2019年10月03日

【事実vs本能−目を背けたいファクトにも理由がある−】橘 玲 読書日記1079



《目次》
Part 0 ポピュリズムという「知識社会への反乱」
Part 1 この国で「言ってはいけない」こと
Part 2 私たちのやっかいな習性
Part 3 「日本人」しか誇るもののないひとたち
Part 4 ニッポンの不思議な出来事
Part 5 右傾化とアイデンティティ

 著者は、近年『言ってはいけない残酷すぎる真実』『もっと言ってはいけない』と読んでいる著者。いずれも「真実」というキーワードが入っており、本作も同様。続編というわけではないが、「真実」というキーワードを追求する著者のスタンスが現れている気がする。

 「真実を知ることはとても重要」だということはその通りである。著者はそれを「正しい地図を持っていなければ、自分や他人の人生について正しい判断をすることができない」とする。それはその通り。では、その「正しい地図」たる真実とはどのようなものなのか。それを各Partで説明して行く。

 PIAACという先進国の学習到達度調査によると、
1. 先進国の成人の約半分(48.8%)はかんたんな文章が読めない
2. 先進国の成人の半分以上(52%)は小学校3〜4年生以下の数的思考力しかない
3. 先進国の成人のうち、パソコンを使った基本的な仕事ができるのは20人に1人(5.8%)しかいない
ということらしい。『もっと言ってはいけない』では、日本人の例が示されていたが、先進国全般として同様だという。

 にわかには信じ難いが、著者はその事実を丁寧に説明していく。さらに衝撃的なのは、この調査でOECDの平均を下回る国にポピュリズムが台頭しているということ。職業に必要な知的スキルが低い国は失業率が高く、ポピュリズムが台頭しやすいのだとか。それはそうかもしれないと思うが、その顔ぶれがアメリカ、イギリス、フランス、ポーランドと続くと愕然とする。

 Part 1では「この国で言ってはいけないこと」が紹介される。女児虐待死事件のそれは、義父と連れ子との間で起こっているということ。犯罪統計でも幼児虐待は義父と連れ子との間で起こりやすいのだとか。これは進化論に理由を求められ、欧米でもしっかりと統計に表れているが、日本のメディアはそう報じないとする。行政担当者の不手際を集団で吊るし上げて憂さ晴らししているだけでは問題は解決しないとする。その通りなのかもしれないが、やっぱりビミョーである。

 タブーを避けながらわかりやすさに固執すると、結果としてデタラメな報道が垂れ流されるというのはなんとなく理解できる。子宮頸がんワクチンの問題は記憶に新しいが、実は日本で広がっている子宮頸がんワクチンの健康被害問題は、海外とはまったく異なるもので、WHOでは子宮頸がんワクチンは強く推奨されているのだとか。この問題は、一部の医師、研究者や人権派弁護士、メディアが作り出したものらしい。「善意の人たちによって10万個の子宮が失われていく」という「事実」は恐ろしい。

 そのほかにも「安楽死」をめぐる問題、「子供は褒めるとダメになる」という解説、「いじめ防止対策をすればいじめが増える」「自衛隊にはなぜ軍法会議がないのか」といった常識とは異なるもの、普段考えもしない「事実」が紹介されていく。「過労死自殺はなぜなくならないのか」「働き方国会が紛糾する“恥ずかしい”理由」等「事実」かどうかちょっと疑問に思うケースもあるが、一つの見方としては面白い。

 ただし、政治的な部分になると、ちょっとした違和感を禁じ得ないところもある。「徴用工判決ではなぜ韓国の民意を無視するのか」「靖国神社の宮司が『反天皇』になった理由」については、事実は事実としても解釈が異なるように思う。「事実」は「思想」によって異なる意味づけがなされるのではないかと感じさせられるところである。一方、「日本社会は保守化、右傾化しているのではなく、革新=リベラルが絶望的なまでに退潮している」というところは素直に同意できる。

 解釈はともかくとして、「事実」にこだわるスタンスはやっぱり大事だと思う。表面的な報道を鵜呑みにするのではなく、「事実」はどうなのかを意識していかないといけないだろう。そういう意味で、一読の価値ある一冊である・・・




posted by HH at 00:00| 東京 ☀| Comment(0) | ビジネス/自説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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