2020年03月31日

【21世紀の啓蒙(上):理性、科学、ヒューマニズム、進歩】スティーブン ピンカー 読書日記1135



原題:ENLIGHTMENT NOW:THE CASE FOR REASON,SCIENCE,HUMANISM,AND PROGRESS
《目次》
第1部 啓蒙主義とは何か
 第1章 啓蒙のモットー「知る勇気をもて」
 第2章 人間を理解する鍵「エントロピー」「進化」「情報」
 第3章 西洋を二分する反啓蒙主義
第2部 進歩
 第4章 世にはびこる進歩恐怖症
 第5章 寿命は大きく延びている
 第6章 健康の改善と医学の進歩
 第7章 人口が増えても食糧事情は改善
 第8章 富が増大し貧困は減少した
 第9章 不平等は本当の問題ではない
 第10章 環境問題は解決できる問題だ
 第11章 世界はさらに平和になった
 第12章 世界はいかにして安全になったか
 第13章 テロリズムへの過剰反応
 第14章 民主化を進歩といえる理由
 第15章 偏見・差別の減少と平等の権利

 著者は、ハーバード大学の心理学教授だという。心理学の教授というイメージとこの本の内
容はマッチしないが、だからどうということではない。この本で著者は、「理性・科学・ヒューマニズム・進歩」という4つの理念からなる啓蒙主義の理念から発想を得た世界観を示すとしている。それは一言で言えば、世界はよくなってきているという考え方である。

 人間を理解する鍵は、「エントロピー」「進化」「情報」だとする。そしてこの3つの鍵で人類は呪術的世界観を葬ったとする。適切なルールがあれば必ずしも合理的とは言えない人々のコミュニティであっても合理的な思考を育むことができる。認知力と規範・制度が人間の不完全さを補うという冒頭の啓蒙主義についての考え方が興味を引く。ニュースと認知バイアスが誤った世界観を生むという考えはよく理解できる。

 世界を正しく認識するには「教えること」が大事なのだという。今生きている人が何人で、その中の何人が暴力の犠牲になっているかというようなことである。そして例示されるのは、18世紀中頃の欧米の平均寿命は35才で、これはそれ以前の225年間ずっと変わらなかったものだが、今アフリカで生まれる子供たちは1930年代の欧米人と同程度の寿命を期待できるのだとか。特に乳幼児死亡率と妊産婦死亡率が著しく低下しているという。

 なんとなく先日読んだ『FACTFULNESS 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』と似通った展開であるが、それは著者も意識しているようで、本文中でも触れられている。急激な人口増でも飢餓率は減少。それは化学肥料が農作物の生産量を飛躍的に増加させたことによる。今では批判されることも多いグローバル化だが、それによって貧しかった国を豊かにし科学技術の発展がより良い生活をより安く実現することに貢献している。

 意外なのは、20世紀以降の格差縮小の最大要因は戦争だということ。これは低いレベルでの格差縮小だと言われれば納得できる。また、「貧困」を「人が稼ぐ額」ではなく「人が消費する額」で定義すると、実はアメリカの貧困は1960年代の30%から3%へと大幅に低下しているのだとか。消費面での格差縮小の原動力は「グローバル化」と「技術の進歩」である。不平等と貧困は別物であり、不平等の解消より経済成長率を上げ富の総量を増やす方が重要である。いくつかの点で世界はより不平等になったが、より多くの点で世界の人々の暮らしは良くなっている。金持ちには心地よい意見である。

 環境についても人は豊かになるにつれ環境に関心を向けるものだという。「スモッグと引き換えでしか電気が手に入らなければ人々はスモッグと共に暮らすだろう」と言われればその通りかもしれない。人が必要としているのは資源ではなく、必要をアイデアを用いて実現することであり、よって資源を使い尽くすことはないという。確かにまだ石油も枯渇していないし、レアメタルも然りである。素人的には否定するのは難しい。さらに気候変動への啓蒙的対処法を説くがこれは如何なものかという内容である。

 脱炭素化という点で、著者はその鍵を原発に求める。その理由として、チェルノブイリ事故も直接の死者は31人であり、福島はゼロ。その後ガンで死んだとされる人も数千人であり、石炭火力発電の年間死亡者100万人とは比べるまでもないという。ただし、居住不可能地域については触れられていない。内戦による死者も事故によるものも殺人によるものも皆すべてかつてより大幅に減少しており、増えているのは薬物過剰摂取(ドラッグ)くらいだとか。世界はより安全により平和になっているというのが著者の意見である。

 『FACTFULNESS 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』と同様、データをもとに人々の意外な思い込みを否定する内容。確かにその通り。ただ、原発では不都合な部分には触れられておらず、全部なるほどというには抵抗がある。是非とも専門家による反論(あればだが)を読んでみたいと思う。上下巻とも厚い本であり、上巻だけでもかなりある。頑張って下巻も読んでみたいと思う一冊である・・・ 







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2020年03月27日

【慈雨】柚月裕子 読書日記1134



 今まで読んだことのない作家の本を読むということは、小さなチャレンジでもあり、新しい開拓でもあり、楽しみなところがある。数多くの小説が生まれ出る世の中において、それは確かに一つの楽しみである。この本は、私にとってそんな新たな作家との出会いとなる一冊。

 主人公は定年退職した警察官、神馬智則。この本は基本的に刑事ドラマであるが、主人公が現役ではなく定年退職した警察官というのが面白い。冒頭、もう何度も見た夢を神馬は見ている。行方不明になった少女を草深い山中で捜索する夢である。これがこの物語の根底に流れる事件。その事件自体は16年前であり、犯人も逮捕されている。いわば解決済みの事件が、この物語では大きな意味を持つ。

 定年退職した神馬は、妻香代子とともに四国にお遍路の旅にきている。その目的は自分が関わった事件の被害者の供養。なぜという疑問がわくが、その理由はやがてわかってくる。前半は、神馬の警察官人生を振り返りつつ、大きな契機となった金内純子ちゃん殺害事件の概要が説明される。神馬が今も夢に見る事件である。合間合間に語られるお遍路の様子は、知らない者にはいいガイダンスである。

 神馬夫妻には一人娘の幸知がいる。その幸知は、実はかつての神馬の部下である緒方圭祐と付き合っている。その事実を知る神馬は2人の交際に賛成できないでいる。その理由は、世間でよくある父親心理だけでなく、「刑事の妻にさせる」という事実に対する抵抗でもある。それも冒頭の事件に関連している。そんなエピソードを交えながらの物語。そして一件の殺人事件が起こる。被害者はまだ小学生の少女。その手口は、16年前の金内純子ちゃん殺害事件と酷似している。

 神馬は引退した身。しかし、新たに発生した事件が気になる。妻の香代子に隠れて密かに緒方に連絡を取ると、事件の概要を聞く。厳密に言えば、現役を引退した以上、こうした行為は許されないのだろうが、そこはかつての上司と部下。現在の上司鷲尾の了解の下、捜査のアドバイスをもらうという形で、以後2人は連絡を取り合うことになる。こうして2つの事件を巡り、ストーリーは進んでいく。

 こうした小説はストーリーを一直線に追って行っても面白いものではない。主人公をはじめ、登場人物たちを巧妙に描き出すことによってストーリーに深みが出てくる。この物語もそうした描写によって登場人物たちの考えがより分かりやすく伝わってくる。手がかりが掴めない事件。しかし、神馬の気づきが事件の突破口となる。読み進むうちに深みのある人間ドラマが胸を打つ。単に事件を解決して終わりという刑事ドラマというよりも、これは深い味わいのある人間ドラマといった方が正確だろう。

 読み終えて著者の他の作品にも興味を持った。他の作品もぜひ読んでみたい。そう思わせてくれる、胸が熱くなる一冊である・・・

 


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2020年03月18日

【丸亀製麵はなぜNo.1になれたのか?−非効率の極め方と正しいムダのなくし方−】小野 正誉 読書日記1133



《目次》
序章 丸亀製麺はなぜナンバー1ブランドになれたのか?
第1章 丸亀製麺はなぜセントラルキッチンをつくらないのか――非効率のススメ
第2章 丸亀製麺はなぜ値下げ競争に巻き込まれないのか――競争しないで勝つ方法
第3章 丸亀製麺の羽田空港店はなぜ驚異的な売上なのか――正しいムダのなくし方
第4章 与えて、任せて、人は育つ――失敗を愛する人」を育てる
第5章 成長企業のトップはここが違う――小心者こそ成功する
第6章 丸亀製麺はなぜ海外で日本の味にこだわらないのか――違和感を活かす

 今やあちこちにできている感のある丸亀製麺。確かに美味しいと思うし、不思議ではない。そんな丸亀製麺の秘密が書かれているのだとしたら興味深いところ。そんな次第で手にした一冊。著者は丸亀製麺の社長秘書を務める方である。

 丸亀製麺はもともと創業者の粟田氏が開業したわずか8坪の焼き鳥屋がルーツだという。それが讃岐うどんに目をつけ、事業展開して今や国内外に1,500店舗。年商904億円だそうである。これはうどん業界では2位のはなまるうどんの480店舗、年商270億円に圧倒的な差をつけてのダントツ1位だという。その成功の秘訣は「他社との競争を重視しなかったこと」が最も大きな理由だとする。これは見習いたい。

 焼き鳥店の時にイマドキ風の店舗を作って一時の成功を得たが、すぐに競合店が出現。この経験から「奇をてらったことは真似される」と実感。商売の王道路線を進む重要性を痛感。それはすなわち、「大衆性」「普遍性」「小商圏対応」の中で差別化を図る道筋を見つけることである。こういうことを自分の商売でも考えているだろうかと思うと、そこまではできていない。当たり前だが、「考える経営」は重要である。

 店舗には製麺機を設置し、店舗にて製麺を行う。通常チェーン店ではセントラルキッチン方式が行われているが、機械の分店舗スペースが減ってしまう。非効率であるが、この非効率を極めることが勝因だという。行き過ぎた効率化は人間味をなくすとし、中高年スタッフを多く採用する。中高年スタッフは何よりも経験豊富で社員教育の必要がない。マニュアルでガチガチに縛らないのも大事で、マニュアルで細かく定めすぎると、「覚えた通りにやればいい」という意識になってしまうという。

 既存客を徹底的に大切にするというのも好感を持てるところ。そのためにもマニュアルではなく、目の前のお客様を見て臨機応変に対応することを重視する。「この店でいい」ではダメで、「この店がいい」になるにはそういうことが大事。非効率は店舗を増やす方法にも当てまり、一店舗ずつ丁寧に育てていく方法をとる。1,000×1ではなく、1×1,000という考え方もなるほどである。「大きな幸せを提供することはできなくても、小さな幸せを作るぐらいなら誰でもできる」という考え方は、暖かみあふれるものである。

 商売となるとどうしても競合が目に入る。あそこがなければお客様はウチに来るという考え方だが、それがそもそもの間違い。「お客様は来ない」のが当たり前であり、来てもらうにはどうするべきなのか。それにはライバルではなくお客様を見なければいけない。常識破りの発想が大事だと言うが、その「常識」が怪しいのかもしれない。粟田社長は「違和感」を大事にしているという。新しいものが生まれて来るときにはいつも違和感があるというが、これも常識破りの発想に通じるのだろう。

 ずいぶんと人気があるのは知っていたが、普段積極的に利用しているわけではないのでちょっと驚いたというところ。改めて今度行ってみたいという気になった。業種は違えど商売として相通じるところも多々ある。大いに参考にしたい一冊である・・・












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2020年03月16日

【ぼく、街金やってます 悲しくもおかしい多重債務者の現実】テツクル 読書日記1132



《目次》
テツクル半生記 ぼくと街金
ぼく、埋められそうになりました
他人の不動産を担保にする男
5万円で反社の看板を外させた債務者
トンデモブローカーさん列伝
未熟な地面師
怖い人がやってきた!
完全無欠の詐欺会社
悪い人にだまされた善人の末路
6000万円を肩代わりする鬼嫁
テツクル半世記 ぼくと街金(主任編)
街金百裂拳
テツクル、債務者と語る

 どんな仕事にも内側に入ってみなければわからないものがある。働いてみてはじめてわかるということである。なんの面白みもない事務仕事もあれば、興味津々の職業というのはあるだろう。特に「非日常」の仕事であればなおさらである。金融業でもそれは当てはまるが、特にお上品な銀行融資よりも、少しアンダーグラウンドに近いサラ金、街金の方が面白いだろうし、ヤミ金はもっとかもしれない。ヤミ金は違法だから仕事とは言えないが、街金は立派に合法であり、ゆえに金貸しの話としては、銀行融資よりも面白そうである。著者はそんな街金で働いている方である。

 似たような仕事としては、以前『督促OL修行日記』というのを読んだことがある。そちらはコールセンターにお勤めの方であったので、会話はすべて電話。しかし、こちらは実際に相対しての交渉ゆえにまた独自の面白さがある。著者はもともと「借りる方」だったらしいが、借金が返せなくなって直談判に行き、そのままそこで働くことになったという。ガラの悪い人たちに囲まれ、ゴミのように扱われての街金人生のスタート。

 そもそもであるが、金貸しの中でも銀行や信用金庫はトップに君臨するお上品な世界。その下にアコムやレイクなどの消費者金融などがあって、街金はさらにその下となる。当然、お客は上から下へと降りていく。下へ行くほど顧客の属性も下がっていく。そんな人たちを相手にするのだから街金も大変である。下手をすれば回収不能となって倒産となる。そうすると綺麗事も言っていられなくなる。著者も駆け出しの頃は、ガラの悪い同業者に捕まり埋められそうになったこともあるという。

 下へ行けば行くほど反社勢力が頭をもたげてくる。しかしそんな反社勢力と付き合えば金融業社としての免許を取り消されてしまう。しかし、借りる人はそういう人たちとも(望まなくとも)付き合いがあったりする。著者も否応なしに遭遇する。姿を表す怪しげなブローカー。地面師も登場するが、一歩間違えれば貸した金は戻ってこない。幸いにしてうまく地面師をやり過ごして事なきを得たから本が書けたということもある。

 詐欺に引っ掛かって金が返ってこない。著者は相手の事務所に籠城する。まさに『ナニワ金融道』の世界である。籠城した事務所内の机や椅子や諸々を買取業者に売って回収代金に当てる。銀行員にはとても経験できない世界だろう(したいとも思わないかもしれない)。騙されて財産を失った地主。夫の債務を完済する鬼嫁。車にGPSを付けたり付けられたり。この手の本は、世間の人には窺い知れない裏側見せてくれるところが魅力であるが、その好奇心は十分に満たしてくれる。

 残念なのは、数々あるであろうエピソードが(書かないのか書けないのかはわからない)少なく、本も薄っぺらいことか。さらっと読めてしまうが、後に残るものはない。本棚に残しておくような本ではない。一時の好奇心を満たすにはいいが、それ以上にはなれない一冊である・・・





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2020年03月14日

【俺か、俺以外か。−ローランドという生き方−】ROLAND 読書日記1131



《目次》
プロローグ
ローランド誕生
ローランドの名言-哲学-
ローランドの名言-美-
ローランドの名言-愛-
ローランドの名言-仕事-
ローランドの名言-人生-
ローランド-珠玉の名言集-
ローランド氏をより深く知るためのQ&A
エピローグ

 著者はホストを経て現在はホストクラブのオーナー他を手がける実業家とのこと。ホストとして歴代最高の売り上げを達成し、またメディアにも多数出演してその「名言」とともに話題になっている人物とのこと。タイトルもその「名言」の一つらしいが、普段タレントがわんさか出る芸能番組を見ない身としてはまったく知らない人物であった。この本をなぜ「積ん読リスト」に入れたのかは覚えていないが、なるべく幅広く読みたいと考えているので、抵抗なく読み始めた次第。

 ホストと聞くと「チャラい」男というイメージがあるが、高校時代までサッカーで全国大会出場を目指し、決勝まで行ったというからちょっと違う。『ゴッドフアーザー』に感化を受け、ジェームズ・ボンドに惹かれ、『タイタニック』に感動するというところは、映画の趣味は自分の感性に一致している。悪い人物ではなさそうである。

 サッカーで挫折したあと、なんとなく大学進学しようとするが、やっぱり合わないと1日で退学し、ホストの世界に飛び込む。「やるならナンバーワンを目指す」と決意し、下積み生活を耐える。この辺りは、やはりスポーツで培ったパッションかもしれない。「名言」については、「言葉とは作品」と称し、ドライブ中でもふと言葉が思い浮かぶと車を止めてメモを取る。「俺がホスト業界を変える」「伝説を作ってやる」そんな意識を行動にし、その意識が言葉に宿る。そんな実績とパッションに裏打ちされているからだろうか言葉だけ追っていても心動かされるものがある。

「嫉妬や妬みはいい男のアクセサリーみたいなもんだろ?」
合コンで言ったらウケそうな感じだが、個人的にはこんな洒落た言葉よりもビジネスにも通じる本質に迫る言葉に心打たれるものがあった。
 1. 100人が100人ダメと言っても、その100人全員が間違えているかもしれないじゃないか
 2. 年齢はどれだけ生きたかは教えてくれても、どう生きたかは教えてくれない
 3. 仕事道具に愛情を持てない奴は仕事に愛情がない奴
 4. 自信を持てとは言わないが、自身のあるフリをしろ
 5. カッコ悪く勝つくらいなら美しく負ける方を選ぶ
 6. 病むのではなく悩む。どうしたらその状況を解決できるのかという方向にシフトチェンジする癖をつける
 7. 売れないときは堂々と売れ残ってやる
 8. 先の見えない人生より先が見えてしまった人生の方が怖い

ジェームス・ボンドを意識しているのか、男としては吐いてみたいセリフも多い。
 1. たくさん嘘をついてきたけれど自分に嘘をついたことはない
 2. デブは甘え。普通に生きていたら太らない
 3. 常に鏡とジャンケンしても勝てるくらいの自信が備わっている
 4. ローランドが下を向くのは靴を履くときだけ

 女性とドライブしていて渋滞に巻き込まれたとき、「周りは全部エキストラ。君と長く一緒にいたいから」なんてさらりと言えたら、かっこいいだろう。会議中に寝てしまったのがバレたとき、「寝てません、まぶたの裏見てただけです」なんて言えば場も和むだろう。単に洒落た言葉だけでなく、その背後に見える仕事への意識は一流のものがあると感じる。やはりどんな世界であろうと一流を極めた人物の言葉や考え方には見習うものがあると思う。

 見てくれではなく、中身をしっかりと見てみたいが、ローランドという人物に単なるホストを超えた一流の匂いを感じることができる一冊である・・・


 
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【東京貧困女子。彼女たちはなぜ躓いたのか】中村淳彦 読書日記1130



《目次》
第1章 人生にピリオドを打ちたい
第2章 母親には一生会いたくない
第3章 明日、一緒に死のう。死ねるから……
第4章 あと1年半しか仕事ができない
第5章 45歳、仕事に応募する資格すらありません
第6章 子どもの未来が消えていく
終 章 絶望の淵

 著者はこの手の女性モノが得意なライター。過去にも『職業としてのAV女優』を読んでいるが、これはAV女優のみに限らず、その原因とも言える「女性の貧困」に焦点を当てたもの。東洋経済オンラインの連載を基に書籍化したものである。

 初めに国立大学医学部の現役女子大生の例が紹介される。偏差値70を超える最難関大学というが、お金目的で風俗で働く。両親は非正規の共働き。もともと親の援助はあてにできない上に、奨学金はもらっているが授業と部活でアルバイトが十分にできないというもの。まだソフトな例であるが、だんだんと厳しい事例が増えていく。親はなく、児童養護施設育ちとなると、何から何まですべて自分で賄わなければならず、普通のアルバイトだけではやっていけない。

 学生には奨学金がある。自分も学生時代は利用していたが、意外と返済は大変。第1種(月64,000円)、第2種(月184,000円)とあるが、両方利用していると大学4年間の合計の返済総額は利息も含めると1,000万円になるという。社会人になったとしても低賃金の保育士となると、単身で暮らすことすら難しい。しかもその奨学金の半分は親に取られているとなると、人ごととはいえ暗澹たる気分になる。

 学生時代に親がリストラにあい、授業料の納付ができなくなって風俗の世界に入る。卒業してもせっかくの内定を蹴ってAV女優になる。しかし、心身共疲弊してアルコール依存症になる。精神に異常をきたし、心療内科を受診するが、処方された大量の薬でかえって精神を病む。医者も商売なのだろうが、こうした精神科の例を見ると必ずしも本人だけに問題があるのではなさそうである。

 貧困家庭では、生きるのに精一杯で子供の教育に関心がないのが大半だという。その結果、貧困が連鎖していく。男女平等が進んできたとはいえ、日本はまだまだ女性が生きていくには不利な世界。シングルマザーには高学歴であってもパートの職さえ得られない人がいる。介護職は割とオープンだが、長時間重労働低賃金。全職種中堂々一位の低収入だという。若ければ風俗やパパ活などもあるが、年齢を経ていくとそれも難しい。

読む前は「人ごと」の気楽さがあり、上から底辺の人たちを見下ろすゆとりがあった。しかし、元年収1,000万円超の国家公務員の夫人の転落例などは、決して誰もが安泰なわけではないことを示している。父親がリストラに遭って、なんて事例は自分の子供達にも起こりうることで、人ごとなどと気楽なことを言っていることはできない。自分も会社が倒産などしたら確実に危ない。子供も非正規の仕事しかなかったりすると、親のサポートがなければここに出てくるようになる可能性は高い。そう考えると、背筋が寒くなる。

長時間重労働低賃金の介護事業も悪質な業者は別として、大きな問題を抱えている。年寄りの幸せのために現役世代が過酷な犠牲になっていいのかという著者の問いかけはもっともである。もっとも介護の世界も国の段階から問題を抱えていることではあるから、その根は深い。とりあえず世の中のことはともかく、自分と自分の家族はまず守りたいと強く思う。子供の将来はやっぱり不安である。読んでいてそんな思いが湧いてくる。

そんな危機感を持つことも必要だろう。世の中に目を向け、正しい危機感を持ち、今の生活をしっかりと見つめる。生きていく上で、家族を守っていく上で、いろいろと考えさせられる一冊である・・・



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2020年03月13日

【貧乏人の経済学 もういちど貧困問題を根っこから考える】アビジット・V.バナジー/エスター・デュフロ 読書日記1129



原題:Poor Economics
《目次》
はじめに
第1章 もう一度考え直そう、もう一度
第1部 個人の暮らし
第2章 10億人が飢えている?
第3章 お手軽に(世界の)健康を増進?
第4章 クラスで一番
第5章 スダルノさんの大家族
第2部 制度
第6章 はだしのファンドマネージャ
第7章 カブールから来た男とインドの宦官たち
第8章 レンガひとつずつ貯蓄
第9章 起業家たちは気乗り薄
第10章 政策と政治
網羅的な結論にかえて

著者はともに経済学者。途上国の貧困問題を正面から捉えた、原題も“Poor Econmics”とストレートである。2005年現在で、貧困層と言われる人々は世界人口の13%だという。貧困層と一言で言ってもイメージがわかないが、日本で言えば家賃以外のすべてを1日あたり120円で賄わなければならないレベルだという。かなり深刻である。この本では、貧乏な人の経済生活において何を実現できてそのためになぜあと一押しすべきかを理解するための理論についての本だとする。

極貧層の人々は、全消費額のうち、食べ物に使うのは36〜79%だという。ある調査では、残金は、アルコールにタバコ、祭りへの支出だったという。意外に嗜好品が多い。実は、食料の安定供給という点ではすでに地球上のすべての人に食料を供給できるらしい。飢えは食料配分の仕組みのせいだという。ただ、貧乏な人々は本当にしっかり十分に食べているのかとなると、しばしカロリー摂取よりも「もっと美味しいもの」に流れる傾向があるとする。

実はもっと驚かされたのは、余分な収入があったとしても、それがしばしばテレビやDVDなどに向かうということ。それらは食べ物より大事なのだという。腹を満たすより、1日何もすることがない(仕事もない)という退屈から救ってくれるものが最優先される。さらに栄養摂取よりも必要なのは安価な食べ物という政策。幼少期の栄養が成人後の社会的地位に影響するという研究もある中、なんとも言えない事実である。

また、健康による貧困の罠という問題がある。マラリアに汚れた水に起因する健康被害。貧乏人は、これらを防ぐ蚊帳や塩素や駆虫剤といったものにお金を使いたがらず、それより高くつく治療にお金が使われる。資格を持った医師や看護師による無償の治療よりも、無資格な民間治療を選択する。予防接種を行わせるのに有効なのは景品だったりする。そこまで面倒見る必要があるのかという疑問が湧くが、豊かな国に住む者こそこうした過干渉の絶えざる受益者なのだという。

日本でも「貧乏人の子沢山」という言葉があるが、途上国は概ね大家族だったりする。これは避妊の問題ではなく、たくさん産めばそのうち何人かはうまく成長して自分の面倒をみてくれるという考えだという。その対象は男の子であり、故に女の子は不当に差別されたりする。そういう状況下では、もっとも有効な人口政策は子沢山を不要にすることだという。その流れで貧乏人向けの保険にも話は及ぶが、そこにもまた独自の問題がある。

貧乏人が保険を買いたがらないのは、そもそもリスクに対する認識がなかったり、あるいはいざという時に(やむを得ない理由なのだが)保険が下りなかったりするからだという。主に教育の問題なのかもしれない。グラミン銀行で有名なマイクロファイナンスにも限界がある。肥料を使えば収穫が増えることがわかっても、次の肥料を買うお金を使ってしまう。一度落胆してしまうと自分に規律を課すのが難しくなるという心理的な問題もある。

貯蓄といえば、銀行預金と考えがちだが、銀行は貧乏人を相手にしない(マイナス金利がついたりする)。そんな中でレンガ一つずつの貯蓄という工夫が新鮮である。これはお金に余裕ができると家を作るレンガを買い、買った分だけ家を建てていくのだとか。だから作りかけの家があちこちにあったりする。これも大いなる工夫の一つだろう。貧乏人は怠け者かというとそうではなく、情報が不足していたり、新鮮な水を得るという先進国では当たり前のことを自分でやらなかったりしないといけないという制約もある。なるほどである。

そのほかにも教育の問題もあり、一つ一つの事例が貧乏からの脱出の前の大きな壁となって立ちふさがる。それは絶望的な戦いにも思える。しかし、著者は貧困はもともと何千年と人類とともにあったものであり、その終わりまであと50年か100年待たなければならないとしてもそれはそれで仕方がないという。それもまたその通りなのだろう。幸いにして我が国の貧困問題はここまでではない。そのありがたみを噛み締めながら、世界の貧困について学びたい一冊である・・・









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2020年03月06日

【FACTFULNESS 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣】ハンス・ロスリング/オーラ・ロスリング/アンナ・ロスリング・ロンランド 読書日記1128



原題:FACTFULNESS
《目次》
イントロダクション
第1章 分断本能 「世界は分断されている」という思い込み
第2章 ネガティブ本能 「世界がどんどん悪くなっている」という思い込み
第3章 直線本能 「世界の人口はひたすら増える」という思い込み
第4章 恐怖本能 「実は危険でないことを恐ろしい」と考えてしまう思い込み
第5章 過大視本能 「目の前の数字がいちばん重要」という思い込み
第6章 パターン化本能 「ひとつの例にすべてがあてはまる」という思い込み
第7章 宿命本能 「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込み
第8章 単純化本能 「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込み
第9章 犯人捜し本能 「だれかを責めれば物事は解決する」という思い込み
第10章 焦り本能 「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み
第11章 ファクトフルネスを実践しよう
おわりに

 著者は、医師、グローバルヘルスの教授、そして教育者としての顔を持つ多彩な方。残念ながら故人となってしまったらしいが、この本は著者の長年の研究の成果を息子夫婦と共にまとめた成果らしい。「10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」というサブタイトルが内容をよく表している。

 初めに13の質問が表示される。「現在、低所得国に暮らす女子の何割が初等教育を終了するでしょう」という問いをはじめとするものであるが、選択肢は「20% 40% 60%」とあり、20%かなと思う。しかし、答えは60%。低所得国というイメージが間違えさせるわけであるが、なんと正解率は7%だという。訳の分からぬチンパンジーですら正解率は1/3、つまり33%。であるから我々はチンパンジーにも劣ることになる。こんな勘違いが紹介されて行く。

 先進国=豊かな国、途上国=貧しい国というイメージがそもそもの誤り。これは第1章の「世界は分断されているという思い込み」で説明される。かつて解決不能に見えた世界の課題はすでに解決しているとする。世界人口の85%は、すでに先進国と名付けられた枠の中に入っており、途上国は全人口の8%、残り7%はその間だという。著者はそれをグラフで表示するが、これを見ると一目瞭然である。

 世界をレベル1からレベル4と4段階に分類する。すると世界の大半はレベル2〜3にあるという。これは1950年代の西ヨーロッパおよび北米の生活水準と同じだとか。極度の貧困率は1800年代は全人口の85%だったのが2017年代は9%。現在レベル1にいる国の平均寿命は、スウェーデンがレベル1だった頃の1800年代に比べて30年も長い。こんな事実を突きつけられると世界は確実に良くなってきていることがわかる。

 我々の認識が誤る原因は、「良いニュースは伝わりにくい」ということがある。災害でなくなる人は1930年代は百万人あたり453人だったのが、2010年代は10人。飛行機事故の死亡者も戦争や紛争による犠牲者も劇的に減少している。冷静に数字を拾えばこうした事実は浮かび上がってくるが、テレビで流されるニュースを見ているととてもこのような実感はわかない。そして意外な事実も明らかにされる。

 人口増加は人類の未来に対する不安の一つであるが、特に途上国の人口増を止める確実な方法は、「極度の貧困をなくし、教育と避妊具を広める」ことだという。世界の中で子供の生存率が伸びている原因は「母親が読み書きできる」ことだという。 シリア難民は1人1,000ユーロ払って危険なゴムボートでヨーロッパへと向かう。しかし、ヨーロッパまでの航空券は50ユーロで買えるという事実には考えさせられるものがある。

 掲げられている10の「本能」を回避するには、比較したり割り算したり、自分が肩入れしている考え方の弱みをいつも探したほうがいいという。著者はそれをトンカチにたとえ、なんでも叩くのではなく、さまざまな道具の入った工具箱を準備したほうが良いとする。中絶を違法化しても中絶がなくなるわけではなく、中絶がより危険になるだけであるというのもそんな例なのかもしれない。

 事実に基づいて世界を見ることが人生の役に立つというのが、著者の信念。これは何も世界を見ることだけではなく、身の回りのことでも当てはまるように思う。「データを基に世界を正しく見る」という習慣をつけることがいかに重要か。それがよく理解できる一冊である・・・


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posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | ビジネス/自説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする