2017年10月31日

【きみが来た場所 Where are you from? Where are you going?】喜多川泰 読書日記852



昭和五十一年夏
序章 平成二十三年夏
Candy
大波にのまれる小舟 昭和二十年七月
振り子
覚悟 昭和二十年九月
受け入れよう
愛するものがいればこそ 昭和二十年七月
鏡に映る自分
出会い 昭和二十五年
集中
確率 昭和四十四年
原因と結果
希望の塊 昭和四十五年
大切にするから
二つの使命
再会
Another story別の物語の始まり 平成二十九年一月

これまでも何冊か読んでいて、そのテイストが気に入っている喜多川泰の本をまた一冊。ちょっと不思議系の入る物語である。冒頭に家系図が載っていて、最初は意味がよくわからなかったが、読み終えてから改めて見るとその意味もよくわかって感慨もある。最後に乗せてくれていてもよかった気もする。

主人公は、塾を経営している松本秀平。大手自動車メーカーを退職して、自らの理想を体現する塾を開業するも、なかなか生徒が増えずに苦戦している。妻の涼子は、塾の運営を手伝おうとしていたが、2人目の子供を身ごもって断念。秀平の負担を減らすべく、秀平の実家で産む決意をして一時的に家を出て行く。

1人残された秀平は、ある日いつものホームで入ったコンビニで違和感を覚える。普通のコンビニとも異なる雰囲気で、和服姿の女性が応対し、そこで「ルーツキャンディ」という商品名の飴を買う。電車に乗り込むとその飴を口に入れる。すると昭和20年7月の朝鮮半島でのある家族の物語を体験することとなる。敗戦濃厚となる中で、一家の大黒柱である義雄は、家族を連れて清津へと向かっている。しかし、内地への船には乗れず、諦めて平壌に戻るも身重の妻は移動が負担となったのか母子ともに亡くなってしまう・・・

目が覚めた秀平は、あまりにもリアルな夢に驚き、そしてそれが自分の祖父の体験したことだと気がつく。さらにもう一度同じ体験をし、秀平はどうやら不思議な飴を舐めると祖父や父らの過去を疑似体験できることがわかってくる。塾の経営は困難で、家族を抱えて不安に押しつぶされそうな日々を送る秀平は、こうして飴を舐めては父や祖父たちの過去を体験する。それは困難に満ちた日々であった。

一種のタイムトラベルものだが、飴を舐めることによって父親や祖父の経験を夢で見ることができるという発想が面白い。特に祖父は激動の戦中を生き、家族とも死に別れ、そしてギリギリのところで生き別れるところを回避したりして生き延びている。父もそういう貧しい環境で育ち、高度成長期の日本で母と知り合い苦労をしながら秀平を育てていた。そういう親たちの姿から、秀平は何かを学んで行く・・・

人は誰もが自分の苦労は世界で一番大変なような気になるというもの。理想に燃えて大企業の安定した職を捨てて塾を開業した秀平もまた然り。困難の連続に心が折れそうになっている。しかし、当然ながら世の中にはもっと大変な思いをしている人もいるわけで、それが自分の身近な家族であればなおさら言い訳はできなくなる。そんなメッセージが心に響いてくる物語である。

考えてみれば自分の父親も田舎から中学を卒業してすぐに上京して住み込みで働き始めているし、その苦労は今の自分の比ではないと思う。「もっと大変な思いをしてきた人たちがいる」という事実は、何より自分が頑張ろうというモチベーションになる。本を読みながら自分もいつの間にか父親の話を思い出していた。

例によって時折胸が熱くなることしばしば。電車の中で読む時は要注意である。そして物語の根底に流れるエールに力づけられる。
この人の本は、本当に読む価値があると思う。読んで元気になることができる。できることなら子供にも読ませたいが、そういう気持ちが伝わるだろうかと思ってみる。生きるのが大変だと感じている若者なら、読んで見るべき一冊だと言える。

また他の著書も読んでみたいと思わされる一冊である・・・



posted by HH at 23:43| Comment(0) | 良い話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: