2019年11月05日

【異端者たちが時代をつくる−諦めばかりの現代社会を変えた6つの勇気の物語−】松井 清人 読書日記1090



《目次》
プロローグ 地下鉄の惨劇
第1章 「オウムの狂気」に挑んだ六年
第2章 「がん治療革命」の先導者
第3章 「パイオニア」の意地と誇り
第4章 「宗教マフィア」への宣戦布告
第5章 「実名報道」陰の立役者
第6章 「少年A」の両親との二十二年
エピローグ 神戸の点と線

 サブタイトルを含め、興味を惹かれたのは、何より時代を切り開くパイオニアに対する畏敬の念があるからである。どんな異端者が採り上げられているのかと思ったが、6人のうち4人がジャーナリスト。著者が元文藝春秋社社長で、週刊文春の編集長も歴任したと言う経歴では仕方ないのかもしれないが、なんとなく最初のイメージとは異なるものである。

 最初に採り上げられるのは、ジャーナリストの江川紹子。その名を聞けばすぐに「オウム真理教」が脳裏に浮かぶ。執念を持ってオウムを追いかけた人であることはよく知っている。そのすべては坂本弁護士一家殺害事件から始まったと言う。坂本事件を執念で追いかける。一方、世間ではまだその実態を知らず、テレビ局やタレントは麻原彰晃らをもてはやし、一部の宗教学者らは麻原を宗教的に優れていると評価していた。実は江川紹子氏自身、オウムに毒ガスのホスゲンを郵便受けから部屋に撒かれたりもしたと言う。知られざる事実が興味深い。

 2人目は慶應病院のがん専門医の近藤誠医師。アメリカに留学し、乳がんの乳房温存療法を世に知らしめたのだという。それまでは切除が当たり前であったが、近藤医師の尽力により、温存療法を選ぶ患者は全国で6割を超えるまでになったという。乳がんは切るものという常識で生きていた医者仲間からは反発を受け、慶應大学病院では出世街道からも外れてしまったらしい。癌で亡くなった逸見政孝さんの手術に対しては、執刀した「神の手」と呼ばれる名医を向こうに回し、堂々と異議を述べている。つくづく、医者は選ばないといけないと思わされる。

 3人目は野茂英雄。今やメジヤーリーグの開拓者の第一人者である。冒頭で江夏との「テレビ電話」対談が紹介されているが、興味深いのはこのやり取りぐらい。野茂のことはもうあちこちで語られているから今更感がある。4人目は有田芳夫というジャーナリスト。はっきり言って知る由もない。著名人の合同結婚式で騒がれた統一教会の問題。桜田淳子も参加を表明したという記憶がある。最も、この本で中心となるのは、作家でタレントの飯星景子。その脱会までを追う。

 5人目は花田紀凱編集長。鬼畜の所業と言うしかない「女子高生コンクリート詰め殺人事件」の少年犯罪。これは今も記憶に新しい。少年法が立ちふさがる中、花田編集長は実名報道の断を下す。当時はまだ少年法の高い壁が存在し、マスコミは実名報道を控えていた。この英断は当然だと思うが、影で少年4人の名前を特定した記者の活躍もあったらしい。実名報道は成し遂げたが、それでも実刑は軽く、中心となった4人が逮捕されるものの、のちに出所し、あろうことか3人は再び犯罪を犯したという。凶悪犯には更生など無理だという証拠だろう。

 最後は、「少年A」で有名な酒鬼薔薇事件。森下香枝記者が、少年Aの両親に寄り添い、両親に手記を書かせる。それは被害者への賠償金支払いのためであったそうであるが、事件の後、世間の知られざるところでどんなことがあったのか。その水面下のストーリーが面白い。今や出所し、さらには『絶歌』という告白本まで出版した元少年Aの波紋も紹介される。こういう世間には知られていない話は単純に興味深い。

 一読して思うのは、面白いとは思うが、本のテーマと内容がマッチしていないということ。6つの勇気の物語とあるが、近藤医師と野茂以外は身内ネタの感があり、違和感がある。それぞれの人物のその時の心情に迫るとか、どういう考え方を持っていたのかが語られるのであればまだしも、外から見た姿の紹介のみで、外側をなぞっているだけである。どうせなら改めて本人にインタビューしたらよかったのにと思わずにはいられない。

 繰り返すが、水面下の話はそれはそれで面白い。ただ看板を掛け違っただけと言える一冊である・・・






posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | 日本/日本人 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする