2014年09月05日

【虚ろな十字架】東野圭吾



次々に出版される東野圭吾の新作。
他にも読む本があって、なかなか追いつかないが、遅ればせながら読了。
例によって単なる事件の謎解きだけでなく、深い人間ドラマが味わえるストーリーである。

プロローグはある二人の中学生男女の淡い恋の物語。
このプロローグをよく覚えておくと、後で読みながら盛り上がるかもしれない。

そして主人公の中原道正が登場する。
その中原のもとに一人の刑事佐山が訪ねてくる。
佐山は中原に、中原の別れた妻小夜子が殺された事を伝える。
中原と小夜子は、かつて最愛の娘を殺されるという悲劇に遭遇しており、佐山はその時の担当刑事であった。

事件はやがて町村作造と名乗る一人の老人が自首してきた事で解決に向かうかと思われる。
一方、娘を殺され離婚して以後の小夜子を知らない中原は、小夜子がフリーライターの仕事をしていた事を知る。
そして取材記事を読み、密かに書き溜めていた原稿を目にする。
それは、死刑廃止論に反対し、死刑を支持する内容であった。

物語は被害者側と加害者側とを交互に描く形で進んでいく。
被害者側は、中原が小夜子が追っていたある人物とその物語を追う形で、そして加害者側は、町村作造とその娘夫婦を追う形で問題を問う。
小夜子はその原稿で、そして小夜子の両親はそれとは別に、「人を殺した者は死刑になるべし」と主張する。
読む者もその是非を問われる事になる。

一見、何の関係もなさそうで、通り魔事件のように思われた事件が、隠されていた姿を現してくる。
その過程はやっぱり東野圭吾的で、実に見事である。
探偵も名刑事も物理学者も登場しないが、素人の中原が辿り着く真実はなかなかである。

死刑の是非を問い掛ける部分もあるが、それは軽いジャブ的なもの。
本格的に問うならば、映画『悪人』のような犯罪者にもやむにやまれぬ事情や背景があった方が、迫力がある。
だが、ここではそこまでは問い掛けてこないし、その必要もないのだろう。

考えてみれば、一人の高校生がコンドームを買う勇気を持てていたら、後にいくつもの事件は起こらなかったものであり、フィクションではあるものの、そんな事を思わず考えてしまった。
若者には正しく導ける大人が必要であり、子を持つ親の立場としては、我が子を正しく導いてやりたいと思う。

例によって深い人間ドラマと、そして読んで楽しんで終わりではなく、付随していろいろと考えさせてくれる。
一味違うドラマをこれからも味わいたいと思う東野圭吾作品である。
  
    
posted by HH at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 東野圭吾 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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