2020年02月19日

【ジョン・ハンケ世界をめぐる冒険 グーグルアースからイングレス、そしてポケモンGOへ】ジョン・ハンケ 読書日記1122



原題:Adventures on Foot:Google Earth,Ingress,Pokemon Go
《目次》
コンピュータとの出会い
グーグルアースを生み出した場所
ナイアンティックの誕生
イングレス前夜
サンフランシスコの戦い
イングレス
日本
ポケモンGO
自分を燃やしつくせ

 著者のことはまったく知らなかったが、日本ではポケモンGOを開発した人物というのならわかりやすい。そのほかにも「イングレス」というゲームにも携わっているらしいが、ゲームをやらない身としてはよくわからない。そんな人物の半生記ともいうべき一冊である。

 著者はもともと養子であり、テキサスの田舎で育つ。「スター・ウォーズ」に衝撃を受けたというごく普通の少年で、物語を作り、絵を描くことが好きでゲームで遊ぶことも好きだったという。のちの経歴はこうした少年時代の延長にあったりするものなのかもしれない。高校1年の時に自分でお金を貯めてパソコンを買ったという。本当はApple IIが欲しかったが、高くて買えなかったというところが面白い。

 一旦政府に就職するも、やめてMBAを取り直す。そして高額の報酬を求めるか将来どうなるかわからないゲーム会社で働くかで迷う。ここで著者は後者を選択する。「チャンスが回ってきた時にはたとえ困難なハードルが見えていたとしても挑むようにしてきた」というスタンスは、見習いたいところである。

 やがて911後の景気減退の中、困難にあり著者はマネージャーとしての自分の能力の限界に当たる。自分の弱点をきちんと認識できるというのも大事である。そしてバスケットボールのコーチから「目に見えない指導者」という考え方を学ぶ。つまり、経営者は自分がスターにならずとも、スターを育てればいいということである。著者の名前を聞かなかったのも、そんな裏方に徹したスタンスかもしれない。

 やがてGoogleに買収されその一員となる。グーグルアースの開発に携わったことが、イングレス、ポケモンGOへと繋がるのだろう。自ずとそこには1つの糸が見えている。当然ながら1人でできるものではない。それは著者も十分認識し、そして周りを巻き込んでイングレスというゲームの開発を進めていく。何かを成し遂げる時、スーパーマンになる必要はないということなのだろう。

 世の中にはカリスマ経営者というのがたくさんいる。そんな人物には普通の人は到底なれない。だが、著者のようなリーダーなら十分なれる可能性はある。もちろん、著者も能力が高いことは間違いないが、「手を伸ばせば触れる」という感覚はある。そんなリーダーを目指してみるのもいいかもしれない。短いのでサラッと読める一冊である・・・





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2019年12月26日

【アフリカの奇跡 世界に誇れる日本人ビジネスマンの物語 OUT OF AFRICA】佐藤芳之 読書日記1108



《目次》
はじめに 桁外れにスケールの大きな日本人
序章 風の吹き始める場所
第1章 アフリカへ
第2章 ケニア・ナッツ・カンパニー
第3章 アフリカってところは!
第4章 失敗から学ぶ
第5章 アフリカが教えてくれたこと
第6章 さらに先へ
第7章 新たなるチャレンジ
終章 アフリカから日本を想う、日本を憂う

日本人がアフリカに行ってビジネスをするというと『プータロー、アフリカで300億円、稼ぐ』を思い起こす。しかし、これはそれよりも歴史とスケールの面で大きく異なる。著者は単身アフリカに渡り、ケニア・ナッツ・カンパニーを創業、年商30億円でアフリカ有数の食品加工メーカーに成長し、世界のマカダミアナッツ業界でも第5位の規模になったという。そんな著者の自伝である。

 著者が生まれたのは、戦前の昭和14年の北朝鮮。その後帰国して宮城県志津川で育つ。当時は貧しい生活だったそうであるが、まわりもみんな貧しかったので気にならなかったという。アフリカも同様で、人々はみんな明るく暮らしているらしい。著者がアフリカに興味を持ったのは高校生の時。その夢を胸に抱き、大学は東京外国語大学を選択。ボート部に所属し、ごく普通の大学生活を送るも夢を貫き、ガーナ大学へ留学する。

 著者の性格なのかもしれないが、アフリカに行こうと思い立ったのは高校生の時。一度そう決めると、アフリカの本を読んだり、「アフリカ」と書いた紙を机の前に貼ったりしていたという。そんな思いが人との出会いを生み、ガーナ大使を紹介してもらいガーナ大学への留学の道が開ける。少しでもアフリカを身近に感じていたいとアフリカ協会に出入りして手伝いをしていたことが大きかったようである。「一念岩をも通す」という言葉が脳裏をよぎる。

 ガーナにいる時、著者はヨーロッパの教養人のレベルの高さに触れる。当時のアフリカ研究所の所長は夫人がノーベル賞をもらうような環境で、夕食後にクラッシックを聞き、家族で演奏をしたりして、著者は深く感銘を受ける。日本にいるとなかなかそういう刺激を受けることは少ないが、かの落合信彦も似たような話をしていたし、自分も意識してみたいと思ったりする。

 ケニアに移ったのは、東レの現地法人に勤務することがきっかけ。ここではケニア人の立場に立って仕事をする。そしてケニア・ナッツと出会い、その美味しさに惹かれて創業する。ビジョンを示すと、ケニア人たちの表情が変わる。そもそもアフリカに行ったのは儲けるためではないから、合理的な経営よりもみんなでハッピーになることをめざす。自ら「情の経営」と称しているが、会社内で行っていくことは欧米の合理的な経営とはまったく異なる。主な内容は下記の通り。

 1. 利益はすべて再投資と従業員還元に使う
 2. 株主への配当は創業以来未実施
 3. 従業員の医療費の85%を会社が負担
 4. 工場内に従業員が無料で利用できる医務室を作る
 5. 年金は保険会社と契約し、従業員と折半して積み立てる
 6. 従業員相互扶助組合を設立し、元本は会社が負担、それ以外はメンバーが積み立てし、教育ローンや住宅ローンを提供

 日本人的には当たり前のように感じるが、アフリカでは異例なのだと思う。現地では倫理観・道徳観の違いに苦労したそうである。「言葉は風」として、約束を破っても許される文化はやはり厳しい自然の中で培われたものなのだろう。「アウト・オブ・アフリカ」は商品名であるが、なんだか映画で観たようなタイトルだと思ったら、同じ映画に感動して取得したのだとか。「心配とは想像力の誤用」という言葉を気に入っているというが、その通りだと自分も思う。

 せっかくの会社なのに、著者はそれをタダ同然で現地の人に譲り、今は新しいビジネスを手がけているという。PPP「ポジティブ」「パワフル」「パッショネイト」の精神を大事にしているというが、真の意味で世界に飛躍している日本人と言える方である。「情の経営」については共感するところ大であり、大いに学びたいと思わされる一冊である・・・

 



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2019年07月05日

【PIXAR 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話】ローレンス・レビー 読書日記1046



原題:TO PIXAR AND BEYOND My Unlikely Journey With STEVE JOBS To Make Entertainment History
《目次》
第I部 夢の始まり
 第1章 運命を変えた1本の電話
 第2章 事業にならないけれど魔法のような才能
 第3章 ピクサー派、スティーブ・ジョブズ派
 第4章 ディズニーとの契約は悲惨だった
 第5章 芸術的なことをコンピューターにやらせる
 第6章 エンターテイメント企業のビジネスモデル
 第7章 ピクサーの文化を守る
第II部 熱狂的な成功
 第8章 『トイ・ストーリー』の高すぎる目標
 第9章 いつ株式を公開するか
 第10章 ピクサーの夢のようなビジョンとリスク
 第11章 投資銀行の絶対王者
 第12章 映画がヒットするかというリスク
 第13章 「クリエイティブだとしか言いようがありません」
 第14章 すばらしいストーリーと新たなテクノロジー
 第15章 ディズニー以外、できなかったこと
 第16章 おもちゃに命が宿った
 第17章 スティーブ・ジョブズ返り咲き
第III部 高く飛びすぎた
 第18章 一発屋にならないために
 第19章 ディズニーとの再交渉は今しかない
 第20章 ピクサーをブランドにしなければならない
 第21章 対等な契約
 第22章 社員にスポットライトを
 第23章 ピクサーからアップルへ
 第24章 ディズニーにゆだねる
第IV部 新世界へ
 第25章 企業戦士から哲学者へ
 第26章 スローダウンするとき
 第27章 ピクサーの「中道」
終章 大きな変化

 著者はピクサー・アニメーション・スタジオの元CFO。これはピクサーが生き残りをかけて「トイ・ストーリー」の製作に乗り出した頃からディズニーに買収されるまで、著者がピクサーで過ごした10年あまりの物語である。

 著者は元々シリコンバレーの株式公開企業でCFOという誰もが羨む地位にあったが、ステイーブ・ジョブズから直接電話をもらい、ピクサーに転職する。元々転職を考えていたらしいが、「合理的に考えれば断る一手」だったという。今でこそ夢のような話であるが、当時のスティーブ・ジョブズは悪名高く、アップル、NEXTと失敗続きであり、普通の人ならまず断るのだろう。それでもまだ少ししか出来上がっていなかったコンピューターアニメーションの「トイ・ストーリー」を初めて見せられ「切り捨てるには惜しいだけの魅力がある」と逡巡する。

 最終的には奥さんに背中を押されたこともあって転職する。こういう人生の転機に「合理的」だけではなく、それ以外の判断基準で思い切った決断をするというのも勇気の見本かもしれない。とは言え、入ると難問続出。スティーブ・ジョブズの社内での評判は悪く、著者も「スティーブ派」と見られて苦労する。ディズニーには契約でがんじがらめにされ、すでに大金を投入しているスティーブ・ジョブズからは株式公開を命じられる。

 人生にも仕事にも苦難はつきもの。「配られた手札を嘆いても始まらない」という著者のスタンスは見習いたい。「駒がどう配置されているのか、それを変える術はない。大事なのは次の一手をどう指すか」という考え方も然りである。それにしても、コンピューターアニメーションの技術的な難しさに加え、エンターテイメント専業会社としてのビジネスモデルの困難、スティーブ・ジョブズからの株式公開圧力、契約で義務付けられた「トイ・ストーリー」の公開日までのタイムリミットと難問山積の状況は、当事者としては大変だっただろうと思わされる。

 そんな状況にありながら、「割れ目の向こうまで飛べると思ったから飛ぶのではなく、状況に背中を押されて飛ばざるを得なくなるということもある」「とにかく動かなければ始まらない」と著者は1つ1つ解決に向けて動いていく。こういう考え方は参考にしたいところである。多くの人が、山積する課題を前にして立ちすくんでしまうのではないだろうか。そしてようやく映画が完成し、家族で観に行く。エンドクレジットには製作期間中に生まれたベビーの名前が載るが、著者の次女の名前もあって、奥様はひとしお感動する。もちろん、子供達は大喜び。これが事業の醍醐味かもしれない。

 株式公開に向けての動きも紆余曲折を経て、公開に向かう。公開希望価格は12ドルから14ドルと見積もられるが、スティーブ・ジョブズの考えが気になる。公開された「トイ・ストーリー」の行方を占う最初の週末の興行成績。結果がどうなるのか、読んでいてハラハラドキドキしてしまう。そして「トイ・ストーリー」は1995年11月25日には公開され、その年最大のヒットとなり、ピクサーの株価も公開初日の終値が39ドルになり、株主のスティーブ・ジョブズは一夜にしてビリオネアになり、ビジネス界に返り咲きを果たす。

 映画の慣例を破ってエンドクレジットに間接部門の社員全員の名前を入れることを著者はディズニーに認めさせる。しかし、その条件として役員はダメとなり、ピクサーでは著者の名前だけが載らなくなってしまう。一抹の寂しさを感じながらみんなの幸せを喜ぶ姿はちょっと感動的でもある。物語としても面白く、ビジネスに果敢にチャレンジする1人のビジネスマンのスタンスとしても参考になる。この手の本はいつも得るものが大きい。

 原題のサブタイトルにもあるが、著者はスティーブ・ジョブズと二人三脚で仕事を進める。『スティーブ・ジョブズ1』と合わせて読むと面白いと思う。読みながら、著者と一緒に波乱に富んだビジネスの醍醐味を仮想体験できると言える。ビジネスマンなら一読の価値ある一冊である・・・


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2018年11月21日

【大山健太郎 アイリスオーヤマの経営理念】大山健太郎 読書日記977



《目次》
第1部 私の履歴書
 第1章 震災から復興へ
 第2章 プロダクトアウト経営が生まれるまで
 第3章 メーカーベンダーの仕組み
 第4章 ユーザーインのネットビジネス
 第5章 地域貢献 ジャパンソリューション
 第6章 社員にとって良い会社
第2部 私の経営理念
第3部 社員へのメッセージ
 第1章 本質業務と全体最適
 第2章 仕組み改善と人材育成
 第3章 脳を活性化させ創造力を高めよう
 第4章 変化対応とイノベーション

 著者はアイリスオーヤマの創業者。本書は、日経新聞の「私の履歴書」に掲載していたものに加筆してまとめられたものである。全体は3部構成になっていて、第1部は「私の履歴書」であり、第2部「私の経営理念」、第3部「社員へのメッセージ」となっている。
 
 面白いのは、やはり第1部。創業者の創業話ほど面白いものはないと個人的には考えているが、この著者についてもそれが言える。話のスタートは、しかし出生の話ではなく震災の話。宮城県に拠点を構えるアイリスオーヤマは、震災の直撃を受ける。まず当時の状況を語るところから始めているところを考えると、やはり印象深い出来事であったのであろうと思う。当日、千葉に出張していた著者は、被災者へ灯油等を無償提供するなど社員と一体になって震災を乗り越える。こういう経験は会社としても大きなものだと思う。

 そんな著者の経歴は大阪で始まる。父が自宅の敷地内で初めは金属の仕事をスタートするが、たまたまプラスチック技術者が裏のアパートに越してきたことから、当時新素材であったプラスチック工場へと切り替える。しかし、著者が19歳の時に父が亡くなり、否応無く著者は跡を継ぐ。「営業はすべてイエス」をモットーに受注を取るが、下請けの哀しさで商売は薄利であり、生活のために著者は工員が帰った後も朝まで機械を動かしたという。

 やがて、脱下請を決意し、真珠の養殖で使用されていたガラス製の漁業用ブイをプラスチックで製作し、自ら売り歩く。そしてこれが大ヒット。オイルショックでこれに陰りが出ると、今度は農業に目を向け、苗を育てる木箱をプラスチックで作る。それから次々と挑戦を繰り返す。植木鉢やプランター、さらには「ペットは家族」というコンセプトを創造してペット用品に参入。身近な不便に目を向け透明なクリア収納を創る。我が家にも類似品があるが、元は当社だと知って驚く。

 問屋との関係に悩んだ末、自社で問屋機能を代行するメーカーベンダーというビジネスモデルに挑戦して、これをものにする。オイルショックで、創業の地大阪の工場を閉め宮城県の工場に機能を集約。泣く泣く従業員の首を切った経験から、「好不況にかかわらず利益を出す会社にする」という理念を描き、それが「販路は自分で確保する」と決意させメーカーベンダーへと歩ませたのであるが、このあたりの経緯に経営者としての著者の思いが伝わってくる。

 模倣品とは競わず新天地を探すというスタンスは、いわゆるブルー・オーシャン戦略であるが、なかなかできるものではないと思う。私も自分たちの仕事においてはかくありたいと思う。そうしてアイリスオーヤマは、今や家電メーカーという顔が強くなってきている。「生活提案企業として市場を創造する」という理念はその原動力であろう。

 一方、そんな事業を支えるのは社員であるが、社内では「360度評価」を取り入れているという。上司も部下に評価されるという仕組みはとてもいいと思う。かつての職場では、「(ダメな)評価」をしたい上司が多々いたものである。そして「リーダーシップの鍵はコミュニケーション力」というのもその通りだと思う。後半部分もそれを求めている人にとっては参考になるところ大だと思う。

 経営者、それも創業経営者の話には随所に参考になる苦労話が多い。そうしたエッセンスを少しでもわが身に取り入れたい。これからもそういう本をどんどん読んでいきたいと思わせてくれる一冊である・・・

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2018年05月01日

【問題児 三木谷浩史の育ち方】山川健一 読書日記915



プロローグ 太陽の子
第1章 三木谷浩史を教育した父と母の教え
第2章 三木谷浩史が選び取ってきた道
第3章 実業家が世の中を変えていく
第4章 ヒーローだった父との永訣
第5章 三木谷浩史が描く教育とは
特別付録 家族の会話「日本よ再び海洋国家になれ!」

三木谷浩史と言えば、間違いなく日本を代表する若手経営者だろう。自身、創業者でもあるから旧態依然とした大企業の経営者とは一線を画している。したがって、本の題材としてもピッタリなのだと思う。以前『ファースト・ペンギン 楽天三木谷浩史の挑戦』という本を読んだが、この本はまたそれとは趣向を変え、三木谷氏個人の内面に迫ったところが大きい。そんなところが興味深い一冊である。

まずは、子供時代から。「太陽の子」とあるように、自由に育っていたようで、学校の成績はひどいものである。ただ、冒頭で出てくる父親から切腹を迫られるエピソードがすごい。先祖を辿れば本多忠勝に行き当たるのだそうだが、そもそも太刀と短刀があるところが違う。そしてそんな父親は神戸大学の名誉教授で経済学者の三木谷良一氏であったらしいが、ご本人の性格形成には親の影響も強くあるようである。

さらに一家でアメリカに住んだ際、小学生ながら三木谷氏は「ボーイズルーム(トイレ)」という単語だけ教えられ1人で学校に行かされたそうである。両親はたまたま都合が悪かったらしいが、日本人学校ではなく地元の学校に転校初日にその有様はすごいと思う。そしてその日にアメリカ人の友達を連れて帰ってきたという。人懐っこい性格なんだそうであるが、自分にはない資質だと思う。

横道にそれることを心配した父がテニスをやらせるが、これに三木谷氏はのめり込む。高校に入りテニス部に入るが、球拾いに疑問を持つ。「球拾いをしてテニスが上手くなるのか」と父に問い、「うまくならんやろ」と言われるとさっさとテニス部をやめ、地元のテニスクラブに入り直す。こういう合理的な行動は、この頃から徹底していたということだろう。

高校2年から心機一転、猛勉強して一浪の末一橋大学に入る。この頃のエピソードも面白いが、興銀に入り、外国為替部に配属され同期一番でアメリカ留学に選抜されるのもすごい(らしい)。もともと「あれをやれ」と言われれば言われた3倍以上のことをするのが当たり前という優秀なメンバーの中で、地味な事務部門で選抜されるのもすごいことだという。仕事の構造改革が途轍もなく評価された結果らしいが、根底に流れるものは一貫している気がする。

楽天が成功した現在、その活躍は経済界全体に影響を及ぼす。原発を擁護する経団連を嫌って脱退し、新たに新経済連盟(新経連)を立ち上げる。自民党から依頼されて提出した日本の持続的成長プランは、他の経済団体のそれとは異質だったという。GDPを150兆円上げるというその内容は、観光立国で30兆円、シリコンバレー化で100兆円、スマートネイションで20兆円というもので、採用されれば面白そうだと思うものである。

話題となった英語の社内公用語化も「世界中から最高の頭脳を持った人材を集める」という観点からは避けられないものだったというが、その結果を見れば納得する。外から英語の社内公用語化の是非を議論しても、その真意がわからないと意味がないと改めて思う。憲法改正に反対する理由も自分と同じだと知って興味深いし、日本の教育問題についての考え方も興味深い。感じるのは、考え方が表面的でないということ。

それについて、三木谷氏はある時自分を「ファンダメンタル・シンカー」だと言われて納得したと言う。それは「通念や俗念と言うものから離脱して物事を考えられる人」と言うことらしいが、これも大事だと思う。この本では、至る所で「大事なのは何が本質的なことか考えること」と語られるが、自分もこれには激しく同意する。ご本人は、短所は「普通の人のようにはできない」ことと語るが、だからこそ時代の先頭に立てるのだろう。

こう言う自伝は、「他人だから書ける」と言う部分もある。第三者の立場から、家族や友人らの視線も絡めての三木谷浩史像はなかなか興味深い。考え方や視点など興味深く読み進められた一冊である・・・




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2018年04月30日

【江副浩正】馬場 マコト/土屋 洋 読書日記914



序 章 稀代の起業家
第1章 東京駅東北新幹線ホーム
第2章 浩正少年
第3章 東京大学新聞
第4章 「企業への招待」
第5章 素手でのし上がった男
第6章 わが師ドラッカー
第7章 西新橋ビル
第8章 リクルートスカラシップ
第9章 安比高原
第10章 「住宅情報」
第11章 店頭登録
第12章 江副二号
第13章 疑惑報道
第14章 東京特捜部
第15章 盟友・亀倉雄策
第16章 リクルートイズム
第17章 裁判闘争
第18章 スペースデザイン
第19章 ラ・ヴォーチェ
第20章 終戦
第21章 遺産

 もともと経営者の自伝は好きなのであるが、それはその人物に興味があればなおさらであるのは言うまでもない。だからこそ、『スティーブ・ジョブズ』に飛びついたのであり、日本人であればこの人についても同様なのである。リクルートの創業者である江副浩正のことは知らないことはないが、かと言ってどこまで知っているかというと、それは大変心もとない。そんな自分にとって、この本は見た瞬間に読みたいと思った本である。

 神戸に生まれ、東大に進む。東大受験は英語ではなく、当時珍しかったドイツ語。高校では受かるわけがないと思われていたらしいが、ドイツ語の選択が良かったらしい。もともと家は裕福ではなく、高校時代は豊かな家庭の子女が通う私立に進学し肩身の狭い思いをする。そんな身分だから大学に入ってもバイトは不可欠。そんな江副の目に東京大学学生新聞会のアルバイト募集が止まったのは、桁外れの高給募集だったから。そしてこれが後々に大きく物を言うのだから、人生わからないものである。

 仕事内容は営業。広告を取ってくるのがその仕事。ここで「新聞は下から読め」と言われ、それを実践。そして記事と広告の一体化を思いつき、合格者名簿の記事と一体化させる広告として予備校へ営業に行く。これが受けてそれまで苦戦していた広告が面白いように取れる。それを皮切りに、同じような一体化広告を次々に仕掛け、東大新聞は部数を伸ばし、歩合給の江副の給料も増えて行く。

 しかしそれが高じ過ぎて就職せずにそのまま大学新聞の仕事を続けようと決意する。そうして1人起業する。東大卒でなんたる冒険だろうと思う。こんな真似のできる人はそう多くはない。そして掘建小屋(のような事務所)を借りて、人を雇い孤軍奮闘が始まる。面白いもので、1つがうまく行くとそれが次の仕事を生む。友人からの情報もあり、やがて「広告だけの本」と言う概念にたどり着く。聞いた友人は無茶だと言うが、江副は理屈に基づいた勝算をもとに邁進する。

 やがて最初の商品である「企業への招待」が出来上がる。そこから「日本株式会社の人事部」と言う概念を立て、さらにそこから派生してついに「情報産業」と言うコンセプトにたどり着く。まさに道なき道を切り拓くがごときで、読み物としても面白い。資金調達では苦労したりもしたようであるが、いろいろな人の力を得て、企業情報から住宅情報、進学、転職と幅を広げて行く。今日のリクルートができて行く過程は実に興味深い。

 そして父親の影響による株式投資の話や、何と言っても関心の高い「リクルート事件」についても語られる。実はリクルート事件については、「悪質な贈収賄事件」と言うイメージであったが、この本によれば実は上場に当たって株主を200人にしなければならないと言うルールがあり、そのために江副はお世話になった人に株を渡して株主になってもらったのだと言う。ただ、そこに政治家が含まれていたことから、要らぬ疑いを招いてしまったらしい。だとすると、これで江副はリクルートを離れざるを得なくなったわけであり、大きな損失だったと言えるのかもしれない。

 著者は2人ともリクルート出身で、江副の薫陶を受けたのだとか。この本は恩返しの意味もあるらしい。著者は江副の功績として2つ挙げている。
1. 情報誌を創り出したこと
2. 成長する企業の思想と仕組みを創ったこと
いずれも大きな功績だと思うが、個人的には「2」の功績の方が特筆すべきものだと思う。公務員思考、安定思考とはかけ離れたこの思想は、今の日本に非常に求められているものだと思う。

 江副浩正という人物について、遅まきながら知ることなったが、それは実に有意義である。自分自身も意識したいと思わされる部分が多々ある。世に数多く飛び出しているリクルート出身者に自分も負けないようにしたいと改めて思わされる。
「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」
実にいい言葉である。ビジネスマンなら是非とも一読したい一冊である・・・



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2018年04月25日

【荒くれ漁師をたばねる力 ド素人だった24歳の専業主婦が業界に革命を起こした話】坪内知佳 読書日記913



第1章 「社長になってくれ」と頼まれて
第2章 荒くれ者たちとの戦い
第3章 漁師たちの反乱
第4章 心をたばねる
第5章 強く、熱い風になる
第6章 命を輝かせて働くということ

 著者は萩大島船団丸という3船団からなる漁業団体の代表。漁師と言えば男の、しかも「紳士的」とは程遠い男の仕事であり、その船団の代表を女性でありながら務めるというのは、それだけでも話題性が十分。しかも、大学中退のシングルマザーという経歴はそれに拍車をかける。そんな著者の船団代表になってからの奮闘記である。

 著者と船団代表の長岡との出会いは偶然。シングルマザーで必死に仕事を探し、こなしていた著者とある宴会場で知り合う。「なんかあったら声かける」とその場は別れるも、その後漁師たちの未来を考える仕事を手伝ってくれと頼まれる。報酬は船長3人がそれぞれ出しあった月3万円。実は、船団は近年漁獲量の減少に悩まされており、将来に対して極めて強い不安を抱いていたのである。

 著者はそのあと知った農林水産省の「六次化産業・地産地消法」に基づく認定事業に応募することにする。よそ者の立場でありながら、著者は漁師の世界にどんどん入っていき、情報をリサーチしていく。漁師の世界は排他的と言われるが、それはあくまで同業者に対するもので、よそ者が自分たちに興味を持ってくれるのは大好きなのだと知る。こうして、著者の中に「島の豊かな暮らしと美しい刺し盛り文化を50年後も守りたい」というビジョンが生まれる。

 そうしてなんとか認定事業者となるも、事業を進めていこうとする前に次々と壁が立ちはだかる。まずは漁協との対立。これは農業分野の農協と同じで、やっぱり新しい事業、自由な事業の壁となる。漁師も船の燃油や魚を詰める箱や氷や融資などあらゆる点で漁協を無視できない。これを著者は対立ではなく交渉を粘り強く続け、妥協点を見出していく。

 そして何より各所で説明されるのは、著者と漁師との対立。「小娘のくせに」「よそ者のくせに」という思いは漁師たちにもある。ここで著者も怯まないところがなかなかだと思う。時にはジャージに着替えて作業を手伝い、子供を24時間保育に預けて遠く大阪まで営業に出向く。目的が全体の利益であり、必死になって頑張っている人間をそう邪険にはできない。対立しても結局元の鞘に収まるのは、そこなのだろう。
 
 著者は若いながらも芯がしっかりしていると感じる。6次産業化の事業(魚を取りそれを料亭などの消費者に直送する)も手探りでのスタート。問題は次々に起こる。漁師にできるのは魚を取ることだけ。仲間が抜けて行ったり、クレームが来たりとするが、戸惑う漁師を束ねていくにはリーダーが不動の姿勢を見せないといけない。それを著者が実践していく。「私がなんとかする」というスタンスが皆の信頼を勝ち得ていく。

 著者には逃げ道がなかったのも事実だろう。子供もいるし、働かないといけないし。だから「辞める」という選択肢がなかったこともあるが、それでも「やり抜くスタンス」が何よりも大事だと改めて思う。そしてやはり「覚悟」だろう。それがあるから、次々に生じる困難にもめげることがない。よそ者としての視点を持ち、覚悟を持てば、「小娘」でも荒くれ者をたばねることができる。24歳の専業主婦にできたのだから、大抵の人にもできるはず。転職する人など新しい環境に飛び込む人には参考になるところが多いと思う。

 荒海に飛び込む勇気が得られる一冊である・・・




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2018年04月05日

【笑う奴ほどよく眠る −吉本興業社長・大崎洋物語−】常松 裕明 読書日記909



プロローグ 楽屋
第1章 難波大阪編
第2章 疾走編
第3章 疾風怒濤編
第4章 漂流編
第5章 死闘編
エピローグ それから

 サブタイトルに「吉本興業社長・大崎洋物語」とあるように、これは吉本興業社長である大崎洋氏の自伝的物語である。ただし、ご本人が執筆している訳ではないが、それはあまり重要なことではないだろう。

 物語は、主人公である大崎が吉本興業に入社し、新人研修で訪れたなんば花月の楽屋から始まる。「瞬間、圧倒された」と冒頭から語る大崎。そこにうごめく芸人の世界は、一般社会からいきなり入ればそれは圧倒されたのだと思う。雑然とした舞台裏で賭け事をしている人がいたり、女性芸人が着替えていたり。中でもベテラン芸人である中田カウスにピタリと借金取りが張り付いている様子が、個人的には印象的。一般人には窺い知れない世界である。

 大崎氏はバイトとサーフィンの大学時代を終えて吉本興業に入社。他に同期は2人いたが、扱いの上では一番下。それは配属にも現れていて、一番優秀な者が一番格上の花月である「なんば花月」に、そして次が「うめだ花月」、そして一番評価の低かった大崎が「京都花月」に配属される。こういう格差は、どこの企業でもあるかもしれない。ドラフト一位とビリの差である。そして大崎は、当時ミスター吉本と言われた個性の強い上司の下に配属される。

 いきなり、「一番できの悪いやつか」と言われ、タクシーの乗り方からタレントの呼び方まで教えられて行く。「挨拶以外社会人としての常識はダメ」と自認していた大崎は、基礎を叩き込まれて行く。酷い扱いとはいえ、大崎も遅刻常習者でかなりのチョンボもやっていたようであるから、まんざらただ扱いが酷かっただけでもないような気もする。

 まだ「コンプライアンス」も浸透していない時代。怖い人たちとも遭遇しながら、やがて漫才ブームも到来し、大崎は忙しく働きながら仕事を覚えて行く。上司に教えられた「マネージャーは付き人ではない。タレントにおんぶに抱っこではなく、対等の立場で一緒に仕事をするもの」と教えられる。この考え方は、マネージャーだけでなくても、いろいろな仕事に応用できる考え方だと思う。

 やがて西川のりお・上方よしおのマネージャーを務める。さんまや紳助、ザ・ぼんちなどのメジャータレントとも付き合い、このあたりは裏話として興味深い。せっかく東京で頭角を現したものの、大阪に戻されてやることがなくなる。基本的に大崎は同僚の仕事を取ろうという発想はなく、誰もやっていないことに目を向けて行く。こういうスタンスが、最終的に社長にまで上り詰めた要因なのだろう。これもいろいろな仕事に応用が効くと思う。

 そんな中で、無名だったダウンタウンを発掘する。それが成功すると今度は落ち目だった吉本新喜劇の立て直しを命じられる。理不尽とも思える異動はサラリーマンの常とはいえ、大崎は腐らない。ダウンタウンとも二人三脚の関係を築き、映画や本や歌は大崎が勧めたらしい。コンテンツビジネスへの進出や音楽ビジネスとのコラボも、「人のやらないこと」を求めて行った結果。「仕事を自ら創り出す」スタンスこそが社長にまで上り詰めた要因だろう。「言われたことだけしている」サラリーマンだったらこうはいかない。

 普通の人間が知りようもないテレビの向こう側の話であり、物語としてはただでさえ面白い。そこにサラリーマンとして働く者が意識したいエッセンスがそこかしこに散りばめられている。同期入社でビリ扱いだった大崎が社長になれたのは、この働くスタンスに他ならない。楽しみながら学びもあり、サラリーマンであれば読んで損のない一冊である・・・



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2018年03月13日

【孤独について】中島義道 読書日記901




序 章 孤独に生きたい
第1章 ずっと孤独だった
第2章 孤独な少年時代
第3章 孤独な青年時代
第4章 孤独を選びとる
第5章 孤独を楽しむ
第6章 孤独に死にたい

 この本を手にしたのは実に偶然である。最近個人的に哲学に興味があって、著者の『「純粋理性批判」を嚙み砕く』を読んだのであるが、他にカントについて著者が書いた本はないだろうかと調べて見たら、この本が目に止まったというわけである。そこからさらに手に取ったのにも理由があって、実は身内に心を病みかけているのではないかという者がいて、それに対して自分はどうすべきかと考えていたところだったため、何かヒントになりそうな気がしたという次第である。

 それにしてもこの方、超難解なカントを容易く読み砕くものだと思っていたが、実は予想外の一面を持つ人であった。というのも、この方実に人との関わり合いを嫌う方のようなのである。「他人から関心を持たれることそのことがひどく嫌」と語る。タイトルにある通り、孤独が好きなようである。本書では、「他人は決してあなたの孤独を解消してはくれない」と訴える。その考え方も独特で、「孤独になり不幸になることは、たいそう辛いからこそ貴重。その辛さがあなたの目を鍛えてくれる」と語る。

 その考え方のルーツは、小学生時代に遡る。「死ぬのが怖い」と泣き叫んで学校を休み、しばらく登校拒否になったという。これだけでもちょっと変わっている。さらにご本人は「世界が折れる」と表現しているが、独特の世界に入り込む術を持っていて、のちにそれはある精神分裂病の少女の手記に書かれていたものと同じだったと気づいたようであり、要はそういう要素があったと言える。

 また、一斉におちんちんを出して一緒に用を足すということがどうにもグロテスクで耐えられないと、トイレに行けなくなる。我慢しきれずに漏らしてしまうこともしばしばであったらしい。よく「大」の方は行けないというのは私も経験があるが、「小」までもは例がないかもしれない。さらにアイスクリームが配られる時に、友達とアイスをもらう群れの中に入って行けないとか、ボールが投げられないから足元にボールが転がってくると恐怖するとか、およそ私には理解できない感覚を持っていたようである。

 それでも成績は良くて、県立川崎高校から東大法学部に一発合格で入学する。しかし、そもそも東大法学部は優秀な家系ゆえのプレッシャーからであり、行きたかったわけでもなかったことからたちまちうつ病を発症してしまう。ここから迷走が始まり、わざと留年したと思えば思い立って教養学部へ転部し、大学院、ウィーン私費留学と迷走する(普通は能力的にやりたくてもできない迷走だったりするのだが・・・)。ようやく誘われて大学の教員になるも、今度は教授に徹底的にいじめられる。ただ、教授のいじめと言っても、実は非は著者にありそうな気もしなくもない・・・

 そんな壮絶とも言える人生の中で、哲学を勉強してこられたようで、『「純粋理性批判」を嚙み砕く』にはこんな裏の物語があったのかと感心してしまう。最後に著者は自分の「ぶざまな人生」をなぜここまで書くのかと問われれば、それは「生きるのが困難な多くの人に私の血の言葉でメッセージを送りたいから」と語る。確かに、こういう人でもそれなりに社会の中で地位を築いていけたというのは、大いに自信になるかもしれないと思う。

 世の中やっぱりいろいろな人がいるわけで、著者の例はそれでも極端だとは思うが、多少は生きるのが困難であったとしてもそれでもうダメということはない。周りに身を置く者としては、著者の例を念頭に置きつつ暖かく見守る事ではないかと思う。そして必要に応じて手を差し伸べて上げられたらと思う。こういう人がいるというのは、大いなる安堵をもたらす。必要な人には勇気付けられる一冊である・・・



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2018年01月24日

【生涯投資家】村上 世彰 読書日記882



はじめに なぜ私は投資家になったのか
第1章 何のための上場か
第2章 投資家と経営者とコーポレート・ガバナンス
第3章 東京スタイルでプロキシーファイトに挑む
第4章 ニッポン放送とフジテレビ
第5章 阪神鉄道大再編計画
第6章 IT企業への投資-ベンチャーの経営者たち
第7章 日本の問題点-投資家の視点から
第8章 日本への提言
第9章 失意からの十年

 著者はかつて村上ファンドを率いて「一世を風靡した」投資家。インサイダー取引で逮捕されて表舞台から消え、最近娘さんが後を継いでいるというニュースを耳にしていたが、そんなところに出版されたのがこの本。読まずにはいられないと手にした一冊。そもそもであるが、どんな人でも自分なりの正義というものを持っている。はたから見ていて悪いイメージしかない人物だっただけに、その正義に余計に興味を持ったところである。

 著者はもともと投資家の父を持ち、小学生から預貯金が趣味であったという。投資家は「3割がDNAで残りが経験」らしいから、そういう意味では3割のDNAには恵まれていたようである。そして小学校5年の時、父が投資している香港の工場を見学し、その労働環境の悪さに父に止めるように言ったという。のちに投資先の工場閉鎖を諌めるエピソードが出てくるが、そうした考え方の発露がこの時すでにある。これは著者の知られざる一面である。

 大学を卒業し、通産官僚として16年を過ごす。その時、日本経済の永続的な成長のためにはコーポレート・ガバナンスが大切であることを実感したという。著者はこのコーポレート・ガバナンスをなんども強調するが、著者が旋風を巻き起こすまで確かに日本の企業にはコーポレート・ガバナンスは存在しなかったのだろう。そして投資家に転じるが、その投資スタイルは、「バリュー投資(保有している資産に対して時価総額が低い企業に投資する)」だそうである。

 上場とは、私企業が「公器になること(英語でGoing Public)」であり、「企業は透明で成長性の高い経営をしなければならない、株主のために利益を上げなければならない」と著者は語るが、それが教科書通りの答えであろう。「買収防衛策を導入するくらいなら非上場化すべき」という考えも正論である。ただ、なんとなくしっくりこないが・・・

 上場効果には「信用の強化」があるが、著者はこれを否定する。「非上場でも信用力のある企業はある」と。だが、それは一面的である。上場企業は一千社以上あり、中には知られていない企業もある。そんな企業にとって「上場している」と言う事実は、それだけで大きな信用補強になる。著者の意見は正論で反論の余地はないが、ところどころにそうしたズレを感じさせるところがある。

 東京スタイルのプロキシーファイトについての考え方も正論だと思うが、どうも素直に同意できない。東京スタイルは、確かに余剰資金を有効活用せず、株主軽視の考え方があったのだろうが、突然株を買ってすぐ「株主だ」と権利を振りかざすやり方は、反論できなくても好きにはなれない。株主軽視の経営陣といい勝負だと感じる。話題となったニッポン放送に対する投資も然り。どんなに正論を振りかざしても「金目当て」に他ならない。ただ当時知られざる内幕が書かれているところは興味深い。

 この時、のちの逮捕に繋がるインサイダー情報を得るが、著者の言う通り、これは如何なものかという感じがする。著者は「最高裁まで審理して国が出した結論だから受け入れる」としているが、この点はちょっと気の毒な気がする。阪神電鉄では、単なる株価釣り上げではなく、様々な経営改善提案をしていたという。この点は意外だったが、これは素直に支持できる。むしろこういう活動なら著者のことを悪く思わなかったと思う。こういう働きこそが、株主の役割かもしれない。

 著者は、株を買って乗り込んでいくと、まず3つの要求を出したと言う。
1. 企業価値を上げるための経営計画の開示
2. できないなら自社株取得による株主還元
3. それも嫌ならMBOによる非上場化
厳しいようだが、上場企業である以上、こういう要求にきちんと答えられないといけないことであろう。

 会社は誰のものかという問いに、著者は「株主のもの」と答える。それに反論はしないが、自分はそう思わない。ただ上場している以上、株主のことは考えるべきで、この点では日本の企業は大いに遅れていると思う。著者のようなモノ言う株主の登場は、日本にとって良かったと思う。株主還元を積極的にやっているアップルやマイクロソフトの例を知ると、その意を強くする。

 著者に対しては、悪いイメージしかなかったが、それにはきちんとした理論の裏付けがあって、信念を持ってやっていたというのがよくわかる。そしてそれが日本の企業にいい意味で刺激を与えたのも事実だったと思う。サラリーマン社長が、順番に社長になり、漫然と経営している企業が多いという指摘もその通りなのだと思う。好き嫌いは別として、著者のような投資家がもっと増えてくると日本経済も活性化されていくのかもしれない。

 いろいろと考えさせてくれるいい本である・・・




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