2016年08月13日

【わが心のジェニファー】浅田次郎



 浅田次郎の作品は、まず読んでハズレがない。新刊が目に止まれば、迷わず手に取るところである。今回も迷わず手に取る。
 物語の主人公は、意外にもアメリカ人のローレンス・クラーク、通称ラリー。恋人のジェニファーにプロポーズをしようとしている。プロホーズの場所として選んだ店が、日本贔屓のジェニファーのリクエストによるそば屋。そしていざフロポーズとなった時、ジェニファーから「プロポーズの前に日本を見てきてほしい」と言われる。さらに日本滞在中は、電話でもなく、メールでもなく、手紙を書いてほしいと頼まれる。かくして恋人の願いを聞き入れ、ラリーはやむなく日本へと旅立つ。

 ラリーは、両親を知らず、海軍軍人だった祖父に育てられている。その祖父からは、女性に手紙を書く時は、もしもその女性が特別の人なら、「ディア○○」ではなく、襟を正して「○○・オン・マイ・マインド」と書けと教えられている。それゆえに、ラリーは日本に向かうJALの機内で最初の手紙をジェニファーにしたためる。「ジェニファー・オン・マイ・マインド」。これがタイトルの所以となっている。なかなか勉強になる。

 ラリーがやってきた日本の季節は10月。ジェニファーのお気に入りの季節でもある。成田に到着したラリーは、トイレに飛び込む。日本人はみな小さいのに、どうして便器がこれほど立派なのかとラリーは疑問に思う。そしてその設備に感嘆する。続いてバスで都内へ向かうラリー。渋滞でバスの到着が15分遅れる。15分の遅れを詫びるドライバーの姿勢に、アメリカ人ドライバーとの違いに思いを馳せる。さらに予約していた安いビジネスホテルの狭さに愕然とする。

 翌日ラリーは新幹線で京都へ向かう。手にするのは、ジェニフアーが貸してくれた正統派のガイドブック「ポジティブ・ガイド」と、空港で買ったアナーキーな「ネガティブ・ガイド」。両者は同じものでも表現方法が異なる。その説明の違いも、ラリーとともに旅する読者の楽しみでもある。そして東京駅では、『新幹線お掃除の天使たち』でおなじみのテッセイのサービスに驚く。そして3分ごとに発車する時速170マイルの列車に言葉を失う。

 京都の清水寺では、日本人女性マコトと知り合い、三十三間堂を案内してもらう。そしてホテルまで共にしてしまう。その間も書き綴るジェニファーへの手紙には、もちろんそんなことは書かない。大阪ではたこ焼きを食べ、お好み焼きを食べる。さらには串揚げ。日本の食事の量は少ないとこぼすラリーは食べまくる。そして次は温泉。ラリーは日本を代表する温泉と言える別府温泉に行く。こうしてラリーは日本を旅し、およそ日本の、そして日本人の特性ともいうべきものを体感していく・・・

 日本にいればそれが当たり前で特に何も感じないが、実は海外の人から見たら実に特徴的ということがある。近年、日本のそういう日本人だと当たり前すぎて気がつかない点が海外から称賛される例が目につく。この本も、小説の形をとりながら、そういう日本の特徴を浮かび上がらせていく。なぜ、ジェニファーがラリーに対し日本へ行けと言ったのかは、最後まではっきりと語られない。そこは想像するしかないが、なんだったのかクイズの答えを知りたいように教えて欲しい気がする。

 アメリカ人を主役とし、その視点から日本を見てみるということで、自分たちの姿を鏡で見ているような気分になる。それもまた良し、である。浅田次郎の作品も実にバラエティに富んでいる。どれもこれも最高に面白いというわけではないが、まずハズレだと思うものがない点がいい。これもそんな作品の一つとしたい一作である・・・


    
posted by HH at 20:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 浅田次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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