2020年01月15日

【邂逅の森】熊谷達也 読書日記1112



第1章 寒マタギ
第2章 穴グマ猟
第3章 春山猟
第4章 友子同盟
第5章 渡り鉱夫
第6章 大雪崩
第7章 余所者
第8章 頭領
第9章 帰郷
第10章 山の神

 本書は、平成16年度、第131回直木賞受賞作品。直木賞というだけでは別に読もうとも思わないし、マタギが主人公の話と聞くとなんとなく敬遠したくなる。しかし、「直木賞、山本周五郎賞を史上初めてダブル受賞した作品」と聞くと、なんとなくこれは読まないといけないと思わされるものがある。そうして読むことによって「読まず嫌い」がなくなるとも思う。そういう経緯から手にした一冊。

 物語は、大正三年の冬の山形県の山中から始まる。主人公の松橋富治は、数えで25歳の若者。鈴木善次郎が頭領を務める狩猟組、善之助組に身を置くマタギである。マタギのことはよく知らない。単独で獲物を追うイメージであったが、ここでは善之助組がチームで猟をする様子が描かれる。獲物はアオシシと呼ばれるニホンカモシカ。声をあげて追い立てる役目と、追われてきた獲物を仕留める役目。それぞれ頭領の下、団結しての狩猟の様子はそれだけで興味深い。

 初マタギの富治は、先輩マタギによる手荒い儀式を経て、経験を積んでいく。仕留めた獲物を解体して売る。貧しい村のそれが貴重な収入源。夏は小作農、冬はマタギ。獲れる獲物はなんでも取る。その獲物は熊にも及び、特にその胆(い)=胆嚢が高く売れる。マタギにもルールがあり、山の神様の怒りを買わないようにいろいろな決まり事がある。小説も面白いが、そういうマタギの生活ぶりも興味深い。

 一方、里にはアメ流しと呼ばれる川漁がある。嫁探しの場とも言われていて、そこで富治は文枝という地主の娘に一目惚れする。夜這いの習慣がある地域。富治は友人の忠助の助けを借りて文枝に夜這いに行く。そしてこれがまんまと成功する。実は、文枝は周囲に夜這いの事を聞いていたが、地主の父親に遠慮してみんなが手をこまねいて見送る中、富治が無鉄砲にも夜這いをかけたのである。これが逆に声を掛けられなくて自信を喪失していた文枝の心を掴む。いつの時代も高嶺の花は勇気を持って取りに行くべきなのだろう。

 しかし、やがて文枝が妊娠したことから、父親である長兵衛の怒りを買う。富治は小作の家であり、富治は村を追われて鉱夫として鉱山へ送られる。好きなマタギの道を断たれた富治。しかし、富治の人生はここから様々に動いていく。断ち切れぬ山と狩猟への想い。様々な人との出会い。縁と縁とによって富治はやがてイクという女と所帯を持つことになる。これも普通の男ならちょっと腰が引けてしまうもの。

 そんな富治の人生を追う物語。背景には大正から昭和初期の貧しい時代がある。雪深い山中に獲物を追うマタギの様子は、それだけで興味深い。何よりチームで行動するマタギの狩猟の様子はこれまでイメージしていたものとはまるで違う。山の神を恐れ、山に入る前には女断ちする。まだ恐れを知る時代の良き日本人の姿がある。富治の波乱の人生を深く味わうも良し、マタギの風習に触れるも良し。かつてあった時代の息吹に心地良さを感じる。

 まるほど、タブル受賞も納得の一作である・・・


posted by HH at 00:00| 東京 ☁| Comment(0) | 小説(長編ドラマ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする