2017年05月08日

【住友銀行秘史】國重惇史



プロローグ 前史
第1章 問題のスタート
第2章 なすすべもなく
第3章 行内の暗闘
第4章 共犯あるいは運命共同体
第5章 焦燥
第6章 攻勢
第7章 惨憺
第8章 兆し
第9章 9合目
第10章 停滞
第11章 磯田退任
第12章 追求か救済か
第13章 苛立ち
第14章 Zデー
第15章 解任!
第16章 虚脱
第17章 幕切れ
エピローグ あれから四半世紀が過ぎて

 「イトマン事件」と聞けば、その昔のバブル時代を象徴するかのような事件としての印象が残っている。当時駆け出しの銀行員であった私だが、実はあまり詳しいことは知らないできた。それを元住友銀行取締役の著者が当時を振り返って記したのがこの本。著者のことは、楽天の副会長になったニュースを記憶していたので、事件の当事者だったのかと改めて意外に思った次第である。

 まず初めに語られるのが、著者の簡単な略歴。なんとMOF担だったという。MOF担というのは今はほとんど死語であるが、銀行の「大蔵省担当者」のこと。当時の銀行にとって、主官庁の大蔵省は重要な存在。そこから様々な情報を取るべく、専門の担当者を置いていたのである。当時この仕事につくことは、「エリート街道に乗った」とも言われたものである。そして著者もその通りのエリート街道を歩んだようである。

 特に最初の支店長時代のエピソードは興味深い。なかなかのアイデアマンだったようである。その中で、当時の優秀な営業マンの仕事振りが紹介されているが、家に帰って奥さんに仕事を手伝ってもらっていたりして、その猛烈振りがすごい。でもよく考えてみると、当時はこんなことがあちこちで語られていたものである。著者のエピソードからしても、仕事のできる人だったことは間違いない。

 そして唐突に事件は始まる。この本は、当時著者が克明につけていたメモを元にしているという。そのせいか要所要所にメモ形式の記述が入る。時に1990年3月。商社であったイトマンの社長は住銀から行った河村氏。この人が伊藤寿永光なる人物を重用し、不動産投資にのめり込んで行く。そして許永中なる人物も絡み、美術品など住銀から出たお金がイトマンを通じて闇社会に消えて行く。このあたり著者の記述だけではどうも良くわからない。

 著者の主観で書かれているのはいいのだが、逆に客観性がないというか、事件の全体像がどうも分かりにくい。住銀の役員も多数出てくるが、人物関係がどうもしっくりしないまま読み進むことになり(いちいち確認するのも億劫)、ストレスが生じる。当時の住銀会長は、天皇と呼ばれた磯田一郎氏。私も名前くらいは聞いたことがある。そうした役員達と身近にいた著者による記述は、一般人にはうかがい知ることのないトップの様子であって、それはそれで興味深い。

 著者は、イトマンの深刻さを早くから掴み、愛行精神から行動する。されど保身や思惑にまみれた役員達の動きにイライラさせられる。日経新聞の記者に情報を流し、「従業員一同」の名前で大蔵省の銀行局長宛に内部告発文書を出す。これはこの本で著者が初めて暴露する事実だったようである。

 当時、住友銀行には大勢の行員が働いていただろう。その大半がこんな事実を知らないでいたわけで、トップに近いごく一部の人たちの世界のやり取りが実に興味深い。「メガバンクは守りの組織、徹底した減点主義で一回でもバツがついたらもうおしまい」と著者は語るが、自分は早々にバツがついた1人として、なるほどと思う。事件と合わせてそんな銀行の裏事情も興味深い。

 事件の全体像がイマイチ分かりにくいという難点はあるものの、銀行トップのリアルなやり取りは面白く、元銀行員として興味深く読めた。元銀行員でなくても面白いのではないかと思う。改めてバブルの時代は、異常な時代だったと思わされる一冊である・・・


posted by HH at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ドキュメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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