2017年07月31日

【隷属なき道−AIとの競争に勝つ ベーシックインカムと一日三時間労働−】ルトガー・ブレグマン



原題: UTOPIA FOR REALISTS And How We Can Get There

第1章 過去最大の繁栄の中、最大の不幸に苦しむのはなぜか?
第2章 福祉はいらない、直接お金を与えればいい
第3章 貧困は個人のIQを13ポイントも低下させる
第4章 ニクソンの大いなる撤退
第5章 GDPの大いなる詐術
第6章 ケインズが予測した週15時間労働の時代
第7章 優秀な人間が、銀行家ではなく研究者を選べば
第8章 AIとの競争には勝てない
第9章 国境を開くことで富は増大する
第10章 真実を見抜く一人の声が、集団の幻想を覚ます
終 章 「負け犬の社会主義者」が忘れていること

著者はオランダ出身の歴史家、ジャーナリスト。本国オランダでベストセラーになり、英語版は自費出版で火がついたというこの本。それほど深い興味を持っていたわけではなく手に取ったのだが、その内容に驚かされることになった一冊である。

現代は、人類史上最も豊かな社会であるという。1820年には世界人口の80%が極めて貧しい生活を送っていたが、現代ではそれは10%。オランダにおいては、公的補助を受けているホームレスの生活費は1950年の平均的なオランダ人より多いのだとか。世界的には、空腹に悩む人より肥満に悩む人の方が多いという指摘は、確かにその通りなのだろう。一方で、うつ病が10代の若者の最大問題で、2030年には世界の病気の第一位になるという指摘には愕然とさせられる。

そんな現代社会において、著者はこの世界を救う方法として、
1. ベーシックインカム
2. 1日3時間労働(週15時間労働)
3. 国境線の解放
を提案している。

ベーシックインカムとは、基本的な給付金のこと。わかりやすい事例として、イギリスでホームレスに3,000ポンドの現金を支給する実験をしたことを例示する。その実験の結果、対象の13人のうち9人が一年後には屋根のある生活を送り、あるいはその見込みが立つようになり、全員が生活改善へと向かったという。ホームレス対策にお金をかけるより、現金を渡す方が少なく、かつ効果的だという。なかなか我々の常識ではすぐに納得できそうもない内容である。

しかし、同様の実験はケニアやウガンダなど各地で行われてそれぞれ効果を見せているという。それらの実験では、フリーマネーをもらった人たちが買わなかった一群の商品は、なんとアルコールとタバコだったという。日本で言えば、生活保護の代わりに現金を渡せということになるのだろうが、本当に上手くいくのだろうかと疑問を禁じ得ない。

また、日本でもカジノの議論があるが、これもアメリカのノースカロライナ州でチェロキー族の土地に作られた例が紹介されていて興味深い。日本と同様、カジノを建設すれば犯罪の温床になったりギャンブルで身を持ち崩したりということが危惧されていたが、オープンしてみればカジノ効果で学校、病院、消防署が新設され、チェロキー族の人々も収入が4倍になったという。日本の共産党の人はこの事実に対し何ていうだろう。

また「ハウジングファースト」というホームレスに住宅を供給する試みも興味深い。ヨーロッパでは空き家がホームレスの2倍、アメリカでは5倍あるといい、ユタ州ではこれでホームレスが74%減り、オランダでもホームレス対策費の2〜3倍の効果があったという。自分の先入観を一旦クリアしないといけないのかもしれない。

「1日3時間労働」は、夢のような話だと思ったが、実は労働時間が増えて経済成長がもたらされても、一定限度を超えるとそれは借金をベースとした消費に向かい、その結果それを賄うために働かなければならなくなっているという悪循環が説明される。つまり、働く時間を減らしても今の生活は維持できるのだという。これもにわかには信じ難い。

さらに国境線の解放は労働者の自由な移動をもたらし、その結果、全世界で65兆ドルの富が増えるという。移民に対し保守的なわが国では、気を失う人が大勢出そうな意見である。しかし、移民は仕事を奪うことなく、逆に増やすものであり(イスを持ってイス取りゲームに参加してくるという言い回しがなされる)、安い労働力のせいで賃金が下がるという意見には、そうしなくても結局企業は製造拠点を安い海外に移すことで国内の賃金を下げてしまっていると説明する。

その他、銀行員や会計士など、「富を移転する」だけで有形の形を生み出さない人が高給を得ている現状を批判する。銀行が1ドル儲けてるとどこかで60セントの損失が発生するが、研究者が1ドル儲けるとそれは5ドル以上の経済効果を世にもたらすといる。アイルランドでは半年間銀行がストライキをしても影響はなかったが、NYでは清掃員が10日間ストライキをしたら大混乱になったとし、「富を生み出す」人を重視せよと説く。

目から鱗の意見の連続で、大いなる刺激を受けた。この内容の是非はともかくとして、自分の常識に凝り固まってはダメだと思うし、ここに書かれていることがわが国でも当てはまるのかどうか大いに興味をそそられた。是非ともトライしてみてはと思うところである。
手にした時は、特に期待もしていなかったが、久々に刺激を受けた一冊。こういう本は読んでおきたいと素直に思わされる一冊である・・・



posted by HH at 00:00| Comment(0) | ビジネス/自説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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