2017年07月11日

【国のために死ねるか−自衛隊「特殊部隊」創設者の思想と行動−】伊藤祐靖



第1章 海上警備行動発令
第2章 特殊部隊創設
第3章 戦いの本質
第4章 この国のかたち

著者は、元海上自衛隊2等海佐。能登半島不審船事件を現場で体験し、それが元となって創設されることになった「特別警備隊(SBU)」、つまり「特殊部隊」の創設に携わることになった方。そんな著者が、特殊部隊創設の経緯を含め自らの体験談、考えを語ったのが本書である。

冒頭では、その能登半島不審船事件の様子が語られる。著者は、イージス艦「みょうこう」の航海長として不審船を追う。日本の腰抜け政治家に発令できるわけがないとタカをくくっていた「海上警備行動」。自衛隊発足以来一度も発令されたことがないこの「海上警備行動」が発令される。この緊迫した追撃戦の迫力がすごい。自衛隊始まって以来の出来事が、まるで眼前で行われているようである。

結果として不審船を停船させたものの、今度は立入検査の問題が出てくる。高度な軍事訓練を受けていると考えられる北朝鮮工作員が待ち構えている中に入って行くということは、かなりの確率で死を意味する。隊員たちが防弾チョッキがわりに少年マガジンを体に巻いて「お世話になりました、言って参ります」と挨拶する。この緊迫感はすごいと思う。

そしてこの経験の反省から特殊部隊の創設となる。と言っても手順が決まっているわけではなく、手探りで進めて行く。普通に考えると、米軍に教えてもらうとなるのだろうが、米軍には断られてしまう。しかし、実は特殊戦の世界では米軍の評価は低いのだという。装備品は高価で最新のものであるが、個人の技量は信じられないくらい低いのだとか。映画の世界とは大違いのようである。

また、以前から個人的に気になっていたのが、「自衛隊は強いのか」ということ。これに関しての説明が興味深い。曰く、日本人はトップのレベルに傑出したものはないが、ボトムのレベルが他国に比べて非常に高いのだそうである。そして軍隊はその国のボトムの集まりであり、従って自衛隊の隊員のレベルは他国の軍隊と共同訓練をするとその優秀さに驚かれるレベルなのだとか。「最強の軍隊はアメリカの将軍、ドイツの将校、日本の下士官」というジョークが紹介されるが、さもありなんと思う。

そして著者は、自衛隊を退官すると、フィリピンのミンダナオ島に行く。目的は戦闘行動について、必要な技術、知識を習得しそれを必要とする後輩に伝えること。治安の悪いその地で著者が得た死生観は、普通の日本人には触れることのできないものだろう。「戦いの本質」と著者は表現しているが、今の平和な日本では忘れ去られているもの。その内容には言葉も出ない。

一方、防衛大学内での訓練での「想定外」の話も面白い。非常事態を想定し、学生を伝令に向かわせるが、走って行く。伝令の任務はと問われ、学生は「早く正確に」と答える。だが、早くならバイクを使う方が走るより早い。なのに学生の頭の中には「防衛大生はバイクに乗るのは禁止」というルールで固まっている。非常時ならルールから逸脱することもありだが、平時と非常時の意識、常識を捨てられない問題として説明されているが、似たような問題は身の回りでもあると思う。

そして最後に出てくる自然の生物の摂理。
・殺し殺されながら共存している
・そのためのルールがある
・全部を生き残らせようとしたら全滅する
・必要以上に殺してしまえば自分が飢える
日本人がバブルを契機に、経済力の勢いを衰えさせたことと絡めた哲学は、深く考えさせられるものがある。

憲法9条死守を叫ぶ人たちには、絶対に受け入れられることのない本だと思うが、人間の本質のところで理解しておかないといけないことが書かれている。軽い気持ちで手に取ったが、実に重みのある内容であった。信条的にどうとかいうことでなく、是非とも読んでおくべき価値ある一冊である・・・


posted by HH at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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