2010年10月01日

【これからの『正義』の話をしよう】マイケル・サンデル 読書日記105


これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

  • 作者: マイケル・サンデル
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2010/05/22
  • メディア: 単行本



≪目次 ≫
第1章 正しいことをする
第2章 最大幸福原理──功利主義
第3章 私は私のものか?──リバタリアニズム(自由至上主義)
第4章 雇われ助っ人──市場と倫理
第5章 重要なのは動機──イマヌエル・カント
第6章 平等をめぐる議論――ジョン・ロールズ
第7章 アファーマティブ・アクションをめぐる論争
第8章 誰が何に値するか?──アリストテレス
第9章 たがいに負うものは何か?――忠誠のジレンマ
第10章 正義と共通善
  
『ハーバード大学史上空前の履修者数を記録しつづける、超人気講座「Justice」を元にした全米ベストセラー』、といううたい文句に惹かれて手に取った一冊。
確かに面白い。

「一人を殺せば五人が助かる状況があったとしたら、あなたはその一人を殺すべきか?」いきなりそんな問いかけがなされる。
そして、それこそが「正義」をめぐる哲学の問題だという。
哲学とは机上の空論では断じてない、という主張には強く頷きたい。

掴みは素人にもわかりやすい事例から入っている。
第1章「正しい事をする」では、ハリケーンの被災地で日常品を高値で売る“便乗値上げ”をめぐる賛否を取り上げる。
戦傷軍人に贈与されるパープルハート勲章は、心に傷を負った軍人にも適用されるべきか、そして冒頭の5人を助けるために1人を犠牲にする是非。

もっとも面白かったのは、アフガニスタンで作戦に従事していた米軍特殊部隊の偵察隊が、羊飼いの親子に遭遇した事例だ。
アルカイダに密告される事を恐れた部下が、隊長に親子を殺害するよう進言。
隊長も心の中ではその判断は正しいと思いながら、キリスト教徒として親子を解放する。
その結果、親子の密告によって押し寄せたアルカイダの勢力に、3名の部下全員と救出にきたヘリに乗っていた16人が戦死する事態になった。
隊長の判断は正しかったのか、誤っていたのか。

こうした事例を挙げながら、一方で哲学者の考えも紹介。
ベンサム、ミル、カント、ジョン・ロールズ、アリストテリス。
ベンサムは「最大多数の最大幸福」を主張した哲学者だ。
大西洋で遭難し、24日後に救助された乗組員が、生き残るために一人を殺して食べた。
その一人を殺して得られた利益(3人の生存)は、全体としてそのコスト(殺害)を上回るか、という議論だ。
哲学が机上の空論ではないわけである。
ちなみに「最小不幸社会」が哲学かは、あまり考えたくない問題だ。

「満足した豚であるより不満足な人間であるほうがよく、満足した愚か者であるより不満足なソクラテスであるほうがよい」(ジェームズ・スチュアート・ミル)
「汝の意志の格律がつねに同時に普遍的法則となるように行為せよ」
「汝の人格においても、あらゆる他者の人格においても、人間性を単なる手段としてではなく、つねに同時に目的として扱うように行為せよ」(イマヌエル・カント)
昔読んだ懐かしい、そしてわかったようなわからないような有名なフレーズも、具体例に即してみればわかりやすい。
これは確かに哲学の教科書でもある。

取りあげられる事例はこれでもか、というくらいどちらにも言い分のある問題だ。
大学入学におけるアファーマティブ・アクションで、マイノリティに入学枠が与えられたため、入学したマイノリティの学生よりも優秀な白人学生が不合格となる。
車椅子のチアリーダーが、健全な子なら求められる開脚と宙返りをしなくていいのは不公平だ、という父母からのクレームでチームからはずされる。
それは公平か不公平か。

考えてみればこんな問題は世の中にゴロゴロしている。
そんなことをあれこれ考えさせてくれる。
世の中を生きていく上で、遭遇するさまざまな問題。
そうしたものに対処していくには、やはり何らかの哲学が必要となってくるだろう。
過去の哲学者の考えを学び、現代のさまざまな問題に触れるのはいいトレーニングだ。
史上空前の履修者を誇るといううたい文句は、けっして誇張ではない。
実際の授業を受けてみたくなった一冊である・・・




posted by HH at 23:46| Comment(0) | TrackBack(0) | 人生論・哲学・生き方 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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