2016年12月06日

【帰郷】浅田次郎



歸郷
鉄の沈黙
夜の遊園地
不寝番
金鵄のもとに
無言歌

浅田次郎の短編集をまた一冊。
全編にわたって共通しているのは、戦中・戦後の時代背景。
「歸郷」は、終戦直後の日本。娼婦として身を立てている綾子がタバコを吸っていると、一人の復員兵が声をかけてくる。戦地から生きて帰ってきた男だが、故郷には戦死の報がもたらされており、妻は弟と再婚。男は帰るところがない。そんな二人の出会いの物語。

「鉄の沈黙」は、ニューギニアのある砲兵陣地が舞台。敵の攻撃でわずかに生き残った分隊に、一人の修理係が赴任する。壊れた高射砲の修理が目的であったが、味方の多くはすでに転進。孤立無援の陣地に、敵機がやってくる。
「夜の遊園地」は、戦後少し豊かになった日本。後楽園の遊園地で客の呼び込みをする勝男。ナイター帰りの客に次々に声をかけていく。一見幸せな世の中であるが、一組の親子に戦争の影がよぎる。

「不寝番」はちょっと不思議な話。不寝番に立つ陸上自衛官片山が、交代時間が来て仲間を起こしにいく。そして起こした兵士が陸軍上等兵の仙波。互いに不審に思うも噛み合わない会話を経て、互いの身の上を知る。
「金鵄のもとに」は、既読感があったと思ったら、『短編工場』に掲載されていた作品。

「無言歌」は、軍務に就く兵たちが故郷に残して来た女たちの話をしている。一見平和な会話であるが、彼らの置かれた状況を知ると言葉を失う。映画『出口のない海』を思い出してしまった。どの作品も、読み終わったあとにじんわりとしたものが心に残る。浅田次郎らしい後味と言えるかもしれない。

「歸郷」は、一人の娼婦と復員兵の物語だが、娼婦といっても生きていくためにやむなく体を売っている。当時はたぶんたくさんいたのだと思う。そして戦地から帰って来たものの、故郷に帰れなくなってしまった男。故郷に残して来た妻子にようやく会えると思っていたのに、思いもしなかった変遷。当時の社会ではやむを得なかったのだろうが、皮肉である。そんな二人が出会うのだが、思わず二人の幸せを願ってしまう。

どの作品にも兵士達が出てくるのであるが、勇敢な英雄の姿はない。みな絶望的な状況に置かれていたり、地獄のような体験をしたり、心に深い傷を負っていたりする。唯一戦後しばらくした時代の話である「夜の遊園地」でも、ある父親がかつての激戦を思い出して蹲ってしまう姿が描かれる。何も知らずに途方に暮れる子供。そこにも戦争の影が落ちる。

そうした世界に、すっかり引き込まれてしまう。浅田次郎の作品にはいくつかのジャンルがあるが、この手の戦争ものはいつも心に何かが残るものが多い。読み終わって、普通の生活に戻るのに少し時間を要する一冊である・・・



posted by HH at 21:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 浅田次郎 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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