても、
 1. 鉄砲伝来では、当時の日本人がヨーロッパの鉄砲と火薬の技術をたちどころに吸収し、量産化に成功したこと。それにより戦国時代は鉄砲保有数は世界有数(おそらく世界一)だった
 2. 秀吉の朝鮮出兵(慶長の役)では、日本軍は明軍を圧倒。巷の言説と異なり、露梁海戦でも明・朝鮮軍を破っている。
 3. 幕末、反射炉を見よう見まねで独自に造り、アームストロング砲を完成させている
 4. 同様に蒸気船も佐賀藩、宇和島藩、薩摩藩で本と図面だけで完成させている。アジア、アフリカの国も同様の状況にあったが、完成させている国はない。
戦後、世界最貧国に転落した状態から20年も経たずにオリンピックを誘致できるまでに奇跡の復興を遂げた我が国の資質がすでに現れている。

 明治末期になると、著者の鼻息も荒くなる。韓国併合については、当初国内には「朝鮮人を日本人にすると日本人の劣化につながる」と反対論が強くメリットもなかった。列強に併合を打診しても反対はなく、それゆえに政府も最後に踏み切ったとする。欧米のような収奪型の植民地経営をしなかった日本のスタンスはきちんと理解したい。また、明治の知識人たちの吸収意欲はすごく、和製漢語を次々と作り出し、それらは中国語・韓国語にも取り入れられたこと、当時世界中の文献が日本語に翻訳されており、1つの言語で世界中の本が読める国はなく、それゆえに東南アジアのインテリたちは必死に日本語を勉強したということは誇らしく思える。

 戦争中の記述では、やはり海軍と陸軍の縦割りの弊害が説明されていて暗澹たる気分になる。互いに情報を秘匿し、零戦の製造では道路の整備といったインフラの欠如に生産の足が引っ張られる。各部署がバラバラで「戦争は総力戦」という基本的な取り組みができていなかった。輸送船の護送を「くされ士官の捨て所」とバカにするなど、輸送・生産も戦争のうちということが理解できていなかった。試験に強いだけの官僚は答えのある問題には強いが前例のない事態への対応力に劣る。官僚組織の弊害として、これは今でも笑えないかもしれない。

 戦後の占領政策も、実は酷い部分が多い。そもそもハーグ陸戦条約では、戦勝国が敗戦国の法律を変えることは許されていなかったそうである。東京裁判もそうだが、「勝てば官軍」は何処も同じ。さらにWGIPによって我が国は徹底的に痛めつけられ、それは現代にも及ぶ(だから筆者がこういう本を書く)。戦時徴用も中学生や女学生たちはタダで働かされたそうであるが、朝鮮人たち(いわゆる徴用工)には正規の給料が支払われていたそうである。

 慰安婦問題などについての記述は従来通り。朝日新聞が日露戦争の講和条約反対を煽ったことから始まり、随所で国民をけしかけ、それが戦争の一因にもつながっていること。戦後は慰安婦問題で我が国を貶めていることは周知の通りで、やはりこれにも暗澹たる気分にさせられる。しかし、この本に一貫して流れているのは、中国・韓国・朝日新聞に対する批判ではなく、「我が国の良さ(本当の姿)をきちんと理解しよう」というところ。それはその通りだと思う。だからこそ歴史をきちんと学ばないといけないのである。

 改めてこの本を書いた著者の意図を感じることができるし、自分の国の歴史を正しく理解するすべとして、子供にも読ませたい一冊である・・・



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2019年02月20日

【残酷すぎる成功法則−9割まちがえる「その常識」を科学する−】エリック・バーカー 読書日記1000



原題:BARKING UP THE WRONG TREE
《目次》
序 章 なぜ、「成功する人の条件」を誰もが勘違いしているのか
第1章 成功するには「エリートコース」を目指すべき?
第2章 「いい人」は成功できない?
第3章 勝者は決して諦めず、切り替えの早い者は勝てないのか?
第4章 なぜ「ネットワーキング」は上手くいかないのか
第5章 「できる」と自信を持つのには効果がある?
第6章 仕事バカ・・・それともワーク・ライフ・バランス?
結 論 本当に人生を成功に導く法則は何か

