2020年07月17日

【トヨトミの野望 小説・巨大自動車企業】 読書日記1171



《目次》
序 章 荒ぶる夜
第一章 ふたりの使用人
第二章 社内事情
第三章 北京の怪人
第四章 ジュニアの憂鬱
第五章 暴君
第六章 ハイブリッド
第七章 異端児
第八章 萌芽
第九章 去りゆく男
第十章 スキャンダル
第十一章 クーデター
第十二章 ナッパ服の王さま
第十三章 そして、公聴会へ
第十四章 誤算
終 章 幕が上がる

 ストーリーは、サブタイトルにあるように、とある架空の自動車会社を舞台にしたもの。とは言え、名古屋を本拠地とした巨大自動車企業「トヨトミ自動車」となると、これはトヨタ自動車が元になっているなとわかる。事実、名前こそ違えど、描かれる社歴や出来事などはすべてトヨタ自動車のそれと同様である。しかし、世間で知られている以上の細かい内容となると、事実とフィクションの違いは素人にはわからない。そのあたりが読んでいて面白い部分である。

 冒頭、トヨトミ自動車の社長武田剛平はとあるヤクザの事務所を訪れる。そこには豊臣家の長男であり、トヨトミ自動車の開発企画部長豊臣統一がいる。美人局に引っ掛かってしまったのであるが、各方面に手を回し、スムーズに統一を引き取って帰る。さり気なく読み進めたが、この物語はノンフィクションをベースにしてあり、フィクションも混じっているのかもしれないが、どこからどこまでなんだろうと考えると、興味深いシーンである。

 その社長武田剛平は、変わり者の性格が災いして日の目を見ることなくフィリピンでくすぶっていたが、トヨトミ自動車会長である豊臣新太郎に見出されて表舞台に登場。そして社長にまで出世したという経歴を持つ剛腕経営者である。戦後、トヨトミ自動車がたどった苦難の道のり、社員たちの奮闘努力の様子は、多分そのままトヨタ自動車の物語なのだろう。優雅な貴族然たるトヨトミ一族の様子がそのまま豊田家の様子なのかは想像するしかない。

 物語は武田剛平を中心に進んで行く。日本商工新聞社のトヨトミ担当記者を呼んで、ダイエン工業の株の半分を取得することになったと伝える。記者はスクープに大喜びになるが、その記事はトヨトミ自動車の中国進出に利用されたとあとで気がつく。武田剛平はトヨトミ家出身でない初めての社長。されど「トヨトミ家の使用人」と自らを卑下する。しかしながら実力社長であることは間違いなく、経営に辣腕を振るっていく。

 一方で、冒頭で醜態を演じた統一であるが、テストドライバーに弟子入りしたりし、着実に歩む。何よりトヨトミの血筋を引く御曹司である。武田は中国への進出の後、ハイプリッドカーである「プロメテウス」の開発に力を注ぐ。開発が難航している中、あえて役員の反対を押し切り開発期間を短縮する。車内で「クレイジープロジェクト」と呼ばれる常軌を逸した生産計画が始まる。

 こうした企業進展の物語は、それだけで興味深い。何よりトヨトミとなっているが、読みながら脳内では「トヨタ」への変換が絶え間なく行われる。プロメテウスはプリウスだし、調べてみれば武田剛平のモデルはどうやら奥田碩氏のようである。身長180センチ、柔道部出身で、フィリピンで豊田章一郎会長に見出されたエピソードもそのままである。となれば、御曹司統一は現社長の豊田章男ということになる。この物語のままだとするとえらく情けない。

 トヨトミ自動車は株式公開企業であるが、実態はトヨトミ家の企業のまま。トヨトミ家の血筋は何よりも重要で、武田が社長になっても実質的に支配するのはトヨトミ家。無能な役員の首を切ろうとした武田だが、当該役員がトヨトミ家に泣きついて人事を撤回するエピソードなどが出てくる。トヨトミ家以外の社長が武田を含めて三代続くが、御曹司への政権移行時のエピソードは、本当なのだろうかと思う内容である。

 著者は経済記者だというから、直接取材したりしてその事実をドラマ化しているのだろう。地元におけるトヨトミ自動車の威光など、1つ1つ「本当なのだろうか」と思いながら読み進む。池井戸潤作品のような普通の経済ドラマとはこの点で大きく違う。しかし、細部はともかく、大きな流れとしてはトヨタ自動車の置かれている状況が正確に描かれている。環境意識の高まりの中、プリウスがガソリン自動車と同じ扱いにされると自動車業界の様相は一転してしまうという部分は実に興味深い。

 単なる読み物としても面白いが、自動車業界の置かれている状況をうかがい知るという意味では、ビジネスマンとしてはいい教養になるだろう。すべて事実なのかどうかはわからないが、そんなところを想像しながら読むのもまた面白い。いろいろと考えさせ、楽しませてくれる経済小説である・・・
 





posted by HH at 00:00| 東京 ☔| Comment(0) | ビジネス小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: