2020年03月31日

【21世紀の啓蒙(上):理性、科学、ヒューマニズム、進歩】スティーブン ピンカー 読書日記1135



原題:ENLIGHTMENT NOW:THE CASE FOR REASON,SCIENCE,HUMANISM,AND PROGRESS
《目次》
第1部 啓蒙主義とは何か
 第1章 啓蒙のモットー「知る勇気をもて」
 第2章 人間を理解する鍵「エントロピー」「進化」「情報」
 第3章 西洋を二分する反啓蒙主義
第2部 進歩
 第4章 世にはびこる進歩恐怖症
 第5章 寿命は大きく延びている
 第6章 健康の改善と医学の進歩
 第7章 人口が増えても食糧事情は改善
 第8章 富が増大し貧困は減少した
 第9章 不平等は本当の問題ではない
 第10章 環境問題は解決できる問題だ
 第11章 世界はさらに平和になった
 第12章 世界はいかにして安全になったか
 第13章 テロリズムへの過剰反応
 第14章 民主化を進歩といえる理由
 第15章 偏見・差別の減少と平等の権利

 著者は、ハーバード大学の心理学教授だという。心理学の教授というイメージとこの本の内
容はマッチしないが、だからどうということではない。この本で著者は、「理性・科学・ヒューマニズム・進歩」という4つの理念からなる啓蒙主義の理念から発想を得た世界観を示すとしている。それは一言で言えば、世界はよくなってきているという考え方である。

 人間を理解する鍵は、「エントロピー」「進化」「情報」だとする。そしてこの3つの鍵で人類は呪術的世界観を葬ったとする。適切なルールがあれば必ずしも合理的とは言えない人々のコミュニティであっても合理的な思考を育むことができる。認知力と規範・制度が人間の不完全さを補うという冒頭の啓蒙主義についての考え方が興味を引く。ニュースと認知バイアスが誤った世界観を生むという考えはよく理解できる。

 世界を正しく認識するには「教えること」が大事なのだという。今生きている人が何人で、その中の何人が暴力の犠牲になっているかというようなことである。そして例示されるのは、18世紀中頃の欧米の平均寿命は35才で、これはそれ以前の225年間ずっと変わらなかったものだが、今アフリカで生まれる子供たちは1930年代の欧米人と同程度の寿命を期待できるのだとか。特に乳幼児死亡率と妊産婦死亡率が著しく低下しているという。

 なんとなく先日読んだ『FACTFULNESS 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』と似通った展開であるが、それは著者も意識しているようで、本文中でも触れられている。急激な人口増でも飢餓率は減少。それは化学肥料が農作物の生産量を飛躍的に増加させたことによる。今では批判されることも多いグローバル化だが、それによって貧しかった国を豊かにし科学技術の発展がより良い生活をより安く実現することに貢献している。

 意外なのは、20世紀以降の格差縮小の最大要因は戦争だということ。これは低いレベルでの格差縮小だと言われれば納得できる。また、「貧困」を「人が稼ぐ額」ではなく「人が消費する額」で定義すると、実はアメリカの貧困は1960年代の30%から3%へと大幅に低下しているのだとか。消費面での格差縮小の原動力は「グローバル化」と「技術の進歩」である。不平等と貧困は別物であり、不平等の解消より経済成長率を上げ富の総量を増やす方が重要である。いくつかの点で世界はより不平等になったが、より多くの点で世界の人々の暮らしは良くなっている。金持ちには心地よい意見である。

 環境についても人は豊かになるにつれ環境に関心を向けるものだという。「スモッグと引き換えでしか電気が手に入らなければ人々はスモッグと共に暮らすだろう」と言われればその通りかもしれない。人が必要としているのは資源ではなく、必要をアイデアを用いて実現することであり、よって資源を使い尽くすことはないという。確かにまだ石油も枯渇していないし、レアメタルも然りである。素人的には否定するのは難しい。さらに気候変動への啓蒙的対処法を説くがこれは如何なものかという内容である。

 脱炭素化という点で、著者はその鍵を原発に求める。その理由として、チェルノブイリ事故も直接の死者は31人であり、福島はゼロ。その後ガンで死んだとされる人も数千人であり、石炭火力発電の年間死亡者100万人とは比べるまでもないという。ただし、居住不可能地域については触れられていない。内戦による死者も事故によるものも殺人によるものも皆すべてかつてより大幅に減少しており、増えているのは薬物過剰摂取(ドラッグ)くらいだとか。世界はより安全により平和になっているというのが著者の意見である。

 『FACTFULNESS 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』と同様、データをもとに人々の意外な思い込みを否定する内容。確かにその通り。ただ、原発では不都合な部分には触れられておらず、全部なるほどというには抵抗がある。是非とも専門家による反論(あればだが)を読んでみたいと思う。上下巻とも厚い本であり、上巻だけでもかなりある。頑張って下巻も読んでみたいと思う一冊である・・・ 







posted by HH at 19:28| 東京 ☀| Comment(0) | ビジネス/自説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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