2017年01月18日

【世界を変える100の技術−日経テクノロジー展望2017−】日経BP社編



1章 すべてが変わる
2章 交通が変わる
3章 住まいが変わる
4章 医療が変わる
5章 産業が変わる
6章 危険から守る
7章 もっと早く、もっと便利に
8章 今なお残る課題を見極める

技術の進歩は日進月歩であるが、2017年は技術立国日本の底力を改めて発揮する転機の年になるという。そんな考えを持つ日経BP社の技術専門誌の記者一同が分野を問わず最先端の技術を集めて紹介したのが本書である。中にはもう見聞きしているのもあり、また初めて知るというものもある。興味深く読んだ一冊。

まず初めに登場するのが、「チャットボット」。チャットするロボットということであるが、ネットで花を買おうとしている人が、サイト上であれこれとチャットでやり取りし、注文に至る経緯が紹介されている。このチャットの相手をするロボットのことである。こういう「人に寄り添う」テクノロジーは、これからどんどん広がっていくのかもしれない。腹立たしいお客様コールセンターの対応(「○○の方は△番を押してください」というアレだ)ももっとスムーズになっていくのかもしれない。

面白かったのは、電気味覚フォーク。舌先に電気を流し、例えば塩味を感じさせるという。これによって塩分を控えないといけない高血圧患者の食事療法に生かせるという。音声認識はテレビに内蔵し、高齢者が口頭で簡単に番組予約をできるようにするという。一人で録画ができない実家の母には便利そうだ。腸内の健康状態を匂いで検知するにおいセンサー、体内に埋め込むインプラント機器、半身麻痺でも漕げ、階段も登れる車椅子等々生活も便利になっていく。

VR(仮想現実)は一般化してきているが、ポケモンGOのようなAR(拡張現実)もますます拡大し、やがてMR(複合現実)により目の前に実写映像のように映し出せるものが実現する。SF映画がますます現実化してくるわけである。自動運転の開発については、あちこちで目にし耳にしているが、その性能の良し悪しは、ソフト次第なのだという。Googleが手を出すわけである。さらにEV車の走行中給電技術により、もはや充電作業そのものが不要になるようである。

そしてやはり気になるのが医療技術。自己の免疫力で癌を叩いたり、臓器の3Dプリンティングや、次世代手術支援ロボット、高齢者見守りシステムなどは、ますますの高齢化社会を招き、その良きサポートになりそうである。昨今、IoTという言葉が一般化してきている。しかし今後は新しい製品やサービスを始めようとすると、何らかの形でIoTになるのだという。問われているのはIoTを使って新しい何かを打ち出す構想力だという。

こうなると、何ができるかというよりむしろ「人間がやることは何か」が問われていくという。それもまた面白い変化だと思う。そういう世界にきっちりついていかないといけない。周りの年配の人は、スマホを敬遠し、パソコンすら決まった利用範囲でしか使わなかったりする。「若い人にはついていけない」と口癖のように言うのを聞き、自分はそうならないようにせねばならないと思う。何事も意欲と好奇心なのかもしれない。

来るべき時代に備えて、一読しておいた方がいいかもしれない一冊である・・・




posted by HH at 22:01| Comment(0) | TrackBack(0) | ドキュメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月04日

【レクサス星ヶ丘の奇跡】志賀内泰弘



第1章 「お辞儀」ひとつでファンになる、「挨拶」ひとつで人生が変わる!
第2章 キング・オブ・レクサスと呼ばれるまでの苦難の道
第3章 「わかりません」「できません」とは言わない
第4章 すべての人に「ハグ」する気持ちで仕事をする
第5章 イノベーションは小さな気遣いから生まれる
第6章 サービスとは、先に「心」ありき
第7章 サプライズよりもプラスワン

 タイトルからもわかるように、この本はレクサスの店舗のひとつである星が丘店のサービスについて取り上げた本。レクサスの看板を掲げていても、実はそこはキリックスグループという独立法人の店舗であるようで、つまりはフランチャイズということである。同じレクサスでも実態は別会社ということで、だからサービスもそれぞれ異なるのであろう。そういえば、以前ホンダクリオ新神奈川のことを取り上げた『サービスの底力!』という本を読んだが、そのレクサス版と言える。

 最初に出てくるのは、店舗の入り口に立つ警備員。なんと1,000人のお客さんの名前を覚えているという。9時半が出社時間だというが、早く来るお客さんのために毎日9時に出社。お客様の案内は当然として、そのサービスは店舗前を通るすべてのレクサスにお辞儀するところにも表れているという。それがお客様に支持され、お礼状をもらったり、時にクレームの解決にも役立ったりしているという。

 そうしたサービスは、近隣にある三越に買い物に来るお客さんに無料で駐車場を提供したり、洗車したりというところにも及ぶ。営業マンが訪問するのは大変だが、それをやることによってお客さんから来てくれるのでありがたいという。そうしたサービスは、アシスタントと呼ばれるバックヤードのスタッフにも徹底されていて、電話番号を覚えてしまったり、プライベートで遭遇した事故現場でとっさの機転を利かせたりというところにも表れている。

 誰か一人優れている人がいるというより、全体にそうした精神が溢れているようである。そんなサービスを支えるのに必要なのは、マニュアルよりも心が先だとする。当然マニュアルもあるようであるが、マニュアルは形であるから、形ばかりできていてもそれで喜ばれるとは限らない。アソシエイト担当部長の言葉がとても参考になる。
 1. サービスとは相手を「思いやる心」
 2. 「思いやりの心」は、自分が幸せでなければ相手のことまで気が及ばない
 3. 健康でないと幸せとは言えない
お客様第一のためにも、自分の健康ありきというところは納得である。

 組織になると、どうしても出て来るのが「セクショナリズム」。その危険に気づき、セクションの壁を取り払うことを意識する。
お客様から頼まれない(=頼まれる前に気づいて実行する)。
サプライズよりプラスワン。
365日サービス体制。
こうしたことの結果、県外からもわざわざ星が丘店に買いに来ると言う。この店で買いたいと思わせたら勝ちである。

 こうしたスタッフ一人一人のサービスは、やれと指示してできるものではない。みんなが自ら率先してやろうとしなければやれるものではない。詳しくは触れられていないが、たぶんトップがそうなるような環境を作っているのだと思う。社主として紹介される山口春三氏の幼少時代のエピソードからその人となりがうかがえる。戦時中、男手がなくて耕せないでいた近隣の畑を頼まれもしないのに耕したのだとか。その時喜ばれた原体験が今も生きているのであろう。

 「見返りを期待せずに尽くせば必ず返って来る」
レクサス星が丘のサービスを読んでいて感じるのは、根底にあるその考え方だと思う。
 サービス業に携わるならば、是非とも心掛けたいことである・・・


  
posted by HH at 22:45| Comment(0) | TrackBack(0) | ドキュメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月15日

【冤罪 田中角栄とロッキード事件の真相】石井一



第1章 オヤジの側近として事件の渦中に
第2章 ロッキード裁判は間違っていた
第3章 真相を求め米国へ
第4章 米国の「陰謀」-その構図
第5章 何がオヤジを「闇将軍」にしたか
第6章 苦悩のゴルフとオールドパー
第7章 オヤジが枕元に置いた小冊子

最近、「田中角栄」がブームである。火付け役は、石原慎太郎の本であろうが、そのヒットを受けてなのかテレビ番組や関連本などが多数目につく。普段はそんな「便乗商法」には乗らない自分なのであるが、「元側近」が書いた「真相」に興味を持って、「便乗」に手を出した次第。

著者は、かつて「田中軍団の青年将校」と言われた政治家。50年前の昭和41年、神戸から立候補するにあたり、田中邸を訪れて初めて角栄に面会したという。その時激励とともに渡された封筒に入った30万円を渡される。今の価値にして300万円くらいらしいが、角栄といえば今でも「金権政治」のイメージがあり、それを彷彿とさせる。著者も「金権政治は事実」と認めている。ただし、角栄のお金は自分の商才で稼いでいたもので、他の政治家とは違うとも述べている。

かくして角栄から期待され、やがて側近になった著者。そこへロッキード事件が起こる。「逮捕」は寝耳に水であったという。当時の角栄非難の世論は凄かったと記憶しているが、著者は角栄批判の矢面に立ったという。当然、選挙にも落選し、それは著者のキャリアにも影響したそうである。ポピュリズムに走る最近の政治家と比べると、選挙に落選する覚悟であえて火中の栗を拾える政治家でもあることをうかがわせる部分である。

ロッキード事件は、ロッキード社のコーチャン副会長の「嘱託尋問調書」が発端となっている。事件の捜査段階で最高裁が不起訴確約の宣明書を出し、証拠採用する。のちに最高裁自身がこの証拠採用を取り消しているが、検察はこれを基に捜査を開始し、各証人から証言を集め、一審有罪に持っていく。手続き的に違法だとする指摘はその通りだと思うが、大事なのは「真実」はどうかという部分。ここも著者は米国の陰謀説を主張していく。

もともと角栄は総理大臣就任後、独自外交を進め、アメリカに先駆けて日中国交回復を成し遂げた。これが「米国の虎の尾を踏んだ」のかと思っていたが、その前に独自の資源外交も展開していたという。その相手には、アメリカが擁護するイスラエルと敵対するアラブ諸国や、冷戦中のソ連も含まれていたという。これが、キッシンジャーの怒りを買い、事件をでっち上げられたとする。「水を飲むのに井戸を掘った人を忘れない」とする中国からすれば、大事な友となるのであろうが(『中国で尊敬される日本人たち』)、飼い犬が逆らうことをアメリカは良しとしなかったのであろう。

著者は、真相を探るため独自に渡米し、味方として著名弁護士の協力を得る。しかし、田中角栄ご本人は無罪を信じきっていて、のちにこの弁護士の協力を断ってしまう。著者はその心境を「米国に仕掛けられたワナから逃れるのに米国人の手を借りたくないという日本人としてのプライドがあったと思う」と語る。それが果たして仇になったのか、頼んでいたら無罪となっていたのか、今となっては「もしも」の話でしかない。

読んでいて問題だと思うところは、マスコミの世論リードであろう。「有罪」一色の論調。そしてそれが世論に波及し、裁判官ですら無視できない雰囲気だっただろうと語る。裁判官がどの程度世論の影響を受けるかどうかわからないが、しかし当時から事件に疑問を投げかける主張はあったようであるし、中立的な報道をするところがあれば、ムードも変わったのかもしれない。しかし、現代に至るまでその傾向は変わらず、政治家はますます世論を気にするポピュリズムが蔓延してしまっている。

アメリカではいまだに機密指定されている資料があるそうだし、いずれ真相が明らかになるのかもしれない。そういう意味で、「歴史の評価」はいずれ定るのであろう。当初から信念を持って田中の無罪を訴えてきた著者が、この頃の角栄ブームでチャンスを得て、積年の思いを一気にぶちまけたかのような内容。著者の信念の迫力が随所に溢れている。冤罪を生み出す危険性はまだ内包されているようであるし、いろいろな問題にも気がつく。

単なる角栄ブーム本の一つと切り捨てるのは惜しい、一読の価値ある一冊である・・・



posted by HH at 21:01| Comment(0) | TrackBack(0) | ドキュメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年12月14日

【貧困女子】鈴木大介



第1章 貧困女子とプア充女子
第2章 貧困女子と最貧困女子の違い
第3章 最貧困女子と売春ワーク
第4章 最貧困女子の可視化
第5章 彼女らの求めるもの

何やら穏やかならぬタイトルであるが、格差拡大が危惧される我が国において、収入面でその底辺にいる人たちのうち、特に女性にスポットを当てたルポである。
タイトルの「最貧困女子」であるが、これは年収114万円未満で、特に10〜20代の女性を「貧困女子」というのに対し、さらにその下の層に所属する女性たちを指している。
何だか読むのを躊躇わせるものと興味とが混ざり合うタイトルである。

読んでいくと、そこには一括りにできない様々な実態があることがわかる。
単に年収が低いだけが問題ではない。
年収が低くとも、「プア充女子」と呼ばれる女性たちは、地域の中で仲間とシェアし助け合い、低い年収をカバーして生きている。

「貧乏」と「貧困」は同じようでいて実は異なる。
「貧乏」は単にお金がないだけ。
「貧困」は、それに加え「家族・地域・友人などあらゆる人間関係を失い、もう一歩も踏み出せないほど精神的に困窮している状態」だとする。

著者は、人は低所得に加え、「3つの無縁」と「3つの障害」から貧困に陥るとする。
「3つの無縁」とは、「家族の無縁・地域の無縁・制度の無縁」であり、「3つの障害」とは「精神障害・発達障害・知的障害」であり、これらを複合的に抱えているのも珍しくはないらしい。
そんな女性たちの取材実例が紹介されていく。

女性たちが落ちて行く先は決まって風俗であるが、それも容姿によって「救われ具合」が異なるのは想像に難くない。
毎日出会い系サイトで「募集」しても、書き込みから何時間しても「応募」がないケース。
その「日銭」で二人の子供を育てる女性が登場するが、なんとも言えない気分になる。

著者もただ興味本位、金目的で取材しているだけではなく、それなりに苦境脱出の手助けを試みたらしい。
だが、ただ一人として改善に導けた例はないと告白している。
そしてやがて圧倒的不自由・悲惨・壮絶から、著者は「尻尾をまいて逃げ出」す。
読む者にとっても、いい気分がしないもので、直接接していれば当然かもしれないと思う。

そして著者は、そんな状況の改善策としてまず「小学生時代に救いの手を」としている。
何事も早めの対処が肝心なゆえ、それはよくわかる。
特に5時以降の時間外の「居場所ケア」「夕食サービス」については、いいアイディアだと思う。
だが、成人後の「セックスワークの正常化」案については、違和感を禁じえない。
こうした「最貧困」は可視化できないところに問題があるというのはよくわかるが、「セックスワーカーの社会的地位を高めていき、彼女らが労働者として保護されるようにする」という案は、なかなか過激だ。

まぁその意見の是非はともかくとして、週一回の副業でセックスワークに従事する女性とか、およそ普段考えもしない実態が描かれているところは、全くの興味本位であるが収穫であった。
何でもそうだが、世の中の実態を知るということは、改善の第一歩である。
いろいろと付随して考えさせられるところの多い本であることは確かである。
何もできるものはないが、世の中の事実を知るには良い一冊である・・・

posted by HH at 20:55| Comment(0) | TrackBack(0) | ドキュメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年10月08日

【なぜ今LOWSONが「とにかく面白い」のか】上阪徹



Chapter 1 「驚きのスイーツ」はいかにして生まれたか?
Chapter 2 そもそもコンセプトが違う「MACHI caféコーヒー」
Chapter 3 実は「保存料ゼロ、合成着色料ゼロ」製造工場の挑戦
Chapter 4 自社出資の農場から野菜を直送「ローソンファーム」
Chapter 5 「健康」に配慮された食品がなにげなく、続々と
Chapter 6 「Ponta」データ分析でリアルな消費行動を読み取る
Chapter 7 一点集中主義、「これぞローソン」を作りたい
Chapter 8 共存共栄を目指す対等なパートナー「FCシステム」
Chapter 9 「お客さまに来ていただくのではなく、お客さまに近づく」
Chapter 10 ローソン誕生40周年「180日プロジェクト」
Chapter 11 ローソンは、コンビニはどこへ向かうのか?

著者は、『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか』『弁護士ドットコム困っている人を救う僕たちの挑戦』の著者でもあるフリーのライター。
どうやらこの手の” 企業モノ”が得意な方のようである。

普段利用するコンビニと言えば、セブンイレブンかファミリーマートという私であるゆえに、ローソンの品揃えについてはあまり知らなかった。
だが、それはちょっと損していたのかもしれない。
はじめに紹介されるのは、「驚きのスイーツ」と言われる「ローソンプレミアムロールケーキ」。
140種類の生クリームから選び抜かれた3種類の生クリームのブレンドで、女性の圧倒的支持を受けて人気商品となっているという。

「添加物を使わない」低糖質の「ブランパン」は、血糖値を気にする人に喜ばれているという。
そして今ではどこでもやっている「店頭コーヒー」は、ローソンでは店員さんが淹れてくれるという点で、他のコンビニとは異なる。
それは機械まかせだと、サービスが行き届かなかったり、ミルク系のコーヒーが出せなかったりするためだという。
そんな店員さんが淹れるローソンの「MachiCafeコーヒー」のスタートは、セブンイレブンより早かったらしい。

一日3万食以上の弁当、18万食のおにぎりは、こだわりの米を使う。
ローソンファームで作られた野菜を直送する。
おでんの大根は、畑で抜いて1時間以内に工場に運ばれるという。
「コンビニ弁当」と言えば、「それなり」と思っていたが、ここまで拘られるともうバカにできないものがある。

旬にあまおうのいちごを使ったサンドイッチは、ものすごい人気だという。
国産の高級魚を使ったおにぎりとなると、これはもう食べてみるしかないと思う。
牛ハラミのおにぎりもしかり、である。
私も持っているPontaカードで、顧客のリアルな消費行動を分析して活かしているらしい。

以前は、搾取されているかのようなフランチャイズ経営も、ローソンでは対等なパートナーシステムが導入されているという。
コンビニで唯一ミステリーショッパーを導入し、加盟店の自由度も高いようである。
ヘルスケアへの取り組み、介護相談窓口の設置など、進化は続いている。

社長は元慶応ラグビー部の玉塚氏。
現役のプレーヤーの頃から知っていて(もちろんテレビで、だ)、親近感もある。
これからもう少しローソンの利用を増やしてみようかと思っている。
と言っても、私の行動範囲内に店舗が少ないのがネックだ。

『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか』もそうだったが、こういう企業研究モノは、個人的に大好きである。
自らの仕事にも何か応用できないかと考えてみたりする。
役立つか役立たないかももちろんあるかもしれないが、単純に好きで面白いと思う人にはいいかもしれない。
また、別の企業を採り上げてほしいと思ってみたりする。
そのあたり、是非期待したいと思わずにはいられない一冊である・・・

posted by HH at 21:11| Comment(0) | TrackBack(0) | ドキュメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年07月08日

【パナソニック人事抗争史−ドキュメント−】岩瀬達哉



第1章 カリスマ経営者の遺言
第2章 会長と社長の対立
第3章 かくて人事はねじ曲げられた
第4章 潰されたビジネスプラン
第5章 そして忠臣はいなくなった
第6章 人事はこんなに難しい

タイトルには、「人事抗争史」とあるが、内容はと言えば、歴代社長間の対立・暗闘・苦闘とも言うべきものだろうか。
パナソニックトップの雲の上の話である。

パナソニックと言えば、「松下電器」。
そして松下電器と言えば、創業者の松下幸之助。
著者は、どうやらこの手のドキュメンタリーが得意なジャーナリストであるらしいが、さすがに「経営の神様」には批判の目を向けることはなく、その矛先は二代目社長の松下正治に向かう。

松下正治は、松下幸之助の娘婿であり、その縁もあってであろう二代目社長となる。
しかし、どうも経営者としての能力は「神様」に評価されていなかったようで、「神様」は生前三代目社長山下俊彦に「ポケットマネーで50億円用意するから、正治氏に渡し引退して二度と経営に口を出さないようにさせろ」と言い残したという。
ところが、これは猫に鈴をつけるような話。
山下社長はそれを実行せぬうちに、社長の座を四代目谷井昭雄に譲る。

四代目谷井社長は、「神様」の遺言を忠実に実行しようとするが、当然ながらの抵抗に遭う。
そしてそうこうするうち、「ナショナルリース事件」「欠陥冷蔵庫事件」と世間を揺るがす大事件が立て続けに起こり、谷井社長自身の進退問題となる。
そして、本社は迷走を始める。

松下電器は映像部門への進出を図るべく、アメリカのMCAを買収する。
ところが迷走する中、USJの提案を却下し、挙句にMCAを冷たく売却する。
のちに売られた先のシーグラム下で、USJが花開き、現在の成功につながる。
このあたりの事情は初めて知るところであり、興味深い。
判断を間違えていなければ、パナソニックの凋落もなかったのであろう。

また、時代遅れとなりつつあったブラウン管テレビに投資を集中させて、テレビ部門で出遅れ、さらに次世代のプラズマと液晶のうち、プラズマに舵を切って敗北を喫する。
まだどちらが有利かわからない時、松下電器の資金力なら両方進めることもできたという。
まぁこのあたりは運不運もあるかもしれないが、結果論としては経営判断の誤りは致命的だ。

コネと地道な取材を重ねたのであろうが、普通は知り得ないような「雲の上の話」は、それだけでなかなか興味深い。
神様の娘婿松下正治氏は、すっかり「諸悪の根源」だが、ご本人には当然言い分があるだろうし、片方の話だけの「欠席裁判」は公平ではないかもしれない。
ただ、一つの見方としては、面白い。
きっとどこの企業でも、雲の上の方はドロドロしていて必ずしも現実の空のようにスカッと晴れているということもないのかもしれない。

届かぬ世界を見上る下々の庶民の立場としては、純粋に面白がって楽しめていいのかもしれない一冊である・・・
   
 
posted by HH at 22:15| Comment(0) | TrackBack(0) | ドキュメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年05月20日

【なぜ関西のローカル大学『近大』が、志願者数日本一になったのか】山下柚実



はじめに 近大の「なぜ」には「理由」がある
第1章 志願者数トップの理由
第2章 近大マグロを誕生させた大学力
第3章 教育と経営が共存する秘訣
第4章 若者の心をつかむ情報発信力
第5章 近大が日本一へと躍進した原点

近大と言えば、最近は「マグロ」ですっかり有名である。
世界で初めて完全養殖に成功したという話題は、あちこちで取り上げられているし、昨年はグランフロント大阪にレストランを出店して大盛況とニュースになっていた。
そんな近大が、なんと入学志願者数で日本一になったという。
そんな近大を採り上げたのがこの本。
何事にも興味を持つという信念から手に取った一冊である。

それまでの入学志願者数日本一は明治大学だとのこと。
それを2014年度の入試で近大が抜いたという。
まさか「マグロ」効果で、みんなマグロの養殖に惹かれたわけではないだろうとは思ったが、それはさすがにその通り。
そこには学生確保に対する取り組みがある。

女子の確保を狙った総合社会学部・建築学部の新設。
女子トイレは男子トイレの倍の広さ、近代的なキャンパスを作り、斬新なデザインの「英語村E3」を設置する。
東京にいるとわからないが、近大と言えば男くさいバンカライメージだったらしいが、これで女子比率が上がったという。
また紙の願書を廃止し、すべてネット経由とした「エコ出願」。
こうした取り組みが紹介される。

過去22年間の志願者推移を見ると、1999〜2000年を底に見事にV字回復している。
「近大マグロ」は、大学の名前を上げる一役になったのは確かだが、それだけではないことがわかる。
アメリカのURAPという大学ランキングにおいては、関西の大学の中で、いわゆる「関関同立」を抑えてトップに立つ。
近大マグロだけでない養殖技術に、関西の私大ではトップとなる知的財産販売が加わる。

広報戦略も、従来の慣習にとらわれず効果を見極めて実施し、広告宣伝費を下げながらもインパクトのある広告を展開。
やがて借金も完済して、財務内容も健全化する。
そこには、大学ではありながらも、立派な「経営」が存在する。

こうした一連の近大の取り組みは、私企業においても大いにヒントになると思う。
自分達の会社では、どんなことができるだろうか。
そう考えながら読み進めていたら、いろいろとヒントが浮かび上がった。
単なる読み物としてではなく、そうしたヒントが得られる本として捉えたい一冊である・・・
   
     
posted by HH at 22:40| Comment(0) | TrackBack(0) | ドキュメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年03月27日

【学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話】坪田信貴



第1章 金髪ギャルさやかちゃんとの出会い
第2章 どん底の家庭事情、批判にさらされた母の信念
第3章 始まった受験勉強、続出する珍回答
第4章 さやかちゃんを導いた心理学テクニックと教育メソッド
第5章 見えてきた高い壁−「やっぱり慶應は無理なんじゃないかな」
第6章 偏差値30だったギャル、いよいよ慶應受験へ
第7章 合格発表とつながった家族

タイトルを見ればどんな話かすぐわかり、そしてそれゆえに、是非とも読んでみたくなった一冊。
表紙の金髪女子高生(実は本人ではなくイメージモデル)に惹かれたところもある。

物語の舞台は、名古屋にある著者が代表を務める学習塾。
そこへ主人公のさやかちゃんが入塾面接にやってくる。
金髪で厚化粧にイヤリングのへそ出しルック姿、短いスカートにハイヒール。
「何が目的で来たんだろう」と著者は思うも、挨拶がしっかりできたことから、「根は良い」と判断する。

私立の一貫高校に通っていたものの、成績は学年ビリで偏差値は30以下。
喫煙などの素行悪で、停学処分を繰り返し、付属の大学への推薦は絶望的。
聖徳太子を「せいとくたこ」と読み、日本地図を書けと言われると、大きな○を書く。
「志望校はどうする」と著者は問う。
東大か慶應か、と聞いたのは半分冗談なのだろう。
それでも、「さやかが慶應とか、超ウケる!」というノリで志望校が決まる。

もともと、素直な性格だったようで、著者の印象も良く、さやかちゃんは勉強を開始する。
著者が説く教師のあるべき姿は、教師が生徒に「知識を教える」ものではなく、共に「知識を求め、教師は先輩として生徒にアドバイスする」スタンスだという。
こういうところも、さやかちゃんが素直に言うことを聞いたところなのだろう。

そしてお母さんもまた凄い。
子供の素行は悪くとも、徹底的に味方する。
本気になったさやかちゃんが、夜も寝ないで勉強をする。
寝るのは授業中。
学校に呼び出された母親は、「寝かせといてくれ」と学校に交渉する。

人の評価には、@Doing AHaving BBeingとあるが、普通は@かAだという。
@は「〜してくれて嬉しい」というもので、Aは「学年順位が20も上がったなんて凄い」というもの。
そして、Bは「今生きているだけで嬉しい」というもの。
ほとんどの親はBで子供を愛しているものの、@とAで表現しているという。
さやかちゃんのお母さんは、徹底してBだったようで、これは親子に限らず、上司と部下とにも言える事だと言う。
単に物語を追うだけでなく、こういう解説もかなり心に残る。

さすがに著者は教育者だけに、生徒の指導方法は参考になる。
・ピグマリオン効果:親や教師が本気で期待した場合、子どもは無意識のうちにそれに応えようとする
・勉強はいかに楽しいと思わせるか:生徒を叱ったり脅したりすると、「勉強=不快、先生=不快」と脳が認識する
・自分がこれだけやったことが、これだけの成果につながったんだなと子どもに見せていく
・たとえ話は生徒の興味や知識に近いものをえらぶ
・話の最初と最後しか残らない:長過ぎる説教は最悪の効果
・歴史はドラマやマンガで覚える
・「読解」の指導:背景を想像する
・100円を捨てるダイエット:捨てた100円がもったいなくて、ダイエットを続けられる

自分の子どもの指導にも使えそうだと、メモが溜まっていく。
そしてもちろん、慶應大学に合格するまでのストーリーも心潤ませるものがある。
普通に考えれば、1年半で偏差値が40も上がるわけがない。
しかし、「この教師」に「この母親」、そして何より「本人」の持っているものが見事なハーモニーを織り成した結果と言えるのだろう。

物語としても、ビジネス・教育の参考書としても、得るところの多い一冊である。

posted by HH at 22:21| Comment(0) | TrackBack(0) | ドキュメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年03月13日

【ジョナサン・アイブ】リーアンダー・ケイニ―



1 生い立ち
2 イギリスのデザイン教育
3 ロンドンでの生活
4 アップル入社
5 帰ってきたジョブズ
6 ヒット連発
7 鉄のカーテンの向こう側
8 iPod
9 製造・素材・そのほかのこと
10 iPhone
11 iPad
12 ユニボディ
13 サー・ジョニー

アップル復活の立役者となった故スティーブ・ジョブズ。
その内幕は、『スティーブ・ジョブズ』に描かれていて興味深く読んだ。
しかし、スティーブ・ジョブズも一人ですべてをこなしたわけではない。
彼の下で、デザイン担当として復活の一翼を担った人物がいた。
その人物、ジョナサン・アイブを紹介したのが、本書である。

ジョナサン・アイブは、今やデザインの総責任者として、CEOも一目置く存在であるらしい。
『スティーブ・ジョブズ』にも登場していたらしいが、もちろん覚えていない。
そのジョナサン(ジョニー)は、イギリス生まれのイギリス人。

16歳にして既にその才能はデザイン業界の注目を集めていたと言う。
デザイン会社から奨学金をもらい、卒業後はその会社に勤める。
日本のゼブラのペンもデザインしたらしい。
そんな才能だから、1社に留まらず、やがて海を渡り縁あってアップルに入社する。
時に27歳。

アップルでは、工業デザイングループ(IDg)に所属する。
当時は、エンジニアが力を持っており、デザインチームはそれに従う形であった。
モノがまず出来上がり、「デザインはお化粧」という位置付けである。
それを当時の上司ブルーナーが中心となり、デザイン主導のプロセスを取り戻そうとする。
それが劇的に変わるのは、スティーブ・ジョブズの復帰によって。

ジョブズは生まれ持った直観的なデザインセンスを有していて、初めは外部のデザイナーを求めるが、やがて社内のジョニーの存在に気付く。
そして意気投合する。
その後のヒット商品の連発は、『スティーブ・ジョブズ』にも描かれている通り。
だが、ここではどんな開発過程があったかがわかり、興味深い。

アップルの今日の洗練された商品は、ジョブズとジョニーの存在なくしては語れない。
ジョブズだけでは片手落ちだということがわかる。
昨今、あちこちでデザインの重要性が説かれている。
しかし、エレガントなデザインをすればそれでいいと言うわけではない。
飾りではないので、当然必要な機能を備えないといけない。
どうしたらそのデザインに機能を装備させられるかが、実は難しい。

この本ではそんな舞台裏も語られていく。
アップルは秘密主義の企業であり、描かれなかった部分も多いと思うし、気がついてみれば、ジョニー本人の考えはあまり書かれていない。
「客観的に見た」という形なのである。
ただ、だからといって面白さが減じるということはない。
物語としても十分、エキサイティングである。

読めばますますアップル製品が欲しくなってしまう。
そんな一冊である・・・
    
   
posted by HH at 21:02| Comment(0) | TrackBack(0) | ドキュメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年02月08日

【成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか】上阪徹



第1章 熱狂的に支持されるスーパー「商品へのこだわり」
第2章 お客様主義で「基本」を大切にする「サービスへのこだわり」
第3章 なぜ、独自の品揃えができるのか「強い購買とセントラルキッチン」
第4章 どんな場所にも出店できるスーパー「経営と店舗開発」
第5章 転機となった買収「事業への思いと誇り」
第6章 人が店を作っている自覚「人材教育へのこだわり」
第7章 “高級スーパー”と呼ばれたくない「成功の本質と挑戦」

ある特定企業あるいは人物を描いた著作には二つのパターンがあって、「本人(経営者)が書いている」か「外部のライターが書いている」かだが、この本は『スティーブ・ジョブズ』『エンジェル・フライト』のように後者の例である。

成城石井については、最近あちこちでよく目にするようになったと感じていたが、事実最近出店を増やしているのだという。
自宅の近所にないのと、何となく“高級スーパー”という印象があって、敷居をまたぐ機会もなく今日まで来ている。
そんな存在ゆえ、興味を持って手に取った次第である。

中味を読むと、確かに価格は高いようである。
ただ、それには理由がある。
たとえばワインやチーズを直輸入しているが、自社で貿易子会社を有していて、ワインなどは「定温輸送」によって品質を落とさないようにしている。
また、肉なども食べ頃になってから店頭に並べるといった工夫もしているという。

サービスの基本は、「基本の4つ」とされる“挨拶”、“クリンリネス”、“欠品防止”、“鮮度管理”である。
顧客との会話を重視し、レジのスピードにもこだわる。
ミステリー・ショッパーを利用し、サービスの品質維持を徹底する。

扱う商品は輸入物の高級食品だけでなく、オリジナル商品もある。
砂糖を使わないジャムが特に強調されている。
シュウマイやソーセージや弁当もある。
一つ一つ手間をかけた手作りらしい。

そんな成城石井は、エキナカなどにも出店し、現在は総店舗数が112店舗を越えている。
2004年に「牛角」のレックスホールディングスに買収されて、経営がぐらつくが、株主がファンドに変わって現在は落ち着いているようである。
その後、ワインバーなどにも進出し、店舗展開もまだまだ加速するようである。

読後、街中で見かけた店舗に入ってみた。
紹介されていた低温殺菌の牛乳が目についた。
その他品揃えは確かに見慣れた近所のスーパーとは一味違う。
だが、値段はやっぱり近所のスーパーよりはハイランクである。
仕事帰りなら買って帰りたかったが、また今度にしようとそのまま店を出る。
そのうち機会を見つけていくつか買ってみたいと思う。
こんなスーパーがあっても良いと、確かに思う一冊である・・・

posted by HH at 17:08| Comment(2) | TrackBack(0) | ドキュメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする