2019年07月31日

【宇宙戦艦ヤマト2199でわかる天文学 イスカンダルへの航海で明かされる宇宙のしくみ】半田利弘 読書日記1055



《目次》
第1章 ヤマト×天文学
第2章 2199年、太陽系の姿太陽系
第3章 星々の海へ
第4章 銀河の外へ
第5章 大マゼラン銀河 
第6章 星巡る方舟とヤマトの超技術
 
 著者は鹿児島大学の教授。物理学が専門のようで、なんとテレビドラマ『宇宙戦艦ヤマト2199』の化学考証を担当されたのだとか。この本は、タイトルにある通り、 『宇宙戦艦ヤマト2199』を題材にして宇宙の仕組みを解説するというもの。科学考証というからには、ある程度現実の宇宙学が取り入れられているようで、どこまでが現実でどこまでが製作者の空想なのか、ドラマも面白かっただけに興味を持って思わず手にした次第。

 まずはストーリーに沿って語られるが、第1話の「メII号作戦」が、現実の2199年1月17日の惑星配置予想図とともに説明される。冥王星と火星は太陽を挟んで反対に位置しており、だからサーシャの乗った宇宙船は火星を目指したのだと。なるほど、ここまで考えられていたとは驚きである。その後、ヤマトが発進し木星、土星(エンケラドス)、そして議論の末迂回して向かった冥王星へのルートもこの配置に沿って説明される。

 ヤマトの航海を可能にした技術「ワープ」だが、これは現実にはそのヒントすら掴めていない技術なのだとか。アインシュタインの特殊相対性理論、ホーキング放射、11次元などという言葉は、『ビッグ・クエスチョン』でも語られていたが、やっぱり宇宙理論においてこの2人の偉業を実感させられる。その理論に基づいて説明される波動砲の解説も面白い。

 遊星爆弾は、冥王星付近のEKBO(エッジワース・カイパーベルト天体)を利用していたが、このEKBOのこととか、最近「惑星」から格下げになった冥王星の解説も改めて太陽系の複雑さを感じさせる。次元潜航艦に追われてヤマトが逃げ込んだのは、惑星が生まれつつある星系。背後に原始惑星も描かれているといったところは、ドラマを見ている時には気にもしなかったが、こうした背景にも心配りがなされていたそうである。

 ヤマトのクルーが地球と最後の交信をしたヘリオポーズは、実際のボイジャー探査機で観測されているものだという。この範囲内は太陽風の影響が強いらしいが、逆にその外にはもっと強い恒星間宇宙放射線が存在しているのだとか。8光年離れたところで8年前の青い地球を見るシーンがあるが、ここで使われていた「VLBI望遠鏡」は電波においては既に実用化されているらしい。

 考えてみれば難しいと思うのが、宇宙空間での現在位置の測り方。そもそもどこそこの星まで地球から何光年などと説明されるが、そうした天体測距をどうやっているのか、その説明は興味深い。さらには「光秒」という単位は実際にはなくアニメ用語だとか、逆に実際にあるのは「天文単位」だとか「パーセク」という単位だとか、「銀経」「銀緯」だとかの説明も勉強になるものである。

 そのほかにもガミラス、イスカンダル、第二バレラスの位置関係が、3つの天体の相互関係が変わらない場所としての「ラグランジュ点」を意識しているとか「慣性制御」の技術だとか、ドラマとは別に興味深いものである。その昔、本で天の川銀河だとかマゼラン星雲だとかを読んで夢を膨らませたものであるが、ホーキング博士の『ビッグ・クエスチョン』でも触れられていたように宇宙に知的生命体は果たして存在しているのか、改めて興味を沸きたてられたところがある。

 テレビドラマにハマった人なら、読んでみると面白い一冊である・・・



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2019年07月29日

【罪の声】塩田武士 読書日記1054



 物語は2人の主人公のうちの1人、曽根俊也が実家の母親に頼まれ母親の部屋から偶然黒革のノートとカセットテープを見つけたところから始まる。そのカセットテープを何気なく再生した俊也は、それが子供の頃の自分の声であり、そこに自分の声で録音されていた内容に違和感を覚える。そしてノートに「ギンガ」「萬堂」という言葉を見つけ、そこからかつて日本中を震撼させた「ギン萬事件」を連想する。すぐに検索サイトで調べた俊也は、そのテープが事件の脅迫で使われたものだと知って愕然とする。

 一方、もう1人の主人公は大日新聞記者の阿久津英士。本来は文化部の記者であるが、社会部の年末企画に駆り出されることになる。それは「昭和・平成の未解決事件の特集」。大阪本社ではその事件として「ギン萬事件」を扱うことになる。そして早速、ギン萬事件の4ヶ月前にオランダで起こった「フレディ・ハイネケン誘拐事件」の取材から着手するように担当デスクの鳥居から指示される。事件後、現地で探偵まがいのことをしていた謎の東洋人について調べろというもの。こうして気乗りしないまま阿久津は調査に向かう。

 自分が知らないうちに大事件に関係していたこと、そしてもしかしたら自分の父親が事件の犯人かもしれないという考えから、俊也は父親の幼馴染である堀田を頼る。そして堀田とともにノートとカセットを手掛かりに調査を始める。こうして「ギン萬事件」を2人の主人公がそれぞれ調査を始め、物語は進んでいく。事件は1984年に発生し、菓子・食品メーカー6社が脅迫され、ギンガは社長まで誘拐される。萬堂は商品に青酸ソーダを混入され、甚大な被害を受ける。結局、犯人は逮捕されずに終わっている。

 事件の概要や犯人の一味とされる「キツネ目の男」という説明を読んでいて、なんとなく「グリコ・森永事件」を思い出したのは、自分もそういう世代だからだと言える。そしてこの小説は、その「グリコ・森永事件」をベースにしたものだとわかる。主人公こそ架空の人物だろうが、どこまでが史実なのだろうかという興味が湧いてくる。改めて事件を振り返る意味でもなかなか興味深い内容である。

 主人公の俊也と阿久津は互いに面識はなく、たまたま偶然同じ時期に事件の再調査に着手する。それぞれの立場から、手に入れた情報を辿り、事件を追って行く。読む立場の自分もまたそれを後追いして行く。父親から父の兄へと疑惑は移る。わずかな手掛かりから事件に関わった関係者を訪ね話を聞いて行く。そして小さなキッカケを掴み、そこからまた新たな事実を手に入れる。特に記者の立場の阿久津の調査過程がなかなか興味深い。そして2人はついに遭遇する。

 グリコ・森永事件は未だ未解決のままであるが、ギン萬事件は俊也の協力を得た阿久津が執念の調査で事件の全貌を解明する。それはいろいろな登場人物の人生が絡まったもの。逃げ切った犯人にハッピーエンドはなく、子供ながらに事件に利用された俊也以外の2人の子供の運命は切ないもの。重厚感溢れるストーリー展開は、なかなか読ませてくれるものがある。実際の事件はどんなものだったのだろう。ひょっとしたらこの小説の通りだったのかもしれない。

 いろいろと想像してみたくなる一冊である・・・



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2019年07月28日

【マンションを買うなら60uにしなさい】後藤一仁 読書日記1053



《目次》
はじめに 「60u論」とは?
第1章 今、損しないマンションの「3条件」
第2章 60uの「お宝物件」の探し方
第3章 「迷い」がなくなる賢い買い方
第4章 1円でも高くマンションを売る方法
第5章 命と資産を守る! 安全なマンションの選び方

仕事柄不動産関係の本はそれだけで興味をそそられるが、この本も独自の理論を展開しているという点で面白そうだと手にした次第。内容は、ずばりタイトルの通りであるが、もっと具体的に言えば、以下の条件を満たすマンションを買えということである。
 1. 面接は60u前後
 2. 都心・準都心の駅徒歩7分以内
 3. 2001年以降完成
 その背景としては、「広い家を必要とするファミリー層はどんどん減り一人暮らし世帯と夫婦のみ世帯が逆に増えている」ことと「シニア層の増加」を挙げているが、これはその通りであろう。

「60uが最強である4つの理由」を著者は以下のように説明する。
 1. 売りやすい
 2. 貸しやすい
 3. コストパフォーマンスに優れている
 4. 税制メリットを効率的に受けられる
 このうち、「3」は「物置と化し実質使っていない空間に何十年もコストを負担し続ける」ことの愚を説いているが、それは考え方次第のところもあるからなんとも言えない。私なんかは「無駄の効能」派であるから、この意見には素直に組みせない。

「資産価値の落ちない土地の4つのポイント」については、以下の通りである。
 1. 都心・準都心から距離が近いこと
 2. 駅力・街力があること
 3. 駅徒歩7分(できれば5分)
 4. 立地適正化計画の居住誘導区域外の物件でないこと
「4」はなかなか普通の人は気がつかない視点だと思う。

 「2001年以降完成」というのも面白いと思った点。これは「品確法」が施行されたことがその理由になっているが、そのほかにも「現在のマンションと設備・仕様がほぼ同じ」「立地が良い」「価格が手ごろで良質な建物」などが挙げられている。すべてというわけではないが、その時代背景もあり、このあたりは頭に入れておいて損はないと思う。

 単にどんな物件がいいかというだけでなく、後半には「探し方」にまつわる話もなされている。「報酬はきちんと払う」ことは、仲介業者から良いサービスを受ける基本だろう。「購入するなら消費税引き上げ前なのか?」は誰もが気になるところだが、著者は「良い物件が見つかったら前でも後でも大丈夫」とする。不動産はタイミングでもあるし、あまりこだわらない方がいいと個人的にも思う。

 「マンション価格はオリンピック後に下がる?」はよく耳にするが、著者は「可能性は低い」とする。これも消費税と考え方は同じだと思う。「手付金は安易に安くしてはいけない」というのは、不動産業者としては日頃実感しているところ。「査定価格が突出して高い会社には要注意」は事実であり、これは本当にその通りである。「売却時は原則的にリフォームすべき」 「内見時は掃除、片づけを徹底」「高く売るためにステージングも検討する」というのは、かなり実践的なアドバイスである。

 家というのは、普通の人にとっては人生における大きな買い物。それゆえに安易に買うのではなく、ある程度知識を仕入れてから買いたいものである。そのために必要な知識がコンパクトにまとまった一冊。60uのマンションを買うかどうかは別として、読んでおいて損のない一冊である・・・


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2019年07月25日

【「300億円赤字」だったマックを六本木のバーの店長がV字回復させた秘密−ほぼ実話!!−】足立 光 読書日記1052



《目次》
プロローグ
1章 空気を変えろ! ~マーケティングってなんだ?~
2章 仮説を立てて検証せよ! ~マックのライバルは回転寿司とオリエンタルランド、どっち?~
3章 情熱をまき散らし、周りと巻き込め! ~人は感情でしか動かない~
4章 デジタルマーケティングの落とし穴に用心せよ! ~話題化には「有名人」も「新商品」も必要ない~
5章 拡散するアイデアはこうひねり出せ! ~ヒントはすでにあるものの中にある~
エピローグ

 著者は元日本マクドナルドのマーケティング本部長。日本マクドナルドと言えば、2014年に期限切れ鶏肉使用問題が起こり、さらに異物混入騒動が起こったりして赤字転落というニュースを覚えているが、最近復活して来ている様子。実は、著者がマーケティング本部長としてその業績回復を主導したのだと言う。その実話を物語形式で紹介したのが本書である。

 主人公は十条商店街で老舗洋食店「キャロット」を経営する三代目の河北祐介。ある時、バイトのSNS投稿が炎上して客足が遠のいてしまう。手探りで炎上対策会社に相談に行くが、そこで炎上キーワードを常時監視して削除するサービスの紹介を受ける。「キャロット 炎上」などのキーワード一語につき月額50,000円を提示される(キーワードは最低五語くらい監視しないとダメらしい)。実在のサービスかどうかはわからないが、実在のものだとしたら、意味のないサービスに思う。

 それはさておき、途方にくれた祐介がふと目にして入ったバーで行われていたサイン会で、マックをV時回復させたと言う足立光なる人物と知り合う。そこで自分の店の炎上騒動を説明し、マックの事例の話を聞くというのがストーリー。飲食店はインパルス(衝動買い)とディスティネーション(目的買い)と2つに分けられると言う。インパルスはふらりと入るタイプで、ディスティネーションは「あれが食べたい」と入るタイプ。言われてみればなるほどであるが、こういう特徴を把握するのは大事だろう。

 インパルスタイプの場合、なんとなくふっと入りたくなる確率を上げることが大切で、そのためにはポジティブな情報でポジティブな空気を作っていくことが重要だとする。そう言われてみれば、CMとかで目にし耳にすれば、今度行ってみようかとなんとなく思うものである。ネガティブな空気を変えるのにもポジティブな情報を大量に発信することが大事であり、これを「ラブ・オーバー・ヘイト」と称している。

 著者は最初に毎週キャンペーンをやることを提案したらしいが、社内で反対にあったとか。それは現場はただでさえ忙しいので、そういうキャンペーンは纏めてやるのが慣例だったのである。ところが毎週出せばみんな採り上げてもらえるが、まとめると1つか2つしか採り上げてもらえない。広告よりもPRならタダだし、SNSでの拡散を狙えるので信頼性や説得力が強まるのだとか。このあたりは、なるほどである。

 「モノよりコト」、つまりハンバーガーよりハンバーガーを買ったり食べたりした経験や面白さを売ることが大事というのは、自分の仕事でも応用が効くような気がする。「できることからコツコツと」というのは、確かに大事だと思う。一方、GNN(義理人情浪花節)は大事だが意思決定と切り分けることが必要という指摘もよく理解できる。迷ったら「話題化できるか」「らしさがあるか」「新しさがあるか」で判断する。

 「デジタルマーケティング」というのもこれからは欠かせない。それには「話題化」することが大事であるが、そのカギは「ツッコマレビリティ」だとする。「ツッコミどころ」がないとダメだというのも面白い指摘。1本足打法から2本足、3本足へと広げれば、安定度が増すのは当然だろう。マクドナルドの業績回復の陰にこんなアクションがあったとは知らなかった。マーケティングとはなんとなくわかったようでいてわかりにくいところがあるが、自分なりに興味を持って知識を広げていきたいと思う。

 物語形式ではなく、普通に書いてくれても良さそうに思ったのが、唯一の難点だろうか(あまり物語自体は面白くなかった)。マーケティングの一端がよく理解できる一冊である・・・


 


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2019年07月23日

【日本が売られる】堤未果 読書日記1051



《目次》
まえがき いつの間にかどんどん売られる日本!
第1章 日本人の資産が売られる
第2章 日本人の未来が売られる
第3章 売られたものは取り返せ
あとがき 売らせない日本

 著者は、『ルポ貧困大国アメリカU』と同じ著者。こうしたルポを専門とする方のようである。今回の対象は我が国。「日本が売られる」というのは、一見どういうことだろうかと思うが、内容を読み進めていくと知られざる状況ばかり。ニュースで伺う表面の裏に知られざる事実があり、愕然とさせられる。冒頭で、「日本に住みたい」と語る米国人の話が紹介されるが、このままだと日本人がどこかよその国に住みたいと語るようになるかもしれない。

 最初に紹介されるのは「水」。水が売られるとは、水道事業の民営化。水道水が飲める国というのは、実は世界196カ国の中で15カ国しかないという事実に驚かされる。そのわが国で水道事業の民営化が進められようとしているが、各国の失敗例が紹介される。経営の効率化により水道料金が下がることが期待されたが、蓋を開けてみれば料金は高騰。財政の透明性も欠如し、再公営化に踏み切ったボリビアではそのコストは25億円に達し、これは25,000人の教師を雇い、貧困家庭12万世帯に水道水を引くことができる金額だという。

 わが国では、災害時の復旧費用は自治体と折半、かつ利益はすべて運営企業という形で「外資」が参入できる形だという。それ以外に土地、種子、牛乳と売られる例が続くが、基本的に買うのは外資である。この外資の参入こそが、大きな問題の根源に思える。種子については、農薬と遺伝子組換え種子がセットで売られる危険性が語られる。日本は世界3位の農薬大国だとは知らなかったし、ミツバチの生態系を破壊するなどという話は(しかもその埋め合わせはロボットみつばちにやらせるというから愕然とする)、やっぱり看過できない。

 高度プロフェッショナル制度の導入は、企業の思惑通りであり、外国人労働者の受け入れは目先の低賃金に目が行くと、大事な視点が漏れるという。すなわち、外国人も同じように年を取り、家族を育て年金を受け取るようになるという事実。介護の人件費は次々とカットされ、外国人で埋め合わせればと移民50万人解禁が歌われる。労基署の民営化案については、著者は企業側が取り締まる方に回ることになり、事実上機能しなくなると警鐘を鳴らす。

 カジノ法が通過したが、宣伝されているように外国人観光客向けなどではなく、その対象の8割は日本人であるという。カジノで負けた分についての貸付も認められ、さらにそれは貸金業法の適用外とされるという。これも運営側に立つのは外資を中心としたエンターテイメント業界大手とウォール街の投資家だという。

 毎年国庫負担が増加する国保の患者負担が増加する真の理由は、高齢者の増加ではなく、アメリカから買わされる高額の医療機器と新薬だという。他国の3〜4倍の値段だというから驚きである。外国人によって国保が食い物にされているのは最近よく耳にするが、本当に我が国はお人好しだと思わされる。読めば読むほど暗くなって行くが、一方で疑問も湧く。

 例えば、牛乳については農協を指定団体とする買取制度が成長ホルモン入り牛乳の販売を目論む外資の盾となるように説明されている。しかし、農協が我が国での意欲的な農家の独自販売を阻んでいる例は「ガイアの夜明け」などで再三採り上げられている。さらに民営化を推進する竹中平蔵氏を悪者扱いするが、そもそも公営事業の非効率経営が我が国の財政の足を引っ張っているからこその民営化であり、その視点が抜け落ちている。

 著者としては、イタリアの草の根政治革命や92歳のマハティール首相が消費税廃止した例、有機農業大国となりハゲタカたちから国を守るロシアの例などを参考として挙げているが、なんとなく外資を規制した方が早い気がする(もっとも我が国を食い物にするアメリカが黙ってはいないだろうが)。いずれにせよ、知らないというのは怖いものである。自分に何ができるかはわからないが、せめて世の中の動きにはよくよく興味と関心を持っていようと思わせてくれる一冊である・・・

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2019年07月18日

【下町ロケット ヤタガラス】池井戸潤 読書日記1050



第1章 新たな提案と検討
第2章 プロジェクトの概要と変遷
第3章 宣戦布告。それぞれの戦い
第4章 プライドと空き缶
第5章 禍福スパイラル
第6章 無人農薬ロボットを巡る政治的思惑
第7章 視察ゲーム
第8章 帝国の逆襲とパラダイムシフトについて
第9章 戦場の聖譚曲
最終章 関係各位の日常と反省

 『下町ロケット ゴースト』と連続で出版されたシリーズ第4作であるが、実はこれは『下町ロケット ゴースト』と合わせて、いわば前後編ものと言えるもの。冒頭は『下町ロケット ゴースト』のラストと重なっていて、天才エンジニア島津裕が佃製作所から去って行くシーンから始まる。

 トランスミッションへの進出に乗り出した佃製作所だが、盟友ギアゴーストが突然の造反し、ダイダロスと手を組んでしまう。一方、帝国重工の財前は新しい部署で無人農薬ロボットを手がけることになる。そして佃製作所にそのトランスミッションの供給を要請してくる。帝国重工が打ち上げた準天頂衛星ヤタガラスが新しい農業を切り開く一翼を担う。しかし、帝国重工も一枚岩ではなく、内製化を推進する的場が強引に佃製作所を外してしまう。

 事はギアゴーストとダイダロスが進める「ダーウィン・プロジェクト」と帝国重工の「アルファ1」との対決となり、世間の注目を集めて行く。ともに日本の農業の未来を背負うが、「アルファ1」は大型エンジンのダウンサイジングでの対応が上手くいかず、対決の場と用意されたイベントで醜態を晒してしまう。一方、順調な滑り出しに見えた「ダーウィン」も不気味な故障例が次々と報告される。

 このシリーズの面白いところは、義理人情に厚い下町の中小企業が、大企業の論理や経済優先の論理に反して、ハート対ハートのつながりを示していくところだろう。前作で佃製作所に窮地を救ってもらったギアゴーストは、手のひらを返して佃製作所と対立するダイダロスと手を組む。帝国重工はその優越的地位を利用し、様々な分野で圧力をかけ、そして中小企業の切り捨てをも厭わない。そうした中にあって、佃航平を中心とした佃製作所のメンバーや帝国重工の財前は信頼関係を重視して付き合っていく。

 日本の農業も高齢化が懸念されているが、ここで展開される無人農薬ロボットが実現すれば、高齢者でも楽に農業が続けられるし、重労働から解放された農業には若い人も集まるのかもしれない。読みながらそんな日本の農業の未来のことを考えていた。現状はどうなのかわからないが、いずれ実現する近未来の姿なのだと思う。

 物語は、大企業の中で中小企業のことなど歯牙にもかけず、自らの欲望のまま動く人物がいて、またそんな大企業に復讐心を持つ者がいて、日本の農家のことを考えて理想に向けて頑張る者がいる。世間的にもダーウィン対アルファ1の対決が興味を惹くが、佃はひたすら日本の農業の理想に焦点を合わせる。仕事は違えどこういうスタンスを自分も持ちたいと思わずにはいられない。単純だが登場人物たちの行動する姿に何度も目頭が熱くなる。これがこのシリーズの何と言っても醍醐味であろう。

 第4作まで続いてきたシリーズであるが、こうなるとまだまだ続いて欲しいと願わずにはいられない。「次」を大いに期待したい一作である・・・
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2019年07月17日

【ビッグ・クエスチョン <人類の難問>に答えよう】スティーヴン・ホーキング 読書日記1049



原題: BRIEF ANSWERS TO THE BIG QUESTIONS
《目次》
なぜビッグ・クエスチョンを問うべきなのか?
神は存在するのか?
宇宙はどのように始まったのか?
宇宙には人間のほかにも知的生命が存在するのか?
未来を予言することはできるのか?
ブラックホールの内部には何があるのか?
タイムトラベルは可能なのか?
人間は地球で生きていくべきなのか?
宇宙に植民地を建設するべきなのか?
人工知能は人間より賢くなるのか?
より良い未来のために何ができるのか?

 ステイーブン・ホーキング博士といえば、昨年惜しくも亡くなった体の不自由な物理学者として有名である。ただ、恥ずかしながらその実績らしきものはほとんど知らず、ベストセラーとなった『ホーキング、宇宙を語る』すら読んだことがない。実は、ブラックホールが存在するという証拠が観測からは何1つ得られていなかった1960年代にブラックホール理論における主要な問題をほとんど解決したという実績を残したという。せめてこの機会に著作の一冊くらいは読んでみなければと思わざるを得ない。

 「ビッグ・クエスチョン」とは、人類にとっての大きな問題。「人類の難問」として、誰もがその答えを知りたいがっている問題である。実際、各章毎に掲げられている10の疑問は、どれもこれも「人類の難問」にふさわしい。上記以外にも「ホーキング放射」を発見し、宇宙誕生を説明する理論を形式化したという。S=AKC3/4Ghなどという数式を示されても、完全文系人間の自分にはかけらも理解できない。残念ながら、この本でホーキング博士が語る理論はどれもこれも自分には難しい。

 「神は存在するのか」というスバリなビック・クエスチョンに対し、博士はやんわりとそれを否定する。既に無神論者として知られているようであるが、欧米社会であまり声高に主張しにくいのか、この本では控え目な表現である。曰く、「神という言葉を人格を持たない自然法則という意味で用いる」とか、「神の心を知るとは自然法則を知ること」という感じである。そしてさらに今世紀末までに人類は神の心を知ることができるだろうとも語る。同じというのはおこがましいが、実は自分も同じように考えている。この宇宙を作った何らかの力を神と名付けるのなら、神は存在すると言えると自分は考えている。何だかちょっと嬉しい。

 宇宙を作る3つの要素は、「物質、エネルギー、空間」だという。言葉は簡単だが理解するのは難しい。だが、「ビッグバンは原因がなくても起こりうる。原因はいらず、時間そのものが始まった」という説明は衝撃的である。「ビッグバンの前には何もなく、それは南極点のさらに南には何があると問うのに似ている」と語るが、時間のない世界を想像するのは難しい。「神が宇宙を創造するための時間もなかった」らしい。

 宇宙に知的生命体がいるかどうかは興味があるところ。適切な条件下で自発的に生命が生じる確率は十分に高いとする。それより人類の進化は「言語」の獲得に伴って飛躍的に増大したという話が個人的には面白い。今やインターネット上の情報量はDNAの10万倍だとか。それを持って人類は「進化の新しい段階」に入ったのだとか。コンピュータ・ウィルスも生命とみなすべきという考え方はともかくとして、考え方としては面白いところである。

 やっぱり専門家なのか、ブラックホールの話も面白い。特になぜブラックホールから光が抜け出せない(だから“ブラックホール”なのである)理由について、光の速度と重力からの「脱出速度」との比較での話が目からうろこであった。そのブラックホールに落ち込んだ情報が決して出てこられない証明をしたものの、それは量子力学の法則の否定につながるもので、学界に今後の課題を残したらしい。このあたりの理屈になるとついていけない。

 タイムトラベルをするには、光よりも早く進む宇宙船があればいいが、そのためのエンジンは無限大の出力が必要になるとか。随所にアインシュタインの一般相対性理論と特殊相対性理論が引用されていて、改めて宇宙物理学の世界に興味をそそられる(でもついていけない)。全体的に理解は難しいが、ワクワクする話であることは確かである。理解困難であろうと、夢のある話であり、興味だけは持ち続けたいと思う。
 つくづく、偉大な人物であったのだと思わされる一冊である・・・



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2019年07月11日

【苦しかったときの話をしようか−ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」−】森岡 毅 読書日記1048



《目次》
第1章 やりたいことがわからなくて悩む君へ
第2章 学校では教えてくれない世界の秘密
第3章 君の強みをどう知るか?
第4章 君自身をマーケティングせよ!
第5章 苦しかったときの話をしようか
第6章 自分の「弱さ」とどう向き合うのか
おわりに あなたはもっと高く飛べる

 著者は、『USJを劇的に変えた、たった一つの考え方』『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?-V字回復をもたらしたヒットの法則』の森岡毅氏。現在はすでにUSJを退職し、マーケティングの会社を立ち上げてその代表者をしているという。娘さんがいて、就活の時に悩む娘さんにアドバイスをしようとしてまとめたのが本書の元ネタらしい。サブタイトルがその内容を表している。

 その時、娘さんは「何がしたいのかわからない」という悩みを抱えていたと言う。自分自身振り返ってみても、就活時に何かこれといった考えがあったわけではない。なのでその気持ちはよくわかる。また、著者がこの本で明らかにしようとしたのは「自分や将来のことを考える際の考え方(フレームワーク)」だという。それだけでも興味深い。そもそも「何がしたいかわからない」という悩みは、自分の中に「軸」がないことが原因。悩むべきは重視すべき「軸」だとする。

 「会社と結婚するな、職能と結婚せよ」と著者は語る。この場合の「職能」とは「スキル」であり、それこそが最も維持可能な個人財産だという。「会社は今よりもっとあてにならない結婚相手」という意見には素直に同意したい。「正解はたくさんある。不正解以外はみんな正解」という言葉は、自分の娘に対する愛情を感じさせる。この場合の「不正解」とは、「自分にとって決定的に向いていない仕事に就いてしまうこと」だとする。「内定を取るために別人格を演じるのは不幸の始まり」という言葉は、すべての就活生が耳を傾けるべきだろう。

 そもそも人間は平等ではなく、経済格差は知力の格差がもたらした結果だとする。資本主義社会とは、サラリーマンを働かせて資本家が儲ける構造。無知であることと愚かであることに罰金を科す社会という説明は、言われてみれば真実である。その社会で年収を決める要素は、「職能の価値」「業界の構造」「成功度合いによる違い」。お金がすべてではないが、「自分にとっての成功」を定義づける目的を明確にしなければならない。

 毎年、就職人気ランキングが発表されているが、「今の大企業に入るのではなく、将来の大企業に入る」という考え方には素直に同意できる。ただ、それを見分けるのは困難である。「どんな状態であれば自分はハッピーだろうか」という理想状況から発想するといいと著者は語る。避けた方がいいのは、「どんな職能が身につくかわからない会社」。心に響いたのは、「自分がナスビなら立派なナスビへ、キュウリならキュウリになるようにひたすら努力を積み重ねる」という言葉。具体的な事例があるので説明もわかりやすい。

 要所要所で、著者の体験談が語られる。学生時代から波乱に富んだ経験をこなし、P&Gに就職して苦しみながらも結果を出し、日本人ながらアメリカ本社のマネージャーに抜擢される。そんな経験を積み重ねてきたからこそ、1つ1つの言葉にも重みが感じられるのだろう。面接で緊張しないためには、「自分はこういう人間だ」というMy Brandを設計してしまい、その通りに行動するなんていうのも実に面白い考え方である。つくづく、成功を支えるのは「考え方」だと実感させられる。

 変わりたい時にうまく変われるコツは、「最初からすぐに変われないことを覚悟して時間がかかることを織り込んで変わる努力を継続すること」だと言う。いい言葉だなと思う。
自分も子どもたちが社会に出る時には、こんな言葉を送りたいと思わせてくれる一冊である・・・


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2019年07月09日

【世界のセレブが夢中になる究極の瞑想−超越瞑想の力−】ボブ・ロス 読書日記1047



原題:STRENGTH in STILLNESS The POWER of TRANSCENDENTAL MEDITAION

《目次》
INTRODUCTION 1日2回の瞑想で心身をリセット
Part1 超越瞑想を知る
 第1章 瞑想の準備――超越瞑想とは何か
Part2 超越瞑想を実践する
 第2章 瞑想1日目──最初の一歩
 第3章 瞑想2日目──正しい瞑想のポイント
 第4章 瞑想3日目──ストレスなく成功する
 第5章 瞑想4日目──瞑想の効果を大きく育てる
Part3 超越瞑想を自分のものにする
 第6章 超越瞑想を体感──変化は内側から始まる
 第7章 超越瞑想が起こした奇跡──「私の物語」ボブ・ロス

 著者は本書のテーマである「超越瞑想」なる瞑想方法の教師だということ。瞑想もただ目を瞑ればいいというものではないらしい。冒頭からヒュー・ジャックマン、マイケル・J・フォックス、オプラ・ウィンフリー、グウィネス・バルトロウら著名人の感想が並ぶ。なかなか興味をそそられるところである。

 超越瞑想自体は古くからあるもののようで、著者はマハリシ・マヘーシュ・コーギーなる瞑想教師から直接指導を受けたという。超越瞑想自体は難しいものではなく、非常にシンプルでどんな人でも努力することなく体験できるのだという。瞑想も実は3つに分類されるのだという。「フォーカス・アテンション瞑想」「オープン・モニタリング瞑想」「自動的な自己超越瞑想」がそれで、超越瞑想はそのうち「自動的な自己超越瞑想」に該当するという。

 この本では、超越瞑想とはどのように働き、どんな効果があるのかがまず説明され、それを行うと心身にどんな変化・影響があるのか、そして始めるにはどうしたら良いかが続いて語られる。いわば超越瞑想のためのガイド本といったところであろう。超越瞑想を行うと心身ともにリラックスすると同時に意識は極めて鋭敏になるという。目を閉じてじっとしいるだけなので、場所はどこでもいいし、これだけの効果があるならやってみたいと思わされる。

 瞑想の真似事をやってみたことがあるが、いつの間にかいろいろと思考が巡らされてとても集中できなかった記憶がある。日本で言えば坐禅のイメージであるが、じっとしているのも大変である。どうやってそれらを克服するのだろうかと思うが、しかし超越瞑想は思考も動いても眠ってさえも良いとする。そんなのでいいのかという気もするが、マントラというある言葉や音のようなものを使うと思考を極限まで小さくでき、それが秘訣のようである。

 パーキンソン病を患うマイケル・J・フォックスの震えが止まったとか、いろいろと各著名人の効果を聞くとやってみたくなる。人それぞれに異なるマントラを授けてもらう必要があるらしく、この本を読んでも超越瞑想はできない。1日90分、4日間のコースを受講する必要があるということで、この本を読んで興味を持ったらどうぞということのようである。さらにご丁寧に日本国内の施設の案内もついているし、勧誘本としても役割もあるようである。

 本を読んでも実践できないのはしかないが、本物の「瞑想」そのものをいつか体験してみたいと思わせてくれる一冊である・・・

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2019年07月05日

【PIXAR 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話】ローレンス・レビー 読書日記1046



原題:TO PIXAR AND BEYOND My Unlikely Journey With STEVE JOBS To Make Entertainment History
《目次》
第I部 夢の始まり
 第1章 運命を変えた1本の電話
 第2章 事業にならないけれど魔法のような才能
 第3章 ピクサー派、スティーブ・ジョブズ派
 第4章 ディズニーとの契約は悲惨だった
 第5章 芸術的なことをコンピューターにやらせる
 第6章 エンターテイメント企業のビジネスモデル
 第7章 ピクサーの文化を守る
第II部 熱狂的な成功
 第8章 『トイ・ストーリー』の高すぎる目標
 第9章 いつ株式を公開するか
 第10章 ピクサーの夢のようなビジョンとリスク
 第11章 投資銀行の絶対王者
 第12章 映画がヒットするかというリスク
 第13章 「クリエイティブだとしか言いようがありません」
 第14章 すばらしいストーリーと新たなテクノロジー
 第15章 ディズニー以外、できなかったこと
 第16章 おもちゃに命が宿った
 第17章 スティーブ・ジョブズ返り咲き
第III部 高く飛びすぎた
 第18章 一発屋にならないために
 第19章 ディズニーとの再交渉は今しかない
 第20章 ピクサーをブランドにしなければならない
 第21章 対等な契約
 第22章 社員にスポットライトを
 第23章 ピクサーからアップルへ
 第24章 ディズニーにゆだねる
第IV部 新世界へ
 第25章 企業戦士から哲学者へ
 第26章 スローダウンするとき
 第27章 ピクサーの「中道」
終章 大きな変化

 著者はピクサー・アニメーション・スタジオの元CFO。これはピクサーが生き残りをかけて「トイ・ストーリー」の製作に乗り出した頃からディズニーに買収されるまで、著者がピクサーで過ごした10年あまりの物語である。

 著者は元々シリコンバレーの株式公開企業でCFOという誰もが羨む地位にあったが、ステイーブ・ジョブズから直接電話をもらい、ピクサーに転職する。元々転職を考えていたらしいが、「合理的に考えれば断る一手」だったという。今でこそ夢のような話であるが、当時のスティーブ・ジョブズは悪名高く、アップル、NEXTと失敗続きであり、普通の人ならまず断るのだろう。それでもまだ少ししか出来上がっていなかったコンピューターアニメーションの「トイ・ストーリー」を初めて見せられ「切り捨てるには惜しいだけの魅力がある」と逡巡する。

 最終的には奥さんに背中を押されたこともあって転職する。こういう人生の転機に「合理的」だけではなく、それ以外の判断基準で思い切った決断をするというのも勇気の見本かもしれない。とは言え、入ると難問続出。スティーブ・ジョブズの社内での評判は悪く、著者も「スティーブ派」と見られて苦労する。ディズニーには契約でがんじがらめにされ、すでに大金を投入しているスティーブ・ジョブズからは株式公開を命じられる。

 人生にも仕事にも苦難はつきもの。「配られた手札を嘆いても始まらない」という著者のスタンスは見習いたい。「駒がどう配置されているのか、それを変える術はない。大事なのは次の一手をどう指すか」という考え方も然りである。それにしても、コンピューターアニメーションの技術的な難しさに加え、エンターテイメント専業会社としてのビジネスモデルの困難、スティーブ・ジョブズからの株式公開圧力、契約で義務付けられた「トイ・ストーリー」の公開日までのタイムリミットと難問山積の状況は、当事者としては大変だっただろうと思わされる。

 そんな状況にありながら、「割れ目の向こうまで飛べると思ったから飛ぶのではなく、状況に背中を押されて飛ばざるを得なくなるということもある」「とにかく動かなければ始まらない」と著者は1つ1つ解決に向けて動いていく。こういう考え方は参考にしたいところである。多くの人が、山積する課題を前にして立ちすくんでしまうのではないだろうか。そしてようやく映画が完成し、家族で観に行く。エンドクレジットには製作期間中に生まれたベビーの名前が載るが、著者の次女の名前もあって、奥様はひとしお感動する。もちろん、子供達は大喜び。これが事業の醍醐味かもしれない。

 株式公開に向けての動きも紆余曲折を経て、公開に向かう。公開希望価格は12ドルから14ドルと見積もられるが、スティーブ・ジョブズの考えが気になる。公開された「トイ・ストーリー」の行方を占う最初の週末の興行成績。結果がどうなるのか、読んでいてハラハラドキドキしてしまう。そして「トイ・ストーリー」は1995年11月25日には公開され、その年最大のヒットとなり、ピクサーの株価も公開初日の終値が39ドルになり、株主のスティーブ・ジョブズは一夜にしてビリオネアになり、ビジネス界に返り咲きを果たす。

 映画の慣例を破ってエンドクレジットに間接部門の社員全員の名前を入れることを著者はディズニーに認めさせる。しかし、その条件として役員はダメとなり、ピクサーでは著者の名前だけが載らなくなってしまう。一抹の寂しさを感じながらみんなの幸せを喜ぶ姿はちょっと感動的でもある。物語としても面白く、ビジネスに果敢にチャレンジする1人のビジネスマンのスタンスとしても参考になる。この手の本はいつも得るものが大きい。

 原題のサブタイトルにもあるが、著者はスティーブ・ジョブズと二人三脚で仕事を進める。『スティーブ・ジョブズ1』と合わせて読むと面白いと思う。読みながら、著者と一緒に波乱に富んだビジネスの醍醐味を仮想体験できると言える。ビジネスマンなら一読の価値ある一冊である・・・


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