2020年02月29日

【「おもろい」働き方で社員も会社も急上昇するPeachのやりくり】井上慎一 読書日記1127



《目次》
第1章 みんなから「それいい!」と思われる発想のやりくり
第2章 仕事の効率がぐーんとアップする習慣のやりくり
第3章 相手を自分のファンにさせるサービスのやりくり
第4章 自分も仲間も活躍できる働き方のやりくり
第5章 これだけは絶対に譲れない信頼のやりくり
第6章 社員も会社も羽ばたかせるリーダーのやりくり

 著者はLLCの代表格Peach Aviation(株)の代表取締役CEO。そんな著者が、実例を挙げながらピーチの経営について語った一冊。

 LLCは日本では格安航空会社と訳されているが、正確に言えば「低コスト航空会社」だと言う。Low Cost Carrierであるから、「格安」よりは「低コスト」の方がより正確な訳であることは間違いないが、ここで著者がわざわざ説明するところにその真意が現れている。基本的には、「仕組み、やり方を変え、生産性を上げて低コストで運営することで結果的に低運賃を実現する」航空会社としている。

 低コストで生産性を上げることについて、ネガティブ思考で始めるのではなく、どうせやるなら「これおもろい」と明るくポジティブに楽しみながらやりたいとする。このスタンスは全編で説明され、他にはないことにつながっている。機内食に神戸牛が出たり、チェックイン機はダンボール製だったり、会議室はもともと百貨店の授乳室だったところを案内板そのままに使ったりとユニークな取り組みが紹介される。

 大切にし、共有している言葉が「やりくり」。お金をかけずにいかに面白く楽しくできるか。ただケチケチするより社員のモチベーションは上がるかもしれない。「働き方を変えたい、自分がおもろいと思えるような仕事をしたい、アイデアで勝負したい、企画で人々を驚かせ喜ばせたい、自分の仕掛けで会社の雰囲気やまわりの社員の士気を高めたい」。こんな雰囲気の職場なら働き甲斐もあるだろう。

 企画は「やってみたらおもろいんちゃう」をベースにアイデアを出すと言う。その際、大事なのは「他の会社でやっていないこと」と言うが、これは大事なことだと思う。また、「コストをかけない」のは企画を出す手段だとする。だからこそアイデアが問われるわけである。「企画は100のうち1つ成功すればいい」と言うが、企画とはそんなものだと思う。

 おもろいことをコストをかけずに考えるのも良いが、絶対に優先すべきことにはコストをかけると言う。それが「安全」と「ブランド」。車の両輪と言えるものである。こうした考え方をはじめとして、随所に共感できることが書かれている。
 1. 資料や書類での体裁は二の次
 2. 切り崩してお客を得るのではなく、潜在需要を掘り起こして得る
 3. 仕事は厳しく面白く
 4. 仕事の失敗はラグビーで受けるタックルのようなもの
 5. 会社は社員のバリューを高める場
 6. 自分のバリューを提供するのは「会社」ではなく「社会」

 LCCとはどうしても日航や全日空らに対峙して行かなければならない。同じことをやるわけにもいかず、創意工夫が必要になる。野村監督が語っていた「弱者の戦略」だろうか。ピーチが目指すのは「空飛ぶ電車」と言うコンセプトもわかりやすい。弱者である世の中小企業には参考になる考え方がいろいろと出てくる。中小企業の経営者には参考になる一冊である・・・




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2020年02月28日

【夏の騎士】百田尚樹 読書日記1126



 いろいろなジャンルの小説を書き続ける百田尚樹。最近は歴史・嫌韓系に走っていたが、久々に本業回帰の一冊。今回の主人公は小学生である。もっとも、令和となった現在は、43歳であり、これは小学校6年生のひと夏の経験を振り返る物語である。タイトルといい、冒頭のイントロダクションから興味をそそられる。

 主人公の遠藤宏志は、その夏、仲の良かった木島陽介、高頭健太とともに騎士団を結成する。陽介は肥満体の子で生活保護家庭に育っている。健太は優秀な兄2人とは対照的な成績と吃りであり、要はクラスでも目立たない3人組である。それが騎士団を結成するに至ったのは、宏志が『アーサー王物語』を読んだからである。そして愛と忠誠を捧げるレディにクラスのマドンナ有村由布子を指名する。

 丘の雑木林に秘密基地を作るクラスでも下位層に入る3人が騎士団を結成し、しかもそれをレディとした有村由布子本人に告白する。有村由布子は帰国子女で、取り巻きも多く、3人はクラスの笑い者になる。それにもめげず、3人は最初のミッションとして、当時話題となっていた小学生の女の子が殺害された事件の犯人探しを始める。このあたりは、子どもらしいほのぼのとした展開である。

 そして自らの考えなのか、それとも取り巻きの優等生男子の入れ知恵なのか、レディの有村由布子から騎士団にミッションが与えられる。それは模擬試験を受験して県で100番以内に入れというもの。劣等生3人組には極めて高いハードルであるが、宏志は騎士らしくこれを受ける。果敢に挑戦といえば聞こえはいいが、普段勉強していない3人が急に勉強できるわけがない。ところがそこに意外な救世主が現れる・・・

 所詮は小学生の話なのであるが、それなりに事件は起こり、挑戦があって友情がある。騎士団のひと夏の経験は、小さな感動も含まれている。おとこおんなの壬生や妖怪ババア。みんな外見からはわからないものがある。そんな騎士団の経験がいつの間にか心に暖かい風を送ってくれる。こんな経験ができたなら小学生時代の思い出はさぞかし深いものになるだろう。だからこそ、43歳の主人公が振り返ったのだと思う。

 やっぱり百田尚樹の小説にはハズレがない。政治の話もいいけれど、小説ももっと書いていただきたいと改めて思わされた一冊である・・・




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2020年02月27日

【本業転換 既存事業に縛られた会社に未来はあるかBUSINESS SHIFT:How“ex‐Giants”Exited from Declining Market】山田英夫/手嶋友希 読書日記1125



《目次》
第1章 転換して生き残る企業、転換せずに終わる企業
第2章 “本業転換”のストーリー――事例研究
第3章 本業転換のポイント

 やっぱり働いている以上、他社の動向は気になるというもの。うまくいっているところに対しては羨ましく思うし、そうでないところに対しては優越感を感じる。しかし、何よりも大事なのは自社であり、先の見えない将来を生き抜くためには、成功事例は当然として失敗事例をも参考にしたいところ。そんなところにこんなタイトルの本を目にすれば、手に取らないではいられないというものである。

 本書の狙いは、本業が衰退しても生き残る会社の共通点を探ったもの。同じ業界に位置していた競合企業のうち本業の転換に成功した企業と失敗した企業の戦略を比較することによって本業転換のポイントを導き出すことを狙っている。例としてあげられているのは、以下の4グループ。
 1. 富士フィルムvsイーストマン・コダック
 2. ブラザー工業vsシルバー精工
 3. 日清紡vsカネボウ
 4. JVC ケンウッドvs山水電気

 本業転換の第1歩を遅らせる5つの理由としてまず挙げられているものが興味深い。
1. 本業のライフサイクルがいつ衰退期を迎えるかを予測することが難しい
2. 衰退は波動をもって忍び寄る
3. 長年行って来た事業には大きな売り上げや固定客、従業員の雇用等しがらみが多い
4. 残存利益の可能性
5. 事業を評価する尺度が本業のものが利用される
後から外から評価するのは簡単だが、当事者の立場だとなかなか難しいだろうとは感じる。
 
 最初の事例は、富士フイルムホールディングスとイーストマン・コダック。もうあちこちで語られている(例えば『比較ケースから学ぶ経営戦略』)が、「本業喪失」と言える崖っぷちの状況で片方は生き残り、もう片方は倒産してしまった。その相違点は「多角化戦略の違い」と「デジタル化戦略の違い」に集約される。特にコダックもデジタル化波が来ていることは認知していたという事実が興味を引く。「衰退スピードに対する認識が甘かった」という評価はその通りなのだろうが、それだけでもないようにも思う。

 富士フィルムについては、『魂の経営』で、経営者自らが語ってくれているから、よく内情がわかる。一方、コダックの方はわからない。このあたり直接経営者の話が聞けたら面白いだろうと思う。医薬品分野への進出も両社ともに行っていたが、成否は分かれる。それは事業特性として投資の回収に長い時間がかかるというのもあったようであるが、これだけ対照的だと経営力の違いが際立つ。

 その他の企業の事例もそれなりに興味深いが、ともに共通しているのはやはり「新たな収益源」を確保できたか否かという点。日清紡などは長年培った技術が関連する事業への多角化を行っているが、市場と技術の双方で関連のない事業への多角化は難しいと結論づけている。それは確かにそうなのだろうと思う。さらに著者は「転換の必要のない時に本業転換の準備をすべし」としているが、これはさすがに疑問に思う。本業で生きていけるのならそれが一番のはずだからである。

 「本業喪失」とタイトルにあるからには、そうしたこじつけ的な考え方に結論づけたいのかもしれないが、参考にはならない。そうしたところは別として、いざという時には頭の片隅に置いておきたい考え方であるとは思う。それなりに参考にしたい一冊である・・・



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2020年02月25日

【まち】小野寺史宜 読書日記1124



 同じ作家の本を読み続けるというのもいいが、それだと幅が広がらない。たまには知らない作家の本に手を出してみるのもいいだろうと思って手にした一冊。

 主人公の江藤瞬一は、群馬県の片品村で祖父と2人で暮らしていたが、高校卒業を機に東京に出てきて今はアルバイトをして一人暮らしをしている。両親は瞬一が小学生の時に火事で亡くなっている。それが原因で今でも火が怖く、両親の死に責任を感じている。祖父は歩荷(ぼっか)という荷運びの仕事をしていたが、今はもう引退している。瞬一に東京へ行けと背中を押したのはこの祖父である。

 東京に出てきた瞬一は、江戸川区のアパートに住むことにする。初めはコンビニで働き、今は187センチという体格を生かしてか、引越しのアルバイトに転じている。そんな瞬一の姿を物語は追う。アパートの向かいの部屋にはシングルマザーの母娘が住む。虫が苦手で、ゴキブリが出ると瞬一に助けを求めてくる。一階には高齢の得三さんがいて、アルバイト先ではちょっと変わった友人野崎万勇がいる。

 体はデカイが瞬一は朴訥とした人柄。それゆえどこに行っても敵を作らない。辞めたコンビニで今も働くパートの主婦にも行けば歓迎される。得三さんには弟が社長をしている会社で人を探しているからと言って、そこで働かないかと誘われる。シングルマザーの敦美さんにはおかずのおすそ分けをもらう。その娘の男の人が苦手な彩美ちゃんにも慕われる。ケンカは苦手のようだが、それもまた良しである。

 そんな瞬一の日常は大きな事件が起こるというわけではない。それでも敦美さんの別れたDV夫が訪ねてきたり、じいちゃんが田舎から出てきたり、バイトの高校生と仲良くなったりする。誰にもそれぞれの物語があったりする。高卒でアルバイト生活というのも考えれば問題と言えなくもない。いくら人柄が良くてももう少しなんとかしたい。東京に出てきて5年。同級生も大学を卒業して就職している。普通、この立場は問題だ。

 けれど瞬一はそんな懸念を感じたのか、きちんと自分の生きる道を見出して行く。それはとても清々しい。初めて読む著者の文章も朴訥としている。

 「川どうだった?」と敦美さんが尋ね、
 「流れてた」と彩美ちゃんが答える。
 いい答えだな、と思う。

読む者の気持ちを柔らかくしてくれる文章である。著者には本屋大賞第2位になった著作(『ひと』)があるようである。今度はそちらを読んでみようかという気にさせられた一冊である・・・



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2020年02月20日

【麴町中学校の型破り校長 非常識な教え−生きる力を育む!−】工藤 勇一 読書日記1123



《目次》
第1章 勉強の「正解」を疑う
第2章「心の教育」を疑う
第3章 「協調性・みんな仲良く」を疑う
第4章「子どものために」を疑う

 著者は、麹町中学校の校長先生。すでに『学校の「当たり前」をやめた。−生徒も教師も変わる!公立名門中学校長の改革−』を読んでいるが、まだまだ引き出しの中に入っていそうな気がして手にした一冊。

 麹町中学校の最上位目標は、「自律した子どもを育てること」だという。個人的に我が子に求めるものは昔から「自律」であり、ここは深く共鳴する。「自律」とは「人のせいにしないこと」。これは中学生にもわかりやすい言葉である。学習習慣とは「必要に応じて主体的に勉強できる子供になってもらうこと」。こういう考え方も共感できるところである。

 ゲームをする、漫画を描く、筋トレに励む、ボーッとする、これらは大人からは非生産的に見えても子供にとって何者にも変えがたい「特別な時間」だという。それらはすべて主体的に取り組む時間だからだという。「この子が大人になった時、どんな姿で生きているだろうか」という逆算から考えた教育をすればいい」という考え方には気付かされるものがある。

 「学びとはカリキュラムをこなすことではない」。「自分にとって必要な知識は自分で選んで学ぶ」。確かにその通り。ただ、中学生にそれが可能かとは思う。麹町中学校ではそれを教えているのだろうか。「叱る基準、しつけの優先順位を決めていれば叱る頻度が減り大人も子供も不要なストレスを抱えなくて済む」。「これは何を目的として子供を叱ろうとしているのか」と冷静に考えてみることが大事。これは我が家の妻の耳をかっぽじって聞かせたい。

 出る杭だらけの社会における身の振り方を教える方法としては、
 1. 人はみな違うと理解してもらう
 2. 感情をコントロールする重要性を教える
 3. 対立があった時の合意形成のはかり方を学ぶ
ということ。これは大人でも難しいかもしれない。

 親の影響力は大きい。順位や勝ち負けについて親がしきりに褒めていると、「自分の価値は人との比較で決まる」と思い込む大人に育つ。「挑戦しよう!」では子どもは動かない。「心的安全状態」を作ってあげることが大事だとする。「子供の自由意思を尊重して否定をしない環境を用意してあげる」。「夢はかなうとは限らないけど、夢に向かって走り出した人にしかチャンスはやってこない」。「後ろで支えて徹底的に待つ」。「親が子供に何かを強制させてうまくいくことはあまりない」。一々その通りだと思う。

 子供の教育に関する考え方が近いので非常にストレートに言葉が心に入ってくる。教育者として、ただ「カリキュラムをこなしている」先生とは違うと感じられる。こういう先生に子どもを教えて欲しかったと心から思える一冊である・・・






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2020年02月19日

【ジョン・ハンケ世界をめぐる冒険 グーグルアースからイングレス、そしてポケモンGOへ】ジョン・ハンケ 読書日記1122



原題:Adventures on Foot:Google Earth,Ingress,Pokemon Go
《目次》
コンピュータとの出会い
グーグルアースを生み出した場所
ナイアンティックの誕生
イングレス前夜
サンフランシスコの戦い
イングレス
日本
ポケモンGO
自分を燃やしつくせ

 著者のことはまったく知らなかったが、日本ではポケモンGOを開発した人物というのならわかりやすい。そのほかにも「イングレス」というゲームにも携わっているらしいが、ゲームをやらない身としてはよくわからない。そんな人物の半生記ともいうべき一冊である。

 著者はもともと養子であり、テキサスの田舎で育つ。「スター・ウォーズ」に衝撃を受けたというごく普通の少年で、物語を作り、絵を描くことが好きでゲームで遊ぶことも好きだったという。のちの経歴はこうした少年時代の延長にあったりするものなのかもしれない。高校1年の時に自分でお金を貯めてパソコンを買ったという。本当はApple IIが欲しかったが、高くて買えなかったというところが面白い。

 一旦政府に就職するも、やめてMBAを取り直す。そして高額の報酬を求めるか将来どうなるかわからないゲーム会社で働くかで迷う。ここで著者は後者を選択する。「チャンスが回ってきた時にはたとえ困難なハードルが見えていたとしても挑むようにしてきた」というスタンスは、見習いたいところである。

 やがて911後の景気減退の中、困難にあり著者はマネージャーとしての自分の能力の限界に当たる。自分の弱点をきちんと認識できるというのも大事である。そしてバスケットボールのコーチから「目に見えない指導者」という考え方を学ぶ。つまり、経営者は自分がスターにならずとも、スターを育てればいいということである。著者の名前を聞かなかったのも、そんな裏方に徹したスタンスかもしれない。

 やがてGoogleに買収されその一員となる。グーグルアースの開発に携わったことが、イングレス、ポケモンGOへと繋がるのだろう。自ずとそこには1つの糸が見えている。当然ながら1人でできるものではない。それは著者も十分認識し、そして周りを巻き込んでイングレスというゲームの開発を進めていく。何かを成し遂げる時、スーパーマンになる必要はないということなのだろう。

 世の中にはカリスマ経営者というのがたくさんいる。そんな人物には普通の人は到底なれない。だが、著者のようなリーダーなら十分なれる可能性はある。もちろん、著者も能力が高いことは間違いないが、「手を伸ばせば触れる」という感覚はある。そんなリーダーを目指してみるのもいいかもしれない。短いのでサラッと読める一冊である・・・





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2020年02月18日

【ホーキング、宇宙を語る−ビッグバンからブラックホールまで−】スティーヴン・W・ホーキング 読書日記1121



原題:A BRIEF HISTORY OF TIME
《目次》
1 私たちの宇宙像
2 空間と時間
3 膨張する宇宙
4 不確定性原理
5 素粒子と自然界の力
6 ブラックホール
7 ブラックホールはそれほど黒くない
8 宇宙の起源と運命
9 時間の矢
10 物理学の統合
11 結論―人間の理性の勝利

 著者はあまりにも有名な「車椅子の天才」と呼ばれたイギリスの物理学者。この本も有名であるが、出版されたのは30年前。「今さら」感は否めないのであるが、最近映画(『博士と彼女のセオリー』)を観たりしたこともあって、読んでおこうと思った次第。

 今でこそ宇宙はビッグバンによって始まったと誰もが知っているが、かつてそれは形而上学あるいは神学の領域であった。それがハップルが「膨張する宇宙」という事実を発見したことにより科学の領域に入ってくる。ホーキングはそんな歴史を踏まえながら宇宙の説明をしていくが、頻繁に登場するのが「一般相対性理論」。それだけでアインシュタインの偉大さが改めてわかる。そして量子理論。対照的なものであり少し意外な気もする。

 ホーキングはこの相対性理論と量子理論は互いに矛盾するとしながらも、宇宙の記述にはこの2つの理論を用いざるを得ないとする。将来的にはこの2つを取り込んだ新しい1つの理論(統一理論)ができることを期待している。そして本書の重要な主題は重力の量子理論の探究だとする。当たり前かもしれないが、読んでもよく理解できない言葉が頻繁に出てくる。それでも興味は尽きないのであるが・・・

 「E=mc2」という公式はアインシュタインによって発表されていて、私もよく知っている。ただここから導き出される考え方は、私を遠いところへと導いてくれる。この式は物体は光速には到達できないことを意味するのだという。光速(c)に近づくにつれ質量(m)は急激に増大することになり、それは決してあり得ないので固有の質量を持たない光だけが光速に達することができると説明する。よく理解できないが、ワープは無理なのかもしれない。

 特に簡単そうなのに難しいのが空間と時間に関する話。「宇宙の中で起こるすべてのことに影響するという観念を持たずに宇宙の出来事について語ることができない」とするが、それと同じくらい一般相対性理論では宇宙の限界の外にある空間と時間について語るのは無意味だとする。膨張する宇宙の果てはどんな様子なのか、ビッグバン以前の時間の観念はどうなるのか、読むにつれてわからなくなる。

 話は陽子にも及ぶ。陽子が自発的に崩壊して反電子のような軽い粒子になるという予測が紹介され、さらに陽子の寿命は1億×1億×1億×1000万年以上だという。なんでそんなことがわかるのかと思うが、説明を聞いても多分理解できないだろうと思う。ミクロの世界と膨大な宇宙の話が交差する。この辺りが相対性理論と量子理論の世界であるが、理解できなくとも話は面白い。

 博士はブラックホールでも有名であるが、この説明もブラックホールの認識を改めさせてくれる。つまり、光が粒子でできているという仮説に立つと、光も重力の影響を受けるという。そうなると砲弾やロケットや惑星などと同じ具合に強い重力場があると光は脱出できなくなるのだという。それが「ブラック」ホールの正体で、したがって穴(ホール)があるわけではなく、中心には寿命に近づいた星があるのである。ブラックホールが実は白っぽいというのも意外である。

 ホーキング自身も語っているが、宇宙の姿については「観測上の証拠」に欠けているわけで、それを考えていくというのは実にすごいことである。それと同時に自分の頭上に広がる膨大な宇宙の姿に改めて畏敬の念が湧いてくる。宇宙の広さと人間の想像力と果たしてどちらが広いのだろうか。子どもの頃、宇宙に興味を持っていたことを改めて思い出す。その興味を再び刺激してくれた一冊である・・・



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2020年02月15日

【危険な弁護士】ジョン グリシャム 読書日記1120



原題:Rogue Lawyer
第一部 侮辱
第二部 ずどん・ずどん部屋
第三部 兵隊気取りの警官たち
第四部 取引
第五部 ユーホール法
第六部 有罪答弁取引

 ジョン・グリシャムといえば、法廷モノが得意な作家というイメージがある。『評決のとき』や『ザ・ファーム 法律事務所』、『ペリカン文書』といった映画化された初期の作品が記憶に残っている。最近は読んでいなかったが、久々に手にした一冊はやっぱり法廷モノである。

 原題は「悪党、ゴロツキ」といった意味らしいが、邦題は随分マイルドになっている。そんなタイトルからもわかるように、主人公の弁護士セバスチャン・ラッドは、極悪の犯罪者などの弁護を引き受ける「下位分類」に位置する弁護士である。そんな仕事ぶりからか、狙われることも多く、事務所を構えるのも危険でバンが事務所がわり、銃を携行し、危険を避けるため安モーテルに泊まり続けるのもしばしばという有様である。

 そんなラッドの活動を物語は描いていく。最初の事件は2人の少女を殺したとされるガーディーという男の弁護。漆黒に染めた髪、首から上にはピアスのコレクション、それに見合うスチールのイヤリング、首から下はタトゥーのコレクション。「誰もが一目で有罪だと断言するような出で立ち」である。もっとも他の罪はともかく、ガーディーは少女殺しは否定している。町中がガーディーとその弁護士であるラッドを敵視する中、ラッドは裁判を行う。

 ラッドには別れた妻と、間違ってできてしまった息子がいる。パートナーは弁護士補助人兼運転手兼ボディーガード。事件の合間合間に元妻や息子スターチャーのこと、それからスターチャーの美人の担任との関係が描かれる。弁護士稼業のかたわらで総合格闘技の選手のサポートもしているが、せっかく支援していた選手タディオが、あろうことか判定に腹を立てて審判を殴り殺してしまうという事件を起こす。

 下位分類の弁護士といっても、悪人と手を組んで悪事を働くというのではない。弁護の対象が裕福な企業などではなく、クズのような犯罪者というだけで、本人はきちんと弁護士の仕事をしていく。もっともどんな悪人であろうと、裁判を受ける権利は保証されているのが現代社会。法治主義国家である以上、ラッドのような弁護士は必要である。ただし、憎まれ役にはなってしまうため、検察や警官に敵が多いのも事実。

 そして事件は次々と起こる。警察の副署長の娘が行方不明となり、ラッドは「行方を知っている」という男アーチ・スワンガーから依頼を受ける。また、薬物取引の容疑者と間違われた老夫婦が深夜にSWATの襲撃を受け、妻が射殺されるという事件が起きる。それぞれの事件の弁護活動に走るラッドだが、その方法は必ずしも正攻法ばかりではない。アメリカ独特の司法制度を使いながらの弁護は単純に面白い。

 久々のジョン・グリシャムだったが、その法廷の世界は健在。アウトロー的な主人公にスポットライトを当てた物語は映画化されても面白いかもしれないと思う。まだ読んでいない他の作品も読んでみようかなと思わせてくれる一冊である・・・
  




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2020年02月06日

【世界「倒産」図鑑−波乱万丈25社でわかる失敗の理由−】荒木 博行 読書日記1119



《目次》
戦略上の問題編
「過去の亡霊」型
Case01 そごう 「勝利の方程式」が逆回転して倒産
Case02 ポラロイド 「分析体質」が行き過ぎて倒産
Case03 MGローバー 非効率体質を改善できずに倒産
Case04 ゼネラルモーターズ 政府頼みの末に倒産
Case05 ブロックバスター 重要なタイミングを逃して倒産
Case06 コダック 希望的観測を抑え込めず倒産
Case07 トイザラス 新規事業の入り方を間違えて倒産
Case08 ウェスチングハウス 技術を過信して倒産
「脆弱シナリオ」型
Case09 鈴木商店 事業意欲が先行し過ぎて倒産
Case10 ベアリングス銀行 不正取引にとどめを刺されて倒産
Case11 エンロン 「不正のトライアングル」に陥り倒産
Case12 ワールドコム 自転車操業の果てに倒産
Case13 三光汽船 ギャンブルに勝ち続けられず倒産
Case14 エルピーダメモリ 「業界のイス取りゲーム」に負けて倒産
マネジメントの問題編
「焦りからの逸脱」
Case15 山一證券 プロセスを軽視し過ぎて倒産
Case16 北海道拓殖銀行 焦りに追い立てられて倒産
Case17 千代田生命保険 見たいものしか見ずに倒産
Case18 リーマン・ブラザーズ リスクの正体をつかめず倒産
Case19 マイカル 風呂敷を畳み切れず倒産
「大雑把」型
Case20 NOVA 規律が効かな過ぎて倒産
Case21 林原 雑な経営管理により倒産
Case22 スカイマーク 攻め一辺倒が裏目で倒産
「機能不全」型
Case23 コンチネンタル航空 経営を単純化し過ぎて倒産
Case24 タカタ 経営者が現場を知らずに倒産
Case25 シアーズ 現場不在の経営により倒産

 かつて『失敗の本質』を読んで感じたが、学びというものは成功体験の中だけにあるのではない。失敗の中にもその原因を探ることによって学びを得られることもある。あの『ビジョナリー・カンパニー』シリーズも第3弾で失敗を扱っている(『ビジョナリー・カンパニーB〜衰退の五段階〜』)。この本は、そんな企業の失敗を集めた一冊。

 企業の倒産もその理由は様々。ここではそれを「戦略上の問題」および「マネジメントの問題」に大別。さらにそれを「過去の亡霊」「脆弱シナリオ」「焦りからの逸脱」「大雑把」「機能不全」と5つのタイプに分類して解説している。よく知っている企業の例もあってわかりやすい。まず採り上げられるのはそごう。かつて勢いのあったデパートだが、土地を担保に独立法人化によって成長。しかしその勝利の方程式も地価の下落によって逆回転。トップ以外に誰も実態がわからないという状態になってしまう。指示されないと何もできない社員。大いに感じるところがある。

 新たなテクノロジーの出現によって、一瞬にしてビジネスが崩壊してしまう。今はそんな怖さがある。ポラロイドがその例として挙げられる。イノベーションのジレンマの典型事例であるが、そこから得られた教訓は重要である。
 1. 既存事業と同じ尺度で新規事業を測る危険性
 2. 市場にない新しいビジネスはほとんど分析することはできない
 3. 新しいビジネスこそ実践を通じて学習していく姿勢を大切にする

 似たような例として、ビデオレンタルのブロックバスターが挙げられる。同社は一大店舗網を築いて成功するが、ビデオの衰退に伴って消えていく一方、店舗を持たずにDVDを郵送で貸し出すというビジネスモデルで登場したNetflixが台頭する。それがインターネットの進展に伴い、今はビデオ配信でさらに拡大、成長しているのが象徴的である。

 失敗事例の中には鈴木商店という戦前の企業もあるが、これは古すぎて参考にならない。北拓の事例は、営業部隊が必死に取ってきた案件に審査部隊がNoと言い難くなって不良債権を量産したとされるが、それは現在でもスルガ銀行の例のようにまったく変わっていない。千代田生命の例では「シングル・ループ・ラーニング」という考え方が紹介される。「見たいものを見る」今の自分の考え方を一切疑うことなく、既存の物の見方の中で考え続けることは、何にでも当てはまる。

 NOVAは前金ビジネスの失敗例。前金で安堵して贅沢に走るというのは誠に愚かしい。このくらいであれば、ちょっとまともな感覚の持ち主なら回避できる。林原の例は、『破綻−バイオ企業林原の真実』『林原家』と読んで知っているのでさらりと流す。タカタはほとんど直近の事例なので、改めての感がある。経営と現場に距離があったとのこと、やっぱりこれは大事なことなのだろう。

 最後に「戦略的」とは、「考える論点の多さ」×「考える時間軸の長さ」という考え方が紹介される。なるほどと思うが、数々の破綻事例を見てくるとなおさらそう思う。自分の会社は大丈夫だろうか。破綻事例だからこそ、参考になるところ大である。もって他山の石としたい一冊である・・・




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2020年02月03日

【逆説の世界史 3】井沢元彦 読書日記1118



《目次》
序章 多神教社会に生きる日本人―無宗教ではなく、「日本教」を信じる民族
第1章 インダス文明の滅亡とヒンドゥー教の誕生―古代インド思想における「輪廻転生」と「永遠の死」
第2章 ブッダの生涯と仏教の変容―なぜインドではなく中国と日本で発展したのか
 第1話 ブッダが追求した「完全なる死」の境地
 第2話 禅宗がもたらした日本型資本主義
 第3話 仏教はなぜ発祥の地印度では衰退したのか
第3章 オリュンポスの神々とギリシア文明の遺産―ポリス(都市国家)の連合体が確立した平和
 第1話 キリスト教に敗北したギリシア神話の世界
 第2話 民主主義のルーツとしてのポリス
 第3話 アレクサンドロス大王の偉業とマケドニア帝国の興亡
 第4話 ギリシア・ヘレニズム文明の賢者たち

著者の『逆説の日本史』シリーズは全巻読破中であるが、満を持して始まった「世界史」シリーズの第三弾。今回も宗教が前面に出てくる。それは多神教と一神教の対立関係。日本は神道でありながら、クリスマスはすでに日本の祭りとして定着し、葬式は仏教で行う。こういう例は一神教の世界ではありえない。著者はこの力を芥川龍之介の言葉を使い、「造り変える力」と紹介する。

そして今回は、インダス文明から始まる。「世界最古の看板」に刻まれた「インダス文字」は、実は現代に至るまで解読されていないのだという。そして多神教のバラモン教が生まれ、ヒンドゥー教へと発展する。しかし、実は「バラモン教」「ヒンドゥー教」という呼び名は、欧米の学者が便宜的につけたもので、本来は呼び名がないのだとか。それぞれの内容が語られ、このあたりは宗教講座と言える内容である。

やがてブッダが登場する。ブッダの目的は「解脱」=「輪廻転生」のサイクルからの脱出。「輪廻転生」はいい事のように思われるが、実はそうではないらしい。やがて仏教は「根本分裂」によって上座部仏教と大乗仏教に分裂。シルクロードを経て日本に大乗仏教が伝わるが、その進化形はそれまでの仏教者をして「これが仏教か」と言わしめるものになる。それはそうだろう、修行をして輪廻転生からの解脱を目指すものが、いつの間にか大衆の救済に変わっているのである。しかも、親鸞に至っては妻帯まで可としている。

さらに本願寺を拠点とする教団は武装戦闘集団と化す。僧兵であるが、殺傷まで認めてしまっては、流石にいかがかと思うが、屁理屈はいくらでもつけられるのはキリスト教もイスラム教も同じである。やがてキリスト教なき資本主義が日本において発展する。大阪が「値切りの文化」であるのに対し、江戸が「正札文化」である理由がなるほどである。商人は騙す悪いやつで、だから値切るのが当然であったが、それを三井の越後屋が「現金取引掛け値なし」の正直商売を初めて大成功したのだとか。東京人として値切れないのに引け目を感じることはないのだということである。

後半は西洋に移り、ギリシア文明の話となる。こちらでは多神教のギリシア神話は一神教のキリスト教に敗れてしまう。現在のインドにおいてはヒンドゥー教が中心だが、実は仏教は敗れたのではなく、「取り込まれた(ブッダはヒンドゥー教の神々の1人)」のだとか。なぜギリシア神話は敗れたのか。政治や軍事への市民参加は神聖な義務だが、生きるために畑を耕すのは卑しい行為であり、だから奴隷がそれを担ったとか。興味深い説明が続く。

アレクサンドロス大王の遠征、ソクラテス、プラトン、アリストテレスの哲学、この時代のギリシア文化はやっぱり面白い。日本神話とギリシア神話には共通点が多いという話も興味深い。パンドラの箱の神話に至っては、最後に箱の中に希望が残ったというエピソードについて、(他のが飛び出て世界に広まったのに対し)残ったのなら人類には渡らなかったのではないかと疑問符がつけられる。言われてみればその通りである。常々何となく疑問に思ってきたことが明確に語られると、思わず膝を打ってしまう。

宗教を背景とした各文明の発展。表面上の事実の羅列だけではわからない底流のようなものを感じる。この視点はやっぱり面白い。「逆説の視点」は世界史でも健在である。日本史と比べて世界史は範囲がはるかに広い。これからどんな話を読ませてくれるのか。大いに期待したい一冊である・・・


【逆説の世界史シリーズ】
『逆説の世界史』
『逆説の世界史2』



posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | 歴史 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする