2017年02月26日

【帝国ホテルの考え方 本物のサービスとは何か】犬丸徹郎



第1章 ホテルの理想は「窓の開くホテル」
第2章 生まれも育ちも田園調布
第3章 少年時代-アメリカでの夏休みとテニス
第4章 ローザンヌ・ホテル・スクール時代の日々
第5章 パリからフランスへ-フランス料理修業
第6章 軽井沢別荘ライフ
第7章 東京日比谷-ホテルとプロフェッショナリズム
第8章 人が集まる場所、それがホテル

著者は、元帝国ホテル副総支配人。祖父の代からのホテルマンの三代目だという。タイトルからして、何か「おもてなし」系の話なのだろうとイメージしていたが、中身は全然違っていた。主となるのは、ホテルマンとしての著者の自伝的なもので、そしてそこから導き出される考え方、それも「本当のホテルとは何か」といった事である。

著者の祖父と父は、それぞれ帝国ホテルの社長、総支配人(どう違うのかはよくわからない)であり、著者は子供の頃からフランク・ロイド・ライト設計の「ライト館」を遊び場にしていたという。そんな著者は田園調布に生まれ育つ。その昔、「田園調布に家が建つ」と漫才で言われたが、この方、「根っからのセレブ」である。当然、幼稚舎からの慶應ボーイ。その経歴は非の打ち所がなく、ちょっと事業で成功して金持ちになった程度の成金とはモノが違う。

著者の語る理想のホテルとは、「窓の開くホテル」だという。それは物理的な意味ではなく、「スタッフの心の窓も開いて、滞在するお客様を極めて自然な形で受け入れるホテル」なのだそうである。正直言って、イメージできない。レマン湖畔にあるホテル・ボーリバージュ・パレスがその見本のようなのであるが、そこでは館内に細かな表示はなく、わからなければ近くにいるスタッフに尋ねて必要があれば案内してもらうのだとか。玄関ドアも押して入るモノらしい。

帝国ホテルも施設的には五つ星ホテルに属するらしいが、欧米の一流ホテルとは異なり、幅広い客層を取り込むことに傾注したため、はっきりとホテルを星によってセグメントすることが難しいとする。その理由は、日本においてはヨーロッパの最高ホテルに見られるような最高級な客層がまだまだ限られているためで、ホテルが「ビジネスホテル化」しているのだそうである。つまりは、庶民が出入りするようでは真の一流とは言えないということらしい。

日本でヨーロッパにおける本当の「ホテルらしいホテル」を目指すのは帝国ホテルくらいで、あとはチェーン化された外資系ホテルになってしまっていると著者は語る。どこからそんなセリフが出てくるかと言えば、それはやはり著者のキャリアからである。田園調布に生まれ育ち、そこは自動販売機などなく、必要であれば駅前のスーパーなり商店が届けてくれる世界。

別荘は当然軽井沢で、あの白洲次郎に誘われて祖父がその隣を購入したのだとか。毎年夏に訪れるのは当然のこと、それ以外にも川奈ホテルでバーベキューをし、箱根の富士屋ホテルの室内プールで泳ぐ生活。小学生になると、単身アメリカのサマーキャンプに参加するようになる。このあたりは富裕層、名家の子女の生活ぶりが伺えて興味深い。

それでも著者はただのボンボンではなく、自ら単身アメリカのサマーキャンプに行くなどチャレンジ精神は凄い。慶應大学時代にスイスの名門ローザンヌ・ホテル・スクールに留学するが、フランス語が必須であったため、事前に語学留学し現地に溶け込んで働く話にはすなおに頭がさがる。日本に戻ってきて、横浜のニューグランドホテルを経て帝国ホテルに入社するが、帝国ホテルも大企業化する中で、世襲はできなかったのかそのキャリアは副総支配人で終わっている。

「考え方」と言っても、「企業としてのホテル」と「文化としてのホテル」の違いを説き、著者としては「文化としてのホテル」を強調したいのだが、企業としては採算も大事で、収益としてのホテルとなっていることに忸怩たる思いを抱いているようである。確かに、著者の説く「文化としてのホテル」を作るのは相当困難であると思うし、著者のような経験を持つ人がそれを継承するべきなのだろう。

代表的庶民の自分としては、縁もゆかりもない世界の話であり、だからと僻むわけではないが、こういう世界もあるんだと知るにはいい機会であった。日本には伝統的な職人も数が減っていると問題視されている。ある意味こういう真のセレブの人たちも「絶滅危惧種」なのかもしれない。是非とも「文化と伝統」を維持していっていただきたいと素直に思う。

自分とは違う世界を知るという意味で、いい一冊である・・・

posted by HH at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ビジネス/自伝 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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