 著者は『ウォール・ストリート・ジャーナル』『タイム』などの有名媒体に寄稿し、大企業のマーケティングにも関わる、アメリカの人気ブロガーだという。そんな著者が、世の中に流通するさまざまな「成功法則」を、豊富な例と科学的な理論というエビデンスを元に検証し、結論を提示したのが本書。なかなか興味深い取り組みである。

 いきなりの第1章などは、いわゆる世の教育ママたちに読ませたいところである。「成功するには「エリートコース」を目指すべき?」というストレートな問いかけ。それに対し、著者は高校で首席だった人たちを追跡し、そこそこには出世していても億万長者にはなれていないことを例示する。高校で首席だった人たちは皆きちんとルールに従っていた人たちであり、そういう「ルールに従う生き方は成功を生まない」とする。イギリスを救ったチャーチル、普通の暮らしができない天才ピアニスト、ピクサーを救ったはみ出し者、いずれもルールからは外れている。

 一方、組織の成功に必要なのは一定の信頼と協力関係。その例をなんと刑務所のギャング組織や海賊に求める。悪人ですら、信頼と協力関係が必要なのだとする。さらに海賊といえば残虐行為と思い浮かぶが、実はそれはマーケティングであり、そういうイメージを定着させておけば人々を震え上がらせることができ、そうするといちいち交戦するより手っ取り早く経費もかからず安全だったというのは面白い。海賊組織は人種差別もなく、賃金も皆同じであり、当時としてはもっとも進んだ平等な組織であったらしい。

 成功するには、「諦めない心=グリット=やり抜く力」が大事だとされている(『GRIT−平凡でも一流になれる「やり抜く力」−』など)が、これについても、海軍特殊部隊や見合い結婚、オンラインゲームなど様々な例が示され(読むだけでも面白い)、実は「ゲームに見立てる」ということが効果的なのだと説明される。冬山で遭難した人が、奇跡の生還を果たしたのも、ゲームに見立てて着実に帰還を果たしたのだとか。これは私自身も勉強で経験がある。
 「退屈をなくせば努力は必要なくなる」
これがすべてを物語っている。
 
 あの「引き寄せの法則」も「頑張れば目標を達成できるときにやる気を後押ししてくれるが、目標の実現可能性が低い場合は効果がない」とわかりやすく説明される。これはなかなか納得である。成功するには、「目標」「楽観主義」「有意義なストーリー」「ゲームの要素」が必要だとする。その他、人付き合いがいいことは重要か、自信を持つことはどうなのかが同じように豊富な例とともに説明されていく。観念的な議論より、実例ゆえにスムーズに心に溶け込んでくる。

 個人的に心に残ったのは(自らも課題だと思っているところ)、「論争をなくし良い結果を得る4つのルール」である。
 1. 落ち着いてゆったりしたペースで話す
 2. 傾聴する
 3. 相手の気持ちにラベルを貼る
 4. 相手に考えさせる
どれもなるほどである。これは日頃心掛けたいと思うところである。

 自信については、「必要だが過剰は禁物」というのは、ある意味当然。謙虚さには、「現実を把握できること」「傲慢にならずに済む」というメリットがあるとする。さらに著者は自信よりも「セルフ・コンパッション」という概念を重視する。要は「自分自身への思いやり」だそうだが、心の平安にはいいと思う。

 最後に成功法則をまとめてくれている。
1. 周りをギバーに囲まれたギバーになること
2. 自分が前進できる形で社会と繋げてくれるストーリー
3. 自分を助けてくれるネットワーク
4. 自分本来の内向性・外向性を活かせる仕事
5. セルフ・コンパッション
6. 「幸福感」「達成感」「存在意義」「育成」という4要素のバランス

 こうしたことがすべて正しいかどうかはわからないが、豊富な事例をベースにしているだけに説得力はある。個人的に心にヒットしたものもいくつかある。なかなか面白いなぁというのが正直な感想である。今度、著者のブログも是非読んでみようと思わされたのである。

 「常識を科学する」という試みが実に面白いと思わされる一冊である・・・


著者のブログ: BARKING UP THE WRONG TREE



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2019年02月12日

【魔力の胎動】東野圭吾 読書日記999



第1章 あの風に向かって翔べ
第2章 この手で魔球を
第3章 その流れの行方は
第4章 どの道で迷っていようとも
第5章 魔力の胎動

 新作が出れば必ず読むことにしている東野圭吾作品。第1章を読み始めて何となく既視感にとらわれる。「竜巻で母娘が巻き込まれる」「自然(風)を読む不思議な女性」等。そしてこれは『ラプラスの魔女』の続編か何かだろうと気づく。事前に予備知識を持たないで読むようにしてるから、こういう気づきが楽しい。そしてあとで続編ではなく、「前日譚」だとわかる。これはこれで面白い。

 第1章は全盛期を過ぎ、引退を考えるスキージャンパー坂屋が最後の大会に臨むもの。鍼灸師のナユタが呼ばれて施術に当たる。ナユタはついでにと試合結果の解析に立ち会う。訪れた流体工学研究室で1人の若い女性羽原円華と知り合う。坂屋に興味を抱いた円華は、ナユタの泊まるホテルに押し掛けそのまま坂屋の試合に付きそう。満身創痍の坂屋に奇跡の風でも吹かない限り勝機はないと見られていたが、円華は「私の合図で翔べ」と主張する。

 第2章は一転して野球の話。ふとしたことからナックルを投げ始めたプロ野球投手。ナックルは投げた投手もどこに行くかわからない魔球。打者も打ちにくいが捕手も取りにくいという難点がある。引退を考えた捕手の三浦は、ナックルを補給できる捕手を育成しようと、目をかけている後輩山東に白羽の矢を当てる。しかし、山東は試合中のミスがきっかけてナックルが捕球できなくなる。

 第3章は河原に来ていた夫婦が、事故で子供を溺れさせてしまう。命は助かったものの、子供は植物状態に陥ってしまう。川に流された子供を助けようとした妻を夫は止めたが、助けられなかった妻は心のどこかで夫を責めている。夫も妻を止めたのが良かったのか今も自問自答する。子供は唯一、円華の父による手術によって回復する可能性もあるが、それには夫婦の同意が必要。夫は病院に行かず、毎週事故のあった川原に通っていて同意を得る機会が持てない。

 いずれも風や川の流れを読む円華の不思議な力が解決をもたらす。いずれのケースもナユタの身の回りの関係者の話。第4章はゲイである音楽家の話。実はナユタは、『ラプラスの魔女』でも登場した天才映画監督甘粕の作品に出演したことがある。それはゲイにまつわる映画であり、ナユタの人生に大きな影響を与えた映画でもある。そんなナユタは円華とともに音楽家のパートナーの突然の山での死について調べて行く。
 
 第5章は赤熊温泉で硫化水素による中毒事故が発生する。県警から依頼を受けて調査に臨むのは、『ラプラスの魔女』にも登場した専門家の青江。赤熊温泉での硫化水素による家族3人の死亡事故は『ラプラスの魔女』でも出てきたが、ここではその詳細が語られる。円華もナユタも出てこない。これはこれで面白い。

 東野圭吾作品の持ち味は、どちらかと言えばミステリーにある。推理が絡んだりするのが個人的には好きであり、「不思議系」に分類される『ラプラスの魔女』の前日譚と言ってもそれほどの感動はないのは確かである。それはともかくとして、これはこれで楽しみたい一冊である・・・



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2019年02月11日

【非才!−あなたの子どもを勝者にする成功の科学−】マシュー・サイド 読書日記998



原題: Bounce
《目次》
第1部 才能という幻想
第1章 成功の隠れた論理
第2章 奇跡の子?
第3章 傑出への道
第4章 神秘の火花と人生を変える気がまえ
第2部 心のパラドックス
第5章 プラシーボ効果
第6章 あがらないためには
第7章 野球の儀式と鳩、そしてスポーツマンが勝利後に憂うつになる理由
第3部 深い考察
第8章 目の錯覚と透視眼
第9章 ドーピング、シュワルツェネッガーマウス、そして人類の将来
第10章 黒人はすぐれた走者?

 邦題は、得てして原題を大きく無視して売れそうなものにすることがしばしばあるが、これはなかなかの邦題だと読み終えて思う。著者は英タイムズ紙のコラムニストだという。この本は、一言で言えば「才能とは努力に他ならない」ということに尽きる。これは自分は凡人だと思っている人には勇気を与えてくれるが、その一方で「本当か?」と思う気持ちも捨てられない。だが、著者はこれを一つ一つ立証していく。

 「1万時間の法則」というのはよく耳にする。どんなことであれ、1万時間を費やせばその分野でそれなりの達人になれるというものである。2年かがり230時間の訓練を費やして83桁の数字を暗記できるようになった人の話やチェスプレーヤー、災害を未然に回避したベテラン消防士の例が挙げられる。さらには音楽の天才児モーツァルトも3歳から作曲と演奏を徹底的に仕込まれ、6歳になるまでに3,500時間の練習を積み、最初の名作「ピアノ協奏曲第9番」までに18年間の訓練を経ていたという事実が語られる。

 さらにタイガー・ウッズは、父によって1歳の誕生日にクラブを与えられ、18ヶ月で初めて屋外ゴルフをしたという例が続く。サッカーのベッカム、テニスのヴィーナスとセリーナ姉妹と天才たちも幼少期からトレーニングに明け暮れていたらしい。こうした天才児たちの例が続々と語られていく。

 また、ただ長時間練習すればいいというものではなく、訓練の質も大事だという。それを「目的性訓練」と称しているが、それを制度化することも重要だとする。さらに「質」に関して重要なのが、「フィードバック」であり、「動機」である。「目的地を大切に思い、動機を内部化した人間のみがそこに到達できる」ということは、理屈としてよく理解できる。「信条もしくは気構え」も重要ということは、痛いほどよくわかる。

 極め付けは、スポーツにおける黒人選手の優位をもこれで説明してみせてしまったことだろう。ケニア出身者がマラソンに強いのは、子供時代に学校まで20キロ以上高地を走っていたとか、黒人ならバスケットボールが上手いだろうというステレオタイプ効果とか。モハメド・アリもタイソンも「黒人だから」強かったのではないらしい。

 「努力せずに何かできるようになる人のことを『天才』というのなら、僕はそうじゃない。努力した結果、何かができるようになる人のことを『天才』というのなら、僕はそうだと思う。」とはイチローの言葉ではあるが、それはまさにこの本の主張を裏付けている。考えてみれば、「努力に勝る天才なし」ということわざもある通り、これは誰もが実は知っていることなのかもしれない。それでもなお世間には、「持って生まれたモノが違う」という類の言葉が氾濫する。この本を読めば、それがいかに間違っているのかがわかる。

 読み終えてみると、もう今日から言い訳ができなくなる。「千里の道も一里から」を実践せざるを得なくなる一冊である・・・




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2019年02月05日

【蜜蜂と遠雷】恩田陸 読書日記997



 タイトルからは連想できないが、これはあるピアノコンクールを舞台にした物語。音楽を文字で表すというのは、一見難しく思われるが、プロの小説家にかかれば見事に脳内に再現される。そんなことを痛感させられる小説である。

 芳ヶ江国際ピアノコンクールは、3年ごとに開催されていて「ここを制した者は世界最高峰の国際ピアノコンクールで優勝する」というジンクスもあり、近年注目を集めている。冒頭、パリでコンクール出場希望者に対するオーディションが行われている。疲れの見えた審査員の前に現れたのは、「ジン カザマ」という少年。なんの経歴もないが、音楽界の伝説ユウジ・フォン=ホフマンの推薦状が審査員を驚かせる。ホフマンが推薦状など書くはずがないと思われていたからだが、少年の演奏を聴いた審査員は度肝を抜かれる。

 そして本番。審査員に賛否の議論を巻き起こし、コンクール出場を手にした少年・風間塵は15歳。養蜂家の父とともにヨーロッパ各地を転々とし、自宅にピアノを持たない少年は異例中の異例。そんな少年とともにコンクールに出場するのは、かつて天才少女として国内外のジュニアコンクールを制覇しCDデビューもしながら、母の突然の死去以来、長らくピアノが弾けなかった栄伝亜夜20歳。それに楽器店勤務のサラリーマンながら細々とピアノを続けてきたコンクール年齢制限ギリギリの高島明石28歳。完璧な演奏技術と音楽性で優勝候補と目される名門ジュリアード音楽院のマサル・C・レヴィ=アナトール19歳ら総勢90名を越すピアニストたち。

 審査員も日本人の嵯峨三枝子に三枝子とはかつて夫婦であったナサニエル・シルヴァーバーグらが登場する。ナサニエルはマサルの師匠でもある。コンクールは第1次から3次までの予選があり、そして本選で優勝を争うスタイル。単純に優勝するのは誰なのかを楽しむ物語かといえば、そうではない。登場人物たちのコンクールに至る過程が丁寧に描写されていて、いつの間にか思い入れに近い感情が生まれてくる。

 栄伝亜夜は、かつて二人三脚でピアノを続けていた母を突然失い、以来表舞台から姿を消している。その才能を惜しんだ浜崎学長やその娘の奏の手厚いサポートを受けている。コンクールにエントリーしたものの、戸惑いを覚えつつも世話になった人たちの期待を裏切りたくない気持ちからの出場である。それが風間塵の演奏を聴いて眠っていた何かが目覚めていく。

 高島明石は、楽器店に勤めながらもピアノに対する夢を諦めきれず、妻の応援を受けてのエントリー。世界各国から集まってくる才能たちを前に気後れする気持ちもあるが、そんな様子を友人の雅美がドキュメンタリーにしようとカメラに収める。優勝候補筆頭のマサルは、子供の頃、自分をピアノの世界へと引き込んでくれた「あーちゃん」の存在を心に秘めての来日。師匠も審査員を務める中での演奏である。

 そんな登場人物たちのプロフィールが紹介されつつ、いよいよ予選が始まっていく。曲目はいずれもクラッシック。ショパンやバッハ、モーツァルト・・・名前は知っているものの、曲目を聴いても音楽が思い浮かばない。今はYouTubeがあるから、再現して雰囲気を楽しむことができるのがありがたい。残念ながらプロのピアニストの奏でる微妙なニュアンスはわからないが、それでも著者の描き出す「音楽」は頭の中で独自に再生されていく。読んでいくうちにいつの間にかコンクールに観客として参加しているような気がしてくる。

 登場人物たちのそれぞれの物語は、誰をも優勝させたくなる。一体誰が優勝するのか、先が全く読めないストーリー展開も物語の世界に引き込んでくれる。時折、胸が熱くなるシーンがしばしば。最初こそ優勝の行方が気になったものの、最後は結果よりもそれぞれの出場者たちの姿に感動を覚える。著者の作品は、『夜のピクニック』以来であるが、他の著作にも俄然興味を抱かされた。探して読んで見たいと思わされる、心揺さぶられる一冊である・・・


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2019年02月03日

【0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる学ぶ人と育てる人のための教科書】落合 陽一 読書日記996



《目次》
プロローグ 人生100年時代の「新しい学び方」とは
第1章 Q&A・幼児教育から生涯教育まで「なぜ学ばなければならないのか」
第2章 落合陽一はこう作られた・どんな教育を選び、どう進んで来たか、生成過程
第3章 学び方の実践例・「STEAM教育」時代に身につけておくべき4つの要素
エピローグ ライフスタイルとして楽しむ学びから生まれるイノベーション

 著者は、最近著作が立て続けに出ている感のある落合陽一。自分も著者の作品であると意識して手に取ったわけではないが、気がつくと『超AI時代の生存戦略<2040年代>シンギュラリティに備える34のリスト』『日本再興戦略』を読んでいた。ビジネス書はテーマで選ぶことが多いので、それだけタイムリーな内容を発表しているという風に理解している。

 そんな著者の作品だから選んだというよりも、これも内容で選んだ一冊。人生100年時代はいいのだが、さてどう生きるのか。その中で学ぶということはとても重要だと思う。著者も冒頭で、「受験戦争に勝ち抜いて一流企業に就職というロールモデルが成り立たない」と語っているが、それはもうとっくに実感している。これからの時代に必要なのは、「新しい学び方、そのための心構えを身につけること」とする。

 「どんな状況にあっても楽しく学び続けられる人、前提を無視しストレスを感じず、常に柔らかな跳躍ができる人が強い」という意見には素直に頷ける。「学ぶことをライフスタイルとして生活の中にどういった学びを取り入れていけるかを常に考えなくてはならない」ということはなんとなく理解できるが、具体的なイメージがちょっと難しい。本書は、Q&A形式で進んで行く。

 「なぜ学校に行かなければいけないのか」という問いかけはよくあるものだが、学校の勉強を「コンテンツ」と「トレーニング」に分けて考えるところは大人でもわかりやすい。「英語はいつから始めるべきか」という問いに対しては、「時期にこだわるより、まずは母語の論理的言語能力を鍛えよう」としているところはその通りだと思う。著者は自分の子供を余裕があれば職場や出張にも連れて行くというが、子供の世界の外側の領域を早いうちから見せてあげるという考え方も面白いと思う。

 そのほか、面白いと思った考え方は以下の通り。
 1. これから必要とされるのは、文系理系というフレームを外して歴史的考証や物理数学を駆使しながら自分でなんらかの価値を生み出すことのできる人
 2. 自分の中に柱となる複数の専門性を持つ(複数の柱)
 3. 学問を始めるのに適正年齢はない
 4. 貯金よりも借金ができる人を目指す
 5. ストレスと感じずにやりたいことをやる能力(アニマルスピリット)

 著者はこれからの時代に身につけておくべき4つの要素を紹介している。それは、「言語」「物理」「数学」「アート」である。個人的には、「言語」が特に大事だと感じた。「自分の頭で考えを深め、それを言語化する能力」であり、これは普段の会話の中で「なぜそれをやりたいのか」その理由について自分なりに思考して明確にすることで鍛えられるとする。これはまさに我が子に身につけさせたいと思うところである。

 これまではリスクを取らない安定思考の人間の方が有利とされてきたが、これからはリスクを取って何かをやってみようとする行為にリスクがなくなってきているという。失敗するのは当然くらいの感覚で学び続けることをやめず、チャレンジすることを恐れずに生きていくことが大事だと語る。こういう時代感覚にも遅れずついていきたいと思わされる。

 書かれていることがすべて正解だとは思わないが、やはり考え続けること、学び続けること自体は誤りではなく必要なこと。その為にはこういう考え方にも大いに触れておきたいところである。時代の先端を行く著者の考えに、こちらもついていきたいと思わせてくれる一冊である・・・


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