2016年06月28日

【獅子吼】浅田次郎



獅子吼
帰り道
九泉閣へようこそ
うきよご
流離人
ブルー・ブルー・スカイ

浅田次郎の本は、出ればまず読むことにしている。そう決めている作家の一人である。
ちょっと変わったタイトルのこの本、タイトルの表題作を含む六つの短編集である。

「獅子吼」は、戦時中の動物園の話。文字通り檻の中のライオンの独白で物語は始まる。そして人間の登場人物である草野二等兵。とても兵隊向きとは思えない人物で、入隊前は動物園の飼育係をしていた。そして部隊の残飯を動物たちの餌にすべく、持ち出そうとして見つかり鉄拳制裁を受ける。そして草野には、ある命令が下される。

「帰り道」は、ある若者たちのスキー旅行の帰り道が描かれる。時に昭和40年。まだ週休二日制など夢の世界の時代。会社の同僚たちで示し合わせた日帰り旅行のバス。妙子は密かに憧れる光岡の隣の席に座る。
「九泉閣へようこそ」は、ある男女の旅行が描かれる。真知子は付き合っている春夫と二人で旅行に来ている。そしてかつては団体旅行で賑わったものの、今やすっかり寂れてしまった伊豆の老舗旅館に宿泊する。

「うきよご」は、ある腹違いの姉弟の物語。京都から東大受験の名目で東京に出てきた弟を、「厄介払いされた」と気の毒に思う姉が迎える。そして弟は紹介された寮で浪人生活を始める。
「流離人」は、ある列車で正面に座った老人が、ポツポツと語る若かりし頃の思い出。それは昭和20年、終戦間際に応召し、中国大陸に向かった時の話。車中で出会った不思議な中佐との思い出話。

「ブルー・ブルー・スカイ」はアメリカのラスベガスが舞台。アメリカを訪れた納豆製造会社の社員戸倉幸一は、一晩で5,000ドル負けた翌朝、一軒のグロサリーストアでなけなしの100ドルをポーカーマシンに入れる。するとそれが大当たりし、なんと2万ドルが当たる。小さな店にそんな大金があるわけでもなく、店主は幸一を残したまま金を受け取りに行く・・・

どれもこれもが短いながら、味わい深いものがある。一つの特徴として共通するのは、すべて時代が少し前の時代ということ。戦後しばらく経ってからの高度成長期時代である。「帰り道」では、まだ週に6日働いていた時代の話。たった1日の休みである日曜日に、職場の若者たちがスキー旅行に行く。次の日は仕事だから日帰りである。今なら土曜日に行って日曜日に休むか、土日の一泊だろう。つくづく、我々の親世代は大変だったと思う。そんな時代の香りを背景に漂わせる。

週に1日しか休みもなく、新幹線も東海道のみ。今から考えると、あまり戻りたくない時代だが、そんな時代の雰囲気が、物語に彩りを添えている。そしてどの物語も、結末は余韻を残して終わる。続きは、読者が想像力を働かせないといけない。しかしながら、そうした続きを想像してみる心地よさがある。この心地よさが、浅田次郎ならではだと感じる。

長編も短編も、それぞれ趣がある浅田次郎の小説。目をつぶって手にしてもまずハズレがない。この本は、そういう安心して読める一冊である・・・


posted by HH at 22:39| Comment(0) | TrackBack(0) | 浅田次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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